若手歯科医療者にフォーカスした連載企画「1D Seeds」。今回は、北海道大学歯学部を卒業後、北海道大学病院で歯科医師臨床研修を行っている歯科医師の槌谷賢太先生を取り上げます。
ーー歯科医師になったきっかけや、歯科医師になってからのことについて教えてください。
高校2年生の時、祖父を肺がんで亡くしました。死ぬ間際、食事を取れなくなっていく祖父をみて、誤嚥性肺炎で亡くなっていく周りの人をみて、歯科医師という仕事に興味を持ちました。
ヒトが生きることと食事は切っても切れない関係です。また食事をするために口腔内の環境はとても大切です。歯科医師という仕事はヒトが最後の最後までヒトらしくいることをサポートする素敵な仕事だと僕は思っています。
また幼い頃から海外で勉強・働くということに興味がありました。海外では特に歯科医師という職業は社会的に地位が高く、専門性が高く自分の強みになるという点にも惹かれました。
ーー歯科医師になってから現在に至るまでのことについて教えてください。
まだ新米の歯科医師ではありますが、毎日臨床現場に出て患者さんと向き合ったり、研究のための論文を読んだりと充実した毎日を送っています。
また常に世界中から歯科の新しい情報をアップデートできるように英語の勉強も空き時間に行っています。最近は中国語の勉強もはじめました。自分が勤めている北海道大学病院は大学病院なので、それぞれの分野にプロフェッショナルの先生方がいます。そのような先生方から学ぶことは多く、また大学に附属していることからたくさん留学生がいるので、外国語を学びやすい環境というのも充実した毎日を送れている秘訣だと思います。
ーー日々研鑽を積まれているなかで、自信があることと自信がないことについて教えてください。
プロフェッショナルとして、患者さんを不安にさせないように、どんなことでも自信をもって仕事をしています。
そのため自信をもってできるように、治療前に、治療の手技を確認したり、患者情報の予習は欠かさず行なっています。
一方、ポジティブな性格なので、自信がないという状況に陥ったことがないです(笑)。医療事故を起こさないように気をつけたいと思います。
ーー歯科医師人生を歩む中でぶつかった壁について教えてください。
大学在学中にスウェーデン・香港・タイなど、海外の大学に短期留学をさせてもらいました。それまでは日本は医療先進国で世界で歯科もトップレベルだと、盲目的に信じていたのですが、海外の歯科では日本より進んでいる分野も多くカルチャーショックを受けました。
その時、日本の歯科医療もこれからは国際化させていく必要があるなと強く感じました。
そのため大学在学中に、国際交流サークルを友人と立ち上げ、学生が英語を勉強しやすい環境を整えたり、歯学部に国際交流部を公認団体として作り、APDSA(Asia Pacific Dental Students Association )といったアジアの歯科学生が集まる国際会議に学生が参加しやすい環境作りを行いました。
日本の歯科医療が正しいのか、それとも海外の歯科医療が正しいのか、それともどちらも間違っているのか、はたまたどちらも正しいのか、歯科医師として働きながら毎日考えさせられています。
ーー職場を選ぶ時に重視するところを教えてください。
色々な患者・先生・友人に出会える職場が1番大切だと思います。歯科治療というものは1つの哲学だと僕は思っています。先生方によって治療法は異なり、教科書の知識が必ずしも正しくない場合も多いかと思います。ある先生の言っていることが全て正しく、他は間違っているというのは宗教的な考え方だと思います。
そのため自分の歯科治療という哲学を歯科医師自身が生涯かけて、情報を吟味して、取捨選択し、確立し、体系化していく必要があると僕は思います。
そのためにも、様々な先生から教わり、たくさんの患者・症例に会い、多くの同僚を作り、自分にとって、患者さんにとって最高の治療法を確立していくというのが重要だと思います。
その点、大学病院というのは様々な分野の専門の先生、症例、同僚に会うことができるので魅力的な職場だと思います。
ーー今後のキャリアビジョンについて教えてください。
僕は現在、北海道大学の保存修復科に所属しています。当科は医局員の約半数が海外出身者という異色の科です。医局内では英語や中国語が飛び回り、時にラマダーンが始まったりします。
僕たちの保存修復科では主に歯科材料の接着についての研究をしています。実はこの接着という分野は歯科で日本が世界をリードしている数少ない分野の1つです。
臨床の現場では、補綴物の歯科材料に注目されがちですが、その補綴物と歯をつなぐ接着がなされなければ、補綴物は口腔内で機能しません。また最近ではスーパーボンドのような材料が歯根破折に使用されたりと、保存、補綴のあらゆる分野で接着が重要な役割を果たしています。
僕が臨床とともに研究にも興味を持ったのは、医療の進歩のためには研究が不可欠だと考えているからです。
今後は接着の世界的権威の佐野教授のもと、国際的に歯科医師として、研究者として活躍したいと思います。日本の歯科を世界へと届けたい。日本の歯科をグローバル化したい。その橋渡しに自分はなりたい。
その結果として日本の、世界の医療が少しでも良くなって、幸せな人が増えてくれれば良いなと切に願っています。