予防歯科医療を、アップデートせよ

予防歯科医療を、アップデートせよ

1D編集部
2020年1月14日
日本国民の定期健診受診率はまだまだ低く、予防歯科医療の価値は社会に浸透しきっていない。これからは、もっと歯科医療を深く社会のなかへ組み込まれなければならない。「健康でいるために予防メインテナンスに通院する」という文化を育てていく必要があるのである。

本記事では「予防歯科医療 × 社会」をテーマに、PHIJ代表の築山鉄平氏、小牧市歯科医師会副会長の佐々木成高氏、栗林歯科医院理事長の栗林研治氏、高屋歯科医院の高屋翔氏、WHITE CROSS株式会社の赤司征大氏が、いかに社会に歯科医療を実装していくのかについて対談を行った様子をお届けする。



海外比較論の時代は終わった

赤司:本日は、お集まりいただきありがとうございます。今日はそれぞれの先生の立場から、社会に対してどのように予防歯科医療を埋め込んでいくのかということについて、ディスカッションできますと幸いです。

高屋:「予防歯科医療 × 社会」というテーマでディスカッションをすると、スウェーデンでは歯科医院の1年以内の受診率はどれくらいで、それに対して日本はこれだけだ、といった論調になりがちです。

海外ではこうだ、日本ではこうだ、という論調は日本で多く見られており、それが日本のこれまでの歯科医療を推進してきたという背景もあります。しかし、その欧米至上主義の考え方でものを言える時代ではないということは理解しなければなりません。

築山:おっしゃる通りですね。海外比較論の時代は終わり、日本は独自の仕組みを作らなければならないタイミングに入っています。もちろん海外から学ぶべきところは学ぶべきですが、国も予防へのアクセルをこれだけ踏んでいるなかで、私たち歯科医療者がこの機会をどう活かすのか、ということはもっと考えられるべきでしょう。

医科歯科連携や地域包括ケアシステムなど多面的な背景があるなかで、予防歯科医療の概念そのものが変化していくと考えられます。歯科医療が医療全体、社会全体に浸透していく時代に、歯科医療者がどう対応していくのか。



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放映予定の1D歯科動画

    視野を広げると見える景色

    高屋:私たち歯科医療者のあり方で言えば、予防はクリニックだけでは完結しないと思います。歯科衛生士もやるべきことが増えてきて、よりいっそう視野を広げていかなければならない。クリニックでPMTCをしているだけが予防歯科ではないという世界観を、当日のセミナー(※PHIJ Update Meeting 2020: 2月22日〜23日開催)では伝えたいですね。

    築山:当日のセミナーでは、この5人で話すとそれぞれの立場も異なりますし、なかなか結論は出ないはずです。しかし私は、参加する歯科医療者の方には、ある種の「不快感」を持って帰ってもらいたいと思っています。みんな、コンフォートゾーンの内側で予防歯科をやっている側面がある。そこをぶち壊して、ギアを一段上げればこんな景色が見えるんだということを提示したいです。

    佐々木:クリニックのなかだけで予防歯科をやろうとしても、限界がありますね。タコツボ化していて、上を見上げると青い空は見えるけれど、外に出ようと思っても出れないという状態があるように思います。



    歯科からの情報発信の重要性

    赤司:これまで、歯科から医科への情報発信が少なすぎたのではないかと感じています。最近は、医科と歯科の合同勉強会をやると、医科の人の方が集まるなんて言います。

    佐々木:歯科から医科への情報発信が不足していることは、私も感じています。以前、とある医師の先生に「スウェーデンの高齢者は日本の高齢者よりも義歯を入れている割合が低い」という話をしたところ、「それは食べ物が違うからですか?」という質問を受けました。それほど、医師が持っている歯科の情報は少ない。

    また、病院の歯科は危ない現状にあると思います。医師が口腔ケアや摂食嚥下について話しているのは、言語聴覚士です。本来は歯科衛生士が入るべき領域を、取られてしまっている。嫌われたとしても積極的に、保健・医療・福祉の各種会議に出席し、意見を述べなければいけません。

    医科歯科連携というのはある意味で、医科に対する情報発信なのではないか、と思います。「歯科医療が予防医療のゲートキーパーである」ということを社会に浸透させるためには、情報発信が大事です。



    理想の歯科医療とはなにか?

    築山:私が考える現在の歯科医療の課題は、4つあります。1つ目は、健康保険制度の課題をどう解決していくかということ。2つ目は、私たちが健康保険制度上で提供してきた歯科医療が、本当の意味で患者さん主体のものであったかという問題意識です。

    3つ目は、予防の概念が健康保険から制度として抜け落ちていた結果、「健康でありながら通院する」という予防メインテナンスの本質を見失ってしまったのではないかということです。4つ目は、制度を変えようとした時に参照できる科学的データの蓄積がないという点です。

    この4つの課題を、企業や自治体、歯科医院が認識し、それぞれが小さな歯車を回していくべきです。そうした小さな歯車をいかに大きな動力に変換して、社会を変えていくのかということを考えなければなりませんね。

    栗林:素朴な質問をしても良いですか。私が考えるに、予防を保険にして、治療を自費にすれば、現在の歯科医療を取り巻く問題は根本的に解決すると思うのですが、皆さんはどのようにお考えになりますか。突然制度を変えると食べられなくなる歯科医師も出てくると思うので、それを10年計画で実現していく。

    佐々木:歯科医療にはさまざまな問題がありますが、特に現行の保険制度は、社会のしがらみでがんじがらめになってしまっている。ディジーズモデルからヘルスモデルへ転換するには、かなり高いハードルを乗り越えないといけないと思います。

    以前よく言われていたのが、「補綴を自費にする」というアイデアです。自費にした分の保険点数は、初診料や再診料など、治療の前の方に持っていく。ところが、これを厚労省に持っていくと「補綴の分をカットしましょう」という、削減だけの議論で終わってしまう。保険制度の概念を根本的に変えようとすると、一度崩壊するしかないという話になってきます。



    築山:予防を保険に、治療を自費に、という議論は昔からされていますね。それができればと思いますが、みんなに同じ制度を適用しなければならない性質上、なかなか難しい。

    厚労省の方針として、広くあまねく公平に、という原則は崩せません。しかし、それでも日本の予防医療は良くなっていると考えています。無関心だった政府も、重症化予防に関心を持ちつつある。

    赤司:日本の保険制度には問題が山積していますが、これだけう蝕を減らしてきた実績があります。歯科医師の個人レベルで言えば、単価を上げてくれ、これは自費に回してくれ、という意見もわかりますが、国家レベルで見た時には、評価に値する部分も多いです。

    歯科医師会が「虫歯予防デー」という言葉を最初に使ってキャンペーンを打ったのは、1920年代です。当時、それを考えた歯科医師のことを思うと、現代はすごい時代になっています。

    しかし、私たちが生きている間に、理想の歯科医療を見ることはありません。そうやって文明社会は発展してきているので、それでも良いと思います。

    栗林:理想の歯科医療、できれば見てみたいですね。私たちが生きている間にやりましょう(笑)。

    イベント詳細はこちらから

    【日時】
    2020年2月22日(土)〜23日(日)

    会場】
    国立京都国際会館(JR京都駅より、地下鉄烏丸線1本)

    受講費用】
    PHIJベーシックコース受講医院様の医院単位での受講(何名参加されても同費用): 85,000円/医院
    PHIJベーシックコース未受講医院様の医院単位での受講(何名参加されても同費用): 105,000円/医院
    学生: 無料
    歯科医師(卒後5年以内): 5,000円/日、10,000円/2日通し
    歯科衛生士(個人参加): 5,000円/日、10,000円/2日通し


    お弁当代: 1,000円/個
    アフターパーティー参加費: 歯科医師 10,000円、他スタッフ 5,000円

    【お申し込み】
    お申し込みは、下記リンクからお願いいたします。
    医院単位での参加・歯科医師
    学生・歯科医師(卒後5年以内)・歯科衛生士(個人参加)
    PHIJ公式サイト

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    1D編集部は、臨床経験のある歯科医師・歯科衛生士・歯科技工士で構成されています。歯科業界の最新ニュースから歯科医療の臨床・学術情報、歯科医療者のためのライフスタイル記事まで、歯科医療の専門家の視点で、ただしく・おもしろいコンテンツをお届けします。

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    1D編集部
    2026年1月17日
    【1Dのセミナーログ】将来、豊かで安心したライフプランを描くために

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    将来、豊かで安心したライフプランを描くために――「普通の歯科医師」のお金の現実から考える、資産形成の第一歩1月の年明けは、「今年こそ将来のことをちゃんと考えたい」「このままで本当に大丈夫なのだろうか」 そんな気持ちが自然と湧き上がるタイミング。臨床や経営には真剣に向き合ってきた一方で、 お金・資産・ライフプランについては、 どこか「後回し」にしてしまっていないだろうか。今回ご紹介するのは、 今、多くの歯科医師から注目を集めているセミナー 『「普通」の歯科医師は、何歳でどれほどのお金をもらっているのか?』。この記事では、セミナー内容の一部をもとに、 歯科医師のリアルな年収・資産データと、なぜ今“金融リテラシー”が重要なのかを整理していく。歯科医師の平均年収は、実は一様ではない「歯科医師は高収入」 そう言われることが多い職業だが、年齢やキャリアによって、収入の推移は大きく異なる。セミナー内で紹介されている参考指標では、以下のような傾向が示されている。・45〜49歳:平均年収 約1,254万円・50〜54歳:平均年収 約1,085万円一見すると、50代で年収が下がっていることに違和感を覚えるかもしれない。 これは、開業タイミングで初年度に一度年収が下がるケースが影響していると考えられている。もちろん、すべての先生に当てはまるわけではない。あくまで「参考指標」にはなるが、自分の現在地を客観的に見る材料として、知っておく価値は十分にある。年代別に見る、歯科医師の資産形成の目安収入だけでなく、「実際にどれくらい資産を持っているのか」も気になるポイントではないだろうか。セミナーでは、年代別の資産目安についても触れられている。20代|貯蓄 0〜500万円奨学金返済の影響が大きく、 ほとんど貯蓄ができていないケースも珍しくない。30代|数百万円〜1,000万円台勤務医が中心の世代。 年間の貯蓄額が比較的多い先生がいる一方で、住宅購入・子育てといったライフイベントで支出も増えやすい時期。40代|1,000万〜3,000万円前後金融資産の期待値・実績は30代より増加。 一方で、教育費のピークを迎え、一時的に貯蓄が減るケースもあると報告されている。興味深いのは、「自分の子どもには歯科医師になってほしい」と考える先生が多い点。この価値観が、教育費のかけ方にも影響しているようだ。50代|3,000万〜6,000万円(人によっては1億円超)投資や資産の蓄積が進みやすい年代。ここまで来ると、若い頃の意思決定の差が数字としてはっきり表れ始める。なぜ、資産形成に差がつくのか?では、同じ歯科医師でもなぜこれほど資産に差が生まれるのか。セミナーで強く投げかけられている問いが、「日本人は、お金を働かせていない」。事実として、・日本人の金融知識はアジアで最下位レベル・1990年〜2014年の金融資産成長率米国:約4倍日本:約1.6倍というデータが示されている。金融知識の有無が、そのまま資産差として表れていると言っても過言ではない。金融リテラシーが低いことで起こる“見えない損失”お金について学ばないことは、「何もしないから安全」という話ではない。実際には、以下のような見えない損失が積み重なっていく。・節税をしないことで支払う余分な税金・資産運用をしないことによる機会損失 ・保険を学ばずに払い続けるムダな保険料 ・株式を知らないことで発生する高額手数料や損失 ・融資を理解しないことで支払う余分な利息 ・不動産知識不足による過剰な負債 ・お金の知識不足による詐欺被害 「知らなかった」だけで、本来守れたはずのお金が静かに失われていく。 これが、最も怖いリスクかもしれない。“普通の歯科医師”を知ることが、将来の安心につながるこのセミナーでは、FPコンサルティング代表取締役の岡崎謙二先生が、勤務医・開業医の年代別平均年収 開業費用・借入額の実態住宅ローン・保険の考え方資産形成・投資・リスクマネジメントの基本 を、数字とデータに基づいて解説。「お金の話を誰にも聞けない」「将来が漠然と不安」そんな先生にこそ、感覚ではなく現実的な指標を持つことの大切さを伝えてくれる60分である。年明けの今だからこそ、一度立ち止まって考えてみるのはいかがだろうか?忙しい日常の中で、ライフプランや資産形成について腰を据えて考える時間は、意外と取れないもの。だからこそ、意識が前向きになりやすい“年明け”というタイミングに、一度、自分の将来と向き合ってみてはいかがだろうか。
    1D編集部
    2026年1月10日
    【速報】令和7年度補正予算で歯科診療所に一律32万円の支援金

    【速報】令和7年度補正予算で歯科診療所に一律32万円の支援金

    令和7年度補正予算案が11月28日に閣議決定され、医療機関への大規模な支援策が盛り込まれた。1)厚生労働省による今回の予算案では、医療分野における賃上げと物価上昇への対応が重点項目として掲げられている。歯科診療所においても、従事者の処遇改善と物価高騰への対策を目的とした交付金の支給が決定。地域における必要な医療提供体制の維持・確保を図る施策として注目されている。*1)令和7年度補正予算案の主要施策集(厚生労働省)歯科診療所への支援は一律32万円今回の補正予算案の柱となるのが「医療・介護等支援パッケージ」だ。物価高騰や深刻化する人員不足といった医療機関・介護施設の経営課題に対応するため、総額1兆3,649億円という大規模な予算が計上されている。 内訳:医療分野に1兆368億円   介護等の分野に3,281億円医療機関・薬局に対する賃上げと物価上昇への支援には、このうち5,341億円が割り当てられた。この支援策は二つの目的を持っている。一つは医療従事者の処遇改善、もう一つは診療に必要な経費の物価上昇対策である。歯科診療所に対する具体的な支給額は、医科の無床診療所と同水準の1施設あたり合計32.0万円。内訳:賃金分(処遇改善)15.0万円、物価分(物価上昇対策)17.0万円。特筆すべきは、補助率が10分の10、つまり全額補助という形での交付となる点だ。これは医療機関が直面する喫緊の経営課題に迅速に対応し、地域医療の基盤となる提供体制を確保するための重要な措置と位置付けられている。*画像は1)より引用「国民皆歯科健診」に向けたパイロット事業も始動*画像は1)より引用補正予算案では、もう一つ注目すべき施策として、「生涯を通じた歯科健診(いわゆる国民皆歯科健診)パイロット事業」の推進に8.8億円が計上された。この事業は、国民の歯と口腔の健康増進を目指すもので、職域の保険者、事業主、または自治体などが主体となって実施される。具体的には、簡易な口腔スクリーニングを活用した歯科健診と、その結果に基づく受診勧奨を組み合わせた取り組みとなる。実施形態としては、一般健診と併せて行うケースや、特定健診の結果を基に対象者を選定してスクリーニングと受診勧奨を実施するケースなどが想定されており、国民の口腔衛生向上に向けた基盤整備が期待されている。◇今後の動向に注目この補正予算案は、現在開会中の臨時国会での成立を目指している段階である。交付金の具体的な交付時期、申請手続き、必要書類等の詳細については、今後の正式発表を待つ必要がある。歯科診療所の経営にとって重要な支援策となるため、続報を注視していきたい。
    1D編集部
    2025年12月12日
    どうして私だけ。合格率9割の歯科衛生士国家試験に「落ちた」女たち

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    歯科衛生士国家試験の合格率は、例年95%を超える。受験資格が基本的には歯科衛生士学校を卒業した者に限定されるため一概に比較することはできないが、国家試験としては合格率の高い部類に属するだろう。本記事では、歯科衛生士国家試験に不合格になった経験のある女性3名に取材を行った。今回取材に協力してくれたのは、田代さん(仮名・24歳)と斎藤さん(仮名・22歳)、そして松田さん(仮名・31歳)だ。 合格にストーリーがあるように、不合格にもそれぞれのストーリーがある。不合格後も内定先の歯科医院で歯科助手として働きながら合格を目指している人や、学費を捻出することができずに3年以上も受験を続けている人など、数字では語られないバックグラウンドがある。【あなたにおすすめの記事】> 【ルポ】歯科医師国家試験、多浪生の現実> 歯学部を放校になった「30歳・元歯学部生」の末路1年の歯科助手経験を経て合格、田代さん(24歳)の場合田代さん(仮名・24歳)は短期大学の歯科衛生士科を卒業後、2018年の第27回歯科衛生士国家試験を受験したが、あえなく不合格となった。翌年の国家試験を受験して合格し、現在は歯科衛生士として埼玉県内の歯科医院で歯科衛生士として働いている。 明るくハキハキと話す彼女の口から、不合格だった1回目の試験直後のことを語ってもらった。 「私はもともと成績があまり良くありませんでした。試験当日はプレッシャーもあって、問題を解いている最中も ”あぁ、これは落ちたな” と思いながら解いていました。試験が終わって自己採点をしてみると、やっぱり点数が足りていませんでした」。 自己採点で点数が足りなかったため、すぐに諦めがついたと田代さんは語る。すでに地元である埼玉県内の歯科医院に内定が決まっていたが、内定先の院長とも話し合い、歯科助手として採用してもらえることになった。 「翌年、自己採点で合格点を取れた時はものすごく嬉しかったですね。両親と学校の先生、院長先生にもすぐに泣きながら報告しました。あとは学校の同期にも、1年前は私のせいで合格率100%が達成できなかったので、報告しました」と当時の嬉しさを振り返っていた。 ケアレスミスで1点に泣いた、斎藤さん(22歳)の場合斎藤さん(仮名・22歳)は、2020年に行われた第29回歯科衛生士国家試験で不合格となった。斎藤さんは幼少期から介護福祉士に憧れており、高齢者と関わる仕事に就きたいと考えていた。介護職員初任者研修を取得できる高校に進学し、実際に資格も取得した。しかし夜はしっかりと寝たいタイプだった斎藤さんにとっては、夜勤の多い介護の現場に出ることは不安だったようだ。 そこで斎藤さんは、介護の資格を活かすことができる医療系の専門学校を志すようになった。歯科衛生士専門学校に進学したのは、国家試験の合格率が高くダブつくリスクが低いということも決め手だった。 斎藤さんは、自身が落ちた理由について次のように分析する。「学校での成績も悪くなかったし、模試でも合格点は到達していました。でも私はおっちょこちょいな部分があって、問題をパッと見た瞬間に、直感で回答してしまうことがよくありました。模試は難しく感じましたが、本番当日は “なんだ、簡単じゃん” と思いながら解いていました」。 しかし会場からの帰りのバスで自己採点をしたところ、点数が足りないことが判明したという。「自己採点では1点足りませんでした。普通は不適切問題が1〜2問あるので合格はできるかなと思っていましたが甘かった。本番でおっちょこちょいのクセが出てしまって、悔やんでも悔やみきれません」。 国家試験では、1点に泣いた。現在は自宅近くの歯科医院で歯科助手として働きながら、すでに来年の国家試験に照準を合わせている。 「4月中旬から勉強を始めています。国試の麗人と医歯薬の5年分の過去問を徹底的に理解して、わからない箇所には付箋も貼っています。去年は臨床現場で働かなければわからない問題がたくさん出題されていたので、今年は歯科助手として臨床現場に出ながら猛勉強をしています」。 屈辱から雪辱を目指す、松田さん(31歳)の場合今年32歳になる松田さん(仮名)は、高校を卒業後に派遣社員などを経て歯科衛生士専門学校に入学した経歴の持ち主だ。今回取材にご協力いただいた3人のなかでは最年長になる。彼女も、今年の3月に行われた国家試験で1点に泣いた1人だ。 松田さんは、歯科衛生士国家試験を実施する歯科医療振興財団に憤りを覚えている。今年の国家試験では不適切問題による採点除外が一問もなかったためだ。 「毎年、3問くらいは不適切問題になります。なのに今年は1問もない。なぜよりによって、という気持ちが正直がところです」。松田さんは、合格発表直後に不適切問題の検証を行ったという。「周りの友人に協力してもらい今年の問題を見返してみると、10問くらい不適切っぽい問題があったんです。合格基準を考え直してもらおうと歯科医療振興財団に連絡してみましたが、返事はありませんでした」。 さらに松田さんはこう続ける。「私は一度社会人を経験してから、歯科衛生士を目指しています。学校の同期と比べても努力はしていましたし、成績も態度も良かったと思います。私より成績が悪くてやる気も無い20歳そこそこの子が合格しているのに "どうして私だけが" という怒りはあります」。 合格発表日当日、松田さんは内定先の歯科医院で仕事をしていた。「自己採点の結果から、合格できるかどうかは半々だと思っていました。でも不適切問題がないという結末で、不合格に。勤務先の院長に落ちたということを伝えたら "1年間一緒に頑張ろう" とは言ってくれましたが、気持ちをリセットしたいという思いもあり退職しました」。松田さんはいま、週に4日歯科医院で歯科助手として働きながら、来年の3月に向けて勉強を始めている。不適切問題の線引きは?不適切問題の線引きに対する不満を、不合格になった受験生は持っていた。確かに、1D編集部で歯科衛生士国家試験を解いてみたところ、不適切問題の線引きが怪しいと思われる設問も無くはなかった。2019年の社会福祉士国家試験では、不合格となった受験生の声を受けて厚生労働省が問題を再検討したところ、不適切問題が覆るという出来事があった。この時には、厚生労働省が418名の追加合格を出すという結末になっている(外部リンク:厚生労働省)。ただ、歯科衛生士国家試験は一定の知識があれば合格することができる資格試験だ。合格基準もシンプルで、運の要素は少ない。不合格になってしまった人は、知識が不足しているということは否めないと思われる。歯科セミナーなら「1D(ワンディー)」で!日本最大級の歯科医療メディア「1D」では、診療に役立つオンラインセミナーを多数開催中。もっと知りたい臨床トピックから超ニッチな学術トピックまで、参加したいセミナーが見つかります。下記ボタンから、開催中のセミナーを見てみましょう!開催セミナーを見てみる
    Masahiro Morita
    2025年12月11日
    歯学部を放校になった「30歳・元歯学部生」の末路

    歯学部を放校になった「30歳・元歯学部生」の末路

    歯科医師国家試験の合格率は、下げ止まりの状況が続いている。厚生労働省が新規参入歯科医師を削減する動きもあるなかで、各歯学部は合格率の維持、そして優秀な学生の確保に頭を悩ませている。歯科医師国家試験が難化しているしわ寄せは、各歯学部の教員陣、ひいては在籍する歯学部生に及んでいる。臨床実習を含む現実味のないコア・カリキュラムのなかで、詰め込み型の教育を強いられているのが現状だ。多くの歯学部では、学生が在籍できる年数に限度がある。最大で12年間在籍できる歯学部もあれば、1学年につき1度の留年しか許されていない歯学部もある。勉強や実習に付いていけず、在籍限度を超えてしまった歯学部生に待ち受けているのは「放校」と呼ばれる事実上の追放処分だ。1D編集部では、今年で私立歯学部を放校になった「元・歯学部生」に取材を試みた。彼はこの春から地元である東北に帰り、歯科とは関係のない道へ進む。自分に合う職業を探す、ゼロからの再スタートを切ることになる。本記事が、歯学部が構造的に抱える教育上の欠陥に対する問題提起になれば幸いである。「ただただ、両親に申し訳ない」「至らぬ点もあるかと思いますが、本日はよろしくお願いします」。90度に近いお辞儀をして、彼は取材会場に現れた。鈴木さん(仮名)は見るからに真面目そうで、とても礼儀正しい印象の男性だ。彼は今年で31歳になる。2月中旬に発表された進級判定で留年が確定し、大学規定の在籍限度を超えてしまった。教授陣や大学事務にも掛け合ったが、なすすべなく放校という処分を受けた。「この数年間、こうなるかもしれないということは感じていました。今はまだ放校になった実感はありませんが、ただただ、両親に申し訳ないという気持ちでいっぱいです」。淡々とわれわれの質問に答える彼の表情は、勉強や実習の重圧から解放され安堵しているようにも見えた。叶えられなかった夢、守れなかった約束歯科医師になることを約束された人生だった。両親はともに歯科医師で、東北地方の地方都市にユニット10台を超える規模の歯科医院を経営している。1日に訪れる患者数も多く、地元住民から信頼されている歯科医院である。そんな両親の間で生まれ育ち、小学校の卒業文集には「お父さん、お母さんのような歯医者さんになりたい」という夢を書いた。中学・高校は地元で1番の進学校に通い、推薦入試で関東地方にある某私立歯学部に入学した。「子どもの頃から、自分は歯科医師になるものだと確信していました。歯学部での勉強はやればできるだろうという自信もあったので、まさか自分が放校になるなんて微塵も考えていませんでした」。歯科医師の資格を取り、臨床家として経験を積んだ後に両親が経営している歯科医院を継ぐーー。順風満帆に思えた彼の歯科医師としての人生は、歯学部入学後すぐに暗転することになる。「放校確定」までの顛末歯学部に入学した彼を待ち構えていたのは、休むことを許されない歯学部のカリキュラムだ。「歯学部での勉強は、想像していた以上に過酷でした。推薦入試で入学した私は、ほとんど受験勉強をしていなかった。朝が得意ではないということも相まって、1年生の冬には成績も出席も足りないという状態になりました」。人間関係のトラブルもあり、彼は1年生で留年することになる。翌年はなんとか2年生に進級したが、2年生でも留年。その後も毎年のように留年を重ね、5年生から6年生に上がることができず、あえなくタイムオーバーとなった。「歯学部に殺される」という危機感彼には、現在の歯学部の教育に対して主張したいことがある。それは、歯学部での評価方法が成績のみに限定されており、努力や人柄を無視しているということだ。「鬱になり学校に来れなくなったり、最悪の場合には自殺した人も出ています。人格的に素晴らしい人や才能がある人も、歯学部に入ると殺されてしまう」と憤る。さらに、歯学部が歯科医師国家試験の予備校と化している点についても指摘する。「大学側の目的は、国家試験の合格率。学生のことを合格率のパーセンテージとしか見ていません。合格率を上げて、大学の権威を保つということしか関心が無いのだと思います」と続ける。おわりに歯科医師になる資質がない者は、歯科医師になるべきではない。国民や患者に対する責任があるからだ。歯科医師国家試験は、基本的資質を有さない者を弾く機能として、重要な役割を担っている。しかし、弾かれた者にも人生がある。毎年、十数名の「歯のことを10年以上勉強した何でも無い人」が誕生しているのだ。資質を有さないと思われる者には、歯学部低学年時から他のキャリアを提案するなどの大学側の仕組みが必要である。さらに言えば、現在の歯科医師国家試験の合格率偏重の歯学教育は、本当に国民や患者のためになっているだろうか。歯学部が「予備校化」したことで、本来研究や臨床という役割を担うべき大学教員のリソースが国家試験対策に奪われ、本来あるべき大学としての機能を失っていないだろうか。われわれにも正解はわからないが、歯学部が抱える教育上の諸問題は、国民の健康な生活のために、もっと議論されるべきテーマである。※個人特定防止の為、内容やプロフィールを一部脚色しています。
    1D編集部
    2025年12月8日

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