予防歯科医療を、アップデートせよ

予防歯科医療を、アップデートせよ

1D編集部
2020年1月14日
日本国民の定期健診受診率はまだまだ低く、予防歯科医療の価値は社会に浸透しきっていない。これからは、もっと歯科医療を深く社会のなかへ組み込まれなければならない。「健康でいるために予防メインテナンスに通院する」という文化を育てていく必要があるのである。

本記事では「予防歯科医療 × 社会」をテーマに、PHIJ代表の築山鉄平氏、小牧市歯科医師会副会長の佐々木成高氏、栗林歯科医院理事長の栗林研治氏、高屋歯科医院の高屋翔氏、WHITE CROSS株式会社の赤司征大氏が、いかに社会に歯科医療を実装していくのかについて対談を行った様子をお届けする。



海外比較論の時代は終わった

赤司:本日は、お集まりいただきありがとうございます。今日はそれぞれの先生の立場から、社会に対してどのように予防歯科医療を埋め込んでいくのかということについて、ディスカッションできますと幸いです。

高屋:「予防歯科医療 × 社会」というテーマでディスカッションをすると、スウェーデンでは歯科医院の1年以内の受診率はどれくらいで、それに対して日本はこれだけだ、といった論調になりがちです。

海外ではこうだ、日本ではこうだ、という論調は日本で多く見られており、それが日本のこれまでの歯科医療を推進してきたという背景もあります。しかし、その欧米至上主義の考え方でものを言える時代ではないということは理解しなければなりません。

築山:おっしゃる通りですね。海外比較論の時代は終わり、日本は独自の仕組みを作らなければならないタイミングに入っています。もちろん海外から学ぶべきところは学ぶべきですが、国も予防へのアクセルをこれだけ踏んでいるなかで、私たち歯科医療者がこの機会をどう活かすのか、ということはもっと考えられるべきでしょう。

医科歯科連携や地域包括ケアシステムなど多面的な背景があるなかで、予防歯科医療の概念そのものが変化していくと考えられます。歯科医療が医療全体、社会全体に浸透していく時代に、歯科医療者がどう対応していくのか。



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放映予定の1D歯科動画

    視野を広げると見える景色

    高屋:私たち歯科医療者のあり方で言えば、予防はクリニックだけでは完結しないと思います。歯科衛生士もやるべきことが増えてきて、よりいっそう視野を広げていかなければならない。クリニックでPMTCをしているだけが予防歯科ではないという世界観を、当日のセミナー(※PHIJ Update Meeting 2020: 2月22日〜23日開催)では伝えたいですね。

    築山:当日のセミナーでは、この5人で話すとそれぞれの立場も異なりますし、なかなか結論は出ないはずです。しかし私は、参加する歯科医療者の方には、ある種の「不快感」を持って帰ってもらいたいと思っています。みんな、コンフォートゾーンの内側で予防歯科をやっている側面がある。そこをぶち壊して、ギアを一段上げればこんな景色が見えるんだということを提示したいです。

    佐々木:クリニックのなかだけで予防歯科をやろうとしても、限界がありますね。タコツボ化していて、上を見上げると青い空は見えるけれど、外に出ようと思っても出れないという状態があるように思います。



    歯科からの情報発信の重要性

    赤司:これまで、歯科から医科への情報発信が少なすぎたのではないかと感じています。最近は、医科と歯科の合同勉強会をやると、医科の人の方が集まるなんて言います。

    佐々木:歯科から医科への情報発信が不足していることは、私も感じています。以前、とある医師の先生に「スウェーデンの高齢者は日本の高齢者よりも義歯を入れている割合が低い」という話をしたところ、「それは食べ物が違うからですか?」という質問を受けました。それほど、医師が持っている歯科の情報は少ない。

    また、病院の歯科は危ない現状にあると思います。医師が口腔ケアや摂食嚥下について話しているのは、言語聴覚士です。本来は歯科衛生士が入るべき領域を、取られてしまっている。嫌われたとしても積極的に、保健・医療・福祉の各種会議に出席し、意見を述べなければいけません。

    医科歯科連携というのはある意味で、医科に対する情報発信なのではないか、と思います。「歯科医療が予防医療のゲートキーパーである」ということを社会に浸透させるためには、情報発信が大事です。



    理想の歯科医療とはなにか?

    築山:私が考える現在の歯科医療の課題は、4つあります。1つ目は、健康保険制度の課題をどう解決していくかということ。2つ目は、私たちが健康保険制度上で提供してきた歯科医療が、本当の意味で患者さん主体のものであったかという問題意識です。

    3つ目は、予防の概念が健康保険から制度として抜け落ちていた結果、「健康でありながら通院する」という予防メインテナンスの本質を見失ってしまったのではないかということです。4つ目は、制度を変えようとした時に参照できる科学的データの蓄積がないという点です。

    この4つの課題を、企業や自治体、歯科医院が認識し、それぞれが小さな歯車を回していくべきです。そうした小さな歯車をいかに大きな動力に変換して、社会を変えていくのかということを考えなければなりませんね。

    栗林:素朴な質問をしても良いですか。私が考えるに、予防を保険にして、治療を自費にすれば、現在の歯科医療を取り巻く問題は根本的に解決すると思うのですが、皆さんはどのようにお考えになりますか。突然制度を変えると食べられなくなる歯科医師も出てくると思うので、それを10年計画で実現していく。

    佐々木:歯科医療にはさまざまな問題がありますが、特に現行の保険制度は、社会のしがらみでがんじがらめになってしまっている。ディジーズモデルからヘルスモデルへ転換するには、かなり高いハードルを乗り越えないといけないと思います。

    以前よく言われていたのが、「補綴を自費にする」というアイデアです。自費にした分の保険点数は、初診料や再診料など、治療の前の方に持っていく。ところが、これを厚労省に持っていくと「補綴の分をカットしましょう」という、削減だけの議論で終わってしまう。保険制度の概念を根本的に変えようとすると、一度崩壊するしかないという話になってきます。



    築山:予防を保険に、治療を自費に、という議論は昔からされていますね。それができればと思いますが、みんなに同じ制度を適用しなければならない性質上、なかなか難しい。

    厚労省の方針として、広くあまねく公平に、という原則は崩せません。しかし、それでも日本の予防医療は良くなっていると考えています。無関心だった政府も、重症化予防に関心を持ちつつある。

    赤司:日本の保険制度には問題が山積していますが、これだけう蝕を減らしてきた実績があります。歯科医師の個人レベルで言えば、単価を上げてくれ、これは自費に回してくれ、という意見もわかりますが、国家レベルで見た時には、評価に値する部分も多いです。

    歯科医師会が「虫歯予防デー」という言葉を最初に使ってキャンペーンを打ったのは、1920年代です。当時、それを考えた歯科医師のことを思うと、現代はすごい時代になっています。

    しかし、私たちが生きている間に、理想の歯科医療を見ることはありません。そうやって文明社会は発展してきているので、それでも良いと思います。

    栗林:理想の歯科医療、できれば見てみたいですね。私たちが生きている間にやりましょう(笑)。

    イベント詳細はこちらから

    【日時】
    2020年2月22日(土)〜23日(日)

    会場】
    国立京都国際会館(JR京都駅より、地下鉄烏丸線1本)

    受講費用】
    PHIJベーシックコース受講医院様の医院単位での受講(何名参加されても同費用): 85,000円/医院
    PHIJベーシックコース未受講医院様の医院単位での受講(何名参加されても同費用): 105,000円/医院
    学生: 無料
    歯科医師(卒後5年以内): 5,000円/日、10,000円/2日通し
    歯科衛生士(個人参加): 5,000円/日、10,000円/2日通し


    お弁当代: 1,000円/個
    アフターパーティー参加費: 歯科医師 10,000円、他スタッフ 5,000円

    【お申し込み】
    お申し込みは、下記リンクからお願いいたします。
    医院単位での参加・歯科医師
    学生・歯科医師(卒後5年以内)・歯科衛生士(個人参加)
    PHIJ公式サイト

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    1D編集部
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    Masahiro Morita
    2025年12月11日
    歯学部を放校になった「30歳・元歯学部生」の末路

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    歯科医師国家試験の合格率は、下げ止まりの状況が続いている。厚生労働省が新規参入歯科医師を削減する動きもあるなかで、各歯学部は合格率の維持、そして優秀な学生の確保に頭を悩ませている。歯科医師国家試験が難化しているしわ寄せは、各歯学部の教員陣、ひいては在籍する歯学部生に及んでいる。臨床実習を含む現実味のないコア・カリキュラムのなかで、詰め込み型の教育を強いられているのが現状だ。多くの歯学部では、学生が在籍できる年数に限度がある。最大で12年間在籍できる歯学部もあれば、1学年につき1度の留年しか許されていない歯学部もある。勉強や実習に付いていけず、在籍限度を超えてしまった歯学部生に待ち受けているのは「放校」と呼ばれる事実上の追放処分だ。1D編集部では、今年で私立歯学部を放校になった「元・歯学部生」に取材を試みた。彼はこの春から地元である東北に帰り、歯科とは関係のない道へ進む。自分に合う職業を探す、ゼロからの再スタートを切ることになる。本記事が、歯学部が構造的に抱える教育上の欠陥に対する問題提起になれば幸いである。「ただただ、両親に申し訳ない」「至らぬ点もあるかと思いますが、本日はよろしくお願いします」。90度に近いお辞儀をして、彼は取材会場に現れた。鈴木さん(仮名)は見るからに真面目そうで、とても礼儀正しい印象の男性だ。彼は今年で31歳になる。2月中旬に発表された進級判定で留年が確定し、大学規定の在籍限度を超えてしまった。教授陣や大学事務にも掛け合ったが、なすすべなく放校という処分を受けた。「この数年間、こうなるかもしれないということは感じていました。今はまだ放校になった実感はありませんが、ただただ、両親に申し訳ないという気持ちでいっぱいです」。淡々とわれわれの質問に答える彼の表情は、勉強や実習の重圧から解放され安堵しているようにも見えた。叶えられなかった夢、守れなかった約束歯科医師になることを約束された人生だった。両親はともに歯科医師で、東北地方の地方都市にユニット10台を超える規模の歯科医院を経営している。1日に訪れる患者数も多く、地元住民から信頼されている歯科医院である。そんな両親の間で生まれ育ち、小学校の卒業文集には「お父さん、お母さんのような歯医者さんになりたい」という夢を書いた。中学・高校は地元で1番の進学校に通い、推薦入試で関東地方にある某私立歯学部に入学した。「子どもの頃から、自分は歯科医師になるものだと確信していました。歯学部での勉強はやればできるだろうという自信もあったので、まさか自分が放校になるなんて微塵も考えていませんでした」。歯科医師の資格を取り、臨床家として経験を積んだ後に両親が経営している歯科医院を継ぐーー。順風満帆に思えた彼の歯科医師としての人生は、歯学部入学後すぐに暗転することになる。「放校確定」までの顛末歯学部に入学した彼を待ち構えていたのは、休むことを許されない歯学部のカリキュラムだ。「歯学部での勉強は、想像していた以上に過酷でした。推薦入試で入学した私は、ほとんど受験勉強をしていなかった。朝が得意ではないということも相まって、1年生の冬には成績も出席も足りないという状態になりました」。人間関係のトラブルもあり、彼は1年生で留年することになる。翌年はなんとか2年生に進級したが、2年生でも留年。その後も毎年のように留年を重ね、5年生から6年生に上がることができず、あえなくタイムオーバーとなった。「歯学部に殺される」という危機感彼には、現在の歯学部の教育に対して主張したいことがある。それは、歯学部での評価方法が成績のみに限定されており、努力や人柄を無視しているということだ。「鬱になり学校に来れなくなったり、最悪の場合には自殺した人も出ています。人格的に素晴らしい人や才能がある人も、歯学部に入ると殺されてしまう」と憤る。さらに、歯学部が歯科医師国家試験の予備校と化している点についても指摘する。「大学側の目的は、国家試験の合格率。学生のことを合格率のパーセンテージとしか見ていません。合格率を上げて、大学の権威を保つということしか関心が無いのだと思います」と続ける。おわりに歯科医師になる資質がない者は、歯科医師になるべきではない。国民や患者に対する責任があるからだ。歯科医師国家試験は、基本的資質を有さない者を弾く機能として、重要な役割を担っている。しかし、弾かれた者にも人生がある。毎年、十数名の「歯のことを10年以上勉強した何でも無い人」が誕生しているのだ。資質を有さないと思われる者には、歯学部低学年時から他のキャリアを提案するなどの大学側の仕組みが必要である。さらに言えば、現在の歯科医師国家試験の合格率偏重の歯学教育は、本当に国民や患者のためになっているだろうか。歯学部が「予備校化」したことで、本来研究や臨床という役割を担うべき大学教員のリソースが国家試験対策に奪われ、本来あるべき大学としての機能を失っていないだろうか。われわれにも正解はわからないが、歯学部が抱える教育上の諸問題は、国民の健康な生活のために、もっと議論されるべきテーマである。※個人特定防止の為、内容やプロフィールを一部脚色しています。
    1D編集部
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    【ルポ】歯科医師国家試験、多浪生の現実

    【ルポ】歯科医師国家試験、多浪生の現実

    歯科医師国家試験の難化について取り上げた記事( 歯科医師免許をかけた、歯科大学と厚生労働省の戦い )には、国試浪人中の方から多くの反響を頂いた。歯科医師国家試験が「落ちれば落ちるほど受からない」のは、厚生労働省も認めているデータだ。5浪以上となると、国試に合格できるのは10人に1人しかいない。今回1D編集部では、5浪以上の国試受験生に取材を行った。協力してくれたのは、2013年に某私立歯科大学を卒業した稲屋さん(仮名)だ。彼は来年2月、6回目の国家試験を受ける。私たちが取材を行ったのは、まだ夏の余韻が残る10月上旬。「合格体験記は飽きるほどありますが、”不合格体験記” は珍しいんじゃないですか」。笑いながら話す彼の表情からは、諦めのような感情が見て取れた。6年生までは全てが順調だったーー5浪に至るまでの経緯を教えてください。意外に思われるかもしれませんが、6年生まではストレートで進級しています。成績も平均だったので、まさか自分がこんなに立ち止まってしまうとは思っていませんでした。卒業試験で留年してしまいましたが、1年間頑張ったら卒業はできた。その年の国家試験も1問に泣いただけだったので、1年間頑張れば受かるだろうと高を括っていました。ーーところが翌年も、翌々年も合格できなかった。これはやばいかもな、と思ったのは1浪目の秋です。模試を受けるたび、現役生にどんどん追い抜かされていき、成績が下がっていくんですね。自分の方が勉強時間や努力の総量は多いのに、結果が出ない。どう勉強すれば良いのかがわからなくなり、焦りにつながりました。もがき続ける浪人生活ーー1日にどれくらい勉強していますか。授業が始まる10時30分から、予備校が閉まる22時まで、一日中机に向かっています。一生懸命やっていますが、はっきり言って集中していない時間が多いです。心のどこかで「もう合格できない」と諦めているのかもしれません。近年は国家試験の当日も、1日目の午前中に心が折れて、2日目は気合が入らないこともあります。ーー周りのサポートはありますか。既に歯科医師になった友人が優しく「大丈夫か?」と連絡をくれても、「こいつ俺のこと馬鹿にしてるんじゃないか」と感じてしまいます。仲が良かった友人のなかには、もう院長をしている奴もいる。学生時代は対等だったのに、自分のことを嘲笑っているんだろうなという一方的な劣等感はありますね。祖母に見せられなかった白衣姿ーーいま、最も辛いことは何ですか。祖母が、ずっと自分のことを気にかけてくれていたんです。祖母は「私の孫は歯医者の先生になるんだ」と自慢げに友人に言っていたのに、自分が歯科医師になる前に他界してしまいました。祖母に、歯科医師として働いている姿を見せられなかった、というのは未だに悔やんでいます。1年でも早く歯科医師になって、天国にいる祖母に報告したいですね。ーー合格するまで浪人を続けていくわけですね。ここまで来たら後には引けません。歯科大を卒業しても、ライセンスを持っていなかったら仕事はない。自分の活躍できる場所はここしかないという気持ちで、追い込んで勉強しています。もう10年以上も歯科業界にいるので、今さら他の職種には就きたくないという気持ちもあります。浪人中、やってはいけないことーー合格したら、どんな歯科医師になりたいですか。正直、今は国試合格がゴールなので、歯科医師の仕事をしている自分を想像できません。机と向き合っている生活が長いので、実際に現場に出たらどうなることか。この数年間で知識だけは身に付きましたが、臨床現場に出て自分が治療をしたり、患者さんとうまく話せる自信はありません。ーー浪人中、やってはいけないことはありますか。どんな友人と付き合うかは真剣に考えた方が良いと思います。勉強を一緒にできる友人とだけ付き合うべきです。予備校には10浪以上の人もいたり、勉強をせずに遊んでいる人もいる。そういう人たちと付き合ってしまうと、モチベーションが下がり、成績も上がりません。自分は今年、あえて誰とも付き合わず、1人で勉強することを意識しています。平成最後の歯科医師国家試験は、必ず合格したいですね。歯科臨床を学ぶなら、1Dプレミアム!歯科医師向けセミナーなら、「1D(ワンディー)」で!臨床・経営問わず1,000講座以上の歯科セミナーが見放題。会員満足度96%超え。会員登録で今すぐセミナーを受講しよう。今すぐ申し込む
    1D編集部
    2025年10月22日

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