スピロヘータ

「スピロヘータ」とは?歯科用語を解説
最終更新日: 2021年10月18日

スピロヘータとは?

スピロヘータ(英:spirochete )とは、グラム陰性の細長いらせん状の細菌である。らせん菌のうち、3回転以上回転したものを通常スピロヘータとよぶ。Treponema属やBorrelia属がこれに属する。スビロヘータの名称は1835年Ehrenbergが発見したらせん状微生物にSpirochaeta plicatilis と命名したことに由来する.。

スピロヘータの特徴・分類と病原性

スピロヘータはグラム陰性の細長いらせん状微生物で、激しい運動性を示す。自然界に広く分布し、動物やヒトの体内にも寄生する。ヒトに病原性を示すものとしては、梅毒(syphilis)を起こすTreponema pallidum、回帰熱(recurrent fever)の原因となるBorrelia recurrentis、またワイル病(Weil's disease)の病原菌であるLeptospira interrogansなどがある。

スピロヘータの菌体最表層には被膜(outer sheath)あるいはエンベロープ(outer envelope)があり、 これが薄い細胞壁に取り囲まれた細胞体(protoplasmic cylinder)を包み込んでいる。運動器官として鞭毛(endoflagela)(軸糸axial filament、あるいはもっと単純にflagellaともいう) を有
するが、被膜によって覆われている。鞭毛の数は属によって異なるが、細胞体の両端に付着し、 らせん状の細胞体を鞭毛が取り巻いているスピロヘータの世代時間は、約7-30時間と菌種によって幅がある。 一部を除いて、 invitroで培養ができない。スピロヘータは乾燥にきわめて弱く、 ヒ素・水銀・ビスマス製剤により急速に運動性を失う。 また、ペニシリンには高度に感受性で、耐性菌の出現も報告されていない。

口腔トレポネーマ

ヒトの口腔内に常在する口腔スピロヘータoralspirochaete として分離される菌種はすべてトレポネーマ属である。 口腔内に存在する小型~中型トレポネーマ属は人工培養が可能であり、分類が明らかにされている。 口腔スピロヘータは、歯肉溝や歯周ポケット中に生息している。歯周病巣局所では歯肉溝滲出液を栄養源としてトレポネーマが急激に増加する。グラム陰性であるが難染色性を示す。そのほかに墨汁法、ギムザ染色法、フォンタナ鍍銀法によって染色される。 また、位相差顕微鏡や暗視野顕微鏡でその形態や運動性について観察される。

口腔トレポネーマは、嫌気的条件下で動物の血清、血液、腹水あるいはウシの胃液などを添加したTYGVS培地(トリプトン、酵母エキス、ゼラチン、揮発性脂肪酸、およびウサギ血清を含む)で37℃ 3~7日間培養される。多くの細菌が存在する歯周ポケット内の材料からトレポネーマを分離するために0.5%寒天内で拡散させたり、メンブレンフィルターを通過する、あるいはリファンピシン、ポリミキシンなどの化学療法薬を加えて他の細菌の発育を抑えた選択培地を用いる。

歯周病巣局所にて増加し培養可能な口腔トレポネーマには、小型スピロヘータであるTreponema denticola, Treponema socranskii, Treponema pectinovorumなどと、中型スピロヘータであるTreponema vincentiiやTreponema mediumがある。大型スピロヘータは、小型~中型のスビロヘータに比べて数も少ないが、培養ができないので詳細は明らかではない。

Treponema denticola
本菌種は、幅が0.25μm程度で、軸鞭毛(軸糸)の数は菌体の両端から2~3本、中央部で4本である。非常に活発に運動する。培地表面下のコロニーは0.3~1.0mmと小さく、白色を呈している。糖非発酵性でアミノ酸発酵微生物であり、終末代謝産物として酢酸、乳酸、 コハク酸、ギ酸を産生する。歯周病患者の病巣局所から本菌種が分離される。歯周病患者血清中のTreponema denticola に対する抗体価の上昇は、菌数の増加にもかかわらずみられない。 これは、本菌体の易熱性物質(分子量90,000)が宿主に対し免疫抑制因子として働いているためと考えられる。そのためにT.denticolaは免疫回避して歯周病巣局所で増殖し続けられるのである。T. denticolaの産生するデンティリジンdentilisin は、 トリプシン様酵素やコラーゲンを分解する。 また、デンティリジンは、 Porphyromonas gingivalis線毛と結合することが明らかにされ、 T. denticola とP. gingivalisの共凝集に関与することが知られている。

梅毒トレポネーマ

大きさ0.1~0.2 X 6~20μmの規則正しいらせん状の細菌で、細胞の先端はやや尖っている。鞭毛は3本でらせん状細胞体を取り巻き、細胞体には6~8本の細胞質微小管(CT)が存在する。患部からの塗抹標本は通常暗視野顕微鏡あるいは位相差顕微鏡で鏡検する。組織片にはギムザ染色法や鍍銀染色法のほか、特異的染色法として酵素抗体法、蛍光抗体法が行われる。蛍光抗体法は塗抹、メタノール固定後、梅毒反応強陽性患者血清で処理して、FITC標識抗ヒト血清を反応させる特異反応である。

病原性
直接接触で起こる性〔行為〕感染症sexualytransmitted diseases (STD)の1つで、輸血その他を介する感染はきわめてまれである。抵抗性はきわめて低く、低温、乾燥、浸透圧変化や各種化学療法薬の作用などによって容易に死滅する。高温にも弱い。輸血用保存血は使用前4日間低温保存する。

ヒトの梅毒には生後感染する後天〔性〕梅毒と、胎生期に母体から胎盤を経て垂直感染する先天〔性〕梅毒がある。後天〔性〕梅毒は梅毒トレポネーマが皮膚や粘膜の小傷から組織内に侵入し、所属リンパ節、さらに血中に入って感染が成立する。臨床経過より3~4期に大別され、第1~2期は早期梅毒、それ以後は晩期梅毒ともよばれる。第1期の潜伏期は平均3週、第1期は感染後約3か月、第2期は3年までといわれている。第1期は局所に初期症状として初期硬結が現れ、次いで、 これが増大し潰瘍化した硬性下疱を形成する。さらに、 この下疱が自然消退して第2潜伏期に入ると所属リンパ節の腫脹(無痛性横痃)が現れ、約9週続く。細菌は初発病巣部に多数存在する。第2期は菌が血流によって全身諸臓器に転移し、皮膚、粘膜にバラ疹、丘疹、膿疱、白斑などさまざまな発疹、後頭部や側頭部の脱毛を生じ、粘膜には扁平コンジローマを生じ、骨、関節、眼などに病変を起こす。症状はこの1~3年間、消退と再発を繰り返す。第3期は感染後約3年経過してみられる皮膚の潰瘍と諸臓器のゴム腫を主徴とする。感染後10~15年以上経過した末期には、中枢神経が侵される脊髄癌や進行性麻痺となり、変性梅毒と総称される。この末期を第4期ともいう。

先天〔性〕梅毒は、梅毒トレポネーマが妊婦の胎盤(妊娠4か月以後に形成)を通して子宮内の胎児に感染して起こり、母親が第1~2期梅毒で血液中に多数の細菌が存在する場合、妊娠後半期に早産または死産する。妊娠後半期感染では先天〔性〕梅毒児として出生するか、出生後に先天〔性〕梅毒の症状を示す。代表的な症状として、難聴、鞍鼻、 ハッチンソン歯という歯冠部形成不全歯がみられる。


「スピロヘータ」の文献・書籍など

【読み】

すぴろへーた

【文献・書籍】

『口腔微生物学・免疫学 第4版』, 川端重忠ら, 医歯薬出版株式会社, 2016.
『口腔微生物学 第6版』, 石原和幸ら, 株式会社学建書院, 2018.

著者/監修者情報

歯科医師

歯科医師。文系大学卒業後、歯学部に再入学。歯学部卒業後に歯科医師免許を取得したのち、歯科医師として勤務する傍らワンディー株式会社でライターとして勤務。

「アカデミック」に関連する他の用語