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チェアサイドと技工室でバーをどう在庫管理するか?番手・形態ごとの標準セット設計

チェアサイドと技工室でバーをどう在庫管理するか?番手・形態ごとの標準セット設計

最終更新日

窩洞形成や支台歯形成を行う際に、必要なバーが見つからずトレーの引き出しを何度も開け閉めした経験は多くの診療室で共有されているはずである。技工室でも同様に、ポーセレン調整用の番手が切れているのに誰も気づかず、納期直前に慌てて代替品を探すといった場面は珍しくない。

バーは単価が比較的低く、番手や形態のバリエーションが多いため、気づくと似たような製品がメーカー違いで重複していたり、古い番手が棚の奥に眠っていたりする。チェアサイドと技工室が別々に発注していると、在庫総量は多いのに現場では「足りない」という感覚が続く構造が生まれやすい。

一方で、バーは感染管理の観点からはクリティカルインスツルメントとして扱うべき器具であり、再使用回数の管理や滅菌後の保管方法も含めた運用設計が必要である。それにもかかわらず、院内の在庫管理はスタッフ任せのアナログ運用に留まり、棚卸しに多くの時間をかけている歯科医院も少なくない。

本稿では、チェアサイドと技工室の両方でバーをどのように在庫管理し、番手と形態ごとに標準セットを設計するかを、臨床と経営の両面から整理する。単に表計算ソフトを整備する話ではなく、手元のバーセットを標準化し、在庫数とローテーションルールを明確にすることで、チェアタイムと材料費、スタッフの負荷を同時にコントロールすることを目指す。

目次

要点の早見表

バー在庫管理の全体像を短時間で把握するために、チェアサイドと技工室を横断した標準セット設計の要点を表に整理する。

観点チェアサイドでの考え方技工室での考え方共通ルール
標準セット術式別にバーセットを固定し、トレー単位で滅菌と補充を行う製作工程別にバーラックを標準化し、工程ごとに必要番手を固定するセット構成を年単位で見直しつつ、中途半端な個別追加を避ける
番手と形態窩洞形成、支台歯形成、修復調整など代表術式ごとに使用番手を限定するメタル調整、レジン研削、ポーセレン仕上げなど用途別に番手レンジを明確化する同じ目的に複数メーカーを混在させないよう銘柄を統一する
在庫数の基準ユニット数と一日の最大症例数からトレーセット数を逆算し、バックアップ本数を定義する一日の最大ケース数と破折率から工程箱ごとの本数を決める適正在庫と発注点を材料管理表に明記し、担当者を固定する
ローテーション使用回数もしくは外観基準で引退させるルールを決め、使用済みバーだけを集める容器を用意する研削効率を維持するため、工程ごとに交換タイミングを決め、曖昧な延命を避けるバーはクリティカルインスツルメントとして滅菌と廃棄基準を統一する
保管と動線ユニットごとに同一配置のバーラックを用意し、滅菌後は閉鎖系のキャビネットに収納する高温焼成機周辺など汚染リスクが高い場所を避け、クリーンゾーンに集約する汚染ゾーンと清潔ゾーンを分離したレイアウトを前提に保管場所を決める
データ管理術式別セット単位で使用本数を把握し、欠品ゼロと過剰在庫削減のバランスを取る工程別に年間使用本数とコストを集計し、採算と品質のバランスを評価するバーだけを切り出した材料管理表を作成し、定期的に見直す

この表を前提に、以下の章で個別の論点を掘り下げる。

チェアサイドと技工室でバー在庫が乱れる構造を理解する

チェアサイドの在庫が混乱する典型的なパターンは、術者ごとに好みのバーが異なり、その場しのぎで新しい番手や形態が追加されていく構造である。窩洞形成用に一本、支台歯形成用にもう一本という形で少しずつ増えていくと、引き出しを開けたときには同じ用途のバーがメーカー違いでいくつも並び、どれを優先的に使うべきかが不明瞭になる。

在庫管理という視点で見ると、歯科医院の材料管理は多くの場合でスタッフが手作業で在庫を数え、在庫管理表や棚卸表を作成している。業務時間の一部を棚卸しや発注に割かざるを得ず、人員不足のなかで在庫管理が経営を圧迫しているケースも報告されている。在庫管理が体系化されていないと、二重発注や欠品が増え、医療材料全体の仕入コストも膨らみやすい。

技工室側にも独自の構造がある。技工士は手に馴染んだ番手や形態に強いこだわりを持つことが多く、特定のメーカーや色のバーを個人単位で買い足す傾向がある。その結果として、似た番手のバーが複数の引き出しに点在し、どれが共通備品でどれが個人持ちなのか不明瞭になりやすい。さらに、チェアサイドと技工室で別々に管理していると、同じ番手を双方で余剰に持ちながら、特定の形態だけ慢性的に不足する状態が生まれる。

感染管理の観点から見ると、バーは粘膜や歯質に直接接触するため、クリティカルインスツルメントとして分類される。原則として患者ごとに滅菌を行い、適切な保管方法と使用回数の管理が求められる。それにもかかわらず、在庫管理と滅菌プロセスが切り離されていると、ローテーションが属人的になり、研削効率の低下や破折リスク、感染リスクの増大につながる。

このように、バー在庫の問題は単なる本数管理ではなく、術者の好み、技工士のこだわり、感染管理、在庫管理システムの不備が複合して生じる構造である。そのため、解決策も「何本残ったら発注するか」という単純な発注点設定に留まらず、標準セット設計とローテーションルールを軸に全体設計する必要がある。

バー標準セット設計の考え方 チェアサイド編

チェアサイドのバー標準セットを設計する際の出発点は、医院の診療内容に基づく代表的な術式を定義することである。保険中心の一般開業医であれば、窩洞形成、インレー形成、前歯部クラウン形成、小臼歯クラウン形成、大臼歯クラウン形成、補綴装着時の咬合調整と研磨といった単位で考えると整理しやすい。

標準セットは術式ごとに一つではなく、ユニット数と滅菌サイクルを踏まえた冗長性を持たせるべきである。例えば平日に同時に稼働するユニットが四台で、クラウン形成を想定した時間帯に連続して症例が入る医院であれば、クラウン形成セットを六から八トレー用意し、一部を予備としてバックヤードに置く設計が現実的である。トレーごとにバーの位置を固定し、滅菌後に同じ配置に戻すことで、新人スタッフでも迷わずに準備できる。

番手と形態の選定では、多すぎるバリエーションを入れないことが重要である。窩洞形成用にはラウンド、ピアスドフィッシャー、テーパー形の代表的な番手を絞り、支台歯形成ではショルダー用、シャンファー用、フィニッシュ用の流れが一目で分かるように配置する。術者が個人的に使いたいバーは「個人オプション枠」としてトレー端に一列分だけ許容し、それ以外は医院として標準化した番手に揃えると、在庫管理が格段に容易になる。

標準セット設計の際に意識したいのは、バーの寿命とローテーションである。研削効率が明らかに落ちたバーを惰性で使い続けると、チェアタイムが伸びるだけでなく、余分な圧力が歯質やハンドピースにかかる。目視で研削面の摩耗や破砕を確認しやすいよう、小さなトレーの一角に「使用済み候補バー置き場」を設け、術中に違和感を覚えたバーはそこに退避させる運用を徹底するとよい。トレーごとに使用済み候補を集めておき、滅菌プロセスの前後で交換対象とするかどうかを決める流れを標準化すれば、寿命管理と感染管理の双方を整理できる。

チェアサイドでは、バーをセット単位で滅菌し、そのままキャビネットなど閉鎖系の収納に入れることが望ましい。開放棚に滅菌済みバーラックを置く運用は、粉塵やエアロゾルによる再汚染リスクを高めるため、感染管理上好ましくない。トレーに番号や色を付け、滅菌後は決められた棚の位置に戻すルールを徹底することで、セット単位での在庫数とローテーションを把握しやすくなる。

バー標準セット設計の考え方 技工室編

技工室のバー標準セットは、チェアサイドとは異なる前提で設計する必要がある。技工室では一人の技工士が複数の工程を担当することが多く、用途ごとにバーラックを分けておかないと、研磨用と切削用が混在し、研削能率と仕上がりの再現性にばらつきが生じる。

設計の起点は、技工物の主なラインナップである。メタルクラウンとブリッジ、硬質レジン前装冠、ポーセレン冠、ジルコニア修復、義歯関連の調整と研磨など、医院やラボごとに頻度の高いカテゴリーを整理し、それぞれに必要なバーのタイプと番手レンジを言語化する。例えばポーセレン調整であれば、粗削り、中間、仕上げに相当する三段階を基本に、形態はラウンドエンドシリンダーとフレイム形を標準とする、といった具合である。

工程ごとの標準セットは、バーラックやエンドボックスを用いて物理的にも分けるとよい。透明カバー付きで滅菌可能なバーオーガナイザーを用いれば、複数の番手と形態を一つのボックスにまとめ、工程名を書いたラベルを貼ることで、誰が見ても用途が分かる状態をつくれる。自費補綴の比率が高いラボであれば、色分けされたラックを用いて、工程ごとのバーセットを視覚的に区別する運用も有効である。

技工室では、研削粉や鋳造材の粉塵が多く、バーの摩耗がチェアサイドより速いことが多い。そのため、在庫数とローテーションの設計は、チェアサイドよりも短いサイクルでの交換を前提にすべきである。具体的な回数を一律で決めるのではなく、工程ごとに「このバーは週単位で入れ替える」「この番手は一か月に一度まとめて交換する」といった運用ルールを決め、材料管理表の中に落とし込むと管理しやすい。

チェアサイドとの連携という観点では、共通して使うバーの銘柄と番手をできるだけ統一しておくことが重要である。例えばメタル調整や咬合面の形態修正に用いる番手を共通化すれば、発注単位を増やすことで単価が下がり、在庫の融通も利きやすくなる。逆に、技工室固有で使用頻度が低い特殊バーは、チェアサイドの在庫とは切り離し、小ロット単位で管理した方が全体としてのロスが少なくなる。

在庫管理の仕組みづくりとローテーション管理

バーの標準セットを設計しただけでは、在庫管理は安定しない。標準セットを前提にした在庫管理表と発注ルールを整備し、誰が見ても現在の在庫状況と必要本数が分かる状態を作る必要がある。

歯科医院全体の在庫管理に関する調査では、在庫管理表や棚卸表を用いずにスタッフの記憶と目視に頼っているケースが多く、二重発注や期限切れ在庫の発生、担当者が変わるたびに運用がばらつくといった問題が指摘されている。経営改善の観点からは、材料のロス構造を可視化し、どこで無駄が発生しているかを把握したうえで体制を組むことが重要である。

バーに限っていえば、在庫管理表は他の材料よりもシンプルにできる。バーの品目をメーカーと番手、形態で整理し、チェアサイド標準セットと技工室標準セットのそれぞれについて、必要本数、現在庫数、発注点、保管場所を列として持たせる。表には購入単価と年間使用本数も記録しておくと、バーだけの年間コストが把握できるため、追加投資とコスト削減の検討がしやすくなる。

在庫管理のツールとしては、紙の一覧表、表計算ソフト、クラウド型在庫管理アプリなど選択肢は多い。バーは品目数が限定的なため、まずはバー専用のシンプルな表計算から始め、軌道に乗った段階で他の材料と合わせてクラウド型システムに統合する方法も現実的である。近年はバーコードやQRコードを活用し、スマートフォンやタブレットから入出庫を記録できる歯科医院向け在庫管理システムが普及している。これらを活用すれば、棚卸し時間と入力ミスを減らしつつ、在庫状況をリアルタイムに可視化することができる。

ローテーション管理では、バーをどの基準で引退させるかを明文化することが欠かせない。使用回数で管理する場合は、トレーやラックに位置ごとの使用回数を記録する方法が考えられるが、現場の負担を考えると現実的でない場合も多い。そのため、多くの医院では外観と切削感覚に基づく基準を採用し、研削面のダイヤ粒子が明らかに摩耗している、刃先が変形している、切削音や振動が変化したといった兆候が出た段階で交換する運用をとっている。

感染対策のガイドラインでは、バーはクリティカルインスツルメントとして分類され、患者ごとの滅菌と適切な保管が求められている。滅菌前後でバーを混在させないよう、使用済みのバーだけを集めるトレーをチェアサイドと技工室に共通で設け、その日の診療終了時に洗浄と滅菌に回す流れを徹底する必要がある。滅菌後は包装の破損がないことを確認し、閉じたキャビネット内に保管することで、再汚染リスクを抑えられる。

チェアサイドと技工室をつなぐルールとコミュニケーション

バー在庫管理で見落とされがちなのは、チェアサイドと技工室のコミュニケーションである。チェアサイドでは「技工室で余っているバーを少し融通してほしい」、技工室では「チェアサイドで余っている古い番手をもらったが削れ方が安定しない」といった不満が積もりやすい。

まず、バーに関してはチェアサイドと技工室の責任分界点を明確にする必要がある。感染管理と滅菌は中央管理室が担うとしても、どのバーを標準セットとして採用し、どのバーを個人オプションとするかは、歯科医師と技工士が合意形成したうえで決めるべきである。最低限、番手と形態ごとの「医院標準リスト」を作成し、そこに記載されたバーだけを共通在庫として扱うルールを設けるとよい。

次に、発注の権限とフローを整理する。チェアサイドと技工室が別々に業者へ発注していると、同じバーが二重発注されやすい。発注担当者を原則一人に集約し、バーの発注依頼は在庫管理表上で記号や色を付けて共有する方法がわかりやすい。技工室側からの要望として新しいバーを試したい場合は、試験導入の期間と本数を予め決め、評価結果に基づいて標準リストに採用するかどうかを判断する流れをつくれば、際限ないラインアップ拡大を防げる。

さらに、バー在庫に関する情報共有は定期的な場を設けるべきである。月一回程度、材料管理の簡易ミーティングを行い、バーに関しては「破折やトラブルが多かった番手」「在庫切れになりかけた形態」「過去一年間使われなかったバー」を振り返るだけでも現場の意識は変わる。これにより、不要な番手の整理や標準セットの見直しが継続的に行われ、在庫管理が単なる数字合わせではなく、臨床品質と経営改善の両方に資する活動として位置付けられる。

医院規模別の実践シナリオ

小規模な一人開業の歯科医院では、ユニット数が限られているため、バー標準セットもシンプルに設計できる。例えばユニットが二台であれば、窩洞形成セットとクラウン形成セットをそれぞれ四トレー用意し、そのうち二トレーを常用、二トレーを予備とする運用が考えられる。在庫管理表もバー専用の一枚に絞り、月一回の棚卸しと発注で十分に回ることが多い。

中規模以上の医院や複数技工士を抱える院内ラボを持つ施設では、標準セット設計だけでなく、クラウド型在庫管理システムの導入も検討に値する。バーコードやQRコードを用いてバーを含む材料の入出庫を即時に記録する仕組みを入れれば、誰がいつどのバーを補充したかが可視化され、欠品や過剰在庫の原因分析が容易になる。タブレット端末から在庫状況を確認できるようにすれば、チェアサイドと技工室の双方で在庫情報を共有しながら運用できる。

技工所と連携する形態の医院では、チェアサイド側のバー標準セットだけでも整備しておく価値が高い。技工所が独自にバー在庫を持つ場合でも、チェアサイドが一定のクオリティで支台歯や咬合を整えて渡すことができれば、技工側の調整負担とバー消費量は減少する。結果として、技工料金の中に含まれているバーコストも間接的に抑えられる可能性がある。

導入判断のロードマップ

バー在庫管理と標準セット設計を導入する際は、一度に全てを変えようとしないことが重要である。まずは現状把握から始め、どのユニットに何種類のバーがどの程度散在しているか、どの工程でどのバーが多く使われているかを簡易に記録する。続いて、診療の中心となる術式を一つ選び、その術式に対応する標準セットを試験的に設計して運用してみる。

運用開始後は、チェアタイム、バーの破折頻度、補充にかかる手間などを観察し、問題点があればセット構成と配置を柔軟に修正する。一定期間運用して大きな支障がないことを確認できた段階で、他の術式や技工工程へ標準セットを展開していくとよい。この過程で、バーの総ラインナップを見直し、使用頻度の低い番手を段階的に整理していけば、在庫のスリム化が進む。

在庫管理システムの導入は、その後のステップとして考えるのが現実的である。バー専用の管理表と標準セット運用が安定していれば、システム移行の際も項目定義が明確になっているため、データ登録やマスタ設計がスムーズに進む。バーは品目数が多くないため、在庫管理システムの試験導入対象としても適している。バーから始めて成功体験を積み、徐々に他の材料へ拡大していくアプローチは、スタッフの心理的抵抗も小さい。

最終的に目指すべき状態は、チェアサイドと技工室の双方でバー標準セットが機能し、在庫の見える化とローテーション管理が定着している姿である。その状態に至れば、バーに関するトラブルは減少し、診療の遅延や無駄な購買コストも抑えられる。バーは小さな器具であるが、その管理レベルは医院全体の整理整頓と経営の成熟度を映す鏡でもある。日々の臨床で違和感を覚えているなら、まずバー標準セットと在庫管理から着手する価値は大きいと考える。

出典一覧

歯科医院の経営改善 在庫管理の見直し 歯科経営情報レポート 最終確認日 2025年11月17日

歯科在庫管理とバーコード活用に関する解説記事 最終確認日 2025年11月17日

歯科医院向け在庫管理システムとクラウド在庫管理アプリに関する解説記事 最終確認日 2025年11月17日

歯科用器具の分類とバーを含むクリティカルインスツルメントの滅菌基準に関する解説記事 最終確認日 2025年11月17日

歯科器具の滅菌と保管方法に関する歯科感染管理ガイドライン 最終確認日 2025年11月17日

歯科用オーガナイザー製品とバー用ホルダーに関する製品情報 最終確認日 2025年11月17日