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口腔トレーニング器具のムーシールド®・CLⅢとは?用途や主要スペック、特徴などを解説!

口腔トレーニング器具のムーシールド®・CLⅢとは?用途や主要スペック、特徴などを解説!

最終更新日

乳歯列期からの反対咬合をどう扱うかは、矯正専門医だけでなく一般開業医にとっても悩ましいテーマである。様子を見るか、早期に介入するか、介入するとしてもどの装置を選ぶかによって、その後の顎顔面成長や保護者の理解、医院の診療ポートフォリオまで影響を受けることになる。

従来からムーシールドは、早期初期治療で用いられる機能的顎矯正装置として広く知られてきたが、材質がPMMAであったことから破折や耐薬品性に関する気掛かりを持っていた読者もいると思われる。新たに登場したムーシールド・CLⅢは、材質をポリアミド樹脂に変更し、強度と耐薬品性を高めたうえで国産化されたバージョンであり、同時に口腔トレーニング器具というカテゴリで再定義しやすい位置付けになっている。

本稿では、ムーシールド・CLⅢの用途と主要スペック、従来品との差異、臨床的価値と経営的インパクトを整理し、開業医が自院の診療スタイルに応じてどのように位置付けるかを考える材料を提示する。単なる製品紹介ではなく、口腔機能発達と早期咬合誘導をどのように医院経営に組み込むかという視点で読んでほしい。

目次

ムーシールド・CLⅢとは何か

機能的矯正装置としての位置付け

ムーシールドは、反対咬合の早期初期治療に用いられる機能的顎矯正装置であり、舌や口唇を含む口腔周囲筋の機能バランスを整えることで咬合を誘導するコンセプトの装置である。睡眠時を中心にマウスピース型の装置を装着し、低位舌や過剰な下口唇圧など、反対咬合の背景にある筋機能のアンバランスを是正することを目的とする。

ムーシールド・CLⅢは、この従来版ムーシールドをベースに材質と製造体制を刷新した新バージョンであり、基本的な適応と使用方法は従来品と同様である一方、破折や耐薬品性に配慮した設計に改良された点に特徴がある。従来品で見られた破折や亀裂に対する強度向上をうたっており、日常診療での取り扱いやすさを高めたアップデートといえる。

口腔トレーニング器具としての側面

オンラインの歯科関連製品情報サイトでは、ムーシールド・CLⅢが予防・口腔衛生製品の中の口腔トレーニング器具カテゴリに分類されている。この分類は、単なる矯正装置としてだけでなく、口腔筋機能療法と組み合わせたトレーニングツールとしての性格を強調するものであり、従来のワイヤー矯正とは異なる文脈で患者や保護者に説明しやすい。

すなわち、ムーシールド・CLⅢは「噛み合わせを治すマウスピース」であると同時に、「舌や口唇の使い方を正しく訓練するための器具」であり、この二重の性格を理解しておくことが臨床運用の前提となる。

ムーシールド・CLⅢの製品概要と薬事情報

正式名称と薬事区分

ムーシールド・CLⅢの販売名は同名であり、一般的名称は歯列矯正用咬合誘導装置である。医療機器認証番号は306AGBZX00002000で、分類はクラスIIの管理医療機器に該当する。

添付文書上の使用目的は歯牙の誘導に用いることとされており、反対咬合を含む不正咬合の治療を目的とした歯列矯正装置という位置付けである。製造販売業者は株式会社バイオデントであり、JM Orthoが早期治療関連商品として供給している。

ラインナップと包装単位

ムーシールド・CLⅢはSとMの2サイズがあり、添付文書上はSサイズが幅約62mm奥行39mm、Mサイズが幅約65mm奥行42mmと記載されている。従来のムーシールドと同一サイズとされているため、既に従来品を使用していた医院では同じ感覚でサイズ選択が可能である。

JM Orthoの製品情報では、ムーシールド・CLⅢ SサイズとMサイズはいずれも2個入包装で供給される。ディーラーサイトの価格情報では、SとMいずれも税抜きで約2万円程度の定価が設定されており、1個当たりの原価を把握したうえで自院の自費価格設定に反映することが望ましい。

適応年齢と治療ステージ

製品説明では、Sサイズは乳歯列期の反対咬合に使用されることが想定されており、おおよそ3〜5歳程度が対象とされている。Mサイズは第一大臼歯萌出期以降、概ね6〜11歳程度の反対咬合に使用する第1期治療用として位置付けられている。

この年齢レンジはあくまで目安であり、実際の適応判断では歯列弓幅や上下顎骨の前後関係、反対咬合の程度、患者の協力度を踏まえて決定する必要がある。しかし、3歳児健診で反対咬合を指摘された症例群に対して早期初期治療を提案しやすい設計であることは、開業医にとって臨床的にもマーケティング的にも意味が大きい。

主要スペックと臨床的な意味

材質と構造のポイント

ポリアミド樹脂への変更

ムーシールド・CLⅢの最大の変更点は、従来品で用いられていたPMMAからポリアミド樹脂へ材質を切り替えたことである。メーカーは、この材質変更により破折や亀裂に対する強度が高まったと説明している。

ポリアミド樹脂は一般に靭性が高く、衝撃や繰り返し応力に対してクラックが生じにくい特性を持つ。その一方で、熱可塑性を持つ材料であり高温には弱いことから、添付文書では耐熱性がないため熱を加えないことが明記されている。煮沸消毒や高温の乾燥機は使用できず、消毒や洗浄は薬液と室温水を基本とする必要がある。

強度と耐薬品性

ポリアミド樹脂への変更により、アルコールによる清拭やリテーナー用洗浄剤での洗浄が可能になったとされている。これは日常診療での感染対策や保護者による在宅ケアを考えるうえで大きな利点であり、従来PMMAに対して懸念されていた薬品耐性の問題を軽減する。

一方で、耐薬品性が向上したことにより即時重合レジンなどが接着しにくくなり、添付文書でもレジンを使用しない旨が注意事項として明記されている。裏装や形態付与をレジンで行う運用は前提とされておらず、基本的には既製形態をそのまま用い、必要な場合のみ歯科医師の判断で削合などの機械的な調整を行うべき構造である。

サイズと形状

添付文書では、Sサイズが幅62mm奥行39mm、Mサイズが幅65mm奥行42mmとされており、上下顎をまたぐシールド状の形態を持つ。形状の詳細は従来ムーシールドと同様であり、口唇側のリップシールド部と舌挙上部を組み合わせた構造によって口唇圧の排除と舌の高位保持を図るデザインである。

サイズ展開が2種類であるため、症例ごとに細かなカスタムメイドを行うというよりは、乳歯列期か第一大臼歯萌出期以降かという成長ステージを基準にSとMを使い分ける運用が基本となる。

装着時間と使用条件

推奨装着時間と期間

添付文書では、装着時間として日中に2時間以上と就寝中の装着が推奨されており、これを数か月継続して使用させるとされている。販売サイトの説明では、主な装着時間は就寝時とされているが、日中にも意識的なトレーニング時間を確保することで、口腔筋機能トレーニング器具としての効果を期待しやすい設計であることが読み取れる。

一般的には約1年程度を目安に使用すると説明されることが多いが、これはあくまで目安であり、治療期間の実際の長さは症例ごとの反対咬合の程度や口腔習癖、装着コンプライアンスによって大きく左右される。

再使用禁止と交換基準

添付文書では再使用禁止が明確に記載されており、患者ごとに新規の装置を処方することが前提である。また、咬耗や変形、変色、咬み跡などが見られる場合には、強度低下の恐れがあるため使用を中止し新しい製品に交換することが求められている。

これは兄弟間での使い回しや、一度中断した治療において同じ装置を再度使用することが想定されていないことを意味する。医院としては、装着状況のチェックとともに装置自体の状態を定期的に確認し、必要なタイミングで再処方する体制を整える必要がある。

洗浄と保守

ムーシールド・CLⅢは耐熱性がないため、熱湯や煮沸を用いた消毒は禁忌である。洗浄に関しては、矯正用リテーナー洗浄剤やアルコール清拭の使用が推奨されており、使用していない時は専用のリテーナーケースで保管することが勧められている。

保護者への説明では、一般的なマウスピース型装置と同様に、使用後に流水で粗洗浄したうえで専用洗浄剤を用いること、歯磨き粉など研磨剤入りのペーストで強く擦らないこと、高温環境を避けることを明確に伝える必要がある。

互換性と運用方法のポイント

ムータンなど他装置との位置付け

同じメーカーからはムータンという熱可塑性ポリウレタン製の装置も提供されており、こちらは柔軟性と咬耗への強さを特徴とする。ムーシールド・CLⅢが比較的硬めで口唇圧の排除と舌高位保持を重視した設計であるのに対し、ムータンはよりソフトな装着感と耐久性を重視したバリエーションと位置付けられる。

どちらを選ぶかは、反対咬合の性質や患者の感受性、装着コンプライアンスの見込みによって変わる。初期段階で硬めの装置に抵抗が強い児では、柔軟な装置で筋機能訓練を先行させる戦略もあり得るが、その場合も最終的にどの段階でムーシールド・CLⅢに切り替えるかを事前に設計しておくことが望ましい。

レジンや他材料との互換性

前述の通り、ムーシールド・CLⅢは耐薬品性の向上により即時重合レジンが接着しないため、従来のようなレジンによる形態追加や裏装は前提とされていない。過度な削合や加工も強度低下を招く可能性があるとされており、添付文書では加工を行う場合は歯科医師の判断で慎重に行うことが求められている。

臨床的には、必要最低限の範囲でフランジの干渉部を削合する程度にとどめ、それ以上の大幅な形態変更を必要とする場合には、そもそもの適応を再検討する方が安全である。舌小帯付着位置や歯列形態との適合は試適時に評価し、無理のないフィットが得られる症例を中心に処方するべき装置である。

口腔筋機能療法との連携

ムーシールド・CLⅢは単独でも反対咬合の咬合誘導に用いられるが、口腔筋機能療法と組み合わせることで本来のポテンシャルを発揮しやすい。舌の挙上練習や口唇閉鎖のトレーニングなど、装置を使わない時間帯の訓練を併用することで、装置装着時に働く筋力バランスを常態化させやすくなる。

医院としては、ムーシールド・CLⅢを処方する際に、簡便なMFTプログラムや家庭でのトレーニングシートをセットで提供し、装置装着と筋機能訓練をワンパッケージで運用する体制を整えると効果的である。

反対咬合早期治療における臨床的価値

機能的矯正装置としての作用機序

ディーラーサイトの説明では、ムーシールドシリーズが上口唇圧を排除し、口唇圧のバランスを整え、低位舌を改善して高位で機能させることで逆被蓋の改善を促すとされている。この作用機序は、単純に歯を動かすのではなく、筋機能と顎成長の方向性を変えることを狙ったものであり、学童期以前の柔軟な成長期にこそ適したコンセプトである。

小児歯科や矯正歯科の文献でも、ムーシールドを用いた反対咬合小児の治療において、歯列および歯槽の形態に変化が認められたとする報告があり、適切な症例選択とコンプライアンスが得られれば有用な治療手段となり得ることが示されている。

早期介入の利点と限界

3歳児健診で反対咬合を指摘された場合、自然改善を期待して経過観察とするか、早期から機能的矯正装置で介入するかは意見が分かれるところである。自然治癒率が高くないという報告もあり、一定割合の症例では放置により下顎前突が顕在化してくることが知られている。

ムーシールド・CLⅢは、乳歯列期から第一大臼歯萌出期までの比較的早い段階で、舌位と口唇圧を整えながら咬合を誘導するというアプローチを取りやすい装置であり、骨格性要因が比較的軽度な症例では将来の本格矯正の負担を軽減できる可能性がある。一方、明らかに強い骨格性下顎前突を伴う症例や家族歴が濃厚な症例では、ムーシールド単独での改善には限界があることを保護者に明示し、将来的に本格矯正や外科的矯正を要する可能性も含めて説明する必要がある。

患者体験とコンプライアンス

ムーシールド治療は主として就寝時装着であり、昼間の学校生活に大きな影響を与えない点が保護者に受け入れられやすい。しかし実際には、寝入りばなに装着を嫌がる児や、無意識のうちに外してしまう児も一定数存在する。

ムーシールド・CLⅢは材質の変更により強度が増しているが、装着感は従来品と大きく変わらないとされているため、コンプライアンス確保には装置そのもの以上に保護者の理解とサポートが重要である。初診時に治療の目的と装着時間、想定される治療期間を具体的に説明し、装着記録表などを用いてモチベーションを維持する工夫が求められる。

経営的価値とROIの考え方

1症例あたりの材料コスト

ムーシールド・CLⅢの定価は、Sサイズ、Mサイズともに税抜きで約2万円とされており、1箱に2個が含まれる。添付文書上は再使用禁止であるため、1患者につき最低1個、多くの場合予備も含めて2個を使用することになる。したがって、1症例あたりの装置原価は概ね2万〜4万円のレンジに収まる。

これに加えて、リテーナーケースや洗浄剤などの関連用品コスト、診療時間に対する人件費、自費診療であれば説明や経過観察にかかるカウンセリング時間も含めて総コストを見積もる必要がある。

チェアタイムと診療ポートフォリオ

ムーシールド治療は、装置装着自体のチェアタイムは比較的短い一方、経過観察や口腔機能トレーニングの指導など、短時間の通院を複数回積み重ねるスタイルとなる。これはユニットを長時間占有しない代わりに来院頻度が増えるため、保険診療中心の外来に自費枠を自然に組み込むという意味で相性がよい。

時間単価を意識すると、単回の売上は大きくないとしても、診療スケジュールの隙間に短時間のムーシールドチェック枠を配置することで、全体の稼働効率を高めることができる。簡易的には、ムーシールド関連の来院1回あたりの平均所要時間と単価を算出し、ユニット1分あたりの売上と人件費の差分がプラスになるような料金設計を行うとよい。

長期的な収益とブランド価値

反対咬合の早期治療を提供することは、単純な装置売上以上に、医院ブランドと将来の矯正ニーズに対する関係性構築という意味を持つ。幼少期から口腔機能発達支援に関与することで、将来的な本格矯正や他の自費治療への橋渡しが行いやすくなり、一家全体のかかりつけ歯科としてのポジションを確立しやすい。

ROIを考える際には、ムーシールド・CLⅢ単体の利益だけでなく、将来の矯正相談や家族の紹介、定期管理患者の増加といった間接的な効果も含めた長期的な投資回収シナリオを描くことが重要である。

ムーシールド・CLⅢを使いこなす臨床テクニック

診断と症例選択

反対咬合症例のすべてがムーシールド・CLⅢの適応になるわけではない。骨格的な下顎前突が強い症例、上顎劣成長が顕著な症例、顔貌の不調和が高度な症例では、機能的矯正装置のみでの改善は難しく、将来的に本格矯正や外科的矯正を検討すべきケースが多い。

ムーシールド・CLⅢが適しやすいのは、乳歯列期から混合歯列前期にかけて、歯槽性要素と筋機能要素が主な背景となっている軽度から中等度の反対咬合症例である。初診時には顔貌写真、側方セファロ分析、舌位や口唇閉鎖能力の評価を行い、骨格性か機能性か、混在症例かを見極めたうえで適応を判断する必要がある。

装着指導と保護者教育

ムーシールド・CLⅢの成功には保護者の理解と協力が不可欠である。装着時間、想定治療期間、期待できる変化の範囲、限界点を具体的に説明し、子どもが嫌がる時の声かけや工夫も含めてアドバイスすることが重要である。

医院側では、治療開始時に装着練習を十分に行い、初期には短時間から徐々に装着時間を延ばしていくステップを提案すると良い。装着記録表やシールなどを用いたモチベーション維持の仕組みも有効であり、院内掲示やパンフレットを活用してムーシールド治療のイメージを共有しておくと導入しやすい。

経過観察とフォローアップ

治療期間中は、咬合の変化だけでなく、装置の変形や咬み跡、変色なども定期的にチェックする必要がある。添付文書ではキズや咬み跡、変形が見られる場合には強度低下の恐れがあるため、新しい製品に交換することが推奨されている。

また、反対咬合が改善した後も一定期間はリテーナー的に使用を継続し、成長に伴う後戻りを観察することが望ましい。成長のピークを過ぎるまでは歯列と顎位が変化し得るため、その後の本格矯正の必要性も含めて長期的なフォローアップ計画を立てる必要がある。

フォローアップにおける記録の重要性

経過観察では、咬合写真や動画を定期的に残し、口腔筋機能の変化も含めて記録しておくとよい。これにより、治療効果を保護者に視覚的に示しやすくなるだけでなく、将来の症例発表や院内の教育資料としても活用できる。

トレーニング内容のアップデート

口腔筋機能療法は一度プログラムを決めれば終わりではなく、子どもの成長や治療ステージに応じて内容を更新していく必要がある。ムーシールド・CLⅢの装着状況や効果を踏まえながら、舌位トレーニング、口唇閉鎖力訓練、鼻呼吸の確立など、重点を置く項目を適宜見直すことが重要である。

適応と適さないケースの整理

適応しやすいケース

ムーシールド・CLⅢが適応しやすいのは、乳歯列期から混合歯列初期における前歯部反対咬合であり、舌位が低く下顎を前方に押し出すような筋機能パターンが認められる症例である。家族歴として強い骨格性下顎前突が認められないケースや、側方セファロで著しい骨格性差がないケースでは、ムーシールドを用いた早期介入により、後の治療負担を軽減できる可能性がある。

また、上顎前歯の萠出スペースが確保できそうな歯列弓形態であり、舌挙上による上顎前歯の前方成長促進が期待できる症例では、ムーシールド・CLⅢを筋機能訓練装置として位置付けることがより合理的である。

適さない、あるいは慎重な適応が必要なケース

一方で、明らかに骨格性の下顎前突が強い症例や、上顎劣成長が高度で顔貌不調和が顕著な症例では、ムーシールド・CLⅢ単独での改善を過度に期待すべきではない。また、夜間のブラキシズムが強く装置への負荷が大きいと想定される症例では、破損リスクと誤嚥リスクを考慮して慎重な適応判断が求められることが添付文書でも示されている。

さらに、自閉スペクトラム症や感覚過敏を有する児では、装着への受容性が大きく個人差を持つため、装着練習や段階的導入を含めた丁寧なアプローチが不可欠である。筋機能訓練装置を用いた症例報告も存在するが、全ての児でスムーズに運用できるわけではないことを踏まえ、保護者と十分に相談したうえで適応を決めるべきである。

診療スタイル別の導入指針

保険中心の一般開業医の場合

保険診療主体の一般開業医では、ムーシールド・CLⅢを全面的な矯正装置として打ち出すのではなく、乳歯列期の反対咬合に対するオプションのひとつとして位置付けるとよい。基本方針は、軽度から中等度の機能性反対咬合を対象に、ムーシールド・CLⅢを用いた早期咬合誘導を提案し、より重度の骨格性症例は矯正専門医と連携する形が現実的である。

自費診療として設定する場合、装置原価とチェアタイムを踏まえ、短時間の経過観察を複数回実施することを前提とした料金体系を構築する必要がある。患者負担を抑えつつ、医院としても時間単価がプラスになるバランス点を探ることが導入成功の鍵となる。

小児矯正や口腔機能発達支援を前面に出すクリニックの場合

小児矯正や口腔機能発達支援を診療の柱とするクリニックでは、ムーシールド・CLⅢを中心とした早期治療プログラムを構築する価値が高い。ムーシールドセミナー等で理論と臨床手技を整理したうえで、MFTとセットになった治療プロトコルを標準化し、スタッフ全員が同じ言葉で説明できる体制を整えることが重要である。

また、地域の保健センターや小児科との連携を通じて、3歳児健診後の相談窓口として自院を認知してもらうことで、反対咬合の早期介入ニーズを継続的に取り込むことができる。ムーシールド・CLⅢはその中核ツールとして機能し得る。

矯正専門医やインプラント中心クリニックの場合

矯正専門クリニックでは、ムーシールド・CLⅢは既に導入済みであることも多いが、改めてCLⅢへの移行に伴う材質特性の違いを理解しておく必要がある。装置加工の自由度が低いことやレジン非接着性などを踏まえ、適応症例の選別とMFTの組み合わせを一段と重視する運用に移行することが望ましい。

インプラントや外科中心のクリニックでは、ムーシールド・CLⅢの導入優先度は高くないかもしれないが、既存患者の子どもに対する付加価値サービスとして限定的に運用するシナリオはあり得る。その場合、自院で深く抱え込むのではなく、必要に応じて矯正専門医と連携する前提で導入するのが安全である。

ムーシールド・CLⅢに関するよくある質問

Q 従来のムーシールドとの違いは何か
A 主な違いは材質と製造体制である。従来品はPMMAを用いていたが、ムーシールド・CLⅢではポリアミド樹脂に変更され、破折や亀裂に対する強度が高まり、アルコール清拭などへの耐薬品性が向上している。また、現行品と同一サイズでありながら国産化された点も変更点である。一方で、耐薬品性向上の代償として即時重合レジンが接着しにくくなっており、レジンによる形態追加を前提としない運用が求められる。

Q 装着時間と治療期間の目安はどの程度か
A 添付文書では、日中に2時間以上と就寝中の装着を数か月継続することが推奨されている。ディーラー資料では、およそ1年間を目安とした使用期間が例示されているが、実際の治療期間は症例の難易度やコンプライアンスによって大きく変動する。治療開始時に過度な短期改善を約束するのではなく、数か月単位での変化を評価しながら計画を調整する姿勢が重要である。

Q レジンでの裏装や形態修正は可能か
A ムーシールド・CLⅢはポリアミド樹脂製であり、耐薬品性が高い反面、即時重合レジンが接着しないため、従来のようなレジンによる裏装や形態追加は推奨されていない。添付文書でもレジンを使わないことが明記されており、必要最小限の削合による調整にとどめるべき装置である。大幅な形態修正が必要な場合には、そもそも適応そのものを再検討する必要がある。

Q 保険診療で算定できるのか、それとも自費になるのか
A 公的医療保険においてムーシールド・CLⅢに特化した包括的な算定枠は公開情報としては確認できず、多くの医院では反対咬合の早期治療を自費診療として取り扱っている印象である。ただし、矯正治療全般の保険適用は診断基準や施設基準に依存するため、具体的な算定可否は各医院が保険者や関連団体に確認する必要がある。本稿では保険算定の細則については情報なしとする。

Q どの程度の在庫を持つべきか
A サイズはSとMの2種類であり、対象年齢も明確であるため、導入初期は来院患者層に応じてSとMを少量ずつ常備する程度でよい。乳歯列期の反対咬合が多い医院ではSサイズを中心に、学童期以降の相談が多い医院ではMサイズの比率を高めるとよい。2個入包装であることを踏まえ、1症例あたり少なくとも1個、多くの場合は予備も含めて2個を使用する運用を前提に、半年から1年で使い切れる程度の在庫量からスタートし、実績に応じて増減させるのが現実的である。

ムーシールド・CLⅢは、反対咬合早期治療を実践したい医院にとって強力な選択肢である一方、その成功には適切な症例選択とMFTを含む総合的な口腔機能管理が不可欠である。本稿の内容を踏まえ、自院の診療スタイルと経営戦略に照らして導入の是非と位置付けを検討してほしい。