FG用のカーバイドバー、ブッシュ カーバイドバー CA用 1SXMとは?用途や主要スペック、特徴などを解説!
小さなう蝕や辺縁不良のコンポジットレジンを除去するとき、従来のFGラウンドバーを高速で回していると、いつの間にか健全歯質まで大きく開拡してしまうことがある。特にマイクロスコープや高倍率ルーペを使うようになると、タービンの回転数と振動の強さが、視野の安定や患者負担の面でボトルネックになると感じることが多いはずである。
ブッシュ カーバイドバー CA用 1SXMは、このような状況で「もっと低速で、振動が少なく、視野が取りやすいラウンドバーが欲しい」というニーズに応えるために設計されたカーバイドバーである。ドイツのBusch社が開発した齲蝕エクスカベーション用バーであり、極細ネックとクロスカット刃を特徴とするコントラアングル用ラウンドカーバイドバーである。
本稿では、検索キーワードで想定される一般的なFG用ラウンドバーとの比較も視野に入れつつ、ブッシュ カーバイドバー CA用 1SXMの正式な仕様や適応を整理し、臨床と経営の両面から導入価値を検討する。製品情報および添付文書に基づき、事実に即して解説することをあらかじめ明示しておく。
目次
ブッシュ カーバイドバー CA用 1SXMの位置づけと臨床ニーズ
FG用ラウンドバーに対して何を補完する器具なのか
日常臨床でう蝕除去に用いられるラウンドバーは、FGタービン用のスチールバーやカーバイドバーがいまだに多数派である。しかし高速回転下では、切削効率は高い一方で、照明やマイクロスコープ下での視野が不安定になりやすく、う蝕と健全象牙質の境界を意識しながら繊細に切削するという点ではオーバースペックになりがちである。
ブッシュ カーバイドバー CA用 1SXMは、同じラウンド形態のカーバイドバーでありながら、タービンではなくコントラアングル用に設計された低速回転前提のバーである。メーカーは、特に小さなう蝕や辺縁不良コンポジットの除去において、健康な歯質をできるだけ温存しつつ患者負担を抑えることを目的とした設計であると説明している。
したがって臨床的なポジションとしては「従来FGラウンドバーで行っていた齲蝕除去のうち、繊細な操作が求められる場面を、低速のCAラウンドバーに置き換えるための選択肢」と理解すると整理しやすい。
商品名に含まれるCA用という表記とFG用カテゴリーの混乱
製品名はブッシュ カーバイドバー CA用 1SXMであり、添付文書にも軸径2.35mmのコントラアングル用として記載されている。 このため、ハンドピースとしてはコントラアングルまたは低速ハンドピースに装着して用いる器具である。
一方で、歯科材料情報サイトや流通サイト上では、製品カテゴリーとして「FG用カーバイドバー」の中にブッシュ カーバイドバー CA用 1SXMが含まれている例も見られる。 これはカテゴリー名称が「う蝕除去用のカーバイドバー」という機能カテゴリーを指しており、厳密な軸規格とは必ずしも一致していないことが理由と考えられる。
実際の軸規格は、JIS規格に基づくCA用の軸径2.35mmであり、FGハンドピースには物理的に装着できないため、その点は明確に理解しておく必要がある。 つまり臨床上はFG用ラウンドバーと同じような場面で検討されるが、機器としてはコントラアングル用の低速バーである。
現代的なう蝕治療とミニマルインターベンションへの対応
Busch社は、1SXMを「健全歯質をできるだけ多く温存しながら小さなう蝕を修復すること」を目的とした齲蝕エクスカベーション用バーとして位置付けている。特に、低振動で患者負担を抑えつつ、視野を確保しながら選択的にう蝕象牙質を除去するというコンセプトが強調されている。
日本語のカタログでも、齲蝕CR除去や、前歯部隣接面う蝕、歯頚部う蝕、小窩裂溝う蝕、さらには根管形成時の天蓋除去など、「できるだけアクセス孔を小さく保ちたいが、視野とコントロール性は確保したい」という場面に向けたバーとして紹介されている。
ミニマルインターベンションを重視する診療スタイル、特にマイクロスコープや高倍率ルーペを日常的に用いている診療所において、1SXMは従来のFGラウンドバーでは得にくい操作感と視野を提供する器具として位置付けられる。
ブッシュ カーバイドバー CA用 1SXMの製品概要とラインナップ
医療機器としての位置付けと薬事情報
ブッシュ カーバイドバー CA用 1SXMは、日本国内では一般医療機器として届出されている歯科用カーバイドバーである。添付文書では、一般的名称を歯科用カーバイドバーとし、JMDNコード16668000の機械器具に分類されている。
医療機器届出番号は13B1X00004000062であり、フォルディネットなどの流通サイトでも一般医療機器クラスIとして案内されている。 使用目的は歯牙または歯科補綴物などの切削および研磨であり、歯科用ハンドピースに装着して使用する回転切削器具であることが明記されている。
軸形態と基本仕様
添付文書によれば、ブッシュ カーバイドバー全体としてFG用とCA用の両方の軸がラインナップされているが、1SXMに関してはCA用に分類されている。CA用の軸径は2.35mmであり、JIS T 5504-1の軸部形式1に準拠する。
1SXMの作業部はラウンド形態で、外径は010から023までの7段階が用意されている。外径1.0mm、1.2mm、1.4mm、1.6mm、1.8mm、2.1mm、2.3mmのラインナップであり、全長はレギュラータイプで22mm、ロングタイプで26mmである。
レギュラータイプ1SXMは長さ22mmで6本入り、ロングタイプ1SXM-Lは長さ26mmで2本入りのパック設定がメーカー資料に記載されている。また、レギュラーとロングを組み合わせたアソートキットも用意されている。 価格は流通チャネルや時期により改定されるため、本稿では具体的な金額には踏み込まず、パック構成と本数を前提に後述の経営評価を行う。
マイクロスコープ対応バーとしてのラインナップ
東京歯科産業の製品ページでは、1SXMはマイクロスコープ用カーバイドバーとして紹介されている。 レギュラーとロングの両方に同一の外径ラインナップが用意されており、ロングシャンクバーは特にマイクロスコープ下で深在部位にアクセスするための用途が想定されている。
これにより、同一の切削感を保ったまま、浅い窩洞から深在う蝕、根管天蓋部の除去まで、視野や到達距離に応じてシャンク長を選択できる構成になっている。マイクロスコープ運用を重視する診療所では、このレギュラーとロングをどう組み合わせてストックするかが、運用面での小さな設計ポイントになる。
ブッシュ カーバイドバー CA用 1SXMの主要スペックと設計上の特徴
材質と刃部設計
添付文書では、作業部材質はタングステンカーバイド合金、軸部はステンレス鋼と記載されている。 タングステンカーバイドは高硬度で耐摩耗性に優れた材料であり、長期にわたり一定の切れ味を維持しやすいことが特徴である。
東京歯科産業の資料では、クロスカットの刃形状を採用し、目詰まりしにくくストレスの少ない切れ味を実現したと説明されている。また、タングステンカーバイド表面に窒化処理が施されており、耐食性を高めた設計であることも言及されている。
クロスカットによる切削は、う蝕象牙質やコンポジットレジンの切り屑を細かく分断し、チップ排出をスムーズにすることで、低速回転でも切削効率を維持しやすい。この構造は、後述する低回転数での使用条件とも整合しており、低発熱での切削と視野確保に寄与していると考えられる。
極細ネック形状と視野確保
メーカーは、1SXMの大きな特徴として極めてスリムなネック形状を挙げている。東京歯科産業の資料では「術部が良く見える極細ネック」と記載され、Busch本社の情報でも、スレンダーネックによるワーキングエリアの視認性向上や、クーラントの流入および切削片の排出性の改善が強調されている。
マイクロスコープ下の治療では、バーの軸が太いほど視野内の遮蔽物となりやすく、特に深い窩洞や隣接面のう蝕では、バーの軸によって重要な部位が死角になることがある。1SXMのような極細ネック形状は、視野の死角を減らしながら、必要な部位にだけ刃先を当てる操作を可能にする点で大きな臨床的メリットをもたらす。
その反面、構造的にはネック部の断面が細いぶん、過度な側方荷重やこじるような操作には弱くなる可能性がある。添付文書でも、破折や変形を防ぐために無理な角度や過度の加圧を避けるよう注意喚起されており、設計上のメリットとトレードオフの関係にある部分である。
推奨回転数と最高許容回転数
1SXMのCA用ラインナップでは、各サイズごとに最高許容回転数と推奨回転数が添付文書上で定義されている。
サイズ010では最高許容回転数が6,000rpm、推奨回転数がおよそ1,400から2,950rpmとされ、サイズが大きくなるにつれて最高許容回転数と推奨回転数の上限は低く設定されている。サイズ023では最高許容回転数が3,000rpm、推奨回転数はおよそ500から1,100rpmの範囲である。
この数値から分かる通り、1SXMはタービンのような高速回転で用いる器具ではなく、低速ハンドピースやコントラアングルでの低速高トルク運転を前提とした設計である。低速であってもクロスカット形状とカーバイド材の切れ味により、う蝕象牙質やコンポジットレジンを効率的に切削できるよう意図されている。
臨床的には、深在う蝕や歯髄近接部位では下限寄りの回転数でソフトタッチの断続的切削を行い、硬化したCRや感染象牙質のボリュームが大きい部位では、推奨範囲内でやや上限寄りの回転数を選択するという運用が現実的である。
一般的なFG用カーバイドバーとのスペック上の違い
一般的なFG用カーバイドバーは、軸径が1.6mmであり、最高回転数は数十万rpmに設定されているものが多い。一方、1SXMはCA用として軸径2.35mmであり、最高許容回転数はサイズによって3,000から6,000rpmの範囲にとどまる。
この違いは単なる軸規格の差に留まらず、切削コンセプトの違いを反映している。すなわち、FGタービンによる高速切削は、エナメル質や硬い補綴物の切削に適したスタイルであり、1SXMは主にう蝕象牙質やレジンに対して、低速でコントロール重視の切削を行うためのスタイルである。
したがって、1SXMを導入する場合は「う蝕除去のどの工程をタービンからCA低速バーに置き換えるのか」という術式設計をあらかじめイメージしておくことが重要になる。
ブッシュ カーバイドバー CA用 1SXMの臨床的活用シナリオ
齲蝕CR除去における使い方
メーカー資料では、1SXMの代表的な適用症例として齲蝕CR除去が挙げられている。 辺縁着色を伴う古いコンポジットレジンや、う蝕を伴う二次カリエス部のレジン除去では、CRと象牙質の境界を意識しながら慎重に切削する必要がある。
この場面で1SXMを用いる場合、まずタービンやディスクで大まかなオーバーハングや厚みを減じた後、残存CRと軟化象牙質の境界付近を1SXMでトレースするように切削していく運用が考えられる。クロスカットの切れ味と低速高トルクの組み合わせにより、レジンと軟化象牙質を効率的に削りつつも、健全象牙質への過剰な侵襲を抑えやすい。
極細ネック形状は、特にマイクロスコープ下で有効である。窩洞内でヘッドのみが視野に入り、軸が視野を遮りにくいため、染色液やエクスプローラーで確認しながら「残すべき層」と「除去すべき層」を連続的に判断しやすい。これにより、MIの観点からも合理的なう蝕除去が行いやすくなる。
隣接面う蝕や歯頚部う蝕への応用
東京歯科産業の資料では、前歯部隣接面う蝕の3級および4級窩洞、歯頚部う蝕の5級窩洞や歯頚部窩洞、小窩裂溝う蝕の1級窩洞などが具体的な適用症例として示されている。
隣接面う蝕では、マージンの位置や隣接歯との関係から視野確保が難しく、また接触点周囲のエナメル質や歯頚部の形態を可能な限り温存したいという要求が強い。このような場面で、深部に届くロングタイプの1SXMを用いると、アクセス孔を過度に広げることなく、必要最小限の窩洞開拡でう蝕部に到達できる。
歯頚部う蝕では、セメントエナメル境や根面象牙質のカリエスに対する繊細な操作が求められる。低速CAと極細ネックの1SXMを用いることで、軟化象牙質を少しずつ削り取りながら、歯髄への熱影響や患者の不快感を抑えた操作がしやすくなる。添付文書でも、低発熱と低振動による歯髄への影響軽減が述べられており、このような微妙な領域での使用を想定した設計であることがうかがえる。
深在う蝕での象牙質選択除去
深在う蝕では、歯髄近接部位で軟化象牙質と硬化象牙質をどこまで除去するかが臨床的な議論となる。高回転タービンで一気に削るとコントロールが難しく、過剰に削除してしまうリスクが高い。
1SXMを用いる場合、推奨回転数範囲の下限寄りでソフトタッチの断続的切削を行い、エクスプローラーによる触診と合わせて象牙質の硬さを確認しながら除去範囲を決める運用が考えられる。う蝕象牙質の選択除去を重視するMIコンセプトと親和性が高い器具である。
小児や高感受性患者への配慮
小児や痛みに敏感な患者では、タービンの高音や振動そのものがストレスとなり、術中協力度を低下させる要因となる。1SXMは低速回転を前提とし、メーカーも低振動で患者への負担を軽減する設計であると述べている。
全てを低速バーに置き換える必要はないが、う蝕除去の終盤や歯髄近接部の処理を1SXMに切り替えることで、体感上の不快感を軽減しつつ必要な処置を完了しやすくなる。このような術式上の工夫は、MIの観点だけでなく患者満足度の向上にもつながる。
根管治療における天蓋除去とアクセス形成
メーカー資料では、根管形成時の天蓋除去も1SXMの適用症例として挙げられている。 特にマイクロスコープ下での天蓋除去では、アクセス孔を必要以上に大きく開けたくない一方で、根管口の位置と歯髄腔全体の形態を把握しながら操作する必要がある。
ロングタイプ1SXM-Lを用いると、マイクロスコープのワーキングディスタンスを保ちつつ、深部の天蓋部にバー先端だけを当てるような操作がしやすい。極細ネックが視野を妨げにくいため、根管口位置を確認しながら慎重に天蓋部象牙質を削除していく手技と相性が良い。
ただし、天蓋除去では象牙質の厚みが大きい部位を扱うことも多く、切削抵抗が高くなる場面では側方荷重が大きくかかりやすい。そのため、過度な押し付けやこじるような動きは避け、必要に応じて他の専用バーやトラフニング用器具と併用する方が安全である。
ブッシュ カーバイドバー CA用 1SXMの経営インパクトとコストの考え方
パック構成からみる1本あたりコストの捉え方
1SXMのレギュラータイプは6本入り、ロングタイプは2本入りのパック構成で提供されている。 標準価格はメーカー資料や流通サイトで公表されており、う蝕除去用カーバイドバーとしては一般的な価格帯に位置付けられる印象である。
経営的に評価する際には、単にパック価格を見るのではなく、次のような視点で考えると整理しやすい。
一つは、1本あたりの単価と、その1本を何症例まで使用するかという関係である。すなわち、1症例あたりのバーコストは「パック価格 ÷ 本数 ÷ 1本あたりの使用症例数」という簡単な式で表せる。再滅菌を前提とした複数症例使用をどこまで許容するかは、それぞれの院内感染対策方針に依存するが、MI志向の診療スタイルでは「切れ味が落ちた時点で早めに交換する」という運用が望ましい。
1症例当たり材料費とチェアタイムの関係
1SXM導入の経営的なポイントは、バーそのもののコストよりもチェアタイムと再治療リスクへの影響である。低速での操作は一見すると時間がかかるように思われるが、マイクロスコープ下での視野確保が良く、う蝕除去の範囲を最小限に抑えられれば、全体の治療時間がむしろ短縮されるケースもある。
経営的には、次のような評価軸が考えられる。
一つは、1症例あたり材料費をわずかに増やしてでも、チェアタイム短縮により1日あたりの診療可能人数を増やせるかどうかである。これを表す簡易的な関係式としては、増加した材料費と、追加で確保できたチェアタイムを用いて「材料費増加分」と「追加診療による粗利益増加分」を比較する考え方が挙げられる。
もう一つは、MI志向のう蝕治療によって再治療頻度を減らし、中長期的な原価構造を改善できるかという視点である。具体的な再治療率低下に関する公開データは確認できないため数値評価はできないが、一般論として健全歯質の温存は歯の長期残存に寄与しやすいと考えられる。ただし、この点は器具固有のエビデンスではなく、診断と術式全体の設計に依存する部分が大きいことに留意する必要がある。
マイクロスコープ投資とのシナジー
マイクロスコープ導入は、単体でも大きな投資である。1SXMのようなマイクロスコープ対応バーは、その投資を十分に活かすための周辺器具と位置付けることができる。
具体的には、マイクロスコープを用いたう蝕治療や根管治療の症例を増やし、それに見合った自費診療や高付加価値な保険診療の割合を高めることで、マイクロスコープ導入のROIを高めるというシナリオである。この場合、1SXMのバーコストは、マイクロスコープ関連の高付加価値診療全体に分散されるため、個別症例当たりの負担感はさらに小さくなる。
したがって、1SXMの導入判断を行うときには、バー単体のコストではなく、マイクロスコープを中心とした診療スタイル全体の投資対効果の一部として位置付けて評価する方が経営的には合理的である。
ブッシュ カーバイドバー CA用 1SXMを安全に使いこなすためのポイント
ハンドピース装着と回転数設定
添付文書では、ハンドピースへの装着に際し、軸を奥まで確実に挿入し、半チャックになっていないことを確認するよう記載されている。 特にマイクロスコープ下では、視線が術野に集中するあまり、ハンドピース側の確認が疎かになりやすい。術前の予備回転で振れの有無を確認する手順をルーチン化しておくと安全である。
回転数に関しては、先に述べた通り各サイズごとに推奨範囲と最高許容回転数が定められている。 基本的には推奨範囲内で運用し、特に深在部位や歯髄近接部では下限寄りの回転数を選択することが望ましい。最高許容回転数を超える使用は禁忌とされており、熱発生やバー破折のリスクを高めるため避ける必要がある。
切削圧と操作のコツ
1SXMは極細ネックかつクロスカット刃を持つため、軽い接触でも十分な切削が得られるよう設計されている。メーカー資料でも、患者の口腔内で使用する場合にはソフトタッチで断続的に使用することが推奨されている。
臨床上は、バーを象牙質表面に押し付けるというよりも、軽く接触させながらレストポジションをしっかり取ることで、細かな振り子様運動を行うイメージが適している。これにより、切削深さをコントロールしやすくなり、う蝕象牙質の選択除去を行いやすくなる。
また、極細ネックのため、側方荷重が集中すると破折リスクが相対的に高くなる点には注意が必要である。象牙質の硬い部分や補綴物に直接強い側方力をかけるのではなく、必要に応じて別のバーやカーバイドカッターへ切り替える判断も重要になる。
冷却水と発熱管理
添付文書では、患者の口腔内で使用する場合、冷却水が不足すると施術部が過熱し歯牙に損傷を与える可能性があるため、十分な冷却水を供給しながら使用するよう注意喚起されている。
低速回転であっても、象牙質やレジンを連続的に切削すれば局所的な温度上昇は起こりうる。特に深在う蝕や歯髄近接部の処置では、断続的切削と冷却水の併用によって熱の蓄積を抑えることが重要である。
マイクロスコープを用いる場合、冷却水が視野を妨げることを嫌って流量を下げがちであるが、1SXMのスレンダーネック設計はクーラントの流入と切削片の排出性を高めることを意図している。 適切な流量を維持しつつ、視野確保とのバランスを取ることが求められる。
滅菌とバーのライフサイクル管理
添付文書では、使用前に135℃で8分間のオートクレーブ滅菌を行うことが指定されており、使用後には流水と超音波洗浄を経て再滅菌を行う手順が示されている。また、消毒液への浸漬は錆の原因となるため避けるべきであると記載されている。
バーのライフサイクル管理としては、切削感の低下や視覚的な刃の摩耗、軸部やネック部の変形を目視で確認し、一定の基準に達した時点で廃棄するルールを院内で明文化しておくと運用しやすい。極細ネックという構造上、わずかな曲がりでもマイクロスコープ下では大きな振れとして認識されるため、早めの交換が望ましい。
ブッシュ カーバイドバー CA用 1SXMが適する症例と注意が必要な症例
適応が広いと考えられる症例群
メーカーおよび販売店資料から読み取れる適応症例を整理すると、齲蝕CR除去、前歯部隣接面う蝕、歯頚部う蝕、小窩裂溝う蝕、根管形成時の天蓋除去など、主としてう蝕関連処置と根管アクセスに関連する場面が中心である。
特に次のような条件が揃う症例では、1SXMの特性が生きやすい。
小さな窩洞やマージン部のう蝕で、アクセス孔を可能な限り小さく保ちたい場合
マイクロスコープや高倍率ルーペを用いて、視覚的情報を重視しながらう蝕象牙質の選択除去を行いたい場合
歯頚部や隣接面など、従来のFGラウンドバーでは視野確保が難しい領域を精密に処理したい場合
これらの症例では、1SXMのスレンダーネックと低速高トルクの組み合わせが、MIと患者快適性の両立に寄与しやすい。
導入に際して注意が必要な症例や用途
一方で、1SXMは万能の切削器具ではなく、適さない症例や注意が必要な場面も存在する。
まず、金属クラウンや大きな補綴物の撤去など、硬い材料を大量に切削する用途には適さない。メーカー資料の適応症例にはこの種の処置は挙げられておらず、代わりに専用のクラウンカッターバーなどのラインナップが用意されている。 硬い金属やジルコニアの切削では、切削抵抗が大きく側方荷重も増大するため、極細ネックのバーを使用することは破折リスクの面からも合理的ではない。
また、広範なカリエスで窩洞全体の形態を大きく変える必要がある場面では、1SXMのみで処置を完結しようとすると時間がかかりすぎる可能性がある。そのような場合には、高速FGバーやラウンドバーで大まかな形成を行った後、象牙質選択除去やマージンの仕上げに1SXMを用いるといった役割分担が現実的である。
器具設計上の限界と安全マージン
極細ネック構造は視野とアクセスの観点で大きなメリットをもたらす一方で、構造的には曲げ応力に対する安全マージンが相対的に小さくなる。添付文書の注意喚起にもある通り、無理な角度や過度の加圧で使用すると破折や変形が起こりうる。
このため、1SXMを導入する場合には、術者だけでなくスタッフにも「1SXMはう蝕象牙質やレジンの選択除去など、繊細な操作に特化したバーであり、ラフなメタルカットやラフカットには用いない」というコンセプトを共有しておくことが重要である。器具の設計意図を理解した上で用途を限定することが、安全性と器具寿命の両面で合理的な運用につながる。
クリニックの診療スタイル別導入判断の目安
保険中心でチェアタイム効率を重視する診療所の場合
保険診療中心でチェアタイム効率を最大化したい診療所にとって、う蝕除去の工程をどこまで精緻化するかは悩ましいテーマである。1SXMは低速前提の器具であるため、術式をそのまま置き換えると一見チェアタイムが延びるように感じられる。
しかし、う蝕除去の最終段階を1SXMに切り替えることで、深在う蝕や歯頚部う蝕における術中偶発症や再治療につながる過剰切削を減らせるのであれば、中長期的にはリコール時のトラブル対応や再形成の負担を減らす効果が期待できる。ただし、この点は器具自体の性能だけでなく、診断と術者の判断基準に大きく依存するため、試験導入で自院の症例における手応えを確認しながら段階的に適用範囲を広げていくのが現実的なアプローチである。
自費審美やMI志向の診療所の場合
自費審美やMI志向を前面に掲げる診療所では、う蝕治療やレジン修復における「どこまで歯質を残せるか」という観点が、院の価値提案の一部になっていることが多い。このような診療スタイルでは、マイクロスコープや高倍率ルーペと組み合わせた齲蝕エクスカベーション用バーとして、1SXMの導入価値は相対的に高い。
特に、う蝕除去やCRリペアの症例写真を治療説明や情報発信に活用している診療所では、1SXMによる視野の良さと精密な切削痕は、術後の記録にも反映されやすい。経営的にも、自費診療の単価に対してバーコストの占める割合は小さいため、材料費増加が利益率に与える影響は限定的である。
マイクロスコープ導入済みかどうかによる優先度
マイクロスコープ導入済みの診療所にとって、1SXMはマイクロスコープのポテンシャルを引き出す補助器具と捉えられる。特にレギュラーとロングの二種類を揃えることで、前歯部の隣接面う蝕から大臼歯の根管天蓋まで、さまざまな部位でマイクロスコープ下の処置を標準化しやすくなる。
一方、マイクロスコープ未導入でルーペ主体の診療所においても、深在う蝕や歯頚部う蝕の処置で1SXMの低振動と視野確保の恩恵を受けることは可能である。この場合、まずはレギュラー長の1SXMのみを限定的に導入し、症例を通じて有用性と運用感覚をつかんだ上で、必要に応じてロングタイプを追加するという段階的な導入が現実的である。
ブッシュ カーバイドバー CA用 1SXMに関するよくある質問
Q ブッシュ カーバイドバー CA用 1SXMはFGハンドピースでも使用できるか
A 添付文書では1SXMはコントラアングル用の軸径2.35mmとして記載されており、JIS規格上もCA用の軸に分類されている。 FGハンドピースの軸径は1.6mmであり互換性がないため、物理的に装着することはできない。FG用として使用したい場合は、同メーカーのFG用カーバイドバーラインナップから目的に合う製品を選択する必要がある。
Q どのサイズを揃えるべきかの目安はあるか
A 公開情報ではサイズごとの推奨用途の詳細な区分は示されていないが、ラインナップの外径は010から023まで連続している。 臨床的には、小窩裂溝や小さな隣接面う蝕には010や012、一般的な象牙質う蝕には014から018、広いう蝕や天蓋除去には021や023といったように、病変の大きさに合わせて数種類を常備し、過不足のないサイズ選択ができるようにしておくと運用しやすい。
Q 推奨回転数より低い回転数で使用しても問題ないか
A 添付文書で示されている推奨回転数は、切削効率と安全性のバランスを踏まえた目安である。 それより低い回転数で使用すること自体が禁忌とされているわけではないが、極端に低速にすると切削効率が落ち、かえって接触時間が延びて発熱や疲労を招く