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BSAサクライ「ワンフィル / ワンフィルパテ」レビュー!混和不要の1ペーストMTA

BSAサクライ「ワンフィル / ワンフィルパテ」レビュー!混和不要の1ペーストMTA

最終更新日

深在性う蝕に伴う小露髄では止血の成否と封鎖材の選択が予後を決定づける重要な要因である。従来の粉末と液体を混和するタイプのMTAは臨床での有用性が確立しているが、混和比の再現性やスタッフ教育、在庫ロスといった運用上の負担が現場での導入障壁になりやすい。BSAサクライのワンフィルとワンフィル パテは混和不要の1ペースト型カルシウムシリケート系覆髄材料であり、調製の手間を省くことで臨床効率と品質安定性を同時に改善する可能性がある。本稿では両製品の基礎特性を臨床的な意味合いと院内運用、経営面の二軸から検討する。具体的には物性データの臨床的解釈、フローとパテの使い分け、包装と価格を踏まえた1症例当たりコスト設計、チェア運用への落とし込み、教育と品質管理の実務的指針までを整理する。また適応範囲と禁忌、よくある質問への回答を提示し、導入判断のための簡易ROIの考え方を示す。最終的にはガイドラインの枠内で症例選択を厳格に行うことが、1ペーストMTAのメリットを最大化する近道であるという結論を提示する。これにより臨床の再現性向上と無駄の削減を両立させ、歯髄保存治療の普及につなげることを目指す。

目次

製品の概要

ワンフィルはフロータイプのプレミックス型カルシウムシリケート系覆髄材料であり、ワンフィル パテは同系列の高粘度パテタイプである。いずれも混和不要の1ペーストで、シリンジからそのまま塗布して使用できる点が最大の特徴である。日本国内では一般的名称が歯科用覆髄材料に区分され、管理医療機器として認証を受けているため、表示されている用途範囲内での使用が前提である。包装と標準価格は院内の材料原価設計に直接影響するため、導入時には仕様を確認して運用設計に反映させる必要がある。以下に主要な包装情報と標準価格を示す。

製品名包装構成標準価格 税別認証番号
ワンフィルシリンジ 2g 1本 チップ 10本5,800円307AKBZX00024000
ワンフィル パテシリンジ 0.25g 4本3,800円307AKBZX00025000

包装構成はワンフィルが2グラム入りシリンジと使い捨てチップ十本のセット、ワンフィル パテが0.25グラムのシリンジを四本収めたセットである。標準価格は流通条件により変動するため、実勢価格や割引条件を踏まえて院内原価設計を行うことが望ましい。実際の1症例当たり材料費を算出する際には、使用量だけでなく、滅菌トレーの発生費用や開封ロス、在庫回転を考慮して見積もることが重要である。運用面では混和不要であることから従来型の粉液MTAに比べて教育コストと調製ミスが低減される一方で、各製品の物性差を踏まえた適材適所の運用ルールを設定する必要がある。

主要スペックと臨床的意味

両製品とも強アルカリ性を示し、pHは13である。この高アルカリ環境は細菌の増殖抑制に寄与する可能性があるが、臨床における除菌効果を断定するには菌種や暴露時間、術野の清潔さといった因子が影響するため限定的な解釈にとどめることが現実的である。メーカーは歯質の再石灰化を促進するバイオアクティブ性と微小漏洩の封鎖をうたっており、カルシウムシリケート系材のイオン放出やハイドロキシアパタイト析出に関する基礎知見と整合する。臨床的には封鎖性と生体反応性の双方が重要であり、止血と術野管理が前提条件となることを忘れてはならない。ワンフィルは水分との反応開始から約五分で初期硬化し、一時間以内で事実上の硬化が得られるとされるため、チェア上での遮蔽層形成や暫間修復への移行が比較的容易である。これに対してワンフィル パテは初期硬化まで三十分、完全硬化までおよそ三点五時間を要する物性であり、根面や露出象牙質など形態保持性を優先したい場面での使用に適する。放射線不透過性についてはワンフィルが十ミリメートルアルミニウム相当、ワンフィル パテが九ミリメートルアルミニウム相当となっており、術後X線での位置確認が可能である点が臨床的に有用である。溶解度はそれぞれ一点三パーセント未満と一点一パーセント未満であり、術後の物質流出に対する安定性を担保する。実際の症例選択ではフロー性を生かして辺縁封鎖の迅速化を図るか、パテの形態保持性を重視して複雑な形態の被覆に用いるかを評価し、手技とスケジューリングに反映させることが成功の鍵である。

互換性と運用方法

デリバリーシステムはワンフィルが二グラムシリンジに付属チップで微量塗布を可能にしており、狭小な窩底や辺縁部にも到達しやすい設計である。ワンフィル パテは二五ミリグラム相当の小容量シリンジを四本で供給され、必要量を一回分として取り出しやすく無駄が出にくい。両者とも水分で硬化が進行する特性があるため極端な過乾燥は避けるべきであるが、逆に血餅や汚濁物質が混入すると物性が劣化するため止血の確実性を担保することが最優先である。基本的な覆髄手順はラバーダム下で最小限の機械的清掃と確実な止血を行い、清潔な窩洞にペーストを充填して静置し初期硬化を待つことである。ワンフィルでは初期硬化が速いためその日のうちに遮蔽層や暫間遮閉まで進めることが現実的であるが、ワンフィル パテでは硬化プロファイルに応じて仮封重視の二段階運用を採ることで術後の安定性を高められる。遮蔽材としてはレジン強化型ガラスアイオノマーや専用のオクルーザルシールを用いることが一般的であり、後日の接着修復で最終封鎖とする流れを組むことで再現性が向上する。製品は覆髄用途として認証されているため穿孔修復や逆根充のような適応外使用は避けるべきである。オフラベルでの運用を検討する場合はリスク説明と十分な根拠提示を行い、院内での合意形成を図ることが必須である。

経営インパクトと簡易ROI

材料費は包装と使用単位を起点に設計することができる。ワンフィルは二グラムシリンジとチップ十本のセットで標準価格が税別五千八百円であるため、仮にチップを一症例に一本消費すると想定すれば理論上の材料費は五百八十円が目安となる。ワンフィル パテは二五ミリグラムシリンジが四本入りで税別三千八百円であり、一症例で一本を使い切る前提なら九百五十円が目安となる。ただし滅菌トレー費用や開封ロス、在庫管理費を含めると実際の一症例原価は上振れるため院内会計で補正する必要がある。チェア運用面でのメリットはワンフィルの短い初期硬化時間により当日内で遮蔽や暫間修復に移行しやすく、仮封トラブルや再来院を減らせる点である。その結果としてチェアタイムの回転が向上し追加診療機会が生まれる可能性がある。ワンフィル パテは形態保持が求められる難しい術野での安定性を提供するが硬化時間が長いためスケジュール配分に配慮する必要がある。簡易的なROIの考え方は増分利益を導入コストで割ることにある。増分利益は再治療抑制効果やチェアタイム短縮による追加診療機会の合計であり、導入コストは材料費だけでなく教育コストと在庫管理費も含めて算出する。ワンフィルの強みは練和や比率管理の教育が不要であるため学習曲線が短く、スタッフの入れ替えによる品質低下リスクも抑えやすい点である。保険診療主体の施設でもVPTを提案しやすくなることで同意率が上がれば収益性改善につながる可能性がある。

使いこなしのポイント

ケース選択は成功率を左右するため明確な基準を定めるべきである。基本方針は非感染性で止血が確実に得られる小露髄を第一選択とし、術前に自発痛や打診痛が強い場合は断髄や根管治療への移行を検討することが望ましい。術中の記録は術直後と再評価時の写真を標準化し、色調変化や封鎖の状態を時系列で比較できるようにすることが重要である。ワンフィルは微量塗布と短時間での初期硬化を生かして封鎖を迅速に確定し、その日のうちに遮蔽層まで持ち込む運用が可能である。これに対してワンフィル パテは形態保持性を活かして露出面を確実に被覆し支持基台の形態を維持することに向く。いずれの場合も血餅の混入は物性低下の原因となるため止血の閾値についてスタッフ間で明確に共有し、止血不能と判断した場合は覆髄を中止して別処置へ移行するプロトコルを設けるべきである。前歯部の審美対応については強アルカリ材料の変色リスクは比較的低めに設計されているものの、透過性の高い唇側薄壁では遮蔽層の材質と厚みを術前に計画し患者に説明して同意を得ることが重要である。教育面では混和不要で手技のバラツキは減るがタイムマネジメントが重要になるため、初期硬化待機中の作業動線を定型化して無駄を防ぎ、開封順や在庫回転の管理でロスを最小化することが品質維持と総保有コストの低減に直結する。

適応と適さないケース

適応は明確に覆髄である。臨床的には止血が獲得でき、辺縁封鎖が期待できる小露髄症例が最も適している。高pHとイオン放出に基づくバイオアクティブ性は歯髄保存の成功率向上に寄与し得るが、それはあくまでも止血と術野の清潔さが維持されていることが前提である。適さないケースとしては止血が得られない広範囲の露髄、辺縁封鎖が困難な高度に崩壊した歯、即日で最終修復を強く要求されるなど時間的制約が極めて厳しい症例が挙げられる。さらに製品の適用範囲は製品表示に基づくため穿孔封鎖や逆根充のような用途には基本的に用いてはならない。適応の拡大を無理に行うと治療成績の低下や医療安全上の問題を招くため、院内で適応基準を文書化して運用を統制することが重要である。適応外使用を検討する場合は科学的根拠と患者への十分なリスク説明を行い、文書による同意を取得するプロセスを確立する必要がある。

導入判断の指針

導入を検討する際は診療方針と経営戦略を踏まえて判断することが重要である。保険診療を主軸とする効率志向の診療所ではワンフィルの速い初期硬化と比較的低い1症例材料費が運用上の強みとなる。標準価格とチップ数を基に原価設計を行い、覆髄の定型フローを確立すればチェア稼働率の安定化につながる。自費診療を含む高付加価値型の診療所では説明同意や審美対応を充実させることで差別化が可能である。前歯部など色調が重視される症例では遮蔽プロトコルと再評価のスケジュールを整備し、ワンフィル パテの形態保持性を生かした安定した術後経過を提供することが付加価値につながる。外科や難症例を多く扱う医院であっても製品の適応は覆髄に限定される点は堅持し、適応外のニーズが高い場合は適応記載のある代替材を選択することが望ましい。院内ルールとして適応基準とオフラベル使用の可否を明文化し、購買と在庫管理の担当を明確にすることで運用上のトラブルを防ぐことが可能である。

よくある質問

Q.一ペーストのフロータイプMTAは湿潤下で使用できるか

両製品は水分で硬化が進行する性質を持つため過度な乾燥は不要である。ただし血餅や汚濁物が混入すると物性が低下するため止血後の静置と清潔な術野の確保が重要である。湿潤環境下でも使用は可能であるが止血の確実性を優先して判断することが望ましい。

Q.歯質の再石灰化は実際に起こるのか

メーカー資料には再石灰化促進の記載があり、カルシウムシリケート系材料のイオン放出とハイドロキシアパタイト析出に関する基礎知見がそれを支持する。臨床での効果の程度は症例条件や術後管理に依存するため再石灰化を過度に期待するのではなく、封鎖と術野管理を優先した治療設計が必要である。

Q.当日に最終修復まで進めてもよいか

ワンフィルは初期硬化がおよそ五分で当日中に遮蔽層まで進めることが現実的である。しかし最終修復を行うかどうかは封鎖の安定と症状の推移を確認した上で判断することが安全である。ワンフィル パテは初期硬化に三十分を要するため仮封重視の二段階運用が無難である。

Q.価格と一症例当たり材料費の目安はどれくらいか

標準価格はワンフィルが税別五千八百円でチップ十本同梱、ワンフィル パテが税別三千八百円で二五ミリグラムシリンジ四本入りである。仮にチップ一本やシリンジ一本を一症例で用いる前提では理論値として五百八十円と九百五十円が目安になる。院内ロスや滅菌費用を加味して最終的な一症例原価を設計することが重要である。