1D - 歯科医師/歯科技師/歯科衛生士のセミナー視聴サービスなら

モール

BISCO社「セラカルLC」と「セラカルPT」徹底比較!光重合とデュアルキュアの違い

BISCO社「セラカルLC」と「セラカルPT」徹底比較!光重合とデュアルキュアの違い

最終更新日

深在性う蝕の処置で露髄が確認された場面では止血が得られた後に修復完了までの時間配分に悩むことが多い。光が確実に届く浅い窩洞であれば光重合型の利点が生かせるが、断髄後の髄室内のように光が遮蔽されやすい部位では別の解決策が求められる。BISCO社の覆髄材であるセラカルLCとセラカルPTは同じケイ酸カルシウム系という共通点を持ちながら、硬化機構と操作性に明確な差があるため症例選択や臨床手順の設計、院内コスト管理に与える影響は無視できない。本稿は国内の添付文書と公開情報を基礎として両製品を比較検討し、臨床的な適応指針から運用面での注意点、経営的な評価指標までを整理することを目的とする。導入可否の判断にあたっては光の到達性と硬化確実性を第一の分岐点とし、さらに操作時間の制約や使い捨てチップの消耗、スタッフ教育負担、再治療リスクの低減効果といった複数の軸で評価することが実務的である。本文ではまず比較の要点を早見表として提示し、次に判断軸を示したうえで各製品の事実情報と臨床考察を分けて述べる。さらに適応と適さないケースを明確にし、経営インパクトと投資対効果の見積もり方法を具体化する。最後に日常臨床での使いこなしのポイントとよくある質問に対する回答をまとめ、現場での運用設計に直結する実務的な示唆を提供する。

目次

比較サマリー表(早見表)

以下にセラカルLCとセラカルPTの主要項目を簡潔に並べた。表を参照して臨床での適用場面や運用上の注意点を概観することができる。なお価格や使用量に関する数値は公開情報および流通条件に依存するため目安として示している。表の読み方としては硬化方式と光到達性が運用設計上の最大の決定因子である。光が確実に届く窩洞で即時の工程進行が求められる場面では光重合型のメリットが優位になる。一方で髄室内や深部など光遮蔽が生じやすい部位では化学的重合を併用するデュアルキュア型が硬化の確実性で優れる。コスト面ではミキシングチップなどの一次消耗品が症例単位の原価に影響するため、導入前に症例当たり使用量とチップ消費を試算することが重要である。以下に示す表は比較の出発点であり、院内の症例特性や治療フローに応じて重みづけを行うことが求められる。

項目セラカルLCセラカルPT
概要光重合型レジン強化型ケイ酸カルシウム覆髄材デュアルキュア型レジン強化型ケイ酸カルシウム覆髄材
医療機器管理医療機器 歯科用覆髄材料 認証番号225AGBZX00008000管理医療機器 歯科用覆髄材料 歯科裏層用高分子系材料 認証番号302AKBZX00006000
主適応直接覆髄 間接覆髄直接覆髄 間接覆髄 断髄後覆髄の手順に対応する運用が可能
重合方式光重合光重合と化学重合の併用
操作時間光照射前は術者が任意に調整可能35℃で約45秒
硬化時間1mm積層あたり20秒照射で硬化表層を10秒照射で固定し化学重合で約5分で硬化進行
層厚の目安1mmごとの積層硬化髄室内のバルク適用後に表層光照射と化学硬化で対応
成分の要点ケイ酸カルシウムと親水性モノマー ビスGMA系樹脂等ベースとキャタリストの二ペースト構成 ケイ酸カルシウム ビスGMA系樹脂等
添付チップシリンジチップ再使用不可デュアルシリンジミキシングチップ再使用不可
価格レンジの目安1g単品およそ5,900〜6,900円前後4g単品およそ15,000〜16,000円前後 2g品の設定あり
タイム効率光到達部で即時硬化が可能光が届きにくい部位での硬化確実性が高い
保守保証消耗材のため保守対象外消耗材のため保守対象外
供給性国内ディーラー流通国内ディーラー流通

【項目別】比較するための軸

意思決定に資する判断軸を七点に整理する。具体的には光の到達性と硬化確実性、操作の自由度と手技許容範囲、接着操作との連携、感染対策と使い捨て備品、教育負荷と装置依存性、トータルコスト所有額としてのTCOと消耗品コスト、そして失敗パターンと境界条件である。光の到達性と硬化確実性は最も重要な軸であり、光が届くかどうかで重合方式の有利不利が逆転する。操作の自由度では光重合型は照射前の操作時間に余裕があり細部の積層に向く一方でデュアルキュア型はオートミックス直後の流動性を利用して広い面積を短時間で被覆する運用が得意である。接着操作との整合は湿潤状態の管理と表層を乱さない手順の遵守が共通の前提となる。感染対策の観点ではいずれも付属チップの再使用は禁止されており廃棄管理と交換手順の明文化が必要である。教育負荷についてはセラカルLCは積層と照射のリズムをスタッフが共有すれば習得に時間がかからない反面、セラカルPTは二ペーストとミキシングチップの扱い、操作時間管理、表層固定後の移行手順の理解が必要である。TCOと消耗品コストは素材本体に加えチップ単価を症例単位で可視化することで在庫管理と原価最適化が可能となる。最後に失敗パターンと境界条件を押さえることで導入後の想定外のトラブルを防げる。具体的には厚盛りや光遮蔽による未重合の残存、止血不良や持続滲出による化学硬化不良と着色リスクが代表的な失敗像である。

【製品別】セラカルLCとセラカルPTのレビュー

本節は各製品の事実情報と臨床的考察を分けて記載する。まず事実情報については添付文書に示された認証番号、成分、硬化方式、使用条件、使用上の注意点などを整理する。次に臨床的考察では日常臨床で遭遇しやすい症例の典型像を挙げ、それぞれの製品が持つ強みと留意点を現場での運用観点から評価する。最後に仕様に関する補足事項として保管条件や照射強度の基準、付属チップの使い捨てに関する注意点をまとめる。セラカルLCは光重合型で1ミリ毎に20秒照射という具体的手順が明記されており、浅い窩洞で光が確実に届く症例において隔壁形成やコンポジット修復へ即時に移行できる利点を持つ。セラカルPTはベースとキャタリストの二ペーストで構成され、表層を短時間照射で固定した後に化学重合が進行する仕組みであるため、断髄後の髄室内や深部の光到達が難しい部位で硬化の取りこぼしが少ない。いずれの製品でも湿潤象牙質を前提とした運用とエアブローの回避、付属チップの再使用禁止が共通の注意点である。臨床応用では症例毎の光到達性と処置手順の時間的余裕を評価し、それに基づいてどちらを採用するかを決定するとよい。運用上はチップ管理と廃棄手順を明文化しスタッフに教育することがトラブル防止に直結する。

適応と適さないケース

両製品の適応は直接覆髄と間接覆髄が基本となる点は共通であるが、セラカルPTは添付文書に断髄後覆髄の手順が明記されているため髄室内での運用設計が比較的取りやすいという特徴がある。適応が期待できる典型的な症例としては小規模な露髄で止血が確実に行えた症例、光到達が良好な浅い窩洞、あるいは断髄後で広い露髄面を短時間で被覆したい場合などが挙げられる。一方で適さないケースとしては止血不良や持続的な滲出がある症例、隔壁の確保が困難なような崩壊歯、あるいは臨床的に厚盛りせざるを得ない視野不良の窩洞などがある。特に止血が不十分な状態でどちらの材を用いても硬化後の封鎖が不完全になりやすく、再発や感染のリスクを高める。断髄後の使用を検討する際には術中の止血状態、窩洞の形状、光源の到達性、施術者の操作習熟度を総合的に評価する必要がある。さらに適応外の用途を避けることも重要であり、国内表示の範囲外での使用は安全性と法的な面でのリスクを伴うため行わないことが望ましい。導入判断にあたっては院内での典型症例プロファイルを作成し、それに基づいてどちらの材が実務に適合するかを検証することが実務的である。

経営インパクトとROI設計

臨床材料の選択は単に治療成績に影響するだけでなくチェアタイムと再治療率、消耗品コストを通じて診療所の収益性に直結する。セラカルLCは光到達が良好な症例で即時硬化が可能なため一回の来院で修復完了まで至りやすくチェアタイムの平準化に寄与する。これにより一件当たりの処置時間を短縮できれば追加の診療枠が生まれ売上に寄与する。対照的にセラカルPTは光が届きにくい症例で化学的に硬化を完遂させることができるためやり直しによる再来院や再修復の抑制につながり長期的なコスト削減効果が期待できる。費用面ではセラカルPTはミキシングチップなどの都度消耗品が発生するため症例単位の原価にその分を上乗せする必要がある。実務的な算定方法としては購入価格を使用量で除した一症例原価を算出し、チェア1分当たりの人件費で短縮時間を金額換算する。そのうえで短縮時間によって創出される追加診療枠の売上と再治療削減による原価圧縮を合算して材料費差分で除しROIを算出すると良い。導入前には典型症例群を抽出して想定使用量とチップ消費を試算し、保守や在庫回転を含めたトータルコストを見積もることが重要である。結果として短期的な材料費増があっても再治療抑制や診療効率化が総合的に勝れば投資対効果はプラスとなる。

使いこなしのポイント

日常臨床での運用上重要なポイントは止血の確実化と湿潤象牙質の維持である。止血は綿球圧接で確実に行い、過度なエアブローで乾燥させないことが基本である。セラカルLCを使用する場合は層厚を1ミリ以下に抑えてドーム状に積層し、各層を20秒照射して十分に硬化させることが予後を左右する。周囲象牙質に1ミリ以上被覆することも推奨されている。セラカルPTはオートミックス後に露髄面全体を連続的に被覆し、表層を短時間照射で固定した後に化学重合で硬化を完了させる手順が基本である。洗浄剤を併用する場合は介在洗浄を挟み表層を乱さないように注意する。いずれの材でも付属のチップは再使用せず、交換と廃棄を標準作業手順として明文化して教育することが必要である。また操作時間管理や照射時間の遵守、使用温度や保管条件の厳守も含めた設備とスタッフのワークフローを設計することで安定した臨床結果を得やすくなる。さらに症例ごとに使用量を記録し在庫回転と原価管理をルーチンに組み込むとコスト可視化が進み運用の最適化につながる。

よくある質問

こちらは臨床現場で頻出する疑問に対する簡潔な回答をまとめた。光が届きにくい部位ではどちらが安全かという問いに対しては表層固定と化学硬化を併用できるセラカルPTが硬化確実性で優位である。即時修復のスピードを重視する場合は光が十分に届く部位での使用を前提としてセラカルLCが有利である。コスト管理で特に注意すべき点はセラカルPTのミキシングチップが都度消耗される点であり、チップ単価を症例原価に含めた原価試算を行うことが重要である。洗浄剤や酸処理の扱いについては介在洗浄を挟む手順が推奨されており表層を乱さない配慮が必要である。長期予後に関しては本稿が国内添付文書と公開データを基に記述していることを前提とし、最終的な予後は止血の質、湿潤管理、積層硬化の遵守、被覆後の修復設計に依存するため院内での症例記録を継続的に蓄積し評価することが望ましい。具体的な症例相談や導入後のトラブルシューティングについては院内プロトコールに基づいて追加の教育と記録管理を行うとよい。