GC「ティオン ホーム プラチナ」レビュー!過酸化尿素10%の低濃度ホワイトニング
前歯の色調改善を希望しつつ、知覚過敏を心配する患者は少なくありません。短期間に強く漂白する方法よりも、低濃度でコントロールしながら徐々にトーンアップしたいというニーズが増える中で、開業医にとっては「臨床的有用性」と「院内運用のしやすさ(経営面)」をどう両立させるかが重要な課題です。本稿では、過酸化尿素10%を有効成分とするGCのホームホワイトニング材「ティオン ホーム プラチナ」を取り上げ、臨床的意義と運用上の実務ポイント、経営インパクトを踏まえた導入判断の指針を提示します。製品の添付文書や公開情報に基づき、禁忌や使用条件も含めて中立的に解説します。院内での運用設計や患者説明の参考としてご活用ください。
目次
製品の概要
製品名と薬事区分
製品名は「ティオン ホーム プラチナ」です。薬事上は医薬品を含む歯科用歯面清掃補助材に該当し、管理上の扱いが求められます。承認番号は22900BZX00205000で、スターターキット、2シリンジパック、リフィル(10本・20本)など複数の包装形態が用意されています。
有効成分と適応範囲
有効成分は過酸化尿素10%です。使用法はカスタムトレーを用いたホームホワイトニングに限定され、就寝中の装着は禁じられています。院内で印象採得とトレー作製、患者への手技指導を行った上で運用することが前提です。製品は屋外や自己判断での容器移し替えを想定しておらず、添付指示に従った管理が必要です。
使用時間と処置回数
推奨される装着は1日1回、最長120分まで、処置期間は通常14日を目安とします。上顎または下顎の前歯6本を対象にした場合、シリンジ1本で約7回分が目安とされ、上下顎を2週間で運用する設計なら薬剤は概ね4本で一巡する想定です。
主要スペックと臨床的意味
過酸化尿素10%の臨床的ニュアンス
過酸化尿素は分解して過酸化水素と尿素になることで漂白作用を発揮します。過酸化尿素10%という濃度は、刺激性を抑えつつ毎日継続して色調改善を積み上げる設計です。知覚過敏の既往がある患者や「ホワイトバンド」など高濃度での刺激が懸念される症例に対して、選択肢として適しています。即効性は高濃度品に劣る一方で、忍容性と安全性を重視する臨床判断に合致します。
ジェルの物性とトレー内での挙動
本製品のジェルは水に溶けにくく歯面に留まりやすい性状で、白色のため過剰塗布の可視化が容易です。トレー装着時にはジェルが均一に広がりやすく、隅角部での滞留も目視で確認できるため、過不足の自己調整を促しやすいメリットがあります。歯肉への過度な接触や溢出があれば拭き取る指導で対応します。
トレーシートと適合精度
付属のトレーシートはスチレン・イソプレンブロック共重合体を素材に採用しており、真空加熱成形後の再現性と透明性が高いのが特徴です。トリミングによって歯頸線に沿ったマージン設計が可能で、液溜まりを作らないフラット設計が推奨されています。ジェルの滞留はトレーの物性と注入量で制御する考え方です。
処置回数と薬剤消費の目安
患者への説明では1歯あたり米粒2〜3粒を目安とし、前歯6本でシリンジの1目盛りを上限とする指示が現場では再現しやすい指標です。上顎6前歯でシリンジ1本が約7回分という目安から、臨床側は必要本数を逆算して在庫や来院スケジュールを組むことができます。
互換性と運用方法
トレー製作から装着までの流れ
運用は印象採得、作業用模型作製、真空加熱成形、トリミング、口腔内試適という標準的な工程で進めます。装着前に歯面清掃し、ジェルを注入した後は過剰分を速やかに拭き取るよう指導します。装着は1日1回、最長120分とし、就寝中の使用は禁止です。
保管と取り扱い
薬剤は冷蔵(2〜8℃)で保管する必要があります。トレーは使用後に水で洗浄し、温水や高温環境での保管は変形の原因となるため避けるよう案内してください。ジェルを別容器へ移し替える行為は推奨されません。使用期限はシリンジ本体の表示に従います。
注入量の標準化
視覚的に分かりやすい「米粒2〜3粒/歯」という基準で患者が再現しやすくなります。6歯で1目盛りという上限と併せて指導すれば、左右差や日々のばらつきを抑えられます。患者には鏡で確認させる、あるいは写真で見せるなどして正しい量の再現を促しましょう。
知覚過敏への配慮
装着中に痛みや異常感が出た場合は直ちに中止して歯科医師に相談するよう指示します。本製品は低濃度で継続する設計のため感受性の高い症例にも配慮されていますが、知覚過敏を有する歯や健全でない歯(う蝕やクラックなど)は適応外です。
経営インパクトと簡易ROI
仕入形態と価格構造(参考)
以下は参考となる希望医院価格の概算です。実際の価格は流通や仕入条件により変動しますので、契約時に確認してください。
| 商品形態 | 内容(目安) | 参考価格(希望医院価格) |
|---|---|---|
| 2シリンジパック | 2.5 mL × 2本 | 2,700円 |
| リフィル10本 | シリンジ10本 | 12,500円 |
| リフィル20本 | シリンジ20本 | 22,500円 |
| トレーシート | 10枚入り | 3,800円 |
| スターターキット | 薬剤とトレー資材等 | 内容により設定 |
1症例あたりの材料費の目安
上顎6前歯で7回分を1本とする目安から、上下顎2週間運用では薬剤が4本相当になります。リフィル20本運用で1本当たり約1,125円、リフィル10本で約1,250円、2シリンジで約1,350円という単価差を踏まえると、薬剤原価は概ね4,500〜5,400円に収まります。トレーシート2枚分を加えると、一巡時の材料費はおよそ5,260〜6,160円が目安です。
簡易的な採算考え方
採算は自費価格から材料費、人件費、成形・指導の稼働コスト、写真撮影や再診コストなどを差し引いた粗利で評価します。ROIは導入費用(スターターキットや設備、人員教育コスト等)を回収するのに必要な症例数で把握します。地域相場や来院頻度、自院の外来動線に合わせて価格設定を調整すると良いでしょう。
使いこなしのポイント
初期導入時の教育設計
患者説明では、色調変化が徐々に積み上がる性質であること、一般的に2週間程度での変化実感が多いことを伝えます。飲食や喫煙が漂白効果に与える影響を具体的に指導し、経過観察時には写真とシェードガイドで変化を可視化して患者のモチベーションを維持します。
オーバーフローの管理
白色ジェルは可視性が高いため、溢出や偏在に気づきやすい利点があります。装着後は鏡で確認させ、歯頸部や隅角での過剰分はすぐに拭き取る習慣をつけさせることで歯肉刺激や材料の無駄遣いを抑制できます。
併用ケアとメインテナンス
漂白後の後戻りはある程度避けられないため、定期的な歯面清掃やブラッシング指導を組み込み、再着色が目立つ前の補充運用を提案します。学会報告などでも、適切なホームケアが後戻りの抑制に寄与することが示唆されています。補充販売の提案を含めたLTV(顧客生涯価値)を意識した運用が有効です。
適応と適さないケース
適応が見込みやすい症例
・軽〜中等度の全顎的な着色改善を望む患者 ・イベントまで時間的余裕があり、緩徐なトーンアップを希望する患者 ・知覚過敏既往があり高濃度漂白を避けたい患者
これらの症例では、経過観察と丁寧な指導によって良好なアウトカムが期待できます。
適さない症例と禁忌
・無カタラーゼ症(代謝的禁忌) ・妊娠中・授乳期の患者 ・小児(年齢制限があるため適用外) ・重度の歯肉炎や進行した歯周炎の患者 ・う蝕、クラック、既存の知覚過敏がある歯 ・髄内処置やウォーキングブリーチの代替としての使用 ・就寝中の装着(明確に禁止)
適応外や禁忌に該当する場合は代替処置や先に口腔内の問題を解決することを優先してください。
導入判断の指針
効率重視、保険中心の診療所向け
チェアタイムへの影響が少なく、印象採得とトレー交付、1〜2回の経過確認で完了する運用が可能な点は導入の強みです。スタッフ主導で手順を標準化し、冷蔵で一括管理することで在庫管理が容易になります。
自費サービス強化を目指す診療所向け
写真記録やシェード評価を組み合わせることで、色調改善の「見える化」を価値として訴求できます。リフィル20本運用で薬剤単価を下げる運用により、長期フォローでの補充販売を組み込んだLTV設計が可能です。
外科・インプラント中心の医院向け
外科手術やインプラントの合間にトレー製作の工程を組み込みやすく、院内でトレーを完結させられる点は付加価値になります。就寝中使用不可という条件を踏まえ、日中に装着しやすい生活様式の患者を選定して提案すると導入効果が高まります。
よくある質問
Q 効果を実感するまでの目安はどれくらいですか
A 多くの症例で1週間程度の継続で変化を自覚することが多いですが、個人差があります。標準的な処置期間は最長14日で、経過はシェード評価と写真で確認します。
Q 必要な材料本数はどのくらい見込めばよいですか
A 上顎6前歯でシリンジ1本が約7回分という目安があります。上下顎を2週間で運用する場合は薬剤4本分を在庫として見込むとよいでしょう。リフィル運用で単価を最適化できます。
Q 装着時間や使用時の注意点は?
A 1日1回、最長120分です。過剰塗布は歯肉刺激の原因となるため、米粒大を基準に注入してください。縁辺からの溢出は直ちに拭き取ること。就寝中の使用は禁止です。
Q 保管や有効期限の扱いはどうすればよいですか
A 2〜8℃の冷蔵保管を行い、使用後はラバーキャップを確実に装着します。使用期限はシリンジ表示に従ってください。トレーは温水を避けて洗浄し、変形や損傷を防いでください。
Q 高濃度製品との使い分けはどう考えればよいですか
A 短期間で強い漂白を求めるなら過酸化水素系でより高濃度のラインを選ぶことがありますが、知覚過敏や患者の忍容性を重視する場合は過酸化尿素10%の本製品が有力な選択肢です。患者の生活習慣や処置に割ける時間、許容するチェアタイムを踏まえて使い分けてください。