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用途別にみる骨補填材の選び方について徹底解説!インプラントと歯周治療での使い分け等も
インプラントの埋入を計画した際に「あごの骨が足りない。骨補填材を使って骨を増やすべきかどうか」と迷った経験はないだろうか。あるいは重度の歯周病で歯を支える骨が大きく欠損し、「このまま抜歯すべきか、それとも骨を再生できるのか」と悩んだことはないだろうか。臨床現場では、こうしたジレンマに日々直面する。単に骨の欠損部に何か詰めれば良いわけではなく、症例に応じて適切な骨補填材を選択することが、治療結果と長期予後を大きく左右するのである。
本記事では、インプラント治療と歯周組織再生それぞれの場面で役立つ骨補填材の選び方について、長年の臨床経験に基づくヒントと医院経営の視点を交えて解説する。各製品の特徴を客観的に比較し、臨床的な利点・欠点だけでなく、コストや施術時間といった経営面への影響にも踏み込んで考察する。読者が自身の診療スタイルや症例に最適な製品を見極め、治療効果と投資対効果(ROI)の両立を図る一助となれば幸いである。
主要骨補填材の比較早見表
まず、代表的な骨補填材を主要な比較ポイントで一覧にまとめる。材料の種類による生物学的な違いと、それが臨床用途やコストにどう反映されるかを把握していただきたい。
| 材料(製品例) | 種類・由来 | 吸収・置換特性 | 主な用途 | コスト(目安) | 特徴(臨床・経営上のポイント) |
|---|---|---|---|---|---|
| 自家骨(患者採取骨) | 自家骨(患者本人から採取) | 骨形成能◎:最終的に自家骨のみが残る | 大規模骨欠損全般(インプラント骨造成、重度歯周病など) | 材料費0円(採取手技に時間・人件費) | 生体適合性が最も高い。骨新生能力も最大だが、採骨の手間と患者負担大。 |
| Bio-Oss®(牛由来HA粒子) | 異種骨(ウシ由来の無機骨ミネラル) | 吸収極めて緩慢:長期にわたり体積維持 | インプラント骨造成(GBR)、抜歯窩保存など | 高価※1 (1ccあたり数万円) | 長期安定の実績豊富。容易に扱えるが骨への置換は限定的。残留粒子が長年残る点に留意。 |
| 他家骨(ヒト由来アログラフト) | 他家骨(ドナー提供の人骨) | やや緩慢吸収+骨誘導能○ | 歯周組織再生、インプラント骨造成全般 | 高価※2 (輸入品が中心) | 骨誘導因子を含み骨形成を促す可能性。患者への説明と同意が重要。供給量や入手性に制約。 |
| β-TCP系人工骨(例:オスフェリオン) | 人工骨(リン酸三カルシウム製剤) | 数ヶ月~1年で完全吸収:自骨に置換◎ | 中小規模の骨欠損(歯周欠損、インプラント少量GBR) | 中程度 (国産品は比較的安価) | 最終的に患者自身の骨に置換される。大きな欠損では先に吸収し体積減少の恐れ。扱いやすい顆粒形状。 |
| HA系人工骨(例:アパセラム) | 人工骨(ハイドロキシアパタイト) | 非吸収性:長期残存し形態維持◎ | インプラント骨造成(大幅な骨幅増大)、骨嚢胞摘出後の空隙充填など | 中程度 | 骨と良好に結合し長期に形態を維持。新生骨への置換は僅少で、長期間粒子が残存する。 |
| 炭酸アパタイト人工骨(サイトランスG) | 人工骨(炭酸アパタイト) | ゆっくり吸収:効率的に骨へ置換○ | インプラント骨造成(GBR全般)、難治部位の骨再建 | 高め (先進技術の製品) | 骨組成に極めて近く徐々に自家骨へ置換。形態維持と骨形成を両立。新しいため長期データ蓄積中。 |
※1: Bio-Oss®は輸入品のため価格は高めだが、広く使用される
※2: 他家骨は国内認可の製品が限られ入手にコストがかかる
各製品にはそれぞれ特徴があり、「何が優れているか」は臨床目標によって異なる。以下で詳しく比較検討のポイントを見ていこう。
骨補填材を比較検討するポイント
インプラント骨造成と歯周組織再生、それぞれで求められる条件
骨補填材の選択基準は、インプラント治療の場合と歯周組織再生治療の場合で重視すべきポイントが微妙に異なる。インプラントのGBR(Guided Bone Regeneration)では、歯槽骨の幅や高さを十分に再建し、将来のインプラント埋入を確実に支える骨量の確保が最優先となる。また、骨移植部位がインプラントの支持骨となるため、長期的に形態が維持されることや、インプラント体との良好なオッセオインテグレーション(骨結合)獲得も重要である。このため、GBRではボリューム維持力に優れた材料(吸収されにくい異種骨や人工骨など)が好まれる傾向がある。
一方、歯周病による骨欠損部に対するGTR(Guided Tissue Regeneration)では、欠損した歯周組織の再生、すなわち新たな歯槽骨と歯根膜の再付着を得ることが目標となる。限局した骨ポケットや根分岐部病変では、骨だけでなく歯根膜線維の再生も必要であり、インプラントとは異なる生物学的条件が求められる。歯周組織再生では、最終的に患者自身の生きた骨組織に置換されることが理想的である。異物が長期残存するよりも、完全に自家骨に置き換わる材料のほうが、歯周組織の本来の再生には望ましい場合が多い。そのため、GTRでは吸収性で骨誘導能を有する材料(自家骨や一部の他家骨、β-TCP系人工骨など)が選択される傾向がある。ただし欠損形態によっては材料を入れずメンブレン単独で骨の再生を促す場合もあり、骨補填材を使うかどうか自体も症例ごとに判断が必要である。
このように、インプラントの骨造成と歯周再生ではゴールが異なるため、骨補填材に求める特性も「形態の安定性」対「完全骨化」という具合に重点が変わってくる。両者の違いを踏まえ、次節以降で具体的な比較ポイントを見ていこう。
材料の種類による生物学的特性の違い
まず骨補填材は大きく分けて自家骨・他家骨・異種骨・人工骨のカテゴリーがある。それぞれ生物学的な特性が異なり、骨再生への寄与の仕方も変わってくる。
自家骨(オートグラフト)
患者自身の骨を移植する方法で、生きた骨細胞や骨形成因子を含むため骨形成能・骨誘導能・骨伝導能のすべてを備えるゴールドスタンダードである。他の材料が追随できない高い予知性を持つが、後述するように採取の負担が大きい。
他家骨(アログラフト)
別の人(ドナー)の骨を加工・滅菌した移植材で、主にアメリカなどから提供される。細胞は死滅しているが、脱灰処理したDFDBAなどは骨形成因子(BMP等)を有し骨誘導能を示す場合がある。生体適合性も高いが、免疫学的拒絶反応を抑えるため無機質主体となっており、生きた細胞による骨形成能はない。
異種骨(ゼノグラフト)
ウシやブタなどヒト以外の生物由来の骨を加工した材料で、代表的なBio-Ossに代表されるように牛由来のハイドロキシアパタイト(HA)が多い。生体由来の細孔構造を持つため優れた骨伝導能(細胞が骨を埋める足場)を示す。一方で骨誘導能や骨形成能はなく、あくまで足場として骨が侵入・成熟するのを待つ形になる。
人工骨(シンセティックグラフト)
科学的に合成された無機材料で、代表はリン酸カルシウム系(β-TCPやHAなど)や生体ガラスである。ヒトや動物由来成分を含まないため感染リスクが低く、品質も均一である。骨伝導性は持つものの、基本的に骨誘導能や骨形成能は無い。ただし材料設計により細孔構造や組成を工夫することで、骨への置換速度や細胞応答を調整している。近年では後述の炭酸アパタイトのように骨組織に近い組成を持ち、生体内でのふるまいを改善した人工骨も登場している。
このような種類の違いによって、「骨そのものを作り出すパワーがあるか」「あくまで土台として骨ができるのを待つものか」が変わる。一般に、自家骨は移植先で骨そのものを作り出し、他家骨は骨成長のスイッチを入れ、異種骨や人工骨は骨の「足場」となる役割といえる。臨床ではこれらを組み合わせて用いることも多い(例:自家骨と人工骨を混合して大型欠損に充填することで、初期の骨形成と長期の足場確保を両立する)。
吸収スピードと骨置換率の違い
骨補填材を選ぶ際に重要なポイントの1つが「材料が体内でどのくらいの速度で吸収され、最終的にどれだけ自分の骨に置き換わるか」である。これは前述の用途別のニーズにも直結する。
吸収性が高い材料(例:β-TCP人工骨、自家骨など)は、移植後数ヶ月~1年程度でほぼ分解・吸収され、跡地には患者自身の新生骨が残る。歯周組織再生などでは望ましい性質であり、「最終的に異物が残らない」点で生理的である。また若年者の将来的な骨リモデリングや、後の再手術(再度の骨造成や矯正的な歯の移動)の妨げになりにくい。しかし吸収が速すぎると、その分骨の充填が追いつかず、初期にせっかく確保した体積が減少してしまう恐れがある。特に大きな骨欠損や幅の広い増骨が必要なケースでは、材料が早々に消えてしまうと計画したボリュームを保持できず、インプラント埋入時に再度骨が足りない事態にもなりかねない。臨床でも「半年後に開けてみたら人工骨がほとんど吸収されてスペースが維持できていなかった」という失敗談が聞かれる。したがって吸収性材料を使う場合は、欠損形態が壁に囲まれていて骨が充填されやすい好条件のケースや、小規模な欠損であることが望ましい。
一方、吸収性が低い(非吸収性・緩徐吸収性)材料(例:Bio-OssやHA系人工骨)は、移植後何年経っても大部分がその場に残存する。長期にわたり移植時の体積を維持できるため、大幅な骨造成が必要なGBR症例や、骨幅が薄い部分のシビアな審美的要求があるインプラントケースで有利である。例えば前歯部のインプラントで唇側の骨造成を行う際、非吸収性の補填材を用いておけば長期にわたり輪郭が崩れにくく、インプラント周囲の審美性が保たれやすい。しかし、吸収されない材料はいつまでも異物として残るため、組織学的には新生骨の割合が限定的になる。患者自身の骨質で完全に置換されるわけではない点をどう捉えるかは症例と術者の哲学による。インプラント支持には問題ないが、歯周組織再生の場合は残存異物が新たな歯根膜付着を妨げる可能性も議論されている。また、将来その部分を再手術する際に硬い異物が障害になる可能性もゼロではない(実際にはHAや異種骨も時間とともに少しずつリモデリングされ宿主骨と一体化するため、大きなトラブルは少ない)。総じて、「速やかに骨に置換させたいか」「長期間形を保たせたいか」で材料選択の軸が変わると言える。
操作性・使いやすさと処置時間への影響
臨床家にとって見逃せないのが、各骨補填材の操作性の違いである。同じ骨造成を行うにも、材料の扱いやすさによって手術時間や成功率は影響を受ける。
例えば、自家骨を採取して用いる場合、一般的に複数の処置ステップが必要になる。麻酔範囲も広がり、採骨部位(下顎枝やオトガイ部、腸骨など)から骨を切り出す外科操作が追加されるため、手術時間は長くなりがちである。採取した骨片は乾燥しないよう急いで移植部位に詰める必要があり、オペ中のスタッフも増員が望ましい。結果としてチェアタイムが延び、手術の難易度・侵襲も上昇する。開業医にとって長時間の手術は他の予約にも響き、回転率の低下やスタッフコスト増にもつながる。したがって経営的視点では、「自家骨は材料費こそ無料だが、そのぶんオペ時間と術者労力というコストが発生する」と捉える必要がある。
他家骨の場合は材料自体の準備はシンプルだが、製品によっては使用前の手順に留意が必要なものもある(例:冷凍保存されているものを解凍・リコンスティテュートする作業など)。もっとも一般的な骨補填材は、パウダーまたは顆粒状の骨様物質を生理食塩水や血液で湿らせて欠損部に填入する形である。Bio-Ossや人工骨顆粒は使い方自体は簡便であり、現在では注射器状のディスペンサーに充填された製品も登場している。これらは狭い部位にもスムーズに導入でき、術野への詰め込み作業を短縮してくれるため、手早く処置を終える上で有用である。また、粒径や形状も操作性に影響する。大きな粒は空隙が大きくなる反面詰めやすく、小さな粒は隙間なく充填できるが表面が乾きやすいといった違いがある。製品によっては「ペースト状」「コラージェンに含浸させたスポンジ状」などユニークな携帯で提供され、扱いやすさに工夫を凝らしている。
さらに見落とせないのはメンブレンとの併用である。GBRやGTRでは多くの場合、骨補填材の上を覆う遮断膜(メンブレン)を使用する。非吸収性のePTFE膜やチタンメッシュは二次手術で除去が必要なため、開業医では吸収性コラーゲン膜の使用が主流だろう。膜の固定にピン止めが要るケースもあり、これら膜操作も含めるとトータルの施術時間と手技の煩雑さは増す。したがって「どの材料を使えば手早く確実に所定の位置に留め置けるか」という視点も重要だ。例えば粘性のあるペースト状人工骨なら膜なしでも穴を塞ぎやすいが、軽い顆粒だと膜で覆わないと動いてしまう、といったことが起こる。術者自身の扱いに慣れた材料を選ぶことが、結果的に手術時間短縮と成功率向上に直結する。新しい材料を試す際は、事前にモデルなどで練習し、感触を確かめてから本番に臨むと良いだろう。
コストと医院経営への影響
骨補填材は医院にとって経営資源への投資でもある。製品価格はピンからキリまであるため、費用対効果を考慮した選択が重要だ。
極端な例では、自家骨は材料そのものの費用は発生しない。しかし上述の通り、術者やスタッフの労力・時間というコストが大きい。長時間オペをこなせる体制や、入院施設を持つ病院なら自家骨をふんだんに使った治療も行いやすいが、一般開業医の場合は費用面より人的資源コストの重みを考える必要がある。また患者にとっても、手術時間延長やドナー部位の痛みは大きな負担であり、その点での説明と理解が求められる。
市販の骨補填材について見ると、代表的なBio-Ossは1ボトルあたり数万円と高価である。しかしそれを使うことでインプラント治療が可能になり、結果的に自費治療収入を得られるのであれば投資回収は十分見込めるだろう。言い換えれば、材料費と治療収益のバランスを考えて採算ラインを判断すべきである。保険診療の範囲内で歯周組織再生療法(例えばGTR法)を行う場合、高価な材料を用いると医院側の持ち出しが大きくなる可能性もある。経営戦略として、自費診療メニューに組み込むか保険で行うかによっても選択肢は変わるだろう。
近年は国産の人工骨製品も増えており、海外製より価格が抑えられたものもある。β-TCP系人工骨は比較的安価で、症例数をこなしても材料費負担が重くない。一方、同じ人工骨でも最先端の炭酸アパタイト製剤(サイトランスグラニュールなど)は高価である。しかし高価な材料にはそれ相応の付加価値(例えば手術の簡略化や治癒率向上)が期待できる。実際、炭酸アパタイトは材料費はかさんでも「将来のインプラント脱落リスクを下げ再治療コストを防ぐ」「手術時間短縮で回転率を上げる」といった形でROIに寄与する可能性がある。医院ごとの患者層や治療単価に合わせ、コストパフォーマンスを冷静に見極めたい。
さらに、材料コスト以外にも周辺費用を考慮するべきだ。骨補填材を使用するには滅菌外科キットや麻酔、場合によっては鎮静法なども必要となり、それらの設備投資や消耗品コストも計算に入れる必要がある。高額な骨材料を用いるのであれば、成功率を高めるために術前のCT撮影やガイデッドサージェリーを駆使するなど、総合的な投資効果を最大化する戦略も求められる。最終的には、材料費だけにとらわれず「その材料を使うことで得られる診療報酬と患者満足度向上」を天秤にかけ、経営判断することが肝要である。
以上を踏まえ、次章では具体的な製品ごとの特徴と、その製品がどのようなケース・歯科医師にフィットするかを見ていこう。
主な骨補填材それぞれの特徴と適応
ここでは、臨床で使用される代表的な骨補填材について、それぞれの長所・短所を専門的観点からレビューする。単なる宣伝的な記載ではなく、公開情報や臨床知見に基づく客観的事実と考察を示す。また各製品が「どんな価値観・ニーズの先生にマッチするか」を描写するので、自身の状況に照らし合わせながら読んでいただきたい。
自家骨移植(オートグラフト)は生体親和性が高いが採取に伴う負担あり
自家骨は患者自身から採取した骨組織であり、生体適合性という点で他の追随を許さない素材である。細胞や骨芽細胞への分化誘導因子を豊富に含み、移植すればそれ自体が新たな骨を作り出すため、確実な骨造成を達成しやすい。歴史的にも「骨移植のゴールドスタンダード」とされ、大きな骨欠損の再建には今なお第一選択となる場合が多い。特に骨造成量が多いケース(大幅な顎堤の高さ増大や複数歯欠損部のインプラント予定症例など)では、自家骨片をブロック状に移植することで他の材料にはない速やかな骨統合が期待できる。
しかし、自家骨には明確なデメリットも存在する。最大の難点はドナーサイトの確保である。口腔内なら下顎枝(智歯付近の顎角部)やオトガイ部、口腔外なら腸骨からの採骨が一般的だが、これには追加の手術侵襲と患者の負担が伴う。採骨部は術後に痛みやしびれを生じることもあり、患者満足度に影響しうる。また、採取できる骨量には限界があり、大規模な骨欠損ではドナー部位を複数設ける必要がある。技術的にも熟練を要し、開業医レベルで対応できる採骨は限られる。そのため、規模の大きな再建が必要な際には大学病院や専門医に紹介するケースもあるだろう。経営的視点から見ても、長時間の外科処置や入院管理が必要となれば、クリニック単位での採算は合いにくくなる。
自家骨移植は「確実に骨を作りたいが、大変な思いをしても構わない」というケースで威力を発揮する。そのため、大規模骨造成を必要とするインプラント症例や、他の材料を色々試す余裕がないような重篤な骨欠損(腫瘍切除後の再建など)に向いている。反対に、患者の侵襲軽減や手術効率を重視する歯科医師にとっては、最初の選択肢にはなりにくい。時間とマンパワーを割いてでも最善の骨量確保を狙いたい症例では自家骨を検討すべきだが、日常臨床の多くでは次に述べる各種人工材料が現実的な代替となる。
Bio-Oss(牛由来骨補填材)は長期安定性に優れインプラントGBRの定番
Bio-Oss(バイオオス)は牛由来の無機骨ミネラルで、世界的に最も広く使われている骨補填材の1つである。スポンジ状の牛骨から有機成分を除去し、骨の石灰化した構造のみを残したもので、主成分はハイドロキシアパタイト(HA)である。その微細構造は人の海綿骨と似ており、移植すると細孔に骨芽細胞や血管が入り込み、良好な骨伝導性を発揮する。特徴は何と言っても吸収されにくいことで、体内で分解されるスピードが非常に遅く、場合によっては何年経過しても粒子がレントゲンに写るほど残存する。この性質により、一度埋めたBio-Ossは移植時の骨格を長期間保持し、時間の経過による造成骨のボリューム減少が少ない。インプラントのGBRでは定番の材料と言え、特に審美領域の骨造成やソケットプリザベーション(抜歯窩への充填による顎骨萎縮防止)で多用される。筆者自身、過去の症例でBio-Ossを用いた部位を数年後に再評価してみても、移植時の形態がほぼ維持されており、インプラント周囲の骨吸収も極めて少なかった経験がある。
長所ばかりが強調されがちなBio-Ossだが、理解しておくべき短所・留意点も存在する。最大のポイントは、残存した粒子は最終的にも自家骨に置き換わらない可能性があることである。言い換えれば、いつまでも異物が多少なりとも存在する状態になる。ただしBio-Oss粒子自体は不活性で炎症も起こしにくく、周囲は線維性組織ではなく硬い骨様組織で囲まれて安定するため、インプラント埋入には支障がない。その一方で、例えば歯周組織再生の場面では「残留異物があると新生歯周組織の質が劣るのではないか」と懸念する声もある。この点については諸説あるが、Bio-Ossを歯周欠損に用いて良好な臨床結果を報告する研究も多数あり、一概に否定はできない。ただ、完全に自家骨に置換してしまいたいという価値観の術者は、歯周再生では他の材料を選ぶ傾向にある。
また、Bio-Ossは骨誘導能を持たないため、骨を呼び込む力は周囲の母床骨に依存する。広範囲の欠損では中心部のBio-Ossが骨化しづらいことがあり、そうした場合には周囲に自家骨や血小板濃縮因子(PRFなど)を混ぜて使う工夫もされている。加えて、牛由来という性質上、患者によっては心理的抵抗を示す場合がある点にも注意が必要だ(もっとも現在の製品は高い安全性が確保されており、感染やアレルギーのリスクは極めて低い)。価格面では決して安価ではないが、その信頼性と扱いやすさから日本国内でも広く普及している。
Bio-Ossは「インプラントの長期安定を図りたい」「骨量維持を最優先したい」と考える歯科医師にとって心強い味方である。特にインプラント中心の診療を行っており、自費診療の質を高めたい先生には、有力な選択肢となるだろう。逆に、「最終的には患者自身の骨だけにしたい」というポリシーを持つ歯周治療重視の先生や、コストを極力抑えたい場合には、他の材料を検討したほうが良いかもしれない。いずれにせよ、Bio-Ossは「GBRの標準」として一度は試してみる価値のある製品であり、その特性を理解した上で症例を選んで用いれば、高い治療満足度に繋がるはずである。
他家骨(アログラフト)は骨誘導能を持つが供給源と安全性に配慮
他家骨(アログラフト)は、第三者ドナーから提供された骨を加工・滅菌した移植材である。欧米では以前から一般的に用いられてきたが、日本では規制や供給の問題もあり、使用する歯科医院は限られていた。しかし近年、海外製品を取り寄せて使用する先生も増えてきており、選択肢の1つとして認識しておきたい材料である。
他家骨最大の特徴は、骨誘導能(オステオインダクション)を期待できる点である。特に脱灰凍結乾燥骨(DFDBA)と呼ばれる製品は、骨から石灰分を抜いてコラーゲン基質中のBMP(骨形成たんぱく質)などを露出させたもので、これが受容体で骨芽細胞の分化を誘導し、新生骨形成を促すと考えられている。実際、歯周組織再生療法では古くからDFDBAが用いられ、多くの臨床研究で骨充填効果が報告されてきた歴史がある。また他家骨は一度ヒトの生体内にあった組織であるため、生体親和性も人工物より高い。吸収に関しては製法や由来部位によって異なるが、スポンジ様の海綿骨由来なら比較的速やかにリモデリングされ、数ヶ月〜1年スパンで自骨に置き換わる。一方、緻密な皮質骨片のまま加工したものはBio-Oss同様に長期残存しやすい。製品によって「海綿骨由来or皮質骨由来」「脱灰有無」があり、得られる特性が違うため、使用時はカタログスペックを確認する必要がある。
他家骨の弱点としてまず挙げられるのは、供給源の制約とコストである。国内には歯科用の骨バンクが整備されていないため、実際には米国などからの輸入製品に頼ることになる。流通量が限られ価格も高価なため、気軽に多量を使用できる材料ではない。必要量を見誤ると後で追加入手が困難な場合もあり、術前計画が重要になる。また、患者への説明も慎重を要する。いくら滅菌処理され安全とされても、「他人の骨を体内に入れる」ことに抵抗を覚える患者は少なくない。感染リスクは理論上ほぼ皆無だが、HIVやプリオンへの懸念を持つ方もいるだろう。そのため事前のインフォームド・コンセントでは、他家骨の由来や安全性について丁寧に説明し理解を得る必要がある。加えて宗教や倫理の観点から拒否されるケースも考えられる。これらコミュニケーションにかかる時間や労力も含めると、他家骨を常用するハードルは決して低くない。
他家骨は「骨再生のポテンシャルを最大化したいが、自家骨採取は避けたい」というジレンマを解決する一手となり得る。そのため、歯周組織再生に力を入れている先生や、インプラント周囲の骨造成で確実性を高めたい場合にマッチする。特に重度歯周病で「抜歯か再生か」の瀬戸際の歯を救う際、DFDBAとGTR膜を組み合わせて劇的な骨充填を得た報告もあり、腕の見せ所といえる。一方で、安定供給やコスト管理を重視する経営的視点からは、他家骨はスポットで使うにとどめ、メインは人工骨等で運用するのが現実的だろう。患者説明にもしっかり時間を割けるケースに絞って活用することで、他家骨は強力な武器となる。
人工骨β-TCP(リン酸三カルシウム)は完全吸収され患者自身の骨に置換される
β-TCP(ベータリン酸三カルシウム)は代表的な合成骨補填材で、古くから整形外科や口腔外科で使用されてきた歴史を持つ。顆粒状やブロック状の製品があり、日本ではオスフェリオンをはじめ複数の国産品も開発されている。β-TCP人工骨の一番の利点は、最終的に完全吸収されて患者自身の骨に置き換わることである。生体内のリン酸カルシウム濃度に応じて徐々に溶解し、同時に欠損部には新しい骨組織が形成されていく。適切な環境下では、移植後半年~1年ほどで大部分が自骨へと置換され、レントゲン上でも人工骨の陰影が消失してくる。歯周組織再生ではこの性質が特に歓迎され、異物を残さず歯周組織を再建したいケースに適している。実際、日本でも歯周外科領域でβ-TCPを用いた研究が多く、多くの歯科医師がその有用性を評価している。
また、β-TCPは素材が柔らかく扱いやすいという利点もある。粒子は比較的脆く、その場で圧接すればある程度欠損壁になじんで形を変えてくれるため、細かいすき間にも充填しやすい。硬質のHA粒子のように跳ね返ってこないので、ストレスなく緊密な充填操作が可能だ。ただし、もろい分だけ強度は低く、大きなスペースを支えるには不向きである。吸収が進むにつれボリュームも減るため、単独で大量に入れると最終的な骨量が不足してしまうこともあり得る。そのため、大規模な骨造成にはβ-TCP単独使用はリスクがある。一方で、比較的小さな骨欠損(1~2壁欠損の歯周ポケットやインプラントの周囲の隙間など)であれば、β-TCPだけで十分な骨充填が得られることが多い。実際に筆者も、抜歯即時インプラントの際に生じるわずかな隙間にβ-TCP顆粒を充填し、数ヶ月後にしっかり自家骨化していることを確認した経験がある。
コスト面では、β-TCP製剤はBio-Ossなどに比べ比較的安価である。国産品であれば入手性も良く、症例あたりの材料費を抑えたい場合に有利だ。さらにヒト由来成分を含まないため、感染症リスクや倫理面の心配もほぼ不要で、患者説明もスムーズである。デメリットとしては、完全骨置換ゆえの不確実性が挙げられる。すなわち、「材料が無くなった後ちゃんと骨ができているか」は症例によって差が出る。条件が悪いと本来骨になってほしい箇所が線維化してしまう可能性もゼロではない。術者には、ケース選択と術後経過観察に細心の注意が求められるだろう。
β-TCP系人工骨は「最終的に骨だけで治したい」「異種由来の物は避けたい」という先生にフィットする選択肢である。歯周再生や、若年患者のケースで長期的な骨置換を期待する場面で心強い。一方、大きなGBRで確実な形態維持を求める場合には、これ単独では荷が重いことを認識しておくべきだ。そうした場合には、他の補填材とミックスして使う、あるいは骨補填材以外のアプローチ(GBRではなく骨延長法を用いる等)も検討すべきであろう。適材適所でβ-TCPを活用すれば、患者に「自分の骨が再生した」という実感を与えることができ、歯科医師としてもやりがいを感じられる治療結果が得られるはずである。
人工骨HA(ハイドロキシアパタイト)は吸収されず形態維持に優れる
ハイドロキシアパタイト(HA)は骨の無機成分そのものとも言える物質で、人工骨材料としても古くから利用されてきた。HA製人工骨は非吸収性であることが特徴で、一度体内に埋め込まれると非常に長期間そのまま残存する。国内ではアパセラムなどが有名で、整形外科領域でも骨腫瘍除去後のキャビティ充填などに用いられてきた歴史がある。多孔質のHAブロックや顆粒は、移植すると周囲の骨と化学的に結合し、インプラントの表面コーティング材としても使われるほど生体親和性が高い。骨伝導能も良好で、HA粒子の表面には骨形成に関連するタンパク質(オステオポンチンや骨シアロプロテインなど)が沈着し、そこに新生骨が付着・成熟していくことが知られている。つまり、HAは骨と一体化する足場として振る舞うが、自らが消えることはない。
この性質は、インプラントの大規模GBRでとりわけ有用である。HAブロックを顎堤の骨欠損部に緊密に適合させ、スクリューで固定する手法は、半永久的に形態を維持できるため、骨移植に代わる方法として一部で実践されている。また上顎洞底挙上術(サイナスリフト)でも、HA顆粒を用いておけば長年経っても沈下しにくく、上顎洞内の骨高さをキープできる利点がある。さらに、HAは寸法安定性が高いため、インプラント埋入のドリリングで引っかかったりせず、計画通りのポジションにインプラント体を埋入しやすいというメリットもある。吸収性材料だとドリルで削る際に柔らかい骨に置換している途中で空隙が出たりするが、HAなら擬似的に硬い骨として存在するので扱いやすいわけである。
一方、HAの欠点としては骨置換が起こらないことによる影響が挙げられる。要するに、HAそのものがずっと存在し続けるため、新生骨の占める容積は思ったほど増えない可能性がある。骨組織自体は周囲からじわじわ伸びてくるが、HA粒子内部まで完全に骨細胞が浸透するわけではなく、一部は線維結合で終わる領域も残るとされる。臨床的には硬い組織で満たされれば問題ないことも多いが、前述のように歯周組織再生の観点ではマイナスに働く場合もある。また、HA粒子が感染や露出を起こすと除去しづらい点にも注意が必要だ。吸収性材料なら万一起こっても自然に消えていくが、HAはデブリードマンで物理的に取り除くしかなく、慢性的なフィステルの原因になることもある。もっとも現在のHA製剤は細孔径を大きく取るなど改良が進み、感染も起こりにくくなってはいる。さらに、HAはセラミック由来ゆえコストが高めだったが、国産品の登場で価格も徐々に下がり、手の届く範囲になりつつある。
HA系人工骨は「確実なスペースメインテナンスを図りたい」「長期的な骨形態保持を最重視する」先生に向いている。インプラントの大量造成やサイナスリフトで、「ボリューム減少なく骨を足したい」という場面にマッチするだろう。反対に、自然な骨再生を重視する歯周再生では不向きであり、また将来的な再介入(例えばインプラント除去後に別の治療をする等)があり得るケースにも慎重を要する。患者への説明では「この材料自体は体に無害で、将来まで骨を支えます」と長所を伝え、慎重派の患者にも安心感を与えることができる。HAは使い所を選べば、他の材料にはない絶対的な安心感をもたらす骨補填材である。
人工骨(炭酸アパタイト)は効率的な骨置換と安定性を両立
炭酸アパタイトは最近注目を集めている新世代の人工骨材料である。代表製品のサイトランスグラニュールは世界初の炭酸アパタイト製骨補填材として2018年に国内発売された。炭酸アパタイトは人の骨の無機質とほぼ同じ組成を持ち、従来のHAとβ-TCPの中間のような性質を示す。具体的には、移植後にゆっくりと吸収されつつ、新生骨に効率よく置換される点が特徴である。メーカーからは「患者自身の骨へ効率的に置換され、目標とした骨面の高さを維持する」とうたわれており、実際筆者の周囲でも「数ヶ月経過後のレントゲンで、輪郭を保ちながらも徐々に骨密度が上がっていく様子が確認できる」という声がある。要するに、HAのように形態維持に優れつつ、β-TCPのように最終的には自家骨主体に置き換わる理想的なバランスを狙った材料と言える。
臨床的な使い勝手も良好で、顆粒は適度な硬さと湿潤性があり、欠損部に詰めやすい。吸収性が緩やかなため、大幅なGBRでも安心して所定量を充填でき、時間とともにしっかり骨質が向上してくることが期待できる。ただし、新しい材料ゆえに長期的なエビデンスが蓄積途中である点は留意が必要だ。数年~十数年スパンで見たとき、従来材料と比較して本当に骨量維持やインプラント予後に差が出るのかは、今後の検証に委ねられている。また価格も高めであるため、多数の症例に日常的に使うには医院の予算計画が求められる。経営的には、新規技術をアピールしたい先進的なクリニックや、高額な自費治療メニューの付加価値として導入するケースが多い印象である。
炭酸アパタイト人工骨は「最新のエビデンスに基づきベストな結果を追求したい」歯科医師にとって魅力的な選択肢である。インプラント難症例で、確実かつ長期安定的な骨造成を図りたい場合には心強い味方となるだろう。また、動物由来や他家由来の材料に抵抗がある患者にも、「人工物だが自分の骨と同じ成分」と説明しやすく、受け入れられやすい点もメリットである。反面、コストや実績重視で慎重な先生には、採用にもう少し時間を置いて様子を見るという判断もあるかもしれない。いずれにせよ炭酸アパタイトは今後のスタンダードを塗り替える可能性を秘めており、情報収集を怠らずフォローしていきたい材料だ。
まとめ
骨補填材の選び方は、一言で言えば「症例の臨床目標に合致した材料を、無理のないコストで採用する」ことに尽きる。インプラントのGBRでは長期安定性が鍵となり、Bio-OssやHAなど形態を保ちやすい材料が重宝される。一方、歯周組織再生では最終的に自家骨化することが理想のため、自家骨やβ-TCP、他家骨など完全吸収型の材料に軍配が上がることが多い。ただし実際の臨床では、欠損の大きさ・部位、全身状態、患者の価値観、費用負担の意思などを総合的に考慮して決定を下す必要がある。万能な材料は存在せず、各製品の特性を正しく理解した上で「適材適所」で組み合わせることも視野に入れよう。
医院経営の観点からは、費用対効果を見極めた戦略的な材料選択が重要である。高価な材料も、それによって高品質な治療結果が得られ患者満足度や紹介増加につながれば、十分に元が取れる投資と言える。逆に安価でも効果が不十分な材料を使って再手術が増えれば、かえってコスト高になるだろう。ROI(Return on Investment)を最大化するには、材料費だけでなく術者の時間や患者紹介など無形のリターンも含めて判断する視点が求められる。
明日からできるアクションプランとして、まずは現在使用中の骨補填材の見直しを提案したい。それぞれの症例で満足のいく結果が出ているか振り返り、もし改善の余地があるなら本記事で取り上げた他の材料を検討してみよう。気になる製品があれば、メーカーの担当者に問い合わせてカタログやエビデンス資料を取り寄せると良い。場合によっては少量サンプルを提供してもらえることもあるため、モデル実習やトレーニングコースで手触りを確かめ、自信を持って臨床導入できる準備をしよう。また、学会や勉強会でエキスパートの講演を聞き、自分と同じようなケースで各先生がどの材料を選択しているか情報収集するのも有益である。最終的には、自分の手で納得のいく骨造成ができる材料こそがベストな選択肢となる。経験を重ね、エビデンスをアップデートし続けることで、読者それぞれが理想とする骨補填材の使い分けが確立されることを願っている。
よくある質問
Q. インプラント治療に骨補填材は必ず必要であるか?
A. 骨補填材はインプラント埋入に際して必ずしも毎回必要となるものではない。十分な顎骨の高さ・幅が最初から確保されている症例では、骨造成処置をせずにそのままインプラントを埋入できる。しかし、骨幅が足りない場合のGBRや、上顎洞へのアプローチ(サイナスリフト)などでは骨補填材の使用が推奨される。必要性はケースバイケースであり、CT画像などで事前に骨量を評価し、不足があれば骨補填材を用いた造成が必要になる。逆に近年は、骨造成を極力回避するために短いインプラントの活用や抜歯即時埋入で骨吸収を抑えるテクニックも発展している。重要なのは、「その症例で最善の長期予後を得るために骨補填材が必要か」を見極め、必要なら適切な材料を使うという判断である。
Q. GBRとGTRはどう違うのか?
A. GBR(Guided Bone Regeneration)とGTR(Guided Tissue Regeneration)は、いずれもメンブレンなどで軟組織の侵入を防ぎながら組織再生を促す手法であるが、対象と目的が異なる。GBRは主にインプラント治療における骨再生に焦点を当てており、足りない骨を増やしてインプラントを支持できる十分な骨量を得ることが目的である。これに対しGTRは歯周組織、つまり歯を支える組織全体(骨+歯根膜)の再生が目的であり、歯周病で失われた歯槽骨や付着組織を回復させて歯の寿命を延ばすことを狙う。両者とも手法自体は似ており、骨補填材とメンブレンを用いる点は共通するが、GTRでは特に歯根膜由来の細胞が再付着することが重要となるため、インプラントのGBR以上に材料選択や適応症の見極めがシビアである。まとめると、GBRはインプラントのための骨づくり、GTRは歯のための組織再生という違いになる。
Q. 骨補填材を使用する際、メンブレン(遮断膜)は併用すべきか?
A. 多くの場合、メンブレン併用が望ましいとされている。骨補填材を入れただけでは、歯肉由来の軟組織が早期に侵入してきてしまい、骨に置き換わるスペースを奪う可能性がある。これを防ぐため、コラーゲン製などのメンブレンで骨補填材を覆い、数週間〜数ヶ月の間バリアを作ることで、ゆっくり骨が再生する環境を守るのである。ただし例外もあり、例えば抜歯窩への少量の人工骨充填(ソケットプリザベーション)では、必ずしもメンブレンを使わずとも歯肉が上皮化して安定することもある。また、骨補填材自体に粘着性があり固まる製品(一部のペースト骨材など)は、比較的ずれにくいため膜なしで使うことも可能とされる。基本原則としては「膜で覆ったほうが骨誘導の予知性が上がる」が、症例や材料によって省略できる場合もあり得るという認識でいるとよい。
Q. 歯周治療で骨補填材を使えば歯はまた骨で支えられるようになるのか?
A. 歯周病で失った骨が部分的に再生することは可能だが、条件による。垂直的な骨欠損が三壁性骨欠損(周囲に骨壁が残っている)など好ましい形態であれば、骨補填材とメンブレン(またはエナメルマトリックスタンパク質などの生物学的材料)を併用することで、欠損が充填される程度の骨新生は期待できる。しかし、水平的に広がった骨吸収や歯周炎が重度で支持組織自体が乏しい場合、完全に元通りの骨高さまで戻すのは難しい。骨補填材を使うことである程度の骨増生とポケット減少は得られても、健全な歯周組織に比べ脆弱な結合組織性付着しか得られないこともある。要は、歯周組織再生療法は症例の選択が極めて重要で、適切なケースでは骨補填材が歯の延命に大きく寄与するが、不適切なケースでは思うような効果が出ない。担当歯科医はレントゲンや探診所見から再生に向く欠損かを見極め、可能性がある場合に骨補填材を戦略的に使うことになる。
Q. 自家骨と人工骨はどちらを選ぶべきか?
A. 症例の規模と目的によって使い分けるのが現実的である。自家骨は骨造成効果が高く、大きな骨欠損に対しては他に代えがたい選択肢だ。しかし、小~中規模の欠損や患者負担を抑えたいケースでは、人工骨で十分対応できることが多い。人工骨にも様々な種類があり、自家骨に近い働きを目指して作られた製品も増えている。一般開業医の臨床では、まず人工骨や異種骨で対応し、どうしても骨量が得られない大型症例や重要症例では自家骨も辞さない、というスタンスがバランスが良いだろう。要は「何としても骨を作らなければならない症例」では自家骨、そこまででなければ低侵襲な人工骨類を優先という判断である。また、両者を組み合わせて使うことも可能で、自家骨チップと人工骨を混ぜれば、骨形成能と足場効果を同時に発揮できる。最終的にどちらが優れているかではなく、適材適所で両者を使いこなすことが求められる。歯科医師は自院で対応可能な範囲と自分のスキルを踏まえ、患者にとってベストな選択肢を提示すべきである。
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