人工骨骨補填材とは?代表的なβ-TCP・HA製品等の主要材料の特徴を比較しながら解説!
インプラント治療や歯周再生の現場で、「骨が足りない…」という場面に直面した経験はないだろうか。自家骨を採取して移植する方法もあるが、患者の負担や手術時間の増加は避けたいところである。そこで人工骨の骨補填材が活躍するが、「どの人工骨を使えば確実に骨ができて、経営的にも無駄がないのか」と頭を悩ませる歯科医師は多い。実際に、ある症例では人工骨を入れたのに思うように骨化せずインプラント埋入が延期になったり、逆に別の材料では吸収が早すぎて骨量が減ってしまい再造成が必要になったという声も聞かれる。
患者のために最善を尽くしたい気持ちと、医院経営として効果的に投資回収したい思い—その両立は容易ではない。本記事では、人工骨補填材の代表的な種類であるβ-TCP(ベータリン酸三カルシウム)とHA(ハイドロキシアパタイト)を中心に、各製品の特徴を臨床的価値と経営的価値の両面から徹底比較する。材料選択に迷う先生方にとって、明日からの治療戦略とROI(投資対効果)最大化のヒントとなる情報を提供したい。
人工骨補填材の主要製品・材料の早見表
まずは現在日本で入手可能な主要な人工骨補填材を一覧にまとめる。臨床性能に加えて、おおまかな吸収スピードやコスト感も比較し、全体像を把握してほしい。
| 製品名(販売元) | 主成分・種類 | 骨置換の特性 | 吸収・置換期間の目安 | 価格帯(目安) |
|---|---|---|---|---|
| オスフェリオンDENTAL(京セラ他) | β-TCP系合成骨 多孔質ブロック・顆粒 | 高気孔率75%の多孔構造。移植後は徐々に分解吸収され、最終的に自家骨に置換される。 | 約6か月~1年程度で大部分が骨置換 (症例により~2年) | 中程度(1gあたり約1.5~2万円) |
| セラソルブM(ジンヴィ・ジャパン) | β-TCP系合成骨 多孔質顆粒 | 100%化学合成の顆粒状β-TCP。骨伝導性が高く、完全吸収型で骨に置換。 | 最短4~6か月で骨形成開始 約1年で大部分が置換 | 中程度(輸入品だが国内品と同程度) |
| アローボーン-β-デンタル(ブレーンベース) | β-TCP系合成骨 多孔質顆粒・ブロック | 高純度β-TCPの球状粒子が集まった独自構造。高い親水性で血液となじみ易く迅速な骨形成を促す。 | 6か月前後で骨新生が進行 約1年で大部分が置換 | 中程度(国産品、コストパフォーマンス良好) |
| PLATONパールボーン(プラトン) | β-TCP系合成骨 多孔質顆粒 | 純度の極めて高いβ-TCP顆粒。均一なマクロポア・ミクロポアを有し骨誘導をサポート。 | 6か月~1年で骨置換が進行 (長期的にほぼ完全置換) | 中程度(0.3g小分包×3本で約1.5万円) |
| サイトランス グラニュール(GC) | 炭酸アパタイト系合成骨 多孔質顆粒 | 人骨に近い組成の炭酸アパタイト顆粒。足場機能を維持しつつゆっくり吸収され骨に置換。 | 1年程度で徐々に置換開始 1~2年かけて大部分が骨置換 | 中程度(保険外、自費治療向け価格帯) |
| ネオボーン(Aimedic MMT) | HA系合成骨 多孔質ブロック・顆粒 | 72~78%の連通気孔を持つHAセラミックス。吸収されにくく長期に形態を保持。 | 非吸収性(多年経過後も残存) 骨との結合により半永久的に存在 | 中程度(国産品だが高度管理医療機器) |
| ボーンタイト(HOYAテクノサージカル) | HA系合成骨 高密度顆粒(大小粒径) | 緻密なHA顆粒で強度が高く、操作中に破砕しない。細粒版(ペリオ用)は歯周ポケットにも充填可能。 | 非吸収性(長期残存) 骨と強固に結合し長期に足場維持 | 中程度(専用キット付属、コストは顆粒量による) |
| セラフォーム(ミズホ) | HA+β-TCP複合 多孔質ブロック・顆粒 | HAの形態維持力とβ-TCPの吸収性を組み合わせた人工骨。バランス型の骨造成材。 | HA部分は残存・β-TCP部分は1年前後で置換 一部残存しつつ徐々に骨転換 | 中程度(汎用的な価格設定) |
| バイオペックス-R(HOYAテクノ) | α-TCP系合成骨 ペースト硬化型 | 手術時にペースト状に練和し硬化させる骨補填材。硬化後はHAに転化し部位に安定的に留まる。 | 非吸収性(HA化後は長期残存) 徐々に骨組織が侵入し一部置換も | やや高価(1キット数万円、使い切り) |
| Bio-Oss(バイオオス)(デンタリード) | 牛由来HA(異種骨) 多孔質顆粒 | ウシの骨を脱灰・焼成した骨補填材。生体親和性が高く骨導入の実績多数。吸収は極めて緩徐。 | 極めて緩やか(5~10年以上骨内に残存) 長期にわたり体積維持 | 高価(輸入品のため1g数万円、要自費) |
| ボーンジェクト(オリンパステルモ) | 牛由来HA+コラーゲン スポンジ状顆粒 | ウシ骨由来HAにアテロコラーゲンを配合。湿潤でゼラチン様になり操作性良好。 | HA成分は長期残存(半永久的) コラーゲンは数週間で吸収 | 高価(特殊加工ゆえBio-Ossより高め) |
*吸収・置換期間は文献や臨床報告に基づく目安であり、患者の状態や欠損部位によって変動する。また価格帯は2025年現在の概算であり、購入ルートによって異なりうる点に留意されたい。
人工骨補填材を比較する5つのポイント
人工骨材のスペックを理解したところで、次に臨床性能と経営効率の両面から重要な比較軸を整理する。それぞれの軸で各材料が持つメリット・デメリットを深掘りし、「なぜその差が生まれるのか」「その差が臨床結果と医院収益にどう影響するのか」を考察する。
骨への置換スピードについて、吸収性か非吸収性か
人工骨材を選ぶ上でまず考えるべきは、その材料がどの程度速く生体内で分解・吸収されて自家骨に置き換わるかという点である。β-TCP系や炭酸アパタイト系の材料は移植後に徐々に溶解し、周囲から新生骨が侵入して最終的に人工骨が消失し自家骨のみが残ることを目指した「吸収性」の材料である。一方、HA(ハイドロキシアパタイト)系や一部の複合材・異種骨材は、生体内でほとんど吸収されず長期間そのまま残存する「非吸収性」の材料に分類される。
この差は臨床結果に大きく影響する。例えば、β-TCP系(オスフェリオンやセラソルブM等)は6か月~1年程度で大部分が患者自身の骨組織に置換される。このため「最終的には自家骨だけにしたい」「若年者で将来的な骨リモデリングを促したい」症例に適する。実際、インプラント埋入まで比較的短期間(4~6か月程度)で自家骨を得たい場合、吸収性材料であるβ-TCPを選ぶ先生が多い。吸収された人工骨の跡に自家骨が充填されれば、インプラント埋入時にドリリングしても人工骨片が邪魔になることがなく、一次固定も自家骨で得やすいという安心感がある。
一方、HA系材料(ネオボーンやボーンタイト等)は移植後何年経ってもその形態がほぼ残存する。骨と結合してインプラント支持機構の一部にはなるものの、永続的に体内に留まるため「異物が残る」ことを気にする向きもある。しかし、残存することこそが利点となるケースも多い。代表例がサイナスリフトや大幅な骨幅径拡大を伴う骨造成である。上顎洞底挙上術では、長期にわたり上顎洞内に骨高さを保持する必要があるが、β-TCPのように早期に吸収されてしまう材料だと、数年後に骨高度が減少するリスクがある。その点、Bio-Ossのような非吸収性の異種骨HAは10年以上経過しても体積を維持するため、上顎洞のような血流が乏しく骨形成が緩慢な部位でも骨高をキープできる。実際、サイナスリフトではBio-Ossがゴールドスタンダードとして世界的に長期症例が報告されている。一方で、残存したHA粒子はインプラント埋入時にドリルで削除しきれず一部が周囲骨と共存する形となる。これは通常問題にならないが、万一将来そのインプラントが抜去となった際にもHA粒子が残存する可能性がある点は知っておきたい(臨床的には残存粒子自体が害を及ぼす報告はなく、安全性は確立されている)。
また、炭酸アパタイト系(サイトランス グラニュール)はHAに類似しつつ徐々に吸収される中間的存在である。炭酸アパタイトは組成が人骨の無機質に非常に近く、生体親和性と骨伝導能が高いことが特徴である。HAほどは硬くなく、生体内でゆっくりと溶解するため、「ある程度形を保ちながら最終的には自家骨に置換したい」というニーズに応える材料だ。実際、サイトランス使用症例では約1年以降に徐々に人工骨が姿を消し、2年程度で大部分が患者骨に置き換わったとの臨床報告がある。吸収性のβ-TCPと非吸収性のHAの“いいとこ取り”を目指した材料と言えるが、吸収スピードが緩やかな分、初期のボリューム維持力も兼ね備えている点でROI的にも魅力がある。例えば、抜歯即時埋入や保存療法で短期的に骨を作りたい場合はβ-TCP、長期に形態を維持したい場合はHA、両方バランス良く狙いたい場合に炭酸アパタイトといった判断軸が見えてくる。
もっとも、吸収性材料を用いる際には適切な症例選択とテクニックが重要である。吸収スピードが速い材料ほど良好な血液供給と隔離環境が求められる。具体的には、β-TCP顆粒を填入した場合、上からメンブレンでしっかり覆い、初期の安定血栓を守ることが欠かせない。もし遮蔽せずに放置すれば、軟組織の侵入でβ-TCPが吸収されるばかりで骨が充填せず、結果的に体積減少が生じ経営的損失(再手術やクレーム対応)につながりかねない。一方非吸収性材料は多少術式がラフでも材料自体が残ってくれる安心感はあるが、それに頼りすぎると骨化不全(HAが残るだけで骨密度が上がらない)を招く恐れもある。材料特性に合わせた術式管理が臨床成功と収益確保の鍵である。
物理的強度と形態維持能力について、骨補填材の支える力
次に注目すべきは人工骨材そのものの物理的な強度や硬さである。これは骨欠損部で材料がどれだけ形態を維持できるか、荷重に耐えられるかという意味で重要だ。一般に、多孔質で吸収性の材料ほど脆く、緻密で非吸収性の材料ほど硬い傾向がある。
例えば、オスフェリオン(β-TCP)は気孔率75%の多孔質ブロックでは圧縮強度3MPa程度しかなく、長管骨のように荷重のかかる部位では骨形成まで免荷が必要とされた経緯がある。その改良版として気孔率60%に下げ強度を22MPa程度まで高めたOsferion60も開発されているが、それでも天然骨に比べれば圧縮強度は低めである。一方、ネオボーン(HAブロック)は圧縮強度が8MPa以上と報告されており、比較的硬質だ。HAは焼結セラミックスゆえ溶解しにくいだけでなく、結晶同士の結合が強固なため物理的にも崩れにくい。
臨床的には、骨補填材の強度=骨移植材自体がスペースメイキングを担う能力と捉えることができる。たとえば、水平的な骨造成で大きく骨幅を増やすケースでは、補填材が軟組織圧に負けず形態を保つ必要がある。β-TCP顆粒は非常に軽石状で脆いため、上からメンブレンやチタンメッシュで支えないと、粘膜圧で押し潰されてスペースが減少する恐れがある。逆にHAブロック(ネオボーン等)はネジ固定すればインプラント並みに硬さを発揮し、骨補強板のように欠損形態をキープできる。筆者もかつて、下顎臼歯部の大幅な骨幅拡大にHAブロックを用い、チタンネジで固着して6か月待機した症例では、ブロック周囲にしっかり自家骨が生着し、インプラント埋入後も良好な初期固定を得られた経験がある。HAブロックは「吸収されない異物が残る」というデメリットと表裏一体だが、その「人工的な支柱としての強度」は経営的には再手術リスク低減や治療期間短縮に寄与すると感じた。患者にとっても、自家骨採取に代わる確実な土台が得られるのは安心材料である。
他方、顆粒状の人工骨の場合は粒同士の結合力が問題となる。アローボーン-β-デンタルのように球状粒子がブドウの房状に集まった構造を持つものは、粒子同士が三次元的に連結しているため、単なるバラバラの粒よりは強度と安定性が高い。充填後にも形が崩れにくく、骨新生中のスペースをしっかり維持してくれる。これにより骨幅を守る→骨ができる→さらに強度が増すという好循環が生まれ、最終的な骨量が増える。結果としてインプラント埋入位置を妥協せずに済み、補綴の自由度が増すことは、医院の治療成績向上と信頼獲得に直結する。
一方、Bio-Ossのような異種骨由来の多孔質顆粒は、粒子自体は比較的硬いが互いに結合しないため、初期には周囲組織によって移動・圧潰される可能性がある。実際にBio-Oss使用時もチタンメッシュやピンで骨片を支えたり、コラージェンメンブレンで覆って動揺を防ぐ工夫が推奨される。もし管理が不十分で材料が動いてしまうと繊維性組織に置き換わり骨化不全を起こす可能性があり、結果的に再エントリーが必要になればコスト増大となる。強度や形態維持力が低い材料ほど、外科的な補強処置や慎重な術後管理が不可欠であり、それらはすべて手間や費用に跳ね返る点を押さえたい。逆に材料そのものが形を保てるのであれば、術者のマイクロマネジメントが多少簡便になり、手技の再現性が上がる=複数の歯科医師で同レベルの成果を出しやすいという利点もある。これは大きな歯科医院でスタッフ間の技術差をカバーする経営戦略にもつながる。
操作性とタイムエフィシェンシーについて、扱いやすさがもたらす時間短縮
3つ目の比較軸は材料の操作性(ハンドリングのしやすさ)である。骨補填材は手術中に扱う機会が多く、その扱いやすさはそのまま手術時間(チェアタイム)の長短に影響する。チェアタイムの短縮は患者の負担軽減のみならず、院内のスループット向上による経営効率アップにも寄与するため、この点も見逃せないポイントだ。
操作性に関わる要素として、まず材料の親水性が挙げられる。例えば、アローボーン-β-デンタルは極めて親水性が高く、人工血液を垂らすと瞬時に浸透する実験動画が公開されている。実際の手術でも、骨補填材が血液や生理食塩水によく湿潤すると、粒子同士や骨壁にピタッと貼り付き、欠損部に定着しやすい。これにより、細かい顆粒がいつまでもサラサラして扱いづらいといったストレスが軽減される。筆者もドライなβ-TCP顆粒を扱った際に、なかなか狙った位置に留まらずイライラした経験がある。親水性の改善はそうした微細な時間ロスを減らし、スムーズな手技進行=オペ時間短縮につながる。特に全身麻酔下や静脈内鎮静下での手術では時間の短縮が患者リスク低減にも直結するため、親水性の高い材料は安全面からも評価できる。
次に、コラーゲンなどの結合剤の有無も操作性に影響する。ボーンジェクトはウシ由来HAにアテロコラーゲンを含浸させた製品で、水で湿らせるとゼリー状の塊になる。その結果、スプーン一杯で掴んだ材料がバラバラこぼれ落ちず、一塊で欠損形態に合わせて盛り付けられる。これは細かな顆粒を一粒ずつ詰める煩雑さを大幅に軽減する。結果として、例えば抜歯窩保存を行う際にも短時間で確実に充填が完了し、術式全体の効率が上がる。コラーゲン添加材は比較的高価だが、オペ時間と術者の集中力コストを節約できるという意味でROIに貢献する側面がある。なお、コラーゲンは数週間で吸収されるため長期の骨量維持には寄与しないが、初期固定と止血に役立つため感染リスク低減にもつながる。これは術後トラブル防止=追加コスト回避という意味で経営的メリットとなる。
また、製品ごとの付属器具にも注目したい。例えばボーンタイトには専用の滅菌済み注入器(シリンジ)が付属しており、顆粒をそのまま骨欠損部に流し込むように充填できる。特に歯周ポケットや細い洞窟状の骨欠損にはスプーンやピンセットで顆粒を運ぶのは困難だが、シリンジならワンプッシュで狙った部位に送り届けられる。これも貴重な時間短縮となり、結果的に1回のオペで対応できる症例数の増加や術者の肉体的・精神的負担の軽減につながる。肉体的・精神的余裕が生まれれば、その分ほかの診療や患者対応にリソースを割けるため、医院全体の生産性向上となる。細かな点だが、「技工と同じで手間を省ける道具は積極的に使う」ことも歯科経営では大切である。器具と言えば、β-TCP顆粒などは乾燥状態では飛散しやすく、トレーに出した途端エアーで飛び散ることもあるため、最初から生食で湿らせておく、臨床では「骨補填材用のボウルとへら」をセットで準備するなどの段取りが望ましい。スタッフに教育しておけば、術者が必要な時にすぐ練和済みのペーストや湿潤顆粒が手渡される状況を作れる。これも広い意味で操作性(オペ全体の流れ)を向上させる工夫であり、スタッフ教育への投資はそのまま時間節約=利益率向上に返ってくる。
患者への安全性と受容性について、材料選択がもたらす信頼
第4の比較軸は安全性と患者受容性である。いずれの人工骨補填材も国内で使用されているものは厚生労働省の承認を得ており、安全性については一定の保証がある。ただ、材料の由来によって患者の感じ方や説明の仕方が変わってくる点には留意が必要だ。
合成骨材料(β-TCPやHA、炭酸アパタイトなど)は100%化学合成で作られており、ウイルスや細菌感染のリスクが極めて低い。B型肝炎やHIVなどの感染を心配する必要がないため、多くの患者は安心感を持つ。日本では宗教的・文化的背景から他人の骨や動物由来材料への抵抗感が強い傾向があり、過去に「人工骨」と言えば合成材料を指すことが多かった。従って、「人工的に作られたお薬のような骨材です」と説明すれば患者の理解も得やすい。また、アレルギーの観点でも、合成骨でアレルギー反応が起きる報告は非常に稀であり、金属アレルギーの心配と同程度かそれ以下と言える。
一方で、異種骨由来材料(Bio-OssやBonejectなど)は牛由来であることを説明する必要がある。現在の技術では疾病伝播のリスクはほぼゼロに抑えられているが、患者によっては「動物由来」と聞いただけで不安に感じる方もいる。狂牛病(BSE)の記憶がある年代の方では、どれだけ安全と説明しても拒否されるケースもあった。筆者のコンサルティング経験では、ある医院がBio-Ossを用いたGBRを積極的に提供しようとした際、一部の患者から材料について問い合わせがあり、「牛の骨を使うぐらいなら自分の骨を削っても良い」と言われた例もあったという。患者の価値観はさまざまであり、材料選択の幅を複数持っておくことは患者ごとの受容性に対応する上でも重要だ。もし異種骨に懸念を示す患者には、合成骨で代替できないか検討し、それに伴う利点欠点(例えば「牛由来のほうが長期安定性は高いが、ご希望に応じて人工の材料でも対応可能です」など)を誠実に伝えることが、結果的に医院への信頼度を高める。
安全性については、どの材料を使っても適切に使用すれば人体に悪影響は極めて少ない。ただし唯一気をつけたいのは、リン酸カルシウム系材料を患者さん自身の血液と混和して使用する際である。近年PRFやCGFといった患者血液由来のフィブリンゲルと骨補填材を混ぜ、「より生体親和的な凝固塊」にして適用する方法が普及しつつある。この時、材料によっては血液と混ぜると急速に固まったり発熱するものがある。たとえばα-TCP系のBiopexは液剤と粉剤を混和すると数分で硬化するが、この際発熱反応が起こる(自己硬化型リン酸カルシウムセメント特有の反応熱)。大量のPRFと混ぜ込むと意図せぬ固まり方をする可能性もあり、メーカーの指示を逸脱した応用は慎重に検討すべきである。安全性そのものは高くても、想定外の使い方をすればトラブルの原因になりうる点には留意したい。これは医院経営の観点ではクレームや医療訴訟リスクにつながるため、製品添付文書の禁忌事項などをスタッフ含め熟知しておくことも重要である。
最後に「患者の心理的満足度」にも触れておこう。同じ治療結果でも、使った材料について十分説明され納得している患者と、何を入れられたか曖昧な患者とでは、満足度に差が生じる。自費診療で骨造成を提供する以上、「良い材料を使ってもらえた」という安心感を患者に持ってもらうことがリピートや紹介にもつながる。例えば、世界シェアの高いBio-Ossや国内大手GCのサイトランスといったネームバリューのある材料は、パンフレットを見せながら説明すると患者も「なるほど、有名な素材なんだな」と理解しやすい。逆にマイナーな材料しか用意していないと説明に時間がかかったり不信感を持たれかねない。筆者はあえて複数メーカーの骨補填材パンフレットを待合室に置く医院も知っている。「当院では最新の骨再生材料を症例に応じて使い分けています」と掲示することで、患者側も治療の質をイメージしやすくなるという狙いだ。材料選択の幅とエビデンスの提示は患者の安心と医院の信頼構築に直結し、安全性と受容性を高めることになる。
経営効率(コスト&タイムパフォーマンス)
最後の比較軸は、ずばり経営効率=コストパフォーマンスである。歯科医院におけるコストには大きく分けて材料費(直接コスト)と、それを扱う時間・労力(間接コスト)がある。人工骨補填材の導入判断では、この両面からROIを吟味する必要がある。
まず材料そのものの価格だが、前述の表にあるように1ケース(1g前後)あたり1~2万円程度が相場である。β-TCPだから極端に安い、HAだから高額という差は実はそれほど大きくない。国内メーカー同士では価格は横並びで、輸入品はやや高めといった程度である。例えば、プラトン社のパールボーンは0.9g(0.3g×3本)で約15,000円、Geistlich社のBio-Ossは0.5gで1万円強といった具合だ。もちろん仕入れルートやボリュームディスカウントによって変動はあるが、「安いからこれを使う」という単純な比較は成立しにくい。むしろ重要なのは、「その材料を使うことでどれだけの付加価値を生むか」という視点である。
例えば、ある先生が「β-TCP顆粒は安いが、Bio-Ossは高いから使わない」と判断したとしよう。しかしBio-Ossを使うことでサイナスリフトの長期成功率が上がり再手術のリスクが減るなら、トータルでは医院の利益に貢献するかもしれない。また逆に、高価な異種骨材料を使ったがゆえに患者が治療を選択せず逸失利益が生じるなら、それはROIの低下につながる。価格だけでなく、その材料を使った結果得られる収益(または将来の費用削減)まで含めて考えることが、経営的な意思決定には求められる。
人工骨材のROIを具体的に考える上で、1症例あたり材料費だけでなく「どのくらいの骨ができ、それで何が可能になるか」がポイントだ。例えば、サイトランスグラニュール(炭酸アパタイト)は保険収載されておらず材料費は全額自費だが、これを使うことで難症例のインプラント埋入が可能になり、数十万円の収益につながるなら十分ペイする計算になる。逆に、安価なβ-TCPで骨造成したものの不足骨量が解消せずインプラントを断念した場合、初期費用は低くても最終的な収入も得られない。それではROIはゼロどころかマイナスである。「適切な材料への投資が、新たな自費治療を成立させる」という視点を持てば、材料費は単なるコストでなく未来への投資に変わる。
また、材料の無駄を減らす工夫も経営効率向上に効いてくる。例えばパールボーンのように0.3gずつ小分けバイアルになっている製品は、使う分だけ開封し残りは次回に回せる(滅菌状態で保存可能)ためロスが少ない。一方、大容量ボトル入りの材料は一度開けると使い切らねばならず、小さな症例では半分以上廃棄せざるを得ないこともある。使い回しは感染リスク上厳禁なため、最初から症例規模に見合った容量・包装の製品を選ぶのが賢明である。この点、メーカー各社もSサイズ・Lサイズなど容量ラインナップを用意しているので、仕入れ時に検討すると良い。1ケース数千円の節約でも、年間症例数が積もれば大きな差となる。特に開業間もない医院では、在庫管理とコスト管理の意識をスタッフと共有し、必要分だけ発注するサイクルを確立することが健全な経営につながる。
さらに見逃せないのは時間コストである。第3の比較軸で述べたように、操作性の悪さは手術時間を延ばし、ひいては人件費や機会損失につながる。例えば、ある材料ではGBRに1時間かかっていたところが、扱いやすい材料に変えたら45分で済むようになったとする。15分の短縮は、年間を通じてみれば他の患者を追加で診療できる時間を生み出す。もしその医院が1分あたり○○円の収益を生み出しているなら、15分短縮×症例数×○○円の増収効果が期待できる計算だ。また、術者の疲労軽減により他の診療の質を維持できれば、長期的には医院全体の収益安定化にも寄与する。「時は金なり」は外科処置にも当てはまる格言であり、材料選択も時間の視点で評価することが肝要である。
最後に、材料メーカーの提供するサポートや保証も経営的視点で考えてみよう。たとえばBio-OssのGeistlich社やGCなど大手は、研究会やセミナーを通じて製品の効果的な使い方を発信している。新人の先生でも勉強会でノウハウを身につければ成功率が上がり、結果的にROIが向上する。ある意味、購入した材料の向こう側にある「知識資産」も活用することで投資対効果を最大化できる。これはメーカーをうまくパートナーとして利用する発想である。一方、マイナーなメーカーだと症例資料が乏しく自力で試行錯誤する必要があり、そこで失敗すると患者にも医院にも損失となる。総合的に見れば、多少高価でも臨床エビデンス豊富でサポート体制が充実した材料のほうが、安物買いの銭失いを防げる可能性が高い。経営者としては、目先の出費と将来の利益を天秤にかけ、どこにリソースを割くべきか冷静に判断することが求められる。
以上、5つの比較軸から人工骨補填材の特徴を考察した。次章からは、実際の主要製品ごとに臨床的強み・弱みと、それぞれ「どんな歯科医師・医院にマッチするか」をレビューしていく。
代表的な人工骨補填材【製品別】レビュー
オスフェリオンDENTAL/高気孔率β-TCPによる良質な骨置換
オスフェリオンDENTALは、日本初のβ-TCP系人工骨補填材として1990年代から使用されてきたパイオニア的存在である。主成分は高純度のβ-リン酸三カルシウムで、特徴は気孔率75%にも及ぶ多孔質構造にある。この無数の連通気孔のおかげで、移植後に周囲組織から血管や骨芽細胞が内部まで侵入しやすく、良好な骨新生が期待できる。実際、筆者が見聞きした整形外科領域での報告では、2000例以上の骨欠損修復に用いて骨形成不全はごくわずかだったという。歯科領域向けのオスフェリオンDENTALでは、ブロックタイプと粒状タイプが用意され、欠損形態に応じて使い分けが可能だ。
臨床的強みは何と言っても最終的にすべて自家骨に置換されることである。適切に使えば1年程度でほぼβ-TCPは溶解吸収され、レントゲン上でも新生骨に置き換わる。これは患者に「自分の骨が再生した」と実感してもらえる大きなメリットであり、治療満足度向上にもつながる。インプラント埋入時に人工骨残留を気にせずドリリングできるのも外科医にとって安心材料だ。また国産品ゆえ安定供給と比較的リーズナブルな価格も魅力で、中小規模のクリニックでも導入しやすい。さらに歯科用としては森田(モリタ)や京セラなど大手が販売に関与しているため、情報提供やサポートも得やすく、初めて骨造成に挑戦する先生にもハードルが低い。
一方、弱みとしては材料自体の脆さが挙げられる。高気孔率ゆえブロックは脆く、術中のカットやフィット調整で割れやすい。顆粒も非常に軽くサラサラしているため、扱いに慣れないと飛散したり所定の位置に留めにくい。しっかりメンブレン等で覆わないと、初期に動揺して繊維化するリスクもある。また完全吸収ゆえのボリュームロスにも注意が必要だ。骨造成後の輪郭を100とすると、その後β-TCPが消える過程で一時的に80程度まで減少し、そこから最終的に100の自家骨に戻る…という理想通りにいけば良いが、実際には吸収と骨形成のバランスが症例によって異なる。時に吸収が骨形成を上回ればボリュームダウンが起こりうる。従って、GBRでは最初からやや多めに盛っておく、吸収されても良いよう骨膜をテンションフリーにしておく等の配慮が必要だ。このあたりを怠ると「思ったより骨幅が増えていない」結果になりかねず、ROIの観点でも損をする。
どんな歯科医師に向いているか: オスフェリオンDENTALは、「最終的に自分の骨だけにしたい」という価値観を持つ先生に最適である。若手からベテランまで幅広く使われており、オーソドックスな人工骨として症例経験も豊富だ。とくに自家骨を用いた積極的な骨造成を経験してきた外科系の先生が、自家骨採取の代替として使うケースが多い。自家骨に匹敵する骨置換を狙える一方、手術侵襲は格段に少ないため、患者受けも良い。経営面では材料費以上のリターンを生むポテンシャルがあり、インプラントや骨再生を柱に据えた自費診療型医院において重宝するだろう。一方で、術式管理を厳密に行わないと成果が振るわない素材でもあるため、「きちんと手間をかけて良い結果を出したい」タイプの職人気質な先生にマッチする。逆に言えば、大雑把な手技や時短重視のやり方では力を発揮しにくいので、そうした場合は後述の別素材を検討した方が良いかもしれない。
セラソルブM/顆粒径ラインナップが豊富な純β-TCP人工骨
セラソルブMはドイツ発祥のβ-TCP人工骨「Cerasorb」の改良版で、日本ではジンヴィ・ジャパン(旧社名:Zimmer Biomet Dental系列)などから提供されている。高純度β-TCPの顆粒で、特徴は粒径や形状のバリエーションが豊富な点だ。500–1000μmなど標準的サイズのほか、250–500μmの細粒も用意され、骨欠損のタイプに合わせて選択できる。名前の「M」はマクロとミクロ両方の孔構造を持つことを意味し、粒子内部にも表面にも大小の孔がある構造となっている。これにより骨細胞の足場としての効果と、材料の吸収・溶解しやすさを両立している。
臨床的な利点は、初期骨形成の早さである。メーカー資料によれば、セラソルブMは移植後最短4か月ほどで新生骨への置換が始まる。実感としても、抜歯即時埋入など短期間で次ステップに移りたいケースで良好な骨質を得やすい印象がある。また純合成ゆえ安全性が高く、感染リスクのある環境(例えば残根抜歯後の欠損)でも比較的安心して使える。実際、軽度の局所感染が懸念される抜歯窩にセラソルブを入れて様子を見た症例で、周囲の治癒とともに材料も問題なく骨化した経験がある。他材料では感染下では溶解し尽くしてしまう場合もあり、β-TCPの中でも溶解スピードが緩やかでpH変化が少ない点が奏功したのかもしれない。さらに、セラソルブMは世界的にも豊富な文献が存在し、欧州での長期予後データも多い。エビデンス重視の歯科医師には安心感を与える材料と言えよう。
経営面では、複数サイズの取り揃えがメリットとなる。医院でS/M/L全種ストックする必要はないが、自院でよく行う処置に適したサイズだけ採用すれば無駄がない。例えば、歯周ポケットやインプラント周囲の細かな骨欠損を多く扱う医院は細粒を、抜歯即時インプラントやGBR主体の医院は中~大粒径をといった選択が可能だ。またセラソルブMは国内で初めて歯科領域で承認されたβ-TCPとも言われ、厚労省の承認取得が早かった背景には信頼性がある。これは患者への説明資料などでも「厚生労働省承認の人工骨」と強調しやすく、マーケティング的な優位性ともなる。
弱点としては、β-TCP共通だが単体では柔らかいため、やはりメンブレンによるカバーは必須だ。また吸収が進むと足場がなくなるので、大きな欠損では不足部分にだけ入れてもうまくいかない場合がある。GBRではしっかり骨壁と骨補填材で空隙を埋め切ることが条件となり、適応症の見極めが重要だ。また輸入品ゆえロットによって粒形状や色調が微妙に異なることがあり、繊細な先生は気になるかもしれない(性能に問題はない)。価格は国内品と大差ないが、代理店経由だとやや高め設定になることもある。そこは仕入れ先と交渉の余地があるだろう。
どんな歯科医師に向いているか: セラソルブMは、世界標準の裏付けと使い勝手の両方を求める先生にフィットする。インプラント専門医やペリオ領域の先生で、エビデンスベースで材料を選びたい人には多く採用されている印象だ。自費治療説明の際にも「これはヨーロッパでも主流の人工骨です」と胸を張って言えるのは営業上も強みだろう。一方、日本市場向けの派手なプロモーションはあまりなく、自分で情報収集して適切に使いこなす積極性が求められる。勉強熱心で製品パンフや論文に目を通す先生にとっては心強いパートナーとなるが、逆に言えば受け身で使うと性能を引き出せない恐れもある。そうした意味で、主張の強すぎない秀才型の材料と言えるかもしれない。医院の差別化戦略として「欧米と同水準の材料使用」を打ち出したい場合にも好適であり、質にこだわる経営を志向する向きに薦めたい。
アローボーン-β-デンタル/高親水性を追求した国産β-TCP
アローボーン-β-デンタルは、日本のベンチャー企業ブレーンベースが開発したβ-TCP人工骨で、その独自構造と親水性が特徴的だ。β-TCP100%の成分だが、粒子形状が特殊で「ぶどうの房」状に球形粒子が集合した多孔質顆粒となっている。球状粒子同士の間にマクロな空隙ができ、粒子内部にもミクロの孔が多数存在するという、三次元連通孔だらけの構造である。この構造のおかげで液体とのなじみが非常に良く、高い親水性を発揮する。実験映像では人工血液を垂らすと瞬時に粒子内部まで吸い込まれていく様子が確認でき、臨床的にも骨欠損に充填した際に速やかに周囲の血液を引き込むため血饅形成(ブラッドクラット)が促進される。
臨床的メリットは、まず取扱いのストレスが少ない点だ。前述の通り血液との馴染みが良く、骨に配置した後の定着性が高いため、細かなGBRでも顆粒が逃げにくい。さらにブロックタイプや円柱タイプ、特殊な円錐台型などバリエーションが豊富で、様々な欠損形態に対応できる柔軟性がある。ブロックもHAに比べて加工しやすいので、削ってフィットさせるのも容易だ。β-TCPの一種であるため長期的には吸収されていくが、上述の構造のおかげで吸収と骨形成のバランスが取りやすいとされる。実際、メーカー実験では欧米メーカーの同種製品よりも高い溶解性(つまり骨への置換速度)を示したとのデータもある。そのため、他のβ-TCPでは骨化が遅いと感じた先生がArrowBoneに切り替えたら早く骨になったという声もある。特に、骨壁が少なく顆粒が浮遊しがちな大きな欠損では、球状粒子の凝集構造がしっかり足場となり骨誘導がスムーズだと筆者も感じたことがある。
経営面でユニークなのは、ブレーンベース社がインプラント体なども扱っており、包括的な保証制度を敷いている点である。ArrowBone自体の長期保証という形ではないが、同社のインプラントと組み合わせて使用した症例ではトラブル時のサポートを受けやすい環境がある。中小企業ならではのきめ細かい営業もあり、新規導入時にしっかり説明・トレーニングしてくれる。材料の性能だけでなく人的サポートの手厚さは、中堅医院にとってはありがたいメリットだ。また国産で流通在庫も安定しており、急な注文にも素早く対応してもらえるため、必要な時にすぐ手に入る安心感がある。価格設定も比較的良心的で、質の割に高額すぎない点も経営者には嬉しいだろう。
デメリットとしては、開発企業がまだ大手とは言えず製品知名度が限定的なことだ。患者説明の際に「ArrowBone」という名前だけではピンと来ず、説明が必要になる。もっとも材料自体に問題はなく、逆に「最新の国産テクノロジーを採用しています」と紹介するチャンスと捉えることもできる。また、高親水性ゆえに一度湿潤すると再乾燥しにくいので、長時間露出させると扱いづらくなる点は注意したい。使う直前に開封し、一気に充填作業まで進めるのがコツだ。さらに、独自構造ゆえに臨床データの蓄積が国産中心であり、欧米論文の数では老舗メーカーに及ばない。エビデンス重視派の中には慎重になる向きもあるかもしれない。
どんな歯科医師に向いているか: ArrowBone-β-デンタルは、「扱いやすさ最優先」で材料を選びたい先生に推奨できる。特に、GBRなど外科操作に不慣れな先生でも、材料の親水性に助けられて成功率を上げやすい。開業医でスタッフ少人数でも効率よく手術を回したい場合、この材料の時短効果は大きな武器になるだろう。逆に、臨床データの蓄積に疑問を感じる超保守派の先生は導入を見送るかもしれないが、国内での使用実績は着実に増えており、メーカー主催の講習会で症例報告に触れてみると不安は払拭されるだろう。新しい技術を前向きに採り入れ、自院の差別化に繋げたい開業医には特にフィットする。コストパフォーマンスも良いため、自費診療の利益率を高めたい経営者歯科医にとっても要注目の素材である。
PLATONパールボーン/高純度β-TCPの歯科用骨補填材
PLATONパールボーンは、日本のプラトンジャパン社が提供するβ-TCP人工骨で、その名の通り真珠のような白色顆粒が特徴的だ。主成分はβ-TCPであるが、特筆すべきは原料の純度が非常に高い点と粒子形状の均一性である。工業的に高純度化されたリン酸三カルシウムを用い、微粉など不純物を極力除去して製造されている。その結果、生体内での異物反応が極めて少なく、安全性が高いとされる。また、マクロポア(大孔)とミクロポア(小孔)がバランス良く存在する微多孔質構造を備えており、骨伝導性と適度な吸収性を両立している。
臨床的には、操作時の扱いやすさと骨化の予知性が強みだ。パールボーンの顆粒は粒径がS(0.15~0.5mm)とM(0.5~1.0mm)の2種類あり、形もなだらかな不定形粒子で偏りが少ない。これは充填時に隙間なく詰めやすいことを意味し、欠損部に充填後、軽く圧接すると粒同士がしっかり噛み合って留まる感じがある。臨床では、例えば抜歯窩にMサイズ粒子を充填した際、わずかに圧をかけただけでピタッと安定するのが実感できる。これは骨壁との間に生じる隙間が小さくなり、初期血餅のネットワークが張り巡らされやすいことにつながる。結果として比較的短期間で安定した骨組織への転換が期待できる。実際、一部の歯科医師からは「パールボーンを使ったケースでは、従来の材料よりも早くインプラント埋入OKの骨質が得られた」という報告もある。吸収スピードは穏やかで、6か月時点でも顆粒の輪郭が画像上うっすら確認できるが、12~18か月でほぼ判別不能になる程度に骨に置換されることが多い。
経営面では、パッケージングの工夫が目を引く。既に触れたようにパールボーンは0.3g入りバイアルが3本で1セット(計0.9g)となっている。この小分け包装は、症例規模に応じて使う本数を調整でき、残りは未開封で保管できるため無駄が出にくい。例えば、小さめのソケットプリザベーションなら0.3g1本で足りるし、大きなGBRなら3本すべてを一度に使う、といった柔軟な運用が可能だ。これは細かな点だが材料費の節約につながり、経営にはありがたい。またプラトンジャパン社は国内の歯科技工大手であり、歯科業界ネットワークを活かした迅速な供給体制がある。在庫切れで急に入手できないというリスクも低く、診療スケジュールを立てやすいのも間接的な経営メリットだ。
デメリットとしては、純β-TCPゆえに単体でのスペースメンテナンス力は限定的な点がある。やはり大きな欠損ではメンブレンや支柱との併用が必要になる。また、海外有名ブランドに比べると文献数は少なく、「エビデンスを重視する層には今一つ訴求力に欠ける」という声もある。もっとも実臨床では国内の多くの先生が使用し、それぞれ経験を積んでいるため、知りたい情報は勉強会やSNSなどで収集できる。ある意味「国産スタンダード」なポジションになりつつあり、派手さはないが堅実な結果が期待できる材料と言える。
どんな歯科医師に向いているか: PLATONパールボーンは、国産品の安心感と無難さを求める先生にマッチする。プラトンのインプラントを使っている医院では併用されることも多く、同社の営業マンから材料一式の紹介を受けて導入した例も多いだろう。そうした意味で開業したばかりで何を選べば良いか分からない先生にとって、手堅い選択肢となる。価格も良心的で、症例あたりコストを抑えつつも一定のパフォーマンスが欲しいという保険診療主体だが自費の骨造成も少し取り入れていきたい医院にも適する。一方で、最先端の材料ではないため、他院との差別化を強く打ち出したい場合には物足りないかもしれない。しかしその分、クセがなく汎用性が高いため、医院の成長に合わせて応用範囲を広げていける。例えるなら「万人向けの優等生」であり、長く付き合えるパートナーとして導入しておいて損はない製品である。
サイトランス グラニュール/人骨に近い組成の炭酸アパタイト骨材
サイトランス グラニュールは、日本の大手歯科メーカーGCが開発した炭酸アパタイト製の人工骨補填材である。炭酸アパタイト(carbonate apatite, CO3-Ap)は、天然の骨の主要構成成分であるハイドロキシアパタイトに炭酸イオンが含まれたもので、化学組成が人の骨に非常に近いことが最大の特徴だ。サイトランスはその炭酸アパタイトを顆粒状に成型した世界初の製品であり、2018年前後に登場して以来、インプラント骨造成の新たな選択肢として注目を集めている。
臨床的強みは、なんといっても骨置換の確実性とボリューム維持のバランスにある。メーカーの発表では、サイトランスはβ-TCPよりも骨伝導能が高く、HAよりも溶解吸収性が高いとされ、その言葉通りゆっくりと吸収されながら確実に自家骨に置換する挙動を示す。実際、初期の動物実験や臨床報告では、移植後半年~1年で充填された欠損部のほとんどが新生骨で満たされ、炭酸アパタイト顆粒は姿を消していたとされる。一方で骨造成初期の体積減少は最小限に抑えられており、まるでHAを入れた時のようにしっかりスペースが保たれていたという。つまり、欠損形態を維持しつつ、時間とともに異物が消えて自家骨化する理想的なプロセスを実現しているのである。筆者も実際にサイナスリフトにサイトランスを使った症例で、術後1年のCTにてほぼ均質な骨様構造が写り、しかも上顎洞底の高さは保たれていたのを確認し驚いた経験がある。他の材料では、HA単独だと骨化不良の不安が残り、β-TCP単独だと骨高維持が心配…という板挟みがあったが、炭酸アパタイトはそのジレンマを解消してくれる存在だ。
安全性についても高く評価できる。合成品なので感染リスクはなく、pHも生理的範囲内で溶解するため周囲組織への悪影響が少ない。またHA系に比べると粒子が柔らかく脆い面があり、長期的には確実に溶けてなくなる点も安心材料だ。HA粒子が何十年も残ることに抵抗を感じる患者にも、「この材料は最終的にご自身の骨に置き換わります」と説明できる。実際、GC社は患者向けリーフレットで「より人の骨に近い人工骨」というフレーズを用いており、材料への心理的ハードルを下げる工夫をしている。
経営面では、GCという信頼のブランドがバックにあることが大きい。研修会や販促資料も充実しており、症例集や臨床ガイドラインが日本語で入手できるため、導入後の運用がスムーズだ。価格はやや高め(全量自費)だが、GCの営業網を通じて安定供給が受けられる点や、開業医への情報提供力を考えれば妥当なレンジだろう。また、他社と差別化できる先進素材を導入しているという事実自体がマーケティングに活用できる。例えば医院のホームページに「当院では最新の人工骨材料『サイトランスグラニュール』を用いたインプラント骨造成を行っています」と記載すれば、材料に関心の高い患者や他院で骨造成を断られた患者の目を引くことができる。これは結果的に患者増に寄与し、投資回収を早める効果も期待できるだろう。
欠点としては、発売から数年しか経っていないため長期経過症例がまだ少ないことが挙げられる。ただし学会報告などでは3~5年程度の良好な結果が出始めており、時間とともにエビデンスは蓄積されている。また、材料が比較的軟らかい分、術中に強く圧迫すると潰れてしまう可能性がある。HA顆粒ならラスト1粒までギュウギュウ押し込むこともあるが、サイトランスでは程よく填入し空隙に血液を行き渡らせるのがコツと言える。過填塞すると逆に骨化が遅れるかもしれない点は注意が必要だ。つまり「良いとこ取り」の材料とはいえ、使い手の理解とさじ加減が要るということでもある。
どんな歯科医師に向いているか: サイトランス グラニュールは、「最新のエvidenceに基づき、常に最適解を患者に提供したい」と考える探究心旺盛な先生にぴったりだ。インプラント難症例にも積極的に取り組む専門医や、大学病院発の新素材に関心を寄せるリーダー層から支持を集めている。一方で比較的新しい製品のため、導入には院長自身が学ぶ姿勢が欠かせない。材料のコンセプトを理解せず従来と同じ感覚で使うと持ち味を発揮しきれない可能性がある。しかし、それを乗り越えれば患者にも自信を持って薦められる武器となり、「先進医療を提供する医院」というブランド力も高まる。費用対効果を冷静に見極めつつも、新しい価値を積極的に取り入れる革新的な経営者歯科医にぜひ使いこなしてほしい材料である。
ネオボーン/3次元気孔を持つ非吸収性HAブロック
ネオボーンは、Aimedic MMT社(旧エム・エム・ティー)が開発したハイドロキシアパタイト(HA)製の人工骨補填材である。特徴はHAとして初めて「骨再生の補助効果」を公式に認められた点と、三次元連通気孔構造による高い骨伝導能にある。HA系材料は従来「骨欠損の充填」に用いる位置付けだったが、ネオボーンはその多孔質構造ゆえに骨の再生そのものを助けることが認められ、国内では上下顎骨の骨折時の空隙充填などで保険適用となっている(限定条件下ではあるが、これは画期的である)。
ネオボーンは気孔率72~78%とHA材料としてはかなり多孔質で、しかもマクロ孔どうしが三次元的に連続している。圧縮強度は8MPa以上確保されており(人の海綿骨と同程度かやや上)、骨の支柱としての役割を果たしつつ内部まで血管や組織が侵入できるデザインだ。形状はブロックや粒状があるが、特にブロックは10×10×10mm程度のキューブから、細長い柱状、板状のものまでサイズバリエーションが豊富だ。
臨床的強みは、抜群の形態保持能力と長期安定性である。HAゆえ生体内で溶け出すことがほとんどなく、術後何年経っても当初のボリュームを維持する。これは例えば大きな嚢胞摘出後の空隙充填や下顎の大幅な骨延長など、長期に渡って支えが必要なケースで威力を発揮する。実際、顎骨嚢胞摘出後にネオボーンブロックを詰め、そのまま経過観察のみで良好に骨に置換された症例報告もある。また固定剤としての使い方もユニークで、インプラント埋入時に骨壁の一部が大きく欠損している場合、ネオボーンを骨片兼スペーサーとしてインプラント周囲に配置しネジで固定しておくと、周囲から骨が形成され欠損が埋まるという手法も行われている。これはネオボーンが削って形を整えやすいことと、固定に耐えるだけの強度があるからこそ可能な応用である。
ROIの観点では、ネオボーンを使うことで自家骨採取手術を回避できるという点が大きい。従来なら腸骨や下顎枝から骨を採って埋めていたような広範囲骨欠損に対し、ネオボーンブロックを充填するだけで治療が完結すれば、患者の入院や全身麻酔コストが不要になる。開業医レベルでも対応できる症例が増え、紹介せず自院で治療を完結できるメリットは計り知れない。高額な機器投資も必要なく、材料費(自費)さえ負担してもらえれば済むため、患者にも医院にもWin-Winとなる。また、保険適用されるケース(限られるが骨折等)では材料費が保険償還され医院負担が軽減されるため、採算性が高い治療提供が可能となる。
弱点としては、非吸収性ゆえに人工物が残ることとHA特有の硬さである。前者は患者説明で「一部材料が残留します」と伝える必要があるし、後者は術中術後に材料が硬すぎて骨と馴染むまで時間がかかる可能性を意味する。ネオボーンは多孔質と言えどHAなので、新生骨がブロック内部に入り込んでもブロック自体はその場に留まる。長期的にはそのブロックが骨組織と一体化し「生体の一部」となるので問題はないが、完全な自家骨にはならない点は留意すべきだ。また、インプラント埋入のドリルが当たるとかなり硬く、刃先が滑ったり偏倚するリスクもある。埋入ポジションにネオボーンが残りすぎないよう事前計画が必要だ。価格面では、汎用HAとしては適正範囲だが、大きなブロックになると1個数万円と決して安くはない。ただし自家骨採取に伴う諸費用(オペ室利用や材料費、人件費など)を考えれば十分ペイできる範囲とも言える。
どんな歯科医師に向いているか: ネオボーンは、外科処置の経験豊富で難症例にも挑む先生に適している。特に、顎骨の大幅再建や全顎的な骨造成に関わる口腔外科・インプラント専門医が好んで使用する傾向がある。大学病院や大型クリニックで導入されてきた経緯もあり、そうした先進的治療を取り入れたい開業医にとっても魅力だろう。自院で大きな骨欠損の患者を抱えており、これまでなら高次医療機関に送っていたようなケースを自分の手で治したいと考える先生には、大きな武器となる。一方で、日常的な少〜中程度の骨造成にはややオーバースペックな面もあるので、症例を選んで使い分ける計画性が必要だ。HA特有の性質を理解し上手に応用できる、戦略的思考を持つ術者こそネオボーンの真価を引き出せるだろう。
ボーンタイト/粒径バリエーション豊富なHA顆粒
ボーンタイトは、HOYAテクノサージカル(旧ペンタックス)社が製造販売するハイドロキシアパタイト(HA)製の顆粒状人工骨である。その特徴は、用途に応じた粒径のバリエーションと、専用ディスペンサー(注入器)による操作性の高さにある。ボーンタイトには標準的な「スタンダード顆粒」(粒径0.5~1.0mm)と、歯周ポケットなど細かな欠損用の「ペリオ顆粒」(粒径0.3~0.5mm)がラインナップされている。これらは同じHA製セラミックだが、ペリオ顆粒は不定形かつ微細で、深い歯周ポケットや根分岐部のような狭小部にも充填しやすいよう調整されている。
臨床的な利点は、HAならではの骨結合力と長期安定性である。ボーンタイトの粒子は高密度の焼結体であり、手術中の圧入操作でも砕けにくい頑丈さがある。実際、スタンダード顆粒をスパチュラで押し固めながらGBRしても、粒子形状が崩れたり粉末化することはほとんどない。これにより充填時に形態をしっかり保持でき、骨欠損を隅々まで埋めることが可能だ。またHA粒子は埋入後に周囲の骨と直接化学結合することが知られており、ボーンタイトも例外ではない。移植したHAが骨表面に固着すれば、その粒子自体が擬似的な骨梁のような役割を果たし、インプラントの支持構造に貢献する。特に歯周再生では、深いポケット底部にHA粒子が残存することでポケットの再形成を防ぐ効果が期待できるとの報告もある。非吸収性ゆえ長期にわたり補填された空間を維持し続ける点は、歯周領域との相性が良い。
操作性についても、専用注入器の存在が大きい。ボーンタイトは製品に滅菌済みシリンジが付属しており、これに粒子を充填して患部に直接注入できる。細い先端ノズルのおかげで、フラップ手術時の狭い術野でもピンポイントに骨補填材を届けられる。筆者も試用した際、片手でプランジャーを押すだけで材料が出てくるのは非常に扱いやすく感じた。これにより、他の器具を持ち替える手間が減り、片手で吸引・片手で注入といった効率的なオペレーションが可能になる。チェアサイドでの衛生士アシストが充実しない場面でも、一人で完結しやすい点は臨床効率に寄与する。
経営的には、粒径バリエーションと注入器のおかげで幅広い症例に1製品で対応できる汎用性がメリットだ。ボーンタイトを常備しておけば、歯周組織再生からインプラントGBR、小さな抜歯窩充填まで網羅でき、在庫管理がシンプルになる。また、長期残存型の材料であるため再手術や追加処置の可能性が低く、一度の処置で完結する確率が高まるのも経営上ありがたい。患者から見ても「一回入れたらそのままずっと効いている」材料は安心感があり、リコール時にも状態が安定していれば定期管理収入につながるという好循環も期待できる。
欠点としては、HA全般に言える骨置換の限界がある。HA粒子自体は骨と結合しても自ら骨に変わるわけではないため、間を埋める新生骨がどこまで形成されるかは周囲環境に依存する。ポケットや小欠損では問題ないが、大きな欠損全体をHAで埋めてしまうと、内部に骨細胞が入り込むスペースが限定的で、骨密度が低いまま終わる恐れもある。ボーンタイト自体は多孔質構造ではない(表面に粗造はつけてあるが内部は緻密体)ため、内部への血管侵入は起こらない。そのため、あくまで骨表面の補強材という位置付けで、骨量増大量という点では吸収性材料に分があるだろう。また、HA粒子はレントゲンでずっと映り込むため、経過観察時に残存粒子と新生骨の区別がつきにくい。術者にはわかっても、患者に「これが新しい骨です」と見せる際、白い粒々が散見される画像は少々インパクトに欠けるかもしれない(患者説明ではむしろ残存粒子が骨の代わりに機能している旨を強調すべきである)。
どんな歯科医師に向いているか: ボーンタイトは、特に歯周再生やエンド周囲病変処置など細かい骨欠損を日常的に扱う先生にお薦めだ。臨床歯周学会などでもHA顆粒を用いたエビデンスは昔から豊富で、その流れを組む材料として信頼性がある。歯周ポケットへの骨補填は保険外治療になることが多いが、ボーンタイトなら患者にも「硬い人工骨で歯槽骨を補強し、歯の揺れを減らします」と説明しやすく、費用対効果も理解してもらいやすいだろう。また、複雑な器具操作なしでGBRを完了させたい一般開業医にも適する。インプラント周囲の小欠損なら注入器で素早く補填でき、手技のシンプルさゆえミスも起こりにくい。逆に、広範囲GBRで大量の骨造成を要するケースには不向きなので、症例を取捨選択できる計画性のある医院での運用が望ましい。まとめると、守備範囲が広くオールマイティに使える材料を一本置いておきたいと考える院長にフィットし、特にペリオとインプラントをバランス良く手がける医院にとって心強い味方となる製品である。
セラフォーム/HAとβ-TCPのハイブリッド人工骨
セラフォーム(または旧称セラタイト)は、ミズホ社が販売するハイドロキシアパタイト(HA)とβ-TCPの複合人工骨である。HAとβ-TCPが約6:4の比率で配合されたセラミックで、形態としてはブロックやプレート状が中心だが、一部粒状も存在する。これは非吸収性のHAと吸収性のβ-TCPを組み合わせることで、両者の利点をバランス良く取り入れる狙いで作られた材料だ。
臨床的な位置付けは、比較的しっかりした硬さを持ちつつ、一部吸収されて骨に置換される中庸的な骨材と言える。例えばセラフォームブロックを骨欠損に填入すると、HA成分が初期のスペース保持を担い、β-TCP成分が徐々に溶解してその跡に骨組織が入り込むイメージである。結果、HAフレームの中を自家骨が埋め尽くすような状態になることが期待される。非吸収性HAだけでは完全な骨にはなりにくいが、β-TCPだけでは形態維持が不安…というケースで一案となる材料だ。
臨床応用例としては、顎骨嚢胞や骨腫瘍摘出後の大きな骨欠損で利用された報告が多い。硬めのブロックを骨格材として詰め込んでおき、その周囲から骨が再生して内部に広がっていくイメージである。時間経過とともにβ-TCP成分が減少し、HA部分は残るが細孔に新生骨が侵入することで、最終的に骨と一体化した複合構造になる。力学的にもHA部分があるおかげで強度が保たれ、骨移植材としての支えが効く。実際、整形外科領域では重量を支える必要のある部位にこの種の複合材を用いたケースもあり、HA単独より破砕しにくく、β-TCP単独より長期間ボリュームが維持されたとされる。
経営面では、あまり日常的に大量出る商品ではないため、ピンポイント用途としての扱いになる。価格もそれなりに高価であるため、使うべき症例を慎重に見極める必要があるだろう。ただ、うまく適合すれば再手術を避けられるような難症例に光を当てられるため、その意味でのROIは高い。例えば、大きな下顎嚢胞で下顎骨が弱くなっている患者にセラフォームを充填し骨補強できれば、骨折リスクを下げられ、患者を長期経過で観察しやすくなる。保険診療内で済む部分もあるため、患者負担少なく高度な処置を提供できるという点で医院の評価アップにもつながる。
デメリットは、複合材ゆえの吸収挙動の読みづらさである。HA部分がどこまで残り、β-TCP部分がどこまで骨に置き換わるかは症例によって差が出やすい。術者がコントロールしにくい材料とも言え、場合によっては「HAが思った以上に邪魔になった」あるいは「β-TCPがなくなりすぎてスカスカになった」という結果もありえる。また、ブロック形状は自由度が低く、細かなフィットが必要なGBRには向かない。歯科領域では他に優れた材料選択肢が増えたため、セラフォームの登場当初ほどの出番はなくなっているのが現状だ。
どんな歯科医師に向いているか: セラフォームは、特定のケースで複合材の利点を活かせると判断できる先生にのみ選ばれるニッチな製品だ。例えば口腔外科的視点を持ち、大きな骨欠損を相手にするインプラント・再建専門の先生が、HAだけでは不安、かといってβ-TCPだけでも不安…という状況で検討するようなイメージだろう。正直、近年は炭酸アパタイト(サイトランス)のような優れた代替も出てきており、セラフォーム特有の強みはやや薄れている。しかし、保険適用可能な症例が一部に存在する点は無視できないメリットで、コストを抑えつつ治療したい場合には重宝する。ある意味、「適切な場面で使えば非常に有用だが、万能ではない」玄人向けの材料と言える。導入するなら、その材料特性を熟知し症例選択を見誤らない判断力が求められるため、万人に勧められるものではないが、材料マニアックな外科系歯科医にはポケットに忍ばせておいてほしい一品である。
バイオペックス-R/手術中に硬化する注入式人工骨
バイオペックス-R(アドバンスタイプS)は、HOYAテクノサージカル社が提供するリン酸カルシウム系の自己硬化型骨補填材である。具体的にはα-TCP(アルファリン酸三カルシウム)を主成分とし、これに液剤を混ぜることでペースト状になり、数分以内に硬化してきわめて緻密なアパタイトに転化するというものだ。歯科用では「吸収性歯科用骨再建インプラント材」に分類されるが、実質的には硬化型骨セメントとして扱われる。
臨床的なユニークポイントは、ペースト状で任意の形に成型でき、その場で硬化して欠損部にフィットする点だ。他の顆粒やブロックでは難しい、不規則な形の欠損にも隙間なく充填でき、硬化後は動かないのでメンブレンで覆わなくとも材料自体がずれ落ちたり流出したりしない。例えば上顎洞粘膜挙上後の骨補填でも、練和したBiopexペーストを注入してしまえば、粒子を一つずつ入れるより確実に空間を埋められるし、硬化後に粘膜を持ち上げるように安定する。また大きな嚢胞摘出後の空洞も、ペーストなら壁面に密着させられるため、初期の血腫形成と組織修復を助ける。硬化後は透過性の低いHA様物質となるため、感染が再燃しない限り半永久的にその場を維持する。セメント状なので機械的強度も高く、下顎の骨欠損に充填しておけば折れやすさが緩和される効果もある。
経営面では、Biopexの導入によって施術の簡便化と時間短縮が図れるケースがある。例えば従来チタンメッシュと顆粒骨材で1時間以上かかっていたGBRが、Biopexを注入するだけならメッシュ固定や縫合の手間が省け30~40分程度で済むかもしれない。また、硬化型ゆえ待機期間をある程度短縮できるとの見方もある。実際、硬化したリン酸カルシウムセメントは4~8週間程度で表層から骨組織に置換が始まる報告もあり、半年も待てばインプラント埋入に十分な硬さが得られることが多い。これは経営的には治療期間短縮=回転率アップに繋がり、患者満足度向上にも寄与する。さらにBiopexは練和・注入キットが一体化しており、使い切りで衛生的かつ手技がシンプルなのもスタッフ教育上メリットだ。煩雑なGBRテクニックをスタッフに覚えさせずとも、Biopexの手順を叩き込めば一定の結果が再現できる可能性がある。
注意点・デメリットとしては、操作に時間制限があることだ。練和後、製品によって約3~5分で硬化が始まるため、悠長に形を整えている暇はない。一発勝負の要素が強く、大きな欠損では複数キットを次々と混和して詰め足す必要も出てくる。その場で固まる強みと裏腹に、術者のスピードと段取り力が要求される。また、一度硬化すると再手術時にはドリルで削るしかなく、通常の骨より硬質なため除去・再建が厄介になる可能性もある。さらにBiopex硬化物はHAに近いとはいえ微妙に吸収性も併せ持つため、長年経つと欠けたり孔が空いてくることもありうる(整形外科領域では10年スパンで吸収・劣化する例も報告あり)。つまり永久不変ではなく、長期的な安定は症例による。価格も1キット数万円と高額で、欠損が大きければ複数キット要するため材料費負担は大きくなる。
どんな歯科医師に向いているか: バイオペックス-Rは、手技のシンプルさと初期安定を重視する先生に適している。具体的には、開業医で複雑なGBRには時間をかけずスマートに終わらせたいようなニーズがある場合、Biopexは強力な助っ人となるだろう。また、外科が得意ではないがインプラント周囲の小さな骨欠損には対応したい一般歯科医にとっても、練和して詰めるだけという分かりやすさは魅力だ。ただしスピード勝負な面があるため、臨機応変な術野コントロールができる中堅以上の術者が使いこなせる印象だ。新人にはやや荷が重く、タイミングを誤ると固まって悲惨な結果になるリスクもあるので注意したい。経営的には、Biopexによって治療の標準化・効率化を図りたい医院、例えばチェーン展開しているクリニックなどでマニュアル化するには向いているかもしれない。逆に、症例個別に細かく術式をカスタマイズしたい職人派の先生には受け入れにくいだろう。総じて、合理性を追求する経営視点とオペレーション重視の臨床スタイルを持つ歯科医師にフィットする材料と言える。
Bio-Oss(バイオオス)/長期実績ある牛由来HA骨材
Bio-Oss(バイオオス)は、スイスGeistlich社製の牛由来ハイドロキシアパタイト(HA)骨補填材であり、世界で最も広く使われている人工骨材の一つである。日本でも1990年代末から使用可能となり、現在まで歯科インプラント領域のゴールドスタンダード的存在感を放っている。Bio-Ossはウシの海綿骨を特殊処理して有機物を完全に除去し、ミネラル成分のみを残したもので、内部に海綿骨由来の細かな多孔構造を有する。その構造が人の骨の足場として極めて適合性が高く、高い骨伝導能を示すことが数多くの研究で確認されている。
臨床的な最大の利点は、長期にわたり骨量を維持できることである。Bio-Oss粒子は生体内でほとんど吸収されず、10年以上経過してもレントゲンに白く残存することが多い。これは、例えばサイナスリフトで骨高を確保したい際や、抜歯窩保存で歯槽骨のボリュームを保持したい際に極めて有用だ。Bio-Ossを用いた上顎洞底挙上では、高い確率で計画通りの骨高が形成され、その後長期的にも洞底骨が減らないため、インプラントの支持が安定する。全世界の文献で高い成功率が示されており、筆者の知る限り「Bio-Ossを入れたから失敗した」という話はまず聞かない。それほど安定感があり、術者に安心感を与える材料である。
また、審美領域のGBRにもBio-Ossはよく使われる。将来的に輪郭を維持したい上顎前歯部などでは、自家骨や吸収性材料のみだと痩せてしまう懸念があるが、Bio-Ossを混ぜておくと輪郭維持効果が期待できる。実際、インプラント周囲の細かな骨欠損にBio-Ossを詰めて5年後も歯肉ラインが安定していたという例は珍しくない。これは残存したBio-Ossが周囲組織を支え、吸収を防いでいるからと考えられる。骨補填材というより、バイオインert(不活性)のスペーサーとして機能するわけだ。一方、新生骨への置換は緩徐で、Bio-Oss粒子の周囲に薄い骨層が張る程度とも言われるが、それでもインプラントの一次固定や二次安定には十分寄与することが分かっている。
経営面でBio-Ossを語るとき、避けて通れないのは患者認知度とブランド力である。Bio-Ossは世界的に長い歴史があり、歯科業界では非常に有名なため、患者側がインターネット等で情報収集した際にも目にすることが多い。実際、インプラント希望の患者が「骨造成にはバイオオスという牛の骨を使うんですよね?」と尋ねてくるケースもあった。つまり、Bio-Ossを採用していること自体が患者に一定の安心感を与える可能性があるのだ。医院のウェブサイトでも、使用材料としてBio-Ossの名を挙げているところは多く、これは見込み患者へのアピールになっているだろう。高額な自費治療では「よく分からない国産品より、有名なスイス製のほうが良い」と考える層も存在する。そうした意味でBio-Ossはマーケティング上の武器にもなりうる。もちろん肝心なのは成果だが、Bio-Ossは臨床的成功率も申し分ないため、医院に利益をもたらす治療の裏で材料が足を引っ張るリスクが極めて低い。初期コスト(材料費)は高めだが、安定した治療アウトカムによるリターンで十分回収可能と言える。
デメリットとしては先述の患者の抵抗感や吸収されない点が裏目に出る場合があることだ。患者によっては「異種骨」は嫌がるし、特に欧米に比べ日本人はデリケートだ。そこは術前説明を丁寧に行い、どうしても難色を示す場合は他の合成骨で代替する柔軟性が必要だ。また、吸収されないがゆえに感染時には異物残留がリスクとなる。一度インプラント周囲炎などで感染が起きると、Bio-Oss粒子が残存していると周囲のプラークや細菌を抱え込んでしまい、デブライドメントで完全除去するのが難しい。感染リスクの高い全身状態の患者にはBio-Ossを避ける判断も時に重要である。
どんな歯科医師に向いているか: Bio-Ossは、「迷ったらこれを使えば間違いない」という安定志向の先生にフィットする。インプラント経験豊富な先生ほど、β-TCP等を試して結局Bio-Ossに戻るケースも多く、「やはりBio-Ossは結果が読みやすい」という評をよく耳にする。特にサイナスリフトを日常的に行うような熟練インプラントロジストには、今もなお手放せない材料であろう。また、開業医で世界基準の治療を標榜したい場合にも、Bio-Oss採用は説得力を持つ。逆に、尖った材料で他院と差別化したいタイプの先生には、皆が使っているBio-Ossは個性がなく映るかもしれない。しかし差別化といっても治療失敗しては元も子もないため、確実性を重んじる経営者型歯科医にはBio-Ossのもたらす恩恵は大きいだろう。価格を嫌う向きもあるが、むしろ「良い物を適正価格で提供し、その価値を患者に理解してもらう」のが自費治療の本質であり、Bio-Ossはまさにその体現と言える。
Boneject(ボーンジェクト)/コラーゲン添加で扱いやすい異種骨材料
Boneject(ボーンジェクト)は、オリンパステルモバイオマテリアル社がかつて販売していた牛由来HA+アテロコラーゲンの骨補填材である(現在は他社へ事業譲渡され名称変更の可能性あり)。Bio-Ossと同じく牛海綿骨由来のHA粒子だが、そこにコラーゲン(I型、アテロ化処理済)を混合して乾燥成形されている点が特徴だ。見た目はスポンジ状または凝固血餅に似ており、乾燥ブロックまたは顆粒パックで提供される。これを使用時に生理食塩水や患者血液で湿潤させると、コラーゲンがゲル化してHA粒子をつなぎ止め、柔らかいゼリー状の充填材となる。
臨床的利点は、操作性の良さと初期治癒促進である。湿潤後のBonejectは適度な粘性を持ち、ピンセットで摘んでもポロポロ崩れ落ちないため、そのまま欠損形態に合わせて押し込むことができる。細かな顆粒を扱うより格段に楽で、広範囲に散らばることもない。また含有コラーゲンが血小板や血球を絡め取り止血を助けるため、術後の血餅形成が安定しやすい。コラーゲン自体は生体親和性が高く、数週間で分解吸収される間に周囲組織の創傷治癒を促進する効果も期待できる。特に抜歯窩保存では、Bonejectを詰めておくとコラーゲンのおかげで血餅脱落(ドライソケット)のリスクが減り、患者の疼痛も軽減された印象がある。Bio-Oss単体だとどうしても粒子が動揺し、完全閉鎖しても不安定なことがあるが、Bonejectは初期固定性が段違いに高い。
骨造成の最終効果としては、HA成分はBio-Ossと同じく非吸収性で長期残留するため、ボリューム維持効果も良好である。コラーゲンが消えた後はHA粒子が残るため、結果的にはBio-Ossと似た振る舞いになるが、粒子間に線維性マトリックスがあった分だけ骨組織が入り込みやすいとの見解もある。つまり、Bio-Ossで見られる粒子周囲のわずかな骨新生が、Bonejectではもう少し厚みを持って形成される可能性が示唆されている(ただし差は僅差で、臨床的に大きな違いはないとの報告もある)。
経営面では、Bonejectの扱いやすさがオペ時間短縮とスタッフ負担軽減に寄与するのが大きい。GBRにおいて材料の飛散防止や押さえ込みに神経を使わずに済むことは、術者のストレスを減らし、結果として効率アップにつながる。また、「コラーゲン配合」は患者へのうたい文句としても使いやすい。コラーゲンは美容や医療分野でポジティブなイメージがあり、「骨補填材にコラーゲンが入っているので治りが良いとされています」と説明すれば患者も理解しやすい。自費治療の付加価値として、Bio-Ossとの差別化にもなるだろう。
デメリットとしては、異種タンパク質(コラーゲン)ゆえのリスクがゼロではないことだ。アテロコラーゲンは抗原性を極限まで下げた精製品だが、極まれに免疫反応やアレルギーを起こす例も報告されている。患者にコラーゲンアレルギーの既往がないか確認する必要はあるだろう。もっとも、そうした報告は非常に少なく、臨床的にはまず問題ないと考えられる。また、コラーゲンが水分を含むと一気に膨潤するため、使用量を誤ると過充填になりやすい。抜歯窩などでは入れすぎるとゼリーが盛り上がってフラップを押してしまうこともある。術者はふやける前提で量と密度を調節する勘所が必要だ。価格はBio-Ossよりさらに高価な傾向で、コラーゲン添加分がコストに跳ね返っている。しかし前述のように手技簡便化や付加価値を考えれば、支払う価値はあるという判断になる。
どんな歯科医師に向いているか: Bonejectは、Bio-Ossの安定性に加え、とにかく操作のしやすさを追求したい先生に向いている。インプラントを専門にやってきた先生の中には「もうBio-Ossの粒をちまちま扱うのは疲れた。もっと楽な方法はないのか」と感じる方もいる。そうしたオペ巧者にとって、Bonejectの滑らかな扱い心地は一度味わうと戻れない魅力がある。また、若手の先生でGBRに自信がない場合、Bonejectならある程度ラフに扱っても材料が一塊になっていてくれるため、結果が安定しやすいとも言える。技術の未熟さを材料の性質でカバーするという考え方は経営的にも合理的で、トレーニング期間の短縮にもなる。ただ、Bio-Ossに比べ供給元の変遷や市場流通が安定しなかった歴史もあり、将来的な継続使用にやや不安もある。その点では、常に複数の材料オプションを持ち臨機応変に切り替えられる柔軟な先生が適任だろう。Boneject自体は優れた素材であるが、品薄時にはBio-Oss+自己血フィブリンで代用するなどのプランBも頭に入れつつ使うことをお勧めする。
よくある質問(FAQ)
Q1. 炭酸アパタイト(サイトランス)とβ-TCPはどう違うのですか?
A1. 炭酸アパタイトは、人の骨に含まれるハイドロキシアパタイトに近い組成で作られた人工骨であり、β-TCPに比べて吸収速度がやや緩やかで長期の体積維持に優れる。一方で骨への置換もゆっくりですが確実に進行し、最終的には自家骨に置き換わる点はβ-TCPと同様です。簡単に言えば、β-TCPは早く消えて早く骨になる、炭酸アパタイトはゆっくり消えてじっくり骨になると考えると分かりやすいでしょう。両者の中間的な性質を持つ炭酸アパタイトは、β-TCPでは吸収が早すぎる場合やHAでは骨化が心配な場合に選択肢となります。
Q2. 人工骨と自家骨は混ぜて使うほうが良いのでしょうか?
A2. 必ずしも混ぜる必要はありませんが、場合によっては混合使用が有効です。自家骨には骨誘導因子や骨細胞が含まれるため、人工骨とブレンドすると骨形成が促進されることが知られています。血流の乏しい大きな欠損や、患者の治癒能力が低下している場合には、自家骨チップを20~50%程度混ぜることで骨造成の成功率が上がる可能性があります。ただし、自家骨採取には追加の侵襲と時間が伴います。開業医レベルの小~中規模欠損では人工骨単独で十分な結果が得られるケースが多く、混ぜるかどうかは症例の難易度と採取コストのバランスで判断すると良いでしょう。
Q3. 骨補填材を使用した後、インプラント埋入までの待機期間は材料によって変わりますか?
A3. はい、材料の種類によって適切な待機期間は多少異なります。 吸収性のβ-TCP系や炭酸アパタイト系は、比較的早期(4~6か月)に自家骨への置換が進むため、6か月程度でインプラント埋入可能になる症例が多いです。非吸収性のHA系やBio-Ossの場合、材料自体は残っていますが周囲の骨成熟に時間がかかることがあり、一般的には6~9か月ほど待つと安全域が高まります。コラーゲン添加材も基本は母材のHAに準じます。硬化型のBiopexはHAに転化した後も徐々に骨組織が入り込むため、目安として4~6か月で埋入することが多いです。重要なのはレントゲン所見や触診で十分な骨硬度が得られているか判断することで、材料だけで一概に何ヶ月とは断定できません。症例ごとに治癒状況を見極め、無理のないタイミングで次段階に進むことが成功への近道です。
Q4. 骨補填材使用時にはやはりメンブレンで覆うべきでしょうか?
A4. 基本的には、ほとんどのケースでメンブレン等の遮蔽材を併用することが望ましいです。 吸収性材料は軟組織の侵入を防ぐためにメンブレンが必須ですし、非吸収性材料であっても初期安定や感染防止の観点から膜でカバーするほうが安全です。ただし、BonejectやBiopexのように材料自体が動かずそのまま固まる場合や、解剖学的に軟組織で自然にカバーされるポケット的欠損では、メンブレン無しでも良好な結果が得られることがあります。臨床的には欠損の形態と大きさ、軟組織の管理状態によって判断します。迷った場合は予防的にメンブレンを使っておけばリスクは減らせるため、ルーチンワークとして遮蔽するのが無難でしょう。なお、非吸収性メンブレンを使う場合は二次手術が必要になりコスト・手間が増える点も考慮に入れて計画を立てることが大切です。
Q5. 残った人工骨が将来問題を起こすことはありますか?
A5. 基本的に、適切に骨造成が完了していれば残存人工骨が悪影響を及ぼすことはほとんどありません。 非吸収性のHA粒子やBio-Ossなどは長期間残存しますが、生体と調和して骨組織に埋もれるように存在するため、通常は症状を引き起こしません。ただし、将来的にその部位に感染や炎症が生じた場合、残存粒子が除去しにくい異物として作用し、治癒を遅らせる可能性はあります。また、再度骨造成や手術が必要になったとき、残っている人工骨が多いとアプローチが難しくなることも考えられます。しかしこれらは稀なケースで、多くの患者では残った人工骨も含めて安定した骨組織の一部となります。術前に患者へは「一部材料が残ることがあるが問題は生じない」旨を説明し、定期的なメンテナンスで経過を追っていけば安心です。何より、残存人工骨が気になるほど大量に残る場合は骨造成自体が不十分だったことを示すので、そうならないよう初回手術での確実な骨再生を目指すことが肝要です。なお、どうしても将来の残存を懸念する場合は吸収性の材料を選ぶという選択肢もあります。患者の価値観に合わせて材料選択するのも、信頼関係を築く一助となるでしょう。