オサダ「サージェリーサクセスIp」レビュー!1モータ と 2モータの違いとは?
埋入前の骨整形から最終トルク管理までを同一ユニットで完結させたいという要望は歯科インプラント治療の現場で根強く存在する。手術中に器具交換や灌流ラインの付け替えが発生すると、滅菌域の維持やスタッフの動線が乱れやすく、チェアタイムのばらつきや術者の集中力低下を招きやすい。本稿では長田電機工業のサージェリーサクセスIpを取り上げ、1モータ仕様と2モータ仕様の違いを臨床面と経営面の両面から整理し、導入判断のための実務的な視点を提示する。メーカーの仕様やオプションにより挙動は異なるため、購入前には必ず最新の仕様確認とデモ機確認を行うことが前提である。
臨床面では、モータ数の違いが術中の器具交換回数と同時作業の可否に直結する。1モータ仕様は構造がシンプルで導入コストやメンテナンスコストが抑えられる傾向にある一方で、ドリリングから埋入、トルク確認までを同一モータで順次行う場合、ハンドピースの交換やアダプタの着脱が必要となり、短時間ながら滅菌域の管理やスタッフの介助が頻繁になる。これに対して2モータ仕様は同時に別の回転工具やトルク計測器を接続できるため、例えばドリル作業と埋入作業を続けて行う際の器具交換が減り、術中の流れがスムーズになる。結果として、滅菌維持や手術時間の安定化、術者の負担軽減に寄与する可能性が高いが、装置自体の重量や設置スペース、操作パネルの複雑さは増す。
経営面では初期投資と運用効率のバランスをどう取るかが鍵である。1モータ仕様は導入費用や消耗部品の交換費用が比較的低く、症例数が少ないクリニックや手術を分割して行うことが多い施設に向く。対して、月間のインプラント本数が多く、同日に複数症例を行うような高稼働の施設では2モータ仕様の導入が時間当たりの生産性向上につながり、チェアタイム短縮による収益性向上が期待できる。保守・修理の体制やランニングコスト、メーカーのサービス網の充実度も重要であり、故障時のダウンタイムが許容できない場合は2系統の冗長性を持つ構成を検討する価値がある。
導入判断の実務的基準としては、次の点を総合的に評価することが推奨される。診療室のスペースや電源・灌流配管の可否、月間インプラント件数と今後の増減見込み、術式の複雑さ(即時埋入やサイナスリフト等の同時作業の有無)、スタッフ人数とオペ室の動線、初期費用と長期の維持費、メーカー保証とメンテナンスプランの内容である。短期的なコスト削減のみを優先すると術中効率や滅菌管理で手戻りが生じる場合があるため、投資回収期間と実際の運用シナリオを想定した試算を行うことが重要である。可能であればデモ機で実際の手順を試し、スタッフ全員で操作感・清掃性・交換手順を確認した上で最終決定することを勧める。
購入検討時のチェックリスト(実務確認項目) ・現行の平均的なインプラント本数と今後の増減予測
・手術の標準的な流れ(ドリリング→埋入→トルク確認を同一回で行うか)
・設置スペース、電源・灌流配管の可否と配置
・モータの到達トルク範囲、回転速度域、トルク表示・管理機能
・ハンドピースやチューブの滅菌・交換手順の容易さ
・メンテナンス契約、保守対応時間、交換部品のコスト
・デモ機での術者・スタッフによる操作評価とタイムスタディ
これらを踏まえ、症例数が少なく簡便性と低コストを優先するなら1モータ仕様が合理的である。症例数が多く、器具交換の削減や術中の流れの安定化を重視するなら2モータ仕様への投資が長期的には有利となる可能性が高い。最終的にはクリニックの診療スタイルと経営計画に照らして、メーカーと具体的な仕様やサービス内容を確認した上で決定することが望ましい。
製品の概要
サージェリーサクセスIpは、口腔外科領域で使用される電動式手術器械であり、管理医療機器に分類される。販売名はオサダサージェリーサクセスIpで、型式はOSS-Ip-ⅠとOSS-Ip-Ⅱの2種類を用意している。いずれの型式も口腔外科処置やインプラント埋入に対応する設計で、臨床の現場での汎用性を考慮している。
OSS-Ip-Ⅰはインプラント埋入を主眼とした1モータ仕様である点が特徴で、減速コントラアングル32:1に対応している。一般に32:1の減速比は回転数を抑えつつトルクを高めるため、埋入時の制御性や力の伝達を重視する処置に適している。単一モータ設計は専用用途でのシンプルな操作と管理のしやすさにつながる。
OSS-Ip-Ⅱは口腔外科処置とインプラント埋入の双方に対応する2モータ仕様であり、操作パネルまたはフットコントローラからモータを切り替えて使用できる。処置の内容に応じて素早くモードを切り替えることが可能なため、外科的抜歯や骨整形といった口腔外科的処置とインプラント埋入を同一の治療シーケンス内で行う際に利便性が高い。
本機は承認番号22200BZX00813000を有し、JMDNコードは70959010である。承認番号は薬機法に基づく医療機器の承認を示すものであり、JMDNコードは日本における医療機器の分類番号である。これらの表示は製品が国内の規制に従って流通していることを示している。
| 型式 | モータ数 | 主な用途 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| OSS-Ip-Ⅰ | 1 | インプラント埋入 | 減速コントラアングル32:1に対応、専用仕様で操作が簡便 |
| OSS-Ip-Ⅱ | 2 | 口腔外科処置+インプラント | モータ切替が可能で多目的に使用可能 |
主要スペックと臨床的意味
回転速度とトルク
インプラントモードは回転速度1,000〜30,000min-1、設定トルク5〜50N・cmに対応している。埋入時に装置側でトルクを一定値に制御できるため、術者の感覚に頼らずに最終トルクを再現しやすい。トルク到達時にはアラームと自動停止が働く設計であり、過度なトルクによるスレッド損傷や周囲骨への過負荷を抑制することが期待される。
トルク管理は初期固定の確実性と骨代謝への影響を両立させるうえで重要である。過剰なトルクや長時間の掘削は骨の過熱や微小損傷を招きやすいが、装置側での制御と適切な掘削プロトコルの併用により、インプラント埋入の安全性と再現性向上に寄与する。
口腔外科モードの位置付け
モータの回転範囲はインプラントモードと同様に1,000〜30,000min-1であり、等速ストレートハンドピース装着時には切開延長、埋伏歯の分割、骨整形など広範な口腔外科処置に対応する。骨切削の予後は注水による冷却と洗浄の安定性に依存するため、ポンプ注水量を20〜100mL/minで可変できる点は臨床上の利点が大きい。
術式やバー径に応じて注水量を調節することで、骨表面温度の上昇を抑えつつ、切削片の洗い流しと視野の確保を両立できる。高回転域を用いる処置では注水の安定供給とバーの選定が重要であり、機器の注水可変範囲が術者のテクニックの幅を広げる。
メモリ機能と手技の再現性
各モータに5つのメモリを備え、回転速度・トルク・注水量をプリセット可能である。一次ドリリングからタッピング、最終埋入までを段階ごとに登録しておけば、同一症例群や同一術式での手技差を小さくでき、術者間や拠点間で手順を揃えることが容易になる。教育や標準化の観点からも有用である。
メモリ機能は術中の操作ミス軽減や段取りの簡素化にも寄与するが、プリセットは患者の骨質や解剖学的条件に応じて適宜調整することが前提である。設定値に過度に依存せず、術者の判断と併用して用いることで安全かつ効率的なオペレーションが可能になる。
滅菌と耐久に関わる設計
モータ本体からモータコードまでがオートクレーブ対応であり、吸い込み防止機構により内部汚染や軸受けの劣化を抑える設計となっている。口腔内で直接触れる部位を患者ごとに滅菌する運用は感染対策の基本に合致しており、洗浄・滅菌プロトコルの遵守が機器の長期安定性にもつながる。
装置本体やフットコントローラは表面清拭での運用を想定しているため、滅菌が必要な部分と清拭で対応する部分を明確に区別する必要がある。耐用期間の目安が7年と示されているため、減価償却計画や保守スケジュールを立て、メーカー推奨の定期点検を実施することが望ましい。
外形・設置とスタッフ動線
本体質量は約7.9kg、外形はW210×D300×H525mmとコンパクトであり、ワゴン設置時は傾斜3度以内が推奨されている。フットコントローラは薄型(W206×D186×H38.4mm)で術者の足元の占有を抑え、狭いオペ室でも取り回しがしやすい寸法である。機器を移動して使用する診療環境でも実用性が高い。
設置時には配管とボトルの導線を整理し、清掃や移動時の障害を最小限にすることが重要である。限られたスペースでの運用を想定して、ワゴン配置や電源・ガス・注水ラインの取り回しを事前に計画することで、日常のオペレーション効率と院内動線の安全性を確保できる。
1モータと2モータの違いと運用設計
切替フローとチェアタイム
1モータ仕様では口腔外科用ストレートと埋入用コントラの物理的な付け替えが術中の工程間で発生するため、器具交換に伴う手順が増える。具体的にはハンドピースを取り外して別のハンドピースを装着し、必要に応じて注水設定や回転数の再確認を行う必要があるため、術者とアシスタントの動作が増え、チェアタイムに影響することがある。特に上顎洞前壁のトリミングからサイナスリフト併用の埋入へとスムーズに移行する場面では、取り回しやラインのねじれ、視野の一時的な遮蔽などが発生しやすい。
これに対して2モータ仕様は両方のハンドピースを常時接続し、ワンタッチで切り替えられるため工程の遷移が機械側で簡略化される。モータごとにポンプや注水量の設定を保持できるため、骨切削と埋入で異なる注水条件が必要な場合でも切替時に再設定する手間がほとんどない。結果として、アシスタントの指示系統を単純化でき、器具交換に伴うグローブの汚染や滅菌野への接触機会を減らしやすく、感染対策上の利点や術中の安全性向上につながる。
ただしチェアタイム短縮の程度は術者とスタッフの熟練度、手術フローの標準化状況、機器の信頼性に依存する。2モータは機械的に移行の手戻りを減らす設計思想を持つが、導入に当たっては操作手順の再設計、スタッフ教育、万一の故障時の代替手段の整備が重要である。導入前には実際の術式での動線評価や模擬オペによる確認を行い、期待する効果が得られるかを検証することが望ましい。
清掃・保守と耐久の考え方
2モータ構成では滅菌対象となる部品点数が1モータに比べて増えるが、ハンドピースやモータコードの滅菌方式が統一されていれば日常の運用フロー自体は大きく変わらない。重要なのは各部材の取り扱い基準を明文化し、洗浄・滅菌・保管の手順を標準化することである。注水チューブやシール部材は定期交換が前提となる消耗品であり、取り付け不良や劣化は感染リスクや注水不良の原因となるため、視覚点検と記録を組み合わせた管理が必要である。
保守面ではモータやポンプが増えることによる部品点数増加が故障リスクを相対的に高める一方で、冗長性としての利点もある。例えば片方のモータに問題が生じてももう片方で一部機能を継続できる場合があり、完全停止を回避できる可能性がある。だが、予防保守の重要性は変わらず、メーカー推奨の点検周期や消耗品交換時期に従って定期点検を実施すること、またポンプ周辺のエッジ部での損傷やチューブの圧痕、シール部の劣化を早期に発見することが長期耐久性に寄与する。
保守契約や保証内容、交換部品の供給体制はメーカーや販売店によって異なるため、購入前に具体的な保守プランを確認することが重要である。導入時には故障時の対応フロー、代替機の貸与、出張修理の可否、交換部品の納期と価格を明確にしておくことを推奨する。さらに、院内で行う日常点検項目と外注点検の範囲を明確化し、教育資料やチェックリストを整備して運用の属人化を避けることが望ましい。
互換性と周辺機器
カップリングとハンドピース
使用可能なハンドピースはISO規格に準拠したカップリングを前提としているため、基本的には同規格の製品であれば接続が可能である。ただし、ハンドピース側の軸受けやロック機構、ピン配置などで実装差があり、物理的には嵌合しても回転トルクや給水経路、密閉性に差が出ることがある。既存の在庫品を流用する場合は、メーカーが示す適合リストと実機確認を必ず行うことが安全である。
埋入処置向けには注水付の減速コントラ32:1が推奨構成であり、これは埋入トルクと視野確保のための回転数低減と注水機能を両立するために有用である。外科処置では等速ストレートや往復運動を行うソーブロケット系のアタッチメントが選択肢となるが、往復運動アタッチメントは駆動方式や安全機構の違いにより互換性確認が特に重要である。刃物やバー類の互換性はアダプタの選択に左右されるため、既存ブレードやバーを継続使用する場合は、アダプタの材質・長さ・固定方式が適合するかを事前に確認することが望ましい。
ハンドピースの整備性や滅菌適合性も互換性検討の重要な要素である。滅菌工程(高圧蒸気滅菌や低温滅菌など)に対する対応可否はメーカーごとに異なるため、院内の洗浄・滅菌フローと照らし合わせて選定する。加えて、ランニングコストを左右する軸受やシール部品、消耗品の入手性・価格、交換作業の容易さも導入前に確認しておくと運用上のトラブルを減らせる。
オプションと価格の概観
OSS-Ip-Ⅰの本体価格は税抜で約98万円、OSS-Ip-Ⅱは約150万円とされており、本体価格差は機能構成や出力性能、付属品の有無に起因する可能性がある。いずれも32:1コントラや各種ノーズコーン、注水関連アクセサリは別売扱いとなるため、実際の初期投資額は選定するオプション次第で大きく変動する。標準構成の内容や保障条件は販売形態や販社によって差があるため、見積もり時に項目ごとの内訳を明確にして比較検討することが重要である。
購入時には本体価格だけでなく、消耗品・交換部品、年間保守契約、校正・点検費用、滅菌関連の付帯設備や治具の費用も含めたトータルコストを算出することが望ましい。例えばハンドピースの摩耗部品や注水系統のフィルター類は使用頻度に応じて定期交換が必要となるため、ランニングコストが長期的な負担になる場合がある。また、導入後のトレーニング費用やオペレーターの習熟期間も見積もりに入れておくと、想定外の稼働停止や追加コストを抑えられる。
実務的な選定手順としては、まず院内の術式ポートフォリオに照らして必要なハンドピースとアタッチメントを洗い出し、次に各オプションの見積りを取得して総所有コスト(TCO)を比較することが有効である。加えて、保守体制や供給の安定性、納期、デモ機の貸出可否なども評価基準に加え、導入後の運用がスムーズに行えるかを確認するとよい。必要ならばメーカーや販売代理店に適合表の提示と現物確認を依頼し、書面での適合保証を求めることを推奨する。
使いこなしのポイント
機器を最大限に使いこなすには、単に操作方法を覚えるだけでなく、術式や術者の手技に合わせて設定を最適化する運用設計が重要である。特にインプラントや外科処置で用いる医療用モータは、工程ごとの負荷や冷却条件が異なるため、工程単位でのプリセット設計が効果を発揮する。工程単位とはドリリング、拡大、タッピング、埋入といった個々の作業フェーズを意味し、それぞれに対して回転数、トルク、注水量、停止条件などを細かく定義しておくことを指す。
具体的にはドリリング径の刻みや回転数の上がり方、タッピングの有無とそのトルク設定、最終埋入後にトルク到達で停止するか、あるいは微小トルクでホールドするかといった停止挙動までを一連のプリセットとして保存する。術者ごとに把持感や手技に差があるため、初期設定は標準プリセットを用い、実臨床でのフィードバックをもとに微調整していく運用が望ましい。変更履歴や推奨設定を記録しておけば、新しいオペレーターへの引き継ぎや院内教育にも資する。
2モータ構成の機種では、外科用(骨削など)と埋入用のモードをそれぞれ別モータに割り当てることで役割が明確になり、手元操作の切替ミスを減らせる。注水量も工程役割に応じて固定しておくと冷却管理が安定し、術中の視界確保や組織温度の管理が容易になる。さらに、プリセットには確認プロンプトや安全閾値を組み込み、想定外の負荷や異常が発生した際に警告を出す運用にしておくと安全性が高まる。
プリセット運用では定期的な見直しとバックアップを忘れてはならない。器械のソフトウェア更新や消耗部品の変化が設定の有効性に影響するため、半年ごとあるいは症例数に応じたレビューを行い、ベストプラクティスを院内で共有するとよい。加えて、トレーニング用のシミュレーションで新設定の確認を行い、実地でのエラーを最小化する体制を整備することが重要である。
プリセット設計
プリセットは単に数値を記録するだけでなく、操作フローとしても整理しておくべきである。たとえば「ドリリング1→ドリリング2→タッピング→埋入」という順序と各工程の条件をセットにして保存し、ワンタッチで呼び出せるようにすることで術中の作業効率が上がる。各工程には推奨される注水量や冷却時間も含め、器具の摩耗や熱蓄積に応じた補正値を付与しておくと実運用での安全性が高まる。
術者別プリセットを用意する場合は、命名規則やバージョン管理を明確にして混在を防ぐことが重要である。術前カンファレンスでプリセット内容を確認し、必要に応じて術者と助手が共通理解を持っていることを確認するプロセスを組み込むとトラブルを減らせる。記録は電子的に保存し、いつ誰がどの設定で治療したかが追跡できるようにしておくと、トラブル時の検証や品質管理にも役立つ。
モータやソフトウェアの制限を踏まえ、過度な自動化は避けるのが現実的である。異常時には素早く手動操作に切り替えられるよう、インターフェース設計や操作手順を平易にしておくことが安全対策として有効である。また、プリセット変更時は必ずテスト症例や模型での検証を行い、予期せぬ挙動が現れないことを確認してから臨床へ適用することが望ましい。
感染対策と滅菌フロー
患者ごとに口腔内に接触する部位の滅菌とディスポーザブルの適切な使用は基本中の基本である。モータ本体やコード類が滅菌対応である機器を使用している場合でも、接触部位やハンドピースの滅菌手順を明文化し、術前術後の一連のフローを標準作業手順(SOP)として定めるべきである。具体的には、使用前の滅菌パック確認、術後の汚染除去、洗浄、滅菌までの責任分担を明確にする。
注油の取り扱いは機器保守上の要点であり、原則としてハンドピース側に限定し、電子部やモータ本体には絶対に施さないことが重要である。誤ってモータに注油すると内部故障や接触不良を招き、滅菌プロセスにも悪影響を及ぼす。注油の頻度や使用する潤滑剤の種類はメーカー指示に従い、作業記録を残して保守履歴を管理することが望ましい。
ワゴンは水平に設置し、注水ボトルの扱いには一定のルールを設けるべきである。注水ボトルは術式ごとに担当者を固定し、充填・交換・廃棄の手順を統一することでライン汚染を防げる。可能であれば密閉式の注水供給システムや一次使用可能なカートリッジを採用し、ボトルの再使用を最小限にすることが感染リスク低減につながる。術中はボトル開栓やチューブ接続部の無菌操作を徹底し、術後にはボトルと配管のフラッシュ・洗浄を行って微生物繁殖を防止する。
滅菌フローの運用では清潔ゾーンと汚染ゾーンを明確に分け、器材の持ち出しと戻しの動線を定めることが重要である。術後の器材はまず目視で汚れを除去し、専用の中間洗浄工程を経て滅菌に回す。滅菌後は乾燥と保管を適切に行い、使用直前まで封を保持する体制を整える。定期的なスタッフ教育と監査を実施し、滅菌成績や感染事例のレビューを継続することで、現場の遵守率を高めることができる。
適応と適さないケース
得意領域
複数歯の同時埋入や外科処置を併用するインプラント治療では、回転域や注水量を場面に応じて柔軟に調整できることが重要である。硬い骨質や軟部組織との境界、骨整形を伴う処置などでは、回転数を下げて熱発生を抑えつつ注水で冷却する操作が求められるため、このような可変性をもつ機器は適している。特に埋入時に複数本を短時間で行う際は、効率と安全性の両立に寄与する。
埋伏智歯の分割抜去や顎骨整形のように、切削条件が症例ごとに大きく異なる手技でも、刃物や回転数、注水量を適合させることで切削効率と組織保護のバランスを取りやすい。トルク到達時に自動停止する機構は埋入深度の再現性を高め、一次固定の確保や即時荷重を検討するケースでの安定化に有利である。これにより術者間での再現性が向上し、治療計画どおりの結果を出しやすくなる。
ただし、いかに高機能でも術者の熟練と適切な術前プランニングが不可欠である。機器の特性を理解したうえで、適切なドリル選択や回転条件の設定、注水管理を行う必要がある。また手術の複雑さに応じて補助器具や術者の人数を確保することが、手技の安全性と効率を高める基本である。
注意すべき状況
ペースメーカ使用患者および術者に対しては使用が禁忌とされる場合がある。電気機器による電磁干渉が体内機器の誤作動を招くおそれがあるため、心臓植込み型医療機器を持つ患者を扱う際には必ず循環器内科と連携し、代替手段の検討や監視体制の確立が必要である。術者自身が植込み機器を持つ場合は当該機器の使用を避けるべきである。
強い電磁波環境では機器の誤動作や計測異常が発生する可能性がある。MRI室近傍や大出力無線機器のそばなど、周囲の電磁環境を事前に確認し、必要に応じて使用場所や時間を調整することが求められる。電磁干渉によるリスクは機器の仕様にも依存するため、メーカーの指示書や技術情報を遵守することが重要である。
ロングバー使用時には指定されたノーズコーンと刃物全長の制限を厳守しなければならない。規定外の延長や不適切な組み合わせは振動やたわみを増大させ、切削効率の低下や破損、周囲組織への不意のダメージにつながる恐れがある。使用前の確認と適正な固定、必要に応じた低回転設定が安全管理の基本である。
保守契約が未整備のまま高稼働を計画すると、消耗部品や滅菌関連備品の補充が滞り、機器停止によるダウンタイムが発生しやすい。長期運用を見据えてサービス契約を結び、予備部品を備蓄し定期点検をスケジュールすることが稼働率向上につながる。加えて術者とスタッフへの定期的な教育を行い、機器の取扱いやトラブル時の初期対応を習熟させることで、臨床現場での安全性と信頼性を高めることができる。
導入判断の指針
保険中心で効率を重視する医院
単純埋入や外科単独処置が中心であれば、運用の再現性と導入コストのバランスから1モータ構成で十分対応できる。装置がシンプルであるほど教育フローも簡潔になり、スタッフ全員が短期間で標準化された操作を習得しやすい。日常の滅菌フローや器材管理も単純化できるため、ランニングコストと稼働ロスの最小化に寄与する。
必要に応じて32:1コントラを追加し、外科的操作は等速ストレートに集約する運用が現実的である。複雑症例や時間制約のあるオペには事前に紹介・他院依頼の基準を定めておくと、無理な延長や過剰投資を避けられる。予備部品や簡易トラブル対応手順、年次の保守契約を整備しておくことで長期的な安定運用が可能になる。
自費強化で高付加価値を狙う医院
サイナスリフトやGBRなど複数工程を含む高付加価値の自費症例が多い場合、2モータ構成は術中の器具切替と工程管理を装置側で担保できるため有利である。モータを用途別に振り分けることで設定変更やアタッチメント交換の手間が減り、術者の集中力を維持しやすくなる。術式ごとの回転数やトルクをメモリ化して標準化すれば、術者交代やスタッフ交代時にも均質な治療が提供できる。
加えて、術前のデジタルプランニングやインフォームドコンセント、術中写真や記録の運用を整えることで、自費診療の価値提示と価格設定がしやすくなる。器材は症例に応じた専用セットを用意しておくと、滅菌回転率が向上し稼働効率が上がる。投資対効果を評価するために、月次で症例構成と稼働率を確認し、装置の稼働分布が想定通りか常に検証することが重要である。
口腔外科主体の医院
口腔外科を主軸とする診療所では、外科枠の回転率と安全域の確保が診療の生命線であるため、2モータに加えて独立ポンプを備えたシステムの恩恵が大きい。独立ポンプは灌流や吸引の細かな制御を可能にし、術中の視野確保や組織への負担低減に寄与する。術野管理の確実性が向上することで処置時間の短縮と合併症リスクの低減が期待できる。
また、既存のブレード類やアダプタとの互換性検証を導入前に実施し、必要な変換部品を前倒しで整備しておくことが重要である。既有在庫を有効活用することで初期投資を抑えつつ、保守部品や消耗品の在庫管理を徹底することによりランニングコストを抑制できる。さらに、院内でのシミュレーション訓練や救急対応手順を整備しておくことで、外科的処置の安全性とスタッフの熟練度を高めることができる。
よくある質問
OSS-Ip-ⅠとOSS-Ip-Ⅱの臨床的な違いは何か
OSS-Ip-ⅠとOSS-Ip-Ⅱは機械的な基本性能を共有するが、最大の違いはモータ数とそれに伴うワークフローの効率性である。OSS-Ip-Ⅱは2モータ仕様のため、外科用ハンドピースと埋入用モータを同時に接続しておき、必要に応じて素早く切り替えることが可能である。このため、器具の付け替えによる中断や手戻りを減らせる点が臨床での大きな利点である。
さらに、注水ポンプが各モータごとに独立しているため、例えばドリリング工程と埋入工程で別々の注水設定を保持したまま移行できる。これにより手技ごとの最適条件を維持しやすく、手術時間短縮と操作ミス低減につながる。導入を検討する際は、自院の手術フローや埋入件数、外科と補綴の連携方法を踏まえてどちらの仕様が効率的かを評価するとよい。
埋入トルクと回転の管理はどの程度まで設定できるか
インプラントモードでは回転数を1,000〜30,000min-1の範囲で設定でき、トルクは5〜50N・cmまで調整可能である。設定したトルクに到達するとアラームが鳴り機器が停止するため、オーバートルクによるトラブルやインプラント破損を予防できる。これらの幅広い設定により、使用するインプラントシステムや骨質に応じたきめ細かな制御が可能である。
臨床では初期トルクの設定や段階的増力、回転数の選択を術式や術者の手技に合わせて行うことが重要である。特に硬い骨や軟らかい骨ではトルク挙動が異なるため、モニタリングを行いながら調整することで安定した埋入が行える。製品取扱説明書に記載の許容範囲や推奨設定を参照し、必要に応じてメーカーサポートやトレーニングを受けることを勧める。
滅菌や清掃の運用で注意すべき点は何か
本体とフットコントローラは防水仕様であっても内部機構保護の観点から清拭を基本とするべきである。ハンドピースとモータコードは滅菌可能とされているため、使用後は速やかに分解・洗浄し、指定の滅菌器で処理する。滅菌方法や温度、時間については機器の取扱説明書に従うことが必須である。
注油はハンドピースに限定し、モータ本体には注油を行わないこと。誤った注油は内部故障の原因となるため、指定の潤滑剤と手順を守る必要がある。注水チューブは正しく取り付けるだけでなく定期的な交換と内視鏡等による目視点検を推奨する。滅菌ログや清掃記録を運用に組み込み、トラブル発生時に履歴から原因をたどれるようにしておくと良い。
価格と保守契約の考え方はどうか
本体価格は1モータ仕様が約98万円、2モータ仕様が約150万円とされているが、保守費や消耗品費は公開情報がなく販売店見積が必要である。保守契約の内容は点検頻度、消耗部品の交換、故障時対応の範囲や出張費などで差が出るため、複数社から条件を比較検討するとよい。導入後のランニングコストを見積もることが投資判断では重要である。
耐用年数を7年と仮定した場合の簡易的な算定方法は次のとおりである。まず本体価格を耐用年数で按分し、年間の保守費と消耗品費を加えて年間コストを算出する。これを年間症例数で割ると1症例当たりの機器費用が得られる。例として1モータ(98万円)を7年で償却した場合の年間償却費は約14万円、年間症例100件で試算すると1症例あたりの機器償却費は約1,400円となる。2モータ(150万円)の場合は年間償却費が約21万4千円、同じく100件であれば1症例あたり約2,143円である。最終的な導入効果の評価は、手術時間短縮や消耗品削減、症例数増加などの効果を加味して行うべきである。