ナカニシ「VarioSurg 3」レビュー!プログラムメモリーと操作性などを解説!
抜歯窩周囲の骨整形や側方サイナスリフトにおいて、回転器具は高速回転に伴う熱損傷や切削粉の飛散が懸念され、ピエゾサージェリーは組織温存という利点がある一方で出力感や切削スピードが物足りなく感じられる場面がある。こうした現場では、チェアタイムを短縮しつつ術式の予測可能性を高めたいという要求が強い。さらに、操作系が複雑であれば術者が術野から手を離す頻度が増え、スタッフ教育負担や導入後の運用コストが膨らむことになる。
本稿では超音波ボーンサージェリーの実機としてナカニシ VarioSurg 3 を取り上げる。特にプログラムメモリーと操作性に焦点を当て、臨床上の使い勝手とクリニック経営の両面から評価を行う。読了後には、自院の症例構成や運用体制を踏まえて導入可否を即座に判断できることを目指す。
製品の概要
VarioSurg 3 は株式会社ナカニシが提供する超音波ボーンサージェリー用システムである。一般的名称は「電動式骨手術器械」に該当し、管理医療機器かつ特定保守管理医療機器としての分類を受けている。認証番号は225ABBZX00144000であり、臨床現場での使用を前提とした設計と保守体制が前提となる機器である。
標準セットにはコントロールユニット、LED照明付きハンドピース、FC‑78フットコントロール、滅菌ケース、基本チップキットなどが含まれる。フットコントロール無しのセットも選択可能で、用途やオペ室のレイアウトに応じた構成が選べる点が特徴である。標準セットおよびフットコントロール無しセットの本体価格は公表されており、購入前に見積もり確認が可能である。
消耗品についてはイリゲーションチューブの価格および包装単位が明示されているため、滅菌・補充計画を立てやすい。特定保守管理医療機器に該当することから、定期点検や部品交換、使用前後の滅菌手順など、メーカーの指示に従った保守管理体制を整備することが求められる。
主な適応と制約
適応領域は骨切りや骨形態修正、骨採取、抜歯、サイナスリフト(側方・歯槽頂アプローチ)、インプラント窩形成の補助、逆根管充填窩洞の形成、そしてペリオ領域のスケーリングやメンテナンスに至るまで幅広い。超音波特有の振動挙動により、回転器具と比較して軟組織への影響を抑えやすい点が臨床上の利点となる場合がある。
しかしながらピエゾ方式は能動的な止血機能を備えるものではない。灌水や吸引の設計が不十分であると、出血や骨粉によって視野が悪化しやすく、術野の確保には十分な灌流・吸引体制が不可欠である。視認性を維持するための器械配置やアシスタントの配置も配慮すべき点である。
機器の安全かつ効果的な運用には、各チップに定められた許容パワーと注水要件を遵守することが前提である。骨質に応じて出力やバースト設定を適切に調整できること、またそれらを操作できる熟練者がいることが望まれる。加えて、特定保守管理医療機器としての定期点検や消耗品の在庫管理、滅菌手順の厳守が、合併症予防と長期的な安定運用に寄与する。
主要スペックと臨床的意味
VarioSurg 3 のコントロールユニットは発振周波数28–32 kHz、注水量10–75 mL/min、プログラムはSURG×5、ENDO×2、PERIO×2の計9つを備えている。ユニット寸法は幅265×奥行220×高さ103 mmで、設置面積が小さくチェアサイドでの配置自由度が高い。LEDハンドピースは光量を高低とオフで切り替えられ、術野の反射や血液でのまぶしさに応じて視認性を調整できる。これらの仕様は、骨質や術式の切り替えに合わせて再現性ある出力を素早く呼び出すという臨床的要件に直結している。
コンパクトな筐体と多段階の注水設計は、診療室の狭いスペースや移動使用を想定した運用に適する。周波数帯と注水レンジは硬組織の切削と温度管理の両立を図るための基本的スペックであり、適切に設定すれば骨細胞の熱損傷リスクを低減しつつ効率的な切削が可能である。LEDハンドピースの明暗切り替えは、術者の視覚的疲労や写真撮影時の反射対策にも寄与する実用的な機能である。
プログラムメモリーとモード設計
9つのプログラムはSURG、ENDO、PERIOの各モードを横断して構成され、チップ種や術式に応じた出力、注水量、バースト設定、ライトの有無などを記憶できる。術者ごとにプリセットを分けることで、交代時にも同一の切削感を再現でき、トレーニング効果の向上や術者依存の振幅差の平準化に寄与する。術中に細かなパラメータ調整を繰り返す必要が少なくなるため、チェアタイムのばらつきを抑えられるのが臨床上の利点である。
プログラム設計は、初期設定から臨床経験に基づく微調整を行う運用が望ましい。例えば硬い皮質骨や柔らかい海綿骨で出力・注水のバランスを変えるといったシナリオを想定して複数のプリセットを用意しておくと、症例ごとの切削効率と安全性を両立しやすい。トレーニングやスタンダードオペのチェックリストと組み合わせれば、手順の標準化とヒューマンエラーの低減に効果的である。
保存と呼び出しの手順
プログラムの記憶は操作パネルでPROGRAMを選択し、各設定値を確認した後にMEMORYを長押しすることで行う仕組みである。電源再投入後も設定は保持され、PROGRAMの−+操作で保存したプリセットを順次呼び出せるため、術前準備の確実性が高い。保存前にはチップの種類、出力、注水量、ライト、バーストの順で項目を確認するチェックリストを用いる運用が安全である。
術前の運用としては、事前に代表的な症例ごとのプリセットを複数用意しておき、アシスタントと術者で共有しておくことが望ましい。交代する術者がいる場合は個別プリセットを割り当て、呼び出し時に確認サインを行うなどオペレーションの慣行化がミス防止につながる。定期的に保存済みパラメータの見直しを行い、消毒やチップ供給フローと整合させることも重要である。
出力制御と切削効率
本機のフィードバック機能は負荷変化を検知して出力を自動補正し、オートチューニングは設定出力を先端で発揮できるよう発振を最適化する。これにより、チップ先端での実効振幅のばらつきを抑え、切削効率の再現性を高めることができる。特に硬い皮質骨では安定した振幅が重要であり、オートチューニングの恩恵が大きい。
バースト機能は皮質骨に対して周期的な微少振動を重畳させることで効率的な切削を実現する; B1 10 Hz、B2 30 Hz、B3 60 Hzの3段階から選択できる。バーストは切削泥の排出や破砕効率を上げる反面、使い過ぎると切削痕が粗くなるため、開窓の仕上げや歯根膜近傍などの繊細な部位では通常振動に戻す判断が必要である。注水と出力の組み合わせを調整しながら適切なバーストレベルを選ぶことが、安全かつ効率的な切削につながる。
ライト付ハンドピースの視認性
LEDライトは光量を高・低・オフの3段階で切り替えられ、術野の反射や血液でまぶしさが強い場面、あるいは深部で影になりやすい場面で微調整が可能である。ツインLED構成はシャドーを抑える効果があり、粘膜剥離や薄い膜の確認といった微細操作における安全域を広げる。光を完全にオフにしても出力再現性が担保されるため、光過敏の患者や術中撮影での反射対策にも対応しやすい。
ライトの利用は術式や撮影計画に合わせて柔軟に切り替えるのが実務的である。深部作業や止血直後の暗い術野では高光量が有効である一方、血液が多い場面では低光量やオフの方が視認性が上がることがある。ハンドピースの光学的特性を理解し、術野状態に応じて素早く調整できるようアシスタントと合図を決めておくと効率的である。
注水と冷却設計
注水量は10–75 mL/minの範囲で5段階に分かれており、先端の冷却と術野の視認性を両立させる設計である。サイナス側洞での骨粉洗い出しや膜の視認性確保など、症例ごとに求められる流量が異なる場面でも柔軟に対応できる。注水は熱管理の要であり、出力に応じて1段階高めの設定を起点とする運用が安全性を高める。
自院の吸引性能やアシスタントのポジショニングを踏まえて注水設定を決めることが重要である。過剰な注水は術野の視認を損なう一方、過少では先端加熱による骨細胞損傷リスクを高める。術後の自動クリーニングモードも装備されており、注水回路内の残留を低減して感染管理とメンテナンス性を向上させることができる。
互換性と運用設計
VarioSurg 3はFC‑78フットコントロールにより、超音波のオンオフ、注水量選択、プログラム選択を足元で完結できる設計である。リンクモジュールを追加すればSurgic Pro 2とBluetoothで連携し、1台のフットコントロールで両システムを切り替え運用できるため、術者は手を術野から離さずに器材の機能を切り替えられる。連結スタンドを用いれば2台を安定して積載でき、カート上の占有を抑えられるため、手術室や外来でのスペース効率が向上する。
国内ではSurgic Pro 2に加え、他社インプラントモーターとの連携事例も公表されており、既存の導入済み機器との整合を取りやすい点が導入メリットとなる。ただし、実運用ではソフトウェアやファームウェアのバージョン、接続仕様によって挙動が変わるケースもあるため、導入前にメーカーまたは販売代理店と具体的な接続確認を行うことが望ましい。運用設計段階でフットコントロールの操作フローやスタッフィング、メンテナンス体制を明確化しておくと稼働後のトラブルを減らせる。
運用面では、機器の積載方法や移動経路、電源や吸引など周辺機器との同時運用を考慮する必要がある。連結スタンドやカート上の配置を統一し、使用前後のセッティング動作を標準化しておくと、スタッフ教育が容易になり術中の無駄な操作を減らせる。
チップラインナップと滅菌
VarioSurg 3は骨切り、骨整形、抜歯、サイナス、エンド、ペリオまで網羅するチップ群を揃えており、用途に応じた専用チップ(V‑P11R‑S、V‑P11L‑S、V‑P12‑Sなど)も用意されている。チップごとに最大許容パワーや推奨回転条件が設定されているため、取扱説明書の指示を遵守し、指定以上の出力で使用しないことが重要である。過負荷での使用はチップの損傷や術野への悪影響、機器故障の原因となる。
チップやホルダーは135℃までのオートクレーブに対応しており、滅菌耐性が確保されている。また、標準で滅菌ケースが付属するため、手術ごとのセットアップと回収を平準化しやすく、器材管理の効率化と滅菌トレーサビリティの向上につながる。ただし、滅菌工程では材質や消耗部品の状態を定期的に点検し、摩耗や亀裂が認められる部品は速やかに交換することが求められる。
滅菌方法や保存方法についてはメーカーの推奨手順を遵守することが前提である。オートクレーブ温度と時間、乾燥条件などの管理を徹底すれば器材寿命を延ばし、術中トラブルの低減につながる。
連携運用の現実解
インプラント埋入の臨床では、回転器具での掘削から超音波による繊細な処置、再び回転器具に戻すといった器具の行き来が発生する流れは珍しくない。リンク機能を活用すれば、フットコントロールの踏み替えのみでモードを切り替えられるため、術者は終始術野に手を置いたまま作業を継続できる。これにより術中のユニット操作を極力排し、器具交換と吸引など実際の処置に集中できる利点がある。
こうした運用は術者の心理的ストレスを低減し、スタッフ教育の短縮にもつながる。特に術中の手順を標準化しやすく、アシスタントや看護師が予測可能な動作を取りやすくなるため、連携ミスの防止にも寄与する。ただし、実際の運用では必ず事前に機器間の接続テストを行い、フットコントロールの切り替えタイミングや表示類の確認を行っておくことが重要である。
さらに、導入前には既存機器との互換性、保守体制、消耗部品の供給状況を確認しておくと運用リスクを低減できる。連結スタンドやカート配置を含む運用設計を現場でシミュレーションし、必要な教育プログラムを整備することを推奨する。
経営インパクトと簡易ROI
VarioSurg 3 標準セットとフットコントロール無しセットの価格、LEDハンドピース単体、リンクモジュール、リンクスタンド、イリゲーションチューブ(10本入)などの付属品・消耗品価格が公開されている点は、導入判断において重要な情報である。公開価格は初期投資の大きさやランニングコストの把握に直結するため、購入前に一覧化して院内で共有しておくべきである。消耗品については、現状で示されているイリゲーションチューブの10本単位価格から、1症例あたりの材料費が約1,600円であることが起点となるが、これはあくまで基準値であり実運用での消費量を把握する必要がある。
チップの摩耗費用は術式や術者の使い方で大きく変動するため、自院での実測データを蓄積しておくことが最も確実である。加えて、リンク運用によってカートやフットコントロールを他機器と共有できる場合、他機器側への配賦が下がるため全体の機器コスト配分に影響を与える。機器の配賦ルールや耐用年数、残存価額などの会計方針を院内で統一しておくことで、比較可能なROI試算が可能となる。
導入効果は単純なコスト削減だけでなく、チェアタイム短縮、術者・アシスタントの作業負荷低減、患者満足度や自費術式の採否への影響など多面的である。これらは施設ごとに差があるため、定量化可能なKPI(症例当たり時間、同意率、再治療率、平均売上など)を設定し、導入前後での比較を行うことが望ましい。
一症例コストの式
1症例あたりのコストは、資産配賦分(年当たり)をA円、年間症例数をN件、年間保守費をB円、消耗品費をC円、チップ摩耗をD円と置くと、概ね以下の式で表せる。 A÷N+B÷N+C+D
ここでAは機器の会計処理に依存するため、院内で耐用年数と残存価額を統一して算出する必要がある。一般的には定額法(定額償却)で計算し、A=(取得価額−残存価額)÷耐用年数という形で求めるのが実務的である。Bは年次保守契約や点検費、Cはイリゲーションチューブ等の使い切り材料費の実測値、Dはチップの平均寿命に基づく1症例当たりの摩耗費であるため、術式別・術者別にデータを分けて管理すべきである。
参考として仮の数値で簡単なイメージを示す。仮に機器の減価償却年額Aが642,857円、年間保守Bが200,000円、年間症例数Nが600件、消耗品Cが1,600円、チップ摩耗Dが500円である場合、1症例コストは642,857÷600+200,000÷600+1,600+500=約3,504円となる(数値は例示であり実際とは異なる)。こうした試算を複数の前提(耐用年数、症例数、チップ寿命など)でシミュレーションし、感度分析を行うことが重要である。
チェアタイム短縮と人件費の見立て
術中のユニット操作がフットコントロールへ集約されることで、術者やアシストの手戻りや備品の取回し時間が減少し、チェアタイムが安定・短縮する可能性がある。短縮分をt分、アシスタントの単価をs円/分、術者の単価をp円/分とすると、1症例あたりの時間価値は t×(s+p) と表せる。時間価値が前節で算出した1症例コストを上回る場合、単純な人件費面での回収が期待できる。
具体的な評価には、導入前後での時間測定(タイムモーション分析)が不可欠である。準備時間、術中の器具操作時間、後片付け時間などを細かく記録し、短縮された時間のうち実際に人件費削減に直結する部分と、増患や診療効率向上による追加収益に繋がる部分を分けて評価する。時間短縮による効果は、単純コスト削減以外に自費術式の説明同意率向上や再治療率低下による収益改善も期待できるが、これらは施設間で幅が大きいため院内KPIで継続的に確認する必要がある。
最後に実務的な運用提案を示す。導入検討時には(1)機器取得費・付属品・保守費を一覧化し減価償却前提を決める、(2)術式別・術者別にチップ寿命と消耗品消費を計測する、(3)チェアタイムを導入前後で計測して時間価値を算出する、(4)主要KPI(症例数、平均収益、同意率、再治療率、スタッフ稼働率)を設定して一定期間で評価する。この一連のデータを基に、感度分析と回収期間試算を行えば、投資判断の精度が高まるであろう。
使いこなしのポイント
超音波器具の使い方は場面ごとのメリハリが重要である。目的とリスクを常に意識し、硬組織と軟組織の境界では操作モードを切り替えることで安全性と効率が両立する。以下に主要操作のポイントを術中の観察やトラブル回避に即して整理する。
バースト(Burst)の使い分け
バーストは皮質骨の切削や骨窓の立ち上げといった限定的な硬組織操作に有効である。断続的に高いエネルギーを与えられるため効率よく骨を削れる一方、周囲の軟組織や膜に近接した状況ではダメージを与えやすい。膜近接や仕上げ段階では通常の連続振動に戻し、微細なコントロールを優先することが安全確保につながる。
バースト使用時は刃先の向きと接触圧に注意し、不要な深追いを避ける。切削部位の温度上昇や骨粉の堆積は視野不良や熱損傷の原因となるため、適宜注水と吸引で排除する。術者は事前に使用範囲を決め、同僚と共有しておくことでオペ室での意思疎通ミスを減らせる。
注水の調整
注水は出力設定より一段高めの流量から入れて、視認性と骨粉の排出状況を見ながら段階的に調整するのが基本である。最初から過剰な注水をすると視野が乱れ、逆に少なすぎると骨粉が充満して操作性が落ちるため、バランスを見極めることが肝要である。
注水量を変える際は術野の視認性、出血の有無、骨粉の挙動を総合的に観察する。必要に応じて吸引のタイミングを合わせ、注水が視野確保と冷却の機能を果たしているか常に確認する。術野深在部ではやや多め、浅部では抑え目にするなど部位ごとの調整も有効である。
ライトの設定
ライトは深部ではHIGH、浅部ではLOW、反射が強い場面ではOFFを使い分けることで術野のコントラストを最適化できる。深部で照度を上げると深部構造が見やすくなるが、浅部では強過ぎる光が反射やグレアを生じさせるため、照度を下げることで微細操作の視認性を向上させる。
反射の強い器具や湿潤面に光が当たると視界が乱れるため、そのような場合はライトを一時的に消すか角度を変えて反射源を避ける。術者は光源の設定だけでなく手元やモニターへの映り込みも確認し、無理に明るさを上げるのではなく局所的な調整で対応することが望ましい。
フットコントロールの配置と操作
フットコントロールは術者の利き足の可動域を中心に配置し、無理のない姿勢で操作できる位置に固定することが基本である。足元の動作は細かな出力調整やモード切替に直結するため、手元の安定と同様に足元の安定も術中の安全性に影響する。
付属のハンガーを活用して足元の移動を素早く行えるようにすると、体勢を大きく崩さずに細かい操作が可能である。術前に数回のリハーサルを行い、踏み替えや反応のタイミングを確認しておくと、実際の手術での混乱を防げる。操作感の違いは術者ごとにあるため、術者の癖に合わせた配置を心がける。
プログラムメモリーの活用法
プログラムメモリーは術式と術者の組み合わせで最低でも三パターン以上を登録しておくと、術中の切り替えが速く安定する。標準設定、浅部用、深部用といった具合に状況別に分けておくことで新人でも迅速に最適な設定を呼び出せる。
新人は登録パターンの範囲で手技を始め、慣れてきた段階で微調整を行うのが安全である。設定変更を行った際は必ず記録を残し、誰がどの設定で行ったかをチーム内で共有することで術後の検討がしやすくなる。定期的にメモリー内容を見直し、器具の性能や術式の変化に合わせて更新することが望ましい。
まとめると、器具のモード選択と周辺設定は操作目的と術野の状況に応じて柔軟に切り替えることが重要である。安全性を第一に、見える化と記録を徹底することで習熟を早め、トラブルを未然に防ぐことができる。
適応と適さないケース
超音波器具は精密で選択的な骨切除や窩洞形成に優れており、特に上顎洞側方アプローチのようなサイナス側方の骨窓形成や、薄い皮質骨の局所的な骨切除に適している。抜歯が困難な症例での局所的な骨除去や、根尖病変に対する逆根管処置(逆根管形成や窩洞形成)のように、削り過ぎを避けつつ視認性を重視した処置に有用である。微細な操作が要求される部位では、熱的・機械的損傷を最小限にしながら目的部位を処置できる点が長所である。
適応例と不適応例を整理するとわかりやすい。適応としては上顎洞窩洞形成、薄い皮質骨の局所切開、抜歯困難例の部分的骨除去、根尖手術の窩洞形成などが挙げられる。一方で不適合となるのは、骨量が極端に少ない部位で大きな体積の骨除去が必要なケース、金属との接触を避けにくい場面や大量の骨削除を迅速に行う必要がある場合である。こうした状況では回転器具(ハンドピースやバー)との役割分担を行い、適材適所で機器を使い分けることが妥当である。
使用上の注意と禁忌は必ず添付文書に従う必要がある。チップ(先端)に指定された最大出力や注水条件を超えてはならず、術者が過度に押し付けると先端の過熱や熱伝導による周囲組織損傷を招くおそれがあるため注意が必要である。適切な注水、断続的な操作、チップの摩耗や損傷の定期的な確認、製造元の使用条件に基づく設定と技術トレーニングを徹底することで安全性と効果を高めるべきである。術前には画像診断で骨量や解剖学的リスクを評価し、必要に応じて代替手段や補助手段を検討することが望ましい。
導入判断の指針
保険診療中心で効率を最優先する診療所にとっては、抜歯や小外科処置におけるチェアタイムの安定化と再治療率の低下が最も大きな導入動機となる。プログラムメモリー機能により術者間での切削感を揃えやすく、熟練度にばらつきがあるチームでも作業標準化が進むため教育負荷を圧縮できる。結果として診療回転が向上し、同時に術後トラブルの減少が見込めるため収益性改善につながる。
自費強化型クリニックでは、サイナスリフトや骨造成などの説明・同意を得る場面で視認性と低侵襲性を訴求しやすい点が魅力になる。治療時の写真や術式の一貫性が保たれることで症例提示や症例数の積み上げがしやすく、患者への説明材料としての価値も高い。ビジュアルによる説明が合意形成を助け、来院から契約までの歩留まり改善にも寄与する。
口腔外科やインプラントを中心とする運用では、Surgic Pro 2などとのリンク運用によってフットワークを統一できる点が重要である。回転器具と超音波デバイスの切替による作業ロスを最小化することで手術時間の短縮と術中ストレスの低減が期待できる。設置面ではリンクスタンドに縦積みして動線を短く保つことが推奨され、作業効率と衛生管理の両面で利点がある。
導入判断を行う際は以下の観点を確認するとよい。診療科目や症例構成を見て投資対効果を試算すること、スタッフ教育の計画と術者間でのプロトコール統一、既存機器との連携可否とメンテナンス体制、消耗品やランニングコストの見積もり、患者説明用の写真・説明資料の運用方法である。導入後はチェアタイム、再治療率、患者満足度、症例承諾率などのKPIを設定して定期的に評価を行い、試用期間やスタッフのフィードバックを基に運用ルールを固めることが成功の鍵である。
よくある質問
Q プログラムメモリーは何件保存できるか
A SURG×5、ENDO×2、PERIO×2の合計9件である。各プログラムは術式や使用するチップごとに個別に保存でき、出力(パワー)、注水(イリゲーション)、バースト設定、ライト出力の状態を記憶するため、手技中に必要な条件をワンタッチで呼び出せる点が特徴である。術者や術式ごとにプリセットを用意しておけば、設定ミスや手技中の煩雑さを軽減できる。
保存されたプログラムは本体のボタン操作で素早く切替可能であり、手元やフットコントロール操作との連携で実運用性が向上する。日々の運用では、症例や使用頻度に応じてプログラムの名称を分かりやすく管理し、定期的に設定の見直しを行うことが推奨される。
Q バーストは常用してよいか
A バーストは皮質骨での切削効率を高める目的で有効であるが、仕上げ工程や軟組織や神経血管に近接する場面では通常の連続振動に戻すのが安全である。バーストは断続的に高振幅の動作を行うことで骨への食いつきや切削抵抗を増大させるため、硬い骨質での掘削や初期侵襲で効果的である。
設定はB1が10 Hz、B2が30 Hz、B3が60 Hzの3段階あり、骨質や目的に応じて選択する。高周波ほど断続の頻度が高く切削生産性は上がるが、チップの発熱や振動伝搬が増えるため、術者は骨質、チップ状態、周辺組織の位置関係を踏まえて適宜切替える必要がある。臨床ではまず低いバーストから試し、必要に応じて段階的に上げると安全性と効率のバランスが取りやすい。
Q ライト付の利点は何か
A 本機はLEDライトをHIGH、LOW、OFFの三段階で切替でき、深部視認性の向上や局所反射への対策に有用である。特に深部や狭隘部位では光源が近いことで影が出にくくなり、操作視野が安定するため精密な操作がしやすくなる。写真記録を行う場面では照度の再現性が向上し、術前後の比較や記録の質も高まる。
また光量を状況に応じて調整できるため、反射による視認障害や術者のまぶしさを抑えつつ必要十分な照度を確保できる。ライトをOFFにして観察用ライトに依存する運用にも対応できるため、多様な手技や撮影条件に柔軟に対応可能である。
Q 連携運用はどこまで可能か
A リンクモジュールを追加することでSurgic Pro 2とBluetoothで接続し、1台のフットコントロールで機器の切替を行う運用が可能である。専用スタンドに複数台を積載しておけば省スペース化が図れ、治療室のレイアウトや作業動線を効率化できる。こうした連携は複数の機器を使い分ける現場で実用性が高い。
他社製インプラントモーターとの連携については国内で情報が公開されている機種もあるが、適合性や制御仕様は随時更新されるため、具体的な接続可否や動作保証については販売元の最新資料で必ず確認する必要がある。Bluetooth接続やソフトウェアのバージョン差による挙動の違い、フットコントロールの割り当て確認など、導入前には実機での動作検証を行うことを推奨する。
Q 1症例の材料費はいくらか
A イリゲーション(灌流)チューブは10本入りで価格が公表されており、1本当たり約1,600円である。1症例あたりの材料費を算出する際は、このチューブ単価に加え、使用したチップの摩耗分を按分して計上する必要がある。チップの摩耗寿命は使用頻度や術式、切削条件により大きく変わるため一概の数値は示せないが、実務ではチップ1本を何症例で使い切れるかを院内で実測し、按分単価を算出してコスト管理する。
参考例として、仮にチップ1本を10症例で使うとした場合はチップの購入価格を10で割った額を1症例分の按分費用として加算する。消耗品以外に滅菌費用や洗浄コスト、廃棄コストも運用コストに含めて計算すると実際の症例当たりコスト把握がより正確になる。臨床現場では材料費の透明化と定期的な見直しを行い、コストと安全性のバランスを保つことが重要である。