モリタ「シロプロ 3rd Generation」レビュー!インプラント手術特化型の機能
製品の概要
シロプロ 3rd Generationは、ビエンエア製のインプラント外科用ユニットであり、日本国内ではモリタが取り扱う医療機器である。販売名は「シロプロ 3rd Generation」、一般的名称は「電動式骨手術器械」とされ、医療機器の分類は管理医療機器に該当する。医療機器認証番号は231AKBZX00017000であり、国内流通に必要な認証を取得している点が明示されている。
本体はコンソールを中核とし、MX‑i LED 3rd Genマイクロモーター、CA 20:1 Lマイクロシリーズのコントラ、フットペダル、イリゲーション関連一式を含むセット構成で供給される。セット内容は臨床で必要な基本構成を満たすよう設計されており、設置占有寸法は幅242×奥行242×高さ103mm、質量は約2.8kgである。持ち運びや併設作業台への設置を想定したコンパクトなサイズと軽量性を特徴とする。
操作体系の中核は回し押し式のダイヤルであり、このダイヤルは着脱して滅菌処理が可能な設計となっているため、衛生管理を考慮した運用ができる。表示部は大きな数字とアイコンで回転数、トルク、回転方向、注水量などを明示し、視認性を高めている。プロトコルは基本の3ステップに加え最大5ステップまで登録可能であり、臨床手順に応じた細かな設定保存が可能である。
臨床現場では、マイクロモーターとコントラの組合せ、フットペダル操作、イリゲーション機能を連動させて使用することで、インプラント埋入や骨形成に関する各種処置に対応することが想定される。具体的な使用方法や適応範囲、メンテナンスについては製品付属の取扱説明書および販売元の指示に従うことが重要である。
主要スペックと臨床的意味
表示と操作
4.3インチのカラーディスプレイは回転速度やトルクをリアルタイムで表示し、術中の状況把握を視覚的に支援する。表示内容が一目で確認できることは、術者が視線を必要最小限に留めたまま適切な操作判断を下すうえで有利である。低速域でのトルク表示が明確に設計されている点は、特に繊細な初期掘削や埋入のフェーズで有用である。
操作系はフットペダル主体で構成され、ポンプ作動、回転方向切替、ステップ遷移などを手元に触れず制御できるため、無菌性の維持と術野の確保を両立しやすい。ダイヤルは着脱して滅菌が可能であり、ガラスパネルは清拭性を考慮した仕上げとなっているため、術中のコンソール接触を最小化し感染対策に寄与する。これらのヒューマンファクター設計は手術効率と安全性の向上に直結する。
ドライブ性能
モーターは100〜40,000rpmの広範な速度レンジを持ち、20:1のコントラアングルなどの減速機構を組み合わせた場合、ツール先端で最大約70Ncmのトルク到達が可能である。モーター側の最大トルクが5Ncmである点と減速比の組み合わせにより、必要な到達トルクを確保している。出力規定は最大95Wであり、これにより切削や埋入の工程で余力を持った動力伝達が期待できる。
術中操作においては、フットペダルから段階的にトルクを増幅できる機能があるため、術者は視線を外すことなく5Ncmまたは10Ncm単位で余剰トルクを補正できる。ドリルの噛み込みや被削骨の硬さが変化した際に、過大な負荷に至る前に細かく追従させられることは、器具破損や周囲組織への過剰な負荷を抑える点で臨床的に有用である。
注水系
機器はペリスタルティックポンプを内蔵し、注水量は30〜150ml/minの5段階で設定可能である。生理食塩水はディスポーザブルのラインを介して供給され、ポンプ機構と液体が直接接触しない構造とすることで衛生性を確保している。こうした設計は感染リスク低減と滅菌管理の簡便化に寄与する。
注水は切削時の骨温上昇抑制と切削粉の除去に直接関係するため、流量を術式や骨質に応じて調整できることが重要である。適切な流量管理は骨熱傷の予防に役立ち、術後の治癒過程にも好影響を与える可能性がある。術者と補助スタッフはラインの閉塞や流量不足が発生しないよう事前確認を行うことが求められる。
安全設計
取扱説明書(IFU)にはポンプ作動確認、ラインの単回使用、滅菌用保護シートの交換など具体的な術中安全項目が明記されている。表示は速度やトルクの過大設定時に色で警告するなど視覚的な注意喚起を行い、低速域でのトルク監視機能が術中の安全性を高める設計となっている。これらはヒューマンエラーを軽減し、迅速な対応を促す効果が期待できる。
実際の臨床運用では、IFUに従った点検・準備とスタッフ教育が不可欠である。定期的な校正や保守、消耗品交換の管理を徹底することで機器本来の性能と安全性を維持できる。表示による警告や監視機能を活用することは、術中合併症の予防や機器トラブル時の迅速な介入につながる。
互換性と運用のポイント
ハンドピース適合
標準セットはCA 20:1 Lマイクロシリーズに最適化されており、インプラント治療での使用を前提とした設計である。ハンドピースは内部注水経路を内蔵しており、外付けチューブの取り回しによる煩雑さを低減するため、術者の手元操作性が向上する。視野確保と安定性を高めるためにバーロック機構やDualookの二光源が採用されており、術中の確認作業がしやすく設計されている。
他社製のモーターやケーブルとの組み合わせは仕様保証外となる点に注意を要する。IFU(使用上の注意)に沿った組み合わせを維持することが安全性と機器寿命の観点で重要であり、適合表にない組合せは避けるべきである。実務上は、導入前にメーカー確認を行い、院内で使用可能な組み合わせを明確にしておくことが望ましい。
Plusとの違い
シロプロ PLUS 3rd Genは標準機と比べて口腔外科領域での拡張運用を想定しているため、1:1や1:2、2.5倍速など複数のギア比に対応可能である。この仕様により抜歯や骨形成など高回転での処置が多い医院では運用の幅が広がり、術式に応じた細かな回転制御が可能になる。ギア比の選択肢は臨床ニーズに合わせた機器選定の重要な要素である。
したがって、インプラント治療が中心で日常的に口腔外科的処置をあまり行わない施設には標準機で十分な場合が多い。一方で、抜歯や骨造成を頻繁に行う施設ではPLUSの選択が実務的である。導入前に自院の術式構成と処置比率を見直し、必要な機能を明確にしておくことが賢明である。
感染対策と消耗品
イリゲーションラインは単回使用が前提とされ、外部注水用の10本入は税別15,000円、CA 20:1 L用の内部注水系10個入は税別40,000円で供給されている。またコンソールのプロテクションフィルムは10枚入で税別7,500円が公開されている。これらの消耗品を規定通りに使用することで、手術ごとの交差汚染リスクを低減できる。
単回使用の徹底に加えて、コンソールやハンドピース周辺の保護フィルムを併用することで、機器表面への汚染が抑えられ、清掃・消毒作業の効率も向上する。コスト面と感染対策のバランスを考えつつ、消耗品在庫を安定的に確保する体制を整えておくことが重要である。
教育と校正
プリセットのプロトコルはあくまで目安であり、実際のパラメータはインプラントメーカーや使用する器材の指示値に従うことがIFUで強調されている。院内教育ではプリセットの意味を理解させるとともに、実機を用いた操作訓練を実施し、個々の術者が安全に操作できるようにすることが事故防止につながる。
具体的にはステップ切替やトルクブーストの手順、ポンプや注水ラインの装着確認、低速域でのトルク表示の意味と挙動を実機演習で統一することが有効である。また定期的な校正と記録管理を行い、トルクや回転数の精度を維持する体制を整えておくと、長期的な安全運用とトラブルの未然防止に寄与する。
使いこなしと失敗回避
機器を安全かつ効率的に運用するためには、術前の確認から術中の挙動把握、事後のトラブル対応まで一連の流れをルーチン化することが重要である。チーム全員が役割を理解し、手順とチェックポイントを共有しておくことで、ヒューマンエラーを減らし、機器トラブル時の対応も迅速になる。特にインプラント手術では器具の小さな違いが結果に直結しうるため、現場での習熟とマニュアルの厳守が求められる。
術前準備、トルク管理、プロトコル設計、トラブル対応の各項目は相互に関連している。どれか一つが欠けても安全性と手術効率は低下するため、各項目ごとに責任者と確認方法を決めておくのが現場運用の基本である。
術前準備
ポンプとラインの正しい装着は術中トラブルを未然に防ぐ最も基本的な工程である。装着後にバック滴下が適切に行われているかを視認し、低速域でのトルク表示が安定しているかを必ず確認する。表示の挙動に異常があればデバイスの再起動や代替機の用意を検討することが望ましい。
ラインと保護シートは単回使用であり、手術ごとに交換する必要がある。消耗品の在庫管理と交換タイミングを術前チェックリストに組み込み、使い回しや不適切な保管がないようにする。既定のプロトコルはメーカー指示値に合わせて調整し、コンソールやダイヤルの誤操作で無意識に設定値を変えないよう術前にロックやカバーを確認しておく。
トルク管理の勘所
骨質が硬い部位や径拡大の最終段階ではトルクが急激に上がりやすく、過剰な負荷で器具やインプラントにダメージが及ぶリスクがある。フットペダルのブースト機能は5Ncm刻みで微調整可能なため、コンソールに触れずにトルクを段階的に上げ下げし、適切な安全域を見極めることができる。
低速域でのトルク監視を怠らないことが重要である。逆回転時に自動でブーストがかかる仕様を理解しておけば、噛み込み解除時に速やかに対応できる。術者は表示の変化だけでなく手指感覚や顎骨の抵抗感も併せて評価し、必要に応じてスピードや注水量を調整することが安全性向上につながる。
プロトコル運用
基本はパイロット、拡大、埋入の三段構成であるが、骨質や使用するシステムに応じて段階を五段にまで細分化することで適合性が高まる。P1とP2では主に回転速度を制御し、後段で埋入トルクの上限を明確に定める流れにすると教育負荷が軽減されるため、新人教育にも適している。
ダイヤル操作は滅菌処理可能なハンドコントロールで手元操作を許容するが、術野の無菌性と術者の視線を優先する場合はフットペダル主体の運用にする。プロトコルはメーカー推奨値を基準としつつ、臨床状況に応じて幅を持たせるが、常に上限を超えないことを運用ルールとしなければならない。
ステップ設計の例
パイロットドリルで初期方向と深さを確保し、その後の拡大段階で径を徐々に広げる設計が現実的である。埋入前にタッピングや窩洞洗浄を挟むことで骨片の除去や冷却が行え、埋入時の抵抗を低減できる。各ステップには回転数、注水量、トルク上限を明確に設定し、記録と振り返りができるようにしておくと良い。
メーカー推奨値を超えない範囲で各パラメータに幅を持たせることで、個々の骨質や患者条件に応じた最適化が可能になる。ただし柔軟性を持たせる場合でも、安全上の最低・最高値を明示し、手術チームで共有していることが不可欠である。
トラブル対応
ポンプの不作動や空ボトル検出は自動化されていない機種もあるため、術中に定期的な視認チェックを行い、助手が声をかけるルーチンを導入しておくことが有効である。装置の警告音や表示だけに頼らず、目視と聴覚で異常を早期発見することがトラブルの拡大防止につながる。
過熱アラートが出た場合は直ちに冷却を行い、ラインの屈曲や詰まりがないかを点検する。異常が疑われるときは手術を中断して点検と交換を優先し、必要ならば代替器材での続行を判断する。術後はトラブルの詳細を記録し、原因分析と再発防止策をチームで検討することで運用の安全性を高めることができる。
適応と適さないケース
本機はインプラント埋入における一次ドリリングから最終拡大、タッピングまでの一連の窩洞形成に適している。骨質に応じたトルク制御や回転数調整が可能なため、軟性骨から中等度の硬さまでの骨質では安定した窩洞形成とインプラントの初期固定が期待できる。術前の画像診断で骨量や骨質を把握し、適切なドリル径と回転条件を選択することで、過度な発熱や骨破壊を防ぎつつ予定通りの埋入深度を得ることが可能である。
一方で、抜歯や大型の骨鋤削、骨整形など高回転や多様なギア比を頻繁に用いる外科処置を主体とする場合は本機単独では十分でないことがある。特に硬い骨のデブリードマン、埋伏歯の抜去や大きな骨ブロック採取、急速な骨切削を要する処置では、より高出力・多段ギアを備えたPLUS等の機種を検討した方が適切である。こうした症例では切削効率と熱管理、ならびに専用器具の互換性を重視すべきである。
ピエゾ外科や超音波骨切削器具を主力とする症例群では、本機単独での対応は適応外となる。ピエゾは微細な選択的骨切除や神経・膜の保護が求められる場面で優れた効果を発揮するため、広範囲にピエゾを用いる医院では併用体制を整え、症例ごとに最適な器材を組み合わせて使用することが望ましい。最終的には術式、患者の骨質・解剖学的条件、術者の熟練度を総合的に評価して機種選定を行うべきであり、必要に応じてPLUS等の代替機種や補助機器を導入することを勧める。
導入判断の指針
保険中心で効率を最優先する医院では、機器の操作が統一されていることが教育負担を大きく下げる。ステップ登録などのプリセット機能やフットペダルによる操作の一貫性があれば、アシスタントや代診医への継承が容易である。日常的なインプラント症例はプロトコルを単純化して回すことが多いため、複雑な設定や頻繁な切り替えを要しない機種の方が稼働率を高めやすい。
自費主体で審美や即時埋入が多い医院では、低速域でのトルク管理と表示の視認性が重要になる。微細なトルク調整ができることで埋入時のリスクを抑え、骨質に応じた繊細な操作が可能になるため術者のストレスを軽減する。スマートな表示や直感的なインターフェースは術中の判断を支え、即時修復や審美領域での成功率向上につながる可能性が高い。
口腔外科中心で幅広い外科処置を行う医院は、ギア比の選択肢や機能拡張性を重視して評価すべきである。例えばPLUSとされるギア比バリエーションがある機種は、抜歯・骨整形・長時間の外科操作など多様なニーズに応えることが期待できる。さらに1対1や1対2といった伝達比での運用可否、ハンドピースの互換性、滅菌ワークフローやメンテナンス体制も導入前に確認しておくことが不可欠である。
最終的な導入判断を下すにあたっては、以下の観点を総合的に検討することが望ましい。 ・日々の症例構成と優先する診療目標に対する適合性
・スタッフ教育や業務フローに与える影響と習熟時間
・トルクレンジジ、表示性、操作性といった臨床上の安全性指標
・機器の拡張性、ハンドピース互換性、滅菌・メンテナンスの実効性
・ランニングコストと初期投資のバランス、アフターサービスの充実度
これらを踏まえ、医院ごとの診療方針と日常運用を想定した実地テストやスタッフの意見集約を行うことで、導入後のミスマッチを最小限に抑えることができる。可能であれば複数機種でのトライアル運用を通じて、術者のフィールと現場の動線を確認することを勧める。
よくある質問
リアルタイムのトルク値は常時表示されるか
低速域での監視性を重視した設計のため、低回転時にはトルクメーターやバー表示が有効になり、目視でトルクの変化を確認できる仕様になっていることが多い。術式上も低速での確認と段階的な増減を基本とし、安全域を維持しながら操作する運用が推奨される。
ただし、実際の表示方式や常時表示の可否は機種や設定によって異なる。高回転域では表示が簡略化されたり、数値更新の間隔が長くなる場合もあるため、導入前に取扱説明書や実機のデモで確認することが重要である。
フットペダルだけでどこまで操作できるか
フットペダルによる操作はオンオフの回転制御、回転方向の切替、ポンプのON/OFF、ステップの遷移、およびトルクの段階的ブーストなど、手元のコンソールに触れずに行える範囲が広い。これにより無菌操作を保ちながら連続的な治療が可能になる。
とはいえ、詳細なパラメータ設定や機器の初期設定、故障対応などはコンソール操作を要することが多い。ペダルによる操作の割り当ては機種ごとに異なるため、導入時にどの機能をペダルで割り当てられるかを確認し、術者とアシスタントで操作習熟を行うことが望ましい。
消耗品の1症例コストはどの程度か
公開されている目安価格を合算すると、外部注水ラインが約1,500円、内部注水系が約4,000円、保護フィルムが約750円で、合計すると概ね6,250円程度になる。これはあくまで目安であり、医院の資材構成や調達ルートによって前後する。
また、消耗品以外にも滅菌・洗浄コスト、ハンドピースの摩耗によるメンテナンス費用、梱包や保管に伴う経費などがかかる点に留意する必要がある。症例ごとの実際コストを把握するには、使用頻度や滅菌方法を含めた運用実態をもとに算出することが重要である。
標準機とPLUSの選び分けは何か
インプラント治療を中心に行う場合は、回転比や出力のレンジが標準機で十分な場面が多く、コストパフォーマンスの面から標準機での運用が合理的である。標準機は一般的な埋入や補綴処置に必要な機能を備えている。
一方、抜歯や骨形成など外科処置を高頻度で行う施設では、1:1や1:2、2.5倍速など多様な回転比に対応するPLUSモデルが運用幅を広げる。特にトルクコントロールが厳密に求められるケースや、器具の組合せで細かな速度調整が必要な術式が多い場合はPLUSの導入を検討するとよい。
価格と保証の情報はあるか
公開されている例として、標準機の価格は税別で640,000円程度が確認されている。だが、販売価格は為替やキャンペーン、販売店の価格設定によって変動するため、購入時点での見積もり確認が必須である。
保証やアフターサービスの内容は契約条件により大きく異なる。保証期間、出張修理の有無、消耗部品の供給体制、定期点検や保守契約の内容などを比較検討し、見積書や契約書で明確に確認した上で契約することを勧める。