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歯肉パック材「コーパック」と「バリケード」の違いを徹底比較

歯肉パック材「コーパック」と「バリケード」の違いを徹底比較

最終更新日

歯周外科処置の後、せっかく装着した歯肉パックが患者の帰宅後すぐに外れてしまったことはないだろうか。あるいは、術後の歯肉を保護するためとはいえ、口の中に入ったパック材を患者から「違和感がある」「見た目が気になる」と苦情を受けた経験はないだろうか。歯周手術後の創部保護に用いる歯肉パック材(歯周包帯剤)は、創面を感染や刺激から守り、安定した治癒を助ける重要な材料である。しかし現場では、「コーパックで本当に十分なのか?もっと良い代替はないか?」と悩む歯科医師も多い。特に近年登場したバリケード(Barricaid)のような光重合型パック材は、従来材との違いが気になるところであろう。

本記事では、臨床現場で培った経験と医院経営の視点を融合し、コーパックとバリケードという2つの代表的な歯肉パック材の違いを徹底比較する。単なる製品スペックの羅列ではなく、「現場でどう役立つか」「医院の収益や患者満足にどう影響するか」を深掘りすることで、読者である歯科医師が自身の診療スタイルに最適な選択をできるようサポートしたい。コーパックとバリケード、それぞれの強み・弱みと臨床的価値、そして経営的価値を客観的に分析した本比較ガイドが、先生方の次なる一手のヒントとなれば幸いである。

コーパック vs バリケードの比較早見表

まず初めに、コーパックとバリケードの主要な違いを一覧で示す。臨床性能に関わる項目だけでなく、コストや時間効率など経営判断に直結するポイントも盛り込んだ。以下の早見表を見れば、両者の特徴を一望できるだろう。

比較項目コーパック(化学硬化型)バリケード(光重合型)
組成・硬化形式二剤混合ペースト(非ユージノール)を化学重合で硬化単一ペースト樹脂を光照射により硬化
操作時間練和後約5〜10分間可塑性あり。硬化開始から約10〜15分で完全硬化(※硬化速度が異なる2種あり)光照射までは無制限に操作可能。照射20〜30秒で即時硬化し、その場で安定
色調・審美性淡ピンク〜茶色の不透明色。前歯部では装着物が目立つ場合あり半透明ピンク色。歯肉と調和し審美領域でも目立ちにくい
味・臭い非ユージノールのため刺激臭・味はほぼ無し無味無臭。嗅覚刺激も無し
患者の異物感厚みのある包帯状で、部位によっては違和感を訴える患者もいる薄く成形可能で歯肉に密着。装着感が良く違和感は少ない傾向
保持・耐久性歯間部で硬化させ機械的に固定。適切に成形すれば5〜7日間は安定して維持樹脂硬化により歯面形態に機械的ロック。適切に照射硬化すれば5〜7日間しっかり維持
除去方法術後7日目以降に器具で一塊に剥離除去(比較的容易)術後7日目以降に器具で一塊に剥離除去(比較的容易)
1症例あたり材料コスト (概算)数十〜数百円程度(キット約10000円で約60症例分使用可能)数百〜数千円程度(4本セット約30000円で約15症例分)
その他特徴硬化速度の異なる「ハード&ファスト」と「レギュラー」2種が存在。手練り後、濡らしたガーゼで表面を平滑化して使用シリンジ供給で練和不要。固化前は軟らかく流動性があり複雑な創部にも沿わせやすいが、操作時は器具や手袋に付着しやすいためワセリン併用が有効

※上記は一般的な傾向をまとめたものである。実際の操作感や硬化時間は使用環境や製品ロットによって多少異なる場合がある。また価格は目安であり、購入先や時期によって変動する点に留意されたい。

コーパックとバリケードの比較ポイント

続いて、両製品を評価する上で欠かせないポイントを項目別に詳述する。それぞれ臨床的な性能と経営効率の両面から、なぜその差が生まれるのか、そしてその差が実際の臨床結果や医院収益にどう影響し得るのかを解説する。

操作性とチェアタイムの効率

コーパックはペースト状のベース剤と硬化剤を練り合わせて用いる。適切な割合で混和すると、数分間は可塑性を保ち成形可能であるが、その後徐々に硬化が進行する。そのため、術者には時間との勝負が求められる。例えばフラップ手術直後、止血を確認しつつコーパックを練る間、患者と術者双方が数分間待機することになる。混和〜硬化までの間に焦りを感じ、思うように形が整わないまま硬くなってしまった経験は、多くの歯科医師に思い当たるのではないだろうか。ときに二度練り直す手間が生じることもあり、これは貴重なチェアタイムの消耗につながる。

一方、バリケードは光重合型であり、照射するまでは硬化が始まらないという特性を持つ。シリンジから直接創部に樹脂を盛り付け、十分に時間をかけて形態修正が可能である。術者は出血部位を慎重に覆い、歯頸部や歯間部への適合を確認しながら整えることができる。満足のいくポジショニングができた段階で光照射を行えば、その瞬間に硬化定着する。この「硬化開始のタイミングを術者がコントロールできる」という利点は、特に初心者やスタッフにも扱いやすい安心感につながる。コーパックでは「硬くなる前に急がねば」というプレッシャーがあった場面でも、バリケードなら焦らず正確な操作が可能である。

時間効率の面では、バリケードの導入によってチェアタイム短縮が期待できるケースもある。混和の手間や待ち時間が不要になるため、例えば歯周手術1症例あたり数分程度の処置時間短縮につながる可能性がある。数にすれば些細なようだが、週に複数件の歯周手術を行う医院であれば、年間で換算すると無視できない時間コストの削減となる。時間は医院にとってコストであり、余剰時間を他の診療や患者ケアに充てられれば、結果的に収益向上や患者サービス向上にも寄与しよう。もっとも、バリケード特有の操作感—例えば軟らかい樹脂が手袋や器具に付きやすい点—には慣れが必要である。実際に初めて使った際に「思った位置に留まらず手にくっついてしまう」と戸惑う声もある。しかしコツとして、ワセリンを手指や器具に塗布したり、湿らせたガーゼで形を整えると良い。慣れてしまえばバリケードの操作もスムーズになり、結果としてトータルの処置時間短縮につながるだろう。

創部保護性能と耐久性の違い

歯肉パック材本来の目的は、術後創部の保護である。ではコーパックとバリケードで、その機能に差はあるのだろうか。

コーパックは硬化後、ゴム質〜硬質の塊となり、創部を物理的に覆う。適切に歯間部に押し込んで固めれば、まるで包帯のようにフラップや創傷面をしっかりと押さえ込むことができる。その厚みと硬さから、外力や舌圧から患部を守るクッションの役割も果たす。また、縫合糸を巻き込むように固めれば糸の固定も安定し、歯肉弁の位置維持や動揺歯の一時固定にも一定の効果を発揮する。ただし、コーパックは素材自体に接着性があるわけではなく、機械的な緊密適合によって維持されている。そのため術後数日のうちに強い咀嚼圧がかかった場合など、縁下に入り込んだ部分が剥離してパック全体が脱落するリスクもゼロではない。特に厚さが不十分だったり縁をしっかり圧接できていない場合、患者が気づかぬうちに外れてしまうケースが報告されている。

バリケードは硬化するとプラスチック状の被膜となり、創面に密着する。薄く成形しても一体化した樹脂は十分な強度を持ち、破断しにくい。歯面や歯間部の形態に沿って光重合させれば、樹脂が細部にまで入り込んで機械的にロックされるため、装着後の安定性は高い。厚みが最小限で済むぶん、縁辺部の段差も小さく抑えられ、プラークの停滞を招きにくい点も見逃せない利点である。実際、ある臨床評価ではコーパック装着部位のほうがバリケード装着部位より歯垢の付着量が多いことが観察されている。理由として、コーパックの表面は練和によるざらつきが残りやすく、また厚生ゆえに歯肉との境目に段差ができやすいことが考えられる。その点バリケードは表面が比較的平滑で、かつ歯肉とピッタリ適合しているため、プラークがたまりにくい傾向がある。プラークの抑制は術後の炎症軽減につながる可能性があり、創部の静穏な治癒環境を確保する上でも有利と言える。

耐久性の観点では、両者ともおおよそ1週間程度は問題なく機能するよう設計されている。通常、歯周手術後の創面は7日程度で初期上皮化が進むため、その間パック材が維持されれば十分である。コーパック・バリケードともに術後1週間ほどで除去するのが一般的であり、逆に言えば1週間もてば臨床的には十分とも言えるだろう。どちらの材を用いた場合でも、早期に脱落してしまう原因の多くは技術的要因である。すなわち適切な形状・厚み・硬化操作ができていれば、両者に顕著な性能差は生じない。実際に、患者の疼痛や出血量、治癒速度といった臨床転帰に関しては、コーパックとバリケードの間で統計的な有意差は認められなかったとの報告もある。ただし、術中・術後における取り扱いの容易さや安定性の違いが、間接的に治癒経過へ影響する可能性には留意したい。例えばバリケードは術中に確実に創縁まで封鎖しやすいため、創面が空気や細菌に晒されるリスクを低減できるかもしれない。結果として感染リスクや肉芽の過剰増殖を防ぐ効果が期待でき、長期的な予後に寄与する可能性もある。一方コーパックは、術後早々に一部が割れたり剥がれたりすると、患者が気になって触ってしまい傷口に悪影響を及ぼす懸念がある。その意味で、確実に所定期間維持しうるパック材を選ぶことが、間接的に良好な治癒と再手術回避(ひいては医院の生産性確保)につながると言えよう。

審美性・患者満足度への影響

昨今の歯科診療では、術後経過の審美性や患者の快適性も無視できない評価軸となっている。保護材とはいえ、術後に患者の口腔内へ入れる以上、その見た目や感じ方は医院のサービス品質に直結する。コーパックとバリケードは、この点で明確なコントラストを示す。

見た目の比較では、バリケードは一目瞭然に審美的である。薄いピンク色の樹脂は歯肉の色調になじみ、透明感があるため装着していても遠目には気づかれにくい。前歯部にバリケードを使用したケースでは、患者自身が鏡を見ても「思ったより目立たないですね」と安心することが多い。とりわけ審美歯周外科(ガミースマイルの治療や歯肉整形など)を自費で行う場合、術後経過中も審美性に配慮が行き届いていることは、患者満足度を左右する重要なポイントだ。実際ある歯科医師は、ブライダルを控えた若い患者のガミースマイル治療にバリケードを用いたところ、「術後に人と会っても歯肉の包帯がほとんど分からず、本当に助かった」と感謝されたというエピソードを語っていた。患者にとって治療は術中だけでなく術後の体験も含めて評価対象であることを考えれば、バリケードが提供する高い審美性は医院の付加価値につながるだろう。

一方のコーパックは、色調こそピンク系で工夫されているものの、不透明で存在感は隠せない。厚みもそれなりに必要なため、前歯部に装着すると会話中や笑った際に明らかに「何か貼ってある」ことが見て取れる。患者によってはその見た目を嫌って、術後数日で自己判断で剥がしてしまうケースも皆無ではない。特に審美意識の高い患者や若年者には、コーパックの見た目は心理的ストレスとなる可能性がある。術者側が予め「数日間ピンク色の保護材を付けます」と説明していても、実際の見映えに落胆されれば医院への信頼低下にもつながりかねない。そうしたリスクを減らす意味でも、審美領域ではバリケードを選択する戦略は理に適っている。

患者の快適性という観点でも、バリケードには優位性が認められる。まず味や臭いについて、コーパックは非ユージノール系のため従来のクローブ油のような強い刺激はないものの、わずかに薬品臭や苦味を感じるという声がある。一方バリケードは完全に無味無臭であり、感覚刺激による不快感は報告されていない。また、装着感についても両者で差が出る。コーパックはやや大きめの異物を貼り付けた印象を患者に与えやすく、特に舌側に回り込ませた部分があると「舌に当たって邪魔」と感じられることがある。会話や飲食にも多少の支障をきたす場合があり、高齢の患者ほど異物感への適応が難しい傾向もある。それに対しバリケードは薄く滑沢に成形できるため、装着していても舌や頬粘膜への干渉が少ない。硬化後の表面も樹脂製でツルツルしており、口腔内組織になじみやすい。患者からは「付けているのを忘れるくらい違和感がない」といった声も聞かれる。こうした快適性の違いは、患者の術後満足度に直結する。実際ある調査では、被験者の8割近くがコーパックよりバリケードを好むと回答している。審美性・無味性・装着感など総合した「患者受容性」の点でバリケードが優れていることは、少なくとも患者視点では明らかなようだ。

患者満足度が高ければ、その患者がリピーターになったり紹介につながったりする可能性も高まる。現代の口コミ社会では、治療内容だけでなく「配慮の行き届いた術後管理まで含めて良い治療だった」と感じてもらうことが、医院の評判向上に寄与する。そう考えると、バリケードへの投資は単なるコスト以上のリターンをもたらすかもしれない。一方で、コーパックにも利点はある。厚みがあっても確実に創部を守る安心感は患者にも伝わる場合があり、「しっかりした包帯で覆われているほうが安心」という高齢患者もいる。また、術後の違和感については術者側の工夫で緩和できる部分も大きい。コーパック装着時には必ず余剰部分を滑らかに研磨し、縁を薄く延ばしておくことで、ある程度の快適性は確保できる。つまり最終的には術者の丁寧な処置が患者満足度を左右する面もあり、どの材料を使うにせよ患者目線の配慮は欠かせないということだ。

コストと経営面での効率

製品選択において無視できないのがコストである。コーパックとバリケードは価格帯が大きく異なるため、導入の是非を検討する際には費用対効果(ROI)の分析が必要となる。

コーパックは古くから普及していることもあり、比較的安価で入手できる。90gずつのペースト2本セットで約10000円前後で販売されており、1症例に使う量はごく数グラム程度のため、症例単価に直せば数十円〜数百円という抜群のコストパフォーマンスを誇る。混和ペーストは長期保存が可能で、頻繁に使わなくても無駄になりにくい。開業医にとって在庫コストの低さや、材料費が収益を圧迫しない安心感は見逃せないメリットだ。保険診療中心で経費を極力抑えたい医院にとって、コーパックは経営を圧迫しない現実的な選択と言える。また一度購入すれば当分買い足す必要がなく、急な手術でもストックが尽きる心配が少ないのも利点である。

対してバリケードは、最新技術を反映した製品である分コストが高めだ。4g入りシリンジが数本セットで販売される形態が一般的で、トータルでは数万円規模の投資となる。1症例あたりに使う量にもよるが、概算では材料コストが1000〜2000円台に上ることも珍しくない。これはコーパックと比べ桁違いと言ってよく、例えば保険算定の歯周手術に使う場合、材料費だけで診療報酬の相当割合を占めてしまう可能性がある。従って、収益面だけを見ればバリケードの濫用はおすすめできない。特に術後に患者がパックを誤って外してしまい、貼り直しにもう一度新品シリンジを開封することにでもなれば、コスト面でのダメージはさらに大きくなる。

しかし、経営判断は単純な材料費の安い高いだけではない。重要なのは投資対効果(ROI: Return on Investment)である。バリケードがもたらす患者満足度向上や時間短縮が、新たな収益機会や将来的な利益につながるのであれば、その投資は合理的と言える。例えば、自費の歯周形成手術を提供しているような医院では、「術後の快適性・審美性まで配慮しています」という点をセールスポイントにできれば、差別化となり患者獲得に寄与するだろう。また、先述のようにバリケードでオペ時間が短縮できれば、その分別の患者を診ることも可能になり生産性向上につながる。加えて、術後の不快感が少なければ患者からの問い合わせや緊急対応も減ると期待できる。コーパック装着患者から「外れたので見てほしい」「痛みが強い」等の電話が入って急遽対応に追われた経験はないだろうか。バリケード使用によりそうした術後フォローの負担が減れば、見えない人件費コストの節約にもなる。

さらに、中長期的視点では医院のブランディングにも関わる。高度先進の材料を積極的に採用する姿勢は、患者に「この医院は最新の技術・材料で安心できる」という印象を与える。実際、開業準備中の先生方が他院との差別化要素として最新機器や材料の導入を検討する中で、歯肉パック材の選択もまたひとつの戦略になりうる。もちろんバリケード単体で「集患力が飛躍的に上がる」などと短絡的に考えるべきではないが、総合的な患者サービス向上の一環として費用以上の価値を生む可能性は十分にある。

一方で、無理に高額な材料を導入して持て余すリスクも考慮すべきだ。年間に歯周手術を行う件数がごくわずかであれば、高価なバリケードを購入しても使い切る前に使用期限が切れて廃棄することになりかねない。コーパックであればコスト負担を気にせず必要な時にいつでも使える安心感があるが、バリケードは「ここぞ」というケースに絞って使うといった工夫も必要だろう。例えば「前歯部の手術や自費症例ではバリケード、それ以外の保険症例ではコーパック」というように使い分ける戦略も現実的である。このように適材適所で両方を使いこなすことで、それぞれの利点を享受しつつコスト管理も両立できる。

結局、経営面で重要なのは製品の価格そのものではなく、それによって得られる価値である。コーパックとバリケードの違いを正しく理解し、自院の診療内容や患者層に照らして最適な活用法を見出すことが、投資対効果を最大化する鍵と言えよう。

主要歯肉パック材の特徴と活用シーン

以上の比較ポイントを踏まえ、ここからは各製品ごとにもう少し踏み込んで解説する。それぞれどのような強み・弱みを持つか、そしてどのようなニーズ・価値観を持つ歯科医師に適しているかを述べる。自身の臨床スタイルに重ね合わせながら読んでいただきたい。

コーパックは従来から使われる定番の歯肉パック材

コーパック(Coe-Pak)は、歯周手術用包帯剤の世界ではまさにスタンダードと言える存在である。米国GC社(旧Coe Laboratories)によって開発され、非ユージノール系のペーストタイプ材料として長年にわたり世界中で使用されてきた。日本国内でも保険診療の現場で広く浸透しており、多くの歯科医師が研修や開業当初から親しんできたであろう伝統的製品である。

コーパックの強みは、なんといっても確立された信頼性と扱いやすさである。2ペーストを混ぜ合わせるだけで使えるシンプルさで、専用機器も不要だ。適切な分量比(同量ずつ)で練れば硬化特性も安定しており、扱いにくい癖は少ない。また非ユージノール処方のため、古典的な酸化亜鉛ユージノール製剤に比べて軟組織刺激が少なく、術後の灼熱感やアレルギーの心配がほとんどない。これは例えばエナメルマトリックスデリバティブ(Emdogain)塗布後や骨移植片の保護にも安心して使えることを意味し、現代の再生療法と両立できるパック材として重宝されている。実際、従来ユージノール系しかなかった時代には「薬剤と併用できない」「患者がしみると言って嫌がる」といった制約があったが、コーパックの登場でそうした問題は概ね解決された。非ユージノールであることはバリケードも同様だが、コーパックは早くからその利点を備えていたと言える。

また、コーパックは手動練和ゆえの利点も持つ。術者がペーストの混ざり具合や量を細かく調整できるため、必要最小限の量だけ練ることが可能だ。例えば小さな部位の処置であれば米粒大に練和して対応でき、無駄が出にくい。残ったペーストは次回以降に持ち越せるため、経済的でもある。さらに、練和ペーストに少量の酸化亜鉛粉末を混ぜ込んで硬化性や粘度を調節するといった応用テクニックも現場では活用されている。手作業ならではの融通が利く点は、機器依存の材料にはない強みである。

一方、コーパックの弱みは前章までに述べた通り、審美性や患者快適性で劣る部分に集約される。特に自費診療など患者の要求水準が高い場面では、どうしても見劣りしてしまう。また、硬化に時間がかかるため装着直後の安定性にやや不安が残ることもある。硬化完了前に患者がうがいをしたら全部流出してしまった、という笑えない失敗談も時折聞かれる。硬化を待つ間、患者には口をなるべく動かさないようお願いする必要があり、協力が得られないと適合不良の原因となる。さらに、練和操作は簡単とはいえ手が汚れる作業であり、手袋に付着したペーストの匂いが診療後も残るのを不快に感じる術者もいる。細かな点ではあるが、そうしたストレスが蓄積すると日々の診療満足度にも影響しかねない。

コーパックは総じて「安価で無難、コスト重視の医院運営にマッチした製品」である。例えば保険の歯周外科を数多く手がけ、低コストで効率よく治療提供することを最重視する歯科医師には、コーパックのバランスの取れた性能は十分と言えるだろう。また、開業以来コーパックを使い慣れている先生にとっては、その経験値自体が財産である。敢えて新しい材料に乗り換えなくとも、コーパックで問題なく術後管理できているのであれば、それはひとつの完成形であり無理に変える必要はない。特に歯周パックに対して患者から不満の声が上がったことが無いような医院では、現状のスタイルを継続することが合理的だろう。

とはいえ、もし「最近の患者は審美的要求が高まっている」「自費診療を拡大していきたい」と感じ始めたなら、次に述べるバリケードの特長にも目を向けてみてほしい。コーパック一辺倒だった医院にも、新風を吹き込むきっかけになるかもしれない。

バリケードは審美性に優れた光重合型パック材

バリケード(Barricaid)は、デンツプライ社が提供する光重合タイプの歯肉パック材である。20世紀後半から使われ続けてきたコーパックに対し、バリケードは21世紀に登場した新世代の歯周包帯と言える。その最大の特徴は繰り返しになるが、審美性と患者受容性の高さである。

バリケードの強みは、多くの患者から支持される快適な使用感にある。実際に臨床研究でも、患者の好感度がコーパックより有意に高いことが示されている。味や臭いが無いこと、そして装着時の違和感が少ないことが高評価の理由だ。特に味覚・嗅覚に敏感な患者や、神経質な性格の患者において、バリケードは術後ストレスを大きく軽減してくれる。これは術者にとっても安心材料である。術後に患者が「苦くて耐えられない」「異物感で眠れない」といった不満を訴えれば、治療そのものの満足度が下がってしまう。バリケードを用いてそうした不満要素を排除できれば、術後フォローの精神的負担も減り、患者との信頼関係も良好に保ちやすい。

また、審美面の強みは医院の評価アップに直結する。例えばインプラント周囲の軟組織造成手術など、ある程度費用のかかる処置を受ける患者に対して、術後の処置にも高品質な材料を用いることは、医院が提供するサービス価値を高めることにつながる。患者からすれば「高い治療費を払うのだから、術後のケアまで最高のものであってほしい」という期待があるものだ。その点、バリケードは「最高の術後ケア材」として期待に応えうる存在である。特に審美歯科の分野では、細部への配慮が患者満足度を左右する。術後に鏡を見た患者が笑顔になるか、しかめ顔になるか——バリケードはその違いを生み出す一助となるかもしれない。

操作上のメリットも見逃せない。光重合型であるため、術者のペースで処置を進められる点は先ほど述べた通りだ。複雑なフラップ形態にも樹脂を流し込み、じっくり馴染ませてから固められる自由度は、一度経験すると手放せないものがある。特に複数歯にまたがる広範囲の手術では、コーパックだと硬化時間との戦いで疲弊する場面でも、バリケードなら落ち着いて全体をシームレスに覆うことができる。また、照射による即時硬化のおかげで、術直後からパックがしっかり固着している安心感がある。これは術後出血が懸念されるケースで大きな意味を持つ。例えば抗凝固療法中の患者の歯周手術では出血管理がシビアだが、バリケードなら装着直後にしっかり硬化して出血部位を圧迫できるため、止血効果を高められる可能性がある。コーパックでは硬化を待つ間にじわじわ出血してパック下に血腫がたまる、といった事態も起こりうるが、バリケードならそうした不安は少ない。

ではバリケードの弱みは何か。まず挙げられるのはコストの高さである。前述の通り材料費はコーパック比で格段に高く、特に保険診療では原価割れに近い状況にもなりかねない。経営へのインパクトを考えると、むやみに全症例に使うわけにはいかないだろう。もうひとつの弱点は、扱いに習熟が必要な点である。シリンジから出した直後のバリケード樹脂は糸を引くような粘性を示し、何も対策しないと手袋やミラーに絡みつくことがある。コーパックと比べて直感的な扱いやすさでは劣るかもしれない。しかしこれは適切なテクニックでカバーできる部分だ。実際にバリケード愛用者は、シリンジから出したらまずグローブに付かないようワセリンを指先に塗る、器具で形を整える際も器具に唾液かワセリンを付けておく、といったコツを駆使している。そのように工夫すればさして問題ではなく、むしろ慣れてしまえばコーパックより作業時間が短縮できると語る術者もいる。従って取り扱いに関しては、最初の数回こそ戸惑うかもしれないが、大きな障壁とは言えないだろう。

総じてバリケードは、「患者体験を最優先する歯科医師」にとって魅力的な製品である。例えば自費診療中心のクリニックで、患者満足度向上のために細部にも投資を惜しまないドクターにはうってつけだろう。実際、保険診療ではコスト的に使いづらいバリケードだが、自費治療であれば材料コスト分をフィーに織り込むことも可能である(医療広告ガイドライン上、「最高の材料を使っている」と直接謳うのは難しいが、カウンセリング時にさりげなく質の高いケアであることを伝えるなどの工夫はできる)。また、若手歯科医師で最新材料を積極的に取り入れたい方にとっても、バリケードは導入しやすいアイテムかもしれない。大きな機器と違って経済的ハードルが相対的に低く、医院の特色を出しやすいからだ。一方で、保険診療がメインで費用対効果にシビアな経営をしている場合には、バリケードはコスト高な贅沢品となりうる。そうした医院ではコーパックで十分と割り切りつつ、特定の希望者にのみオプション提供するといった限定利用も選択肢となるだろう。

いずれにせよ、バリケードは「歯肉パック材にもアップグレードの選択肢がある」ことを示してくれた製品である。コーパックで生じがちな不満を解消する一手として、読者の医院でも活用できる場面がきっとあるはずだ。

よくある質問(FAQ)

Q. 歯周手術後には必ず歯肉パック材を使用すべきであるか?
A. 必ずしも「絶対に使用すべき」というわけではないが、多くの場合で使用が推奨される。歯周外科後の創部は刺激や感染に弱いため、パック材で覆うことで痛みの軽減や治癒環境の安定化が期待できる。ただし手術の程度や術者の判断によっては、極めて小さな切開のみの場合などパックを用いない選択をすることもあり得る。

Q. 非ユージノール系のコーパックは、旧来のユージノール系パック材と何が違うのか?
A. 主成分の違いによる刺激性の違いが大きい。ユージノール(丁字油)系は軟組織に対する刺激が強く、患者に焼けるような痛みを感じさせたり、場合によってはアレルギー反応を起こすことがあった。コーパックはユージノールを含まないため刺激が少なく、術後の不快感や組織への悪影響が抑えられている。また、ユージノールは樹脂系材料の重合を阻害するため、歯周再生療法剤や接着処置との併用適応という点でも非ユージノール系のコーパックは優れている。

Q. バリケードの硬化には特別な光重合装置が必要か?
A. いいえ、特別な装置は不要である。 歯科用の一般的な光重合器(LEDでもハロゲンでも)で硬化可能だ。波長帯は通常のレジン硬化と同様に450nm前後を含む光であれば問題ない。照射時間は製品説明にもよるが、約20〜30秒程度を目安に充分硬化する。つまり、日常のコンポジットレジン充填で使用しているライトがそのまま使える。

Q. コーパックとバリケードで、患者の痛みや治癒スピードに差はあるのか?
A. 現時点で大きな差は報告されていない。 患者が感じる疼痛や術後の治癒経過(出血や炎症の程度など)について、コーパックとバリケードの間で有意な差はないとする研究結果がある。つまり、正しく使用する限り両者とも創傷保護剤として同程度に機能し、治癒を妨げることはない。ただし患者の主観的快適性(装着感や味の有無など)はバリケードの方が良好であり、それが間接的に患者のストレス軽減や服薬量減少につながる可能性はある。

Q. コーパックやバリケード以外にどんな歯肉パック材があるのか?
A. 市場には他にもいくつかの歯肉パック材が存在する。古典的なものでは酸化亜鉛ユージノール系のサージカルパック(現在はほぼ使われない)がある。近年では独国製のレソパック(Reso-Pac)のように、水溶性で自己溶解するジェル状包帯剤も登場している。レソパックは軟膏のように塗布し唾液で約2日かけて溶けるため、剥離除去が不要で手軽だが、長期保護には向かない。他には粘着性のあるシート状ドレッシングや、生体材料由来のコラーゲンパックなども研究・販売されている。ただし国内で一般的に使用されている代表格は、依然としてコーパックとバリケードの二択であるのが現状である。どの材料も一長一短があるため、用途や目的に応じて使い分けることが肝要だ。