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歯科レントゲンの種類を徹底解説!パノラマ・デンタル・セファロ・CTの違いとは?

歯科レントゲンの種類を徹底解説!パノラマ・デンタル・セファロ・CTの違いとは?

最終更新日

患者のレントゲン撮影で「どの画像を撮るべきか」迷った経験はないだろうか。新患の口腔内全体を把握したいがパノラマを撮るべきか、それとも痛みのある部位だけデンタルを撮るか悩むことがある。また、インプラントの術前診査でCT撮影が必要と分かっていても、自院に高額なCTを導入すべきか判断に迷う歯科医師も多いのではないか。診断のために必要な画像はケースによって様々だが、同時に医院経営の観点からは機器導入コストや診療効率も無視できない。

本記事では、歯科診療で用いられる代表的なレントゲン画像の種類(パノラマ、デンタル、セファロ、歯科用CT)について、それぞれの臨床的価値と経営的価値を徹底的に比較検討する。各機器の強みと弱みを臨床面と経営面の両面から客観的に分析し、先生方の診療スタイルに最適な選択を考えるヒントを提示する。臨床現場での判断基準と投資対効果(ROI)の両面を理解し、医院の診療品質と経営効率を同時に高める戦略を考察する。

目次

歯科用レントゲン4種類の比較早見表

まず、代表的な4種類の歯科レントゲン装置について、主要な特徴をまとめて示す。臨床的な用途だけでなく、撮影時間や機器コストといった経営面の要素も含めて概観しよう。

種類(撮影法)撮影範囲特徴(画像性質・用途)撮影時間(目安)機器コスト(目安)
デンタル(口内法)1~3歯の小範囲高解像度の2D画像。う蝕や根尖病変の精密診断に使用。1枚あたり数秒(複数枚撮影)約30~80万円(デジタルは初期高価)
パノラマ(全顎X線)上下顎全体・顎骨・顎関節まで広範囲を一度に撮影する2D画像。初診時の包括的診査に必須。1回10秒程度約300~600万円
セファロ(頭部X線規格写真)側貌または正貌の頭部全体規格化された頭部2D画像。矯正治療の分析に必要。1回数秒程度パノラマ装置に+100~300万円程度
歯科用CT(コーンビームCT)顎骨・歯の立体的な範囲三次元の断面画像。インプラントや難症例の精密診断に活用。1回10~20秒程度約800~1500万円以上

それぞれの撮影法により、得意とする情報やメリット・デメリットが異なる。次章以降で臨床面と経営面から比較ポイントを詳しく解説し、続いて各装置の詳細な特徴と選び方について述べる。

歯科レントゲンを比較検討するポイント

診断できる情報量と精度の違い

まず注目すべきは、それぞれの画像が提供する情報量と解像度の差である。デンタルX線(口内法)は撮影範囲こそ限られるが、歯冠から根尖まで数歯分を高精細に描出できる。小さな齲蝕の発見や根尖病変の有無など細部の診断には欠かせない。一方、パノラマX線は上下顎全体を一度に写し出せる代わりに、画像の解像度はデンタルより劣る。歯の重なりやぼやけによって初期の小さな虫歯は映りにくいが、親知らずの埋伏位置、嚢胞や顎骨異常など大局的な把握に優れる。セファロは側面あるいは正面から頭部全体を規格的に撮影したもので、顎の骨格関係や歯列全体の位置関係を分析するための画像である。矯正歯科では頭部X線規格写真により、上下顎の前後的な位置や歯軸傾斜を計測し、治療方針を立てる。一方で、セファロでは歯や骨を二次元的にしか見られないため、顎骨の厚みや神経の立体的位置関係まではわからない。歯科用CT(CBCT)は三次元画像を提供し、これまでの二次元レントゲンでは得られなかった立体的な情報を可能にする。インプラント埋入部位の骨の厚み・密度、埋伏歯と神経管の位置関係、根管の形態異常などを正確に把握でき、診断精度を飛躍的に高める。ただしCTは解像度が高いとはいえ、金属アーチファクト(金属修復物の写り込みによる乱れ)や撮影条件によっては細部が見えにくい場合もあり、必ずしもデンタル画像の代替にはならない部分もある。

被ばく線量と患者安全性の比較

次に考慮すべきは、各撮影法の被ばく線量の違いである。患者の安心にも関わる要素であり、歯科医師として正しく理解しておく必要がある。一般にデンタルX線1枚の放射線量はごく微量で、日常生活で浴びる自然放射線と比べても極めて少ない。パノラマX線1枚の被ばく量はデンタル数枚分に相当するとされるが、それでも医学的に有意なリスクはない程度である。セファロ撮影も線量は低く、頭頸部の一部のみを照射するため影響は最小限と言える。歯科用CTは二次元レントゲンより被ばく量が多いが、それでも医科用CT(全身用の大型CT)に比べれば線量は大幅に抑えられている。近年のデジタル機器は高感度センサーにより必要線量がさらに減っており、例えば小さな野菜を食べた際に含まれるカリウム由来の放射線と同程度など、無視できるレベルとの見解もある。ただし「線量が少ない=無制限に撮って良い」という意味ではない。特にCTは必要な場合に限定し、患者と適応を十分に吟味することが重要である。患者から被曝の不安を問われた際は、「歯科のX線は極めて低線量で安全性に配慮されている」ことをデータと共に説明し、安心してもらう努力が求められる。

撮影の手間・効率と患者負担

各撮影法は、臨床現場でのワークフロー効率や患者さんの負担にも差が出る。例えばデンタル撮影では、小さなセンサー(またはフィルム)を口腔内に挿入して撮影するため、嘔吐反射の強い患者では不快感があるかもしれない。また、1枚で写せる範囲が限られるため、複数箇所を診るには何枚も撮影が必要となり、撮影ごとにアシスタントによるポジショニングや現像(デジタルなら画像保存)の手間が発生する。一方、パノラマX線は患者に軽く顎を固定してもらい、装置が自動で周囲を回転撮影するだけなので、一度で口腔全体の情報が得られる。撮影時間自体は10秒程度と短く、その間患者はじっと立っているだけで良い。多くの歯を一本ずつデンタル撮影することと比べれば、初診時の全体把握にはパノラマの方が時間効率が高く、患者負担も少ないと言える。セファロ撮影も1回で頭部全体の情報が得られ、撮影姿勢(頭部を固定する)以外の負担はほとんど無い。CT撮影の場合、機種によって撮影時間は10~20秒程度かかるが、多角度から多数の断面像を取得するために必要な時間である。撮影中は患者はじっと動かず座ってもらう必要があるが、基本的にはパノラマと同じ姿勢で可能であり、痛みは伴わない。ただし、CTのデータは膨大であり、撮影後の画像再構築や読影に時間を要する点には注意が必要だ。術前の綿密な検討が必要なインプラントや難症例では、この読影の手間は診療精度向上のための必要投資と言えるが、日常の虫歯治療ばかりの医院で頻繁にCT撮影を行うのは非効率であろう。要するに、各撮影法の効率は用途次第であり、「必要な時に必要な画像を無駄なく得る」という観点で選択すべきである。

機器導入コストと経営への影響

歯科用レントゲン機器の価格は装置の種類によって大きく異なり、医院経営へのインパクトも様々である。最も安価なのはデンタル用のX線装置で、X線照射装置とデジタルセンサー(または現像設備)のセットでも数十万円から導入可能だ。多くの歯科医院では必須の基本設備であり、その投資負担は大きくないと言える。対して、パノラマX線装置は一般的に数百万円規模の初期投資となる。デジタル対応機器で画像管理ソフトなども含めれば500万円前後になるケースも多い。しかしパノラマは診療所の標準設備として位置付けられ、初診や定期検診で頻繁に活躍するため、保険算定(約4,000円程度/回)も積み重ねれば中長期的に元が取れる。言わば患者の診査に不可欠な「インフラ投資」であり、経営上も診断漏れを防ぎ患者信頼を得る効果を考えれば妥当な投資である。セファロはパノラマ装置に追加ユニットを装着する形で導入するのが一般的で、その分追加で100~300万円ほどの費用が発生する。矯正治療を手がける医院でなければ必要性は低いため、導入による収益増も見込みづらいが、矯正患者を多数受け入れる場合には不可欠な機器である。保険診療ではセファロ撮影1回につき約4,000円の算定が可能だが、実際には自費矯正の精密検査料に含める形で回収する場合が多いだろう。

歯科用CTは最も高額な投資機器の1つである。装置本体で最低でも800万円前後、高性能機種では1,500万円以上と、開業医にとっては非常に大きな資本投下となる。さらに年間の保守契約費も20万円程度は見込む必要があり、維持費も無視できない。ただし、CT導入により新たな自費治療分野を開拓できる可能性がある点は経営上重要だ。例えば、これまでインプラント治療を紹介頼みにしていた医院でも、CTを備えることで安全にインプラント埋入が行える環境が整い、新たに自院でインプラントを提供できれば収益増につながる。CT撮影自体も保険点数で約12,000円(患者負担約3,500円)を算定できる上、難症例の精密診断料として自費で徴収することも考えられる。しかし、裏を返せばCTを活用できる症例が少なければ高額機器が遊休資産化し、経営を圧迫するリスクもある。導入にあたっては、自院の患者ニーズ(インプラント希望者数や難症例の頻度)を冷静に分析し、投資回収のシミュレーションを立てることが不可欠である。ROIの観点では「CTによって年間何件のインプラント増加が見込め、その利益で何年で償却できるか」を試算し、経営判断すべきであろう。

設置スペースと運用上の留意点

忘れてはならないのが、機器の設置スペースや運用面での注意点である。レントゲン室の広さやレイアウトによっては、導入したい機器が物理的に置けない場合もある。一般にパノラマ装置は幅1m、奥行1m、高さ2m程度の空間が必要で、CTはさらに大型化する(高さ2m強、幅奥行も各1.3~1.5m程度)。重量もCTでは200kg近くになるため、床の耐荷重や搬入経路の確認も重要だ。セファロを追加する場合はパノラマ装置の横にアームが伸びる形になるため、さらに横幅0.5mほど余裕を見ておきたい。狭いレントゲン室に無理に詰め込むと、患者の乗り降りやスタッフの誘導がしにくくなり、撮影効率に支障を来す恐れがある。また、デンタル用のX線は基本的に診療ユニット横やレントゲン室内の壁に設置するが、パノラマ/CTと同室にする場合は動線に注意し、デンタル撮影時にも支障が出ない配置を考える必要がある。

運用面では、現像・画像管理体制も機器選定と合わせて考慮すべきだ。今日ではパノラマもデンタルもほとんどがデジタル化されており、撮影直後にモニターに画像を表示してすぐ診断できる。デジタル画像はペーパーレスで保存・共有が容易な反面、サーバーやバックアップ体制の構築、ソフトウェアの習熟といったIT面の準備も必要だ。デンタルX線に関して言えば、昔ながらのフィルム式(ケミカル現像)も低コストだが、作業効率や廃液処理の問題から多くの医院で敬遠されつつある。CR(イメージングプレート)方式も存在するが、画像読み取りの一手間がかかるため、現在は即時表示可能なDR(デジタルセンサー)方式が主流だ。初期費用はDRセンサーの方が高いものの、院内感染対策の面でもメリットがあり、長期的には効率向上によるコストメリットも大きい。こうしたシステム面も含め、自院のスタッフが無理なく扱える機器を選択することが、結果的にレントゲンの活用度を高めROI向上につながる。

各レントゲン装置の特徴と選択のポイント

パノラマX線撮影とは?(全歯列を一望できる基本検査)

パノラマX線は、歯科医院で広く使われる代表的なレントゲン装置である。上下の歯列と周囲骨構造を一本の画像で俯瞰できるため、初診時の包括的診査には欠かせない存在だ。例えば初めて来院した患者では、目視では確認できない埋伏歯や顎骨内の病変をパノラマで一通りチェックし、大まかな治療方針を立てることになる。筆者自身も長年、初期診断には必ずパノラマ撮影を取り入れてきたが、全体像を把握できることで治療計画の精度が格段に上がると実感している。

パノラマ撮影の強みは、広範囲を一度に撮影する効率の良さと、患者への低侵襲性である。撮影時は患者に軽く固定具を咬んでもらうだけで、わずか10秒ほどで完了する。複数枚のデンタル撮影に比べて患者負担が軽く、診療チェアの回転率向上にも寄与するだろう。また、画面上で両顎の歯の配置や骨の形態を俯瞰できるため、抜歯が必要な埋伏智歯の位置関係や、歯周病による骨吸収の全体像などを患者に説明しやすい点も利点だ。患者の理解が深まれば治療への納得感が高まり、結果的に治療受諾率の向上やリコール来院率アップにつながる。

一方、パノラマ画像だけでは対応しきれない場面も多々ある。前述の通り、小さな齲蝕や初期の根尖病変はパノラマでは写りにくいため、細部の診断にはデンタル撮影が補助的に必要だ。またパノラマ特有の幾何学的な歪み(例えば顎のカーブによる拡大率の不均一)や、他の構造物との重なりによる死角も存在する。したがって、パノラマはあくまで全体把握のスクリーニング検査として位置付け、詳細診断には適宜デンタルやCTに切り替える判断が求められる。経営的視点では、パノラマ装置は高額ながら「無いと始まらない」基本インフラである。特に一般歯科中心の医院では、新規患者や定期検診で頻繁にパノラマを活用するため、導入による投資回収は比較的容易だ。保険算定できるとはいえ撮影1回あたりの収入は数千円程度に過ぎないが、診断漏れ防止や治療提案の材料になる点で、間接的に医院の信頼と収益を支える装置と言えよう。逆に言えば、もしパノラマを持たずデンタルだけで診療する場合、見落としから重篤な疾患を見逃すリスクもある。将来的に訴訟リスクや患者離れに発展すれば、それこそ経営に致命的だ。総じて、一般開業医にとってパノラマX線装置は優先度の高い必須設備と位置付けられる。

なお近年、パノラマとCTのハイブリッド機(2D/3D兼用機)も普及している。予算に余裕があれば初めから3D対応機を導入し、通常は2Dパノラマとして使いながら必要時にCBCT撮影できるようにしておくのも選択肢である。ただし画質や操作性の面で専用機に劣る場合もあるため、汎用性と専門性のバランスを考慮する必要はある。

デンタルX線撮影とは?(精密診断に欠かせない口内法)

デンタルX線写真は、口腔内に小さな撮影センサー(またはフィルム)を挿入し、ごく限られた範囲を撮影する方法である。1枚に収まる範囲は奥歯なら2~3本、前歯部なら4本程度が限界だが、その代わり画像の解像度は非常に高く、歯と歯の微細な隙間や根尖部の透過像まで鮮明に描出できる。虫歯治療や根管治療では、この詳細な情報無しに正確な処置は困難であり、デンタル撮影は正に日常診療の要と言えるだろう。筆者自身も、う蝕の進行度判断から根管充填の確認まで、日々の診療でデンタル写真を活用している。

デンタル撮影のメリットは、その高精細さと頻回撮影への耐性である。線量がごく少ないため、治療経過ごとに何度も撮影して状態を追える点は大きい。例えば深い齲蝕の治療で露髄の危険があるケースでは、処置途中でデンタルを撮って残髄の有無を確認したり、根管治療中に適宜X線でファイルの長さを測定したりするが、患者への影響を気にせず必要なだけ撮影できる安心感がある。また、機器も小型で取り回しが容易なため、診療チェアごとにデンタル用X線装置を設置し、衛生士やアシスタントでも手軽に撮影できる体制を整えている医院も多いだろう。診療フローに組み込みやすい点もデンタルの強みである。

一方デンタル撮影には、撮影範囲が狭いことによる情報の局所性という弱点がある。口全体の把握には向かず、一枚一枚は歯科医師の狙った部位しか写らないため、視野外にある問題を見逃すリスクがある。これはパノラマでカバーすべき部分であり、双方を補完的に使うことが重要だ。また、患者によっては口を大きく開けにくかったり、センサーの厚みに苦痛を感じたりする場合もある。嘔吐反射の強い方では撮影が困難なケースも経験してきた。対策としては小児用サイズのセンサーを用意したり、どうしても難しければ無理に撮らず一旦パノラマで代用するなど柔軟な対応が求められる。

経営的視点から見ると、デンタル用X線機器の導入コストは比較的軽微だ。近年はフィルム式ではなくデジタルセンサーを導入する医院が増えているが、1つのユニットに1台あたり数十万円程度で済むため、開業時の資金計画にも組み込みやすいだろう。デンタル撮影は1枚あたりの保険算定が数百円程度と収益源にはならないが、撮影を怠ってミスが生じれば後の再治療で余計なコストがかかる。結果的に適切な診断による再治療率低下が医院の利益に直結することを考えれば、小さな機器ながらROIに大きく寄与する存在だ。強いて言えば、複数台のデンタル装置を設置する場合、それぞれにデジタルセンサーを配備すると費用は台数分嵩む。コストを抑えたい場合は1つのセンサーを使い回す運用も可能だが、チェアごとに待ち時間が生じて効率が落ちるので、来院患者数と装置数のバランスを見極めると良いだろう。

セファログラムとは?(矯正診断に不可欠な頭部X線)

セファログラム(セファロ)とは、頭部X線規格写真とも呼ばれ、主に矯正歯科領域で用いられる側面ないし正面からのレントゲン画像である。特徴は、毎回同じ頭部の姿勢・距離で撮影することで、頭蓋骨や顎骨の位置関係を計測できる点だ。具体的には、側貌セファロで前後的な顎の大小・位置(下顎前突や上顎劣成長など)や歯の傾斜角、軟組織の輪郭を分析し、矯正治療計画の土台とする。また正貌セファロでは顔面の左右非対称や歯列の傾き具合を評価する。矯正専門医にとっては術前分析に必須の検査であり、セファロ無しでは本格矯正は語れない。

セファロ撮影の利点は、分析用の規格写真が得られることである。パノラマやCTでも頭部の情報は得られるが、拡大率や角度が一定でないため経年的比較や詳細な計測には不向きだ。その点、セファロは専門機関(国際的な規格)が定めた寸法基準に基づくため、どの患者でも同条件で撮影でき、頭部X線写真上でミリ単位の計測が可能となる。矯正治療中の経過比較や術後評価にも再現性高く活用できるのは、セファロならではの強みだ。また撮影自体も瞬時で、患者への負担は極めて少ない(パノラマと同程度)。装置もパノラマと一体化したものが多く、撮影フローに大きな追加負担をかけない。

しかし、セファロを活用する場面は限られている。一般歯科診療においては、セファロを撮影する機会はほとんど無いと言ってよいだろう。矯正治療を提供していないクリニックでは宝の持ち腐れになる可能性が高い。実際、筆者の知るある開業医は開業当初にフルスペックのパノラマ+セファロ装置を導入したものの、矯正専門医を招く計画が流れ、結局セファロは数年間一度も使われずに減価償却費だけがかさんだという。こうした失敗を避けるには、自院の提供サービスに照らしてセファロが本当に必要か冷静に判断すべきである。

経営面では、セファロ単独で収益を上げることはあまり期待できない。保険診療で撮影しても算定できるのはパノラマと同程度(約4,000円)であり、しかも大半の矯正治療は保険外であるため画像自体に直接料金を付けることは少ないだろう。むしろ矯正治療という高額自費メニューを提供するための前提設備と位置付け、治療総額に対する投資と割り切る考え方になる。矯正患者1人あたり数十万円の治療費の中にセファロ分析も含まれるわけだが、それによって質の高い治療計画と結果が担保できれば、患者満足度に寄与し口コミで次の患者獲得にもつながる。つまりセファロのROIは間接的・長期的なものだ。設備を導入したからには有効に活用し、矯正分野での評判を高めることで投資回収を図りたい。

歯科用CTとは?(3次元画像で広がる診断と治療の可能性)

歯科用CT(コーンビームCT, CBCT)は、歯科領域に特化した三次元X線撮影装置である。最大の特徴は、顎や歯を立体的に撮影し、高精度な断面画像を得られる点にある。インプラント治療の事前診断では今やCT撮影が標準となりつつあり、埋入部位の骨の高さ・幅、骨質、隣接する神経や血管の走行まで詳細に把握して、安全な手術計画を立てることができる。また、難しい親知らずの抜歯症例で下顎管との位置関係を調べたり、原因不明の疼痛で顎骨内の嚢胞や骨折を疑う際の精査に用いたり、活用範囲は口腔外科・補綴・歯内療法など多岐にわたる。筆者自身もCTのおかげで初めて診断できた病変を数多く経験している。特に再根管治療の分野では、肉眼では見えない根管の破折線や副根管をCTで発見し、適切な対応に繋げられたケースがあった。

CTの臨床的メリットは計り知れないが、一方で留意すべき点もある。まず、二次元画像に比べデータ量が多いため、読影には専門知識と時間を要する。慣れないうちは「宝の持ち腐れ」になりかねないので、メーカーの講習会や読影トレーニングを積極的に受講し、診断力を高める努力が必要だ。また、三次元といえども画素サイズやボクセル寸法に限界があり、希望する部位を高解像度で撮ろうとすれば撮影視野(FOV)が狭くなるというトレードオフもある。広範囲を一度に高精細に撮ろうとすると被曝線量やデータ量が増大し、機種性能の限界もあるため、適切な範囲設定と解像度設定が求められる。さらに、CTは金属修復物の影響を受けやすく、アーチファクトによって肝心の部位が見えないということも起こり得る。例えばフルジルコニアのクラウンが入っている歯の根尖周囲を見たい場合、CTだと光散乱で不鮮明になることがあり、結局デンタルで補完したという経験もある。

経営面では前述の通り、CTはハイリスク・ハイリターンの設備投資だ。うまく活用できれば高度医療を提供する武器となり、医院の差別化につながる。CTを備えていること自体が患者に安心感を与え、「ここなら難しい治療も任せられそうだ」というブランディング効果も期待できる。インプラントや再生治療、歯科ドック(包括的検診)などCTを活かせる自費メニューを打ち出せば、収益性を飛躍的に高めるチャンスでもある。ただし、導入後に症例が集まらず持て余してしまえば、減価償却費が経営を圧迫する一方だ。実際に、CT導入前に「これからは自費率を上げるぞ」と意気込んだものの営業努力が伴わず、年に数回しかCTを使っていない医院も耳にする。そのような事態を避けるため、導入前には地域の需要や競合状況も調査し、自院の強みとしてCTをどう活かすか戦略を練る必要がある。場合によっては、開業直後は敢えて導入せず周辺の画像診断センターに依頼しながらニーズを探り、患者数が軌道に乗ってから満を持して導入する方が賢明なケースもあろう。

また、技術進歩の速い分野でもあるため、数年後に陳腐化するリスクも織り込んでおきたい。レンタルやリース、自治体補助金の活用など、購入以外の選択肢も含めて初期コストを抑え、柔軟に機器更新できる体制を取るのも経営戦略として有効だ。

よくある質問(FAQ)

Q. 歯科用CTがあればパノラマレントゲンは不要なのか?

A. 歯科用CTがあればパノラマ写真と同等の情報を含む断面画像が得られるため、一見パノラマは不要にも思える。しかし実際には、通常のチェックや虫歯・歯周病の診断で毎回CTを撮影するのは非現実的である。CTの被曝量はパノラマより高く、撮影・読影の手間もかかるため、日常的なスクリーニングは依然としてパノラマが適している。CTは必要な場合に絞って活用し、基本は低線量で簡便なパノラマとデンタルを組み合わせて診断するのが合理的である。多くの歯科用CBCT装置にはパノラマ撮影モードも備わっているため、CT導入後も2Dパノラマ撮影の価値は残る。

Q. 歯科用CTと医科用CT(病院のCT)は何が違うのか?

A. 歯科用CT(CBCT)は撮影方式や目的が医科用CTと異なる。医科用CTはファンビームと呼ばれる方式で全身の断面画像を高解像度で得る装置だが、被曝線量も多く装置も大型だ。歯科用CTはコーンビーム方式で頭頸部の限られた範囲を撮影し、歯科領域に十分な分解能を確保しつつ被曝を抑えている。例えば親知らず周囲や顎の一部だけを撮影するのであれば、歯科用CTで十分な情報が得られる。医科用CTが必要になるのは、歯科領域を超えて顔面全体や他の臓器の評価が必要な場合や、軟組織の診断が絡む場合である。なお医科用CTでは患者は水平に寝る必要があるが、歯科用CTは立位または座位で撮影でき、診療室の一角に設置可能なサイズである点も大きな違いだ。

Q. デンタルX線をデジタル化するメリットは?

A. デンタル撮影のデジタル化(DR方式)には多くのメリットがある。まず撮影後数秒で画像がモニターに表示されるため、現像を待つ時間が不要となり治療の流れがスムーズになる。複数枚を連続で撮ってもすぐに結果を確認できるため、その場で追加撮影や判断が可能だ。また、画像を拡大表示したり濃度を調整したりできるため、微小な病変も見逃しにくい。フィルムのように保存スペースを取らず、データ管理もしやすい。ランニングコストの面でも、薬液やフィルム代が不要になり、長期的にはコスト削減につながる。ただし初期導入費用はフィルム式に比べて高額で、センサー自体が高価な精密機器ゆえ取扱いには注意が必要だ。また、操作やソフトの習熟にスタッフ教育が必要な点も留意したい。総合的には、患者サービスと診療効率の向上に直結するため可能な限りデジタル化を進める価値は高い。

Q. 小規模なクリニックでもCTを導入するべきだろうか?

A. CT導入の是非は、クリニックの規模よりも診療内容と投資体力によって判断すべきである。たとえチェア数が少ない小規模医院でも、院長がインプラントや難症例治療に注力したいのであればCTは有力な武器になる。一方、保険診療中心で大掛かりな処置は専門医に紹介すると割り切るのであれば、無理に導入する必要はないだろう。重要なのは導入後にCTを活用して収益を生み出せるかどうかである。症例数や地域ニーズを見極め、仮に月に数件しか活用機会がないようなら費用対効果は低い。小規模医院の場合、高額機器の減価償却が経営を圧迫しやすい点に注意が必要だ。導入する場合でもリース契約で月々の支払いに平準化したり、自治体の設備投資補助を利用したりするなど資金繰りの工夫をすると良い。最終的には院長の治療哲学と事業計画に照らし、「なくても困らないが、あることで得られる利益が投資に見合うか」を判断してほしい。

Q. セファロの代わりにCTで矯正分析はできないのか?

A. 歯科用CTから頭部全体の三次元データを得れば、バーチャルに二次元の側面像を再構成して矯正分析に使うことも技術的には可能である。しかし、現在の矯正領域では依然として従来型のセファロ写真が標準であり、長年の治療データや分析手法もセファロに基づいて構築されている。CTのデータからセファロ相当の画像を作っても、撮影条件が規格化されていないため計測値に誤差が生じたり、分析ソフトが対応していなかったりする問題がある。さらにCTで頭部全体を撮影するとなると被曝量もセファロに比べ増えてしまう。したがって、純粋に矯正目的の頭部分析には現状セファロ装置が最も適していると言える。ただし将来的には3DスキャナやCTを用いたデジタル矯正計画が進む可能性もあり、今後の技術発展に注目したい。