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歯科の「レジン系仮封材」とは?特徴や種類、成分を徹底比較!診療で気を付けるポイントは?

歯科の「レジン系仮封材」とは?特徴や種類、成分を徹底比較!診療で気を付けるポイントは?

最終更新日

診療の合間、根管治療後の歯に詰めた仮封が次回の来院前に外れてしまい、患者から「また詰め直してほしい」と急患対応を求められた経験はないだろうか。あるいは、う蝕除去後に仮封した部分から薬剤が漏れ出して刺激痛を訴えられたり、仮封が硬すぎて次回の除去に手間取り、修復処置の時間を圧迫したことはないだろうか。このような仮封処置のトラブルは、臨床の効率低下や患者満足度の低下につながり、ひいては医院経営にも悪影響を及ぼしかねない。

仮封材は治療途中の歯を一時的に密封・補強する重要な役割を担う。その中でもレジン系仮封材は、近年素材の進化により封鎖力や耐久性が向上し、従来の水硬性材料やユージノール系セメントに代わって多くの場面で用いられている。本記事では、レジン系仮封材の特徴や種類、成分といった基礎知識から、臨床で比較すべきポイント、主要製品のレビューまでを網羅し、忙しい歯科医師が自信をもって最適な製品を選択できるようサポートする。仮封材選びを臨床技術の向上だけでなく医院の戦略的投資と位置付け、チェアタイム短縮や再処置リスク低減によるROI(投資対効果)の最大化につなげるヒントを提供したい。

レジン系仮封材の比較サマリー

以下に、本記事で取り上げる主なレジン系仮封材の特徴を一覧表にまとめる。臨床性能に加えて「操作時間」や「除去の容易さ」「1症例あたりの材料コスト」といった経営効率の観点も含めて比較している。医院の診療スタイルに合った仮封材選びの参考にしていただきたい。

製品名(メーカー)タイプ・硬化形式特徴(封鎖性・強度)除去の容易さセット硬化時間色調コスト目安
フィットシール(GC)常温重合レジン(粉液混合)・軟質優れた辺縁封鎖性、耐摩耗性◯一塊で除去可能約2〜3分で硬化アイボリー粉50g+液40mLで約1.2万円
PRGプロテクトシール(松風)常温重合レジン(粉液混合)・軟質ゴム弾性で割れにくく封鎖性◯容易(適度な柔軟性)約3分で硬化アイボリー/ピンク粉35g+液50mLで約1.0万円
カフール(山八)常温重合レジン(粉液混合)・中硬度高い封鎖性と適度な硬さで長期安定容易(一塊除去可)約3分で硬化アイボリー粉30g+液30mLで約1.2万円
ポリシールソフト(亀水化学)常温重合レジン(粉液混合)・軟質軟らかく咬合痛軽減、封鎖性◯容易(一塊除去可)約3分で硬化(発熱少)アイボリー粉30g+液30mLで約1.2万円
デュラシール(リライアンス)常温重合レジン(粉液混合)・硬質封鎖性良好、機械的強度◎(長期耐久)中等度(硬く要工夫)約3分で硬化透明/ホワイト粉56g+液20mLで約1.0万円
ファーミット/N(イボクラ)光重合レジン(1ペースト)・軟質/中硬度光照射20秒で即時硬化、弾性保持で安全容易(弾性により一塊)20秒(光照射)アイボリーシリンジ5gで約6千円
テンプイト(Spident)光重合レジン(1ペースト)・軟質ワンペーストで操作簡便、弾力性◯容易(一塊除去可)10〜20秒(光照射)アイボリー/ブルー3gシリンジ×3本で約5千円
エバダイン プラス(ネオ)光重合レジン(1ペースト)・軟質硬化深度9mm・10秒硬化、脱落耐性1.5倍容易(一塊除去可)10秒(光照射)アイボリーシリンジ5gで約3千円

コスト目安は代表的なセット包装の定価(税込)を基にした概算であり、実勢価格や1症例あたりの使用量により変動する。

レジン系仮封材の種類と比較ポイント

仮封材には大きく分けて水硬性材料、酸化亜鉛ユージノールセメント、グラスアイオノマー、熱可塑性樹脂(テンポラリーストッピング)、そしてレジン系仮封材がある。ここではレジン系に絞り、その中でさらに化学重合型(常温重合)と光重合型、および軟質タイプと硬質タイプの違いに注目する。各タイプの長所・短所を理解し、何を比較軸に選定すべきか整理しよう。

封鎖性と耐久性/収縮特性による差

仮封材に最も重要な性能の一つが辺縁封鎖性である。材料によって硬化時の挙動が異なり、封鎖性に影響を与える。水硬性の仮封材(例/キャビトンなど)は硬化の際にわずかに膨張する性質があり、窩壁に隙間なく適合しやすい。そのため短期間(数日〜1週間程度)の仮封では極めて良好な封鎖が得られる。一方、レジン系仮封材はポリマーの重合収縮が避けられず、硬化初期にわずかな収縮による隙間が生じる可能性がある。ただし収縮量は数%程度であり、多くの場合は臨床的に許容される範囲である。またレジンは吸水により経時的にわずかに膨潤するため、24時間以降は封鎖性が向上するとの報告もある。

耐久性の面では、レジン系仮封材が明らかに優位である。水硬性材料は脆性で咬合圧により割れやすく、長期間の使用や複雑な形態の窩洞では脱落しやすい。これに対しレジン系は機械的強度が高く耐摩耗性に優れるため、2〜3週間以上の仮封や大きな欠損の仮封にも耐え得る。特にデュラシールなど常温重合レジンの硬質タイプは非常に硬く、咬合圧や咀嚼力が強い患者でも破折・脱離しにくい。強度が高いことは、仮封が脱落してやり直すリスクを低減し、再診による無駄なチェアタイム発生を防ぐメリットにつながる。逆に言えば、数日以内に除去する短期仮封ではそこまでの強度は不要なケースも多いため、症例期間に応じて過剰性能にならない材料を選ぶ視点も重要である。

操作性とタイムパフォーマンス/光重合 vs 常温重合

日々の診療では、操作の簡便さや硬化に要する時間も極めて重要だ。化学重合(自己硬化)の粉液タイプは、所定の比率で粉末と液を練和する手間がかかる。しかし粉を少量ずつ筆に含ませて液と混ぜて窩洞に盛る「筆積み法」に習熟すれば、細部まで充填しやすく適合精度の高い仮封が可能である。一度に大量に練らずに済むため材料ロスも少なく経済的だ。硬化時間はおおむね2〜3分程度で、次の処置まで待機が必要だが、その間に他の準備を進めることもできるため大きなロスにはならないだろう。

これに対し、光重合型のレジン系仮封材はワンペーストでシリンジから直接窩洞に填入し、ライト照射で数十秒以内に完全硬化させることができる。混ぜる必要がなく、硬化を待つ時間も極めて短いため、患者をチェアに座らせたまま即座に次の処置工程に進むことが可能となる。特に1日に多くの患者を回転させたい保険診療主体のクリニックでは、チェアタイムの短縮が収益に直結するため、光重合型のスピードは大きな武器となる。ただし光重合型は光が届く範囲(一般に深さ4〜5mm程度)に制約があるため、深い窩洞では2層に分けて照射するか、商品によっては高出力ライトで10mm近く硬化できるものを選ぶ必要がある。また、シリンジタイプは1回使い切り量以外は保管中に経時で劣化したり光が当たって硬化しないよう取り扱いに注意する必要がある。結果として材料単価は粉液タイプより高めだが、時間短縮による利益や患者満足度向上を考えれば投資する価値がある。

着脱の容易さとリスク管理/軟質 vs 硬質

仮封材は一時的な材料であり必ず撤去することを前提に選択しなければならない。除去に手間取れば、その後の本処置の時間が削られストレスとなるだけでなく、除去時のミスで歯牙や修復物を傷つけるリスクもある。従来から根管治療の仮封で重宝されるテンポラリーストッピング(熱可塑性樹脂)や水硬性材料は軟らかく、一部を探針でつつけば容易に外せる利点があった。レジン系仮封材にも、硬化後に適度な弾性を保つ軟質タイプが存在し、これらは一塊でぽろりと外せるよう設計されている。ファーミットをはじめ光重合型の多くは軟質で、探針やエキスカベーターを引っ掛けるとゴムのように外れるため、窩壁や隣接歯を傷つけにくい。また松風PRGプロテクトシールや亀水化学のポリシールソフトも、硬くなりすぎず女性の力でも簡単に除去可能な操作性をセールスポイントとしている。

一方、硬質タイプ(例/デュラシールや山八カフール)は硬化後に石膏やセメントのようにカチカチに硬くなる。そのため長期間安定して漏洩しにくいが、除去時には回転切削器具や超音波スケーラーを併用して削り取る必要がある場合もある。特に深い窩洞で強固に固着した場合は、レジンが歯質に接着していることもあり健全な象牙質まで削り込んでしまうリスクが指摘されている。このような事態を防ぐため、メーカーによっては仮封材と歯質の境目が判別しやすいよう着色(ピンクや青色)された製品も提供している。実際、PRGプロテクトシールにはピンク色が、Spidentテンプイトにはブルーが用意されており、審美性より確実な除去を優先したいケースで有用である。また、予めワセリンを窩壁に塗布してレジンとの付着力を弱めておく、根管内に綿塞を入れた上で充填して二重仮封にするなど、術者の工夫で除去を容易にすることも可能だ。軟質レジン系仮封材を選ぶか硬質を選ぶかは、「必要な期間・強度」と「除去の手軽さ」のトレードオフであり、症例の要求と術者の好みに応じてバランスを取るとよい。

審美性と患者満足度/仮封中の快適さ

仮封期間中の患者の過ごしやすさも考慮すべきポイントである。特に前歯部の仮修復では、色調や見た目の自然さが患者の安心感につながる。レジン系仮封材の多くはアイボリーやエナメル質に近い色調で調和しやすく、従来の灰白色の水硬性材料に比べ審美的である。ただし一部の患者は「仮封が取れたのでは」と不安になるため、処置後に仮封材の色や状態を説明しておくと良いだろう。

また味や臭いへの配慮も重要だ。ユージノール系セメントは独特の薬品臭があり、敏感な患者には苦手とされる。一方レジン系仮封材は、ファーミットのように「無味無臭」を謳う製品もあり、違和感なく過ごせる。化学重合レジンではモノマー臭が多少あるものの、硬化後は気にならない程度である。患者から「噛むと痛い」「浮いた感じがする」と言われる場合、仮封が高すぎるか、逆に強い咬合で沈み込みすぎて歯根膜に負担をかけている可能性がある。軟質タイプのレジン仮封材は適度に弾性があるため強く咬んだ際に緩衝し、硬質材料に比べ咬合痛を軽減しやすい。ただし軟らかい分だけ咬合調整は丁寧に行い、側方運動時の干渉も残さないようにすることが肝要だ。患者の快適性は満足度に直結し、医院の信頼にも影響する。仮封期間といえども軽視せず、素材選択で対応できる部分は最善を尽くしたい。

コストと経営効率/材料費だけでない視点

最後に忘れてはならないのが経営的視点でのコストパフォーマンスである。仮封材の直接の材料費は1歯あたり数十円〜数百円程度と診療全体から見れば小さい。しかし、仮封材の選択は間接的に様々なコストに影響する。例えば安価な材料を使って仮封が頻繁に脱離すれば、その都度の無償再処置や患者の不信感による機会損失という隠れたコストが発生する。高性能なレジン仮封材で脱離や二次感染を防げれば、再処置の削減による長期的な利益が得られるだろう。また、光重合型により1人あたりの処置時間を5分短縮できれば、1日あたり数枠の予約を追加できる計算となり、人件費あたり利益の向上や患者待ち時間短縮による満足度アップにつながる。

材料費そのものも無視はできない。例えば粉液タイプは初期購入費用は1万円を超えるが、多くの症例に使えるため結果的に1歯あたり数十円以下と非常に安価である。対して光重合シリンジは1本数千円し、一度開封すると短期間で使い切らないといけないものもある。患者数や使用頻度に応じて在庫ロスを出さない計画も重要だ。高額な材料でも、自由診療の精密根管治療やインプラント治療など高収益処置の品質担保に寄与するなら、十分元が取れる投資と考えられる。一方で、保険診療メインでコスト重視なら粉液タイプを使いつつ、要所で光重合型を併用するなどハイブリッド運用も有効だ。単に「材料費が安い高い」で判断するのではなく、ROI(投資対効果)という視点で仮封材選びを捉えることが、経営的にも賢い選択につながる。

主なレジン系仮封材の製品別レビュー

以上の比較ポイントを踏まえ、市販されている代表的なレジン系仮封材を臨床と経営の両面からレビューする。それぞれの製品がどんな特徴を持ち、どんな診療スタイルの歯科医師に向いているのか、豊富な経験を踏まえて解説する。

フィットシールは高い封鎖力と経済性を兼ね備えた軟質レジン仮封材

GC社のフィットシールは、古くからある筆積み法の代表的製品である。粉と液を筆先で混ぜながら窩洞に充填していくと、絹糸のようになめらかに適合し、隙間のない封鎖が得られる。硬化後は適度に弾性を残す軟質タイプで、一塊で除去できる扱いやすさもある。臨床的な信頼性が高く、インレー形成窩洞から深い根管処置の仮封まで幅広く対応する。耐摩耗性も十分で、数週間程度であれば咀嚼による減耗や二次カリエスの心配は少ない。水硬性材料に比べ漏洩防止効果は長持ちし、安心して次回まで歯を守れる印象だ。

経営面では、フィットシールは材料コストが低くコストパフォーマンスに優れる点が魅力だ。粉末50gと液体40mLのセットで多数症例に使え、1歯あたりのコストは数十円以下と僅少である。混和の手間は必要だが、診療補助スタッフに練和を任せることもできるため、歯科医師の時間コストを圧迫しにくい。筆積みに習熟すれば1〜2分で充填でき硬化も早いため、チェアタイムにも大きな影響はない。保険診療中心でコスト重視の開業医にとって、フィットシールは「安定した品質」と「経済性」のバランスが取れた頼れる仮封材である。ただし強いて欠点を挙げれば、粉液の練和にモノマー臭が伴うこと、明度の高いアイボリー一色のため除去時に歯との境目がやや見分けにくい点がある。後者については、薄い仮封箇所では慎重にエキスプローラーで探りながら除去するなど注意すれば大きな問題にはならない。

PRGプロテクトシールは除去性と封鎖力を両立する筆積みレジン仮封材

松風のPRGプロテクトシールは、フィットシールと同様の粉液筆積みタイプだが、適度なゴム弾性を持つよう調整されている点が特徴だ。硬化後も樹脂が硬くなりすぎず、探針で刺せばブロック状に外れる扱いやすさがある。実際に使ってみると、フィットシールよりもやや柔らかく感じられ、削工具を使わずとも容易に除去できる印象である。それでいて辺縁部でちぎれて残るようなことはなく、高い封鎖性を保ちながら綺麗に一塊で取れる点は見事だ。PRGという名の通りプリレジン化ガラス(S-PRG)フィラーが配合されており、封鎖中にフッ素等の有益イオンを徐放することで二次カリエスリスク軽減も期待できる。歯質との微接着効果もあるため長期症例でも漏洩が起きにくく、3週間程度の仮封でも安定していたという臨床報告もある。

経営的には、PRGプロテクトシールは1ケースあたりの単価がフィットシールと大差なく、それでいて除去時間の短縮ややり直し低減につながる点で隠れたコスト削減効果が高い。特に根管治療で複数回来院が必要な患者では、仮封の付け直しが不要であることが患者満足度にも寄与するだろう。また、本製品は珍しくピンク色の粉が用意されている。審美的配慮が不要な臼歯部や男性患者にはピンクを使用すれば、仮封部位が一目で確認でき除去残しの防止に役立つ。スタッフ複数で分担診療を行うクリニックでは、他の先生が充填した仮封を別の先生が外す場面もあるため、誰の目にも見やすいピンク色はリスク管理上も有用である。総じてPRGプロテクトシールは、「確実な封鎖」と「スムーズな除去」の両方を重視する歯科医にとって心強い選択肢である。

カフールは長期安定性と操作性を備えた中硬度レジン仮封材

山八歯材工業のカフール(Kaful)は、粉液タイプのレジン仮封材で適度な硬さを特徴としている。硬化後は軟質レジンほど柔らかくなく、かといって石膏系ほど脆くない中程度の硬さに仕上がる。そのため変形しにくく咬合圧にも比較的耐える一方、探針で引っ掛ければ大きく割れて取れるので除去も容易という、バランスの取れた使用感が得られる。実際に臨床で使うと、軟質タイプよりも表面硬化がしっかりしており、仮封期間中に凹んだり擦り減ったりしにくい。また硬さゆえに詰めた直後の咬合調整が明確で行いやすい利点もある。辺縁封鎖性は各種筆積みレジンに共通して高水準であり、二次う蝕の心配をあまりせずに長めの仮封期間を過ごせる安心感がある。色調はアイボリー(A3近似色)で口腔内に馴染み、数週間経っても着色しにくい点も患者への配慮として優れている。

価格帯や1歯あたりコストは他社の筆積みレジンと同程度である。カフールが真価を発揮するのは、自費診療などで質の高い治療を提供しつつ効率も求めたいケースだろう。例えばセラミックインレー治療で2〜3週間の仮封が必要な場合、硬さがあることで咬合調整した形態を保持し、患者も違和感なく生活できる。同時に外す時はパキっと外れてくれるため、セット時に仮封除去で手間取ることもない。まさに「強さ」と「扱いやすさ」の両立が図られた材料であると言える。筆積みレジンに習熟した歯科医師で、仮封中の患者の快適さや確実な処置にこだわりたい人には、カフールは納得のいく選択肢となるだろう。注意点として、非常に深い窩洞やアンダーカットが少ない場合には、硬さゆえに維持力が落ちる可能性がある。その際は事前に接着用プライマーを併用するか、あるいは軟質タイプで多少食い込ませる方が安全な場合もある。このように症例に応じた応用は必要だが、総じてカフールはオールラウンドに使える優秀な仮封材である。

ポリシールソフトは咬合痛軽減に配慮した新世代の軟質レジン仮封材

亀水化学工業のポリシールソフトは、従来のポリシール(常温重合レジン仮封材)の処方を改良し、より軟らかく使いやすさを追求した製品である。硬化時の発熱が低減され、化学刺激臭も抑えられているため、操作中の不快感が少ない。筆積み法で窩洞に盛ると隅々までよく流れ込み、辺縁封鎖は極めて良好だ。硬化後は指で押すとわずかに弾性を感じる程度の軟らかさで、強く咬み込んでも歯根膜へ過度な圧がかかりにくい。実際、術後に仮封部の違和感を訴えていた患者に本材を使ったところ、「今回の仮詰めは痛くない」と言われたことがある。その意味で、咬合痛や浮いた感じを生じやすい過敏な患者への気遣いとして有効な材料である。

経営面では、ポリシールソフトは新製品ゆえに価格が若干高めだが、それでも1歯あたりのコスト増は微々たるものだ。それ以上に、患者満足度向上やリコール率アップといった形でリターンが期待できる。例えば仮封中の不快感が軽減されれば、次回来院への心理的ハードルも下がり、キャンセル抑制にもつながるだろう。また、本材は軟らかく除去しやすい反面、長期間放置すると経時劣化で弾性が落ち硬くなる可能性がある。そのため製造元では1か月以内程度での除去を推奨している。インプラント2次手術までの数か月仮封といったケースには不向きだが、通常の範囲であれば性能上問題ない。ポリシールソフトは、「患者に優しい仮封」を実践したい歯科医師に適した製品であり、特に自費診療でサービス品質を高めたい医院には導入する価値があるだろう。

デュラシールは高強度で脱離しにくい長期間安定型レジン仮封材

Reliance社のデュラシール(DuraSeal)は、アメリカで古くから支持されている仮封用レジンで、特徴は何と言っても突出した機械的強度にある。粉液を練和して充填すると短時間で硬化し、その硬さは他の仮封材とは一線を画すほどだ。咬合圧で押しても沈むことはなく、強く叩けば割れるが中途半端な力ではビクともしない。実験によれば、デュラシールは圧縮強さが水硬性材料の2倍以上、高強度で知られるS-PRG系の仮封材よりもさらに上回る値を示したという。辺縁封鎖性は粉液レジンとして標準的で、充填直後にごく微小な収縮隙が生じる可能性はあるが、レジン特有の吸水膨張で補償され長期的には問題ないレベルに収まる。実際に3〜4週間仮封した症例でも脱離や虫漏れは起きず、安心して土台築造や補綴工程に移行できた。

デュラシールが真価を発揮するのは、仮封期間が長引きそうなケースや重度の咬合力が懸念される症例である。例えば複数歯の根管治療で治癒経過を見るために1か月以上仮封する場合や、臼歯部で仮封が薄くなる場面でも、本材なら崩壊せず持ちこたえてくれる。また、必要に応じて透明タイプと不透明ホワイトの2種類から選べる。透明タイプは内部の状態が観察しやすく、薬剤を貼薬した根管でX線透過性を得たい時などに便利だ。一方、経営の観点では、デュラシールを常用するのは適材適所が求められる。確かに脱離リスク低減による再処置コストの節約効果はあるが、硬さゆえの除去作業は多少時間がかかり、特に保険診療での毎回使用にはオーバースペックかもしれない。自費の精密根管治療などでは保険外材料として費用請求に組み込むことも考えられるが、一般的には重要度の高い一部症例に絞って使うのが現実的だろう。術者側としても、除去時はタービンやスケーラーで慎重に削り取る必要があるため、担当医の裁量で無理なく扱える範囲で活用すべきである。まとめるとデュラシールは、「頑丈さ第一」で選ぶなら最右翼の仮封材であり、仮封の脱離や破折で苦い経験をしたことがある歯科医師には心強い味方となるだろう。

ファーミットは光で即硬化する弾性仮封材で精密治療に最適

イボクラール ビバデント社のファーミット(Fermit)およびファーミットNは、光重合型コンポジットレジンの仮封材である。シリンジからそのまま窩洞に充填し、光照射20秒程度で硬化完了というスピードは他に類を見ない。硬化後は特殊なポリマー構造によりゴムのような弾性を保つため、隣接面や窩縁を傷つけずにペンチや探針で引き抜くように一括除去できる。これは精巧に形成したインレーやラミネートベニアの窩洞を守る上で大きな利点だ。実際、筆者も支台歯形成後の高額な自費補綴症例では、歯や軟組織を傷つけない仮封としてファーミットを愛用している。耐摩耗性も良好で、2〜3週間程度ではほとんど咬耗が見られない。なお、ファーミットとファーミットNの2種類があり、Nの方が硬化後硬めに仕上がる。浅いインレー窩洞などでは通常のファーミット、深く大きな窩洞ではNを使うなど使い分けることで、より確実な維持と除去のバランスが取れる。

ファーミットのコストはシリンジ1本あたり数千円と高価だが、光重合によるチェアタイム短縮効果と、精密治療の質を高めるメリットを考えれば十分許容範囲と言えるだろう。特に自費補綴やインプラント治療をメインとするクリニックでは、仮封材も最高のものを選ぶことが患者満足度向上につながり、紹介やリピートという形で回収できる。注意点として、ファーミットは軟らかい分だけ保持形態の乏しい窩洞では外れやすい場合がある。そのため深い窩洞ではあえて裏層に流動性レジンを少量置いて接着力を持たせたり、逆に石膏系材料と二層にするなど工夫が有効なこともある。また光遮蔽性が高いため、仮封中に二次カリエスの発見が遅れるリスクもゼロではないが、短期間であれば大きな問題ではないだろう。総じてファーミットは、「時間を買う」ことと「歯を守る」ことの両立を目指す歯科医師にとって価値のあるプレミアムな仮封材である。

テンプイトは安価で手軽な光重合仮封材としてコスト重視派に好適

韓国Spident社のテンプイト(Temp it)は、光重合型仮封材の中でもコストパフォーマンスに優れた製品である。シリンジから充填し光を当てるだけという手軽さはファーミット同様だが、価格はシリンジ3本セットで5千円前後とかなり抑えられている。性能面では、弾力性のある軟質レジンで一塊除去が可能、硬化収縮も少なく封鎖性も十分確保されている。実際、テンプイトで仮封した症例では次回来院時まで問題なく密閉されており、除去もスムーズにできた。硬さはファーミットより若干高い印象もあるが、それでも探針で引き剥がせる範囲であり、臨床上は扱いやすい。色はアイボリーの他にブルーが用意されており、ブルーはインプラントのアクセスホール封鎖などで存在を明確にしたい場合に重宝する。

テンプイトは低コストで光重合の利点を得たい歯科医院に適した選択肢だ。例えば若手歯科医師が勤務するクリニックで、多数の根管充填後仮封を効率よく行いたい場合、テンプイトなら材料費を気にせずどんどん使える。硬化時間も10〜20秒程度と短いため、忙しい保険診療の合間でもテンポ良く処置を進められるだろう。ただし、海外メーカー品ゆえに国内大手ほどの長期臨床データがない点や、シリンジの保管・取り扱いについてメーカーから詳細な情報が少ない点には留意が必要だ。温度管理や遮光に注意し、期限内に使い切るなど基本を守れば問題なく性能を発揮する。総合的に、テンプイトは「仮封材に大きなコストは割けないが効率は上げたい」というジレンマを抱える現場にマッチした実用的な光重合仮封材と言える。

エバダイン プラスは深部まで高速硬化する高機能な光重合仮封材

ネオ製薬工業のエバダイン プラス(Evadyne Plus)は、国産の光重合型仮封材として独自の改良が施された製品だ。最大の特徴は、高出力ライトで約10秒間照射するだけで硬化が完了し、しかも硬化深さが8〜9mmに達する点である。通常の光重合レジンでは一度に3〜4mm厚が限界であることを考えると、非常に効率的であり深い窩洞も一層で仮封可能だ。これはフィラーや光重合開始剤の工夫により、短時間で内部までエネルギーが行き渡る処方になっているためだ。硬化後の性質は弾性をもった軟質レジンであり、一塊除去も問題なく行える。メーカーは従来品に比べ仮封の脱落耐性が1.5倍向上したとも謳っており、実際試用してみると確かに剥がれにくく窩洞にしっかり付着している印象を受けた。インプラントのスクリュー穴封鎖にも使えるよう設計されており、無味無臭で患者への負担も少ない。

エバダイン プラスは機能的には申し分ないが、コスト面ではやや割高な部類に入る。しかし1本のシリンジで複数歯分をまかなえるため、自費治療のクオリティアップを考えれば十分元は取れる。特にラバーダム防湿下で行うような精密根管治療では、短時間で確実に仮封できることが治療全体の品質を高める。処置の最後に素早く仮封し、患者を長時間拘束せずに済むのは、医師にも患者にもメリットだ。エバダイン プラスは国内メーカー製でサポートも手厚く、安全データシートや製品説明も日本語で充実しているため、品質管理の面でも安心感がある。まとめると、本製品は最先端の光重合技術で時短と確実性を追求したい歯科医師にフィットする仮封材であり、投資価値の高い一品と言えるだろう。

よくある質問(FAQ)

Q1. レジン系仮封材はどのくらいの期間まで安全に仮封しておけるか?
A1. 製品や症例にもよるが、一般にレジン系仮封材は2〜4週間程度の暫間修復に適するとされている。軟質タイプは1か月以内、硬質タイプはそれ以上も安定する場合がある。ただし長期間放置すると咬耗や辺縁劣化が生じる可能性があるため、目安の期間内に次の処置を行うことが望ましい。

Q2. ユージノール系の仮封材はもう使わない方が良いのか?
A2. 酸化亜鉛ユージノール(ZOE)系仮封材は、歯髄鎮静効果があり深いう蝕処置後などに有用な場合がある。しかしレジン接着の阻害や封鎖性の限界を考えると、現在では非ユージノール系やレジン系への置き換えが進んでいる。どうしてもZOEを使う場合は、後のレジン修復に影響しないよう窩壁を清掃するなどの配慮が必要だ。

Q3. 光重合型仮封材を深い窩洞に使うとき、やはり2回に分けて積層すべきか?
A3. 標準的な光重合型(硬化深度4〜5mm)の場合、深さによって2層に分けて充填・照射した方が確実である。一方、エバダイン プラスのように硬化深度が深いことを謳う製品なら一度に充填することも可能だ。ライトの照度や製品特性に従って、適切な硬化を得られる方法を選択するとよい。

Q4. レジン系仮封材を除去し忘れてそのまま接着操作に進んでしまった場合、接着に失敗するか?
A4. 仮封材が窩壁に残ったままだと、接着用レジンセメントやコンポジットの密着が阻害される可能性が高い。特に軟質レジン仮封材は歯質に接着性があるため、見逃しが命取りになり得る。除去忘れに気付いた場合は、必ず清掃・サンドブラスト等で残留物を除去してから接着操作に入るべきである。

Q5. 仮封材が頻繁に脱離してしまう。何か対策はあるか?
A5. 仮封の脱離は、材料選択と操作法の両面から改善可能である。材料面では、より接着力が高く強度のあるレジン系仮封材(例えばデュラシールやエバダイン プラスなど)を試す価値がある。操作面では、窩洞を十分乾燥させてから充填する、必要に応じて窩壁に接着用プライマーを塗布する、浅い窩洞では綿球併用の二重仮封にして機械的嵌合を高める、といった工夫が有効だ。それでも脱離する場合は、咬合力の強い患者か形態的に保持が不十分な可能性があるため、仮歯装着や他の手段も検討してみる必要がある。