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止血剤のトラネキサム酸カプセル250mg「トーワ」を歯科医師向けに解説

止血剤のトラネキサム酸カプセル250mg「トーワ」を歯科医師向けに解説

最終更新日

歯科診療で患者の出血に冷や汗をかいた経験はないだろうか。例えば、抗凝固薬(いわゆる血液サラサラ薬)を服用する高齢患者の抜歯後に出血が止まらず、診療終了後の夜に再出血して対応に追われた――そんな事態は多くの歯科医師が一度は経験する場面である。また、口内炎が痛くて食事もままならない患者に有効な手立てがなく、処置後の経過観察に不安を感じたこともあるかもしれない。こうした臨床の悩みに対し、止血剤「トラネキサム酸カプセル250mg『トーワ』」は一つの解決策となり得る。

本稿では臨床と経営の両面から本製品を検証し、それぞれの歯科医院の診療スタイルに応じた活用法を考察する。

【製品の概要】トラネキサム酸カプセル250mg「トーワ」とは

トラネキサム酸カプセル250mg「トーワ」は、東和薬品株式会社が製造販売するカプセル型の止血補助薬である。一般名どおり有効成分はトラネキサム酸であり、先発品である「トランサミンカプセル250mg」(第一三共)のジェネリック医薬品にあたる。1カプセル中に日局トラネキサム酸250mgを含み、カプセル外観は頭部が橙色・胴部が淡黄色の不透明カプセル剤である。歯科領域を含む医科全般で用いられる抗プラスミン薬(抗線溶薬)であり、処方箋医薬品として扱われる医療用医薬品である(※トラネキサム酸を含む一般用医薬品も市販されているが、それらは主に肝斑治療などを目的としたOTC製品であり、本稿で扱うものは歯科医師の処方により使用する医療用製品である)。

本剤の適応症は幅広く、全身性または局所性の線溶亢進(血栓の溶解亢進)に起因すると考えられる各種の異常出血、さらに湿疹・蕁麻疹・薬疹などの皮膚疾患における紅斑・腫脹・瘙痒、扁桃炎・咽喉頭炎における咽頭痛や発赤・腫脹、そして口内炎における疼痛や口腔粘膜アフタと、実に多彩である。歯科臨床に直接関わる場面として特に重要なのは、手術中・術後の異常出血の防止と口内炎(アフタ性口内炎)症状の改善である。例えば、抜歯やインプラント手術後の止血困難なケースや、再発性アフタの疼痛管理において、本剤の適応範囲が含まれている点は見逃せない。

なお薬事区分上は「処方箋医薬品以外の医薬品」として記載されているが、これは本剤がOTCとして入手可能という意味ではない。実際の歯科診療においては医師・歯科医師の指示のもと処方されるべき薬剤であり、患者が自由に購入して自己判断で使用することは避けるべきである。

【主要スペック】トラネキサム酸の作用機序と臨床効果

トラネキサム酸は1960年代に日本で開発された人工アミノ酸誘導体であり、その主たる作用は線溶系(フィブリン分解系)の阻害である。具体的には、フィブリン分解酵素であるプラスミンやその前駆体プラスミノーゲンに結合し、フィブリン血栓の溶解を抑制する。簡単に言えば、一度形成された血餅(血の塊)がすぐに溶けてしまわないようしっかり安定化させる薬である。この作用により止血効果を発揮し、術後出血のリスクを低減させることが期待できる。抜歯窩の血餅が早期に崩壊して生じるドライソケット(抜歯後骨炎)の発生も、線溶系の過剰な活性が一因とされており、本剤によって血餅の維持が図れれば結果的に予防につながる可能性がある。臨床的にも、トラネキサム酸の術後使用によって抜歯後の出血や疼痛が減少したとの報告があり、歯科口腔外科領域で注目されている。

加えて、トラネキサム酸は抗炎症・抗アレルギー作用を併せ持つ点も特徴である。線溶を抑えることで、組織内でプラスミンから生じるブラジキニン(発痛物質)やヒスタミン(炎症・アレルギー物質)の生成を抑制する効果がある。その結果、腫れや痛み、痒みを和らげる作用が確認されている。臨床的にはこれが「のどの腫れや痛みを抑える」「蕁麻疹の症状を和らげる」といった効能につながっており、歯科領域ではアフタ性口内炎の疼痛緩和に寄与する。実際に、再発性アフタに悩む患者に対し、トラネキサム酸内服とビタミン剤、ステロイド軟膏を組み合わせることで症状間隔の延長や疼痛軽減を図っている歯科医院もある。これはトラネキサム酸の抗プラスミン作用により口内炎部位の不要な炎症反応が抑制され、治癒が促進されるためである。したがって、本剤は「出血を止める薬」でもあり「炎症を鎮める薬」でもあるという二面性を理解しておくと、その臨床的価値が一層明確になる。

薬物動態上のポイントとしては、経口摂取後の吸収が比較的速やかであることと、ほとんど代謝されずに腎臓から排泄される点が挙げられる。健常成人では服用後1〜2時間程度で血中濃度がピークに達し、血中半減期はおおむね2時間程度と報告されている。腎機能低下患者では血中に蓄積しやすいため注意が必要だが、通常の短期投与では重篤な蓄積はまれである。錠剤・カプセル剤ゆえ苦味を感じることがある点も知っておきたい(本剤も内容粉末に苦味がある)。患者が嚥下困難な場合には粉砕や散剤調剤も選択肢だが、苦味対策を講じるか、シロップ剤(他社から5%シロップが市販)への変更を検討すると良いだろう。

最後に、本剤は一症例あたり最大1日2000mg(カプセル8錠分)の投与まで認められている。症状に応じて用量は幅広く可変であり、少量(1回1カプセル)でも効果を発揮するケースがある一方、重度の出血リスクには積極的な投与(1回2カプセルを1日4回など)も検討される。投与量の裁量幅が大きい点は、臨床現場で患者個々の状態に合わせて柔軟に対応できる強みである。

歯科診療での使用方法と運用上のポイント

歯科におけるトラネキサム酸の使い方は、大きく分けて「経口投与」と「局所応用」の二通りを押さえておく必要がある。まず原則として、本剤はカプセルを経口内服させることを前提に製剤化されており、保険適用上も内服療法として位置付けられる。したがって患者に処方し、所定の容量を一定期間服用してもらう形が基本である。例えば、抜歯や小手術の場合には術前後数日にわたり内服させることが多い。具体的には、抜歯当日の朝にあらかじめ1カプセル(250mg)を服用させ、術直後からも1日3回程度の内服を開始し2〜3日継続する、といったプロトコルが考えられる。これによって術前から血中に有効濃度を確保し、術後も線溶系の過剰な活性を抑えることで、初期止血と安定維持を図るのである。もちろん用量や期間は症例に応じて調節する必要があり、出血リスクが高い大手術ではもう少し長めに(1週間程度まで)継続したり、逆に小さな処置では1〜2日で切り上げたりと柔軟な対応が求められる。患者には「決められた期間はきちんと飲み切ること」を周知し、中断しないよう指導することも大切である。

一方で、局所への応用も歯科では重要な観点である。トラネキサム酸を含嗽(がんそう)、すなわち洗口液として用いる方法は、海外を中心に術後出血予防策として確立されている。例えば、抜歯直後から5%トラネキサム酸液で含嗽することを4〜5日間継続することで、抗凝固薬服用患者の術後出血リスクを大幅に低減できることが報告されている。ただし、日本においてこの「トラネキサム酸洗口液療法」は保険適用外であり、公式な使用法とはされていない。そのため歯科医師の裁量で患者に指導する形となるが、臨床現場ではしばしば行われている工夫の一つである。具体的なやり方としては、市販のトラネキサム酸液(静注用アンプルなど)を用いて含嗽液とする方法が挙げられる。例えば「トラネキサム酸液500mg(5mL程度)をそのまま口に含んで2分保持後に吐出」というプロトコルが海外の論文でも用いられている。またアンプルが入手困難な場合には、カプセルの内容粉末を溶解して代用する手もある。250mgカプセルの内容をコップ半分(約100mL)の水に開ければ約0.25%濃度、2カプセルで0.5%濃度の含嗽液となる。濃度としては市販洗口剤中のトラネキサム酸含有量(0.025〜0.05%程度)より遥かに高いため苦味は相当あるが、止血目的ならば吐き出すことを前提に局所で高濃度に作用させることが肝要である。患者には「強くブクブクうがいをするのではなく、含んで静かに浸すようにしてから吐き出す」よう説明すると良い。含嗽後は飲食を30分程度控えるように指示すれば、創部に薬液が留まり効果を発揮しやすくなる。繰り返しになるが、これらの局所応用法は添付文書に載らないオフラベル使用であるため、患者説明においても「正式な使い方ではないが経験的に有効と考えられている」と付言し、同意を得てから行うのが望ましい。適切に用いれば侵襲も少なく費用もごくわずかで済むため、臨床的メリットは大きい。

運用面では、歯科医院内での在庫管理や調剤フローも検討しておくとよい。本剤は幸い長期保存が可能な錠剤であり(通常室温で数年の有効期限)、1瓶あたり100カプセル程度の包装で入手できる。薬価は1カプセルあたり約10.4円(2025年現在)と安価であるため、在庫しておいても経済的負担は軽微である。院内処方を行う場合は、PTPシートからあらかじめカプセルを取り出し分包して渡す配慮が必要だ。PTP包装のまま手渡すと、高齢患者などは誤ってシートごと飲み込んでしまうリスクがあり(実際、鋭利なPTPの誤飲による食道穿孔事故が報告されている)、添付文書にも注意喚起が記載されている。特に在宅診療先での投与や独居高齢者への処方時には、一包化するなど安全対策を講じたい。院内に薬剤師がいない場合でも、歯科医師自身がこれらのポイントを押さえて調剤・交付することが求められる。

また、他の医薬品や材料との「互換性」という観点では、トラネキサム酸は基本的に単独で完結する治療補助であり、データ形式や機器接続のような互換性問題は生じない。ただし、薬物相互作用の点では注意がある。併用禁忌としてトロンビン製剤(血液凝固第II因子)は禁止されている。これは両者とも血栓形成を促進するため、併用で過剰な血栓ができる恐れがあるためである。もっとも一般歯科でトロンビン製剤を用いることはまず無いため、現実的な心配は少ないだろう。併用注意として挙げられるのは、ヘモコアグラーゼやバトロキソビンといった特殊止血薬との組み合わせである。これらも歯科で遭遇する機会はほぼ皆無だが、もし患者が他科でそうした止血剤治療を受けている場合には念のため確認しておきたい。一般的な鎮痛薬、抗生物質、局所麻酔薬などとは特段の相互作用は報告されておらず、歯科領域で用いる他の治療との両立は良好である。むしろ「抜歯時は必ずリドカイン含有の止血用麻酔を使い、抜歯窩には止血剤(酸化セルロースなど)を挿入し、縫合もしっかり行った上でトラネキサム酸を投与する」といった形で、他の止血手段と相乗的に用いることが本来の姿である。トラネキサム酸単独ですべての出血が止められるわけではない。あくまで既存の止血処置を補完し強化する役割として位置付け、過信せず活用することが肝要である。

【経営インパクト】コストと投資対効果を読み解く

本剤の導入が歯科医院経営に与える影響は、「高額機器のROI」という観点とはやや趣が異なる。材料コストそのものは微々たるものだからだ。実際、1カプセル約10円の薬剤を仮に一症例あたり数十カプセル使ったとしても、コストは数百円程度に収まる。ゆえに単純な材料費の増減でクリニックの収支を圧迫することは考えにくい。重要なのは本剤を使うことで間接的に得られる経済的利益である。

第一に挙げられるのは、術後合併症リスク低減による「無駄なコスト」の削減である。抜歯後の止血不良は、診療時間外対応や追加処置を招き、院長自身やスタッフの労働コスト増につながる。例えば、抗凝固薬服用患者100人の抜歯を行った場合、何もしなければ5人程度に臨床的に問題となる出血が起き得ると報告されている。一方で術中縫合や圧迫止血に加えトラネキサム酸を含嗽・内服させた群では、その割合が半分以下に低下したとのデータもある。仮に出血トラブル1件あたり院長の時間1時間・スタッフ人件費数千円がかかるとすれば、5件防げれば人的コストを何万円分も節約できる計算になる。しかも、そうした時間は本来なら他の有益な診療に充てられたはずの時間であることを考えれば、機会損失の低減という意味でも大きい。わずか数十円の投資で数万円の損失リスクを減らせるのであれば、ROI(投資対効果)という点で極めて優秀と言えるだろう。

第二に、患者満足度向上と医院の信頼性向上による増患効果が期待できる。本剤の活用により、たとえば「血液サラサラ薬を飲んでいるけれど抜歯を安全にしてもらえた」「手術後の出血や腫れが最小限で済んだ」という患者体験が生まれやすくなる。こうした体験をした患者は、不安が解消されたことでかかりつけ歯科医への信頼を深め、以後の治療も任せようと考えるだろう。また、その患者が周囲に「あの歯医者さんは配慮が行き届いていて安心だ」と伝えてくれれば、新たな患者獲得にもつながる。現代は高齢社会であり、抗血栓療法中の方や全身疾患を抱える方も多い。そうした患者層から「この歯科医院なら自分の薬を飲んだままでも診てもらえるらしい」と選ばれることは、長期的に見て大きな強みになる。言い換えれば、本剤の導入は医院の提供できる医療サービスの幅を広げ、リスクの高い症例にも対応できる体制を整えることを意味する。これは単なる薬剤導入ではなく、医院のブランディング強化策の一つと捉えることもできる。

さらに、本剤の抗炎症効果によって治癒期間の短縮や再来院率の低下が期待できる点も見逃せない。口内炎などで頻繁に来院していた患者が、トラネキサム酸内服で症状軽減すれば通院間隔が延びるかもしれない。一見、来院回数が減ると収益が下がるようにも思えるが、慢性疼痛の患者を抱え込んだままでは他の積極的治療に移行できないことも多い。むしろ早期に症状を改善してあげることで、その患者に必要な補綴治療やメインテナンスに移れるとすれば、トータルの診療収入はむしろ増加する可能性が高い。患者側も「楽になった」という満足感とともに本来の治療に専念できWin-Winである。

最後に費用対効果を数字で試算しておく。仮に、年間100症例の抜歯や手術でトラネキサム酸を使用し、一症例あたり薬剤費100円(例えば10カプセル使用相当)を要したとする。年間総コスト1万円である。一方、そのうち1件でも大きな出血トラブルを未然に防げれば、先述のように時間外対応や外科的介入による数万円規模のコストを節約できる。また患者のリピートや紹介で新たに1人でも自費治療が成約すれば、それだけで数十万円の売上増となる。投資額1万円に対してリターンが数十万円という計算も現実味を帯びてくる。実際のROI算定は難しいが、本剤に関しては費用がごく小さい分、導入によるメリットが一つでも現れれば容易に元が取れる構造であることは間違いない。

【使いこなしのポイント】臨床と院内体制のコツ

トラネキサム酸カプセルを真に活かすためには、単に処方するだけでなく臨床テクニックとの組み合わせと院内体制の整備に目を向ける必要がある。

まず臨床面のコツとして、他の止血処置との併用順序やタイミングを工夫したい。例えば、抜歯時には通常どおり圧迫止血と縫合を確実に行い、その上で患者にトラネキサム酸含嗽を指示し帰宅させる。内服はできれば抜歯当日から開始し、その日の夜や翌朝にピーク濃度が来るよう調整すると良いだろう。ここで大切なのは、「トラネキサム酸を使うからといって決して他の処置を省略しない」ことである。時折、忙しさから「まあトラネキサム酸を出しておけば大丈夫だろう」と縫合を疎かにするケースが散見されるが、これは本末転倒である。物理的止血(圧迫・縫合)と化学的止血(薬剤)は両輪であり、一方に頼りすぎないバランス感覚が必要だ。本剤はあくまで血餅ができて初めて効果を発揮する薬なので、そもそも血餅が形成されないような不十分な処置ではメリットを引き出せない。

次に、患者ごとのリスク評価を適切に行うこと。全ての症例に本剤を乱用する必要はなく、「この患者・この処置は出血リスクが高いから使おう」といった判断軸をチームで共有しておくとよい。具体例として、ワルファリンやDOACを服用中の患者、大きな骨切りを伴う埋伏歯抜歯、全身疾患で出血傾向がある患者(肝機能障害や白血病既往など)、あるいは明らかな歯肉炎症下での処置(線溶が活性化しやすい)などが挙げられる。逆に、健康な若年者の単純抜歯や少量の歯肉出血程度では、無理に薬に頼らずとも通常の対処で十分なことも多い。事前に問診票や電子カルテで抗凝固薬の有無や既往歴を確認し、院内で「トラネキサム酸使用が望ましいハイリスク患者リスト」を作成しておくのも一法である。

また、院内教育と情報共有もポイントだ。歯科衛生士や助手に対しても、本剤の基本作用と使い方を理解させておくことで、術後指導や患者からの問い合わせ対応がスムーズになる。例えば衛生士が術後の患者にガーゼ圧迫の説明をする際、「今回は血を固めるお薬も出ていますので、もしガーゼを外した後でもダラダラ血が出たら薬を飲んだりお口をゆすいだりしてみてくださいね」とフォローできれば患者も安心だ。こうしたチームアプローチでトラネキサム酸を位置付けることで、院全体として有効活用が図れる。

患者説明に関しては、専門用語を噛み砕いて伝えることが重要だ。「線溶系が…」などと説明しても一般の方には通じないため、「今回お出しする薬は血を固めてカサブタを守るお薬です」といった平易な表現を心がける。加えて、「この薬を飲むと血が固まりやすくなるので、水分をしっかり摂って体を動かしてください」という一言も添えたい。本剤は血栓を安定させる反面、ごく稀に血の固まりすぎ(血栓症)を起こす可能性がある。そのリスクを下げるには脱水を避け、適度に体を動かして血流を保つことが有効である。実際、術後安静が長引くと血栓ができやすくなり、本剤投与中に急に歩き始めた際に肺塞栓を起こした例も報告されている。過度に怖がらせる必要はないが、「普段通り日常生活する分には問題ないですよ。ただ長時間寝たきりは良くないので、適度に体も動かしてくださいね」程度のアドバイスはしておくと親切だ。

最後にフォローアップである。トラネキサム酸を処方した患者には、次回来院時に効果や副作用の有無を確認する習慣をつけよう。例えば「お薬飲んでから出血はその後どうでしたか?」「気持ち悪くなったりしませんでしたか?」と尋ねることで、患者の安心感も高まるし、こちらも今後の参考になる。ほとんどの患者は「出血はおさまりました」と良好な経過を示すだろう。万が一、吐き気や蕁麻疹といった副作用が出ていた場合も、そこで把握できれば医科と連携して対処すれば良い。こうした振り返りを通じて自院における本剤のベストプラクティスを蓄積していくことが、長期的な財産となる。

適している症例・適さないケース

トラネキサム酸が特に威力を発揮するケースとして、以下のような状況が挙げられる。

まずは何度も述べたように、抗凝固薬や抗血小板薬を内服中の患者の抜歯・小手術である。高齢社会においてワルファリンやDOAC(直接経口抗凝固薬)を服用する患者は珍しくないが、こうした方々は処置後の止血に細心の注意が必要だ。本剤はこれらの患者に対し、抗血栓薬を休薬せずとも安全に歯科処置を行うための後ろ盾となる。実際、国内外のガイドラインでも「抗血栓療法中でも抜歯は休薬せず、局所止血と必要に応じトラネキサム酸を用いて管理する」ことが推奨されている。つまり本剤は、抗血栓薬を中断するリスク(脳梗塞や心筋梗塞発症)を負わずに歯科治療を完遂するための鍵を握っていると言える。

次に、先天的または後天的な出血傾向を有する症例だ。たとえば血友病やフォン・ヴィレブランド病など凝固因子に異常がある患者、肝障害や白血病などで出血しやすい患者では、歯科処置だけでなく日常の歯みがきでも出血に苦労することがある。本剤はこうした患者の全身的な止血能を高める補助薬として位置付けられる。実際、軽症血友病患者の抜歯時に術前後トラネキサム酸を投与することが標準的に行われている。注意点としては、重症例では本剤だけでは不十分であり、医科での凝固因子補充療法と連携する必要があることだ。しかし軽〜中等度の出血傾向ならば、本剤の投与で十分コントロール可能な場合も多い。歯科単独では難しい症例を本剤の力でカバーし、患者の生活の質を向上させられるケースもある。

さらに、広範囲の外科処置や外傷にも適応を検討したい。例えば顎骨の嚢胞摘出術や多数歯の抜歯を伴う全顎的治療など、創面が大きくフィブリン分解が盛んに起こり得る状況では、トラネキサム酸が術後出血と炎症の両面を抑え、創治癒をスムーズにする助けとなる。同様に、交通外傷などで口唇や舌粘膜の裂傷を縫合した後にも、本剤を内服させておけば患部の血腫形成や腫脹が軽減され、疼痛管理にも有用だろう。つまり、「出血しやすそう」「腫れそう」と術者が直感するような症例には積極的に適応を検討してよい薬と言える。

一方で、本剤の使用を避けるべき、もしくは慎重投与すべきケースも存在する。最も重要なのは、過去に血栓症を起こした既往がある患者である。具体的には脳梗塞や心筋梗塞、深部静脈血栓症の既往を持つ患者、さらには高度肥満や長期臥床など血栓リスクが顕著に高い患者には原則として使用を控えるか、どうしても必要な場合は短期間の最小限投与に留めるべきである。トラネキサム酸はあくまで「既存の血餅を溶けにくくする薬」だが、血栓傾向の強い人に与えれば結果的に有害な血栓まで安定化させてしまう恐れがある。添付文書でもこれらの患者には禁忌または慎重投与とされている。歯科的なマイナー処置なら本剤に頼らず、伝統的な方法(例えば出血リスクの高い部位なら術前に休薬やヘパリン置換を検討する、術後はしっかり縫合して近くの医療機関と連携して経過を見る等)で乗り切ったほうが安全かもしれない。

また、重度の腎不全患者も注意が必要だ。本剤は腎排泄型の薬物であるため、透析が必要なレベルの腎機能低下患者では体内に薬剤が蓄積しやすく、痙攣発作などの重篤な副作用が起こるリスクがあると報告されている。透析中の患者やeGFRが著しく低下した患者では、投与量を減らすか投与間隔を延ばすなどの工夫が必要になる。可能なら主治医に腎機能データを問い合わせ、投与計画の参考にすると安心だ。

加えて、本剤成分に対するアレルギーが疑われる場合は当然使用禁止である。実際にはトラネキサム酸でアナフィラキシーなどの報告は極めて稀だが、他の薬剤で重篤な薬疹歴がある患者など、何となく不安を感じる症例では無理せず回避する判断も大切だ。

最後に、代替アプローチが現実的な状況では必ずしも本剤にこだわらなくてよいという点を述べておきたい。例えば、抗血栓薬服用患者でも「どうしても休薬してほしい」と循環器内科医から強く依頼されることがある。その場合、医科の判断を尊重し休薬+入院管理で抜歯を行うことも選択肢の一つである(休薬には血栓リスクが伴うため慎重な検討が必要だが、患者の全身状態次第ではその方が安全な場合もある)。また出血自体はコントロールできても、感染症リスクや他の要因でそもそも外来処置が難しいケースもあるだろう。そのようなケースでは無理に自院で処置せず、初めから基幹病院口腔外科に依頼するという経営判断も時に必要だ。トラネキサム酸はあくまでツールの一つであり、「使えば万能」ではない。適不適を見極めつつ、医院全体のリスクマネジメント戦略の中に位置付けて活用していくことが望ましい。

【導入判断の指針】歯科医院のタイプ別に考える

保険診療中心で効率重視の歯科医院の場合

日々多くの患者を回転良く診療し、保険診療を主体に経営している歯科医院では、一つのトラブルが全体のスケジュールを狂わせるリスクを常に抱えている。限られたチェアタイムの中で止血に手間取ったり、処置後に患者から夜間連絡が入り対応に追われたりすれば、翌日の診療にも影響が及びかねない。このような「想定外の時間外労働」は効率経営の大敵である。トラネキサム酸の導入は、そうしたイレギュラー対応の発生率を下げ、診療を平準化する効果が期待できる。コスト的にも1症例あたり数十円〜数百円で済むため、保険点数内で十分吸収可能だろう(実際、抜歯や小手術後に処方箋を発行しても診療報酬上の手当てはある)。スタッフへの負担も、せいぜい薬の説明と処方入力が増える程度で大きく変わらない。むしろ出血トラブルに慌てて残業するより遥かに良いはずだ。

効率重視の院長にとって、本剤は「安価な保険」のような位置付けになる。普段は使わないに越したことはないが、万一のとき備えてあると安心できる。例えば「うちではめったに大きな外科処置はしないから必要ない」と考える先生もいるかもしれない。しかし、スケーリング中の偶発的出血や高齢者の義歯性潰瘍など、どんな医院でも小さな出血リスクは潜んでいる。そんな時に適切に本剤を使えば、「この前はすぐ血を止めてもらえて助かったわ」と患者から感謝され、医院の評価アップにもつながるだろう。効率と患者満足度の両立を目指す保険中心型の医院こそ、トラネキサム酸のようなローコストでハイリターンなアイテムを上手に取り入れてほしい。

高付加価値の自費治療を志向する歯科医院の場合

インプラントや審美治療など自費診療中心で高い付加価値を提供する医院では、患者は「質の高い医療」と「快適な治療体験」を期待して来院する。その期待に応えるためには、治療結果だけでなくプロセスの安全性や快適性も重視する必要がある。トラネキサム酸は、こうした医院のサービス品質向上に貢献できるツールである。

まず、大きな自費治療(インプラント手術や歯周外科など)の成功率向上とダウンタイム短縮という観点がある。例えばインプラント埋入手術では、術中・術後の出血や腫脹は患者にとって不安材料となり得る。トラネキサム酸を術前から投与しておけば、手術中の出血量が抑えられて術野がクリアに保たれ、結果として施術時間の短縮につながる可能性がある。また術後も出血や内出血斑(青あざ)が少なければ、患者は翌日から普段どおりの生活を送りやすく、治療満足度が高まるだろう。高額な自費治療を受ける患者ほど、そうした細部のケアに敏感である。実際、「前に他院で抜歯したときは顔が腫れて大変だったが、こちらでインプラントを受けたら腫れも少なく楽だった」という声が聞かれれば、医院の評判は自然と高まるはずだ。

さらに、自費診療のターゲット層は中高年が多いことも見逃せない。つまり高付加価値路線の医院では、必然的に全身疾患を抱えた患者にも出会う確率が上がる。例えば糖尿病で血液凝固に影響が出やすい患者や、過去に心疾患治療を受け抗凝固薬を飲んでいる患者も珍しくない。そうした患者に「うちは万全の対策で治療します」と胸を張って言える体制を整えておくことは、医院のブランド価値にもつながる。トラネキサム酸の常備は、その体制の一部である。カウンセリング時に具体的に薬剤名を出す必要はないが、「当院では出血や痛みを抑えるお薬も併用し、安全第一で治療にあたります」と説明すれば、患者は安心して高額治療に踏み切れるだろう。言わば本剤は、患者に提供するプレミアム体験の裏で医院を支える黒子のような存在である。

経営的にも、本剤のコストは自費治療収入に比べて無視できるほど微少である。インプラント1症例数十万円の中に、数十円の薬剤費を含めたところで何ら問題はない。それで患者満足度が上がり、紹介やリピートに結びつくなら投資として極めて合理的だろう。むしろ、本剤を使わずに万一トラブルが起き、再手術や材料追加となれば何倍ものコストがかかってしまう。高付加価値を掲げる医院ほど、「悪い事態を未然に防ぐ」ための備えは惜しむべきでない。本剤はその備えとして費用対効果抜群の選択肢である。

口腔外科・インプラント中心の外科系歯科医院の場合

親知らずの難抜歯や骨造成、顎骨腫瘍の摘出など口腔外科処置を多数手がける医院、あるいはインプラント・歯周外科に特化した医院では、日常的に出血リスクと隣り合わせの診療を行っていると言える。このような外科系志向の強い医院にとって、トラネキサム酸はもはや必須の常備薬と断言してよい。

まず、口腔外科処置の術後合併症として最も多いのが「出血」と「疼痛・腫脹」である。トラネキサム酸はその両方を抑える効果が期待できる点で、口腔外科医の強力な武器となる。例えば下顎水平埋伏智歯の抜歯では、術後24〜48時間以内に少量の出血がにじむことは珍しくない。そこに予めトラネキサム酸含嗽を組み込んでおけば、血餅の安定化によりドレンのような持続的出血を予防できる。さらに抗炎症作用により、術後の顎角部の腫れや開口障害も若干緩和される可能性がある。これは患者の苦痛軽減だけでなく、術後経過観察の来院回数削減や投薬量減少にもつながり、外科処置後のマネジメントを効率化するメリットがある。

また、口腔外科領域では全身管理との連携が必要な症例も多い。全身麻酔下での手術や入院加療が絡む場合、医科ではトラネキサム酸の点滴投与が行われることも一般的だ。顎変形症の手術など大規模なものでは、麻酔科主導で術中にTXAを投与し出血量を減らすこともある。こうした全身管理面のトレンドを踏まえて、外来の局所手術においても経口TXAを積極活用することは理に適っている。むしろそれができないと、「大きな病院ではやっている管理が自院ではできない」というハンディキャップを負うことになる。外科処置中心の医院こそ、自院で提供する外科治療の安全性と質を最大化するため、本剤をフルに活用すべきである。

さらに、外科系歯科医院は紹介患者を受け入れる機会も多い。近隣の一般歯科から「全身疾患があるが抜歯をお願いしたい」と紹介されるケースでは、依頼元の期待に応える責任がある。その際、トラネキサム酸を用いたエビデンスに基づく止血管理ができれば、依頼元の先生にも患者にも安心してもらえるだろう。これは医院間の信頼関係構築にも寄与し、さらなる紹介増につながる。つまり、本剤の適切な使用は口腔外科系医院の評価と信用を高める一助ともなるのだ。

総じて、外科処置を担う歯科医院においてトラネキサム酸カプセルは「備えあれば憂いなし」の切り札である。高難度の処置ほど、トラネキサム酸を含む総合的な止血戦略で万全を期し、患者にも紹介元にも「さすが専門医」と思わせる結果を提供していただきたい。

よくある質問(FAQ)

抗凝固薬服用中の患者に本当に使用して大丈夫か?

はい、原則大丈夫である。 抗凝固薬(ワルファリンやDOACなど)を服用中の患者にトラネキサム酸を併用しても、通常は問題なく安全に使用できる。ただし、本剤が血栓症リスクをわずかに高める可能性がある点は考慮すべきだ。抗凝固薬を飲んでいる背景には心房細動や静脈血栓症など既往があることが多く、そうした患者はもともと血栓ができやすい体質とも言える。トラネキサム酸は出血を防ぐ一方で血栓を安定化させる作用があるため、過去に脳梗塞や心筋梗塞を起こした方では慎重に判断する必要がある。総じて、抗凝固薬を中止せず歯科治療を行う場合の補助として本剤を使うことは、ガイドライン上も推奨されている。ただ心配であれば内科主治医に事前に相談し、「歯科処置時に止血目的でTXA(トラネキサム酸)を使いたいが問題ないか」と確認を取っておくと安心である。

歯科での具体的な使い方は?内服と含嗽はどう組み合わせればよいか?

基本は内服で、必要に応じて含嗽を併用する形である。 具体例として抜歯の場合、術前〜術後にかけて約3〜4日間内服してもらうのが標準的だ。例えば「抜歯当日朝から1日3回1カプセルずつ、3日間服用」という処方を出す。また抜歯直後から5%トラネキサム酸液でうがいをしてもらい、自宅でも1日数回含嗽を続けてもらうと万全だ。内服による全身的な血餅安定化と、含嗽による局所的な止血膜形成、この二方向からアプローチすることで最大の効果が得られる。口内炎で使う際は、1日750mg(250mgカプセル3錠)程度を7〜10日内服させることが多い。この場合含嗽は必要なく、内服の抗炎症作用で患部の治癒を促す。いずれにせよ、症例によって投与量・期間は調整すべきなので、「この用法でなければいけない」という決まりはない。患者の全身状態と処置内容に応じて柔軟に計画を立てるのがコツである。不安な場合は少なめの量から開始し、状況を見て延長・増量してもよい。

副作用や注意すべき点はあるか?

重篤な副作用は極めて稀だが、いくつか注意点がある。 主な副作用として添付文書に記載されているのは、消化器症状(食欲不振、吐き気、胃部不快感など)や皮膚症状(かゆみ、発疹)である。頻度は高くなく、経験的にも多くの患者は副作用なく服用できている。まれに眠気を訴えるケースも報告されているが、日常生活に支障を来すほどのことはまずない。一番気をつけるべきは、血栓症(血の塊ができる副作用)である。ただし通常の短期間使用で健康な人に血栓症が起きる可能性は非常に低い。リスクがあるのは、前述のようにもともと血栓ができやすい素因を持つ患者の場合だ。そのため、そういった患者には慎重投与とし、必要最小限の量・期間にとどめるなどの配慮をする。また、腎機能が悪い患者では薬が体に溜まりやすいため、用量を減らすか投与間隔を延ばすなど調節が望ましい。万一、服用中に異常な症状が出た場合(激しい腹痛や痙攣発作など)はすぐ内服を中止し、専門医に繋ぐよう患者にも指示しておくと安心だ。まとめれば、本剤は安全域の広い薬ではあるが、「血を固める作用がある」という本質を念頭に置き、リスク因子を持つ患者では注意深く使うことが大切である。

東和薬品「トーワ」製剤の特徴は?先発品トランサミンと違いはあるか?

有効成分や効果に違いはなく、主な違いは価格と供給体制である。 トラネキサム酸カプセル250mg「トーワ」は、先発品トランサミンカプセル250mgと生物学的同等性試験で効果が同等であることが確認されたジェネリック医薬品である。有効成分の種類も含有量も全く同じであり、臨床効果や副作用プロファイルも先発品と変わらない。カプセルの色や刻印が異なる程度で、患者から見ても大きな違和感なく切り替えられるだろう。最大の違いは薬価が安い点で、先発品よりも薬価ベースでおおよそ半額程度に設定されている(ジェネリック医薬品のため)。これは院内処方であれば医院の薬剤コスト削減につながるし、院外処方でも患者の自己負担軽減になる。

また、東和薬品というメーカーについて触れると、同社はジェネリック専業メーカーとして国内有数の規模と実績を持つ。薬剤の安定供給には定評があり、万一の欠品リスクも低いと言える。歯科で使用頻度の高い抗菌薬や鎮痛薬なども多数製造しているため、取引実績のある薬局や卸も多く、入手のしやすさは先発品と比べても全く遜色ないだろう。品質管理面も近年のGMP基準に則っており、有効成分が同じである以上、臨床上の信頼性も担保されている。敢えて違いを挙げるとすれば、包装単位に「100カプセル入りボトル」が用意されている点が特徴かもしれない(先発品は10カプセルシート包装)。院内でまとめて備蓄する場合、ボトル包装は管理がしやすく使いやすいという声もある。

結論として、トーワのトラネキサム酸カプセルは先発品と比べても安心して使える製品である。歯科領域で使用するぶんには効果の差は皆無で、経営面ではコストメリットが享受できるため、積極的に採用して問題ないだろう。もし先発品からの切替を検討しているなら、患者への説明としては「同じ成分のお薬で、お薬代が少し安くなります」と伝えれば大抵は受け入れてもらえるはずだ。品質と経済性のバランスが取れた選択肢として、東和薬品「トーワ」の製品は十分信頼に値する。