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歯科で使う止血剤「コラテープ」とは?価格や使い方、添付文書について解説

歯科で使う止血剤「コラテープ」とは?価格や使い方、添付文書について解説

最終更新日

抜歯や歯周外科の現場で、予想以上に出血が止まらず困惑した経験はないだろうか。患者にガーゼを長時間咬ませて止血を待つ間、診療スケジュールが押してしまう…。インプラントのサイナスリフト中にシュナイダー膜が裂け、大量の出血で視野不良に陥ったこともあるかもしれない。こうした場面で頼りになるのが吸収性局所止血材「コラテープ」である。コラテープは創傷部位に置くだけで2〜5分程度で止血し【※メーカー資料】、そのまま体内で溶けていくコラーゲン製のスポンジだ。

本稿では、このコラテープの臨床的価値と経営的価値を検証する。読者の先生方が自身の診療スタイルに照らし、コラテープ導入によるROI(投資対効果)を最大化できるよう、徹底解説を試みたい。

【製品の概要】コラテープはどんな止血材か

コラテープ(CollaTape)は、歯科領域で使用される吸収性の局所止血剤である。正式な販売名は「ヘリスタット」という医療機器で、ジンヴィ・ジャパン(旧Zimmer Biomet系)から供給されている。素材は精製されたⅠ型コラーゲンで、ニュージーランド産ウシのアキレス腱由来のコラーゲンを高度に精製して作られたスポンジ状の創傷被覆材である【※添付文書】。1箱に10枚入りで、各シートは縦25mm×横75mm、厚さ約0.3mmの白色の柔らかいシート状をしている【※製品仕様】。湿潤または出血している清潔な創傷に直接貼付することで出血を制御し、創面を保護する目的で開発された。口腔外科手術全般で使用可能であり、具体的な適応としては抜歯創、インプラント埋入部位、歯周外科のフラップ手術、嚢胞摘出創、自由歯肉移植の供給床(口蓋)など幅広い術後創面の止血と保護に用いられる。またカバー材として上顎洞底粘膜(シュナイダー膜)の偶発穿孔部を修復する用途にも有用であるとされる【※製品資料】。創傷治癒が開始したあとは10〜14日程度でコラテープ自体は完全に吸収されるため、患者の体内に異物が残存し続ける心配がない【※メーカー資料】。これは後述する通り、長期にバリア機能を持たせる製品ではないことも意味する。

コラテープは医療機器クラス分類では高度管理医療機器に該当し、歯科医院で使用する際も適切な管理が必要である。とはいえ特別な設備は不要で、製品自体はガーゼ感覚で扱えるディスポーザブル製品である。1995年の発売以来、20年以上にわたり外科・歯科領域での実績がある老舗の止血材であり【※メーカー資料】、現在も改良を重ねつつ多くの臨床現場で活躍している。

【主要スペック】性能と臨床的意義

コラテープの主要な特性を理解することは、その臨床的価値を判断する上で重要である。ここでは止血性能、吸収性、物性(取り扱い特性)の観点からスペックを見てみよう。

まず特筆すべきは迅速な止血効果である。メーカーの資料によれば、適切に圧接すれば通常2〜5分以内に出血が効果的に制御される。これはコラーゲンが持つ生理的な止血機構によるものだ。コラテープのコラーゲン繊維に血小板が吸着すると、血小板は活性化して凝集し、フィブリン血栓の形成が促進される【※添付文書】。いわば“コラーゲンの布”を創傷に当てることで血液の凝固スイッチを入れるような働きである。臨床的には、長時間ガーゼで圧迫せずとも短時間で安定した止血が得られ、術後出血の不安を軽減できる点が大きい。特に抗凝固療法中の患者や、抜歯創が大きいケースでは、この迅速な止血効果がチェアタイム短縮と患者安心につながる。

次に吸収性である。コラテープは生体内で分解・吸収される吸収性スポンジであり、約2週間で完全に組織に置換される。【※メーカー資料】言い換えれば創面に貼ったまま患者の体内に残しておける設計だ。これにより、術後にわざわざ除去のための処置をする必要がない。例えば抜歯窩に詰めた場合、従来のガーゼや止血剤だと後日除去や脱落が問題になるが、コラテープならそのまま自然に溶けてなくなる。術者にとっては処置の簡略化につながり、患者にとっても「体内に残ったままでは?」という不安が少ない。なお吸収されたコラテープは周囲組織に置き換わり、異物としての残骸は残らない。これは生体適合性の高いコラーゲンならではの利点であり、吸収過程で過度な炎症や肉芽形成を招きにくいとされる。

物性面では、コラテープは白色で柔軟かつ適度な強度を持つ点が特徴である。乾燥状態では薄いフェルト状だが、濡れるとゲル状に膨潤し、創面に密着する。スポンジ構造が非常に緻密で繊維片が脱落しにくいよう加工されており【※添付文書】、扱っていてボロボロ崩れてくる心配が少ない。これは例えば、類似する酸化セルロース系の止血材(いわゆる「サージセル」など)が水分でゼラチン状に崩壊し組織に残渣を残すのと対照的である。圧縮加工されているため薄くても十分な強度があり、縫合をして固定することも可能である【※製品資料】。実際、コラテープを創面に縫い付けて固定する臨床例もある。例えば口蓋の遊離歯肉採取部に当てて糸で留め置けば、従来は難しかった供給部位の完全な被覆が可能になる。このように「薄手だが丈夫」というバランスの良い物理特性を備えている点が、臨床での使い勝手の良さにつながっている。

最後にコラテープは無菌に包装されたディスポーザブル製品である。工場出荷時にガンマ線滅菌されており、パッケージを開封すればすぐに使用できる。歯科医院で再滅菌したり特別な保管条件に気を遣う必要はない(通常の室温保管で良い)。開封後は清潔操作下で使い、未使用分を再滅菌しての再利用は不可となっている【※添付文書】。もっとも1枚を小さく切り分けて同一患者内の複数創傷に使うことは問題ないので、状況に応じてサイズを調整して用いる柔軟性もある。

【互換性や運用方法】導入にあたっての実際

コラテープは特定の機器と接続したりソフトウェアと連携したりする製品ではなく、単独で完結する止血材である。そのため「他社機器との互換性」という概念は基本的に存在しない。しかし、院内で運用する上で押さえておくべきポイントや、他の材料との使い分けに関する知識がある。

まず使用手順について確認しよう。コラテープは滅菌アルミ包装などで密封されているので、施術直前に開封する。中のスポンジシートを乾燥した清潔ピンセットで摘み出し、必要ならば清潔なハサミで創傷面の形より一回り大きめにカットする【※添付文書】。創面の血液や滲出液を軽く吸い取っておき、コラテープをどちらの面でも構わないので出血部位に直接当てる【※添付文書】。すぐに上から乾いたガーゼか綿球で優しく圧迫して2〜3分静置する。圧迫中は極力動かさないことがコツである。数分後にガーゼを外し、出血が止まっていれば成功だ。必要に応じてそのまま創部に貼付した状態で留置しておくことができる【※添付文書】。術野によってはコラテープを糸で縫合固定したり、上から圧迫パック(ペリオパック)で覆ったりして安定させることも有効である【※添付文書】。例えば広範囲の骨露出があるような歯周外科では、コラテープで創面を覆ってからパック材で固定すれば、止血と保護の両面で相乗効果が得られる。

一方、使用後の取り扱いも重要だ。コラテープは生体内に吸収させることを前提としているが、状況によっては術後に除去する判断もありうる。添付文書上は「止血完了後は可能な限り余剰分を生理食塩水で洗浄除去すること」との記載がある【※添付文書】。特に神経の圧迫が懸念される部位や、閉鎖創(縫合で完全に密閉する創)では、過剰なコラテープを残さない方が安全である。例えば下顎管付近の抜歯窩に大量のコラテープを詰めたまま縫合すると、膨潤したスポンジが下歯槽神経を圧迫するリスクがあるという報告もある【※添付文書】。したがって適量を守ること、そして明らかに不要な余りは洗い流すか除去することが望ましい。もっとも通常の歯科領域で使われる範囲では、コラテープが神経障害を引き起こす事態は稀であり、過敏に恐れる必要はない。適切に使えば問題なく吸収され、組織治癒の一部となって消えていく。

他材との組み合わせについても触れておこう。コラテープは他の生体材料(骨補填材・メンブレン等)との相性が良い。例えば抜歯即時インプラントやソケットプリザベーションの際、人工骨や自己骨を填入した上からコラテープで蓋をして止血するという手技は広く行われている。コラテープ自体が骨造成能を持つわけではないが、血餅を安定化させ骨補填材を所定の位置に留める役割を果たす。GBR(骨誘導再生)膜との使い分けもポイントだ。コラテープは2週間程度で溶けてしまうため、長期に骨を覆う必要がある場合は専用のコラーゲンメンブレン等を使用すべきである。実際、コラテープは非交絡型の純粋コラーゲンゆえ barrier 機能は短期間で消失する。したがって、たとえば大きな骨欠損への骨移植では、コラテープはあくまで一次止血・被覆用とし、その上から数ヶ月維持できるメンブレンを設置するといった役割分担が必要になる。一方、小規模な骨欠損やソケットプリザベーションで4壁に囲まれた部位であれば、コラテープのみで塞いで自然治癒に委ねるケースもある。要は症例に応じてコラテープを「短期の蓋」として用いるか、「長期の蓋」(メンブレン)を併用するかを判断するのが術者の裁量となる。

院内運用の観点では、スタッフ教育と在庫管理も考慮したい。コラテープ自体の使い方は難しくないため、歯科衛生士や助手に対しては「滅菌物なので清潔に扱うこと」「ハサミで切る際は清潔区域内で行うこと」程度の周知で十分だ。実際の手術中には術者自身が扱うことが多いが、事前に必要サイズに切ってもらっておくなどアシストワークに組み込むこともできる。在庫に関しては、コラテープは高価な材料なので無駄遣いは避けたい。使用期限も数年単位で設定されているため、使わずに棚に眠らせたまま期限切れ…とならないよう注意が必要だ。症例数に見合った数量を購入し、ロット番号や期限の管理を行うことが望ましい。また、高度管理医療機器のため購入時には業者との取引契約や管理責任者の設置など、法令遵守の体制を整えておくこともお忘れなく。

【経営インパクト】コラテープ導入で医院経営はどう変わるか

次に、コラテープを導入することが医院経営にどのような影響を与えるか考えてみよう。単に臨床的に有用であっても、費用対効果が見合わなければ経営上の負担となりかねない。そこでコラテープのコストとリターンを具体的に試算・検討する。

価格面から見てみる。コラテープはメーカー希望小売価格がオープン価格となっているが、歯科ディーラー経由での実勢は1箱10枚入りで約6万円前後と言われる。1枚あたりに換算すると約6,000円ということになる(税別・仕入価格ベース)。この数字だけ聞くと「ガーゼ1枚は数円なのに、その代わりに6千円は高価すぎる」と感じるかもしれない。しかし視点を変えれば、インプラント1本の自費治療費が数十万円であるのに対し、その安全性や効率を高める材料が数千円というのは妥当にも映る。高額な処置ほど、その成功率向上に寄与する材料費の割合は小さくなるからだ。例えば30万円のインプラントオペにおいて、コラテープ(6千円)は治療費全体の2%に過ぎない。一方、それによって術中のトラブルや術後出血リスクが低減し、再処置の可能性が下がるならば、2%のコスト増でクオリティ保証を買うようなものである。

保険診療における位置づけも考慮が必要だ。残念ながらコラテープ単体に対する診療報酬点数は設定されておらず、保険診療下では材料費を患者に請求できない。したがって保険の抜歯や小手術に用いる場合、その数千円は医院側の持ち出しコストとなる。ただ、院内経費という観点では時間短縮による効率化やトラブル回避による無償対応の削減が見込める。例えば抜歯後の止血に30分かかっていたケースがコラテープで10分に短縮できれば、20分の椅子時間を別の処置に充てられる。1日あたり積み重ねれば追加の患者予約枠を確保できる可能性もある。また、もしコラテープでドライソケット(抜歯後の骨露出による痛み)の発生を予防できれば、患者の緊急来院や投薬処置といった無収入の労力を削減できる。ドライソケット1件の対応に2〜3回の処置と数千円相当の時間が費やされることを思えば、コラテープ1枚の投入でそれを未然に防げるなら十分採算が合う計算だ(予防効果には個人差があるが、コラーゲンスポンジは血餅の安定化に寄与すると報告もある)。

患者満足度・口コミ向上も経営的リターンとなり得る。術後出血が早期に止まり、痛みや腫れが軽減されれば、患者の治療満足度は上がるだろう。例えば親知らず抜歯後に出血がだらだら続けば患者は不安になるが、コラテープを入れておけば比較的早く落ち着く。患者に「最新の止血材で処置しましたので安心です」と説明すれば、技術の高い歯科という印象を与えるかもしれない。満足した患者は医院のファンとなり、紹介で新たな患者を連れて来てくれる可能性もある。「見えない投資」ではあるが、良質な医療を提供することが長期的に医院の評判・収益に繋がる点は見逃せない。

もうひとつ、スタッフ稼働効率への影響もある。長引く止血対応に人手を取られたり、術後の経過不良でスタッフが電話対応に追われたりするのは、医業収益を生まない時間である。コラテープの導入でそうした無駄な時間が減れば、スタッフはその分生産的な業務に集中できる。医療安全上も、出血トラブルが減ればスタッフの精神的負担も軽減される。院内オペレーションの安定化は数字に見えにくいが重要な経営効果だ。

以上のように、コラテープの費用対効果は一概に高いとも低いとも言えない。それは使い方次第である。日常的に誰彼構わず使えば経費を圧迫するが、ポイントを絞って使えば利益を守り増やす盾になってくれる。医院の診療内容や重視ポイントに合わせて、賢く使いこなすことでROIを最大化できるだろう。

【使いこなしのポイント】臨床で効果を発揮させるために

コラテープは使い方が難しい製品ではないが、その効果を十分に発揮させ、無駄なく運用するためのコツがいくつかある。ここでは導入初期によくある疑問や留意点も含めてポイントを整理する。

1. 十分な乾燥環境で使用する

コラテープは乾燥状態で扱うことで本来の強度と操作性を保つ。使用時は創部の過剰な血液をあらかじめガーゼでそっと拭い、スポンジは乾いた器具で摘む。【注意】一度血に浸すと柔らかく粘調になり、ピンセットに張り付いたり扱いにくくなるため、創面に当てる瞬間までは極力乾燥を保つのがコツである。

2. 創傷サイズに合った切裁

コラテープは大判のシート状なので、そのままでは不要に大きすぎることが多い。創傷より一回り大きい程度にハサミでカットして使うと良い。大きすぎると、縫合時に縁からはみ出て邪魔になったり、無駄な異物を残すことになる。特に皮膚や粘膜の切開創を縫合で閉じる際には、切開線上にコラテープを挟み込まないよう注意する。創縁の間に挟まると治癒が阻害される恐れがあるためだ。必要なら縫合前に創縁付近のコラテープを除去し、創底部だけに残すようにする。

3. 過剰使用しない

止血を急ぐあまり大量のコラテープを詰め込みたくなるかもしれないが、最小限の量で十分な効果が出るよう設計されている。大きな創面でも、適切に圧迫すれば1枚でほとんどの場合止血可能だ。むしろ大量に詰め込みすぎると前述のように腫脹時の圧迫や、吸収に時間がかかるリスクがある。「足りなければ後で追加する」くらいの慎重さでちょうど良い。

4. 圧迫保持時間を守る

コラテープは接触直後に瞬時に止血する魔法の薬ではない。2〜5分の圧迫という手順を踏んではじめて最大の効果を発揮する。焦って短時間でガーゼを除去すると、せっかく形成されかけた血餅が剥がれて再出血する恐れがある。術者自身が圧迫しても良いし、患者にしっかり咬合圧をかけてもらう場合は、時間を計って確実に実施する。忙しい診療中だと1分が長く感じるものだが、ここは腰を据えて圧迫することが結果的に時短につながると心得たい。

5. 必要に応じて固定する

コラテープは粘膜面に貼り付くように設計されているが、動きやすい部位では何らかの固定をした方が安心だ。例えば上顎洞膜の穿孔補修では、コラテープを貼った後に数分指で押さえ、血餅で膜と癒着するまで待つと剥離しにくくなる。また口蓋部のように絶えず舌や食物が当たる場所では、縫合糸でコラテープを筋層に留めたり、パック材やアクリル製保護板で覆ったりして物理的にズレない工夫をすると良い。「貼る+押さえる」の二段構えで使うと、コラテープは半透明の人工皮膚のように創面を覆い続けてくれる。

6. 他の止血材との比較を理解

止血用途には他にもガーゼやゼラチンスポンジ、酸化セルロース、トロンビン液など様々な手段がある。それぞれ利点欠点があるが、コラテープの強みは生体由来コラーゲンによる高い凝固促進能と吸収後の遺残がない清潔さである。酸化セルロースは安価で止血力もあるが、組織内に残ると黄色く変質して炎症を誘発することがある。一方コラテープはコラーゲンそのものが創傷治癒を助ける足場となり、残渣も生理的に処理されやすい。この違いを理解して、症例に応じて使い分けると良いだろう。「普段は○○スポンジを使っているが、ここ一番はコラテープ」といったようにメリハリをつけた使用がお勧めだ。

7. 患者への説明

コラテープを患者に使用した場合、その旨を伝えておくことで患者の安心感につながる。具体的には「傷口に溶けるシートを入れて止血しています。自然に吸収されるのでご安心ください」と説明すると良い。術後に患者が創部を見て白いものがあると不安になることがあるが、「薬剤です」と一言添えていれば心配しなくなる。吸収が完了する2週間程度は、うがいのしすぎや指舌での触りすぎを避けるよう指示することも大切だ。患者にとっては目に見えない処置なので、丁寧に説明して付加価値を理解してもらうことが、ひいては医院の信頼度アップにもつながる。

【適応と適さないケース】コラテープは万能か?

コラテープが威力を発揮するケースと、反対に使用を控えるべきケースを整理しておこう。適応症と禁忌・注意事項の双方を把握することで、安全かつ効果的に使いこなすことができる。

適応が広い代表的ケース

◆ 抜歯後の止血

親知らずや難抜歯の後、広い創面からのにじむ出血をコントロールするのに最適だ。特に抗血栓療法中の患者の抜歯では、コラテープを入れておくことで術後出血のリスクを軽減できる。抜歯窩に填入し上から縫合しておけば、血餅の保護にもなる。

◆インプラント手術・骨造成

フラップ手術後の骨露出部位や、骨補填材を充填したサイトの一次被覆材として有用だ。サイナスリフトで膜が裂けた場合の補修、GBR時の微小な軟組織裂傷の止血など、外科的に困難な状況下での止血に強みを発揮する。上顎洞底膜の穿孔に対してはコラテープで即座にシーリングし、そのまま骨補填に移行できたケース報告もある。

◆歯周形成手術

歯肉弁根面側の広範な結合組織面を保護しつつ止血するのに適する。特に遊離歯肉移植(FGG)の供給部である口蓋の創面は出血しやすく痛みも強いが、コラテープで覆い縫合すれば血も止まり創面も直接の刺激から守られる。歯周形成や外科的挺出などの処置部位にも、ガーゼではなくコラテープを当ててパックで固定することで患者の不快感軽減が期待できる。

◆口腔粘膜の外科

粘膜切除術、生検部位、嚢胞摘出窩など、粘膜創が比較的浅いが出血しやすいケースでも有効だ。舌や頬粘膜の生検後は縫合のみでは滲出血があることも多いが、その上にコラテープを小片で貼っておけば安心である。また、口底や舌下など圧迫しづらい部位でも、コラテープならフィットして止血を助ける。

使用を避けるべき・慎重にすべきケース

◆感染・汚染創

コラテープ自体には殺菌作用がなく、感染組織に被覆すると細菌を閉じ込めてしまう恐れがある【添付文書上の禁忌】。急性炎症下で排膿を伴うような抜歯では、まず感染源をしっかり除去し、必要最小限の止血で済ませるべきだ。こうした場合はガーゼ圧迫やドレナージで対応し、創を密閉しないほうが良い。

◆大出血源のある場合

コラテープはあくまで局所の毛細血管性出血のコントロールに適した材料であり、動脈性の出血や大きな血管の損傷には原則として効果不十分である。太い血管から噴出するような出血時は、まず結紮や電気メスによる止血を優先すべきで、コラテープはそれでも微小出血が残る時の補助と考える。

◆骨セメント等を使う部位

これは主に顎顔面以外の領域だが、添付文書にはメタクリル系接着剤(人工骨セメント等)を塗布する骨表面では使用しない旨が記載されている【添付文書】。コラテープが骨小孔を埋めてしまうと、セメントの接着に支障を来す可能性があるためだ。歯科ではあまり該当場面は無いが、頭蓋骨や顎骨に外科用接着剤を用いるケースでは念頭に置いておく。

◆脳神経に近接する空間への使用

歯科領域とは少し異なるが、止血スポンジ類は脳神経外科や脊椎外科でも使われる。しかし神経組織の近傍で大量に使用すると、膨潤圧で神経を圧迫し麻痺を起こす症例報告がある【添付文書】。口腔内でこれほどのリスクが発現することは考えにくいが、例えば下顎管内や下歯槽神経直上への挿入といった極端な使用は避けるべきである。要するに狭い管腔や神経周囲では必要最小限にとどめ、余剰は除去することでリスクをゼロにできる。

◆長期のバリアが必要な場合

前述の通り、コラテープは数週間で吸収されるため、数ヶ月単位で組織を隔離する用途(例:嚢胞摘出後の骨腔保持や、重大な骨欠損へのGTR)には向かない。これを誤ってメンブレン代わりに使うと、計画より早くバリア機能が失われ治癒形態に影響しかねない。状況に応じて適材適所という基本を守り、コラテープは短期間用と割り切るべきだ。

以上を踏まえると、コラテープは「大部分の外科処置で使えるが、無菌的な計画手術で特に効果的」と言える。抜歯のような汚染環境では限定的な使い方に留め、清潔野で行うインプラントや歯周組織再建などで積極的に活用するのが望ましい。過信は禁物だが、適材適所で非常に頼もしい味方となるだろう。

【導入判断の指針】あなたの医院では役立つか?

最後に、医院のタイプ別にコラテープ導入の是非を考えてみよう。診療方針や患者層によって、新たな材料への投資価値は変わってくる。読者ご自身の医院像に近いケースを思い浮かべながら判断材料にしてほしい。

A. 保険診療中心・効率最優先型の医院

日々多くの患者を回し、保険点数の範囲で経営効率を追求するスタイルの医院では、コストには非常にシビアだろう。この場合、コラテープ導入の鍵は「時間短縮効果」と「トラブル防止効果」をどう評価するかにある。例えば高齢者の抜歯が多く、抗凝固薬服用患者もしばしば来院するような医院では、コラテープを常備しておくメリットは大きい。圧倒的な止血力で患者をすぐ帰宅させられ、後出血で夜間呼び出し…といった事態も減らせる可能性がある。一方、若年〜中年主体で出血トラブルが滅多に起きない医院であれば、コラテープは「宝の持ち腐れ」になるかもしれない。効率優先型の医院では、使用頻度が低そうなら無理に導入せず、必要なときにスポット購入でも良い。しかし全く手元に無いと緊急時に困るので、「念のため最低限1箱だけ置いておく」という判断も十分ありだ。コスト意識と安全意識のバランスを取り、ここぞという症例でピンポイント投入するのが賢明だろう。

B. 高付加価値・自費治療メインの医院

インプラントや再生治療、審美治療などを中心に据え、品質と患者満足を第一に掲げる医院では、コラテープは是非とも導入したい材料である。自費診療では患者も「良いものには相応の対価を払う」ことを期待している。手術中や術後の安全性・快適性を高めるコラテープは、その期待に応えるツールと言える。たとえば「当院では手術後の出血・痛みを最小限にするため、最新の吸収性止血材を使用しています」とパンフレット等で謳えば、医院の技術力アピールにも繋がるだろう(薬機法の広告表現には配慮が必要だが)。また自費治療なら材料コストは治療費に転嫁できるため、医院負担を気にせず使える点も追い風だ。実際、インプラント1本100万円の高額治療を提供するようなエリート歯科では、術後にコラテープ等を使うのが標準的だ。患者満足度向上→紹介増加→収益増の好循環を生むタネとして、積極的に採用する価値がある。

C. 外科処置症例が多い口腔外科・インプラント特化型医院

親知らずの難抜歯から大規模な骨造成手術まで、外科症例が日常的にある医院では、コラテープはほぼ必需品と考えてよい。口腔外科専門医の間では昔からヘリスタット(コラテープ)は知られた存在で、大学病院等でも脳外科や形成外科で使われてきた実績がある。そうした背景もあり、外科手技のプロほどコラテープを評価し常備している傾向がある。特にインプラント専門クリニックでは、サイナスリフトの膜損傷リカバリーやGBR後の被覆材としてコラテープを活用する場面が多い。外科処置が売上の大半を占めるこうした医院では、コラテープによる手術成功率の向上はそのまま医院の評判と収益に直結する。患者層も比較的富裕層が多く、高度な材料を用いることへの理解も得やすい。導入しない理由が見当たらないほどマッチした環境と言え、まとめ買いで単価交渉するくらい積極的に利用しても良いだろう。

D. 保存修復主体で外科機会が少ない医院

むし歯や歯周治療が中心で、外科処置は口腔外科に紹介することが多いクリニックの場合、コラテープの出番は限られる。年に数回使うかどうかであれば、購入費用が在庫のまま眠るリスクもある。ただ全く無関係かというとそうでもない。例えば歯周ポケット掻爬や小手術程度なら自院で行う先生にとって、コラテープは処置後の患者快適性を上げるツールになる。出血が読めないケースに備え、「無いよりはあった方が安心」という保険的な意味合いで導入することは考えられる。小規模医院では緊急時にディーラー手配もすぐにはできないため、非常用に1箱確保しておく価値はある。逆に言えば、そうした備えをせず常に紹介で済ませるスタイルなら無理に持つ必要はないだろう。医院の処置範囲と方針に応じて検討してほしい。

以上のように、コラテープ導入の必要性は医院ごとに異なる。「当院では何を重視するか」を軸に、材料投資の優先順位を付けることが重要だ。効率優先なら投入ケースを選別し、自費拡大路線なら積極採用、専門特化型なら必須装備…という具合で、自院に合った意思決定をしていただきたい。

よくある質問(FAQ)

Q. コラテープは体内にどれくらい残存するか?

A. コラテープは生体内で酵素分解され、通常10〜14日程度で完全に吸収される。創傷治癒の初期段階で役割を果たし、その後は周囲組織に置換されて消失するため、抜去のための追加処置は不要である。

Q. コラテープを骨再生用のメンブレン(膜)の代わりに使用できるか?

A. 一般に不向きである。コラテープは止血・創傷被覆が主目的の素材で、吸収が早い(約2週間)ため、GBRなど数ヶ月にわたり骨欠損部を覆うバリア膜としては機能が持続しない。骨再生には、より長期間形状を維持する専用の吸収性メンブレン(例:コラーゲンを架橋処理した膜など)の使用が推奨される。コラテープはあくまで短期的な止血と保護に留め、長期の骨再建には適切な代替を用いるべきである。

Q. コラテープ使用にあたり注意すべき副作用や禁忌はあるか?

A. 重篤な副作用は報告されていないが、いくつかの禁忌・注意点がある。まず汚染された創傷や感染が疑われる部位には使用しないこと(殺菌作用がなく、感染を閉じ込め悪化させる恐れがあるため)。また、神経組織や狭い骨管腔の近くでは必要最小限の量にとどめること。コラテープは湿潤により膨潤するため、脊髄や下歯槽神経などを強く圧迫すると痛みや麻痺のリスクがあると報告されている【添付文書の警告】。従って、そうした部位では止血後に余分な部分を洗浄除去するのが望ましい。さらに明らかなコラーゲンアレルギーの既往がある患者には使用を控えるべきである。製品は高純度で抗原性は低いが、牛由来コラーゲンに対する免疫反応の可能性をゼロとは言えないためだ。総じてコラテープは安全性の高い材料だが、添付文書に沿った使用法と注意事項を守ることでリスクを極力回避できる。

Q. コラテープの費用は保険で算定できるか?

A. 直接算定することはできない。コラテープ単体に保険点数は設定されておらず、たとえば抜歯や処置時に「止血材代」を患者に請求することは認められていない。そのため保険診療内で使用した場合、材料費は医院の持ち出しとなる。一方、インプラント手術など自費診療では材料費を治療費に含める形で患者に負担してもらうことが可能である。医院としては、保険診療であっても必要と判断すればサービスの一環として使用し(経費として吸収し)、自費診療では治療費に組み込むという形で運用しているケースが多い。ただし保険診療下で患者にコラテープ使用の追加料金を請求することはルール上できない点に注意が必要だ。

Q. コラテープの保管方法や使用期限は?

A. コラテープは未開封であれば室温で乾燥状態に保管すれば良く、特別な保冷や加温の必要はない。直射日光や高温多湿を避け、清潔な場所に保管すれば安定性は保たれる。各包装に有効期限が記載されており、概ね製造後数年の期限が設定されている。期限切れ製品は滅菌保証がなくなるため使用すべきではない。また、一度開封したものの未使用分を別の患者に使い回すことは禁止である。コラテープはディスポーザブルの滅菌製品であり、開封後に残ったものを再滅菌して保存することはできない【添付文書にも再使用禁止の記載】。従って使い切りが基本となる。院内管理としては在庫数と期限の管理を徹底し、先入れ先出しで使用するようにすれば廃棄ロスを防げるだろう。