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歯科止血剤「サージセル」の使い方を歯科医師向けに分かりやすく解説

歯科止血剤「サージセル」の使い方を歯科医師向けに分かりやすく解説

最終更新日

抜歯後に出血が止まらず、何度もガーゼを交換しながら焦燥感に駆られた経験はないだろうか。高齢で抗凝固薬を服用中の患者の抜歯では、縫合を追加しても滲むような出血が続き、診療スケジュールが押してしまうこともあるものだ。こうした臨床現場での苦労を軽減するために活用できるのが吸収性局所止血材「サージセル」である。

本稿では、このサージセルの歯科領域における使い方を、臨床テクニックと医院経営の双方から深掘りする。長年の臨床経験から得た知見を交え、必要な場面で最大限の効果を発揮しつつ、無駄やリスクを最小化する活用法を検討したい。

製品の概要

サージセル(正式名称「サージセル・アブソーバブル・ヘモスタットMD」)は、ジョンソン・エンド・ジョンソン社が製造する吸収性の局所止血剤である。木材由来のセルロース繊維を酸化処理して作られた植物性素材で、血液と接触するとゼラチン状に膨潤し、出血部位を覆って凝血塊形成を促進する。元来1950年代に開発されて以来、心臓外科や肝臓手術など幅広い外科領域で使用されてきた実績があり【18】、現在では歯科口腔外科の小手術でも補助止血材として利用されている。適応は「各種手術時の補助的な局所止血」であり、結紮や圧迫など通常の止血処置で十分な効果が得られない場合に用いることが想定されている。具体的には抜歯や歯周外科処置、インプラント埋入や骨造成の際など、粘膜・骨面からの毛細血管出血が持続するケースでの止血補助が主な用途である。なお、サージセルは高度管理医療機器(クラスIII)に分類され、単回使用のみが許可された滅菌製品である。2022年12月から歯科用のサージセルMDが保険収載されており【11】、現在市場に出回っているのは保険適用対応の新パッケージ版である(旧製品は2023年3月で販売終了)。歯科向けに流通する形態はガーゼ状(編まれたシート状)と綿状(綿塊をシート状に圧縮したもの)の2種類である。大きさはガーゼ状が約5×7cm程度、綿状は約2.5×5cmの小片で、用途に応じてハサミで必要な大きさに裁断して使用する。いずれも体内で自然吸収されるため原則抜去の必要がなく、使用後およそ2週間程度で組織内に吸収消失する(吸収速度は出血量や使用量によって変動する)。

主要スペックと作用メカニズム

【素材と作用機序】

サージセルの主成分は酸化再生セルロースで、これはグルクロン酸を多く含むポリマーである。このセルロース系繊維は乾燥状態では薄いシートだが、血液を吸収すると急速に膨潤して軟らかなゲル状に変化する。膨潤時に繊維の持つ酸性のポリグルクロン酸が血液中のヘモグロビンと結合して止血効果を発揮する仕組みであり【32】、出血面に密着して血小板の足場となる凝血塊を形成しやすくする。同時に酸性環境によって局所での血液凝固系が促進され、毛細血管や小静脈の出血を素早く封じ込めることができる。なお、この酸性環境はin vitroでは広範囲の細菌増殖を抑制することが報告されているが【32】、あくまで副次的な性質であり感染予防を目的とするものではない。サージセル自体に抗菌薬や止血薬成分は含まれておらず、薬理作用ではなく物理的作用で止血を補助するデバイスである。

【物理的特性】

ガーゼ型サージセルは薄く編まれた布状で、比較的しっかりしたコシがあり、広い創面を覆うように使用したり細片に切って充填するのに適している。綿状タイプ(商品によって「フィブリラー」や「綿型II」と称される)は、綿を幾層にも重ねたシート状で、指で容易にちぎって形状を変えられる柔軟性が特長だ。狭い抜歯窩や不整形な骨面にも押し込みやすく、必要に応じて厚みを増したり、反対にレイヤーを剥がして薄くすることも可能である【18】。どちらのタイプも生体適合性が高く、生体内で均一に分解・吸収されるよう製造されている。また吸水膨潤率が高く、自重の数倍の血液を吸収することでゼラチン状のプラグとなり得る。その一方で、過度な量を詰め込みすぎると膨張による圧迫で周囲組織を圧迫する可能性があるため注意が必要だ。特に狭い創腔内や、硬組織に囲まれたスペースで使用する場合は、凝血塊を作るのに十分な最小限の量に留めることが推奨されている。サージセル自体はX線不透過ではないため体内に残留してもレントゲンに写ることはないが、大量に残した場合には肉芽組織に囲まれた異物肉芽腫を形成し、術後に腫瘤や排膿の原因となったとの報告もある。したがって後述するように、基本的には止血後に必要最小限を残して余剰分は摘出するのが望ましい。

【吸収時間】

サージセルは手術部位に残留しても最終的に吸収され消失する。一般的な吸収期間は2週間前後とされるが【2】、これは創部の血流や酵素環境によって前後する。動物実験では、埋め込まれたサージセルは1日目からゲル状に溶解し始め、1週間でシート形状を留めないほど縮解して、2週間で完全に消失したと報告されている【32】。人間の臨床でもほとんどの場合は術後数週間で生体内からなくなるが、止血目的を果たした後は残さず除去するに越したことはない。特に骨面に残した場合は骨組織の再生が阻害される可能性が示唆されており【32】、歯槽骨内など骨治癒させたい部位では使い切りが原則と考えたほうが良い。

【その他スペック】

歯科用サージセルMDの医療機器承認番号は30400BZX00112000で、包装単位はガーゼ型12枚入り、綿型10枚入りとなっている【7】。開封後の再滅菌や保管は不可であり、未使用の開封品は廃棄が指示されている【14】。製品そのものの保存は室温で問題なく、未開封であれば数年単位の長期保存が可能である(経時で若干黄味を帯びることがあるが性能に影響しないとされる【14】)。なお、海外ではサージセルシリーズとして「Original(ガーゼ状)」「Fibrillar(綿状)」「Nu-knit(厚手ガーゼ状)」など複数のバリエーションが販売されているほか、近年粉末タイプ(SURGICEL Powder)も発売された。粉末タイプは3gのORC粉末を専用アプリケーターで噴霧塗布するもので、広範囲ににじむ出血面を短時間で覆えるのが利点である。ただし現時点で粉末版は日本国内未発売であり、歯科診療では通常のガーゼまたは綿シートを適宜切り分けて使用することになる。

互換性と運用方法

【他材料との併用】

サージセルは基本的に単体で止血効果を発揮する設計であり、他の止血薬剤や薬液を染み込ませて使用してはならない。添付文書でも、トロンビン製剤との併用により止血効果が低下する恐れがあると注意喚起されている【32】。また硝酸銀など腐食性の薬剤と同時に使うとサージセルの分解吸収が阻害される可能性がある【32】。したがって創面への応急止血で硝酸銀焼灼などを行った部位には用いない方がよい。エピネフリン含有の麻酔浸潤下であれば特に問題はないが、追加で含浸ガーゼなどを重ねる必要はなく、サージセル単独で効果を発揮させるのが原則である。なお、製品自体が酸性であるため、同部位に骨補填材やコラーゲン膜などを挿入する計画がある場合は注意が必要だ。サージセルを残留させたまま骨補填や膜固定を行うと、酸による影響や異物反応で組織再生が阻害されるリスクがある【32】。骨造成や歯槽骨保存目的の処置では、サージセルで一時的に止血した後に必ず除去し、そのうえで目的の骨材料を設置するようにする。逆に、歯周外科など軟組織主体の手術であれば、縫合閉鎖後に薄片が残留しても軟組織の治癒に大きな悪影響は報告されていない。しかし、粘膜下に残ると一時的に術後腫脹が強まったり肉芽形成が遅れる可能性もゼロではないため、可能な限り取り除くのが無難である。

【既存機器・術式との関係】

サージセルの使用にあたって特別な機器やデジタルデータとの互換性といった概念はないが、電気メスやレーザーとの使い分けは検討ポイントとなる。例えば術中の出血に対し、電気メスで焼灼止血すると組織の熱変性を伴うが、サージセルは組織を焼かずに止血できるメリットがある。ただし出血源の血管がやや太めで拍動を伴うような場合、最終的には電気メスや結紮で閉じる必要があり、サージセルは一時的な止血・視野確保に留まる。一方、広い骨面からの滲出出血は電気メスでは対処困難なため、サージセルのような局所止血材が有用である。術野を吸引乾燥させてからサージセルを押し当て、しばらく圧迫すると、点状出血が収まり視界が確保できる。これはインプラント窩形成時の出血や、嚢胞摘出後の骨空洞内出血などで有効なテクニックだ。また、昨今は高齢患者が増え抗凝固剤や抗血小板剤を内服したまま抜歯に臨むケースも多い。こうした場合に備え、通常のガーゼ圧迫・縫合に加えてサージセルを併用することは、院内で安全に止血完了させる手段として意義がある。特に夜間に止血不良で患者が救急搬送されるような事態は医院にとって大きなダメージとなるため、そのリスクヘッジとしてサージセルを常備しておくメリットは大きい。

【運用と院内体制】

サージセルは医科向けには複数サイズが存在するが、歯科では上述のように小さめのガーゼ型・綿型が供給されている。1症例で使い切れないほど大きいサイズの場合、清潔なハサミで必要量を切り取り残りを廃棄することになる。滅菌ガーゼのようにキットに組み込んで常備しておくというより、必要時に都度開封する救急キット的な扱いが望ましい。院内では口腔外科処置用の非常持ち出し品として、サージセル数枚と滅菌鋏、止血鉗子、圧迫用ガーゼなどを一つのトレイにまとめておくと良い。補助スタッフにもサージセルの存在と取り扱いを教育し、術者から指示があれば迅速に開封・手渡しできる体制を作っておく。なお、製品はアルミ包装で個包装されており、開封後は速やかに使用しなければならない。開封後に未使用で残ったものの再滅菌・保管はできず即廃棄となるため、使い残しの出ない計画を立てることも経営上重要である。例えば「親知らずの抜歯を同日に2本行う場合は1枚のサージセルを2本に切ってそれぞれのソケットに半片ずつ使い切る」といった工夫で無駄を減らせる。逆に、滅菌状態を保てないのに費用が高いからともったいながって保管することは感染管理上許されない。サージセルはあくまで単回使用材であり、滅菌ガーゼと取り違えてうっかり唾液の拭き取りに使ってしまうようなことがないよう、パッケージに「使用時開封」「使い捨て高価」と明示しておくのも現実的な対策である。

【感染対策】

サージセル自体は無菌製品であるが、汚染創には基本的に使用しないほうがよい。感染が既に生じている部位にそのまま留置すると、異物を足場に菌が増殖し感染が遷延・拡大する恐れがあるためだ【32】。例えば膿瘍を伴う抜歯や、歯周組織が感染炎症下にあるフラップ手術では、まず原因の除去と徹底洗浄が優先される。どうしても出血が止まらずサージセルを使った場合も、術後早期に創を再オープンして残骸を洗い流す処置が必要になるかもしれない。従ってサージセルは基本的に清潔な手術野で使うものと心得て、感染リスクが高い状況では別の止血手段(例えば抗菌作用を持つコラーゲンスポンジなど)の検討も必要である。また、耳鼻科領域ではサージセルを鼻腔内で使用した際に、術後の異物反応で粘膜壊死や穿孔を起こした報告もある【32】。歯科でも上顎洞や鼻腔と交通する部位に大量に充填して放置することは避けるべきで、必要最低限の利用に留めることが肝要である。

経営インパクト(コストとROI)

歯科医院におけるサージセル導入の経営的インパクトを考えると、大きくコスト面と診療効率面の利点が挙げられる。

【1症例あたりのコスト】

サージセルは長らく自費扱いの材料だったが、現在は歯科診療報酬の算定が可能である。保険点数はガーゼ型5.1×7.6cmが186点(約1,860円)、綿型2.5×5.1cm(約0.45g)が572点(約5,720円)と定められている【11】。実勢の仕入価格もおおよそその償還価格に準ずるため、医院が保険請求すれば材料費の大半は回収できる計算だ。患者にも原則追加費用の負担なく提供できるメリットがある。ただし後述のように算定要件上は「通常の止血法では困難な場合」に限られることから、いたずらに使用回数を増やして収益源にするといった性格のものではない。また実費としては1枚数千円する高価な資材であり、使えば使うほど医院利益を圧迫する点は認識しておく必要がある。例えば軽度出血の抜歯にも惰性的に毎回サージセルを使っていては、償還はされても診療報酬点数は低いため時間あたり収益は下がってしまう。真に必要な場面に絞って使用することが最大のコストパフォーマンスにつながる。

【チェアタイム短縮効果】

経営的視点で見逃せないのは、サージセルが止血に要する時間を短縮し得る点である。通常、抜歯後の圧迫止血ではガーゼを噛んでもらい10〜15分ほど待機することが多い。難抜歯で粘膜剥離が大きかった場合などは、完全に止血を確認してからでないと帰宅させられないため、その間チェアが埋まったまま次の処置に入れないロスが発生する。サージセルを用いた場合、創部に貼付・縫合して止血を補助すれば、出血はより速やかに収まりやすい。圧迫時間を半分以下に短縮できれば、その分診療ユニットの回転率は上がり患者待ち時間の削減や同日処置数の増加につながる。1症例あたり数分でも、塵も積もれば年間の診療可能枠に差が出る。また、出血が長引くと術者・スタッフとも精神的負担が増し、他の業務にも影響する。サージセルはそうした「予定外のタイムロス」を最小化する保険として機能し、結果的に効率的な診療運営に寄与する。

【新規処置への拡大】

ROI(投資対効果)の観点では、対応可能な診療の幅を広げる効果も注目したい。具体的には「出血が怖いから高リスク患者の抜歯は大学病院に紹介するしかない」といったケースを、自院で対応できるようになる可能性があるということだ。高血圧症やワーファリン内服の患者でも、サージセル等を活用した止血対策を講じれば安全に抜歯ができる場面は少なくない。紹介を減らし院内完結率を上げられれば、そのまま売上増に直結する。患者にとっても馴染みの医院で処置が完結する安心感と利便性が得られるため、患者満足度や信頼向上にもつながるだろう。さらに、術後出血で他院や救急にかかるようなトラブルが減れば、医院の対外的信用リスクの軽減にも寄与する。クレーム対応や補償といった負のコストも発生しにくくなるわけで、これは数値に表れにくいながら経営上は見逃せないポイントである。

【コストとリスクのトレードオフ】

一方、サージセルの不適切な使用はかえって経営リスクを高める点にも注意が必要だ。具体的には、必要性が低い場面で多用すると材料費の無駄遣いになるだけでなく、前述したような術後合併症(ドライソケットや異物反応)を誘発しかねない。例えば通常なら問題なく治癒したはずの若年者の抜歯創にサージセルを詰めて残したために、血餅が壊死・溶解してドライソケットを招けば本末転倒である。そのフォローのために何度も処置や投薬をサービス提供する羽目になれば、直接的な損失は小さくとも患者の信頼を損ねる結果にもなり得る。したがってサージセルはあくまで「ここぞ」というケースで使う切り札と位置付け、丁寧な適応判断に基づいて投入するのが望ましい。そうすることで費用対効果(Cost/Benefit比)を最も高く保つことができ、診療の質向上と経営効率化を両立できるはずだ。

使いこなしのポイント

サージセルを真の力を発揮させるには、単に製品を持っているだけでなく適切な使い方のコツを掴むことが重要である。以下に臨床現場での具体的な活用ポイントを示す。

【基本手順とテクニック】

サージセルは使用直前にアルミ包装を開封し、無菌操作で取り出す。必要に応じてハサミで小さく裁断するが、取り出した後に手間取ると出血が続くため、あらかじめ想定サイズに切っておくと良い。例えば抜歯前に「もし出血が強ければこの1/4サイズに切ったサージセルを使おう」と準備しておけば、慌てず対処できる。出血部位への適用時は、できるだけ創部を乾燥させてから貼付・填入するのがコツだ。表面がびしょ濡れの状態だとサージセルが滑って定着しにくいため、一旦ガーゼで拭い、吸引してから患部に当てる。骨穴に充填する場合も、血餅ができる前に素早く押し込むと奥で膨潤して安定する。適用後は約2〜3分間、指やガーゼで圧接するとさらに確実である。圧迫時、サージセルの上に直接指で触れるとくっついてくる恐れがあるため、滅菌ガーゼを一枚挟んで押さえ、時間経過後にそっとガーゼだけを除去すると良い。サージセルが創面に絡み、暗褐色のゼリー状になって付着していれば止血成功である。術野全体が見渡せるようになったら、必要なら残っているサージセルの端をピンセットでつまんで余分な部分を除去する。このとき血餅まで引き抜かないよう、周囲を洗浄吸引しながら丁寧に行うのがポイントだ。

【縫合やパッキングとの併用】

サージセル単体でも小出血なら止められるが、歯科では他の止血手段と組み合わせて使うことが多い。代表的なのが縫合で、例えば抜歯窩にサージセルを填入した後、上からクロス状に縫合しておけば材料の逸脱を防げるうえ、圧迫固定の役割も果たす。口蓋粘膜など平坦な創面では、サージセルを載せてその上を糸で巻くように縫合するとよい(創面保護パッドのようなイメージである)。広範囲の歯肉剥離を伴ったフラップ手術では、サージセルを小片にちぎって各所の出血点に配置し、そのままフラップを被せて縫合する方法もある。ただし前述のように、軟組織下に残留すると腫れや遷延の原因となる場合もあるため、縫合前に極力取り除くことが望ましい。縫合以外では、義歯やプレートによる圧迫固定も有効だ。上顎の広範囲な粘膜剥離後にサージセルを被覆しておき、その上から吸着義歯や即時ベースプレートで圧迫止血するといった手法は、口蓋粘膜移植片採取部位などで応用される。なお、強い出血時にしばしば行われるガーゼパッキング(ガーゼを詰めて患者に圧迫させる方法)についても、サージセルと組み合わせると効果的である。サージセルを創底に入れ、その上に折り畳んだ滅菌ガーゼを噛んでもらえば、ガーゼ単独より早期に血が止まる傾向がある。圧迫中にサージセルがガーゼに貼り付かないよう、ガーゼ面は湿らせておくと除去時にスムーズだ。

【患者への説明とフォロー】

サージセルを使用した場合、患者には吸収性の材料を使った旨と注意点を伝える必要がある。術後に患者がうがいや触診で創部をいじると、せっかくのサージセルが外れてしまうかもしれない。そこで、「傷口に溶ける特殊な止血材を詰めてあります。自然に体に吸収されますので触らないでください」と説明し、当日は激しいうがいを避け安静を保つよう指導する。万一、術後しばらくして口の中に茶色いゼリー状のものが出てきても患者が驚かないよう、「ゼラチン状に溶けて一部出てくることがあります」と事前に話しておくと親切である。多くの場合は抜歯後1週間などのチェック時に創内にサージセルは残っていないが、もし異物が触知される場合は無理に摘除せずそっと洗浄する程度でよい。その後の吸収に任せたほうが再出血のリスクが低いからである。ただし、疼痛が強かったり異臭・排膿がある場合は異物残存による炎症の可能性があるため、表面麻酔下で掻爬除去する判断も必要となる。このあたりは術後経過を把握するためにも定期的なフォローアップが重要であり、サージセルを使ったケースでは翌日または翌々日に電話確認する、1週間後に必ず診察するなどのフォロー体制を整えておくと安全である。

【粉末タイプの使い方(参考)】

現状日本の一般歯科医院で目にする機会は少ないが、参考までにSURGICEL Powderの使用方法にも触れておく。これは注射器状のアプリケーターに粉末状ORCが充填されており、患部に向けて噴射塗布する仕組みである。例えば広範囲の掻爬創や骨露出面から面的に出血する場合、粉末をまんべんなく振りかけてガーゼ圧迫すれば、ガーゼを外した後には創全体に薄いゼラチン膜が形成されて止血される。鏡視下手術など狭い術野でも届きやすい利点があるが、飛散した粉末を患者が吸引しないよう十分に注意しなければならない。術野以外に飛んだ粉末は速やかに吸引除去し、特に気道に通じる部位では使用しないことが鉄則である。このように高度な注意管理が必要なため、粉末タイプは現時点では主に病院手術室などで使用されている。一般歯科の範囲ではガーゼ・綿シートタイプで十分対応可能であり、粉末タイプが必要になる場面は限られると言える。

適応症と適さないケース

【適応となる状況】

サージセルが威力を発揮するのは、何度も強調している通り「従来法では止血に手間取るケース」である。具体例を挙げれば、以下のような状況では適応を積極的に検討できる。

抜歯後の止血困難症例

下顎智歯抜歯や、全身疾患を有する患者の抜歯で、圧迫や縫合だけでは不安な場合。抗凝固薬・抗血小板薬を中断せず施術するケースもこれに含まれる。サージセルを抜歯窩に填入しておけば、たとえ血液凝固が遅れていても物理的に孔を封鎖できるため安心感が違う。

骨の面積が広い手術

歯周外科で広範囲にフラップを剥離した症例、顎骨嚢胞摘出やインプラント埋入で骨面が露出した症例など。骨表面からの点状出血は散在しコントロールしにくいが、サージセルを適宜配置すれば出血点を素早くシールできる。視野確保にも有用で、特にインプラントオペでは清潔な環境下で確実な視野を保つことが成功率につながる。

口蓋粘膜など圧迫困難部位

上顎口蓋部の小手術(フィステル除去や粘膜切開など)や、硬口蓋から遊離移植片を採取した後のドナー部位などは、指圧迫しにくく出血もしやすい。サージセルを貼付しておけば、その上から義歯や圧迫板で押さえる際にも血液の逃げ場を作らず止血効果が高まる。

縫合困難な出血

小帯切除や歯肉切除など縫合を要しない処置でも、時に出血が多い場合がある。そうした場面でサージセルを創部に押し当てておけば、縫合せずとも数分で止血が得られやすい。これにより術後の血腫形成や内出血を防ぎ、患者の術後疼痛軽減にも寄与する。

以上のように、「通常ならガーゼ圧迫10分以上コース」のケースがサージセル適応と考えるとわかりやすい。時間と血液を浪費しやすい状況を見極めて投入すれば、診療をスムーズに進められるだろう。

適さないケース

【注意が必要な状況】

一方で、サージセルを使うとかえって弊害が大きかったり、効果が期待できないケースも存在する。以下に代表例を挙げる。

通常止血が可能な軽度出血

若年健康者の単純抜歯後など、ガーゼ咬合で数分できちんと止まるような出血には不要である。こうした場合にまで毎回使用すると、費用面の問題に加え、後述のようなドライソケットリスクを徒に高める可能性がある。止血の基本は圧迫と安静であることをまず念頭に置き、サージセルはあくまで補助であることを忘れてはならない【32】。

動脈性の大出血

何らかの偶発で動脈が損傷し拍動性に出血しているような場合、サージセルでは力不足である。まずは直達止血(血管把持・結紮)が第一であり、それが困難な部位でも電気メスや骨蝋による止血を優先すべきだ。サージセルはそうした処置後の残留微小出血を止める程度の役割に留める。特に下歯槽動脈や舌動脈など太い血管の損傷には適応しない。

感染部位・不潔創

前述の通り、膿瘍や重度の周囲炎があるような所では、サージセルを残置すると感染を悪化させかねない。このため抜歯窩が感染しているケースや、炎症組織を掻爬清掃した創内には用いない方がよい。緊急止血で一時的に使ったとしても、後で必ず洗浄除去する前提で扱う。基本的に清潔な術野で使うものと心得る。

骨治癒が重要な部位

インプラント予定の抜歯窩や骨造成部位など、術後にしっかり骨が埋まって欲しい所では、サージセルを残すと骨再生を妨げる恐れがある【32】。そのため、使用しても止血確認後に完全に摘出するか、できればコラーゲン製剤など骨形成を阻害しにくい代替材を検討した方がよい。特にドライソケット既往がある患者の抜歯では慎重に扱う。サージセル残留によって血餅形成が不十分になるとドライソケット誘発リスクがあるため、血流の悪い下顎智歯抜歯などでは極力用いないか、用いても残さないことが重要だ。

狭隘な部位・神経付近

脊椎や眼窩などの手術では禁忌とされているように【32】、サージセルは膨潤圧による神経圧迫リスクを伴う。歯科領域では完全に骨に囲まれた狭小空間は少ないが、たとえば下顎管内や上顎洞内に誤って押し込めば神経症状や洞閉塞を起こし得る。通常そのような状況で使うことは考えにくいものの、うっかり深部に詰め込みすぎないよう配慮したい。

これら不向きなケースをまとめると、「サージセルを残しておくデメリットがメリットを上回る場合」と言い換えられる。術後の骨・軟組織の治癒や患者の全身状態を勘案し、安易に使わない判断もプロフェッショナルとして重要なスキルである。

導入判断の指針(読者タイプ別)

サージセル導入の是非や活用度合いは、医院の診療スタイルや方針によって変わり得る。以下にいくつかの歯科医師タイプを想定し、それぞれにおけるサージセルの位置付けと導入指針を考えてみよう。

1. 保険診療メインで効率重視の歯科医

日々多数の患者を捌き、保険内での抜歯や小手術も頻繁に行う先生である。このタイプの場合、サージセルは「診療効率アップ」と「リスク管理」の観点から有用なツールとなる。例えば、高齢の難抜歯で出血が長引けば他の患者の待ち時間が伸び、クリニック全体の流れが滞ってしまう。サージセルを適宜投入すれば、そうしたイレギュラー事態の収束時間を短縮でき、結果的に一日のスケジュールを守りやすくなる。患者から見ても処置後すぐに出血が止まるのは安心感があり、説明にも説得力が増すだろう。また、保険算定が可能になったことで材料費負担も軽減されるため、この層にとって導入ハードルは低い。一方で効率優先のあまり乱用は禁物である。毎回使うようでは材料費はバカにならず、ドライソケットなどのトラブルでかえって手間を増やす恐れもある。経営的成功の鍵は「ここぞで確実に使い、無駄撃ちしない」ことである。例えば、ルーティンの抜歯ではまず通常通り圧迫止血し、一定時間経ってもじわじわ出血が止まらなければサージセルを登場させる、というメリハリをつけると良い。その際、使用したら忘れずにレセプト請求することもお忘れなく(算定漏れは利益圧迫につながる)。効率重視派にとってサージセルは、非常時の消火器のような存在としてスタンバイさせておく価値が高いだろう。

2. 高付加価値の自費診療を志向する歯科医

インプラントや再生療法など自費中心で、質の高い治療アウトカムを追求する先生である。このタイプは患者満足度向上のために先進材料を積極的に取り入れる傾向が強い。サージセルについても、患者の安全と快適さを高める目的で導入を検討する価値がある。実際、インプラント手術時に出血コントロールが的確に行えると術後腫脹や痛みが減り、治癒も順調に進みやすい。難易度の高い骨造成手術などでもサージセルを併用すれば、手技の余裕度が上がり執刀医のストレス軽減につながる。一方で自費診療の文脈では、サージセルより他の材料を優先すべき場面もある。例えば抜歯後の骨欠損にはコラーゲン由来のテルプラグや吸収性スポンジを使って創を満たし、治癒促進と患者の疼痛軽減を図るケースが増えている。これらは止血機能のみならず骨や軟組織の治癒促進効果も期待できるため、自費診療の付加価値として患者に提供しやすい。対してサージセルは純粋に止血だけを担う裏方であり、患者には見えない部分である。従って、高付加価値メニューでは黒子に徹する存在と割り切り、必要なときにさりげなく使う程度がよい。むしろ「当院では術後の痛みを減らすためにコラーゲンスポンジで傷を塞ぎます」という説明を患者にして、その裏でまずサージセルで速やかに止血しておく、といった使い方がスマートだろう。また自費が多いクリニックでは術者の裁量で材料コストを吸収できるため、特に安全マージン向上のための投資としてサージセルを惜しみなく使う判断もあり得る。患者の信頼と治療結果を最優先するこのタイプにとって、サージセルは縁の下で治療品質を支えるツールとして静かに貢献してくれるはずだ。

3. 口腔外科・インプラント中心の歯科医

大学病院口腔外科出身で、日常的に外科処置を行っている先生にとって、サージセルはお馴染みの存在かもしれない。既に研修医時代から手術で使った経験があれば、その有用性も癖も理解していることだろう。このタイプの場合、サージセルは導入して当然の止血インフラと言える。患者の全身状態が多様で、また大きな手術も扱う以上、レパートリーとして持っておかない理由がない。経営面でも、多くの外科処置をこなすなら材料費の元は十分取れるだろう。むしろ注意点は、病院時代との環境の違いにある。病院では看護師が術中にサッとサージセルを渡してくれたかもしれないが、開業医になると自分で指示しなければ誰も出してはくれない。スタッフ教育とオペ室環境整備をしっかり行い、適切なタイミングで使えるようにしておくことが肝要だ。また大学では余裕で使えたサイズの在庫(大判シート等)が開業先では手に入らない場合もある。場合によっては複数枚を組み合わせて代用する工夫も求められる。さらに、病院口腔外科と異なり開業医では経費を自分で負担する意識も重要だ。つい癖で使いすぎると材料費で収益を食ってしまう可能性もあるので、保険請求できるものは漏れなく請求し、病院とは違う「経営者目線」を持つ必要があるだろう。総じてこのタイプにおいてサージセルは不可欠のアイテムだが、使い慣れているがゆえの慢心に注意し、基本手技(圧迫や確実な縫合)をおろそかにしないことが成功のポイントと言えよう。

4. 外科処置が少なめの一般歯科医

保存修復や補綴が中心で、外科処置はたまにしか行わない先生の場合、サージセル導入の判断は悩ましいかもしれない。頻度が低いゆえに在庫が減らず期限切れになるリスクや、スタッフが使い方に慣れないままホコリをかぶる懸念もある。一方で「備えあれば憂いなし」のことわざ通り、年に数回でも必要なときに無いと困るのが止血材というものだ。特に全身疾患患者を抱える高齢社会では、想定外の大量出血に遭遇する可能性が以前より高まっている。普段は縁がなくとも、万一のために1箱棚に置いておく価値は十分あるだろう。経営の観点でも、重篤な出血事故が起きて患者に訴訟を起こされる事態を防げるなら安い投資である。とはいえ導入するなら「年に一度使うかどうか」で期限切れ廃棄になる事態は避けたい。そこで、地域の歯科医師仲間とシェア購入するのも一法だ。1箱10枚入りなら、5枚ずつ融通し合えば両院とも使い切れるかもしれない。これは医療材料の共同購入としてはグレーな面もあるが、自費で在庫を抱えて無駄にするより合理的との考え方もできる。実際、小規模医院同士で高額材料を分け合う例はインプラントなどでも散見される。外科処置が少ないなら少ないなりの工夫で、最小限のコストで備蓄する方法を考えてみる価値はある。

以上、タイプ別に見てきたが、総じて言えるのはサージセルは「保険適用になった止血エイド」として以前より身近かつ手軽になったということだ。自院の診療内容やポリシーに照らし、メリットが勝ると判断すれば導入すべきだし、逆に不要と判断すれば無理に使う必要はない。ただ、止血というのは緊急度の高いテーマであり、一度手痛い経験をすれば考えが変わる分野でもある。「備えはあるけど結局ほとんど使わなかったね」で済むならそれはそれで平和な証拠。日々の診療を安心して行うための保険としての位置付けで、サージセルの導入を前向きに検討してみてはいかがだろうか。

よくある質問(FAQ)

Q1. 術後にサージセルは取り除くべきか?それとも吸収させてよいのか?

A. 基本的な考え方は、止血達成後に余剰分は取り除くである【32】。出血が完全に止まった時点で、創口から露出しているサージセルや明らかに過剰な部分はピンセットで撤去するのが望ましい。ただし、傷の奥深くに入り込んでいる部分や、血餅と一体化している部分まで無理に取る必要はない。そうした部分は体内で順次吸収され、最終的に残らなくなる。特に骨の中や狭い隙間では、残ったサージセルが膨らんで周囲を圧迫する恐れもあるため、届く範囲で摘除するのが安全だ。逆に、粘膜表面の浅い部位なら多少残っていても大きな支障は起きにくいが、舌や食べ物で擦れて剥がれ落ちると出血が再開する可能性もある。このため、術直後に「必要最小限だけ残し、あとは取る」という方針で対処するのが良いだろう。なお、完全に残してしまった場合でも多くは2週間程度で分解吸収される。ただし抜歯窩など骨面では、残留により骨治癒が遅れ嚢胞化するリスクがあると報告されている【32】。従って基本的には、抜去できる余剰分はその場で除去し、残った部分も後日のチェックで邪魔そうであれば除去を検討する、というスタンスである。

Q2. サージセルのガーゼ型と綿型はどう違う?どちらを選ぶべきか?

A. ガーゼ型は織布状でシートとして広範囲を覆いやすいのが特徴である。一方、綿型(フィブリラー型とも)は綿を圧縮したふんわりしたシートで、自由にちぎって形を調整しやすい利点がある【18】。歯科の小手術では、狭い抜歯窩や不規則な形状の創面に詰め込みやすい綿型の方が汎用性が高いと感じられる。実際、綿型は層を剥いで薄くしたり、小さく丸めて綿球状にしたりと状況に応じて姿を変えられるため、細かな止血に向いている【18】。ガーゼ型はある程度形が保持されるので、例えば平らな骨面を覆ったり、裂開創に蓋をする用途に適する。またサイズもガーゼ型の方が大判の製品が存在するため、大きめの手術ではガーゼ型が重宝するだろう。結論として、細かい外科処置が中心なら綿型を、広範囲の処置も想定するならガーゼ型も併せて用意するのがお勧めだ。ちなみに現在日本の歯科市場で入手できるサージセルMDは綿型2.5×5.1cmと小サイズのガーゼ型5.1×7.6cmが基本である【7】。いずれも1箱単位での購入となるため、まずは汎用性の高い綿型から導入し、必要に応じてガーゼ型も追加すると良い。なお、「サージセルパウダー」は海外向け製品で、歯科医院では通常使用しないので基本的にはガーゼ型・綿型の選択で問題ない。

Q3. サージセルを使うとドライソケットになりやすいと聞いたが本当?

A. 注意しないと起こり得る。サージセル自体が直接の原因というより、残留によって血餅形成が阻害されることが一因と考えられる。実際、親知らず抜歯の研究で「サージセルを入れた群のドライソケット発生率が有意に高かった(25% vs 6%)」という報告がある【15】。酸化セルロースが酸性を帯びるため血餅の安定化に影響した可能性が指摘されている。また、サージセルが残っていると創傷治癒が骨面でわずかに遅延するとも報告されており【15】【32】、結果的にフィブリン分解などが促進されてしまうのかもしれない。対策としては、抜歯窩への使用は必要最小限に留め、止血後はできる限り除去することが重要だ。特に下顎智歯などドライソケット高リスク部位では、術前から予防的にサージセルを入れるようなことは避けたい。どうしても大量出血で入れざるを得なかった場合も、術後数日で痛みが出る兆候があれば早期に洗浄除去を検討する。患者にも「痛みが増すようならすぐ受診するよう」指示しておくと良いだろう。一方で、歯周外科の軟組織領域で使う分にはドライソケットの概念自体が無いため、それほど神経質になる必要はない。いずれにせよサージセルは便利だが、使えば必ず良い結果とは限らない点を踏まえ、リスクをコントロールしながら使用することが大切である。

Q4. 抗凝固薬や抗血小板薬を飲んでいる患者にもサージセルは使えるの?安全?

A. 使用できるし、有用なケースが多い。サージセルは薬剤ではなく局所で完結する止血デバイスなので、全身投与薬との相互作用は特にない【32】。したがってワーファリンやDOAC(直接経口抗凝固薬)、あるいはバイアスピリンなどの抗血小板剤を内服中の患者にも安心して使用できる。むしろ、そうした薬剤の影響下では血液凝固に時間がかかり出血が止まりにくいので、サージセルの物理的止血効果が非常に役立つ。抗凝固薬を休薬せず抜歯を行う際には縫合+圧迫に加えサージセル併用が推奨されることもあるほどだ。安全性の面でも、吸収性なので体内に残っても異物としてずっと残存する心配がなく、副作用らしい副作用もない(ごく稀にアレルギー様の反応報告があるが因果関係は明確でない)。強いて言えば、抗凝固療法中の患者は術後出血しやすいため、サージセルを入れてもしばらくして溶解すると再出血が起こる可能性はゼロではない。そのため、術後の安静指導と経過観察は怠らず、場合によっては抜歯翌日に一度創部をチェックして出血がないか確認すると安心だ。また、血液サラサラの患者ではサージセルを入れても完全止血に時間がかかることもある。焦らず十分な圧迫を加え、通常以上にしっかり止血を確認してから帰宅させることが肝要である。

Q5. サージセルを保険請求する際の注意点は?

A. サージセルは歯科点数表上、「デンプン又は酸化再生セルロース由来の吸収性局所止血材」として算定できる(区分番号は処置項目のD035に該当)。算定要件として、「結紮や電気凝固等では十分な止血が困難な場合に使用したとき」に限られる点に注意したい【11】。裏を返せば、通常抜歯で普通に止まる出血に漫然と使った場合は本来算定すべきではないという意味になる。レセプト上は使用した事実さえ書けば通ることが多いが、過剰使用が疑われると査定リスクがないとも言い切れない。したがって保険請求する際は、カルテに「ガーゼ圧迫で止血困難のためサージセル使用」など根拠を一言記載しておくと安心である。また、算定は使用1回につき所定点数となるため、同一部位に2枚使おうが点数は1回分しか請求できない。無駄遣いは医院の損失になるだけなので、1症例1枚で収めるくらいの意識が望ましいだろう。さらに、他の創傷被覆材との併用にも注意が必要だ。サージセル使用と同時にコラーゲンスポンジや人工骨副子を入れた場合、それぞれ算定要件を満たせば同時請求も理論上は可能だが、適応の重複で査定されるリスクも考えられる。現状エビデンスや通知が十分出揃っていない分野であるため、レセプトコメント等で使用理由をきちんと補足することをお勧めする。最後に、保険導入当初は古いサージセル(MDでない版)は算定不可だったので、移行期に購入した在庫には注意が必要だ。現在は旧版が市場から消えたので意識する場面は少ないが、正規に承認されたサージセルMDであることを確認のうえ請求するようにしたい。総じて、サージセルの保険算定はある程度グレーを孕む部分もあるので、不明点は厚労省通知や所属団体の情報を参照しつつ適切に運用してほしい。