
歯科止血剤「テルプラグ」とは?価格・購入や評判、吸収期間や経過を解説
抜歯後の患者が数日して激しい疼痛を訴え再来院する――いわゆるドライソケットは、臨床経験上しばしば直面する厄介な合併症である。特に下顎の親知らず(第三大臼歯)抜歯後に血餅が失われた場合、患者の痛みが強く、追加処置や通院対応が必要になり、患者満足度や医院の信頼にも影響しかねない。また、前歯の抜歯では抜歯窩の治癒後に歯肉や歯槽骨が痩せて陥没し、ブリッジ装着時の審美不良やインプラント埋入の困難さにつながるケースもある。こうした抜歯後の疼痛・治癒不良のリスクに対し、抜歯創用保護材「テルプラグ」が近年注目されている。
本稿では、このテルプラグを臨床的価値と経営的価値の両面から分析し、読者である歯科医師が自身の診療スタイルに応じ導入すべきか判断する一助としたい。
製品概要
テルプラグ(TERUPLUG®)は、コラーゲンを主成分とする吸収性の抜歯創用保護材である。抜歯窩に填入して使用し、止血と創部保護を行うことで創傷治癒を促進する医療機器である。元はテルモ社とオリンパス社のバイオマテリアル技術により開発され、現在はジーシー社から「高度管理医療機器」(医療機器承認番号:20900BZZ00646000)として販売されている。種類は創サイズに応じて複数あり、小さめのSSやSサイズから、大きめのMサイズ、大臼歯部に適した「テルプラグfit」まで4種類が提供されている。各サイズは滅菌済みの個包装で供給され、開封後すぐに使用可能である。なお、本製品は歯科用材料であるため一般消費者が購入・使用することはできず、歯科医院が歯科ディーラーやメーカーから取り寄せる形となる。保険収載はされておらず、公的医療保険の適用外である点に注意が必要である。
主要スペック・特徴
テルプラグの最大の特徴は、その素材である「アテロコラーゲン」を用いた高い生体親和性と組織再生促進効果である。アテロコラーゲンとは動物由来コラーゲンから抗原性の高い末端ペプチド(テロペプチド)を除去したもので、アレルギーなど異物反応のリスクを極力低減している。さらにテルプラグでは加熱処理による架橋を施した線維状コラーゲンスポンジに、一部熱変性コラーゲンを混合する独自設計がなされている。これにより適度な機械的強度を保ちながら細胞の侵入性も高め、抜歯創内で組織の足場(スキャフォールド)として機能する。臨床的には、テルプラグは抜歯窩に挿入すると自家血液を速やかに吸収して膨潤し、創壁と密着して安定する。患者自身の血液で形成された血餅(けっぺい)がスポンジ内外に保持されるため、確実な止血効果が得られるとともに、血餅が創部の自然被覆材となって外部刺激や細菌から創面を守る。これがドライソケット(乾槽症)の予防に直結し、術後疼痛の軽減に寄与する。
さらに、コラーゲンスポンジは周囲組織からの細胞侵入を受け皿となって促し、肉芽組織の早期形成を助ける。例えば下顎親知らずの抜歯では、テルプラグを入れたケースでは入れていないケースに比べて、抜歯後1週間時点での軟組織治癒が進行し歯肉の陥凹が小さいとの報告がある。創面が速やかに上皮化し、抜歯窩の骨露出部分が早期に肉芽で満たされるため、患者は術後の痛みや不快感が少なく、治癒期間そのものも短縮される傾向がある。抜歯創の治癒過程において、骨組織より軟組織の治癒が先行しがちなのは周知の通りだが、テルプラグは骨が再生するまでのスペースを維持しつつ軟組織の過剰な陥入を防ぐ働きも期待できる。実際にテルプラグを使用すると抜歯部位の歯槽骨吸収が緩和され、歯肉の凹みも最小限に抑えられる傾向が報告されている。これは、将来的にインプラント埋入やブリッジ装着を予定する症例で大きな利点となる。
テルプラグは体内で徐々に吸収され、抜歯窩内に長期留まって異物となることはない。通常、創部に残ったテルプラグは約3~4週間かけて酵素分解や吸収によって消失し、最終的には自分の新生組織に置換される。このため抜歯後にテルプラグを入れた場合でも、後日それ自体を除去する処置は不要である。実際には術後数週間の時点でコラーゲンスポンジはかなり分解・吸収されており、抜糸や経過観察時に外から目立たなくなっていることが多い。以上のように、テルプラグは「低抗原性の吸収性コラーゲンマトリックス」というスペックがもたらす止血効果・疼痛軽減効果・治癒促進効果を備えている点が主要な特徴である。
類似製品(スポンゼル・コラプラグ)との違い
抜歯創の止血保護材としては、テルプラグ以外にもいくつかの製品が知られている。その代表がスポンゼルとコラプラグである。スポンゼル(Spongel)は吸収性ゼラチンスポンジ製剤で、従来から抜歯時の局所止血に汎用されてきた。生体適合性は高いが、素材はコラーゲンではなくゼラチンであり、組織の再生促進という点ではコラーゲン製剤ほどのスキャフォールド効果は期待しにくい。スポンゼルは比較的速やかに液化吸収される(概ね1~2週間程度で吸収される)ため、創部保護材としての寿命はテルプラグより短い。一方、スポンゼルは歴史が長く安価であることから保険収載されており、抜歯時に使用しても保険請求が可能という実用上の利点がある。
コラプラグ(CollaPlug)は海外製の吸収性コラーゲンプラグで、作用機序はテルプラグと類似した製品である。ウシ由来コラーゲンからなる白色の円柱状プラグで、抜歯窩充填による止血・保護効果を狙う。コラプラグも生体内で吸収されるが、その吸収速度は製剤の構造上テルプラグよりやや速いとされ、おおよそ10日前後で大部分が吸収されるとの報告がある。つまりテルプラグの方が比較的長く創部に留まり、肉芽の足場として機能しやすい可能性がある。ただしコラプラグも日本の公的保険では適用外であり、使用する場合は自費扱いとなる。総じて、創傷治癒の促進と抜歯後の骨保全という観点では、長めに組織支持性を保つテルプラグに分があるものの、コストや保険請求の可否を踏まえてスポンゼルとの使い分け、あるいは他社コラーゲン製品との比較検討が必要になる。各製品の素材や吸収期間、費用負担の違いを理解し、症例に応じて最適な選択をすることが求められる。
互換性・使用方法
テルプラグは独立した単一の素材からなる生体材料であり、デジタル機器のような他システムとの互換性問題は存在しない。ただし臨床運用上は、適切な取り扱いと使用手順を踏むことで本来の性能を十分に発揮できる点が重要である。まず製品は無菌包装されているため、開封時には清潔操作を徹底する。メーカーからはテルプラグキャリアと呼ばれる専用把持器具も提供されており、これを使えば個包装から清潔にプラグを取り出し、そのまま抜歯窩へ安全に運ぶことができる。もちろん通常の無菌ピンセットでも問題ないが、スポンジが柔らかいため過度に強く掴むと変形・破砕しかねず注意が必要である。
使用手順としては、抜歯後の創縁に付着した肉片や肉芽を掻爬し、必要であれば骨表面の新鮮化を行ったうえで抜歯窩内を生理食塩水洗浄する。次にガーゼ圧迫などで一旦止血を確認した後、テルプラグを抜歯窩の形に合わせて挿入する。基本的に製品はそのまま乾燥した状態で用いる。あらかじめ湿らせる必要はなく、抜歯窩内で出血している血液を吸わせて膨張させることで、周囲との密着度が高まる仕組みである。適合が難しい場合は清潔なハサミで必要最小限にカットし、無理なく填入できる大きさに調整する。挿入時は指や鉗子で強く押し込み過ぎないようにし、血餅を押し出さない程度の軽い圧で創底に安定させるのがコツである。十分に創面を覆ったら、必要に応じて縫合して固定する。大きな抜歯窩ではクロスマットレス縫合などでプラグが浮かないように糸で軽く押さえておくと良い。ただし完全に密閉創にすると圧迫壊死や血流不全を起こす恐れがあるため、あえて創縁は一部開放してドレナージを保つ術式も推奨されている。テルプラグは抜歯窩よりわずかにはみ出す程度の高さで留め、上から覆う粘膜が無い場合でもそのまま安定する砲弾状の形状になっている。もし術後に一部が露出していても、患者には触らずそのままにしておくよう説明する。術後の創部清掃では強いうがいや吸引を避け、プラグと血餅が脱落しないよう注意する。以上が院内で完結する基本的な使用法であり、特別な機器や外注処理は不要である。なお、保存は室温で可能で取扱いも煩雑ではないが、コラーゲンは高温高湿で劣化しうるため、直射日光を避け清潔な所に保管し、使用期限にも留意したい。
経営インパクト(コストとROI)
テルプラグ導入に際して、経営的視点から無視できないのがコストと投資対効果である。まず直接コストとして、本製品の価格はサイズによって異なるが、歯科医院の仕入れ価格で1個あたり概ね1,000~3,000円程度と考えられる(例えばSサイズ10個入りが約16,000円前後など)。歯科用コラーゲン材料としては決して安価ではない部類であり、抜歯1症例ごとにこれだけの材料費が上乗せされることになる。一方で、テルプラグは公的保険に収載されていないため、使用した場合は患者に自費診療分として費用を請求することが可能である。実際の設定価格は医院ごとにまちまちだが、1箇所の抜歯窩へのテルプラグ填入で患者負担2,000~5,000円前後に設定している例が多い。中には10,000円程度の高価格で提供する自由診療パッケージに組み込む医院もある。仮に3,000円で提供すれば医院としては1症例あたり数千円の粗利益が得られる計算で、単純計算では材料費を上回る収益商品となりうる。
しかし、より重要な経営メリットは術後トラブルの削減による効率化と患者満足度向上にある。例えば、抜歯後のドライソケット発生率は文献にもよるが親知らずで数~十数%と報告されている。テルプラグ使用によりこれを大幅に減少できれば、本来発生したであろう緊急処置や追加の消炎処置に割くチェアタイムを減らすことができる。通常、ドライソケットになった患者の診察や処置は保険点数的にも大きな収益とはならず、むしろサービス対応になることも多い。それが月に数件でも防げれば、スタッフとドクターの労力削減につながり、他の有効な診療に時間を充てることができる。また、患者側にとっては「抜歯後にほとんど痛みもなく快適だった」という体験は医院への信頼醸成に直結する。口コミサイトや紹介で医院評価が高まれば、新患増にもつながり得るだろう。このようにテルプラグは直接的な材料売上だけでなく、品質向上による間接的なリターンが期待できる投資である。
一方で留意すべき経営上のポイントも存在する。先述の通りテルプラグは保険適用外の材料であるため、保険診療で抜歯を行いながらプラグ部分だけ自費で請求することは混合診療の問題が生じる可能性がある。現場では「患者希望によるオプション」として同意の上で別途費用徴収しているケースも散見されるが、厳密には抜歯処置全体を自費として扱う方が法的には整合的である。この点をクリアするには、親知らずの難抜歯を「自費の無痛抜歯メニュー」として設定しテルプラグ費用込みで提供するなどの戦略が考えられる。また、材料費がかさむため全例に常用すると収支を圧迫しかねない。そこで、難症例のみやインプラント希望者のみプラグ使用を提案し、患者毎に費用対効果を説明して選択してもらう運用も現実的である。まとめると、テルプラグ導入による経営インパクトは「一症例あたり数千円の追加収入」と「術後トラブル減によるコスト削減・価値向上」の両輪で考える必要がある。初期在庫の確保(ある程度まとまった箱単位での購入)やスタッフ教育のコストもわずかに発生するが、全体として見れば適切な運用で高いROI(投資対効果)を得られる可能性がある。
使いこなしのポイント
テルプラグを真に有効活用するには、単に製品を購入して置いておくだけでなく、院内での運用フローと患者コミュニケーションを工夫する必要がある。まず術式上のポイントとして、抜歯からテルプラグ填入までの一連の流れをスムーズに行うことが重要だ。ドライソケット予防には抜歯操作そのものの低侵襲化も欠かせないため、できるだけ骨や歯肉へのダメージを減らした抜歯を心がけ、そのうえでプラグを用いて血餅を安定させるという二段構えの戦略が望ましい。経験の浅い術者の場合、抜歯窩への充填が不十分でプラグが脱落したり、逆に押し込みすぎて血餅を損ねたりすることがある。「入れたら触りすぎない」というのもコツの一つで、填入後は必要最低限の圧接に留め、後は自然に凝血塊と一体化させるイメージで扱う。また、術後の縫合有無についてもケースバイケースで、過度の圧迫縫合はかえって血流を絶ってしまうため避ける。モリセラや遠心抜歯器具を用いずに抜歯したシンプルケースでは縫合せずプラグのみで経過を見てもよいが、埋伏歯抜歯など大きな創では軽く糸で留めた方が安定する。こうした術式のさじ加減は経験に基づく部分も多いが、メーカー提供の手順書や先行する口腔外科専門医の症例報告などを参考に院内で標準手技を確立すると良い。
次に院内体制として、スタッフへの教育と役割分担もポイントになる。抜歯後にテルプラグを用いる場合、あらかじめアシスタントが滅菌パックからプラグを開封し、術者に手渡す準備をスムーズに行うことで、余計なロスタイムなく充填に移れる。創面が乾いてしまう前に迅速に処置できれば、血餅保持効果も最大化できる。また、抜歯前のカウンセリング段階で患者にプラグ使用の提案をする場合は、担当スタッフがその利点と費用を丁寧に説明し同意を得ておくことが望ましい。患者説明では専門用語を避け、「コラーゲンのスポンジで傷をふたします」「痛みや腫れが出にくくなります」「将来インプラントを入れる土台の骨を守ります」など具体的なメリットをわかりやすく伝える。写真や模型があると理解が深まるため、可能であればメーカー提供のパンフレットや症例写真を見せるのも有効である。特に自由診療で費用をいただく場合には、事前のインフォームドコンセントと選択肢の提示が欠かせない。患者によっては「自然治癒に任せたい」「費用を抑えたい」という意向もあるため、無理強いは禁物である。一方で、術後トラブル時の方が結果的に負担が大きくなる可能性も説明し、患者自身が納得して選べるよう誘導するのがプロのコミュニケーション術といえる。
最後に導入初期の注意点として、少量から試せるかの確認がある。テルプラグは基本的に箱単位(例えばSサイズ10個入など)で販売されるため、いきなり多量に在庫するのが不安であれば、まず数箱を購入して抜歯の多い月に集中的に使ってみるのも手だ。その際、使用症例の経過をよく観察し、スタッフ間でフィードバックを共有する。例えば「親知らずAさんはプラグ使用で痛み少なく経過」「大臼歯Bさんは途中でプラグ脱落したが特に問題なし」等の情報を蓄積すれば、自院での最適な使いどころが見えてくるだろう。導入後しばらくはリコール(メインテナンス)時などに抜歯部位の治癒状態をチェックし、テルプラグ有無による違いを実感してみることも有益である。
適応と適さないケース
テルプラグは基本的にあらゆる抜歯症例で使用可能だが、その真価が発揮されるケースと、逆に無理に使う必要のないケースとがある。適応が特に有用と考えられるのは、まずドライソケット高リスク症例である。具体的には下顎の水平埋伏智歯(親知らず)抜歯、喫煙者や全身状態で創傷治癒遅延が予想される患者(糖尿病や骨粗鬆症薬内服者など)、抜歯時に骨の削除が大きかった症例などだ。これらではテルプラグを入れることで血餅が失われにくくなるため、術後の疼痛や感染予防に寄与するだろう。また将来的にインプラント埋入を計画しているケースや、前歯部の抜歯で審美的に歯槽骨保存が重要なケースにも適している。抜歯後の歯槽堤が著しく痩せると、追加の骨造成処置が必要になったり、義歯・ブリッジの見た目に影響したりするため、極力それを避けたい場合にコラーゲンマトリックスであるテルプラグを入れておく意義は大きい。さらに、抜歯直後に長距離移動する患者や多忙で再来が難しい患者に対しても、術後トラブル回避策として積極的に提案できる。実際、遠方から来院する患者が多い口腔外科専門クリニックでは、抜歯後の疼痛対策として全例にテルプラグを使用し良好な結果を得ているとの報告もある。
一方、適さないケースや慎重適用となる状況も考えておきたい。まず、感染が高度にある抜歯窩や膿瘍を伴うようなケースでは、あえて異物を残さず開放洗浄とした方が良い場合がある。テルプラグ自体は無菌で生体親和性も高いが、膿瘍がある環境では十分な排膿が優先されるべきで、コラーゲンを詰める処置は炎症が落ち着くまで見合わせる判断も妥当である。また、極めて小さな抜歯や単純抜歯で創傷が安定している場合には、無理にプラグを入れなくともガーゼ圧迫と自然治癒で問題ないことも多い。例えば乳歯や細い根の前歯抜去程度では、テルプラグを入れても得られるメリットが少なく、患者負担だけ増えてしまう可能性もあるので慎重に検討すべきだ。さらに、患者がコラーゲン製剤に対して明確なアレルギーを持つ場合(きわめて稀だが過去にゼラチンやコラーゲン注射でアナフィラキシーを起こした既往など)は禁忌となる。テルプラグの原料はウシ由来コラーゲンであり、一般的には抗原性を低下させているとはいえ絶対にゼロとは言えない。実際、日本国内でもテルプラグ使用後のアレルギー反応(全身性の発疹やアナフィラキシー)がごく少数報告されている。そのため問診で気になる既往がある場合や、試用に不安があれば使用しない判断も必要である。
代替アプローチとしては、同様の目的で自家血由来フィブリン(PRF)膜を作製して抜歯窩を覆う方法も近年注目されている。患者自身の血液を遠心分離してフィブリンゲルを得る手法で、これも血餅保持や創傷治癒促進に効果があるとされる。PRFは生体由来ゆえ抗原性リスクはゼロだが、専用の遠心機や手技の手間がかかるため、一般臨床では手軽なテルプラグに軍配が上がるだろう。また、大規模な骨欠損を伴う抜歯(嚢胞摘出後など)では、テルプラグのみでは充填材として不十分な場合もある。その際は骨補填材(人工骨や自家骨)を併用し、その表面をテルプラグで覆うことで簡易メンブレンのように活用することも可能である。このように、テルプラグの有用性はケースバイケースで、万能というわけではない。他の止血材・再生療法との適切な併用や選択が重要となる。
導入判断の指針(歯科医院のタイプ別)
テルプラグを導入するか否かは、医院ごとの診療方針や患者層によって判断が分かれるだろう。以下に、いくつかのタイプの歯科医院を想定し、その向き不向きについて考察する。
1. 保険診療中心で回転率重視の医院
保険内診療を主体とし、多数の患者を効率よく治療している医院では、テルプラグ導入に慎重になるかもしれない。材料費が高く保険請求できないため、下手をするとコスト超過になりかねないからである。このタイプの医院では、基本的な抜歯後処置として保険適用可能なスポンゼルやガーゼ圧迫で十分と考える傾向がある。しかし一方で、ドライソケットによる再来院が頻発すれば結果的に非効率となり、患者満足度の低下も診療評価に影響を及ぼす可能性がある。したがって、回転率重視であってもリスクの高い親知らず抜歯など特定のケースではテルプラグをピンポイントで活用する価値はある。要は必要な場面を見極めて部分導入するのが現実的で、すべての抜歯に使う必要はないが、使わないことで生じるリスクとのバランスを経営的に検討すべきである。
2. 自費診療メイン・高付加価値志向の医院
インプラントや審美治療など自費率の高い医院では、テルプラグは積極的に取り入れるべきツールといえる。このタイプの医院では患者も「良い治療には相応の投資をする」意識が高い傾向にあり、抜歯後のケアにも高品質なものを求める。実際、インプラント前提の抜歯を全例自費扱いにしてテルプラグやPRFを標準適用しているクリニックもある。経営的には、テルプラグ使用料を治療費に上乗せできるため収益に直結するうえ、確実な創部治癒によって次の自費治療(インプラント手術など)へスムーズに移行できるという利点がある。患者満足の観点でも、痛みや腫れが少ない抜歯体験は医院のブランディングに資する。「質の高い医療サービス」を掲げる医院にとって、テルプラグは導入する意義の大きいアイテムである。
3. 口腔外科・インプラント中心の医院
親知らず抜歯や顎骨再建を日常的に行う口腔外科系の医院では、テルプラグの効果を最も享受できる。難易度の高い抜歯症例が多いほどドライソケットや創部感染のリスクは増えるため、それを軽減する手段として標準採用する価値がある。また、将来的な骨造成・インプラント埋入を見据えた処置が求められる現場でもあるため、抜歯時から骨組織を保護するテルプラグの役割は大きい。こうした医院では、テルプラグのコストは治療全体の一部に過ぎず、むしろ使用しないことで起こりうるトラブル対応や追加手術(骨移植等)の方がよほど負担と言える。よって口腔外科分野ではテルプラグは半ば必需品として考え、スタッフも常態的に扱いに慣れておくことが望ましい。
4. 予防・保存中心で外科処置が少ない医院
抜歯自体が少ない小規模医院や予防歯科メインのクリニックでは、テルプラグの優先度は下がるかもしれない。在庫を置いても使用頻度が低ければ在庫ロスとなるうえ、スタッフの経験も積みにくいからである。しかし、たとえ件数が少なくとも「いざという時に備えて用意しておく」価値はある。特に高齢者の抜歯や全身疾患を抱えた患者の抜歯では、スポンゼルだけで不安な場面もあるため、こうした医院でも非常用キット的に少量ストックしておくと安心感が違う。また、外科処置を外部に紹介する医院でも、応急処置としてテルプラグを一時的に填入して紹介先に送るといった使い方も考えられる。要は、自院の診療内容と患者ニーズを踏まえ、テルプラグを「レギュラー採用するのか、スポット的に使うのか、それとも見送りか」判断すればよい。
よくある質問(FAQ)
Q1. テルプラグは何日くらいで溶けてなくなりますか?抜歯後に取り出す必要はありますか?
A1. テルプラグは吸収性のコラーゲン製剤であり、体内で徐々に分解・吸収されていく。個人差はあるが、通常は3~4週間程度でほぼ体内に吸収されて消失する。したがって抜歯後に残ったテルプラグをこちらから取り出す必要はない。術後しばらくして患者が「白い物が見えるが大丈夫か」と心配する場合もあるが、それはコラーゲンスポンジの一部であり、いずれ溶けてなくなるため基本的にはそのままで問題ない。ただし、極端に早い段階(術後1~2日以内)にプラグが全部脱落してしまった場合は、血餅ごと取れてしまった可能性があるので担当医は経過を注意深く観察する必要がある。
Q2. テルプラグの費用と保険適用について教えてください。患者に自費でいくら請求すべきでしょうか?
A2. テルプラグ自体は公的医療保険の適用外であり、材料費は全額患者負担となる(自由診療扱い)。価格設定は医院の裁量だが、一般的には1箇所あたり2,000~5,000円程度で請求している例が多い。仕入れ価格を踏まえつつ、地域の相場や医院のポリシーに応じて設定するとよい。混合診療の観点からは、抜歯を保険で行った場合にテルプラグ部分だけ自費請求するのはグレーゾーンとなるため、説明同意の上で自費オプションとして扱うか、あるいは最初から自費の抜歯メニューに組み込む方法が望ましい。いずれにせよ、事前に患者に費用を明示し、同意を得た上で使用することが大切である。
Q3. テルプラグを使えばドライソケットは絶対防げますか?使用しないと問題がありますか?
A3. テルプラグの使用でドライソケットになる確率は大幅に減ると考えられるが、絶対に起こらないと断言することはできない。実際、テルプラグを入れても骨の硬さや全身状態によっては血餅がうまくできずにドライソケット様の痛みが出るケースも皆無ではない。ただし経験的には、使わなかった場合よりは明らかに安定した経過を辿る患者が多い。また、「テルプラグを入れないと必ず問題が起きる」というものでもなく、若年者の単純抜歯などでは何も入れなくても問題なく治癒することも多い。要は症例に応じた判断であり、ハイリスク症例ではできる限り使った方が安全度が上がる一方、低リスク症例では無理に使用しなくても良い場合がある。
Q4. スポンゼルや他社の止血剤との違いは何でしょうか?テルプラグを選ぶメリットはありますか?
A4. スポンゼルはゼラチン製の吸収性スポンジで止血目的に優れるが、コラーゲンではないため組織の足場効果は相対的に弱い。一方、テルプラグやコラプラグはコラーゲン由来で創傷治癒を積極的に助ける点が特徴である。テルプラグは特にコラーゲンの改良素材を用いており、吸収までの期間が程よく長いため、抜歯後の骨や歯肉の回復をしっかり支えてくれる利点がある。スポンゼルは保険適用で低コストなのに対し、テルプラグは自費負担となるデメリットはある。しかしインプラント予定やドライソケット予防重視ならテルプラグの方が効果を実感しやすいだろう。要は、費用をかけてでも治癒を最適化したい場合にはテルプラグを選ぶメリットがあるということである。
Q5. テルプラグを使用することで感染リスクが高まることはありませんか?異物を入れることに抵抗があります。
A5. テルプラグは無菌状態で提供され、生体適合性の高いコラーゲンから作られているため、通常は感染源となることはない。筆者自身や他院の報告でも、テルプラグを入れたことで抜歯後の感染(創部の化膿)が増えたという印象はない。むしろ、テルプラグが創部を覆って細菌の侵入を防ぎ、血餅を安定させることで感染リスクを抑制できると考えられる。ただし先述のように、もともと膿が溜まっているような抜歯ケースでは無理に詰めずドレナージを優先する判断も必要だ。適切なケースで正しい手技で用いれば、テルプラグによる感染リスクの心配は過度にする必要はない。