
歯科で使う止血剤「ヘムコン」とは?用途や効果を分かりやすく解説
抜歯後になかなか出血が止まらず、ガーゼを何度も交換しながら止血に苦労した経験はないだろうか。高齢の患者で抗凝固薬を服用している場合や、大きな外科処置の後など、通常の圧迫止血だけでは不安が残る場面もある。診療の遅れや患者の不安を招かないために、確実で迅速な止血手段が欲しいと感じることは誰しも思い当たるはずである。
本稿では、そうした止血の悩みを解決する可能性を持つ歯科用止血材「ヘムコン」に着目する。臨床での使い勝手や止血効果だけでなく、医院経営への影響も含めて客観的に分析し、読者が自身の診療スタイルに合った活用方法を見出せるよう考察する。
ヘムコン デンタルドレッシングの概要
ヘムコン デンタルドレッシング(以下ヘムコン)は、口腔内の手術処置で用いる局所止血材である。正式名称は英語でHemCon Dental Dressingと称し、抜歯などの歯科処置に伴う出血部位に適用して止血を図る製品である。一般医療機器(クラスI)に分類され、届け出番号は13B1X00066000007である。製造販売元はゼリア新薬工業株式会社で、日本国内では歯科商社のヨシダを通じて供給されている。包装単位は5枚入りで、サイズは小片(10×12mm)と大型(25×70mm)の2種類が提供されている。それぞれ用途に応じて使い分けられ、小片は抜歯窩への充填に、大型は広範囲の創面被覆に適している。口腔内粘膜組織の一時保護用途にも使用でき、例えば遊離歯肉移植の供給部位(口蓋側)の被覆などにも応用されている。滅菌済みディスポーザブル製品であり、開封してすぐに使用できる手軽さも備えている(室温保存可能)。
ヘムコンの主要スペックと臨床効果
ヘムコン最大の特徴は、主要成分にキトサン(Chitosan)を用いた止血材である点である。キトサンはカニやエビといった甲殻類由来の多糖類で、正の電荷を帯びる特性を持つ。この正電荷により、創傷部で負電荷を帯びている赤血球や血小板を瞬時に引き寄せる。結果として生体の凝固因子に頼らずに短時間で血餅を形成し、創面を物理的に封鎖することが可能である。抗凝固薬服用患者や血液凝固能が低下した症例においても、通常の生体凝固系を介さず止血を得られる点は大きな臨床上の利点である。
ヘムコンは即効性と持続性を兼ね備える。適切に圧接すれば数分以内に止血効果が発現し、その後は製品自体が血餅の一部となって創面を覆い続けるため、止血効果が持続する。素材の生体適合性も確認されており、ISO 10993規格に基づく生物学的安全性試験をクリアしている。キトサンは生分解性を有するため、適用後に体内で徐々に分解吸収される。抜歯窩などに留置した場合でも、製品を無理に除去する必要はなく、血餅とともに自然に吸収・排出される。これにより、創部を刺激して再出血を起こすリスクを抑えられる。
さらに、キトサンには抗菌作用や創傷治癒促進効果も報告されている。従来から歯科領域で用いられてきた酸化セルロース系やゼラチンスポンジ系の止血材は、止血効果はあるものの、生体内で異物として残存して炎症を誘発したり、骨の治癒を遅延させる場合があると指摘されてきた。一方、キトサン由来のヘムコンは生体親和性が高く、むしろ創傷治癒を助ける性質を持つ。そのため抜歯後の治癒遷延や骨造成への悪影響を最小限に抑えつつ、確実な止血を実現できると期待される。
使い方と運用上のポイント
ヘムコンの使用手順はシンプルであり、特別な機器や高度なトレーニングは不要である。滅菌パッケージから取り出したパッドを、出血している創面に直接あてがい、数分間圧迫止血するだけである。圧迫には指やバイトブロック、あるいは滅菌ガーゼを介して行う。十分な圧迫時間を確保することで、キトサンが血液成分を引き寄せ血餅を形成し、パッドが創部へ密着する。小片サイズは厚みが約3.5mmあり、抜歯窩に軽く填入して圧迫することで窩内を充填しながら止血できる。一方、大型サイズは薄く(厚さ約1.15mm)、必要に応じてハサミで切り分けて使用することも可能である。広範囲の創面(例えば骨削除を伴う手術部位や口腔粘膜の損傷部)には、大型を創全体に被覆するように当て、適宜ガーゼなどで押さえるとよい。
使用時の注意点として、創面の過剰な血液や唾液を軽く吸引・除去してから適用すると効果的である。出血部位を清潔にし、ヘムコンが直接創面に接触できるようにすることで、止血効果が発揮されやすくなる。また、一度当てたヘムコンは極力動かさないことが重要である。途中で剥がしてしまうと、せっかく形成されかけた血餅が崩壊して再出血を招く恐れがある。圧迫時間の目安は出血の程度によるが、通常は2〜5分程度、抗凝固薬服用者など止血に時間がかかる症例でも10分程度で十分な凝固が得られる場合が多い。
ヘムコンの互換性という観点では、他の止血方法や処置との併用が挙げられる。例えば、大きな抜歯創で縫合が必要な場合でも、縫合前にヘムコンで止血を安定させてから糸で閉鎖すれば、より確実な止血と創安定が図れる。逆に、縫合後にジワジワとした滲出が残る場合に、創部上からヘムコンを当てて圧迫することもできる。レーザー照射や電気メスによる凝固と異なり、ヘムコンは組織を焼灼しないため周囲組織への熱ダメージがない点も利点である。必要に応じて他の止血法と併用しつつも、ヘムコン自体が単独で強力な止血効果を発揮する場面も多い。
感染対策上は、ヘムコンは単回使用の滅菌済み製品であるため清潔操作が保ちやすい。使用後のパッドは生体内で分解されるが、創面から露出して残った部分があれば患者に違和感を与える可能性がある。そのため術後の説明として、「白っぽいスポンジ状のものが見えても触らずそのままにしておくように」と患者へ指導しておくと良い。口腔内から外れてきた場合は無理に再装着せず、ガーゼで軽く圧迫するなど通常の止血対応に切り替える。また、製品は湿気に弱いため、未開封品でも有効期限の管理と保管環境(直射日光や高温多湿を避け室温保存)には留意する必要がある。開封後は当然再滅菌や再使用はできないが、5枚入りの各片が個別包装になっているため、使い残しで無駄になる心配は少ない。
経営面から見たヘムコンのインパクト
ヘムコンの導入は、臨床上のメリットだけでなく医院経営にもいくつかの影響を及ぼす。まずコスト面では、ヘムコンの標準価格は小片サイズ5枚入りで9,500円(税別)、大型5枚入りで15,000円(税別)と設定されている。単純計算で1枚あたり約2,000〜3,000円の材料費となり、保険診療の抜歯処置においては決して安価とは言えない。しかし、このコストをどのように捉えるかが経営判断のポイントである。
例えば、通常の抜歯後にガーゼ圧迫で止血する場合、確実な止血を得るまでに5〜10分以上のチェアタイムを要することがある。術後も患者にガーゼを噛んでもらいながら待合で経過を見たり、場合によっては再度診療椅子に呼んで追加処置を行ったりと、人手と時間を割かれるケースもある。ヘムコンを使用すれば、止血に要する時間が大幅に短縮される可能性が高い。仮に1症例あたり5分のチェアタイム短縮が実現すれば、そのぶん次の患者の診療に充てたり、スタッフの拘束時間を減らすことができる。この時間的価値を金額換算すれば、決して無視できない。歯科医院の人件費や機会費用を考慮すれば、1分あたり数百円の価値があると考えられる。5〜10分の短縮はすなわち数千円分の価値に相当し、ヘムコン1枚のコストに見合うリターンがあると言える。
さらに、術後合併症の低減による経済効果も見逃せない。抜歯後出血やドライソケット(乾燥症骨炎)のようなトラブルが発生すれば、患者の緊急来院への対応や追加処置が必要となり、これらは診療報酬上ほとんど利益にならないばかりか他の予約にも影響を与える。ヘムコンの確実な止血と抗菌効果によってこうした術後トラブルが減れば、結果的に不要な再診やクレーム対応に追われるリスクが軽減される。患者満足度の向上は口コミやリピート率の向上にもつながり、長期的には増患・増収効果をもたらす可能性がある。
自費診療への寄与も考えてみよう。インプラント埋入や歯周外科、再生治療など高額な自費手術では、安全管理への投資は患者にもアピールできるポイントである。「術中術後の出血を最小限に抑える先進的な材料を使用している」といった説明は、直接宣伝はせずとも患者に安心感を与え、その医院の医療品質への信頼感を高めるだろう。仮に材料コストが1症例数千円上乗せになったとしても、自費治療全体のフィーから見ればごく一部であり、確実な止血による短時間オペの実現や合併症減少のメリットを考えれば十分に吸収できる。むしろ、難症例を安全にこなせる体制が整うことで、抗凝固療法中の患者も積極的に受け入れ可能になるなど、診療の幅が広がり新たな収益機会を得ることにもつながる。
総じて、ヘムコン導入によるROI(投資対効果)は、単純な材料費以上の広がりを持つ。時間短縮による生産性向上効果、術後トラブル減少によるコスト削減効果、患者信頼度向上による収益機会拡大といった複合的なメリットを勘案すれば、ヘムコンの価格に見合う価値は十分に見出せるだろう。もちろん、日常的に抜歯や小手術が少ない医院にとってはコスト回収に時間がかかるため、ケースごとに使用の要否を見極める運用が求められる。しかし「いざという時の保険」として1箱備えておくだけでも、経営的なリスクマネジメントと言える。
ヘムコンを使いこなすためのポイント
新しい材料であるヘムコンを真に使いこなすには、単に購入するだけでなく院内での適切な準備とトレーニングが大切である。導入初期には、歯科医師自身はもちろんスタッフ全員がヘムコンの存在と役割を理解していることが望ましい。具体的には、抜歯や外科処置の術前カンファレンスや朝礼などで「本日は抗凝固薬内服の患者さんの抜歯があるのでヘムコンを用意しておこう」といった声掛けが自然に出るような環境を作る。アシスタントや衛生士にも、ヘムコン適用の流れ(創面清掃→パッド適用→圧迫)を共有し、必要なタイミングでスムーズに取り出せる準備を依頼しておくと良い。
術式上のコツとしては、焦らず十分な圧迫時間を確保することが挙げられる。ヘムコンは即効性が高いとはいえ、血餅形成には数分を要する。途中で離して確認したくなるかもしれないが、患者にも協力を仰ぎつつじっくり圧迫する方が結果的に短時間で確実な止血につながる。また、大出血の場合にはヘムコンを追加使用する選択肢もある。広い創面では複数枚を重ねたり隣接させたり、必要ならば大判サイズをカットして患部全体を覆うように施すことも可能である。ヘムコン自体に厚みがあるため、適用後に圧迫しやすいよう咬合圧を利用する工夫(例: パッドを当てた上から患者自身にガーゼを噛んでもらう)が有効なケースも多い。
院内体制としては、定期的に在庫と使用期限をチェックし、使いどきの見極めを経験的に蓄積していくことが望ましい。例えば、「出血が一定以上量であれば早めにヘムコンを投入する」「出血リスクが高いと予想される処置(高血圧者や抜歯難易度が高い親知らずなど)では事前にヘムコンを開封して準備しておく」といったガイドラインをチームで共有することで、無駄遣いを防ぎつつ効果を最大限発揮できる。患者説明のポイントとしては、処置前に「出血を早く止めるための専用のスポンジを使います」と断りを入れておくと良い。術後についても前述の通り、口腔内に残っているパッドについて触れないよう指示し、違和感が強い場合は無理せず連絡をもらうよう伝えておくと安心である。
適応症と使用が適さないケース
ヘムコンの適応となるケースは多岐にわたる。代表的なのは抜歯であり、とりわけ難抜歯や全身疾患を抱え出血リスクの高い抜歯症例での止血だ。他にも口腔外科手術全般で活躍する。歯根端切除術や嚢胞摘出術のような小手術、歯周形成外科(歯肉剥離掻爬や歯肉移植術)におけるドナーサイト・レシピエントサイト双方の止血保護、さらにインプラント手術後のわずかな出血管理など、観血的処置には幅広く応用可能である。特に近年増加している抗血栓療法中(ワルファリンやDOAC服用中)の患者への処置では、ヘムコンの存在が術者の大きな支えとなる。従来であれば術前に投薬主治医と休薬の相談をしたり、出血リスクを理由に高次医療機関へ紹介していたようなケースでも、ヘムコンを駆使することでクリニック内で安全に処置を完了できた例が報告されている。
一方で、使用が適さない状況も認識しておく必要がある。まず、素材が甲殻類由来であることからエビ・カニアレルギーを持つ患者には慎重な対応が求められる。重大なアレルギー既往がある場合は使用を避けるのが無難である。また、適応はあくまで口腔内の局所止血であり、大量出血や動脈性の出血に対しては外科的止血(結紮や電気メスによる凝固)が優先されるべきである。ヘムコンはあくまで補助的手段であり、出血源の確実な同定や必要な外科処置を怠ってはならない。
小さな出血で十分にガーゼ圧迫や薬剤で対応可能な場合にまで、無理にヘムコンを使う必要もない。例えば、印象採得時のごく軽度の歯肉出血やスケーリング中の微小な出血に対しては、従来の収れん剤含有の圧排用糸や止血剤で十分であり、ヘムコンはオーバースペックである。また、感染コントロールの観点から言えば、化膿した創口や膿瘍ドレナージ直後の創面にヘムコンを適用すると、排膿を妨げたり異物となるリスクも考えられる。基本的に清潔な手術野における止血に用いるものであり、感染創への直接使用は避け、まずは感染源除去と洗浄・抗菌措置を優先すべきである。
以上を踏まえ、ヘムコンは得意とする領域(観血処置全般の止血・保護)で真価を発揮する一方、適さない場面では他の止血法や処置に委ねるという判断が重要となる。適材適所でヘムコンを位置付けることが、効果とコストのバランスを取る鍵となる。
読者タイプ別に考えるヘムコン導入の指針
歯科医師といっても診療方針や経営スタンスは様々であり、ヘムコンの価値も医院の方針によって異なりうる。ここではいくつかのタイプの歯科医師像を想定し、それぞれにとってヘムコン導入が向いているか、あるいは注意点があるかを考えてみる。
保険診療中心で効率重視の歯科医
日々の診療をスピーディーに回し、多くの患者を受け入れている先生にとって、ヘムコンは効率化ツールとして魅力的に映るだろう。抜歯や小手術の後処置にかかる時間を短縮できれば、その分だけ診療ユニットの回転率を上げることができる。また、出血が長引いた際に他の患者の待ち時間が延びてしまうといった事態も減り、医院全体のスケジュール管理が円滑になる。しかし、一方でコスト意識も強いのがこのタイプの特徴である。保険点数内でやりくりする以上、高価な材料を多用すれば収支に影響する。従って、ヘムコンは「ここぞという場面」で使う戦略が望ましい。具体的には、「圧迫止血5分では足りないような出血時には投入する」「初めからリスクが高いと分かっているケースには最初から使って時間短縮を図る」といったメリハリ運用である。全ての抜歯に無差別に使うのではなく、経験に基づき必要性の高いケースを見極めることで、コストに見合う効果を発揮させることができる。結果として、効率と採算のバランスを両立しながら患者対応力を高めるという、このタイプのクリニックが求める価値に合致するだろう。
自費診療を積極展開する高付加価値志向の歯科医
インプラントや審美治療など高額な自費メニューを多く手がける先生にとって、ヘムコンは品質向上とリスク低減のための投資と位置付けられる。患者は高い費用を支払う分、手厚いケアと安心を求めている。その点、ヘムコンを用いて出血管理を徹底することは、術中術後の不安軽減につながり患者満足度を高める要素となる。例えばインプラント手術では、術後出血や腫脹を最小限に抑えることで翌日以降の経過が良好となり、患者からの信頼を得やすい。ヘムコンのコストは自費治療全体の売上から見ればごく僅かであり、むしろ積極的に導入することで医院のクオリティを印象付ける効果が期待できる。
このタイプの医院では、ヘムコンを「標準的プロトコル」に組み込んでしまうのも一つの手である。歯周外科や難易度の高い親知らず抜歯など、自費もしくは自由診療扱いとなる処置において、初めからヘムコンを使用する方針とするのだ。そうすることで術者・スタッフも迷わずに準備・対応でき、患者にも一貫した高水準のケアを提供できる。ただし注意点として、患者への説明責任が挙げられる。高額な治療では用いる材料一つひとつに敏感な患者もいるため、「創部に特殊な止血材を使用しています」と術後にパンフレット等でフォローするなど、透明性を確保したコミュニケーションが望ましい。幸いヘムコンは薬機法上も一般医療機器でありリスクが低いことから、安全性について過度に心配されるものではない。高付加価値診療を掲げる医院においては、ヘムコン導入は患者ケア品質をさらに高める施策として十分検討に値するだろう。
口腔外科・インプラント中心の外科志向の歯科医
日常的に外科処置が多く、難症例や全身管理が必要な患者も扱う先生にとって、ヘムコンは「なくてはならない止血ツール」になるかもしれない。口腔外科領域では、従来から酢酸フェリックや酸化セルロース(商品名サージセル)、吸収性コラーゲンスポンジなど様々な止血材が用いられてきた。そうした中でヘムコンは比較的新しい選択肢だが、前述したように抗凝固療法中の患者の抜歯症例などで顕著な有用性が報告されている。すでに外科処置の経験豊富な術者であれば、ヘムコンの効果も即座に実感できるだろう。例えば、骨造成を伴う抜歯即時インプラント埋入の際に、抜歯窩からの出血をヘムコンでコントロールしつつ的確に骨補填材を充填できたケースや、全身疾患患者の多発抜歯で1本ごとにヘムコンを適用して確実に止血しながら安全に処置を完遂したケースなど、実践的な有用例が考えられる。
このタイプの先生にとっては、むしろヘムコンを使わない理由が乏しいと言えるかもしれない。手元に用意しておけば緊急時の最終兵器として心強く、術中に想定外の出血があっても落ち着いて対処できる。唯一懸念があるとすれば、「すでに確立した他の止血法との使い分けをどうするか」である。長年の術式でサージセルやゼラチンスポンジを愛用している場合、ヘムコンに切り替えることで何が変わるのかを見極める必要がある。これについては、ケースバイケースで両者を併用・併存させるのも現実的な戦略である。例えば、粘膜面の広範囲被覆にはヘムコン、大きな骨空洞内での止血にはコラーゲンスポンジ、といったように得意分野で使い分けることができる。外科処置中心の医院であれば、複数の止血材を適材適所で組み合わせ、最適解を見つける余地が十分にある。ヘムコンはその中で、新たな選択肢として加える価値の高い材料と言えるだろう。
よくある質問(FAQ)
Q1. ヘムコンは使用後に取り除く必要があるか?
A1. 基本的に取り除く必要はない。ヘムコンはキトサン由来の吸収性素材でできており、創部に留置したままでも生体内で徐々に分解・吸収される。無理に剥がすと再出血を招く恐れがあるため、止血後はそのまま血餅の一部として残す運用となる。ただし、創外に露出してしまっている部分について患者が違和感を訴える場合は、表面の余剰部分のみを慎重に除去することもある。
Q2. 抗凝固薬を服用している患者にも効果があるのか?
A2. はい。ヘムコンは抗凝固療法中の患者においても有効な止血効果を発揮する。ワルファリンやDOAC(直接経口抗凝固薬)を服用している患者は血液凝固機能が低下しているが、ヘムコンは凝固因子に依存せず物理的な凝血を促すため、従来よりも安心して処置を行うことができる。実際に国内の臨床報告でも、ワルファリン内服中の高齢患者の抜歯後出血がヘムコンの使用で速やかにコントロールできた例が紹介されている。ただし、こうした患者ではヘムコン使用後も通常以上に経過観察を丁寧に行い、必要に応じて追加処置や縫合を併用する慎重さは忘れてはならない。
Q3. エビやカニのアレルギーがある患者に使用しても問題ないか?
A3. ヘムコンの主成分であるキトサンは甲殻類由来の成分である。そのため、甲殻類アレルギーを持つ患者には基本的に使用を避けるのが無難である。キトサン自体は高度に精製されているためアレルギー反応のリスクは低いとされているが、過敏症状が出たという報告も皆無ではない。アレルギー既往の問診で甲殻類に対する反応が明らかな患者には、他の止血法(例えばコラーゲンスポンジや酸化セルロースなど非甲殻類由来の材料)を選択するのが賢明である。どうしても使用せざるを得ない状況であれば、少量から慎重に適用し、異常がないか注意深く観察する必要がある。
Q4. 保険診療でもヘムコンを使用できるのか?費用は患者負担になるのか?
A4. ヘムコンは保険適用外の材料であり、歯科用一般医療機器として歯科医院が任意に使用するものである。保険診療の点数にはヘムコン自体の費用は含まれず、患者に対してこの材料費を直接請求することも認められていない(混合診療の禁止)。したがって、保険診療の範囲内でヘムコンを使用する場合、そのコストは医院側の負担となる。ただし、インプラント手術や特殊な歯周外科処置など自由診療であれば、治療費に材料コストを織り込む形で実質的に患者に負担してもらうことも可能である。保険診療で使う際は費用対効果を考慮し、本当に必要なケースに限定して用いることが多いのが実情である。
Q5. ヘムコンのサイズは2種類あるが、どう使い分ければよいか?
A5. ヘムコンは小片(10×12mm)と大判(25×70mm)の2サイズが提供されている。小片サイズは厚みがあり、主に抜歯窩への充填止血に適している。親知らずや大臼歯抜歯の穴を埋めるように入れて圧迫することで、局所に留まりやすく確実に血餅を形成できる。一方、大判サイズは薄く柔軟性があるため、広い創面や複数歯にわたる処置に向いている。例えば、一度に数本の抜歯を行った際に歯槽堤全体を覆うように載せたり、歯周外科で広範囲に渡る剥離創面を保護しつつ止血したりする場合に有用である。また、大判は必要に応じてハサミで小さく切って使用することもできる。コスト的には大判1枚あたりの単価が高いため、局所的な用途には小片、広域には大判、といった具合に症例に合わせてサイズを選択すると良いだろう。