
歯科で使う止血剤「歯科用TDゼットゼリー」とは?用途や効果を解説
歯科診療では、ちょっとした出血が治療の進行を妨げることがある。たとえば、クラウンの支台歯形成中に歯肉をわずかに傷つけてしまい、じわっと出血が始まった経験はないだろうか。印象採得を控えてその出血を止めようとガーゼで圧迫するが、なかなか止まらず焦る――誰しも一度は味わったことのある臨床のひと場面である。また、小児の抜歯後に出血が止まらず、子供が血の味に泣き出してしまうような場面では、迅速かつ確実な止血が求められる。こうした状況で役立つのが、歯科用TDゼット・ゼリーという口腔内局所止血剤である。
本稿では、この製品の特徴と臨床での活用法を検討し、経営面での効果も含めて解説する。読者の先生方の日々の診療で直面する出血トラブルに対する一助として、本稿を通じて臨床的なヒントと戦略的な製品活用の視点を届けられれば幸いである。
歯科用TDゼット・ゼリーの概要
歯科用TDゼット・ゼリーは、歯科領域で使用する局所止血剤である。ゼリー状の薬剤を患部に塗布することで、口腔内の小出血を素早く止めることを目的としている。正式名称はそのまま「歯科用TDゼット・ゼリー」であり、製造販売元はビーブランド・メディコーデンタル(製造:東洋製薬化成)である。医薬品としての分類は処方箋医薬品で劇薬にあたる。すなわち歯科医師が使用するための薬剤であり、市販の止血材とは異なり医療用である。包装は1本あたり10g入りで、通常は歯科医院向けに流通している。
適応となるのは歯科領域における口腔粘膜損傷に伴う小出血である。例えば、形成や処置の際に誤って粘膜を傷つけた場合のわずかな出血、ラバーダム除去後の歯肉からの滲み出る血液、乳歯の抜去時に見られる比較的少量の出血などが典型である。そうした小出血に対して、本剤を出血部に塗布すると、速やかな止血効果が期待できる。発売は1986年と古く、長年にわたり歯科現場で使用されてきた実績がある。なお、本製品には剤形違いの姉妹品として「歯科用TDゼット液」(液状タイプ)が存在する。ゼリーと液では有効成分や効能効果は同一だが、粘稠性の有無により使い勝手が異なる(詳細は後述)ため、状況に応じて使い分けられている。
主要な成分・作用と臨床での意味
TDゼット・ゼリーの特徴を理解するため、まずその有効成分と作用機序を押さえておく。主成分は塩化アルミニウム(AlCl_3)であり、濃度は製品中に25%含有される。塩化アルミニウムは強い収れん作用を持つ物質で、タンパク質を凝集させて組織をキュッと縮める性質がある。これにより、傷ついた細小血管からの出血部位を物理的に封鎖し、血液の流出を止める効果を生む。いわゆる「止血薬」としての役割を果たす成分であり、歯科領域では印象採得時の歯肉圧排材などにも同様の収れん剤が使われてきた。アルミニウム塩による止血は速やかで、製品の添付文書によれば、ラットの実験創傷では約30秒で止血が得られたと報告されている。実際の臨床試験においても、小出血に対する止血有効率は約95〜97%とされ、適応症であれば高い確率で効果を発揮する。
第二の有効成分はセチルピリジニウム塩化物(CPC)である。CPCは陽イオン性の界面活性剤であり、殺菌作用を持つことで知られる。うがい薬などにも用いられる成分で、口腔内の細菌繁殖を抑える効果がある。本剤では止血と同時に創部を殺菌・消毒する目的で配合されている。出血箇所は血餅が形成され細菌が停滞しやすい環境となるため、CPCにより局所の感染リスクを下げ、創部の清潔を保つ意図があると考えられる。
さらにリドカイン(塩酸リドカイン)も5.25%含まれている。リドカインは言うまでもなくアミド型の局所麻酔薬であり、表面麻酔にも用いられる成分である。本剤では患部の痛みを和らげる目的で加えられている。実際、塩化アルミニウムは酸性で収れん性が強いため、患部に塗るとしみるような刺激を感じる場合がある。しかしリドカインの局所麻酔効果によって、その刺激感を緩和し、患者の不快感を抑える。特に小児や敏感な患者にとって、処置後の痛みやヒリヒリ感が少ないことは大きな利点である。
以上のように、TDゼット・ゼリーは収れん止血、殺菌、そして鎮痛という3つの作用を兼ね備えた処置薬である。ゼリー状の基剤にはヒドロキシエチルセルロースが用いられ、粘性を持たせることで患部への停滞性を高めている。実際、ゲル状であるために唾液で流れにくく、塗布した部位に薬剤が留まりやすい。これによって確実な局所止血が可能になる点が、本製品の大きな特徴である。また香料と甘味料(サッカリンNa)が添加されており、味はわずかに酸味と収れん性を感じるものの、子供でも嫌がりにくい工夫がされている。従来、歯科での止血と言えばガーゼ圧迫やアドレナリン含有の収れん剤使用が考えられるが、アドレナリンは全身への影響(循環器系への負担)が懸念される。一方、本剤は血管収縮剤を含まないため循環器系に影響を及ぼすことなく局所的に作用する。高血圧症や心疾患を抱える患者にも安心して使える止血手段として、臨床で重宝する理由である。
使用方法と院内運用のポイント
TDゼット・ゼリーの基本的な使い方はシンプルである。患部の出血を確認したら、本剤を適量(ごく少量で十分)取り、出血している部位に直接塗布する。具体的には、滅菌綿球や綿棒にゼリーを少し取り、出血源に軽く押し当てるように使用する。傷口が血液でびっしょりの場合は、いったんガーゼ等で余分な血を拭ってから適用すると薬剤がより効果的に働く。数十秒から1分程度そのまま当てておけば、多くの場合出血は止まる。止血を確認した後は、水で洗浄したり、ガーゼで拭き取ったりして残留薬剤を除去することが望ましい。特に、この後に接着操作(レジン充填や支台築造など)や印象採得を行う場合、ゼリーが歯面に残ったままだと接着阻害の原因となりかねないため要注意である。製造元も、歯の修復物を装着する際には洗浄しやすい液状タイプの使用を推奨している。ゼリーは粘性が高い分、除去の際には丁寧な洗浄が必要である。
一方、止血効果を最大限に得るためには患部以外に広げすぎないこともポイントである。ピンポイントに塗布すれば少量で済むが、広範囲に塗りすぎると周囲の健康な組織まで収れん作用でダメージを受ける可能性があり、また患者が誤って飲み込むリスクも増える。本剤はリドカインを含むため、万一大量に嚥下すると喉の感覚麻痺や全身的な副作用につながる恐れがある。したがって適量を守り、必要部位のみに限定して使うのが安全である。
院内で運用する上では、スタッフへの教育として「劇薬」扱いであることを共有しておく必要がある。劇薬指定の薬剤は法律上、その保管に施錠が必要など取り扱いが定められている。患者の目に触れない場所に保管し、使用時には必ず担当者が手袋を着用して扱うなど基本的な注意を徹底したい。また、本剤はチューブ容器から必要量を都度出して使用する形であり、容器先端を直接患者の傷口に触れさせないことが感染対策上重要である。使用時は一度清潔な紙皿やガーゼにとってから綿球に染み込ませるなど、交差感染を防ぐ工夫をする。また開封後も有効期限内(約3年間)の使用が推奨されるが、保存環境により薬剤が劣化する可能性もある。直射日光を避け室温で保管し、ゲルが乾燥しないようキャップをしっかり閉めることも肝要である。
互換性という観点では、TDゼット・ゼリー自体は他の器具や材料と直接「接続」するような製品ではない。しかし、臨床フローの中で既存の方法とどう使い分けるかがポイントになる。同じ薬剤成分で液状のTDゼット液が存在することは先述した。実は公式にも液状タイプの効能効果として、印象採得時の歯肉圧排時の出血制御が明記されている。液体はサラサラしており、歯肉ポケット内にも浸透しやすいので、歯周ポケット内の止血や歯肉縁下の圧排には液状が向いている。一方、ゼリーはその粘性ゆえに患部への留まりが良く外れにくい利点があるため、圧排よりも外科的な小出血や平面的な傷からの出血に適する。例えば、乳歯の抜歯窩に少量詰めておけば血餅形成を助けつつ止血できるし、ラバーダムクランプ痕の歯肉からのにじみ出る血にも綿球で押さえれば効果的である。用途に応じてゼリーと液体を使い分けることで、院内の止血管理がより万全になるだろう。もし初めて導入する場合には、用途に合わせ両剤形を用意し、スタッフにもそれぞれの使いどころを周知しておくと良い。
導入による医院経営へのインパクト
止血剤というと臨床的な効果ばかりに目が行きがちだが、医院経営の視点でもTDゼット・ゼリーの導入メリットを考えてみたい。まずコスト面である。本剤は10g入り1本あたりおよそ3,000円前後で入手できる(薬価基準では1gあたり約300円)。1回の使用量はごく微量で、仮に0.1g使用したとすれば1症例あたり30円程度の材料費に過ぎない。保険診療で使用した場合、この種の薬剤は診療報酬上は処置料に包括され細かく算定できないことも多いが、数十円のコスト負担は医院の経費にほとんど影響しないレベルである。むしろ、止血が速やかにできることによってチェアタイムが短縮される効果のほうが経営に与えるインパクトは大きい。例えば、出血によって治療が5分間中断する場面が週に何度もあるとしよう。その都度TDゼット・ゼリーで即座に止血し、5分のロスを回避できれば、積み重ねれば1週間で数十分、1ヶ月で数時間の診療時間を有効に活用できる計算になる。時間は診療サービスの提供量に直結するリソースであり、その節約は即ち生産性向上につながる。
さらに、止血不良が原因で起こりうる手技のやり直しが減る点も経営的メリットである。出血のせいで印象が不鮮明になり型取りをやり直したり、充填物の辺縁が不適合で再調整や再製作が必要になったりすれば、材料費や技工費だけでなく医師・スタッフの時間的コストも無駄になる。本剤を使っておけば一度で確実に処置を完了できる可能性が高まり、再処置の発生を抑制できる。特に自費診療では一度のやり直しが数万円規模の損失につながる場合もあるため、些細な出血を見逃さず管理することが長期的な利益確保に寄与すると言える。
患者満足度の向上も見逃せないポイントである。小さな出血とはいえ、患者にとっては「血が出てなかなか止まらない」という状況は不安やストレスにつながる。本剤で迅速に止血し痛みも和らげれば、患者の安心感は高まり治療への信頼感も向上するだろう。小児患者であれば、嫌がらずに処置を終えられた体験が次回の受診への前向きな姿勢につながるかもしれない。このように、目には見えにくい部分で医院の評判やリピート率に貢献する効果も考えられる。
ROI(投資対効果)という観点では、TDゼット・ゼリーは初期投資も微々たるもので、使った分だけ効果を発揮する「即効性のある道具」と言える。高額機器のように「導入したが宝の持ち腐れにならないか」と心配する必要はほぼ無い。目の前の出血に対処するという極めて日常的かつ頻繁な場面で役立つため、購入後すぐに診療に組み込んで活用できるだろう。結果として、その効果で節約できた時間や防げたトラブルが積み重なれば、投資額の何倍もの価値となって医院経営を下支えするはずである。
使いこなしのポイントと注意点
TDゼット・ゼリーを有効に使いこなすためには、いくつかコツと注意点がある。まず導入初期の段階では、少量から試すことを心がけたい。焦って大量に塗布しても効果が劇的に上がるわけではなく、むしろ除去が大変になるだけである。少量でも十分効果がある薬剤なので、「足りなければ追加」くらいの気持ちで適量を見極めると良い。また、塗布後に急いで拭き取らずしっかり作用させる時間を取ることもポイントだ。わずか数秒で慌てて除去すると完全な止血に至らない場合があるため、余裕が許すなら1分程度は置くようにする。忙しい診療中ではつい急ぎがちだが、結果的に止血が確実になりトータルの時間短縮につながる。
次に術式上の工夫として、機械的止血と併用する発想も有効である。たとえば支台歯形成時に歯肉縁を傷つけてしまったとき、細かい出血が出るなら細い圧排用綿糸を挿入しつつ、その上からTDゼット液をしみ込ませておくと物理圧排と薬効止血の相乗効果が得られる。ゼリータイプの場合は、綿糸よりもむしろ直接綿球で圧迫止血する場面に向いているため、クラウンブリッジの印象前には液状、抜歯後や小手術後にはゼリーといった具合に場面ごとの適材適所を意識すると良い。現場のスタッフとも連携し、術者が「止血剤を」と声を掛ければすぐに適切な形で準備できるよう、あらかじめ段取りを共有しておくことも大切である。
患者説明のポイントとしては、術後に患者が口の中に違和感を覚えた場合に備え「傷口にお薬を塗って止血しています。少し味がしたりしびれる感じがあるかもしれませんが心配は無用である」と一言伝えておくと良い。特にゼリーの甘い風味ゆえに子供が舐めたがる可能性もあるが、飲み込まないよう見守る必要がある。処置後に患者自身でうがいをさせる場合も、軽く吐き出す程度に留め、強いうがいでせっかくできた血餅が取れてしまわないよう注意する。止血が確認できた時点で、余計な薬剤は撤去しつつ血餅は維持するというバランスが重要である。
最後に、せっかく導入したのに「使いこなせない」パターンとしてありがちなのは、存在を忘れてしまうことである。日常的な診療のトラブル対応として導入したものの、忙しいと旧来のガーゼ圧迫で済ませてしまい、棚に眠っていたという声も耳にする。これを避けるには、あらかじめ使用シーンを想定して院内でロールプレイしておくのも一つの手段である。例えば「○○の処置中に出血したらゼリーを使う」とスタッフ全員でシミュレーションし、実際のトレーやユニットに配置場所を決めておく。習慣化することで初めて真価を発揮するツールであることを念頭に置きたい。
適応症と使用を控えるべきケース
上述の通り、歯科用TDゼット・ゼリーの適応となるのはあくまで口腔粘膜の小出血である。歯肉や口腔粘膜からの少量出血であれば、ほぼ全般に使用できると考えて良い。具体例としては、スケーリング中に生じた歯肉の出血、外科用の切開創縁からのにじみ出る血、義歯調整時に誤って傷つけた頬粘膜からの出血、また小帯切除後の細かな出血など、多くの場面で応用可能である。小児歯科においても、乳歯抜去時やフッ素塗布で刺激が強かった際の歯肉出血など、子供でも使いやすいため活躍する場面は多いだろう。
反面、適さないケースも心得ておく必要がある。まず大量の出血や動脈性の出血には本剤だけで対処しようとしてはならない。例えば、大臼歯の抜歯後に予想以上の出血があった場合や、深い切開により動脈性の出血がある場合には、速やかに縫合や圧迫止血を施すことが第一であり、こうしたケースでゼリーを併用しても焼け石に水となる可能性が高い。また、歯の髄出血(露髄時の出血)や歯周ポケットの著しい出血など、歯肉や粘膜以外の組織からの出血も適応外である。髄の止血には通常硫酸第二鉄系の専用薬や水酸化カルシウムが用いられるし、広範囲な歯周処置後の出血はパック等で覆うほうが現実的である。
患者背景にも注意したい。リドカイン過敏症の患者には本剤を使用できない。極めて稀ではあるが、歯科麻酔でアレルギーを起こした既往があるような患者では禁忌となる。また、妊娠中や授乳中の患者にも必要最低限にとどめる配慮が求められる(局所使用でほとんど問題ないとは考えられるが、念のための注意である)。使用後に患者が強いうがいをして薬剤を飲み込んでしまうと、リドカインやアルミニウム塩が多少なりとも体内に入ることになるため、特に小児では飲み込ませない対応が望ましい。
他のアプローチが現実的な状況では、無理に本剤に頼らない判断も大切だ。例えば、明らかに縫合が必要な傷口であれば最初から糸で縛った方が確実であるし、凝固障害のある患者の出血であれば関係医師と相談の上でトラネキサム酸の活用や全身管理が必要となる場合もある。TDゼット・ゼリーはあくまで対症療法の補助ツールであり、止血の基本である圧迫・縫合を置き換える万能薬ではないことを念頭に置いておくべきである。
医院タイプ別の導入判断ポイント
歯科医院にも様々な診療スタイルがあり、本製品の価値は医院の方針や患者層によって変わりうる。いくつか典型的なタイプ別に、導入判断のポイントを考えてみよう。
保険診療が中心で効率重視の医院の場合
日々多くの患者をさばくスタイルの一般歯科医院では、治療の効率化が何より重要である。このような医院にとってTDゼット・ゼリーは、細かなタイムロスを削減し生産性を上げる頼もしい助っ人となる。保険診療中心では処置に使う薬剤コストは診療報酬に組み込まれてしまうため、費用対効果をシビアに考える必要があるが、本剤のコストは一処置あたり数十円程度と微々たるものである。それでいて、たとえ5分の短縮でも積もれば診療枠に余裕が生まれ、1日の患者回転率向上につながるなら導入しない手はないだろう。特に小児や高齢者の患者が多い医院では、処置中や処置後の出血トラブルを減らすことが患者満足度の維持にも直結する。効率とサービス品質の両面から、保険メインのクリニックでも十分採用価値がある。
自費診療を主体としクオリティ重視の医院の場合
自費治療中心で高付加価値の診療を提供している医院では、細部の品質管理が経営の要となる。このようなクリニックにとって、TDゼット・ゼリーは治療クオリティを守る保険のような存在である。わずかな出血であっても、印象の精度や接着操作の成功率に影響しかねないため、事前に潰せるリスクは全て潰しておきたいところだ。本剤を備えておけば、想定外の出血にも即座に対応でき、最適なタイミングで処置を進めることができる。結果として、補綴物の適合精度が上がり、患者にもベストな治療結果を提供できるという形でリターンが返ってくる。自費診療では1件あたりの利益が大きい反面、トラブル一つで失う信頼や再制作コストも大きい。そう考えれば、数千円の投資でリスク低減が図れる本剤は、クオリティ追求型の医院にとって理に適ったアイテムと言える。患者に対しても「丁寧な処置をしてくれる医院だ」という印象づけにつながり、ブランド価値を高める一助ともなるだろう。
口腔外科処置・インプラントが中心の医院の場合
主に外科的な処置やインプラント手術を数多く手がける医院では、大きな出血への対応力が求められるため、縫合や止血ガーゼ、凝固剤など様々な止血手段が既に用意されていることだろう。その中でTDゼット・ゼリーが果たす役割は限定的かもしれない。骨に及ぶ手術の出血は本剤では太刀打ちできない場合が多く、基本的には外科的手技がメインとなるからである。しかし、術後のちょっとした粘膜の出血箇所に塗布しておくといったきめ細かな止血ケアには依然有用である。大きな処置後でも、出血点を一通り抑えた最後の仕上げとして、微細な出血を残さないようゼリーを塗っておくことで、術後の安静時間短縮や患者の不快感軽減に役立つかもしれない。外科処置メインの医院では出番は限定的になるものの、値段も高くなく常備しておいて損はない。むしろ一般診療も併設している場合には、日常治療で役立つ場面が多々あるため、外科専門の医院であっても導入しておけば他の一般歯科スタッフが有効に活用できるだろう。
よくある質問
Q. 抜歯後の止血にも使用できるか?
A. 歯科用TDゼット・ゼリーは小出血に適した止血剤である。したがって、乳歯や小さな永久歯の抜歯後など少量の出血には有効である。ただし、大きな抜歯創で出血量が多い場合には、本剤だけでなくガーゼ圧迫や縫合など基本的な止血処置を優先すべきである。本剤はあくまで補助的に用いるものと考えるのが良い。
Q. ゼリーが残っていると接着や印象に悪影響はないか?
A. ゼリー状で粘着性があるため、残留したままだと接着面に干渉したり、印象材と混ざってしまう恐れがある。実際、メーカーからもゼリーを使用した後は水洗やエアで十分に除去するよう推奨されている。もし歯冠修復の場面で止血剤を使う必要が生じた場合は、より洗浄しやすい液状タイプを使う選択肢も検討すると良い。いずれにせよ、止血後は薬剤を残さない配慮が望ましい。
Q. 副作用や禁忌など安全面の注意点は?
A. 主成分が局所収れん剤であるため適量を守れば全身への影響はほぼ無いが、添加されたリドカインによりごく稀にアレルギーやショック反応が起こる可能性が報告されている。実際の副作用発生率は1%未満と低いものの、ゼリー塗布後に顔色不良や呼吸異常など明らかな異変が見られた場合は速やかに使用を中止し、必要なら救急対応を取る必要がある。また、リドカイン過敏症と判明している患者には使用しない。塩化アルミニウムによる刺激で、一部で一過性の歯肉の発赤や軽度の歯肉退縮が起こった例も報告されているが、いずれも頻度は非常に少ない。適切な範囲で使う限り、安全性は高い薬剤と言える。
Q. 小児や妊娠中の患者にも使用できますか?
A. 小児に対してはむしろ甘味と香りが付加されている分、使いやすいよう配慮された製品である。実際に小児の乳歯抜去時などにも多く使われており、有効性・安全性ともに確認されている。一方、妊娠中や授乳中の患者への使用は禁忌ではないが、必要最低限に留めることが望ましいとされる。これは薬剤中のリドカインがごく微量とはいえ全身吸収される可能性があるためで、リスクは極めて低いものの念のための注意である。処置上どうしても必要な場合は短時間の局所使用にとどめ、使用後は速やかにうがい・吸引で除去するようにすれば問題ないだろう。
Q. 保管方法や使用期限について注意すべきことは?
A. 本剤は室温保存で安定するが、高温になる場所や直射日光の当たる環境は避けるのが望ましい。また、劇薬であるため施錠可能な薬品庫に保管することが法規上求められる。使用期限は製造から約3年であるが、開封後はなるべく早めに使い切ることが推奨される。チューブ容器は繰り返し使用するため、開封後に先端が汚染されないよう注意し、使用後はキャップをしっかり閉めて乾燥や揮発を防ぐことも大切である。定期的に在庫をチェックし、期限切れが近いものは早めに交換することで、いざという時に効果が十分発揮できる状態を保っておくと良い。