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智歯抜歯時のドライソケットに対する止血剤「テルプラグ」の有用性について

智歯抜歯時のドライソケットに対する止血剤「テルプラグ」の有用性について

最終更新日

下顎の親知らずを抜歯した数日後、患者から夜間に激しい痛みの訴えがあり、鎮痛薬も効かないという緊急連絡を受けた経験はないだろうか。これは典型的なドライソケット(抜歯後歯槽骨炎)による疼痛である。ドライソケットは抜歯窩の血餅が何らかの原因で失われ骨が露出することで発生し、通常術後2〜3日目に突然の激痛として表れる。一般的な抜歯全体の発生率は数%程度だが、特に下顎智歯(親知らず)の難抜歯では10〜20%前後に達するとの報告もあり、喫煙者や経口避妊薬の使用者で頻度が高いことが知られている。術後の痛みが1〜2日で治まる通常経過と異なり、ドライソケットになると疼痛はしばしば1〜2週間以上持続し、自然治癒を待つ間も強い鎮痛管理が必要となる。ある智歯抜歯専門クリニックの報告では、智歯抜歯症例の約1割が術後1週間たっても鎮痛剤を要する疼痛に見舞われ、その多くにドライソケットの関与が示唆されている。このような偶発症は患者に大きな負担を強いるだけでなく、術後の緊急診療や追加処置によって医院のスケジュール進行にも影響を及ぼす。また近年では口コミが医院経営を左右しかねず、「あの医院で親知らずを抜いたらひどく痛かった」といった評価が広まれば信頼低下にも直結する。抜歯後の疼痛と治癒不全をいかに抑え、患者満足度と医院の信用を守るかが、臨床と経営の両面で重要な課題となっている。

こうした背景から、親知らず抜歯後のドライソケットを予防する一手段として、抜歯窩に充填する止血保護材「テルプラグ」に注目が集まっている。テルプラグは吸収性のコラーゲンスポンジ製剤で、止血と創部保護を目的に開発された材料である。本記事では、テルプラグの臨床的有用性と運用上のポイントを客観的エビデンスに基づき解説し、診療現場での意思決定を支援する。臨床面での疼痛・偶発症対策と、経営面での効率・収益への影響の双方を視野に入れ、明日から実践できる知見を提供する。

要点の早見表

項目ポイント
臨床効果抜歯窩内で血液を吸収・保持して血餅を安定化させ、創面を物理的に保護する。これによりドライソケット発生率の低減や術後疼痛の軽減、創傷治癒促進が期待される。
適応症例下顎水平埋伏智歯の抜歯などドライソケット高リスクの症例で推奨される。特に喫煙者や難抜歯症例では積極的に検討される。全ての抜歯に必須ではないが、疼痛リスク低減を図りたい場合に有用。
禁忌・注意抜歯創に感染や壊死組織が残存する場合は使用に注意する(異物が細菌増殖の足場となり得るため)。コラーゲンアレルギーが疑われる患者では使用を避ける。完全な予防効果を保証するものではない点も留意する。
使用方法抜歯操作完了後、創内を清掃・止血した上で所定サイズのテルプラグを抜歯窩に填入する。必要に応じて縫合し安定させる。テルプラグは吸収性のため抜去の必要はなく、自然に肉芽組織に置換される。
患者説明保険適用外の材料であり、使用する場合は事前に患者へ費用負担を含め説明・同意を得る。異物感があっても自然に吸収されること、絶対的な予防ではないことを伝え、術後は創部を弄らないよう指導する。
費用・算定保険算定はできず自費扱いとなる。材料費は1歯あたり約3,000円前後(サイズにより変動)で、患者への追加請求または医院負担となる。混合診療とならぬよう提供方法に配慮が必要。
時間・効率挿入と止血処置にかかる時間は数分程度と少なく、術中の負担増は軽微。ドライソケット発生を予防できれば、術後の緊急処置や通院回数が減り、結果的に効率化につながる。
経営面術後トラブル減少により追加処置やクレーム対応の負担が軽減され、患者満足度向上による評判改善も期待できる。一方で材料コストや保険外対応の手間が発生するため、症例数と効果を踏まえた導入判断が求められる。

理解を深めるための軸

テルプラグ導入の是非を考えるには、臨床面と経営面の二つの軸から検討する必要がある。まず臨床の軸から見ると、抜歯後の疼痛と合併症を抑制することは患者のQOL向上に直結し、安心して術後経過を送れることで歯科医への信頼も高まる。ドライソケットのような強い痛みが生じれば、患者は食事や日常生活にも支障を来し、治癒遅延により再処置や投薬も増える。術後の痛みを最小限にする処置を講じておくことは、長期的に見れば追加処置そのものを減らし、患者の身体的・心理的負担軽減につながる。テルプラグは創部を保護し血餅を安定化させることで、臨床的にはこうした疼痛や治癒不全リスクを低減する手段となり得る。

一方で経営の軸から考えると、追加材料の使用にはコスト負担や手技の習熟といった要素が絡む。1症例あたり数千円とはいえ塵も積もれば経営コストとなり、また保険診療内で扱えない煩雑さもある。しかし、経営面の成果は単純な目先の収支だけでは測れない。術後トラブルが減少すれば、緊急対応に割かれるチェアタイムの削減やスタッフの負担軽減、何より患者からの信頼獲得によるリピートや紹介増加といった波及効果が期待できる。言い換えれば、臨床面での良好な結果(痛みの少ない円滑な治癒)は、そのまま医院経営の健全性(効率的な運営と評判向上)に跳ね返ってくる。逆に、材料コストを惜しんでドライソケット頻発によるクレーム対応に追われては本末転倒である。臨床的有益性と経営的合理性のバランスをどこで取るかが重要であり、そのためには両軸での客観的な評価と戦略が必要となる。

代表的な適応症と禁忌の整理

テルプラグは基本的には「抜歯創用保護材」として、抜歯後の創面保護が必要な場面であれば広く利用できる。特に有用なのは、ドライソケットのリスクが高い難症例である。代表的なのは下顎の水平埋伏智歯抜歯で、骨削除を伴う外科的抜歯では術後に骨が露出しやすいため適応性が高い。また喫煙習慣がある患者、過去にドライソケットを起こした既往のある患者、全身疾患により創傷治癒が遅延しやすい患者(糖尿病やステロイド服用中など)にも積極的に検討される。近年の症例報告では、顎骨壊死予防の観点からビスフォスフォネート系薬剤服用者の抜歯後にテルプラグを用いて骨露出を抑えた例や、重度貧血患者で創傷治癒促進を図った例も報告されており、リスクの高い患者ほど導入メリットは大きいと考えられる。ただし通常リスクが低い単純抜歯(例:上顎の埋伏していない親知らずや小臼歯の抜歯)では、創傷が順調に治癒する可能性が高く必ずしも使用の必要はない。術前評価で骨の露出範囲や出血傾向を予測し、必要性をケースバイケースで判断するとよい。

一方、使用を控えるべきケースや注意点も存在する。もっとも重要なのは感染リスクへの配慮である。抜歯窩に感染性の残存組織(嚢胞上皮や膿瘍、壊死骨片など)がある状態でテルプラグを詰めてしまうと、コラーゲンスポンジが細菌の温床となり感染を助長する恐れがある。従って、感染抜歯や炎症を伴う親知らず周囲炎の抜歯では、十分なデブライドマン(掻爬と洗浄)を行って感染源を除去してから使用すべきであり、感染源の除去が不確実な場合には填入しない判断も必要である。またテルプラグ自体は抗菌剤や鎮痛成分を含む薬剤ではないため、すでにドライソケットを発症してしまった状態を治療する用途には適さない。さらに稀ではあるが牛由来コラーゲンに対するアレルギーや過敏症の可能性がゼロではないため、既往に皮膚コラーゲン製剤などでのアレルギーが疑われる患者では使用を見合わせる。加えて、患者への事前説明無しに勝手に使用するとトラブルになりかねない点にも注意が必要である(費用や異物感については後述)。テルプラグを万能と考え無闇に適応を拡大するのではなく、高リスク症例に狙いを定めて使用し、不要な場合は用いない選択も重要である。

標準的なワークフローと品質確保の要点

テルプラグを用いる場合の基本的な処置手順は次の通りである。親知らずの抜歯操作を終えたら、まず抜歯窩内の汚染物を可能な限り除去し、必要に応じて掻爬と生理食塩水洗浄を行う。ただし過度に洗浄しすぎて血液凝塊を全て洗い流さないように注意する。出血が少ない場合は骨表面を軽く刺激して出血を促し、創内が適度に湿潤・充血した状態に整える。次に滅菌包装からテルプラグ本体を取り出し、抜歯窩のサイズに合ったものを選択して創内に填入する。下顎大臼歯部の場合はSサイズまたは新設計のfitサイズ(テーパー形状により抜歯窩上部で密着しやすい)が用いられることが多い。スポンジは無菌鉗子で把持し、露出した骨面を覆うように奥まで挿入する。深部まで挿入した後、創口付近でスポンジがやや盛り上がる程度に充填できれば適切である。必要であれば過剰な突出部を滅菌鋏でトリミングする。基本的には創内に収まっていれば無理に完全閉鎖する必要はなく、抜歯窩が大きい場合はテルプラグを填入後に創縁を数針縫合して安定させる。逆に比較的骨削除が少ないケースでは無縫合でもスポンジが安定することが多い。いずれの場合も、術者が適切と思う方法で止血と固定を図り処置を終える。テルプラグ自体は自然吸収性であり、術後に患者が来院して除去する必要はない。そのまま血餅と一体化して肉芽組織へ置換され、数週間以内に体内に吸収される。

確実に効果を発揮させるための品質管理上のポイントも押さえておく。まず、填入前に感染源や骨片を十分に除去し、出血を確保しておくことが大前提である。血液が全くない乾いた状態ではスポンジが機能しないため、必要に応じて掻爬や穿通で点状出血を誘発する。また、スポンジの圧入具合についてはエビデンスが乏しく術者の裁量に委ねられているのが現状である。強く押し込みすぎると血餅まで圧殺してしまい逆効果となる可能性があるため、あくまで軟らかく留まる程度の圧で填入するのが望ましい。逆に浅すぎるとすぐ脱落してしまうため、創底までしっかり到達させる。複数個を重ねて入れる必要は通常なく、1創に1個で十分な容量がある。万が一途中で無菌操作を失敗した場合(床に落とすなど)は新しいものと交換する。製品は高度管理医療機器に分類され滅菌状態で提供されるため、取り扱いは無菌操作を徹底し院内感染のリスクを高めないよう留意する。なお、テルプラグ挿入後に創部へ軟膏やパッキング材(ヨウ素ガーゼ等)を併用する必要はない。術後は通常通りガーゼ圧迫止血を短時間行い、出血が収まっていることを確認して終了する。最後にカルテに使用したことを記録し、必要であれば患者にテルプラグ挿入済である旨を伝えておく。術後1週間前後の経過観察時には、抜歯窩が順調に肉芽化していることを確認する。

安全管理と説明の実務

テルプラグ使用に伴う安全上のリスクは極めて低いと考えられる。材料そのものは高い生体適合性を持つ精製コラーゲンスポンジであり、体内で分解吸収され無害化する。牛由来である点に関しても、アテロコラーゲン加工により抗原性をほとんど除去しているため免疫反応は起こりにくく、原料牛のBSEリスクも排除されている。実際、ある口腔外科専門クリニックの報告ではテルプラグ使用例と非使用例で術後感染の頻度に有意差はなく、同院の智歯抜歯後感染率は総じて1%以下とされている。要は、術前術後の基本的な無菌操作と感染源除去が確実であれば、テルプラグが原因で新たな感染症リスクが高まる可能性は極めて小さい。一方で、充填したスポンジが早期に脱落した場合には再び骨が露出する可能性がある。そのため術者は術後の創部安静が保たれるよう適切に縫合や圧迫を施し、患者にも協力してもらう必要がある。仮に術後も疼痛が長引く場合には、無理に剥離せず通常のドライソケット処置(洗浄と鎮痛対策、必要に応じ鎮痛薬や抗菌薬投与)を行い経過を追う。テルプラグそのものは数週で自然消失するため、異物が遺残して問題を起こす心配もない。

患者への説明・同意のプロセスも安全管理の一環である。まず術前カウンセリング時に、当該抜歯でドライソケットなど術後合併症のリスクがあること、その予防策としてテルプラグという自費材料を使用できることを説明する。効果として術後の痛みや治癒を改善する可能性がある旨を伝えるが、「必ず防げる」「絶対に痛くならない」などの断定的な表現は避ける(医療広告ガイドライン上も問題となり得る)。費用が発生することを明示し、患者の同意を文書またはカルテ記載で残しておく。術後には、抜歯窩に白色〜黄褐色のスポンジが入っていること、それは数週間で溶けるものであり決して自分で触ったり取ったりしないよう指導する。強いうがいや舌での探り、喫煙など血餅剥離の原因となる行為を慎むよう通常以上に念入りに説明するのもポイントである。万一痛みや出血がぶり返した場合は早めに受診するよう促す。テルプラグを使用しなかった場合との比較も含め、術後経過や痛みの程度について患者からフィードバックを得ることも有用である。患者との十分なコミュニケーションによって信頼関係を維持し、材料費に見合う価値があったと感じてもらえるよう努めることが、安全かつ円滑な運用につながる。

費用と収益構造の考え方

テルプラグの導入にあたり、費用対効果の検討は欠かせない。製品の価格はサイズによって異なるが、歯科医院の仕入れベースで1個あたり約1,000〜3,000円程度である(例えばSサイズ10個入で15,000円前後)。一般的に患者に提供する場合は1部位あたり3,000円程度の自費料金とする医院が多いが、この金額設定には各院の判断が反映される。保険診療の抜歯は比較的低額な点数であり、例えば下顎智歯の難抜歯でも算定できる処置料は数千円規模である。そのため、医院がテルプラグ代を全て負担すると処置の採算が悪化する可能性がある。一方で患者に全額を請求すると費用面のハードルが上がり、導入数が伸びない懸念もある。現場では「患者希望によるオプション処置」という位置づけで自費算定し、患者に費用負担してもらうケースが多い。保険診療と自費材料の併用(混合診療)は原則禁止ではあるが、実態としては術後ケア向上のためのオプション提供というグレーゾーンで黙認されているのが現状である。トラブル回避のため、必ず事前に同意を取り、明細書にも自費分として材料費を分けて記載するなど透明性を担保することが望ましい。患者視点では3,000円程度であれば「痛みや腫れが減るなら安い」と捉えるケースも多く、費用対効果に納得した上で承諾してもらえることが多い。

経営的な収支バランスを考えると、テルプラグ使用1回あたりのコスト数千円は、ドライソケット発生時に生じる無償対応(追加の診察や処置、投薬など)の手間や、それによる他の患者の機会損失と比較して大きな負担ではない。むしろ、術後トラブルが減ることでリカバリー対応に追われる時間が削減され、有効にチェアタイムを活用できるといった副次的な効率化メリットがある。さらに患者満足度の向上によって将来的な来院頻度や紹介患者の増加といった収益面でのプラス効果も期待できる。口コミサイト等で「親知らずを抜いた後も腫れや痛みが少なかった」と評価されれば、それ自体が医院のマーケティング価値となり、新患獲得につながる可能性もある。以上より、テルプラグ導入による直接的な収支への影響は軽微かつコントロール可能であり、それ以上に中長期的な無形のリターンが見込める施策と位置付けられる。重要なのは、医院の症例数や患者ニーズに応じて提供方法(全症例に標準提供するのか、高リスク症例に限定するのか、患者選択制にするのか)と費用負担の方針を決め、スタッフにも周知して統一した運用をすることである。

よくある失敗パターンと回避策

テルプラグ導入において陥りがちな失敗パターンはいくつか考えられる。第一に、材料への過信によって基本的な外科処置の丁寧さがおろそかになるケースである。例えば「後でスポンジで覆えばいい」と過度に骨を削って抜歯したり、創面洗浄や止血を疎かにすると、どんなにテルプラグを入れても疼痛や腫脹は大きくなってしまう。第二に、填入手技の不備による失敗である。スポンジの奥への入れ込みが不十分で術後すぐ脱落してしまったり、逆に押し込みすぎて血餅を破壊してしまったりすると、期待した効果が得られない。現状では明確なプロトコルがないため、術者ごとに手探りで使用しており圧のかけ方や縫合方法のばらつきが起こりやすいが、これが結果の不安定さに繋がる恐れがある。第三に、患者への説明不足から誤解や不満を招くケースである。術後に患者がスポンジの存在を知らず「傷に白い物が詰まっている」「膿ではないか」と不安になったり、自費負担したのに結局痛みが出た場合に「無駄だった」と感じたりすると、クレームや信頼低下に直結する。第四に、運用面で極端なスタンスによる失敗もある。たとえば費用節約のあまり本来適応すべき症例にも使わずドライソケットを頻発させてしまったり、その逆に全例に漫然と使用してコストばかりかさんでいるような場合である。

これらの失敗を回避するには、各段階での注意と改善が求められる。まず術式の基本に忠実であることは大前提で、低侵襲に抜歯し適切に止血した上でテルプラグはあくまで補助として用いるという姿勢を忘れない(本材料はあくまで創部保護材であり、抜歯そのものを容易にするものではない)。次に、メーカー資料や先行事例を参考にしつつ自分なりの安定した填入方法を確立することが重要である。スポンジは深部まで入れて軽く圧接する、縫合する場合は糸で過度に圧迫しない、といった基本を踏まえ、何例か経験を積んでノウハウを蓄積すると良い。患者説明については前述の通り事前と事後に分けて丁寧に行い、疑問や不安を残さない。特に「必ず痛みを防げるわけではない」点は強調し、結果が芳しくなかった場合でも患者が納得できるようにしておく。また費用に見合う価値を患者が得られるよう、術後フォローまで責任を持って対応する。運用面では、自院の抜歯件数やドライソケット発生状況を踏まえて、適応症例の選択基準と使用頻度を見直す。導入当初は高リスク症例に絞って使用し、効果を実感できれば徐々に拡大するなど段階的なアプローチも有効である。重要なのは、漫然と惰性的に使い続けたり逆に食わず嫌いで敬遠し続けたりせず、定期的に結果を評価して軌道修正を図る姿勢である。そうすることで、失敗を最小化しつつテルプラグ活用のメリットを最大限享受できるだろう。

導入判断のロードマップ

テルプラグを導入するか否かの判断は、段階的なプロセスを踏むことでより確かなものとなる。まず自院での親知らず抜歯の件数とドライソケット発症状況を把握する。過去半年〜1年でどの程度の症例があり、何件に術後疼痛や治癒不全が発生したか、対応にどれほどの負担を要したかを振り返る。ドライソケット発生率が低く問題になっていないのであれば無理に導入する必要はないかもしれない。一方、発生例が散見され対策を講じたいと思うのであれば、次にテルプラグの情報収集と社内検討に移る。メーカー提供の資料や論文を読み、導入コストや見込まれる効果を概算する。院長や担当スタッフ間で、患者メリットと費用負担のバランスについて意見交換し、クリニックとして採用する方針に合致するかを議論する。この時点で不明点があればメーカーの担当者に問い合わせ、詳細なデータ提供やデモ依頼をしてもよい。必要に応じて少量を試験的に購入し、スタッフ間で現物を確認しておく。

導入を決めた場合は、まず適用範囲と提供方法を計画する。例えば「下顎の水平埋伏智歯抜歯には原則使用」「喫煙者やハイリスク患者には強く推奨」「患者希望があれば上顎にも使用」といった基準を設定する。また費用請求するか医院サービスとするか、請求する場合はいくらに設定するかも決め、同意取得のフローを整備する。スタッフには事前に十分説明し、受付やアシスタントにも患者への案内方法を共有する。最初の数症例は結果を注意深く観察し、患者の経過ヒアリングや術者の所感を記録する。ドライソケットの発生が実際に減少したか、疼痛の程度が改善したか、患者満足度はどうかなどを評価し、必要なら運用基準や説明内容を修正する。一方、導入を見送る判断をした場合でも、親知らず抜歯後の疼痛管理を軽視してよいわけではない。テルプラグ以外にも、術後の適切な処置(十分な洗浄や必要に応じた抗生剤投与)、患者指導の徹底(うがい・喫煙指導など)、万一ドライソケットになった際に迅速に対処できる準備(鎮痛剤やアルボギールの備蓄など)を行い、患者に最良のケアを提供するという姿勢が重要である。いずれにせよ、定期的に院内で術後合併症の発生状況をレビューし、必要なら再度テルプラグ導入を検討するなど柔軟に戦略をアップデートしていくことが求められる。

参考文献

  1. 畠山一朗:「テルプラグで抜歯窩をまもる」『Dental Diamond』2024年9月号 pp.42-45.
  2. 白川純平:「テルプラグで骨はできるか」『Dental Diamond』2024年9月号 pp.50-54.
  3. MSDマニュアル プロフェッショナル版:「抜歯後歯槽骨炎(ドライソケット)」2022年改訂 (日本語版).
  4. GC社バイオマテリアル事業部:「テルプラグ® 製品カタログ」2023年(株式会社GC公式サイト).
  5. 仁優会たけした歯科:「インプラント治療のご案内(テルプラグ説明)」医院公式サイト(2025年閲覧).