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歯科止血剤「コラプラグ」と「テルプラグ」の違いとは?歯科医師向けに解説

歯科止血剤「コラプラグ」と「テルプラグ」の違いとは?歯科医師向けに解説

最終更新日

親知らずの抜歯後に、予想以上に出血が続いた経験はないだろうか。ガーゼを噛んで圧迫止血するだけでは血餅(血のかたまり)が不安定で、患者から「痛みが引かない」「穴に食べ物が詰まりそうだ」と不安の声を受けたことがある歯科医師も多いはずである。抜歯創の治癒を早める工夫として登場したのが、生体吸収性のコラーゲン由来スポンジを用いた抜歯窩充填材である。その代表格が「コラプラグ」と「テルプラグ」である。どちらも抜歯後の止血と治癒促進を目的に開発された材料だが、具体的に何が違うのか。臨床現場で迷ったある開業歯科医のケースを通じ、その特徴と使い分けのポイントを明らかにする。患者の治癒を助けつつ医院経営にもプラスになる戦略を探っていく。

要点の早見表

両製品の主要な違いを以下にまとめる。それぞれ素材や適応、費用面で特徴があり、臨床効果に大きな差はないものの運用には違いがある。

項目コラプラグテルプラグ
素材・由来精製コラーゲン(ウシ由来のアキレス腱や真皮)を酵素処理して得た吸収性アテロコラーゲンスポンジ。抗原性は低減されている。精製コラーゲン(由来はメーカー非公表、開発元経緯からブタ由来と推定)を用いたアテロコラーゲンスポンジ。コラーゲン繊維と熱処理コラーゲンを組み合わせた構造。抗原性が低い。
発売・開発元米国Integra社が開発(国内では海外製造医療機器として流通、発売は1990年代後半~2000年代に国内導入)。現在はZimVie社などを通じ提供。日本で開発(1998年発売)。オリンパステルモ社のバイオマテリアル技術を基に、ジーシー社が販売。国内臨床ニーズに合わせ改良が重ねられた国産品。
形状・サイズ円柱状のコラーゲンスポンジ。標準サイズは直径約1cm×長さ2cm(必要に応じて裁断可能)。類似製品に平坦な「コラコート」(膜状)や「コラテープ」(帯状)がある。ロケット弾様(円柱形)スポンジ。サイズは複数展開:SS・S・Mの径・長さ違い、および平坦で蓋のように使える「fit」タイプあり。小さな抜歯窩から大臼歯抜歯窩までフィットするバリエーションが用意されている。
止血効果高い止血能を有し、創面に直接適用すると通常2~5分で出血を制御できる。コラーゲン繊維が血小板凝集を促し速やかに血餅形成が始まる。同等の高い止血能を有する。抜歯と同時に填入すれば短時間で安定した血餅が形成される。加えて材料自体が血餅をしっかり保持する構造のため、凝血塊の脱落防止に優れる。
治癒促進効果創傷被覆材として創を保護し、血餅の安定化によって間接的に治癒を促進する。素材そのものに骨誘導能はないが、創傷治癒過程でコラーゲンが肉芽の足場となり組織修復を助ける。肉芽形成の足場となる組織再構築型材料として設計されており、歯肉の陥没防止や歯槽骨の吸収抑制効果が期待される。抜歯窩をしっかり充填し空隙を保つことで、新生骨形成に有利な環境を提供する。
吸収期間体内で酵素分解される吸収性材料であり、約10~14日でほぼ完全に吸収され消失する(創の大きさや状況により多少前後)。こちらも生体吸収性で抜歯窩内で徐々に分解・吸収される。製品設計上、血餅保持のため若干ゆっくり吸収される傾向があり、数週間から最長で2~3か月程度で自然消失する。
適応症・用途抜歯創の保護・止血(とくに即時の出血コントロール)を目的として使用。外科的処置後の清潔な創に限定して適用し、感染創には用いない。抜歯後の創面保護・治癒促進および歯槽提の形態維持を目的に充填する。同じく感染や膿瘍を伴う抜歯には使用を避ける。将来的なインプラント埋入を見据えた抜歯症例で推奨される。
使用時の操作必要に応じて大きさを調整し、抜歯窩に軽く圧接して填入する。軟らかく圧縮しやすいが、水分を含むとやや脆くなるためピンセット操作は丁寧に。通常は縫合せずガーゼ圧迫で定着させる。適切なサイズを選択し、抜歯窩全体に隙間なく充填する。柔軟だが弾力があり、押し込むと膨潤して創壁にフィットする。基本的に縫合は不要だが、大きな創ではクロス状の縫合で蓋をすると安定が良い。
患者へのメリット出血時間の短縮による疼痛・腫脹の軽減効果が期待できる。材料が傷口を覆うことで食物残渣の侵入防止やドライソケット予防にもつながる。上記メリットに加え、歯肉陥没が抑えられ審美性が高く保てる。抜歯後の骨量減少を最小限に留められるため、インプラントやブリッジ時の追加処置負担が減る可能性がある。
費用負担保険適用外(自費扱い)。原価は1個あたり数百~千円台だが、患者への提供価格は1個あたりおよそ2,000~5,000円程度で設定されることが多い。同じく保険適用外。サイズにより医院原価は異なるが、患者請求価格は小サイズで3,000円前後から、大サイズでは5,000~10,000円程度まで幅がある。インプラント目的での抜歯では治療計画に組み込みやすい。
入手性輸入品のため、扱い代理店経由で取り寄せる必要がある。在庫している歯科商店は限られるが、口腔外科向けカタログ等には掲載あり。国内メーカー製であり、一般的な歯科ディーラー経由で容易に入手可能。ジーシー社の営業やオンラインショップからも購入でき、トライアルセットなど新規導入支援策も展開されている。

理解を深めるための軸

両製品はいずれもコラーゲン系の吸収性止血材料であり、抜歯後の創部管理に新たな選択肢を提供している。臨床的な視点では「抜歯窩を血餅で満たし治癒を促進する」という共通ゴールがあり、その達成度合いに大きな差はない。一方で経営的な視点から見ると、採用コストや保険診療との兼ね合い、患者説明のしやすさといった点で違いが現れる。

まず臨床面の軸では、治癒アウトカムと周術期リスクに注目できる。例えばドライソケットの発生率低減や、抜歯後疼痛の緩和、将来的な骨量維持といった効果が得られるかがポイントである。従来のガーゼ圧迫やゼラチンスポンジ(一般的な吸収性止血剤:商品例「スポンゼル」など)では止血はできても骨や軟組織の再生を積極的に助けることは難しかった。コラプラグとテルプラグはコラーゲンが細胞侵入の足場となるため、肉芽組織の形成が早まる傾向が報告されている。またコラーゲンは軟組織に近い成分で生体親和性が高く、異物反応も起こりにくい。このような材料学的メリットが臨床アウトカムの向上につながるかが、導入を検討する軸の1つである。

一方、経営面の軸では費用対効果とコンプライアンスが重要となる。コラプラグ・テルプラグともに保険算定できない自費材料であり、使用すればその分のコストは医院か患者の負担となる。自由診療としての収益アップを見込んで積極的に提供する戦略もあれば、術後合併症リスク低減によるトラブル対応コスト削減や患者満足度向上を重視して、利益度外視でサービス提供する判断もあるだろう。混合診療(保険診療と自費診療の併用)の問題にも留意が必要で、抜歯自体を保険で行う場合に止血材のみ自費で提供するといった運用には慎重さが求められる。このように、臨床的有用性と経営的合理性のバランスをどう取るかが理解を深める上での両輪の軸となる。

代表的な適応と禁忌の整理

コラプラグとテルプラグはいずれも「抜歯創用保護材」として、清潔な抜歯窩に適応される材料である。代表的な適応ケースとしては、智歯抜歯や難抜歯後の広い骨欠損のある創部、また将来的にインプラント埋入を予定して骨の保存が望ましい症例が挙げられる。特にテルプラグは歯槽骨の吸収抑制効果が期待できることから、前歯部の抜歯即時インプラントが難しい場合のソケットプリザベーション(抜歯窩の保存的管理)用途にも適している。実際に、抜歯即時埋入を行わず数ヶ月治癒を待ってからインプラントを計画する際、テルプラグで骨のボリューム維持を図っておくことで後日の骨造成処置を省ける可能性がある。コラプラグも基本的には同様の場面で有用であり、止血と創面保護を主目的にあらゆる抜歯症例で汎用できる。とくに全身疾患で凝固能が低下している患者や、抜歯後に疼痛・腫脹を最小限に留めたい希望がある患者には、処置オプションとして説明する価値がある。

禁忌として明確に挙げられるのは、感染リスクの高い抜歯窩や汚染創である。急性炎症下で抜歯を行った部位や、膿瘍を伴う傷口にこれらコラーゲンスポンジを入れることは推奨されない。材料が細菌の温床になる可能性や、十分な血餅形成が得られず溶解してしまう恐れがあるためである。感染抜歯創では開放療法やドレナージの徹底が優先であり、コラーゲン填入材は状況が落ち着いてから改めて適用を検討する。また、止血不良の原因を除去できていない場合(例えば抜歯窩底に肉芽が残存し出血源となっているなど)に単に材料を詰めても十分な効果は得られない。抜歯窩への充填材はあくまで補助であり、適応とならない状況では使用を避ける判断が必要である。

さらに留意すべきは患者のアレルギー既往である。コラプラグ・テルプラグはいずれも動物由来(ウシやブタ由来)のコラーゲンを含むため、極めて稀ではあるがコラーゲンに対するアレルギー反応のリスクがゼロではない。過去にゼラチンやコラーゲン製剤でのアレルギー歴がある患者には使用を再考するか、慎重に皮内反応等を確認してからにすべきである。

標準的なワークフローと品質確保の要点

コラプラグおよびテルプラグの使用手順は概ね共通しており、基本的には抜歯手技の一環として施される。標準的なワークフローは以下のようになる。

まず抜歯操作を完了したら、抜歯窩内を十分に洗浄・掻爬し、不良肉芽や感染源となる組織を除去する。次に抜歯窩からの自発的な出血を確認する。骨壁からじわじわと出血し、窩洞が血液で満たされる状態を作ることが重要である。この段階で出血が乏しければ、コラプラグ/テルプラグを入れても血餅形成が不十分となるため、必要に応じてスクレイパー等で骨表面を新鮮化する。十分な出血を得たら、適切なサイズに切り出したコラーゲンプラグを抜歯窩に挿入する。材料は乾燥状態ではやや嵩高いが、血液を含むと柔軟になり窩壁に沿って適応する。無理に押し込み過ぎず、創面全体を覆うように軽く圧入するのがコツである。創が大きい場合、複数個を詰めたりシート状のコラーゲン膜(コラコート等)で蓋をすることもできる。填入後は滅菌ガーゼをあてて患者に数分間咬合圧をかけてもらい、材料と創壁を密着させる。この間にコラーゲンが血液を吸って膨潤し、安定した血餅様プラグが形成される。

通常、コラーゲンプラグを入れた場合は単純な圧迫止血のみで十分であり、追加の縫合は必須ではない。しかし、大きな抜歯創でプラグが露出面積広く不安定なときや、患者が舌で触れてしまいそうな場合には、クロスサッチュア(X縫合)などでプラグを押さえると安全である。テルプラグの「fit」タイプのように平坦な蓋材料を併用すれば縫合固定しやすい。いずれにせよ、縫合する際は過度な圧迫とならないよう注意する。プラグ自体に強く糸をかけると組織のような強度はないため切れてしまうことがある。必要最小限のホールドで留めるイメージである。

止血確認後、患者にはガーゼを撤去してもらい材料はそのまま残置することを説明する。この時点で創部は白色~淡赤色のゼリー状の物質で満たされているように見えるが、これが吸収性の薬剤であり無理に取らないよう指導する。術後の注意事項として、うがいは当日控えること、強い吸飲動作(ストロー吸引やうがい)は血餅脱落を招くため避けることを伝える。疼痛管理と感染予防のため、必要に応じて鎮痛薬や抗生物質の処方も行う。翌日以降の経過チェックでは、プラグが溶解吸収していく様子を観察する。通常1〜2週間で大部分が消失し、歯肉が肉芽で埋まりつつあるのが確認できる。完全に材料が見えなくなった後も、新生骨が充填されていくには数ヶ月要するため、インプラントを計画している場合は少なくとも2~3か月の治癒期間をみる。

品質確保の要点として、適切な保管と在庫管理も挙げられる。コラーゲン材料は高温多湿や直射日光を避け、指定の方法で保管する(多くは室温保管で問題ないが、開封後は清潔に取り扱う)。使用期限があるため在庫は使い切れる範囲で発注し、経年劣化品を使わないよう注意する。また、操作時の清潔操作は厳守し、無菌パックから出したプラグは直ちに使用する。万一術野に落として汚染した場合は廃棄し、新しいものと交換すること。高価な材料ではあるが、感染予防の観点で再利用は許されない。

安全管理と説明の実務

コラプラグ・テルプラグの使用においては、患者説明と同意取得が重要なプロセスである。まず材料が体内で自然に吸収され取り出し不要であることを説明し、術後に異物として残存しない安心感を与える。患者の中には「傷口に何か詰めたままで大丈夫か?」と不安を抱く者もいるため、「体に害のないコラーゲン製スポンジでできており、徐々に溶けて自分の組織に置き換わる」と平易な言葉で伝えるとよい。また動物由来材料である点についても、医療安全上は触れておくのが望ましい。「このお薬はゼラチンと同じように動物由来のタンパク質ですが、厳格に精製され安全が確認されたものです」と説明し、アレルギーの既往をさりげなく確認する。日本では動物由来製品の使用に関して患者への事前説明が推奨されているため、インフォームド・コンセントの一環としてこの情報提供は欠かさない。

術後の安全管理では、感染予防と疼痛管理に留意する。先述の通り適応症を守っていれば感染リスクは低いが、仮に術後に発熱や腫脹の増悪が見られた場合は、躊躇なく創を開放して排膿させるなどの処置に切り替える。コラーゲンプラグ自体が感染源となることは考えにくいが、感染環境下では速やかに分解してしまい効果が減弱するため、状態が悪化したときは一旦材料の存在に拘らず洗浄・除去を検討する。患者には術後数日間は強い痛みや腫れが増すようなら早めに受診するよう指導しておく。

ドライソケットの発生に関しては、プラグ使用によってかなり低減できるとの報告がある。血餅喪失が主因となる乾燥症(アルベオロジス)の予防策として、材料が物理的蓋となり保護する効果が大きい。ただし完全に防げるわけではなく、不適切な術後管理(患者がうがいし過ぎた等)があれば起こり得る。万一ドライソケットが発生した場合の対処は通常通りで、異物除去や洗浄の上、鎮痛処置を行う(コラプラグやテルプラグを発症後に追加で入れても鎮痛効果は期待できないため意味がない)。この点も患者説明時に「通常より治りが良いことが多いが、絶対ではない」旨を伝え、過度な期待を与えすぎないようにする。

また、医療広告ガイドライン上の留意点として、これら材料の効果効能を誇大に宣伝しないことが求められる。「劇的に骨が再生する」などと断言するのは適切ではない。あくまで「治癒を助ける補助材」であり、患者の治癒力を高める手助けをするものだと位置付ける表現に留める。院内説明用のパンフレットやホームページに掲載する際も、「痛みを軽減し治りを早める可能性がある最新素材」といったニュアンスで事実に即して紹介すると良いだろう。実際に使用した症例写真などを見せながら、患者自身が納得して選択できる環境を整えることが安全管理につながる。

費用と収益構造の考え方

コラプラグ・テルプラグの導入に際し、費用面の検討は避けて通れない。両者とも1症例あたり数千円の材料コストが発生し、これは保険診療の範囲ではカバーできない。したがって医院としては自費治療として患者に請求するか、サービスとして医院負担で提供するかの判断となる。ここでは、費用対効果をどう捉えるかの視点で考察する。

まず原価と価格設定であるが、仕入れ値はサイズや数量によって異なるものの、概ねコラプラグの方が若干安価である傾向がある。例えばコラプラグは1個あたり1,000円前後で仕入れ可能なケースがあるのに対し、テルプラグはサイズMでは1個あたり数千円に及ぶこともある。ただしこれは仕入先や数量ディスカウントにも左右されるため、一概には言えない。実際に患者に請求する価格は、クリニックごとに大きく異なる。ある医院では「抜歯後の保護材」として一律3,000円程度で提供し、別の医院ではインプラント前提の処置として10,000円近くの高額設定をしている例もある。自由診療ゆえに定価がないことから、地域の相場や患者の支払い意欲を考慮して適正な価格を設定する必要がある。

収益構造の観点では、この処置自体で大きな利益を得るというより、付加価値サービスとしての位置付けになることが多い。例えば抜歯1本あたり数千円の追加収入が見込めるが、それ以上に術後の経過良好による再診抑制(余分な消炎処置や投薬の回数減少)や、患者満足度向上による口コミ効果など間接的なメリットが期待できる。短期的収益だけでなく長期的な医院の評価向上をもたらす投資と捉えれば、十分に費用に見合うリターンがあると言える。実際、「抜歯後に特別な薬を入れてもらったおかげで楽だった」というポジティブな体験は患者の記憶に残り、医院の信頼醸成につながる可能性が高い。

一方で、注意すべきは混合診療の取り扱いである。保険診療内で抜歯を行った場合、本来は術後処置もすべて保険点数に含まれている。その中で患者に別料金を求める形でコラプラグ等を使用すると、混合診療と見なされかねないグレーゾーンである。この対応としては、あらかじめ患者に保険外のオプションとして明示し、同意を得た上で提供することが求められる。あるいは抜歯処置自体を自費扱いとして、最初から材料費込みのセット料金にする方法もある。いずれにせよ、請求の仕方を間違えると患者トラブルや監査上の問題になり得るため、経営者としてルールを把握しておく必要がある。具体的には、レセプト上は保険点数で算定しつつ別途材料費を徴収することは原則認められていない。そのため「患者希望により高機能材料を使用したため全額自費」として処理するか、患者に一筆もらっておくなどの工夫が考えられる。ただ、この辺りは地域の保険者の指導方針によっても異なる微妙な問題であり、事前に歯科医師会などに相談しておくと安心である。

外注・共同利用・導入の選択肢比較

抜歯後の処置としてコラプラグ・テルプラグを使うか否かは、医院ごとの方針によって分かれる。ここでは、他の選択肢も含め比較検討する。

まず、何も入れないという選択肢がある。これは伝統的に行われてきた方法で、抜歯後は自然血餅に任せて縫合やガーゼ圧迫のみで経過を見るものである。コストはゼロだが、前述したようにドライソケット発生や治癒遅延のリスクが相応にある。また患者心理として「穴がぽっかり空いたままで不安だ」という声も実際に多い。この方法は、特に問題が起きなければ最も簡便だが、万一合併症が起きた際には結果的に医院の負担(追加処置の手間や患者クレーム対応)が増える可能性がある。

次に、保険適用の止血剤を使用する方法。具体的には「スポンゼル」に代表される吸収性ゼラチンスポンジを抜歯窩に詰めるやり方である。これは歴史も古く保険点数上も包含されている標準的処置であり、実際多くの歯科医院が日常的に行っている。ゼラチンスポンジは止血効果こそ十分だが、材質的に柔らかく血餅保持力はコラーゲン材より劣る。また吸収に1か月以上かかるため、長期間創部に残留して二次的な不快感を訴える患者もいる(実際「抜歯した穴からゼラチンがドロドロ出てきて気持ち悪い」といった声も聞かれる)。治癒促進や骨形成への寄与もコラーゲンに比べ限定的と考えられるため、保険内で最低限の止血を図る手段と位置付けるのが適切である。一方、コラプラグ・テルプラグは自費にはなるが治癒や快適性の面でワンランク上のケアを提供できる。それぞれのメリット・デメリットを踏まえ、患者と相談して選択することが望ましい。

さらに、高度な選択肢として骨補填材やメンブレンを用いたソケットプリザベーションがある。これは抜歯窩にハイドロキシアパタイトやβ-TCP、あるいは自家骨などを充填し、コラーゲンメンブレンで蓋をして完全に骨造成を図る方法である。将来のインプラント埋入を強く見据える場合には有効だが、費用も手技の煩雑さも桁違いに大きくなる。骨材料とメンブレンで1ケース数万円以上、治癒に数ヶ月~半年といったスパンになるため、すべての症例で行う現実性は低い。むしろ「大きな骨欠損を伴うケース以外はコラーゲンプラグで十分対応可能」という考え方もある。テルプラグ開発者らの報告では、敢えて骨補填材を使わずテルプラグ単独で骨の自然治癒に任せた方が、感染リスクも低く短期間でインプラント埋入可能になるとされている。これは症例や術者の哲学によって異なるが、過剰な材料介入を避けてシンプルに治すという選択肢としてコラプラグ・テルプラグが位置づけられる面白い実践例である。

外注や共同利用という視点は大型機器においては検討事項だが、本件のような消耗品に関しては当てはまらない。強いて言えば、口腔外科専門医に抜歯自体を依頼するケースで、その術者がコラーゲン材を用いるかどうかは任せることになる。医院内で抜歯を完結するのであれば、自院で材料を揃えておく必要がある。導入に踏み切る際はまず少量を試してみるのが現実的で、メーカーやディーラーに相談すればサンプル提供やトライアルキットの案内を受けられる。小規模医院で在庫コストが気になる場合、必要な時だけ近隣から融通するという手も考えられるが、急な抜歯に対応できないリスクを考えると常備しておく方が望ましいだろう。

よくある失敗と回避策

コラプラグ・テルプラグの運用で陥りがちな失敗例も押さえておく。まず典型的なのは、患者への事前説明不足によるトラブルである。処置後に追加料金の説明をして初めて患者が驚き、不信感を抱くケースが散見される。これを避けるには、抜歯前の段階で「通常の処置では保険内でガーゼ等になりますが、より良く治す材料として○○円のものがあります」と選択肢を提示し、患者の選択同意を得てから施術することが鉄則である。また材料の効果について過度に保証してしまうのも禁物だ。「絶対に痛みません」「必ず骨がそのまま残ります」といった断言は避け、あくまで統計的に良い結果が期待できるという言い方に留めるべきである。そうしないと、万一思わしくない経過になったときに患者クレームに直結しやすい。

次に多い失敗は、材料の脱落や誤飲である。適切に押さえておけば滅多に起こらないが、特に上顎洞に近い上顎大臼歯抜歯窩で、縫合もせず収まりが浅いと、くしゃみや咳でプラグが飛び出すことがある。また術後患者が舌や指でいじってしまい外れてしまう例もある。脱落した場合、材料自体は無害なので仮に飲み込んでも問題はないが、創が露出することで本来の効果が得られなくなる。対策としては抜歯窩の形態に応じたサイズ選択と必要に応じた縫合固定である。テルプラグのサイズ展開を活かし、浅いソケットには小さいもの、深いソケットには長めのものを選ぶ。コラプラグしか手元にない場合も、長さを残して折りたたむように詰めれば飛び出しにくくなる。また術後の注意として「舌や指で触らないでください」と強調し、ガーゼを外す際もそっと取るよう指示することが大切だ。

他には、在庫切れによる機会損失もありがちな失敗だ。導入当初「必要なケースだけ使おう」と少数を購入したものの、いざという時に切らしていて使えなかったり、在庫が古くなり期限切れになってしまうことがある。解決策は単純で、在庫管理をルーチン化することである。月に一度は使用数をチェックし、残りが少なければ発注する。また期限もリスト化して把握し、切れそうならスタッフ間で周知して優先的に使う。多少余裕を持ってストックしておく方が、結局は患者満足や医院評価の向上に繋がると考えれば無駄にはならないはずである。

最後に、コスト意識ばかりが先行して治療判断を誤るケースにも触れておきたい。例えば経営上の理由で「保険診療なのだから一切追加材料は使わない」と決めつけ、必要な症例にも提供しないのは本末転倒である。逆に、自費収入が欲しいばかりに適応外の症例(感染創など)にまで使用すれば、予後不良となり信用を失う。重要なのは臨床上のメリットと経営上のメリットの両立であり、その症例にとって真に有益かを第一に考えつつ、医院として持続可能な範囲で活用していくバランス感覚である。患者のためになり、かつ医院経営のプラスになる形で活用できてこそ、コラプラグやテルプラグ導入の価値が最大化される。

導入判断のロードマップ

新たにコラプラグやテルプラグを導入するかどうか迷っている場合、以下のような段階的な判断プロセスが参考になる。

Step 1. 自院の抜歯症例のニーズ分析

まず、普段の抜歯の頻度と内容を洗い出す。月に何例程度の抜歯があり、そのうち難易度が高いケース(埋伏智歯など)はどのくらいか、術後の疼痛やドライソケット発生率はどうか。もし抜歯後のトラブル対応に時間を割くことが多かったり、患者アンケートで不満の声が聞かれるようであれば、プラグ導入による改善余地があると言える。また、近年インプラント治療を増やしたいと考えているなら、抜歯時点から骨保存に配慮するこの材料の意義は大きい。自院の患者ニーズと術後問題点を可視化し、導入で解決できそうな課題があるか整理する。

Step 2. 材料選択(コラプラグ or テルプラグ)の比較検討

次に、どちらの製品を採用するか決める。前述の違いを踏まえ、自院の重視ポイントに合致する方を選ぶとよい。例えば、「とにかくコストを抑えて気軽に使いたい」ならコラプラグが候補になるし、「インプラント前提で骨保存効果を患者に説明したい」ならテルプラグが向くかもしれない。サイズ展開の豊富さや入手経路も考慮する。ジーシーとの取引があるならテルプラグの方がスムーズに手配できるし、すでにコラプラグと同等品を他科で使った経験があるなら馴染みのあるコラプラグでもよい。臨床性能に大きな差はないため、現実的には供給面・費用面の条件で選択して問題ない。

Step 3. 試験的導入とプロトコル作成

実際に少量発注し、何症例か試してみる。スタッフ間で使用手順を共有し、最初は院長や経験豊富な歯科医師が中心となって扱う。数症例経験したら、術後経過のフィードバックをチームで行い、良かった点・改善点を話し合う。例えば「軟らかくて入れやすかった」「患者さんが全然痛みが出なかったと言っている」などポジティブな面と、「大臼歯部では少し足りない感じがした」「縫合しなかったら翌日外れていた」等の課題が出るだろう。これらを踏まえ、自院流の使用プロトコルを作成する。どのケースに必ず使うか(難抜歯では原則使用、など)、縫合する基準、患者説明のタイミングと文言、費用の請求方法(同意書や会計処理)などを具体化する。スタッフにも周知し、院内で標準化することでブレのない運用が可能になる。

Step 4. 患者コミュニケーションとマーケティング

導入を本格決定したら、患者への案内も開始する。院内掲示やホームページで、新しく取り入れた先進的な処置として紹介してもよい。「抜歯後の治りを良くするコラーゲン療法」など患者向けにわかりやすくキャッチコピーを付けるのも一案だ。ただし前述のとおり効果を誇張しないよう注意し、料金が発生することも明示する。カウンセリング時には症例写真や模型で「このように穴をふさぎます」と視覚的に示すと理解が早い。患者から質問が出たら、科学的エビデンスというより「世界中で使われていて当院でも取り入れました」「体に優しい材料で、安全性は確立されています」といった安心材料を伝える。マーケティングというと大袈裟だが、患者教育の一環と捉え、価値を納得してもらえるコミュニケーションを図る。

Step 5. ROI(投資利益)の検証

導入後しばらく経過したら、投資に見合った利益が得られているか検証する。ここで言う利益は単純な金銭だけでなく、患者満足度やスタッフの負担軽減も含めた広い意味で考える。具体的には、抜歯後の急患対応件数が減ったか、患者アンケートで好意的な意見が増えたか、紹介で来院する新患が増えたか、といった指標を見る。もちろん材料費に対する収支も確認し、極端な赤字になっていないかチェックする。仮に費用倒れのようであれば価格設定や提供頻度を見直す必要がある。一方で、経営指標には現れにくい長期的メリット(例えば「あの歯医者は抜歯が丁寧だ」という評判)が蓄積されている可能性もあるため、短期の損得勘定だけで判断しないよう留意する。総合的に見てプラスが大きいと判断できれば、そのまま継続採用し医院の強みの一つとして位置付ける。逆に、思ったほど効果を感じられなかった場合は一旦使用を縮小または停止し、必要性を再検討する柔軟さも必要だろう。