1D - 歯科医師/歯科技師/歯科衛生士のセミナー視聴サービスなら

モール

GC(ジーシー)のコンポジットレジン「エッセンシア」の評判や価格、使い方は?

GC(ジーシー)のコンポジットレジン「エッセンシア」の評判や価格、使い方は?

最終更新日

前歯の修復で隣の歯に合わせた色調再現に苦心した経験はないだろうか。複数のレジンを重ねても思うような透明感が出ず、患者から「少し歯の色が違う」と指摘されて冷や汗をかいた。これは多くの歯科医師が直面する課題である。同時に、忙しい診療の中で複雑なシェード選択や築盛手順に時間をかけられない現実もある。こうした臨床現場の悩みに応えるべく登場したのが、ジーシー(GC)の審美修復用コンポジットレジン「エッセンシア」である。本稿では、その特徴を臨床的価値と医院経営の両面から詳しく解説し、自院に導入すべきか判断する一助としたい。

製品の概要

エッセンシア(Essentia)は、株式会社ジーシーが提供する光重合型の歯科用コンポジットレジンである。正式な薬事区分名は「歯科充填用コンポジットレジン ジーシー エッセンシア」で、管理医療機器(クラスII)に分類されている(医療機器承認番号: 228AABZX00099000)。充填修復、とりわけ審美性が重視される前歯部のダイレクトボンディングや、小~中程度の臼歯部修復に用いられる材料である。なお、本製品は健康保険適用外の自費診療材料であり、保険診療では用いることができない点に注意が必要だ。

エッセンシア最大の特徴は、煩雑なシェード選択を簡素化した独自の色調システムにある。従来、前歯部の色調再現にはエナメル質用・象牙質用・効果色など多数のシェードを使い分ける必要があったが、エッセンシアではわずか7種類の基本色で幅広い年齢や症例に対応できるよう設計されている。この7シェードとは、象牙質に対応するライトデンチン(LD)・ミディアムデンチン(MD)・ダークデンチン(DD)の3色、エナメル質に対応するライトエナメル(LE)・ダークエナメル(DE)の2色、そして単独でも使えるユニバーサル(U)と、遮蔽効果の高いマスキングライナー(ML)である。さらに、細かな色調変化やエフェクトを再現するための内部ステイン用「エッセンシア モディファイヤー」4色(赤み・黒み・白濁・オパール効果)がオプションで用意されている。これらを組み合わせることで、天然歯の持つ複雑な色調や質感をシンプルなレイヤリングで再現することが可能となっている。

主要スペック

シェードコンセプト

エッセンシアは天然歯のエナメル質と象牙質それぞれの「加齢による色調変化」に着目し、二層構造で再現するコンセプトを採用している。若年者の歯はエナメル質が厚く高い明度を示す一方、加齢とともにエナメル質は薄く透過性が増し、象牙質の色味が強く現れる。エッセンシアでは、この変化を再現するため、患者の年齢や残存歯の状態に応じて適切なデンチンシェードとエナメルシェードの組み合わせを選択するデュオレイヤリングシステムを提唱している。例えば、若い患者や明るい歯質には明度の高いLD(ライトデンチン)とLE(ライトエナメル)を、成人の中間的な色調にはMD(ミディアムデンチン)とLEもしくはDE(ダークエナメル)を、やや色調が沈着した高齢者の歯にはDD(ダークデンチン)とDEというように、2シェードの積層で隣接歯に溶け込むような自然なグラデーションを得ることができる。また臼歯部修復では、基本的に象牙質の色味が強いためDDとLEの組み合わせだけで十分に自然観を出せる場合が多い。小さい窩洞で審美的要求の低い部位であれば、ユニバーサルシェード単独で修復を完結させることも可能である。このように、症例に応じて二層または単層で柔軟に対応できるのがエッセンシアのシェードシステムであり、従来必要だった煩雑な築盛テクニックのパラダイムシフト(発想の転換)と言える。

材料特性

マテリアル面でも、エッセンシアは最新のナノフィラー技術を採用し、高い研磨性と耐摩耗性を両立している。エナメルシェードには高密度に分散したナノサイズの無機フィラーが含まれ、研磨後にエナメル質同様の滑沢な光沢が得られるよう設計されている。一方、デンチンシェードは適度な不透明感と光拡散性を持たせることで、周囲の歯質との馴染みやすさを高めている。ペーストの操作感にも工夫が凝らされており、ブラシや充填器で形態修正がしやすい適度な粘性を備えている。臼歯部用のユニバーサルシェードは圧接しやすく、窩壁への適合性が良好なペースト硬さで、近年普及しているマトリックスバンドとセクショナルリングを用いた隣接面の精密充填にも対応しやすい。なお、視診・X線診断の点でも、エッセンシアは全色に十分なX線不透過性が付与されている(エナメルシェードでアルミニウムの約2.9倍、デンチンで約1.4倍のX線不透過度)。これにより、充填後のレジンがレントゲン上で明瞭に確認でき、二次う蝕の発見や充填境界の評価が容易である。総じて、エッセンシアは審美性だけでなく操作性・物性においてもバランスの取れたハイブリッドナノコンポジットレジンと言える。

互換性と運用方法

エッセンシアの導入にあたり特別な機器やソフトウェアは不要であるが、材料特性を最大限に活かすための運用上のポイントがいくつか存在する。

まず接着システムとの互換性については、他社製を含む一般的な光重合型ボンディング剤と併用可能である。ジーシーでは、同社のユニバーサルボンドである「G-プレミオボンド」や2ステップボンド「G2-ボンド ユニバーサル」などとの併用を推奨しているが、エッセンシア自体にはボンディング材は含まれていないため、使用中の接着システムを継続して用いることができる。ただし、接着操作を確実に行うことが高品質なレジン修復の大前提となるのは言うまでもない。エッセンシアを活かすためにも、ラバーダム防湿や十分なエアーブローによるボンディング手順の徹底が必要だ。

築盛・重合に関しては、通常のコンポジットレジンと同様に2mm以下の積層硬化が基本となる。各層を確実に光照射し、特に不透明度の高いデンチンシェードやマスキングライナーを使用した場合は、透過光量が減少するため照射時間を長めに取るか、分割照射して十分な重合深度を確保することが推奨される。使用する光重合照射器の光量・波長帯も確認しておきたい。昨今の高出力LEDライトであれば問題ないが、経年劣化したハロゲンライトを使用している場合には、新しいLEDライトへの更新も検討した方がよいだろう。

色調選択と築盛の運用面では、スターターキットに付属のカスタムシェードガイドの活用が重要である。エッセンシアには既製のシェードガイド(市販の歯科用色見本)は存在せず、代わりにシリコーン製モールドと金属製ホルダーが提供されている。これを用いて実際のエッセンシアのペーストで歯科医自身がシェードガイドを作製することで、口腔内での硬化後の正確な色調を把握できる仕組みだ。少々手間に感じられるかもしれないが、自院で扱うロットの材料そのものの色味を事前に確認できるメリットは大きい。特に微妙なシェード選択が要求される前歯部修復では、この自作シェードガイドを患者の隣在歯に当ててマッチングを確認し、適切なデンチン・エナメルの組み合わせを決定するとよい。

院内運用の面では、エッセンシア導入によるスタッフ教育や在庫管理にも留意する。基本的な充填操作は他のレジンと同様で歯科衛生士らにも馴染みやすいが、新しいシェード体系については院内で情報共有しておくことが望ましい。例えば「若い患者にはLD+LE、高齢患者にはDD+DEを使う」といったコンセプトをチームで理解しておけば、アシスタントがシェード選択時に補助できる場面もあるだろう。また、在庫に関しては使用頻度に応じた適正在庫の維持が必要だ。多彩なシェードが揃う反面、症例によっては特定の色ばかり消費する可能性もあるため、残量管理を怠ると肝心な時に必要なシェードが切れているという事態になりかねない。メーカーの推奨する保管条件(室温で直射日光を避ける等)を守りつつ、有効期限にも注意して計画的に使い切ることが肝要である。

なお、エッセンシアの臨床応用は院内完結型であり、外部の技工所等に委託する工程は存在しない。すなわち、エッセンシアを使ったレジン充填はすべて歯科医師自身の手で直接修復を行う治療である。この点はラボワークが伴うセラミック修復との大きな違いであり、自費診療メニューとして導入する際には、診療チェア時間の確保や術式トレーニングなど院内リソースの調整が必要になる。適切に運用すれば、技工所への外注コストや納期を省けるメリットが得られる一方、術者のスキルに結果が大きく依存する治療でもあるため、導入当初は症例を慎重に選択し、徐々に適応範囲を広げていくのが望ましい。

経営インパクト

エッセンシアの導入は、臨床面だけでなく経営面にも様々な影響を及ぼす。費用対効果を考える上で、材料コスト・施術時間・患者ニーズと収益性のバランスを多角的に検討してみよう。

まず材料コストであるが、エッセンシアの定価は単品シリンジ(2.0mL)あたり6,500円(税別)である。7色のスターターキットは45,000円前後、4色のモディファイヤーキットは20,000円前後で提供されている。保険適用外材料ゆえ保険診療の点数には反映できないものの、自費診療においてはこのコストを自由に設定した治療費に転嫁できる。実際、前歯部のダイレクトボンディング修復(正中離開の閉鎖やクラスIVのレジン築盛など)の自費料金は、1歯あたり2〜5万円程度に設定している歯科医院が多い。その場合、たとえばエッセンシアのLDとLEを用いて1歯のレジン修復を行ったとすると、使用したレジン量はおおよそ各シェード数百ミリグラム程度で、材料費はボンディング材も含め1,000円に満たない。治療費に占める材料コストの割合はごく僅かであり、高度な技術料・付加価値への対価が利益の大部分を占めることになる。

一方、保険診療でレジン充填を行う場合は1歯あたり数千円程度の診療報酬に限られるため、高価な材料を用いるメリットは直接的には収益に結びつかない。それどころか、エッセンシアのような自費材料を保険診療で使用すれば、その分の材料費は医院側の負担となってしまう。したがって経営的観点からは、エッセンシア導入の投資回収(ROI)を最大化するには自費メニューとしてどれだけ活用できるかが鍵となる。スターターキットを45,000円で導入した場合でも、前歯ダイレクトボンディングを2〜3歯治療すれば材料費は十分回収できる計算になる。それ以降は、適宜必要なシェードのみ単品購入を足しながら使用を継続できるため、ランニングコストも症例数に応じてコントロールしやすい。頻繁に使うシェード(例えば汎用性の高いMDやLE)は在庫を厚めに持ち、使用頻度の低いシェードは一本ずつ使い切ってから補充するなどの工夫で無駄を減らすことが可能である。

チェアタイム(診療時間)の観点では、エッセンシアを用いた場合と従来の方法とで大きな違いが生じる可能性がある。まず、エッセンシアのシェードシステムはシンプルであるため、患者ごとに「あのシェードもこのシェードも試してみる」という迷いが減り、シェードテイキングや築盛設計にかかる時間が短縮されることが期待できる。また2層築盛で完了するケースが増えれば、その分重合作業のステップ数も減り、トータルの治療時間短縮につながる。例えば従来3〜4層に分けて重合していた前歯部レジンを2層で再現できれば、数分程度ではあるが施術時間は短くなる。一方で、自費診療として患者一人ひとりに十分な時間を確保できる場合には、エッセンシアの色調調整や形態修正にこだわることで、より高精度な治療を提供することもできる。言い換えれば、エッセンシアは診療スタイルに応じて「効率アップ」も「クオリティ追求」も選択可能な柔軟性を持つ材料と言える。

患者満足度と経営効果の関連も見逃せないポイントだ。審美修復の完成度が高まれば、患者の治療満足度・信頼感が向上し、口コミやリピートによる増患効果が期待できる。特に前歯の見た目に悩んでいた患者にとって、短期間で自然な仕上がりを得られるダイレクトボンディングは魅力的な選択肢であり、そうしたニーズを医院が提供できること自体が差別化につながる。また、エッセンシア導入を機に自費レジン修復メニューを積極展開すれば、従来は補綴に回していたようなケース(小範囲のう蝕でも見た目重視でセラミックを提案していた症例など)を、より低侵襲かつ安価なプランとして提示でき、患者の経済的負担を下げつつ医院の収益を上げる戦略も可能となる。

もっとも、導入にあたっては初期投資分を無駄にしない仕組み作りが必要である。もし導入したものの使いこなせず、結局保険診療では従来通り安価なレジンを使ってしまい、エッセンシアは棚の奥で期限切れ…という事態になれば、投資回収はおろか廃棄ロスが発生して本末転倒である。そのため、導入前に想定症例数や自費移行の目標などを設定し、スタッフ全員で自費レジン修復を推進していく意識を共有すると良いだろう。例えばカウンセリング時に「保険のレジン充填」と「自費のエッセンシアによる審美修復」の違いを分かりやすく説明し、患者に選択肢を提示することで、自費率向上と材料活用の両立を図ることができる。

使いこなしのポイント

トレーニングと習熟

導入直後は、いきなり難易度の高いケースで用いるのではなく、比較的シンプルな症例から始めるのが賢明だ。例えば、目立たない部位の小さなコンポジット修復や、欠けた前歯の一部修正程度でエッセンシアの扱いに慣れると良い。メーカー提供のテクニックガイドや症例集を参照し、基本となる2層築盛のコツを掴んでから徐々に応用範囲を広げたい。ジーシー主催のハンズオンセミナーやエキスパートによる講習会が開催されている場合には、参加を検討するのも有効である。実際、発売当初に本製品を導入した歯科医院でも、院長やスタッフが積極的にセミナー受講し、築盛テクニックを院内で共有した例が報告されている。そうしたトレーニングの積み重ねが、短期間での製品の使いこなしにつながる。

シェードテイキングの工夫

エッセンシアはシェード数こそ少ないものの、その分各シェードの色調が担う役割が広い範囲に及ぶ。患者の歯にどの組み合わせが適切か迷った場合、自作したシェードガイド片を実際に隣の歯に当ててみることが有効だ。また、口腔内の照明環境や歯の乾燥具合で見え方が変わるため、必要に応じてポーラライザー(偏光フィルター)越しに観察してエナメル表面の反射を除去し、正確な色調を読み取る工夫も考えられる。メーカーサイトのQ&Aによれば、カタログ写真で使われている偏光フィルター付きの口腔内写真は、エッセンシアの色調選択をより精密に行うためのヒントとして紹介されている。ただし、実臨床ではそこまで特殊な器材を用いなくとも、基本に忠実に隣接歯の明度・彩度・透明感を観察し、先述のガイドに沿ってシェードを選択すれば大きな失敗は避けられるだろう。

築盛テクニック

エッセンシアでは2層築盛を基本としているが、単に「デンチンを置いてその上にエナメルを置く」だけでは理想的な結果は得られない。天然歯に倣って、象牙質部分の形態とエナメル層の厚みを意識することが重要だ。例えば、前歯部の切縁部ではエナメルを薄く延長しすぎると透明感が出過ぎてグレーに見えることがあるため、あらかじめデンチンレジンで切端近くまで築盛しておき、エナメルレジンは必要最小限の厚さで覆うといった工夫が有効である。また、マスキングライナーの使いどころもポイントになる。失活歯の変色や金属色の残る窩洞では、いきなり通常のデンチンシェードを盛ると色が浮いてしまう場合がある。そんな時、薄くMLを敷設して硬化させておくと、下地の影響を抑えてから通常築盛に移行できる。ただしMLは流動性のあるフロアブルタイプであり高濃度フィラーゆえにやや粘調度が高いので、気泡混入に注意しつつ薄く延ばすように塗布するのがコツである。

研磨・仕上げ

最終的な研磨操作も審美性に直結する重要なステップである。エッセンシアは適切に研磨すればエナメル質のような艶が出せるが、逆に研磨不足だとせっかくのマテリアルも本領を発揮できない。研磨方法自体は他のレジンと同様で、ダイヤモンドポイントで形態修正後、粒度の細かい研磨用ポイントやディスク、ラバーポイント等で段階的に磨き上げる。ナノフィラー配合による高い光沢保持性が謳われているものの、研磨直後のグロス感を最大化するには最終仕上げまで丁寧に行うに越したことはない。特に前歯部では、研磨を怠ると表面の粗造にプラークが付きやすく変色の原因にもなるため、治療直後に患者と共に仕上がりを確認し、必要なら追加研磨して満足いく光沢を与えると良い。

患者への説明

新たな材料を用いた自費治療を患者に提供する際は、その価値をわかりやすく伝えることも大切だ。例えば、保険診療で使うレジンとは異なり歯の層構造に近い再現が可能であることや、削る量を最小限に抑えて見た目をきれいに直せることなどを伝えれば、患者も追加費用を払う意義を理解しやすくなるだろう。実際に治療前後の写真を見せながら説明すれば説得力はさらに増す。エッセンシアで修復した歯は一見して自然なため、患者自身が術後にどこを治療したのかわからないほどだ、という声もある。そのような「自然な仕上がり」を得られることがエッセンシアの大きな強みであり、患者の同意を得る際にはその点をしっかり伝えるべきである。

適応症と適さないケース

適応症(得意なケース)

審美性が要求される前歯部の直接修復が筆頭に挙げられる。切削を最小限に抑えつつ歯冠形態や色調を整えるダイレクトボンディング、例えば正中離開の閉鎖や先天性矮小歯の形態修正、前歯部の軽度な破折の修復などは、エッセンシアの2層レイヤリングによって天然歯に近い外観を付与しやすく、患者にとっても「削らずに治せる審美治療」として訴求しやすい。また、小さいう蝕やレジン充填の再修復において、「金属を使わず白く治したい」という患者ニーズに応えられる点も強みである。臼歯部でも、小~中規模のⅠ級・Ⅱ級窩洞であれば充分適応となる。特に金属インレーからの置換では、エッセンシアのDD+LEによる自然な色合わせと精密なコンタクト形成によって、従来コンポジットでは適応外とされていたケースにもチャレンジできる余地が広がる。加えて、失活歯漂白後の変色歯のレジンカバーや、ラミネートベニアの簡易代替としての表面レジン盛りにも応用でき、セラミックほどの高強度が不要なケースではコスト・時間両面で有利な選択肢となる。

適さないケース(慎重な検討が必要な症例)

一方で、大きな咬合力がかかる広範な修復には注意が必要だ。大臼歯のMOD修復で咬頭を複数補うようなケースや、歯質の残存がごく僅かでレジンのボリュームが大きくなる場合、長期的な破折リスクや摩耗・変色の懸念が残る。こうしたケースでは、ファイバー強化レジン(例えばエバーエックス)を用いて下層を補強する、あるいは最初からセラミックインレーやクラウンなどの補綴的アプローチを選択した方が予後が安定する可能性が高い。また、重度のブラキシズム患者に対しては、夜間の食いしばりでレジンが摩耗・破損するリスクがあるため、事前にナイトガード装着を含めた対応策を講じることが望ましい。

エッセンシアが不得意と言えるケースとしては、極端に変色した歯や暗い下地(メタルコアや失活変色歯)で、なおかつ高い審美要求がある症例が挙げられる。マスキングライナーによってある程度は遮蔽可能だが、遮蔽しきるにはそれなりの厚みが必要であり、その分透過性が失われて審美性に限界が生じる場合がある。そのようなケースでは、内部漂白やファイバーコアへの置換を事前に行った上でレジン修復するか、最終的な色調再現をセラミックに委ねるか、慎重に判断する必要がある。また、辺縁が深いサブジンジバルの窩洞も難易度が高い。ラバーダムが困難で接着操作に支障を来す部位では、無理にレジン充填に固執せず、補綴や他材料(グラスアイオノマー併用など)を検討した方が結果的に長持ちすることもある。

要するに、エッセンシアは「適材適所」の材料である。万能だからといってあらゆるケースに用いればよいわけではなく、症例選択と術式選択のバランスが重要だ。得意分野では最大限の効果を発揮する一方、不得意分野では他の方法に譲る柔軟さも、臨床家としては持ち合わせておきたい。

エッセンシアの導入に向いている医院・向かない医院

保険中心で効率最優先の医院

日々多数の患者を回転させ、主訴の処置を短時間で行うことを重視している保険診療主体の医院では、エッセンシア導入の優先度は高くないかもしれない。理由は単純で、保険診療内では材料の質に関わらず収入が定額であるため、高価なレジンを使っても経済的リターンがなく、むしろコスト高になる恐れがあるからだ。また、審美性に強い関心を示す患者層が少ない場合、エッセンシアの真価を発揮する機会自体が限られるだろう。そうした医院では、むしろオールラウンダーなユニバーサルシェードのレジンや、バルクフィルで施術時間を短縮できる材料の方がマッチする。もっとも、近年は保険診療主体の医院でも他院との差別化や自費率向上に取り組む所が増えている。その一環で「希望者にはより美しいレジン修復を提供する」というオプションを設けるのであれば、エッセンシア導入は有意義となる。要は、医院の戦略として自費コンポジット修復にどれだけ力を入れるかで、導入価値が変わってくるのである。

審美治療・自費診療に注力する医院

ホワイトニングやセラミック治療など高付加価値の審美メニューを積極的に提供している医院にとって、エッセンシアは相性が良いと言える。来院する患者も見た目への関心が高く、歯科医師側も審美修復の腕を磨いているケースが多いため、導入してすぐ臨床で活用できる場面が多いだろう。例えば、今までラミネートベニアやオールセラミッククラウンで対応していた前歯部の形態修正を、エッセンシアによるダイレクトボンディングで提案できれば、患者にとっては費用が抑えられ歯も削らずに済むメリットがある。医院にとっても技工料が不要になり、その分の利益率が向上する。術者の技量が問われる治療ではあるが、ハイエンド志向の医院であればその点はむしろ挑戦しがいがあり、症例写真の蓄積や学会発表を通じて医院のブランディング向上にもつながるだろう。総じて、審美歯科を掲げる医院にとってエッセンシアは導入価値が高く、ROIも高水準で推移しやすい。

インプラント・口腔外科が中心の医院

外科処置中心で補綴や保存修復の割合が少ない診療スタイルの場合、コンポジットレジンの使用機会自体が限られるため、エッセンシアをフルに活用できない可能性がある。詰め物よりインプラント上部構造や義歯設計に注力しているような場合、レジン充填はあくまで脇役の治療であり、高価な審美材料を導入するよりも他の設備投資を優先した方がよいだろう。しかし、口腔外科中心でも一般診療も併設している医院であれば、分院や担当医ごとに役割を分担することでエッセンシアを活かすことは十分可能だ。たとえばインプラント手術で来院した患者の二次う蝕をその場で審美的に充填するといった総合的ケアを提供できれば、患者満足度の向上につながり医院全体の評価も上がるかもしれない。要は、医院内の診療科バランスとスタッフ構成を踏まえて導入判断をすべきで、メインの診療領域で使わないとしても、サブの領域でしっかり使いこなせるなら導入の価値はある。

小児歯科メインの医院

子どもの治療中心の医院では、細かな色調再現よりも、とにかく痛くなく素早く治療を終えることや、予防的処置が重視される傾向がある。そのため、エッセンシアの高度な審美性能は宝の持ち腐れになる場面も多い。乳歯や混合歯列期の修復であれば、保険でも認められているフッ素放出型のコンポマーや、ワンシェードタイプのレジンで十分事足りるケースがほとんどだ。ただし、小児歯科医院でも思春期以降の永久歯の処置や保護者の審美ニーズに応える場面はある。特に高校生・大学生くらいになると前歯の審美修復を希望するケースも出てくるため、医院のカラーとしてそこまで対応する方針であれば、エッセンシアを用意しておく意義は出てくる。結局のところ、対象患者層とニーズを見極め、エッセンシアがそれに合致するかどうかが導入判断のポイントとなる。

よくある質問(FAQ)

Q1. エッセンシアで修復した歯はどれくらい長持ちしますか?
A1. 個々の症例や術式によって異なるため一概には言えないが、一般的なコンポジットレジン修復の予後と同程度か、それ以上の耐久性が期待できる。エッセンシア自体は比較的新しい製品で長期データは限られるものの、ジーシーの従来レジン(グラディアシリーズ等)で示されてきた高い臨床成績を踏襲しており、適切な接着・研磨がなされれば5〜7年以上良好な状態を維持できるケースが多い。ただし定期的なメインテナンスで表面の艶や辺縁状態をチェックし、必要に応じて研磨や部分的な補修を行うことが長持ちの秘訣である。

Q2. 使用する接着剤やライトは専用のものが必要ですか?
A2. いいえ、特別な専用品は不要である。エッセンシアは標準的な光重合型ボンディングシステムと組み合わせて使用でき、既存の接着剤をそのまま使える。また、光重合も一般的な歯科用LED照射器で問題なく硬化可能だ。ただし、古いハロゲンライトなど光量不足の機器しかない場合は、重合不足によるトラブルを避けるためにも高出力のLEDライトへの更新を検討した方がよい。重合時間は各層あたり20秒程度が目安だが、不透明なシェードを厚めに盛った場合などは追加照射しておくと安心である。

Q3. エッセンシアは保険診療で使えますか?
A3. エッセンシアは保険適用外の材料であるため、保険診療には原則として使用できない。もしエッセンシアを用いて治療を行う場合は、その処置全体が自費扱いとなる点に留意が必要だ。患者に提案する際も、事前に保険との差額や仕上がりの違いを丁寧に説明し、同意を得た上で自費治療として提供するようにする。保険診療内で無断で高価な材料を使うことは、経営面でも法的にもリスクが伴うので避けるべきである。

Q4. 他社のワンシェードレジンや従来のコンポジットと比べて、本当に見た目が良くなりますか?
A4. 症例にもよるが、適切に使いこなせばエッセンシアの方がより自然な仕上がりを得られる可能性が高い。従来型のコンポジットはシェード数が多すぎて選択が難しかったり、逆にワンシェードタイプでは微妙な色の違いを表現しきれないことがある。それに対し、エッセンシアは歯の層構造と経年変化を模したシェード設計になっているため、少ない材料で効率よく調和の取れた色調を再現できる点が優れている。ただし、「見た目の良さ」は術者の技量と審美眼にも左右される。材料のポテンシャルを引き出すためにも、トレーニングによって築盛・研磨技術を磨くことが望ましい。

Q5. エッセンシアにはBPA(ビスフェノールA)などの有害成分は含まれていませんか?
A5. ジーシーによれば、自社のレジン製品はすべてBPAフリーとなっており、エッセンシアにも直接BPAそのものは含まれていない。樹脂の成分として一般的なBis-GMA(ビスGMA)などは一部シェードに含まれるが、重合後は安定化し口腔内で有害な影響を及ぼすことはないとされる。もちろん材料は厚生労働省の承認を受けた医療機器であり、安全性試験もクリアしているので、適切に使用する限り患者にも術者にも安全である。ただし、レジンモノマーにアレルギーのあるごく稀なケースでは本製品も使用できないため、既往歴はしっかり確認することが望ましい。