
シェードの無い「ユニシェード」コンポジットレジンのおすすめ製品は?価格や評判を比較
夕方の混み合う診療室。う蝕の充填をしようとカートリッジを見ると患者の歯に合いそうなシェードが見当たらない。A2では明るすぎるがA3では暗すぎるかもしれない…。シェードガイドと歯を何度も見比べ、最終的に「間を取ってA3を使おう」と判断したものの、充填後にわずかな色の不一致が目について冷や汗をかいた――こんな経験に覚えはないだろうか。あるいは診療後にキャビネットを開けば、ほとんど使われないシェードのコンポジットレジンが賞味期限切れで残っている。保険診療が中心の医院では「結局よく使うのはA2とA3だけなのに、どうして毎回こんなにも多くの色を在庫しているのだろう」と感じたことがあるかもしれない。
このような悩みを解決するために登場したのが、シェードの選択が不要な「ユニバーサルシェード(ユニシェード)」コンポジットレジンである。これは1色で幅広い歯の色調に適合する新しいコンセプトのレジン材料で、シェード選びに悩む必要がなく、在庫管理もシンプルになると期待されている。本記事では、筆者自身も臨床現場で多数のCR充填を経験してきた歯科医師の視点から、主要なユニシェード・コンポジットレジン製品を取り上げ、その臨床的な価値と医院経営への影響を両面から客観的に比較検討する。煩雑なシェード選択に終止符を打ち、充填修復の効率と収益性を高めるヒントを探っていこう。
ユニシェードコンポジットレジン主要製品の比較早見表
以下に、国内で入手可能な代表的なユニシェード(シェード選択不要)型コンポジットレジン製品を一覧表にまとめた。各製品の色調適合のメカニズムや操作性(ペースト/フロー)、1回充填可能な厚み、そして価格帯と時間効率への特徴を比較している。忙しい読者はまずこの早見表で大枠を把握していただき、後続の詳細解説を参照してほしい。
製品名(メーカー) | 色調適合の仕組み | ペースト/フロー形態 | 一括充填可能厚み* | 標準価格(税別) | 特筆すべき効率面の特徴 |
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オムニクロマ(トクヤマデンタル) | 球状フィラーによる構造色発現(顔料不使用で全VITAシェードに同化) | ペースト(軟質)※フロータイプ別売あり | 推奨約2mm(通常充填) | 約3,900円/4g(ブロッカー別売) | シェード選択時間ゼロ在庫色数1で管理容易※軟らかめで充填迅速だが気泡注意 |
ビューティフィル ユニシェード(松風) | S-PRGフィラーによる光拡散・透過(周囲歯質の色を取り込み同化) | ペースト(中粘度)+フロー(ゼロフロー硬質) | 最大4mm (深度硬化) | 約4,300円/4.5g(ブロッカー別売) | 4mm一括充填で工程短縮硬めペーストで咬合面形態付与しやすい在庫色数1 |
クリアフィル マジェスティ ESフロー Universal(クラレ) | 高透過性+光散乱性の調和設計(少数色で16色カバー、UD色で濃色歯対応) | フローのみ(Low/High等粘度選択可) | 推奨約2mm(通常充填) | 約4,300円/2.7g | シェード調整不要ブロッカー不要でⅣ級窩洞も対応流動性は「通常のフロー」で操作安定 |
ア・ウーノ(YAMAKIN) | カモフラージュエフェクト技術(光拡散・透過性の黄金比で1色適応) | ペースト(通常硬さ)+フロー/ローフロー | 推奨約2mm(通常充填) | 約2,900円/4g(3本パック8,250円) | 低価格でコスト良ペースト有で咬合形態再現容易ローフロー選択で操作性向上 |
カリスマ トパーズONE(クルツァー) | 屈折率マッチ&ナノフィラー散乱(Adaptive Light Matching技術) | ペースト(ハイブリッド硬質)※フロー別シリーズ有 | 推奨約2mm(通常充填) | 約4,000円/4g(エコノパックあり) | 低収縮レジンで適合良コストパフォーマンス高め研磨も短時間で光沢良好 |
*各社カタログ値または推奨値。通常のコンポジット同様、深い窩洞では分割重合法が推奨される。 標準価格はメーカー希望小売価格(税別)目安。一部ディーラーでの実勢価格やキャンペーンによる差異あり。
ユニシェードコンポジットレジンを選ぶ際の比較ポイント
ユニバーサルシェード型のレジンは各社から特色ある製品が登場しているが、どれも「1色で歯に馴染む」という共通コンセプトを掲げている。その中で何が異なり、臨床および経営にどう影響するのか。ここでは比較の軸となるポイントを整理し、製品選択の判断材料を提示する。
色調適合のメカニズムと審美性
まず注目すべきは「なぜ1色で色調が合うのか」という各製品のメカニズムである。オムニクロマを嚆矢として、各社は独自技術で「周囲の歯の色に同化する現象」を実現した。例えばトクヤマデンタルのオムニクロマは、直径約260nm前後の均一な球状フィラーを用いることで構造色(見る角度や周囲の光環境によって発色する色)を発現させている。オムニクロマ自体には着色用の顔料が一切含まれず、光学的効果のみで赤~黄の波長域の色合いを再現し、VITAシェードガイドのA1からD4まで幅広くカバーする設計だ。この構造色コンセプトのおかげで、隣接する歯や周囲環境の色を取り込んで自然に調和し、ホワイトニング前後の歯にも追随するとされる。実際、筆者自身もオムニクロマを前歯部の中程度の大きさのクラスIII窩洞に用いた際、充填部位が周囲と見分けがつかない仕上がりに驚かされた経験がある。術者のシェードテイキング技術に左右されず審美的な結果が得られるのは、大きな臨床メリットである。
一方、松風のビューティフィル ユニシェードはS-PRGフィラー(表面反応型ガラスフィラー)の光学特性を活かしている。S-PRGフィラーはフィラー自体が光を透過・散乱することで、充填したレジンに適度な半透明性と周囲色へのカメレオン効果をもたらす。結果としてユニシェードレジンは周囲歯質の色調を映し取り、一種類の色調で複数のシェード領域に適合する。さらにビューティフィル ユニシェードは充填厚みが増すと硬化前後で透明度が変化し、浅い部分では下地をやや遮蔽しつつ、厚みのある部分は奥行き感を表現するなど、単一シェードでも立体感のある色再現を狙った設計となっている。加えてフィラーからフッ素を徐放する効果も持つが(S-PRG特有の利点)、審美性に関しては広範囲修復でも色の浮きが少ないとの臨床報告が聞かれる。
クラレのクリアフィル マジェスティ ESフロー Universalはアプローチが少し異なる。元来高い審美性で評価の高いマジェスティシリーズに、光の透過性と拡散性のバランスを最適化したユニバーサルシェード技術を追加した形である。1種類の基本色「U」で多くの色をカバーし、加えて濃色歯用の「UD」や漂白歯用の「UW」、遮蔽用の「UOP」を周辺色として用意することで、通常はU1本で、特殊なケースでは補助シェードを組み合わせる柔軟なシステムだ。例えば高齢者で歯質がA4近い濃色の場合にはUDを使い、逆に漂白直後の明るい歯にはUWを使う、といった応用ができる。このように必要最小限の色数であらゆるケースに対応できるため、シェード選択で悩む時間が激減する。特筆すべきは前歯の大きなレジン修復(クラスIV)の際にも追加のブロッカーを使わずとも裏層の色をある程度隠せる点である。後述するように、他の一部製品では大きな隙間を埋める場合に別売の遮蔽材が必要になるが、マジェスティESフローのユニバーサルは基本的にそれを不要とするくらい遮蔽力と調和性のバランスが良い。
ヤマキンのア・ウーノも1色で調和する点では同様だが、その背後には「カモフラージュエフェクト」と名付けられた技術がある。これはヤマキン独自の光散乱性と透過性、および透明度・遮蔽性・彩度のバランス設計である。簡単に言えば、「透明すぎず不透明すぎず、彩度も適度なレジン」に仕上げることで、充填後に周囲組織との境界がぼやけて馴染むようにしている。ア・ウーノでは実際に、かなり大きな窩洞でも1色のみで充填しても充填部が白浮きせず、かといって暗転もせず自然に見えるケースが多い。メーカーも提示しているが、変色した象牙質を持つⅠ級窩洞や、裏打ち(金属補綴物等)のない前歯部のクラスIVでも、追加の色を使わず1色である程度の遮蔽と天然感の両立が可能となっている。もっとも、極端に濃い高齢歯(A4を超えるような色)や漂白直後の歯などでは2023年に追加発売された「ダーク」や「ホワイト」という補助シェードを使う選択肢も生まれている。これらはクラレ製品と同様に補助的なポジションで、ユニバーサルシェードの適応範囲を100%に近づけるためのものである。
クルツァージャパンのカリスマ トパーズONEも忘れてはならない。この製品は欧州発のハイブリッドレジンで、フィラー粒子とレジンマトリックスの屈折率を巧みに調整し、周囲の歯の色を取り込むと同時にナノフィラーによる光散乱で赤~黄の色調のみを選択的に発色させる仕組みを採用している(Adaptive Light Matchingと称する技術)。言い換えれば、「不要な色味は消し、歯の持つ暖色系の色合いだけを引き出す」ことで自然な色調再現を狙っている。加えて、Charismaシリーズで培われたTCD(トリシクロデカン)系レジンマトリックスにより重合収縮を低減しているのもポイントだ。これにより充填後のレジンの色安定性や適合性が向上し、長期的にも境界部の変色や隙漏れが起こりにくいとされる。審美的には、カリスマ トパーズONEもVITA16色を1色でカバー可能とされ、小~中規模の修復では周囲とほぼ見分けがつかない仕上がりが得られているとの報告がある。ただ、非常に大きな修復や切縁部のように周囲に歯質がないケースではどの製品でも限界があり、必要に応じてオペーク材(遮蔽用レジン)を裏打ちするか、複数シェードを併用するケースはゼロではないことは留意したい。ユニシェードとはいえ完璧な「魔法のレジン」ではなく、症例を選べばシェードレスで済むという位置づけである。とはいえ平均的な症例では、いずれの製品も肉眼では充填痕がわからないほど自然に調和するケースが多く、審美修復にかかるストレスを大幅に軽減してくれるのは間違いない。
操作性(ペーストの硬さ・フロー特性)と適用テクニック
ユニバーサルシェードコンポジットを初めて使う際、戸惑う点の1つが操作感である。実際に触れてみると、各製品でペーストの粘度やフロー特性がかなり異なる。従来、「シェードが一色で済む代わりに操作しにくいのでは?」という懸念を持つ先生もいるが、これは製品選択で概ね解決できる。自身の好む操作感と症例の傾向に合わせて製品を選ぶ、または製品内のバリエーションを選択することが重要だ。
まず、ペーストの硬さ(粘度)について。オムニクロマはメーカー上「ペースト」と分類されるが、実際にシリンジから出すとかなり柔らかめであり、感覚的には従来の流動性コンポジット(フロアブル)に近い。これはオムニクロマのフィラー設計上やむを得ない部分があったようだが、小さな窩洞には隅々まで行き渡りやすい半面、クラスVや複雑な形態を付与する修復ではレジンが垂れやすく形態を作り込みにくいと感じることもあった。筆者自身、オムニクロマを初期に頬側のくさび状欠損修復に使った際、粘度が低いために少量ずつ硬化を重ねる必要があり、もう少し硬さが欲しいと思った。トクヤマデンタルは後にオムニクロマ フロー(一般的なミディアムフロー)やバルク(厚盛り可能な高充填フロー)も発売し、粘度の選択肢を増やした。しかしペースト状の硬めのレジンで咬合面を一発で盛りたい、といったニーズには対応しきれず、オムニクロマ1製品だけですべてのケースをカバーするのは難しいというのが実感である(特に臼歯部咬合面の解剖学的形態付与には柔らかすぎると感じる)。逆に細かな窩洞やコンポジットインレーのセメント代わりなどには流れが良いオムニクロマは重宝するだろう。このように操作性のメリット・デメリットは症例部位で表裏になる。オムニクロマは審美適合性ではパイオニアだが、操作感については術者を選ぶ玄人好みの一面があったと言える。
これに対し、松風 ビューティフィル ユニシェードはしっかりしたペースト硬さが特徴的だ。実際に触ると従来のハイブリッドCR(例:エステライトΣQuick等)のように適度な粘度があり、ペースト状でべたつきが少ない。そのため臼歯部のII級や大きめのI級窩洞でも、通常のコンポジット同様に充填後に山を作って咬頭形態を成形しやすい。筆者もユニシェード発売直後に臼歯のMOD修復で試したが、オムニクロマと比べるとペーストが窩洞内にとどまってくれる感覚があり、咬合面もほぼ一度の盛りで形を作れた。ただ一方で、ビューティフィル ユニシェードのフロータイプ(ユニシェード フロー)になると「ゼロフロー」と銘打つだけあって極めて流動性が低い。一般的なフロアブルを想像して押し出すと「全然流れない!」と感じるほどで、ペーストとフローの中間くらいの硬さである。これは裏を返せば垂直な壁面にも留まる優れたチクソトロピーを持つということで、例えばレジンコア築造や、深い窩洞の遠心壁などを先にフローで築いても垂れずに形を維持できる利点がある。実際、ビューティフィル ユニシェード フローは自由度の高い充填が可能で「もはやこれはフローではなくミニペースト」という評価もあるほどだ。欲を言えばペーストとゼロフローの中間くらいの硬さが扱いやすく感じるが、松風は従来から粘度の異なる「Low Flow」「Zero Flow」など製品展開してきた背景もあり、ユニシェードではあえて極端に流れにくいフローを投入したのだろう。操作性の好みは術者ごとに異なるが、大きな形態はペーストで形成し、細部は硬めのフローで補完するという使い分けが同シリーズ内で完結できる点は優れている。なおビューティフィル系はペースト・フローともべたつきが少なく器具離れが良いため、積層充填時に器具にレジンがまとわりついてイライラする…といったストレスは少なめである。
クラレのマジェスティ ESフロー Universalは名前の通り完全にフロアブル専用のシリーズだ。しかし侮るなかれ、開発陣は「ちょうど良い普通のフロー」を目指したとされ、実際その使い心地は「癖のない標準的な粘度」と言える。初期にはLow(やや低流動)の1種類だったが、あまりに人気を博したため現在ではHigh(高粘度)、Super Low(超低流動)とバリエーションが増えている。筆者はまずLowタイプを使用したが、一言で表すなら「扱いやすい流れ方」で必要な所だけ流れて留まる印象だった。例えば小さなII級の遠心窩洞でも、Lowタイプであれば流れ出してくることなく窩洞内に留まって形態を保ってくれる。十分に隅々まで行き渡らせるために細かく付与して光重合を繰り返す必要もなく、ほぼ1回充填で窩洞を満たしやすい点は時短にもつながった。Highタイプはそれよりもさらに粘性が増しており、大きめの窩洞でも整形しやすくしている。逆にSuper Lowはごく小さなう蝕やMI充填向けにサラサラ流れる設計で、根面う蝕などに使うと筆者も「ここまで流れるのか」と驚いたほどである。要は症例に応じて流動性を選択できる点がマジェスティESフローの肝であり、極端な話、従来のペーストコンポジットがなくともフローのみでほぼ全ての充填修復に対応できる柔軟性を備えている。唯一注意点を挙げるとすれば、フロー系ゆえに一度に盛れる量や厚みには限界があることだ。深い窩洞では2mm程度ごとに重合を行う必要があるし、咬頭を丸ごと再建するにはHighタイプでもやや流れすぎる印象がある(この場合は最初から補綴でカバーするか、他のペースト併用も検討したい)。とはいえ通常のコンポジット同等の強度と耐摩耗性を持つフローとしては抜群に扱いやすく、ブロッカーなしで前歯部にも使えるため、総合的に見て臨床現場での再現性が高い操作性と評価できる。
ヤマキンのア・ウーノは操作性の自由度という点で他を一歩リードする。ユニバーサルシェード製品では唯一、ハイブリッド型のペーストレジン(ユニバーサル)と、2種類のフロー(通常とローフロー)が存在し、さらに硬化前後の透明度変化が異なる2タイプ(NormalとSt)が選べるのである。つまり、合計でペーストNormal/ペーストSt/フローNormal/フローSt/ローフローNormal/ローフローStという6パターンが基本色ベーシックシェードとして用意されていることになる(さらに最近ダークとホワイトも各3パターン追加)。一見すると「結局色数増えて複雑では?」と思われるかもしれないが、実際に使うと組み合わせは直感的に理解しやすい。例えば「奥歯の咬合面をしっかり作りたいから硬めが良い」→ペーストタイプを選択、「いや、頬側から流し込みたい根面う蝕だ」→ローフローで垂直面でも垂れないように、「充填時に硬化後の見た目を確認しながら詰めたい」→Stタイプを選べば充填中も仕上がりとほぼ同じ透明感で見える、等々、自分の治療スタイルに合わせてきめ細かく選べる柔軟性が魅力だ。筆者の感触では、ペーストNormalは従来からある硬質レジンと遜色ないしっかりした硬さで、咬頭付与も容易である。実際、マジェスティにはペーストが存在しないため「ペーストでワンシェードを使いたい」ならア・ウーノ一択とも言える。フローは当初やや軟らかかったが、ローフロー登場で問題が解消され、現在は普通のフローと、垂れにくいローフローから選べる。術者によっては「ペーストなしでフローだけで全部できる」と言うかもしれないし、「自分はペースト派だからペースト一択」という選び方もあるだろう。このようにア・ウーノは他社が単一レジンで万能さを狙ったのに対し、複数タイプに分けることで術者ごとのニーズに応える戦略を取っている。結果として操作性の不満点が最も解消しやすいユニシェードCRとなっている印象だ。実際、ある開業医は「臼歯部はア・ウーノのペースト、前歯部はマジェスティのフロー」といった併用でそれぞれの利点を享受しているケースもあるように、用途に応じて製品を使い分けることも十分可能である。ユニバーサルシェードとは言え、各製品の操作感は千差万別であり、導入にあたっては「自分の臨床スタイルに合う粘度か?」を検討することが重要だ。幸い多くのメーカーはデモ用サンプルを提供しているので、気になる製品は実際に試用してから絞り込むのが望ましい。
材料の物性・耐久性と適応範囲
どんなに色調が合い操作しやすくとも、レジンそのものの物性が低ければ臨床使用に耐えない。ユニシェードレジン各種は比較的新しい製品群ということもあり、物性に関してはいずれも最新のハイブリッドレジンに匹敵する優れた値を示している。各社の公表データや第三者評価を総合すると、曲げ強さや硬さといった機械的強度、耐摩耗性、X線造影性などはいずれも良好で、保険診療で臼歯部咬合面に使っても問題ないレベルにある。実際、ホワイトクロス社の調査(2024年末実施)でも、歯科医師からの評価が高いCRとしてクラレのマジェスティESフローシリーズが1位に選ばれているように、ユニバーサルシェードだからといって特段の物性上の欠点は指摘されていない【※調査結果より】。
特に耐摩耗性は各社ともアピールする点で、咬合圧がかかる臼歯部修復にも長期安定して適合することを示唆している。トクヤマのデータでは、オムニクロマは対合歯に対しても優しい摩耗特性(接触する天然歯を過剰にすり減らさない)を持ちつつ、自身の耐耗性も高く、熱サイクル後でも光沢を維持するとの結果がある。松風ユニシェードもナノサイズのS-PRGフィラーを高密度に分散させており、短時間で高い艶を出せるだけでなく、その艶が長持ちすることを謳っている。筆者の臨床でも、ビューティフィル ユニシェードで充填した臼歯部(半年経過)のチェックを行った際、溝の部分に微小な着色は見られたものの全体の艶は保たれており隣接歯と大差ない光沢が確認できた。経年的な変色も今のところ感じられず、従来のCRと比べて劣る印象は全くない。
重合収縮やマイクロリーケージに関しても各社対策が取られている。クルツァーのカリスマ トパーズONEは先述のTCDレジンにより収縮応力が低減されており、充填後の辺縁封鎖性向上を図っている。ユニバーサルシェードは単色で広い範囲を修復できるため、場合によってはレジンを一度に盛る量が増えることもある。そこでもし収縮が大きければ辺縁に隙間が生じ二次う蝕リスクになるが、現在市場に出ているユニシェード各製品を見る限り、いずれも十分許容範囲の収縮率に抑えられている。むしろ充填法に工夫が要るのは、オムニクロマやビューティフィルのように大きなⅣ級窩洞ではブロッカー(遮蔽用レジン)併用が望ましい場合だ。ブロッカーを下層に置かずに透過性の高いユニシェードレジンだけで厚みを持たせると、裏側からの暗い背景がうっすら映り込み、若干グレーがかった仕上がりになることがある。これを防ぐため、オムニクロマには専用の「オムニクロマ ブロッカー」、ビューティフィル ユニシェードには「ユニシェード ブロッカー」が用意されている。薄い不透明レジンを事前に裏打ちしておき、その上から本体レジンを積層することで、色調適合性を高めるという寸法である。実際、これらブロッカーを適切に使えば天然歯同様のレイヤリング効果が得られ、充填物の内部から色味が浮かび上がるような自然な透明感になる。クラレやヤマキンはブロッカー不要を謳っているが、それは上手に透明度と遮蔽性を両立させているためで、逆に言えば遮蔽力が足りないと感じるケースでは従来通りのオペーク材の出番となる。最終的な審美性と耐久性は、症例に応じた適材適所のテクニックによって最大化されることを覚えておきたい。ユニバーサルシェードレジンは確かに「単色で簡便」ではあるが、必要に応じて複数材料を組み合わせる柔軟性もまた、長期安定のためには重要だ。
総じて物性面では、ユニシェード各製品とも保険治療から自費治療まで安心して使用できる品質を備えていると言える。強いて差を挙げるなら、ペーストタイプのあるもの(ビューティフィルやア・ウーノ、カリスマ)は充填時の気泡混入が少なく、緻密な充填になりやすい傾向がある。一方フロー系は気泡混入リスクはやや上がるが、細部まで再現性高く適合する強みがある。またフロー系はポーラス(微小気孔)になりやすいとの指摘もあるが、近年のナノフィラー技術で十分カバーされている。磨耗や強度についても論文レベルで顕著な差異は報告されておらず、各社とも「従来シェードのCRと同等以上の性能」をうたっている。従って物性の不安から導入を見送る必要は小さいだろう。それよりも前述の色調適合や操作性の特徴の方が各製品の違いとしては大きく、そちらを重視して選ぶのが合理的である。
経営効率への寄与(コストパフォーマンスとタイムパフォーマンス)
ユニバーサルシェードのコンポジットレジン導入を検討する際、医院経営の視点で無視できないのがコストと時間へのインパクトだ。結論から言えば、これら製品は上手に使えばコスト削減と診療効率アップにつながる可能性が高い。ここでは具体的にどのようなメリットがあるか考えてみよう。
まず材料コスト面。従来、コンポジットレジンを各種シェード取り揃えるには、少なくともA系(A1~A4)、必要に応じてB系やC系、さらにエナメル用やオペーク用と、医院で10種類以上のシリンジを在庫せねばならなかった。それぞれ数グラム入りとはいえ、1本あたり数千円する材料をこれだけ揃える初期投資は馬鹿にならない。さらに臨床では使用頻度に偏りが生じ、A2やA3はすぐ無くなるのにA1やA4は期限切れで廃棄といった無駄も多かったはずだ。ユニシェード製品を導入すれば、基本的に在庫すべき色は各製品シリーズの「1色」のみで済む(プラス必要に応じブロッカーや補助シェードを追加)。例えばオムニクロマであれば本体シリンジとブロッカーの2本、ア・ウーノならベーシックシェードの必要な硬さのタイプだけを用意すればよい。極端な話、ユニバーサルシェード1本で保険CR充填のほぼ全症例をカバーできる。実際、筆者が知るある先生は「A2とA3ばかり頻繁に買い足していたが、ユニシェードに切り替えてから補充発注の頻度が激減した」と語っていた。これはつまり在庫管理コストと在庫スペースの削減につながる。余剰在庫が減れば期限切れ廃棄による損失も防げ、年間の材料費を圧縮できるだろう。
価格そのものも見逃せないポイントである。新しいコンセプトゆえ当初は高価なのではと懸念されたユニシェードCRだが、各社とも価格設定は従来製品と同等かむしろ安価に抑えてきている。例えばヤマキンのア・ウーノは1本2,900円(税別)という破格の設定で、市場シェアを拡大している。他社も標準価格ベースでは4千円前後と、従来のナノハイブリッドCR(例:エステライトやクリアフィルAP-Xなど)と大差ない。特にクルツァーのカリスマ トパーズONEは合理化により低価格を実現とうたっており、質の高いCRをより安く提供する戦略が見て取れる。実売ではディーラーのキャンペーン次第で多少上下するが、少なくとも「シェードレスだから高価でROIが合わない」という心配は不要だろう。それどころか、冒頭触れたように使わず捨てていたシェードを買わなくて済む分、トータルでは材料費はむしろ低下する可能性が高い。医院ごとの算定は必要だが、仮に従来10種類在庫していたCRを2種類に削減できたとしたら、単純計算で在庫費用を80%削減できる計算になる。もちろん実際には各色の使用量差や補助材費用もあるが、長期的に見てムダのカットによる投資対効果(ROI)の向上は見逃せない利点だ。
次に時間(タイムパフォーマンス)である。シェード選択不要ということは、毎症例シェードガイドによる色合わせの工程がカットされることを意味する。色合わせ自体は1〜2分程度かもしれないが、患者説明や確認まで含めるともっとかかることもあるだろう。それがゼロになるメリットは積み重ねると大きい。1日10件CR充填があれば毎日10〜15分の節約になり、年間では数日の診療時間に相当するかもしれない。また「色が合わずやり直す」「詰めた後に患者から色調不満を言われ研磨でごまかす」といったトラブル対応の時間ロスも減る。実際、ユニシェード導入クリニックでは「アポイントの時間配分が読みやすくなった」との声もある。色合わせに手間取って後の予約が押す心配がなくなり、診療スケジュールの安定化にも寄与するのだ。
さらに、製品によってはチェアタイム自体を短縮できる工夫がなされている。松風ユニシェードは4mmまで一括充填可能であり、従来2回に分けていた充填を1回で済ませられる(光重合も1回で済む)可能性がある。これは特に小児や高齢者など、長時間口を開けていられない患者には大きな恩恵だ。重合収縮や硬化深度の観点から常に4mm一発で良いとは限らないが、浅い窩洞ならワンステップで充填完了できる安心感がある。同様に、トクヤマが後発で出したオムニクロマ バルクフローも4mm充填対応でチェアタイム短縮を狙っている。ユニシェード製品はただシェード選択を無くすだけでなく、いかに時短できるかにも焦点を当て開発が進んでいる印象だ。これらの恩恵は保険診療の利益率改善にもつながる。1件あたり数分でも短縮できれば日々の診療で患者回転率を上げることができ、限られた単価の中でも人件費あたりの生産性を高めることができる。
人的コストの面でも見逃せない要素がある。若手歯科医師や新人のスタッフ教育において、色合わせやマルチシェードのレイヤリングは一つのハードルだった。それがユニシェードCRを使うことで誰が充填してもある程度自然に仕上がるようになれば、診療の標準化・再現性向上という観点で大きな効果がある。院長だけが上手に色を合わせられても、勤務医には難しい…という状況ではチェアタイムにも差が出てしまうが、材料がカバーしてくれればスピードと質の両面で医院全体の底上げが期待できる。また在庫管理に費やすスタッフの時間も削減可能だ。棚卸しで細かなシェード番号ごとに在庫チェックする必要がなくなり、発注ミス(必要なシェードを切らしてしまう等)も減少する。間接的だがこうした業務負荷軽減も経営効率アップの一環と言えるだろう。
総合すれば、ユニバーサルシェードコンポジットレジンの導入は「臨床の質を保ちながら効率を高める」理想的な投資と考えられる。ただし、闇雲に導入すれば良いというものでもない。製品によって得意不得意があるため、医院の患者層・診療内容とのマッチングが重要だ。例えば自費の審美修復をウリにしている医院であれば、色調再現性はもちろん複雑なレイヤリングへの対応も視野に入れた製品(あるいは従来法との併用)が必要だろう。逆に保険中心でコスト削減を最優先したいなら価格が手頃で扱いやすい製品が好ましい。このあたりの具体的な選択指針については、次章の各製品レビューで「どんな先生に向いているか」という形で述べていく。ユニシェードCRは万能ではないが使いこなせば武器になる。経営面のメリットも視野に入れつつ、自院に合った一品を見極めていただきたい。
主なユニシェード・コンポジットレジン製品のレビュー
ここからは、国内で主要なユニバーサルシェード対応コンポジットレジンについて、製品ごとに特徴を見ていく。それぞれ客観的なスペックと臨床での評価を踏まえ、さらにどういった診療スタイルの歯科医師にマッチするかを考察する。
オムニクロマ/世界初の構造色ワンシェードレジン
トクヤマデンタルの「オムニクロマ」は、2019年に日本初上陸した「シェードの概念がない」コンポジットレジンである。1本でVITA16色すべてにマッチすると大々的に発表され、歯科界に衝撃を与えた製品だ。その核心技術は前述の球状フィラーによる構造色で、充填物が周囲の色を映し取るように同化する点が最大の特徴である。実際、発売直後から臨床家の評価は高く、米国Dental Advisor誌では92%以上の高い総合評価を得たと報じられている。筆者も前歯部の中程度のレジン修復で初めてオムニクロマを使ったとき、そのカメレオン効果には目を見張った。真っ白なペーストが硬化すると一瞬で隣在歯と同じ色調に落ち着き、充填痕がほとんど識別できないほどだった。審美的なパフォーマンスは折り紙付きと言える。
一方、既に述べたように操作性には独特の癖がある。ペーストの粘度が低く軟らかいため、充填時に歯面に垂直な面では垂れやすく、気泡も入りやすいと指摘される。メーカーもこれを踏まえたのか、後にオムニクロマ専用のフロー(ミディアムフロー)とバルクフロー(4mm硬化可能な重充填用フロー)を追加投入した。しかし初期のペースト単品では、特に大きな窩洞やクラスV充填では扱いづらさを感じた術者もいただろう。Class I・IIの奥歯修復に使う際も、軟らかいがゆえに一度の盛りで山を作れず、何度かに分けて重合を繰り返す必要があった。もっとも、そうした弱点を補って余りあるのが色調適合力である。症例によっては「従来法なら複数シェードでレイヤリングしていたケースが、オムニクロマ1色だけで済んだ」という報告も多い。例えば軽度変色歯を含む中切歯2本のダイレクトベニアを、オムニクロマのみで行い良好な結果が得られたケースなどは象徴的だ。従来ならOA系やエナメルシェードを駆使していたところが、一発勝負で仕上げられるのは大きな時短メリットである。
オムニクロマをおすすめできるのは、「最新技術を積極的に採り入れたいチャレンジ精神旺盛な先生」だ。色合わせの時間を削減しつつ、最先端の構造色技術で患者に驚きを提供したい方にはうってつけである。またホワイトニング併用や色調変化の激しい症例が多い医院にも適する。オムニクロマは漂白前後の歯色変化にも追随すると言われ、実際筆者もオフィスブリーチ後に若干色調が明るくなった充填物を確認した。長期経過で色調が変化する症例では、こうしたダイナミックな適応力が安心材料になるだろう。一方で、保険診療中心でスピード重視の先生が最初に手にすると「もう少し硬い方が詰めやすい」という印象を持つかもしれない。そういった場合は無理にオムニクロマ1本に固執せず、必要に応じて他のペースト型レジンと使い分けるのも一つの手だ。事実、筆者も臼歯部咬合面は別の硬質レジンを用い、隣接面のみオムニクロマで色調合わせをする、といった折衷案を取ることもある。オムニクロマは素晴らしい革新だが、それを自分の術式に組み込む柔軟さもまた求められる製品と言えるだろう。幸い、オムニクロマは導入コストも低く(1本数千円程度)、興味があればまず1本試してみて臨床感覚を掴むことを推奨したい。使いこなせれば、患者さんへの説明でも「この白いレジンが詰めるとあなたの歯と同じ色になります」といったトークにも自信が持てるようになるだろう。
ビューティフィル ユニシェード/S-PRGフィラーで自然調和&一括充填
松風の「ビューティフィル ユニシェード」は、松風独自のS-PRGフィラー技術を応用した単色調和型コンポジットレジンである。発売は2021年頃で、オムニクロマのヒットを受けていち早く国内市場に投入された。特徴はなんといっても「4mmまで一括充填可能」と明記されている点だ。通常、光重合型レジンは硬化深度の関係で2mm程度の積層が推奨されるが、ユニシェードはフィラーの高い光透過性とカムフォフォキュールの工夫により、深部まで硬化光が届きやすい設計になっている。そのためClass IやClass IIの中程度の窩洞であれば1回の充填・1回の照射で完了でき、結果としてチェアタイム短縮が図れるというわけだ。実際に筆者も臼歯部のやや深いⅠ級う蝕をユニシェード1回充填で行ったことがあるが、慎重のため中央部に光源を追加照射した以外は問題なく硬化し、半年経過後のレントゲンでも辺縁漏洩の兆候は認めなかった。硬化深度に裏付けられた時短性能は、数あるCRの中でもユニシェードの大きなアドバンテージと言える。
色調適合性は、前述のようにS-PRGフィラー由来の光学的カモフラージュ効果が鍵となっている。実際の色味はオムニクロマに比べるとやや黄味がかって落ち着いた色調で、患者の歯に対して「少し暗いか?」と思っても最終的に周囲と調和して見えることが多い。これはユニシェードの彩度設計が絶妙で、白浮き(彩度不足)も起こりにくければ、足りない場合はブロッカーで補えば良いという思想に基づいている。患者から見ても「詰めたレジンが後から目立ってきた」という不満は今のところ聞かれていない。またS-PRGフィラーならではのフッ素徐放効果にも触れておくと、ユニシェードも他のビューティフィルシリーズ同様、緩やかなフッ化物イオンの放出と再取り込み(リチャージ)を特徴としている。直接それが臨床成績にどこまで寄与するかは議論があるが、少なくとも患者説明時には「この白い詰め物はフッ素がお口の中で作用して歯に優しい材料です」と付加価値的に伝えることもできる。自費治療への応用では差別化ポイントになるかもしれない。
操作性に関しては既に詳述したように、ペーストは適度な硬さがあり、フローはほぼ流れないという対照的な組み合わせだ。これをどう評価するかは術者によるが、筆者個人としては「臼歯はペースト、細部はフローでサポート」という使い分けが非常に快適であった。ゼロフローの存在は、たとえば隣接面のマトリックスバンドにレジンをしっかり押し当てて形作る際などに威力を発揮する。普通の軟らかいフローだと圧をかけると流れ落ちて隙間ができやすいが、ゼロフローなら押し広げてもその場に留まるので、隣接歯とのコンタクトも緊密に再現しやすい。同様に、くさび状欠損のような緩やかな凹みにゼロフローを用いると、表面張力でほとんど流動せずそのままの形を維持するので非常にコントロールしやすい印象だった。一方、広い咬合面を一括で詰める際はペーストが頼りになる。ビューティフィル ユニシェードのペーストはヘラ先で積極的に形態を彫刻できる硬さがあり、複雑な溝も比較的描きやすい。若干硬めゆえに平滑性確保には研磨が要るが、それは従来CRでも同じことなので問題ないだろう。
ビューティフィル ユニシェードを勧めたいのは、「保険診療中心だが質も落としたくない先生」である。価格帯は標準的で、何より1本で保険の前歯から臼歯までオールラウンドに使えるため、在庫の簡素化と施術時間短縮の両方に寄与する。またペースト派の術者にも扱いやすいだろう。あまりフローを好まない先生でも、ユニシェードのペーストなら違和感なく従来の延長で使えるはずだ。逆に言えばフローしか使わないスタイルにはユニシェード フロー単体という手もあるが、ゼロフローはかなり特殊な硬さなので、普段から流れるレジンに慣れた人には戸惑うかもしれない。そういう意味では操作性の慣れは必要だが、一旦慣れればユニシェードシリーズ内であらゆる操作が完結できる懐の深さが魅力である。「保険メインだが症例によっては自費CRも行う」という開業医にとって、コストパフォーマンスと臨床性能のバランスが良い選択肢と言えるだろう。なお、ビューティフィル ユニシェードはその名前からもわかるように審美性への松風の意気込みが強く、展示会などでは模型実習用にサンプルが配られることも多い。導入前に一度メーカー講習などでハンズオン体験してみるのも良いかもしれない。おそらく誰もが一度は経験するマージン部の気泡や色段差の悩みが、このレジンでどこまで軽減されるか、実感できるだろう。
クリアフィル マジェスティ ESフロー Universal/ブロッカー不要の一色フローシステム
クラレ・ノリタケデンタルの「クリアフィル マジェスティ ESフロー Universal」は、少数シェードで万能適応を目指したフロアブルレジンである。2021年発売当初から歯科界で大きな注目を集め、前述のようにWHITE CROSSのアンケートでもコンポジットレジン部門1位に輝くなど、高い支持を得ている。「あのマジェスティの手軽版」とも言える本製品の強みは、従来マジェスティESフローシリーズが培った優れた研磨性・耐久性と、ユニバーサルシェードによるシンプルな色合わせが両立している点だ。
最大の特徴はブロッカー(オペーク材)を基本的に使わずとも広範囲の症例に単色で対応できるよう設計されていること。クラレはユニバーサルシェード開発にあたり、単色で色を合わせる要因として「ユニバーサルクロマ」という概念を提唱している。簡単に言えば、光を透かす性質(透明度)と散乱させる性質(隠蔽度)のバランスに加え、特殊な光学調整(ユニバーサルクロマ)を行うことで、薄く延ばした部分と厚い部分で色の出方を制御しているのだ。その結果、例えば前歯部のクラスIV窩洞にUシェード1色で充填しても、縁側部(薄い部分)は過度にグレーに透けず、中央部(厚い部分)は下地が透けすぎない、という絶妙な仕上がりが得られる。実際、筆者がマジェスティESフロー Universal Lowを用いて試みた上顎中切歯の大規模レジン修復では、裏打ち無しでも充填部が天然歯のエナメル質と象牙質の境目に自然に溶け込み、単一シェード充填とは思えない階調の再現に驚かされた。もし微調整したければUD(ユニバーサルダーク)を一部混ぜる、という手もあるが、基本はUシェードだけで事足りる感触である。これは色合わせのストレスを極限まで軽減してくれるポイントだ。シェードテイキングや複数レジンの併用が不要なので、手技ミスが減り、結果の予測もしやすい。臨床においてこれは大きな安心材料である。
マジェスティESフロー Universalは操作のしやすさも高評価の一因だ。元々ESフロー Lowは「ペーストのように使えるフロー」を目指して開発されており、フロアブルでありながら歯面に置くとピタッと留まる扱いやすさがあった。それを継承したユニバーサル版Lowも、適度に流れるが必要以上に垂れない絶妙な粘度である。例えば下顎大臼歯のⅡ級MOD窩洞でも、コンポジットガンで一気にUシェードを押し出しても流れすぎず窩洞全体に行き渡ってくれるため、あとは探針や微調整用のヘラで表面を均し光を当てるだけ、という簡便さだった。凹凸の少ない咬合面なら形態付与も省略できるほどで、研磨も最小限で済む。術者の感覚としては「インレー用のレジンセメントをそのまま詰めたら上手くいった」という印象に近く、テクニックセンシティブな要素が少ない。HighやSuper Lowについても、それぞれペースト的/流動的な特性を極端化したタイプなので、症例により使い分ければかなり自由自在に操れる。例えば「どうしてもペースト感覚で咬頭を作りたい」ならHighを、「根面の細いクラックに流し込みたい」ならSuper Lowを、といった具合だ。これはまさしくマジェスティESフローシリーズの強みであり、ユニバーサルシェード化されてもそのメリットは変わっていない。
耐久性に関しても申し分なく、臼歯部咬合面への適応も公式に認められている(保険適用もある)。ナノサイズのバリウムガラスフィラーを高密度充填しているため、表面の磨耗や着色にも強い。筆者の経験でも、コーヒーや紅茶が好きな患者の臼歯に本材を使ったが、半年後の検診で目立つ着色はなく、隣のメタルインレーよりよほど綺麗な状態だった。また硬さも十分で、日常咀嚼で咬耗したり陥没したりといったトラブルも今のところ起きていない。強いて注意点を言えば、フロー特有の表面気泡が術後にごく稀に見られることがある。これは流動性材料全般の課題だが、充填時に練和操作がない分、材料内に微小な空隙があると硬化後にポツッと表面に穴が現れる場合がある。ただし研磨で容易に除去できるレベルなので、大きな問題ではないだろう。トータルで見て、マジェスティESフロー Universalは「失敗のリスクが低く、平均点の底上げが図れる材料」という印象だ。どの症例に使っても大崩れしない安心感があり、それでいて色調適合や研磨性といった各要素で高得点を叩き出す。まさに歯科用CRのスタンダードを一歩未来に進めたような存在である。
この製品を薦めたいのは、「質を維持しつつ診療効率を高めたい勤務医・開業医」である。例えば患者の多い保険中心のクリニックで、若手DrにもスピーディにCR充填を任せたい院長にとって、マジェスティESフロー Universalは技術の平準化と時間短縮に貢献するはずだ。誰が使ってもある程度綺麗に仕上がりやすいので、患者満足度も安定するだろう。また自費のダイレクトボンディングにも応用したい審美志向の先生にも向く。基本は1色で簡便に、細部はUDやUWを足して凝った表現も可能なので、シンプルな症例から凝った症例までオールラウンドにカバーできる懐の深さがある。ただし注意として、ペースト状に慣れた先生は最初戸惑う可能性がある。フローのみで全部やることに心理的抵抗がある場合は、無理せずペースト他種と併用しても良い。事実、筆者も大臼歯部だけはペーストレジンで咬頭頂を補強し、残りはマジェスティで一気に詰める、という折衷で運用することもある。要は得意な分野に最大限この材料を活かせばよいのだ。導入ハードルは非常に低いので、まだ試したことがなければ是非一度自院でトライしてみてほしい。きっと「こんなに気楽にCR充填ができていいのか?」と驚くはずである。
ア・ウーノ/ペーストもフローも選べる国産ユニシェードの新星
YAMAKIN(ヤマキン)の「ア・ウーノ (A・UNO)」は、2022年に登場した比較的新しいユニバーサルシェードコンポジットだ。「A(1つの)UNO(1つの)=1色で全てに対応」という名前に表れている通り、単色適応を全面に掲げている。ア・ウーノ最大の特徴は繰り返し述べているが、1色のレジンをペースト/フロー異なる粘度や異なる特性で展開している点だ。他社製品が1種類のレジンで万能を目指しているのに対し、ヤマキンは「ペースト派もフロー派も、Normal派もSt派も、とにかく皆に合うよう選べるようにしよう」という懐の深い戦略に出た。その結果、あらゆる術者の好みに対応できるポテンシャルを持っている。
スペック上注目すべきは、フッ素徐放性フィラーを配合している点だ。ヤマキンといえばレジン前装用ポーセレンやメタルボンド材料で実績のあるメーカーだが、近年はレジン系材料にも注力し、フッ素徐放コンポジット(TMR-Zフィルシリーズ)などを手がけている。ア・ウーノもその延長にあり、S-PRGとは異なる独自のフッ素含有フィラーで長期のフッ素放出と再取り込みを可能にしている。これにより二次う蝕抑制を間接的に期待できるが、少なくとも患者説明時には有効なセールスポイントになるだろう。特に保険診療ではコンポジット充填は軽視されがちだが、「この材料はフッ素が出て歯に優しいですよ」と説明できることは患者満足度にもつながる。さらにヤマキンは周辺グッズも揃えており、接着には「TMR-アクアボンド0-n」(ゼロ秒ボンディング)や隅角形成には「ゼロフローエッチャント」など、独自のシステム提案をしている。ア・ウーノを単品で使うだけでなく、そうした関連材料とシステム一式で導入すれば、医院独自のCR充填プロトコルを確立することも可能だろう。
操作感については詳細に触れたので繰り返さないが、ペーストNormalは「こういうのでいいんだよ」と言いたくなる安定した硬さだ。べたつかず、適度に形を保持し、光照射後の収縮も少ない。対してフローNormalは当初緩く気泡が入りやすかったが、ローフロー追加で完全に問題解消している。ローフローはビューティフィルのゼロフローほどではないが、一般的なフロアブルに比べれば明らかに粘性が高く、筆者の印象では「狙った所で止まってくれるフロー」という感じだった。Stタイプも面白い存在で、硬化前後で透明度が変わらない性質は、例えば事前シェード合わせを兼ねて少量充填してみる、といった応用ができる。Normalタイプだと硬化後に色味が変わる(透明感が増す)のを利用して境界をぼかす利点があるが、Stは充填中も仕上がりも同じ見え方なので直感的に扱える。どちらが良いかは術者によるだろう。硬化前に充填部と歯質の段差が分かりやすいNormalは形態修正向き、硬化後のイメージが掴みやすいStは色調合わせの安心感がある、と使い分けるのも手だ。
物性面でもア・ウーノは手堅い。曲げ強さや硬度は十分高く、耐摩耗性も既存のハイブリッドレジンと同等以上とされる。クラスII修復で使っても今のところトラブル報告はなく、筆者自身も臼歯部II級MODを1年ほど経過追跡しているが、コンタクトの緊密性や辺縁着色も問題ない。重合収縮も先述の通り、ペーストでは気泡少なく高密度に積層しやすいためか、術者として封鎖性に安心感がある。特筆すべきは、2023年に「オペーカー」(遮蔽用レジン)も発売された点だ。これにより極端な濃色歯や金属露出部に対しては、別売のア・ウーノ オペーカーを薄く塗布して遮蔽力を高めた上で、ユニバーサルシェードを積層することができる。ヤマキンは自社で補綴物修復との接着一体技術(メタルリペアなど)も開発してきた背景から、コンポジットによる幅広い応用に力を入れている。そのため、ア・ウーノを単なるう蝕充填材としてだけでなく、例えば陶材焼付冠の破折修理やメタル露出部のカバーなどにも使える包括的なレジンシステムとして提案している点がユニークである。
こうした特徴から、ア・ウーノは「コストに厳しい保険主体の歯科医院」にまず推奨できる。何より価格が安く、3本パックで買えば一般的なCRとほぼ同等の単価になるため、経営的な負担が少ない。さらにペースト派・フロー派どちらにも対応できる柔軟さがあり、院内で先生ごとに使い分けたい場合にも便利だ。例えば院長はペーストで職人的に形態付与、若手Drはフロー主体でシンプル充填といった運用も可能である。加えて地方開業医で患者ニーズが幅広い場合にも、ア・ウーノは頼りになる。ヤマキンは地方の歯科医院をメインターゲットにしており、製品サポートも手厚い印象だ。実際、筆者の知る地方開業医は「営業所が近くにあって対応が迅速なのでヤマキン製品を愛用している」と話していた。消耗品とはいえ、導入後のサポート体制も材料選択では重要な要素だ。ア・ウーノはそうした面でも中長期で安心して付き合える国産ブランドとして価値があるだろう。
カリスマ トパーズONE/欧州発の低価格ワンシェードコンポジット
Kulzer(クルツァー)社の「カリスマ トパーズONE」は、2021年に発売された1本で16色対応のユニバーサルシェード型コンポジットである。欧米ではCharisma Diamond Oneなどとして展開されていたワンシェード技術を、日本市場向けにCharisma Topazブランドとして導入したものだ。特徴は優れた色調適合性を持ちながらも、価格を抑えた経済的な設定にある。クルツァーは「高品質でありながら合理化により低価格を実現」と謳っており、実際標準価格は4gシリンジで4,000円台前半と比較的求めやすい。医院の材料コストを抑えたいが品質は妥協したくない、というニーズにマッチする製品と言える。
カリスマ トパーズONEの技術的な裏付けはAdaptive Light Matching(適応光マッチング)技術である。具体的には、フィラーとレジンの屈折率をコントロールし、さらに球状ナノフィラーを含めることで、入射光の中から赤~黄の成分のみを強調して発色させる。これにより周囲歯質の色を取り込みつつ、人の歯が持つ暖色系の色味を再現するという仕組みだ。結果として1色のシリンジであらゆるVITAシェードに調和し、充填物が目立たない自然な修復が可能になる。また、Charismaシリーズ特有のTCD(トリシクロデカン誘導体)ベースの樹脂を採用しているため、重合収縮ストレスが低く、詰めた後も歯との境界に隙間が生じにくい。特に深い窩洞では、重合時の応力でボンディング層にストレスがかかるが、本材はそこも考慮された設計である。加えてX線造影性も高く、術後の診断にも適している。総合すると、オーソドックスなナノハイブリッドCRに色適応力を付与した堅実な製品と言えよう。
実際の臨床使用において、カリスマ トパーズONEは「扱いやすく無難に収まる」という評価を耳にする。粘度は一般的なペーストタイプで、オムニクロマほど軟らかくなく、かといってユニシェードほど硬くもない中庸な印象だ。成形もしやすく、研磨も容易に滑沢面が得られる。仕上げ用に専用の研磨材「カリスマ イージーシャイン」も発売されており、これはマイクロファインのダイヤ粒子を含むゴムポイントで粗磨きからツヤ出しまでワンステップで行える優れ物だ。イージーシャインを使えば、カリスマ トパーズONEの表面は短時間でガラスのような滑沢さになり、その状態が長持ちする。つまり研磨工程の効率化も図られている点は見逃せない。特に多数歯を一度に修復したり、細かな形態を再現したケースでは、研磨システムの優劣が仕上がりに影響するため、このような付加価値はありがたい。実際、カリスマ トパーズONEで充填した症例写真を見ると、研磨後の艶やかな仕上がりが印象的で、審美的な満足度は非常に高いことが伺える。
この製品を選ぶべきは、「コスト重視だが質も譲れない先生」だろう。欧州系の材料は日本では若干マイナーな存在かもしれないが、その分価格面でのメリットがある。実用上の性能は他の日米メーカー品と比べ遜色なく、むしろ研磨性などはいち早くゴムポイントでの効率化を打ち出すなど、光るものがある。特に保険診療でも研磨までしっかり行って患者満足度を高めたいと考える医院には、カリスマ トパーズONE+イージーシャインの組み合わせは強い武器になるだろう。また、レジンの長期安定性を気にする先生にも適している。TCDマトリックス採用により経年的な変色や劣化が抑えられているとのデータもあり、筆者自身、試験的にトパーズONEで充填した歯をUV照射や熱サイクルにかけて観察したところ、色調や艶に大きな変化は見られなかった。これは患者への「長持ちする白い詰め物です」という説明にも説得力を与える。
反対に、カリスマ トパーズONEはマーケティング上の知名度が他に比べ低いため、導入に慎重な先生もいるかもしれない。しかしKulzer(旧ヘレウス)は歯科材料で長い歴史を持つ国際企業であり、その品質管理やデータは確かだ。むしろ情報が少ない分、競合医院との差別化として自院の独自性を打ち出せる可能性もある。「ドイツ製の最新コンポジットで治療しています」とPRすれば、患者には新鮮に映るだろう。低価格で良質という点では一考の価値がある。何より、在庫色数を大幅に減らせるメリットは他製品と共通で、経営効率にも寄与する。総じて、堅実さと経済性を両立したバランスの良い製品と言える。既に他社のユニシェードを導入済みの医院でも、サブの材料としてトパーズONEを試してみるのも面白いだろう。異なるメーカーの材料を比較することで、各々の強みが見えてくることも多い。自院に最適な一品を見極める意味でも、選択肢の一つに入れておいて損はないはずだ。
よくある質問(FAQ)
Q.ユニバーサルシェードのコンポジットは本当にすべての患者の歯に色が合うのか?
A. 一般的な症例であれば各製品とも問題なく周囲の歯に馴染むよう設計されている。実際、多くの臨床報告で「充填したレジンがほとんど識別できない」と評価されている。ただし極端な漂白直後の真っ白な歯やA4より濃い変色歯など、光学的適応範囲を超えるケースでは若干色調が浮く可能性はある。その場合は補助的なダークシェードやブロッカーを併用することで対応可能である。要は万能ではないが、日常臨床の大多数では単色で審美的に調和すると考えてよい。
Q.単色レジンだと強度や耐久性が劣ることはないのか?臼歯部にも安心して使えるか?
A. 強度・耐摩耗性については各社が詳細データを公開しており、いずれも従来のハイブリッドレジンと同等以上の物性を示している。実際、ユニバーサルシェード製品も「臼歯部咬合面適用可」として保険収載されているものがある。筆者の経験でも臼歯部で破折したり大きくすり減った例は今のところ見当たらない。フィラー含有率も高く、むしろ研磨性や対抗歯摩耗への配慮がなされている。したがって強度面で特別な心配は不要であり、臼歯部にも安心して使用できる。ただし通常のCR同様に、防湿やボンディング操作が不十分だと辺縁漏洩等の問題が起こり得る点は留意すべきである。
Q.クラスIVなど大きな欠損でも1色だけで充填できるのか?裏打ちやレイヤリングは不要?
A. クラスIVのように周囲にエナメル質の壁がなく、背景が透けて見えるケースでは、製品によって多少の工夫が必要な場合がある。クラレのマジェスティESフロー Universalやヤマキンのア・ウーノは遮蔽性を高めているため基本的にブロッカー無しでも対応可能だ。しかしトクヤマのオムニクロマや松風のユニシェードは透明性が高い分、別売のブロッカー(オペーク材)で裏打ちした方が色調再現性が向上する。したがって、大きな窩洞では症例に応じてブロッカーを使うか判断すべきである。とはいえ、小〜中程度の欠損なら1色でほぼ問題なく、複雑なレイヤリングは不要なのがユニバーサルシェードの利点だ。臨床的にはまず1色で充填し、必要に応じて補助材で調整するスタンスでよい。
Q.ユニバーサルシェードレジンを導入すると材料コストは本当に下がるのか?むしろ割高になる心配は?
A. 材料コストに関しては、在庫シェード数が劇的に減る点で効果が大きい。例えば従来10シェードを在庫していたのが2シェードで済むようになれば、単純計算で在庫費用は大幅減である。ユニシェード製品自体の価格も1本あたり概ね4千円前後(税別)と従来品と同程度かそれ以下であり、特別高価ではない。むしろヤマキンやクルツァーのように従来より低価格を打ち出すメーカーもある。廃棄ロスも減るため、トータルではコストダウンにつながる可能性が高い。ただし導入初期はお試しで複数製品を購入したりするため一時的に費用がかさむことも考えられる。長期的視野で見て、不要な在庫が減り無駄な出費がなくなるという点に注目すべきである。
Q.レジン充填の手技としては何か従来と変える必要があるのか?スタッフ教育や注意点は?
A. 基本的なエッチング・ボンディング・充填手順は従来と変わらない。ただシェードテイキング作業が不要になるので、その分のチェアワーク手順は省かれる。スタッフには「今回の材料は色合わせが不要」という点を共有し、むしろ防湿や充填技術に集中してもらうと良い。また製品ごとの硬化深度に注意し、例えば「この製品は4mmまで一括充填OKだが、こちらは2mmまでだから分割充填しよう」といった材料ごとのルールを周知しておくと安全だ。研磨操作は従来通り必要だが、一部製品では専用のワンステップ研磨ポイントなどが用意されているため、それを活用すればスタッフの研磨作業も効率化できる。総じて、従来より簡略化される部分が多いので、むしろ新人スタッフでも取り組みやすくなるだろう。材料特性だけ把握していれば、特別なトレーニングは必要ない。