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Ivoclar(イボクラールビバデント)のコンポジットレジンを比較!評判や価格、購入方法は?

Ivoclar(イボクラールビバデント)のコンポジットレジンを比較!評判や価格、購入方法は?

最終更新日

う蝕の充填でこんな悩みはないだろうか。マージン部に小さな気泡が入り、再度やり直す羽目になったこと。隣接面の調整に手間取ってチェアタイムが想定以上に延びてしまったこと。治療後、患者から「詰め物の色が合っていない」と指摘されて冷や汗をかいた経験──臨床現場では誰しも一度は直面する課題である。

直接修復に用いるコンポジットレジンは、臨床結果だけでなく医院経営にも大きな影響を与える。充填物の品質が患者満足度を左右し、リピートや紹介につながる一方、充填操作に時間がかかりすぎれば回転率が下がり収益に響く。材料費も無視できない。本記事では、Ivoclar(イボクラール・ビバデント)社のコンポジットレジン製品に焦点を当て、それぞれの特徴を臨床面と経営面の両側面から客観的に比較検討する。長年の臨床経験から得た「現場の視点」と、経営コンサルタントとしての「収益性の視点」を統合し、読者が自身の診療スタイルに最適なレジンを選択する一助となる情報を提供する。

Ivoclar主要コンポジットレジンの比較早見表

以下に、Ivoclar社が日本国内で提供する主なコンポジットレジン製品を一覧にまとめる。それぞれの臨床適応、おおよその特長、価格帯(定価)、そしてタイム効率の観点を比較した。医院のニーズに応じた製品選定の第一歩として参考にしてほしい。

製品名(タイプ)主な用途・特長定価(税込)※時短効率
テトリック N-セラム(ユニバーサル)前歯〜臼歯の汎用修復/ナノハイブリッドで操作性良好、自然なカメレオン効果¥3,850(3.5g)通常充填(2mm積層硬化)
テトリック N-セラム バルクフィル(ユニバーサル・バルク)臼歯部4mm一括充填対応/特殊光重合開始剤Ivocerin®配合、照射深達性向上¥3,630(3.5g)時短◎(最大4mm一括硬化)
IPS エンプレス ダイレクト(高審美)前歯部審美修復向け/エナメル・デンチン・効果色の多層築盛システム¥9,460(3g)標準(2mm積層、多ステップ)
テ・エコノム プラス(経済的汎用)前歯〜臼歯の汎用修復/基本性能を備えたハイブリッド、コスト重視¥3,000前後(4g)通常(2mm積層硬化)

※定価は2025年現在の1本あたり税込価格(参考値)。実勢価格は仕入先や数量によって変動する。

比較のポイント:臨床性能と経営効率の両面から

コンポジットレジン選択にあたっては、審美性、物性・耐久性、操作性といった臨床的観点に加え、コストとタイム効率といった経営的観点も重要である。ここではIvoclar社の各レジンをこれらの軸で比較し、それぞれの違いが臨床結果と医院収益にどのように影響するかを考察する。

審美性の比較:色調再現性と仕上がりの美しさ

審美性において注目すべき点は、最終充填物がどれだけ自然歯に近い外観を再現できるかである。Ivoclarのレジン製品は総じて色調のカメレオン効果に優れ、周囲歯との調和がとれた仕上がりが得られる。例えばテトリック N-セラムは標準的なVITAシェードを網羅し、充填後は隣在歯になじむ傾向がある。実際、充填部と天然歯との境界がわからないほど自然に見えることもしばしばである。高審美志向のIPS エンプレス ダイレクトは、更に踏み込んでエナメル質用・象牙質用・効果色(透明感やオパール効果を付与する特殊シェード)を使い分ける多重築盛に対応する。複数の透光性レイヤーを積み重ねることで、切端のわずかな透明感やマメロンまで再現可能であり、審美性の要求が高い前歯部修復においてはコンポジットとは思えない調和を見せる。一方で、審美性特化の材料は色調選択と築盛手技に習熟が必要であり、忙しい診療で毎回フルレイヤリングを行うのは現実的でない場合もある。汎用タイプのテトリック N-セラムや経済的なテ・エコノム プラスでも、日常臨床で許容できる審美性は十分確保されている。特にテトリック系は充填後の光重合に伴い適度に不透明度が増し、表層研磨を施せば艶やかな光沢となる。日常の保険診療で多用しても、患者に「レジンだから見た目が悪い」と思わせない仕上がりを得やすいことは大きな利点である。

物性・耐久性の比較:強度と経年的な安定性

長期的に修復物が機能を果たすためには、コンポジットレジンの物性と耐久性が重要である。咬合圧への耐抗性、摩耗しにくさ、そして色調や光沢の経時的安定が求められる。Ivoclarのレジン群はいずれも高充填率のハイブリッド設計で、硬化後は高い強度と耐摩耗性を示す。テトリック N-セラムはナノフィラーとプレポリマー(事前に重合させた微小レジン粒子)フィラーを複合したマトリックスを持ち、重合収縮が低減されている。この設計により、術者が慎重に積層しなくても辺縁部のシールが確保しやすく、二次う蝕のリスク低減につながる。臨床的にも、5年以上経過観察しても適合や辺縁着色が良好に保たれているケースが多く報告されている。

テトリック N-セラム バルクフィルにおいて特筆すべきは、4mmの一括充填を可能にするための工夫である。通常、コンポジットレジンは硬化収縮による応力で深部の辺縁封鎖性が懸念されるが、バルクフィルでは重合ストレス緩和剤が配合され、従来の2mm積層充填と同等のシール性を確保することに成功している。また光重合開始剤としてIvocerin®(アシルゲルマニウム系フォトイニシエーター)を採用し、短時間の光照射でレジン深部まで確実に硬化させることができる。硬化時にはアセンシオテクノロジーによってレジンの透明度が徐々に下がり、未重合時には光を通しやすく、硬化後には歯質に近い適度な不透明度になるよう設計されている。これにより、厚み方向の深い部分までしっかり硬化しつつ、表層は自然な審美性と強度が得られる。一方、バルクフィルはシェードバリエーションが限定的(実質的にユニバーサルシェードのみで、多くの場合は多少変色歯にもマッチするIVAやIVBといった汎用色)である点には留意が必要だ。前歯部や色調にシビアなケースでは、最表層のみ通常のテトリック N-セラムで覆うといった応用も考慮される。

耐久性という観点では、IPS エンプレス ダイレクトも高い充填率により優れた機械的強度を持つ。高透過性のレジンは一般にフィラー含有量が低くなりがちだが、この製品ではフィラー粒子の形態制御により強度と審美性を両立している。結果として、前歯部だけでなく小臼歯や臼歯部への使用でも実用に耐える十分な強度を発揮する。ただしエナメル層・象牙質層を分けて築盛する場合、それぞれのレジン間にわずかな境界が残ると長期的に着色の起点となり得るため、緻密な充填テクニックが要求される。テ・エコノム プラスは信頼性の高い従来型ハイブリッドレジンであり、大きな欠点こそないものの、研磨後の光沢保持力や経年的な色安定性ではナノハイブリッドの新世代レジンに一歩譲る面もある。例えば数年経過後、表面の微小な磨耗や吸水によるわずかな変色が、高価な審美レジンに比べ起きやすい可能性がある。しかし保険診療の範囲で適切に管理された症例であれば、過度に懸念する必要はないレベルである。総じてIvoclarの各レジンはX線不透過性も高く、経過観察時のレントゲンでも充填部位の識別が容易で診断に資する点も信頼性に寄与する。

操作性の比較:ハンドリングとテクニック感受性

実際の臨床で扱いやすいかどうか、すなわち操作性も素材選択の重要な要素である。形態を付与しやすい適度な粘稠度か、器具への付着(ベタつき)は少ないか、十分な作業時間が確保できるか、といった点を比較する。

テトリック N-セラムはその操作性の良さで知られる。ペーストは適度にコシがあり、インスツルメント離れが良好であるため、窩洞内での形態修正がスムーズに行える。筆者自身、隣接面のコンタクトを再現する際にレジンが器具に引っ付き思うように形が作れない、といったストレスを過去に経験してきたが、このレジンではそうした場面が格段に減った印象である。また、通常の診療室照明下でも十分なワーキングタイム(約3分程度)が確保されており、焦って手早く操作する必要がないのも大きな利点だ。

テトリック N-セラム バルクフィルは、基本的なハンドリング特性はN-セラムに近いが、より流動性が高められている面がある。4mmもの厚みを一度に充填するため、適度に下層まで流れ込むことが求められるからだ。とはいえ決して軟らかすぎるわけではなく、咬合面の形態付与もペーストタイプゆえ問題なく行える。必要に応じて、深部にテトリック N-フロー バルクフィル(流動性タイプ)をライナー的に敷き、その上をペーストタイプで封蓋するという使い方も推奨されている。いずれにせよ、バルクフィルは一度の照射で完了できる利点と引き換えに、充填時に気泡を巻き込みやすいという課題が一般に指摘される。しかし、テトリック N-ラインではコンポジットの適度な流れと低ベタつき性により空気の巻き込みを抑制する工夫がなされている。臼歯部の広い窩洞でも、慎重に圧接すれば気泡レスの充填が比較的容易であった。

IPS エンプレス ダイレクトの操作性は、使いこなせば問題ないがテクニックセンシティブな側面がある。エナメル用レジンは透明度が高く若干粘度も硬めで、薄い層を引き伸ばすように盛るにはコツが要る。象牙質用は逆に不透明でやや軟らかく、厚めに盛った際の収縮応力に注意が必要だ。複数のレジンを扱うためシェードごとの硬化時間管理も必要になる(一般に各2mmずつ積層硬化)。研磨操作まで含めると、1本の修復にかける手間と時間は他のレジンに比べ大きい。しかし、細部にこだわる審美修復ではこの手間が価値を生む。エンプレス ダイレクトを扱う際は、事前にシェードの試適や造形練習を行い、慣れておくことが望ましい。対してテ・エコノム プラスは可もなく不可もなく標準的なペースト硬度で、多湿環境でも極端にべたつくこともない。特筆する操作上の注意点は少ないが、強いて言えば硬化時間や照射光量にシビアすぎる材料ではない分、表層の完全硬化には十分な光照射が必要である。これは他のレジンでも同様だが、経済品だからといって硬化が甘いと軟化・変色の原因となるため注意したい。

コストとタイムパフォーマンス:ROIに直結する要素

最後に、経営の観点から見逃せないコストとタイムパフォーマンスについて比較する。まず材料コストだが、各製品の定価は早見表に示した通り大きな幅がある。IPS エンプレス ダイレクトは1シリンジあたり約9千円と高価で、一方テトリック N-セラムは約4千円弱、テ・エコノム プラスはさらに廉価で約3千円程度で入手可能だ(いずれも税抜価格ベース)。しかし実際の1症例あたり材料費に換算すると、その差は劇的ではない。例えば小さなII級窩洞で0.1gのレジンを使用したとすれば、エンプレスで約300円、テトリックで約100円、エコノムで80円程度と見積もられる(実売価格によって上下するが概算として)。この数百円の違いを高いとみるか微々たるものとみるかは、医院の方針次第である。保険診療メインでとにかく材料費を抑えたい場合、エコノムや他社のエコノミーレジンに軍配が上がるが、自費治療や審美治療を積極展開するならば、多少コストが上がっても患者満足度向上によるリターンが見込めるエンプレス系を用いる戦略も合理的である。

一方、タイムパフォーマンスの差は経営に直結しやすい。顕著なのはバルクフィルの存在だ。テトリック N-セラム バルクフィルを用いれば、従来3回に分けていた充填・重合が一度で済むため、充填工程の時間を最大約半分に短縮できるとされる。特に大きなII級窩洞やMOD修復では効果が大きく、チェアタイムに換算すれば数分から十数分の短縮が期待できる。1日に何本ものレジン充填を行う保険診療主体のクリニックでは、この数分の積み重ねが1日のアポイント枠をひとつ増やす可能性すら生む。回転率が上がれば、その分だけ収益性も向上する計算である。ただし、タイムパフォーマンスは単に硬化時間だけでは測れない。エンプレス ダイレクトのように一見手間のかかる材料でも、それを使うことで「自費診療」という新たなメニューを提供できるのであれば、長期的な収益拡大に寄与する。実際、保険ではなく審美目的の自費コンポジット修復(ダイレクトベニア等)を導入し、患者1人当たり単価を上げて成功している開業医も増えている。重要なのは、自院の診療スタイルと患者層において、どのような価値提供が可能かを見極めることである。スピード重視で回転率を最大化すべきか、クオリティ重視で単価アップを図るか、その戦略に応じて最適な材料選択も変わってくる。

製品別レビュー:Ivoclarコンポジットレジンの特徴と適合するケース

以上の比較ポイントを踏まえ、Ivoclar社の代表的なコンポジットレジン製品ごとに詳細なレビューを行う。それぞれの強みと弱みを客観的に評価し、どのようなニーズ・価値観を持つ歯科医師に向いているかを考察する。

テトリック N-セラムは汎用性に優れた日常診療のエース

テトリック N-セラムは、前歯から臼歯までオールラウンドに使えるユニバーサルコンポジットレジンである。その最大の特長はバランスの良さにある。適度な硬さと粘りで形態付与がしやすく、それでいて術者の操作を邪魔しない扱いやすさを備える。実際の充填操作では、器具からペーストが糸を引いて伸びてしまうような煩わしさがほとんどなく、充填したい部位にピンポイントで留まってくれる感覚がある。また先述のように、配合されたプレポリマーフィラーにより重合収縮が抑制されており、単回充填でも安心感が高い。筆者が本材を初めて使用した際、充填後の研磨で驚いたのは、その研磨性と光沢である。数分間ラバーポイントとバフで磨いただけで、まるで陶材のグレーズのような艶が出た。これはフィラー径の最適化と高充填による効果で、患者からも、レジンでも歯がこんなにツルツルになることに驚きと喜びの声が聞かれた。もちろん経年的な光沢保持は症例環境によるが、半年〜1年程度の短期ではほぼ光沢低下や着色は感じられない。

一方、テトリック N-セラムにも弱点はある。それは突出した個性がない点である。言い換えれば「無難に何でも平均点以上」なのだが、裏を返せば飛び抜けた特徴を求める向きには物足りなく映るかもしれない。例えば、審美性ではエンプレス ダイレクトほどの精巧な再現力はないし、硬化時間短縮ではバルクフィルほどのインパクトはない。しかし日常の保険診療において、それら「尖った良さ」が本当に必要なケースは実は多くない。テトリック N-セラムは極端な長所短所がない安定感こそが最大の持ち味であり、結果としてオールマイティに使える。保険内でクオリティと効率のバランスを重視する先生にとって、本材はまさに「診療のエース」となり得る存在だろう。実際、市場シェアにおいても同社の他製品や競合他社製品と比べ上位に位置しており、多くの臨床家から「困ったときはテトリックに頼る」と信頼を勝ち得ている。

テトリック N-セラム バルクフィルは時短ニーズに応える4mmレジン

テトリック N-セラム バルクフィルは、上述のテトリック N-セラムの「使いやすさ」を受け継ぎつつ、一度に4mmまで充填可能という効率性を両立したレジンである。開業医にとって、「いかに早く確実に充填を終えるか」は日々の課題だ。特に深いII級窩洞では、通常3〜4層の積層硬化が必要で、隣接面マトリックスの安定や各層の適切な築盛に神経を遣う。バルクフィルを使えば、基本的には1層でほぼ充填完了するため、こうした煩雑さが大幅に軽減される。実際に筆者がバルクフィルを初めて臼歯部に用いた際、通常ならコンタクト形成→充填・照射→再度充填…と繰り返すプロセスが、一発の照射で済んだことに強いインパクトを受けた。時間にしてみれば数分程度の短縮かもしれないが、精神的負担は明らかに減少し、「もう次の患者さん?まだこんなに余裕がある」とスケジュールにゆとりを感じたほどだ。

バルクフィルの強みは何と言ってもこの時短性能だが、加えて確実な硬化深度と許容できる物性を両立している点も重要だ。前述のIvocerin®や重合制御技術のおかげで、4mmでも隅々まで硬化していることが確認できるし、実際の咬合調整で軟らかさを感じることもない。むしろ、わずかに透光性が高い分、厚みがある箇所ほど硬化後に奥行き感のある見た目となり、臼歯部であれば審美的にも気にならない仕上がりである。ただし弱みとして、色調の微調整が効きにくい点は否めない。シェードは限られており、例えば漂白歯のようなケースや、小さなクラスIII修復で隣接する前歯と色を厳密に合わせたいケースでは、本材単独では難しい。そうした場合には通常のテトリック N-セラムやエンプレス ダイレクトを用いるのが賢明である。また、バルクフィル特有の留意点として十分な光量の光重合器が必要なことが挙げられる。推奨は高出力LEDで10秒程度の照射だが、もし旧式のハロゲンライト等を用いている場合は、深部までの硬化が甘くなる危険がある。この点は本材に限らず他社のバルクフィルでも共通なので、導入の際には光重合器の性能チェックも並行して行いたい。総合すれば、テトリック N-セラム バルクフィルは保険診療のスピードアップを図りたい歯科医師にとって強力な武器となる。短時間であっても質の高い治療を提供することで、患者の回転率アップや予約の滞り解消に繋げたいと考える経営志向の先生には最適な選択肢だ。

IPS エンプレス ダイレクトは究極の審美を叶える多層レジン

IPS エンプレス ダイレクトは、Ivoclar社が陶材ブランド「IPS エンプレス」の名を冠して開発した、高審美志向のコンポジットレジンである。その強みは何といっても、天然歯に迫る審美再現性だ。前述の通り、本材は複数の異なる光学特性を持つシェード(エナメル、デンチン、トランスルーセント、エフェクトカラー)を組み合わせて使用する前提となっている。例えば中程度の色調の前歯を修復する際、やや不透明な象牙質シェードで内部を築盛し、その上に透明感のあるエナメルシェードを薄くラッピングすることで、内部から滲み出るような自然な色調と奥行きを表現できる。光の透過と反射を各層でコントロールするこの技法は、経験を積めばベニアやクラウンに匹敵する美しさをダイレクトに実現しうる。実際、筆者の知るある審美歯科医は、「正しい症例選択さえすれば、エンプレス ダイレクトで作ったレジン前装は10年経っても患者にセラミックと見分けがつかない」と述べている。それほどまでに仕上がりを追求できるポテンシャルを秘めた材料なのだ。

しかし弱みも明確で、それは手技の煩雑さとコストである。多色築盛には高い審美眼と技術が要る上、使用するレジンの種類も増えるため管理が大変だ。各シェードは3gと少量でも1本数千円するため、フルセット揃えると初期投資額も他のレジンの数倍となる。保険診療でこれを惜しげもなく使っていては材料費倒れになる恐れがあるため、通常は自費診療枠での使用が現実的だろう。だが、逆に考えれば本材は「高付加価値診療」を可能にする道具とも言える。保険の範囲ではミラーでよく見ればわかるレジン充填も、自費でより完璧な審美修復を望む患者にはエンプレス ダイレクトによるアプローチを提案できる。実際、そのような選択肢を提示することで患者満足度と医院収益を両立しているケースもある。つまり本材は、審美にこだわる歯科医師にこそ真価を発揮する。「自分はレジンでも美しく治せる」という美学を持ち、患者にもそれを提供したいと考える歯科医師には、この材料は強い味方となるはずだ。逆に言えば、審美的ニーズの少ない地域で保険中心に大量の症例をこなすスタイルの先生にとっては、宝の持ち腐れになりかねない。各医院のターゲットとする診療領域次第で、評価が大きく分かれる製品と言える。

テ・エコノム プラスはコスト重視の頼れるスタンダード

テ・エコノム プラス(Te-Econom Plus)は、その名が示す通り経済性に優れた汎用コンポジットレジンである。Ivoclar社の中ではエントリークラスに位置づけられる本材だが、決して侮れるものではない。長年世界各国で使用されてきた実績があり、基本的な物性(強度・耐摩耗性など)は十分に確保されている。筆者も実験的に数症例で用いたことがあるが、操作感はオーソドックスなミクロハイブリッドレジンそのもので、特段扱いにくさは感じなかった。研磨後の光沢はナノフィラー配合のレジンに一歩譲るものの、肉眼的には問題なく、患者から見ても違和感のない修復物が得られた。何より低コストゆえに、材料をふんだんに使える安心感がある。例えば大きな欠損であっても「材料費が高いからレジン充填を避けて補綴に誘導しよう」などと考える必要がなく、自由に選択できるのは開業医にとって気楽な点だ。

テ・エコノム プラスの弱みを挙げるとすれば、最新技術による付加価値が少ない点であろう。Ivoclarのプレミアム製品が備えるような特殊フォトイニシエーターや多彩なシェード展開、洗練されたペースト質感などは、本材では割り切られている。そのため、例えば厚みがある充填では2mm以下の積層が必須であり、硬化に時間がかかる。色調も主要なシェードのみで細かな調整は難しい。言ってしまえば「昔ながらのレジン」なのである。しかし裏を返せば、大きな癖がなく万人に扱いやすいとも言える。特に若手歯科医師がレジン充填の練習をする際など、まずはこのようなスタンダードな材料でコツを掴むのも良いだろう。また、コストメリットを最大化するには購入方法も重要である。テ・エコノム プラスは大容量パックやプロモーションでさらに割安になることもあるため、まとめ買いによって1本あたり数百円台まで価格を下げることも可能だ。多診療所展開で大量のレジンを消費する法人などでは、こうした経済ロットでの導入が適している。

総じて、テ・エコノム プラスは「コストを徹底的に抑えつつ、一定水準の治療を提供したい」という明確なニーズに応える製品である。保険診療主体で収支改善に直結する材料費削減を図りたい開業医にとって、頼れる選択肢となるだろう。一方で、患者満足度や診療の差別化につながるような付加価値は小さいため、「良いものを積極的に使って付加価値を出す」という戦略を志向する場合には物足りないかもしれない。

よくある質問(FAQ)

Q. コンポジットレジンの長期的な持ち(耐久性)はどれくらいか?
A. 適切に処置された場合、コンポジットレジンでも10年以上機能を維持するケースが多い。実際、テトリック系レジンでは5〜7年経過時の良好な成績が報告されている。ただし耐久性はケースバイケースで、充填の大きさ、咬合力、口腔衛生状態によって左右される。定期管理を行い、必要に応じて研磨や再研磨を施すことで、より長持ちさせることが可能である。

Q. Ivoclar社のレジンは特定のボンディング剤と併用すべきか?
A. 特に制限はない。Ivoclar社のアドヒース ユニバーサルなど同社製ボンディングとの相性は臨床的に良好だが、原則として市販のどの接着システムとも組み合わせて使用できる。重要なのは、各レジンの使用説明書に沿って適切なエッチング・ボンディング操作を行うことである。例えばエンプレス ダイレクトのような高審美レジンでは、象牙質・エナメル質の確実な接着が特に重要になるため、信頼できるボンディング材を選択すると良いだろう。

Q. 4mm充填のバルクフィルで本当に隅々まで硬化するか心配だが?
A. Ivoclarのバルクフィルレジンは、Ivocerin®という高感度光開始剤やアセンシオ技術により隅々まで硬化するよう設計されている。標準的なLED光重合器(光強度1000〜1500mW/cm²程度)でも約10秒照射すれば4mm深部まで硬化が達成できるデータがある。ただし、光重合器の性能や照射の角度には注意が必要で、確実を期すなら20秒程度当てる、あるいは高出力モードを使用するといった工夫も有効だ。術後にX線で充填物の不透明度を確認し、未硬化が疑われる場合は追加照射すればリスクは最小限にできる。

Q. エンプレス ダイレクトは前歯以外にも使えるのか?
A. 使用できる。基本的に前歯部から小臼歯、大臼歯まで適応範囲に含まれる。高い審美性が要求される前歯部での活躍が目立つが、実は機械的強度も高いため小臼歯部程度までなら問題なく機能する。ただし臼歯部に用いる場合でも審美的メリットを活かすためにはマルチシェード築盛が必要で、単色充填で済ませるのであればテトリック系で十分である。コストとの兼ね合いも考え、ケースバイケースで選択すると良い。

Q. 製品の購入方法は?一般には手に入るのか?
A. Ivoclar社のコンポジットレジン製品は歯科医院向けのディーラー経由で購入するのが一般的である。フィード(FEED)や歯科商店の通販サイト、歯科ディーラー各社を通じて注文可能で、開業医であれば誰でも入手できる。一般の患者や消費者が直接購入することはできない(医療機器のため)。購入に際しては、まとめ買いやプロモーション価格が提示されることもあるため、取引のあるディーラーに相談すると良い。また、新規開業予定であればデンタルショー等で担当者に声をかけ、開業パッケージとしてお得に導入できる場合もある。常に複数の仕入先を比較検討し、経営的に有利な購入方法を選ぶことも賢い経営の一環である。