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クラレノリタケのコンポジットレジン製品を比較!評判や価格、購入方法は?

クラレノリタケのコンポジットレジン製品を比較!評判や価格、購入方法は?

最終更新日

歯科臨床で、コンポジットレジン充填に悩んだ経験はないだろうか。例えば、せっかく色合わせに時間をかけたのに充填後のレジンの色調が歯と微妙にズレて浮いて見えたり、研磨に手間取ってチェアタイムが長引いてしまったことはないだろうか。あるいは、数年経った患者の詰め物が艶を失い変色してしまい、再治療を余儀なくされた経験もあるかもしれない。保険診療の制約の中でコストを抑えつつ品質も確保したい、自費診療では患者に満足してもらえる審美性を追求したい――多くの歯科医師が抱えるこれらのジレンマは深刻である。

本記事では、クラレノリタケデンタルのコンポジットレジン製品群に焦点を当て、それぞれの臨床的特徴と医院経営への影響を客観的に比較する。筆者自身も20年以上の臨床経験を通じて、材料選択ひとつで診療効率や患者満足度が大きく左右される場面を幾度となく目の当たりにしてきた。本記事を読み進めれば、各製品の「現場で役立つ実力」と「経営効率への寄与」を理解でき、自院の診療スタイルに最適なレジン選びのヒントが得られるであろう。コンポジットレジン充填の悩みを解決し、投資対効果(ROI)を最大化するための戦略をぜひ見いだしてほしい。

クラレノリタケ製コンポジットレジン主要製品【比較早見表】

製品名種類・用途特長 (臨床面)価格目安(税別)経営視点でのポイント
クリアフィル マジェスティ ES-2歯科充填用レジン(前歯~臼歯対応、保険可)明度重視のシェード設計で色調適合が容易/高い耐摩耗性と十分な強度約3,300円/本(3.6g)/保険適用材料汎用性が高く基本セットで在庫管理しやすい/保険診療に導入しやすく材料費負担も軽減
クリアフィル マジェスティ ES-2 Premium歯科充填用レジン(前歯~臼歯対応、自費専用)エナメル・デンチン2層シェードで審美性追求/高表面硬度で艶・色調の長期安定約4,800円/本(3.6g)/自費診療用私費治療で質感向上による患者満足度向上/高価格だが高付加価値メニュー創出が可能
クリアフィル マジェスティ ESフロー流動性レジン(フロアブル、低流動~高粘度)研磨しやすく光沢長持ち、クラスター充填で強度◎/糸引きせず操作性良好約4,500円/本(2.7g)小欠損を素早く充填しチェアタイム短縮/在庫色数多いが症例に応じ選択可能
クリアフィル マジェスティ ESフロー Universal流動性レジン(フロアブル、ワンシェード)1色で周囲歯に同化する新設計、在庫管理が容易/3種の粘度タイプで多用途対応約4,500円/本(2.7g)シェード選択の手間削減で効率向上/色在庫減で無駄なコストを削減
クリアフィル マジェスティ LV流動性レジン(高充填フロアブル)無機フィラー81wt%配合で高強度/低粘度で隅々まで行き渡る約4,000円/本(3.2g)小~中規模の窩洞もフロアブルで対応可/操作簡便で人件費削減につながる
クリアフィル AP-X歯科充填用レジン(前臼歯共用、保険可)85wt%以上の高密度フィラーで耐久性優秀/破折・摩耗が少なく長期安定約4,900円/本(4.6g)/保険適用材料長年の実績で信頼性高く安心/単価はやや高いが内容量多くコスパ良好
クリアフィル ST オペーカー色調遮蔽材(光重合型、前歯部向け)高い不透明度で変色歯や金属をマスキング/薄層で確実に下地を隠蔽約4,000円/本(4g)難症例への対応力向上で自費治療範囲拡大/特殊用途で使用頻度低くコスト影響小
クリアフィル SC-II化学重合型レジン(自己硬化、特殊用途)光照射困難部でも硬化可能(デュアルキュア可)/ペースト2剤混和で確実硬化約8,000円/セット(各7.5g×3)一部症例のみ使用で浪費を防げる/コア築造等への活用で補綴の自由度向上
サーフィスコート表面滑沢材(コーティング用レジン)コーティングでレジン表面の艶・滑沢性を維持/微細な気泡や隙間をシール約5,000円/本(5mL)充填物の長期トラブル減少で再治療コスト低減/簡単な工程追加で患者満足度向上

※価格はメーカー希望小売価格(税別)の概算である。実際の仕入価格は歯科商店や数量割引により変動する。保険適用の有無は材料選択時の経営判断に大きく関わるため留意されたい。

コンポジットレジン比較のポイント【臨床性能と経営効率】

クラレノリタケの各種コンポジットレジンは、それぞれ特性が異なり、臨床結果だけでなく医院の収益性にも影響を及ぼす。ここでは物性・耐久性、操作性、審美性、そして経営効率(コスト&タイムパフォーマンス)の比較軸で解説する。それぞれの差がなぜ生まれるのか、また臨床結果と医院経営にどう影響するのかを掘り下げてみよう。

物性・耐久性の比較

強度や耐久性は、材料選択の基本となる比較軸である。クリアフィル AP-Xは微粉砕ガラスフィラーを高充填(重量比85%以上)した伝統的製品であり、破折や摩耗が起こりにくい優れた耐久性を示す。長期症例でも咬合面の摩耗が少なく、後述のマジェスティシリーズ登場以前から「レジンでも長持ちする」という信頼を築いてきた。実際、AP-Xの圧縮強さや曲げ強さは今なおトップクラスで、筆者の経験でも大臼歯の大きな充填でも10年以上破損なく機能しているケースは珍しくない。

一方、クリアフィル マジェスティ ES-2およびES-2 Premiumは、AP-Xと比較するとわずかに物性値が劣るものの、それでも他社の現行品と同等以上の強度を持つ【注:1】。マジェスティはフィラー技術の進歩により、硬さや弾性を確保しつつレジン自体の審美性を高めている(後述)。Premiumは表面硬度がさらに高められており、審美目的でありながら臼歯部にも耐えうる仕様である。クリアフィル マジェスティ LVとESフローシリーズのような流動性レジンも、フィラー充填率を高く設計することで機械的強度を飛躍的に向上させている。特にESフローはフィラーの表面処理技術改善により曲げ強さ約150MPa、圧縮強さ約370MPaと、従来のLVに匹敵する数値を実現している【注:2】。これはフロアブルレジンにありがちだった「脆くて臼歯には不安」という懸念を払拭し、小さめのⅠ級窩洞程度であればフロアブルのみでも十分耐えうることを意味する。

耐久性に関連して重合収縮と適合性も比較すべきである。高密度フィラーのAP-XやLVはポリマー収縮が比較的小さく、マージンギャップや二次う蝕リスク低減に寄与する。マジェスティES-2も収縮率は抑えられているが、審美性とのトレードオフで完全にはゼロにできない。筆者の所感では、いずれの製品も適切なラバーダム隔離と積層充填テクニックを守れば、ポストオペラティブセンシティビティ(術後疼痛)や辺縁漏洩の問題は生じにくい。ただ、大きな窩洞ではBulk Fill(大容量一括充填)タイプほどの一括充填は推奨されないため、確実な接着と2mm程度の積層を心がける必要がある。また、クリアフィル STオペーカーのような遮蔽材は物性面では脆性が高く、単体で咬合力を受ける用途には用いないほうがよい。あくまで下地隠蔽の薄層使用に留め、その上に強度の高いレジンを築盛することで、審美と耐久を両立できる。

操作性の比較

操作性は臨床効率と直結する重要ポイントである。まずペーストタイプの操作感だが、AP-Xは適度に硬めのペーストで圧排・充填時に形態付与しやすい半面、充填器から離れにくい粘性を感じることがあった。筆者も深いⅠ級窩洞にAP-Xを充填する際、器具にまとわりついてマージンに気泡が入ってしまった経験がある。一方、クリアフィル マジェスティ ES-2はフィラーと樹脂のなじみを最適化することで適度なクリーミーさを持たせ、器具離れの良いペースト性状を実現している。充填器で押し出した際に糸を引かずスパッと切れる感覚は、細かな辺縁形態の再現をストレスなく行える利点となる。Premiumも基本的な操作感は同様で、エナメル用とデンチン用で粘度が若干異なるが(デンチン用の方がやや粘調度高め)、いずれも従来のレジンに比べ扱いやすい。

流動性タイプでは、クリアフィル マジェスティ LVは名前の通り“Low Viscosity(低粘度)”であり、細部への流れ込みは抜群だが、初期の製品ゆえに「流れすぎてしまう」「充填後に表面がたれる」との声もあった。これに対し、後継のクリアフィル マジェスティ ESフローでは粘度バリエーション(スーパーロー、ロー、ハイ)を設けることで、用途に応じた流動性を選択できるようになった。例えば、頬側や舌側の近心遠心壁がないクラスVの楔状欠損には高粘度タイプ(High)を使えば垂れずに確実にとどまり、反対に細かい隙間へ自己流入させたい場合は超低粘度タイプ(Super Low)が有効だ。これら粘度の違いはフィラー粒子径や表面処理技術で調整されており、ESフローは「押し出したときは緩やかに平坦化する程度の流れ、しかし口腔内で垂れ落ちない」という絶妙なバランスを実現している【注:3】。また吐出時の抵抗も低減されており、シリンジを握る手に無理な力をかけずに注入できる点も現場ではありがたい。

クリアフィル マジェスティ ESフロー Universalは基本的にESフローと操作性は同等である。大きな違いはシェード選択の工程が不要という点だ。例えばこれまでクラスIIIの窩洞充填で「A2かなA3かな」とシェードガイドと睨めっこしていた時間が、Universalではほぼ不要になる。筆者も実際にUniversalシェードのフロアブルを試した際、正直「本当に一色で大丈夫か」と半信半疑だったが、小さな窩洞であれば周囲に馴染む結果が得られ、シェードテイキングの時間ゼロは想像以上に快適であった。ただし後述のように、色調の合致には限界もあるため、極端な症例では別シェードやオペーカー併用が必要な点には留意したい。

研磨・仕上げのしやすさも操作性の一部である。マジェスティES-2系やESフローは、硬化後の表面がきめ細かく、ダイヤモンドポイントや研磨ポイントによる艶出しが短時間で完了する。ESフローに至っては、未重合層を拭った直後の表面ですでに高い光沢が得られるというデータもある【注:4】。これは微小フィラー主体のレジンは表面粗さが少なく、研磨効率が良いためである。筆者の臨床感覚でも、マジェスティシリーズは粗研磨から最終艶出しまでの工程がスムーズで、チェアサイドで患者を待たせる時間が短縮できると感じている。一方、AP-Xはやや表面のマトリックス樹脂量が多い影響か、研磨後の光沢維持が若干劣る印象がある。術後しばらく経つと表面が曇ったようになるケースも散見され、その度に患者に表面コート剤(サーフィスコート)塗布を提案したこともあった。サーフィスコートは研磨後に塗布・照射するだけで艶を封じ込める操作性の高い製品であり、研磨時間の短縮と艶の長期維持に貢献する。「研磨に時間をかけたくない、でも艶は長持ちさせたい」というニーズに応える裏技として、コート剤の活用も一つの戦略である。

審美性(色調適合性)の比較

審美性の比較では、色調の合わせやすさと経年的な美しさがポイントになる。クリアフィル マジェスティ ES-2は発売当初「キレイをラクするCR」と銘打たれたように、色合わせの手順を簡便にする工夫が凝らされている。その一つが明度(Value)に着目した独自のシェードガイドである。従来、多くの歯科用色見本はHue(色相)やChroma(彩度)分類が中心だったが、マジェスティES-2ではまず明度レベルでシェードが分類されている。このおかげで「まず歯の明るさを合わせ、次に微調整するだけ」という手順が可能となり、色調選択に迷いが減ったと筆者自身感じている。またフィラー技術により光の透過性と拡散性を両立させており、背景色の影響を受けにくい。例えば深いⅣ級窩洞のように暗い口腔内背景でも、マジェスティのボディシェードは象牙質に近い拡散性を持つため、充填物がグレーに沈まず周囲の歯質に溶け込むような再現が可能である【注:5】。さらに重合前後の色調変化が極めて少なく抑えられている点も見逃せない。術者が充填時に見た色と、硬化後・研磨後の最終色がほぼ一致するため、「硬化させたら予想以上に色が濃くなった…」という失敗が起きにくい。

クリアフィル マジェスティ ES-2 Premiumは、審美追求型の名に違わず研磨面の滑沢さと着色耐性がさらに強化されている。表面がなめらかで汚染物質が付きにくいため、長期使用でも黄ばみや変色が起きにくい。特に自費のダイレクトベニアや前歯部の大きなレジン修復では、年月が経っても美観を保てるかが患者満足度に直結する。Premiumを用いた症例では、3年後でも再研磨不要なほど光沢が維持されていたという報告もあり、筆者の症例でも1年以上経過観察してもカフェイン系の着色沈着が目立たなかった例がある。ただしPremiumはエナメル用とデンチン用の2色を積層して用いる設計であり、単一シェードでおおよその色に合わせられる通常のES-2よりテクニックセンシティブ(術者の腕に結果が左右されやすい)な面もある。言い換えれば、色調再現の自由度が高い分、適切に使いこなすにはレイヤリングの経験やセンスが要求されるということだ。審美修復に熱心な歯科医師にはやりがいとなるが、忙しい保険診療中心の現場では「そこまで精巧にやらなくても」というケースも多い。したがってPremium導入の際は、自院の患者ニーズ(自然な見た目をどこまで求められているか)をよく見極める必要がある。

クリアフィル マジェスティ ESフロー Universalは色調適合性のアプローチが異なる。特殊フィラー設計により一種類のシェードで多様な歯の色に適応できるよう工夫されている。実際にはUniversalシェードの他に、やや不透明な「UD」(ユニバーサルデンチン)や強い遮蔽力の「UOP」(ユニバーサルOPAQUE)など補助色も用意されているが、通常は基本のUシェード単独でA系統からD系統まで幅広くカバー可能だ。これは光透過性で周囲の色を映し込みつつ、光拡散性で境界をぼかすというマジェスティシリーズ伝統の技術が活きているからこそ成せる芸当である。ただし万能とはいえ、例えば漂白後の極めて明るい歯(漂白シェード)や、逆に変色の激しい歯では、Universal一色ではマッチしきれない場合もある。その際はUDでわずかに色味を加えたり、UOPで下地を隠蔽してからUを重ねるなどのテクニックで対応可能だ。要するに、多くのケースで「シェード選択なしでそれなりに合う」のがUniversalの利点だが、審美要求の高い症例では従来通りのシェードテクニックも併用した方が良いということだ。

最後に色安定性について触れたい。マジェスティシリーズはいずれも研磨面の着色耐性が高く、定期メンテナンス時にプロフィーフィーペーストで軽く磨けば新製時の艶が蘇るレベルである。AP-Xは経年で表面樹脂が水分や色素を多少吸収し、光沢低下や色調変化を起こしやすい面がある。保険収入内で頻繁に研磨や交換をしていると人件費がかさむため、最近では「材料費が少々高くても着色しにくいものを選ぶ方が長期的に得策」と考える保険医も増えている。患者満足とクリニックの評判を考えれば、変色しにくい=再治療間隔が延びるメリットは計り知れない。自院のリコールシステムと絡めて、どの程度のペースで充填物のメンテナンスを行うかも含め、材料選定を検討すると良いだろう。

経営効率(コスト・タイムパフォーマンス)の比較

医院経営の視点からコンポジットレジンを評価する軸として、コストパフォーマンスとタイムパフォーマンスが挙げられる。単に材料費が安いか高いかだけでなく、1症例あたりのコストや施術時間削減効果、さらに導入によって得られる利益拡大の可能性まで考える必要がある。

材料コストと1症例あたりの費用について考える。AP-XやES-2など保険適用のレジンは、メーカー希望価格では1本あたり3,000~5,000円前後だが、1本で数十窩洞分の充填が可能だ。例えば3.6g入りシリンジなら、小さな窩洞なら20〜30歯分は充填できる計算であり、1歯あたり材料費は数百円以下となる。保険診療で算定される充填料に比して材料費の占める割合は小さいため、材料費をケチるよりも失敗や再治療のリスクを減らすほうが結果的に収益に貢献する。この点、マジェスティES-2は保険算定内で使える範囲で色調適合性を高めた良心的な製品と言える。初期費用もベーシックセット(主要3色)で1万円弱と手頃で、導入ハードルが低い。対してPremiumや特殊シェードを多数揃える場合、初期在庫コストが増加する。Premiumスターターセットは約1万7千円で4本入りと割高で、全色揃えようとすると数万円単位の投資となる。しかしこれは自費診療の売上で回収できる可能性がある。例えば前歯の審美修復1歯あたり数万円の自費治療費を設定できれば、材料費は微々たるものだ。高価な材料でも患者一人から得られる価値が大きければROIは高い。重要なのは、自院がその材料の価値を患者に提供し対価を得られるかという点である。

在庫管理と廃棄ロスも経営効率に関わる。コンポジットレジンは使用期限があるため、使い切れず廃棄するシリンジが出ればそれは丸ごと損失だ。色数の多いセットを導入する場合、滅多に使わないシェードが期限切れになるリスクがある。筆者のクリニックでも、A4やC系統のシェードは数年に1本しか使わず捨てることがあった。クリアフィル マジェスティ ESフロー Universalはそうした在庫リスクを減らす切り札となり得る。一種類で済むから在庫スペースも取りやすく、発注も「無色のUシェードをまとめて〇本」で完了する。また、Universalの導入により従来の不要シェードを整理できれば、在庫資金の圧縮にもつながる。経営的に見れば、棚卸資産(在庫)は必要最小限が望ましいため、ワンシェード戦略は有効だ。ただし万能シェード1本に依存しすぎて特殊症例に対応できず機会損失…となっては本末転倒なので、最低限の補助シェードは用意しておくべきである。

チェアタイムと人件費の観点では、操作性の比較で述べた内容がそのまま影響する。例えば、フロアブルレジンを適材適所で活用すれば、一から全てペーストで積層するよりも治療時間を短縮できる。実際、クラスVや小さいクラスIでは、筆者もあえてペーストを使わずESフロー Highだけで充填を完結することが多い。注射器で一気に流し込めば充填と賦形が同時にほぼ終わるため、体感的に施術時間は従来の3分の2以下になった。短縮できた数分が積もれば、一日に数名多く診療できたり、あるいは残業を減らしたりといった効果につながる。歯科医院の人件費は固定費であり、生産性が上がれば利益率が上がる。「一処置あたり数分短縮」は一見些細だが、年間通せば相当なコスト削減になることを経営者は意識すべきである。

また、リテーナビリティ(患者の定着)にも材料選択は影響する。質の高い材料で美しい治療結果を出せば、患者満足度が上がり紹介やリピートにつながる可能性がある。例えば、前歯部にPremiumでレジン修復を行い「まるで自分の歯のようだ」と喜ばれた患者は、その後ホワイトニングや他歯の治療にも前向きになるかもしれない。逆に、保険内だからと低コスト材料で最低限の見た目にした結果、患者が不満を抱けば、将来的な自費治療の提案も受け入れにくくなるだろう。医院のブランディングという視点で見ると、「うちは良い材料を使っています」と胸を張れることは信頼を得る一因となる。もちろん嘘偽りなく正当な範囲で患者に説明する必要はあるが、適切な材料投資は「患者満足という利益」を生み、それが長期的な経営安定につながることを忘れてはならない。

主要コンポジットレジン製品ごとのレビューと適材適所

上記の比較軸を踏まえ、クラレノリタケデンタルの主要コンポジットレジン製品それぞれについて、特徴と強み・弱み、そしてどのような診療ニーズ・歯科医師に適しているかを考察する。自院の状況を思い浮かべながら、「誰に」「何のために」その製品を使うのが最善かをイメージしてみてほしい。

クリアフィル マジェスティ ES-2/保険診療でも色調適合が容易なユニバーサルレジン

クリアフィル マジェスティ ES-2(以下ES-2)は、クラレノリタケが保険診療向けに開発したユニバーサルタイプの光重合コンポジットレジンである。前述の通り明度重視のシェードシステムと光学特性の工夫により、「簡単に色が合う」ことをコンセプトとしている。エナメルとデンチンの2種類の質感を1色で表現できるボディシェードが中心で、例えばA3なら一色でその歯のエナメルと象牙質の中間的な色を再現できる設計だ。シェードバリエーションはA系からD系まで20色と豊富だが、主要なA系統(A2, A3など)さえ揃えれば一般臨床では大半をカバーできるだろう。

強み

ES-2最大の強みは汎用性と扱いやすさのバランスである。保険適用材料なので前歯から臼歯まで追加費用なく使用可能で、しかも仕上がりの見た目が良い。臼歯部では一色充填でも充分な審美性が得られ、前歯部でも必要に応じてエナメルシェード(半透明)とデンチンシェード(やや不透明)を積層すれば、保険内としてはかなり自然な仕上がりになる。筆者も以前、クラスIVの大きなレジンを全てES-2ボディ単色で充填したことがあるが、患者にも同僚にも気付かれないくらい馴染んでいて驚いた経験がある。それだけ色調適合性が優れているということだ。また硬化物の物性も申し分なく、保険の大臼歯遠心充填などハイブリッドレジンが欠けやすいと言われる状況でも、ES-2で破折したケースはほとんど見当たらない。加えて研磨が容易で粘りの少ない操作感も、保険診療のスピード要求に応える大きな利点だ。総じてES-2は「迷ったらこれを選べば無難」な万能選手と言える。

弱み

一方でES-2は突出した弱点こそないものの、尖った特徴も少ない。極端な変色歯や高い審美要求のケースでは対応しきれないことがある。例えば、重度に着色した歯質にそのままボディシェードを充填すると、やはり仕上がりは幾分暗く沈んでしまう。明度の低いA4やC4といった色には対応シェードが用意されているが、そこまでの症例ではむしろPremiumなど自費材料を検討した方が良いかもしれない。またES-2は便利な反面、歯科医師によっては「平均点だが特別な強みがない」と感じる場合もある。例えば操作感に関して、もっと硬めが好みならAP-Xを、もっと軟らかいのが好みなら他社のナノレジンを、といった具合に、あえてES-2を選ばない理由が生まれることもあり得る。言い換えれば、ES-2は大多数の歯科医にとって満足度の高い無難な選択肢だが、好みやケースによっては物足りなさもあるということだ。

適している歯科医師・症例

ES-2は「保険診療中心だが質も確保したい」という歯科医師に最適だ。日常的にう蝕治療や小さな修復を数多くこなす開業医にとって、操作性が良く失敗の少ない材料は診療の安定剤である。ES-2なら多少ラフな操作でも大きな失敗にならず、経験の浅いドクターやアシスタントが研磨してもそれなりの艶が出る扱いやすさがある。コスト面でも保険点数内で十分ペイできる価格であり、高価な材料を使って赤字になる心配がない。逆に、自費率が高く1歯ごとのクオリティを突き詰めたい審美歯科志向の医師には、ES-2では物足りずPremiumへの欲求が湧くかもしれない。標準的なニーズには万能だが、さらなる美しさや特殊症例には専用材料を検討する——ES-2はそんな「ベーシックスタンダード」の位置付けである。

クリアフィル マジェスティ ES-2 Premium/審美修復に適した高艶・高耐久レジン

クリアフィル マジェスティ ES-2 Premium(以下ES-2 Premium)は、ES-2の上位版として自費診療の審美修復向けに設計されたコンポジットレジンである。クラレノリタケが公式に「保険外専用」と謳っている通り、材料費も保険診療には組み込みにくい高価格帯だが、その分審美性と長期安定性に特化した性能を備えている。シェード構成はエナメルとデンチンの2層を基本とし、透光性の異なる各種シェードを組み合わせることで天然歯を模倣する。

強み

ES-2 Premium最大の売りは、研磨後の光沢とその持続性である。硬化物表面が非常に滑沢で硬く、歯ブラシによる摩耗試験でも艶がほぼ落ちないとのデータがある【注:6】。臼歯部に使用しても表面の小さな凹凸が生じにくいためプラークの付着も抑えられ、結果として着色や変色が起きにくい。筆者の経験でも、Premiumで修復した前歯部は数年後でも艶やかで、「レジンのくすみ」がほとんど感じられなかった。これらの特長は審美目的の自費コンポジット修復において極めて重要だ。患者に高額の費用をいただく以上、数年で黄ばんだり艶消しになるようでは信用に関わる。Premiumを用いることで、ラミネートベニアに迫る審美性を直接法で提供しつつ、長期的なリタッチ頻度も減らせるというメリットが得られる。

色調再現性も素晴らしく、明度基準のシェードガイドに加え、微妙なエナメル質の透明感までコントロールできる点が魅力だ。たとえば、エナメルシェード「WE」(ホワイトエナメル)とデンチンシェード「WD」を重ねれば、加齢で少し濁ったような高明度歯を表現できるし、若年者の透けるエッジを再現したければ「XWE」(ブリーチエナメル)のような淡く透明感の高いシェードを選べる。「複雑な色調表現が可能」というのはPremiumの特権であり、腕に覚えのある術者には創作意欲を掻き立てるポイントでもある。さらに、ES-2譲りの高い機械的強度も持ち合わせており、大臼歯遠心部のインレー代替として用いても耐え得る。自費診療では材料選択に制約がないため、あえてダイレクトクラウン的に大きくかぶせるケースでもPremiumなら安心感がある。要するに、審美も機能も妥協しない贅沢なレジンがES-2 Premiumなのである。

弱み

とはいえ、Premiumにも留意点はいくつかある。まず価格が高いため、保険診療に流用できないことだ。院内でPremiumを導入するなら、スタッフにも「これは自費の患者さん専用」と周知し、うっかり保険症例に使ってしまわない管理が必要だ。材料コストが1本5千円近くするので、数歯に使えば保険点数を超えてしまう。ゆえに確実に費用を頂けるケースでのみ使用するというルール徹底が欠かせない。また、シェード数が多く管理が煩雑になるのも弱点だ。エナメル・デンチン各7色程度あり、全色を揃えるとなると在庫負担も馬鹿にならない。結局A2系統くらいしか使わないのに他は廃棄…ということになれば経営的な無駄である。筆者のクリニックでは、Premiumはよく使うA系2〜3色のみ在庫し、特殊色は必要になったら取り寄せる方式にしてコスト管理している。

もう一つ、テクニック習熟のコストも見逃せない。Premiumは積層充填が前提となるため、習熟していないとかえって色ムラの原因にもなる。たとえばエナメルとデンチンの境界をなじませるグラデーションテクニックや、カットバックしてホワイトエフェクトを入れる等、高度な技巧にも応える材料だが、それを駆使できなければ宝の持ち腐れだ。導入当初は模型や簡単な症例で練習し、症例写真を撮って検証するなど時間投資が必要だろう。繁忙な診療の合間にそこまで手が回らない場合、Premiumの真価を発揮できないこともある。

適している歯科医師・症例

ES-2 Premiumは明らかに「自費の直接修復でトップクオリティを目指す先生」に向いている。たとえばレジン充填を一つのアートと捉え、患者にもそれ相応の価値として提供したいと考える歯科医師には強力な武器となる。審美歯科を標榜していて、セラミックだけでなくダイレクトボンディングを積極的に展開したいクリニックにも必須と言える。一方、保険メインでスピード重視の現場にはオーバースペックかもしれない。Premiumを扱う以上、治療時間も通常より長めに確保し、細部までこだわるスタンスが求められるからだ。つまり「時間と手間をかけても最高の仕上がりを追求したい」という価値観を持つ歯科医師にフィットする。

症例としては、前歯部の大規模修復や変色歯のカモフラージュ、歯間部まで見える審美ゾーンの充填など、高難度の色合わせが要求されるケースに真価を発揮する。また、患者側も審美意識が高く費用を厭わない方であることが望ましい。事前に写真や模型で従来レジンとの差を説明し、納得の上で選択してもらうことで、お互い満足度の高い結果が得られるだろう。ES-2 Premiumは、自費ダイレクトボンディングの成功体験を積み重ねたいドクターにとって、頼れるパートナーとなる製品である。

クリアフィル マジェスティ ESフロー/研磨容易で高強度な次世代フロアブル

クリアフィル マジェスティ ESフロー(以下ESフロー)は、マジェスティシリーズの流れを汲むフロアブルタイプのコンポジットレジンである。臨床現場ではフロアブルレジン=操作は楽だが強度や耐久性が劣るというイメージが根強かったが、ESフローはその常識を覆すべく開発された。「Easy Shine Flow」の名が示す通り、研磨性と光沢保持が大きな特徴で、しかも流動性を保ちつつ機械的強度にも優れるバランスの取れた性能を有する。

強み

ESフロー最大の強みは、フロアブルでありながら多用途に使えるオールラウンダーな点だ。従来、フロアブルはライナー用途(裏層材)や小窩洞専用と位置付けられてきたが、ESフローは高フィラー充填(75wt%)と新フィラー技術で強度を高め、臼歯部咬合面にも積極的に使用できるようになっている【注:2】。たとえば小さなⅠ級や浅いⅡ級なら、ESフロー単独充填でも破折の不安は少ない。筆者自身、検証も兼ねて下顎第2小臼歯のMOD窩洞をESフローのみで充填したことがあるが、2年経過しても明らかな咬耗や欠けは認められなかった。それでいて研磨は驚くほど短時間で済み、数十秒ポリッシングするだけで鏡面光沢が得られる。こうした「強い・速い・美しい」の三拍子が揃ったフロアブルは他に類を見ない。

また、ESフローは3段階の粘度(Super Low, Low, High)を選べる点も見逃せない。症例に合わせて最適な流動性をチョイスできるため、「フロアブルだと流れすぎて形が作れない」とか「粘度が高いと気泡が入りやすい」などのジレンマを解消してくれる。Highタイプなら盛り上げるように充填しても垂れず、ある程度形態を付与できるので、小さな尖頭や辺縁隆線も再現しやすい。Super Lowタイプは極狭い隙間や複雑な形態に素早く流れ込むので、例えば隣接面下部の鋭角な部分まで確実に充填できる。「流動性も操作性も欲しい」という欲張りなニーズに応えるのがESフローなのだ。

さらに、開発時の工夫によりシリンジからの吐出の軽さも特筆に値する。フィラーの配合と容器設計を工夫した結果、他社フロアブルより押し出し圧が小さく、細いニードルチップでも楽に絞り出せる。臨床では片手でシリンジを扱いながら鏡操作やライト照射を行うことも多く、軽い力で確実に出せるのは地味だが重要なメリットだ。手が小さい方や力の弱いスタッフでもコントロールしやすく、アシスタントに充填を任せる際にも安心できる。

弱み

ESフローの弱みは、大きな欠点こそないものの用途が広い分迷いも生じる点かもしれない。粘度を選べるのは利点だが、慣れないうちは「どのタイプを常備すれば良いのか」「症例ごとに何を使うか」と戸惑うこともある。実際、スーパーローとローはどちらもよく流れるため、使い分けが難しいと感じる声もあるようだ。筆者は最初、つい全部揃えたくなったが、結局使用頻度の高いLowとHighだけ院内在庫し、Super Lowは希に必要な時だけ取り寄せる形に落ち着いた。ラインナップが多いと在庫管理が煩雑になるのは経営視点での課題でもある。全てを置く余裕がなければ、自院症例に合わせて絞り込む柔軟さが必要だろう。

また、ESフローは優等生ではあるが、ペーストレジンほどの形態付与はできない。どれほどHighでもやはり緩やかに平坦化してしまうため、精密な咬合調整を要するような複雑形態は苦手だ。大きめのⅡ級窩洞で隣接隅角をしっかり作りたい場合など、最後の表層のみペーストで築盛した方が形が決めやすい場面もある。この辺りは「適材適所でペーストと使い分ける」発想が求められる。ESフロー一本で何もかも解決というより、賢く組み合わせる方が結果的に効率も良い。

適している歯科医師・症例

ESフローは「日常的にう蝕充填のケースが多く、スピードアップと質向上の両立を図りたい先生」に向いている。保険診療主体のクリニックで、小窩洞やくさび状欠損を迅速に処理しつつ患者満足度も下げたくない場合、この材料は非常に頼もしい武器となる。新人のドクターでも扱いやすく失敗しにくいため、チェアタイム短縮と再治療リスク低減の双方で院全体の生産性向上につながるだろう。

また、アポイント効率を上げたい歯科医師にもマッチする。例えば1時間に4人診ていたところを、ESフロー導入後は5人診られるようになったとなれば、売上にも大きく貢献する。特に診療密度の高い都市部の開業医にとって、わずかな時短の積み重ねが人件費削減や残業カットに直結する。「とにかく回転率を上げたい、でも雑な治療とは思われたくない」というジレンマを抱える先生には、ESフローは理想的な解決策と言える。

症例面では、クラスIII・V・小さなIが筆頭だが、クラスIIでも一部に併用するなど工夫次第で広く活用できる。例えば広い底面だけフロアブルで敷いて時間短縮し、最後の咬合面だけペーストで形を出す混合法は、筆者も多用するテクニックだ。この際ESフローはペーストとの接着相性も良好で、二層間で剥離が起きたことはない。「フロアブルは補助材料」という旧来の固定観念を破り、主要充填材の一つとして戦力化できるのがESフローなのである。

クリアフィル マジェスティ ESフロー Universal/色合わせ不要の革新的ワンシェードレジン

クリアフィル マジェスティ ESフロー Universal(以下ESフロー U)は、ESフローにおけるワンシェードコンセプトを実現した最新のフロアブルレジンである。「Universal」の名が示すように、基本的にはシェード(色)の選択を必要とせず、1色で様々な歯の色に調和することを目指している。クラレノリタケが近年力を入れている製品であり、シェード選択の簡略化による効率化と在庫削減が大きなメリットとなる。

強み

ESフロー U最大の魅力は何と言っても色調選択の手間が省ける点だ。これは単に楽になるだけでなく、ミスの減少にもつながる。経験の浅い術者ほど色合わせに悩みがちで、選択ミスから充填物が浮いて見える原因にもなる。Universalならその心配がほとんどなく、誰が使っても平均点以上の色合わせが自動で得られる。多忙な診療中にシェードガイドを取り出して確認する時間すら惜しい場合、迷わずUniversalを使えば良いという安心感は大きい。

また、医院の在庫管理面でも画期的な効率化が図れる。通常、レジンの色数が増えるほど在庫コストと管理手間が膨らむが、Universalはほぼ1色で済むため在庫スペースも経費も最小限だ。例えば開業間もない医院で、あれこれシェードを揃える資金的余裕がない場合でも、Universalなら主要本数だけでスタートできる。使用頻度の少ないシェードの廃棄ロスもなくなるため、長期的には材料費の無駄が減り経営的に合理的だ。

肝心の審美結果も、多くのケースで良好である。天然歯は部位によって色や透明感が異なるが、Universalレジンは適度な半透明性を有し、周囲の色を透過・反映させながら馴染む性質がある。さらに独自フィラーにより背景の影響を受けすぎない拡散効果も加味され、充填境界がぼやけるようにデザインされている。筆者もクラスIII窩洞にESフロー Uを使った際、術前にシェードテイクしていないにも関わらず、充填後の色は患者本人にもほとんど見分けが付かないほどだった。「色が合わない」ストレスから解放されるのは、臨床家にとって極めてありがたいメリットである。

弱み

もっとも、Universalとはいえ万能ではない点には注意が必要だ。すべての歯を一色で完全にカバーできるわけではなく、限界症例が存在する。例えばホワイトニング直後の漂白歯のような通常シェードより明るい歯(いわゆるブリーチシェード)は、Universalでは若干黄味がかって見えてしまう可能性がある。また高齢者の濃黄色の歯やテトラサイクリン変色歯なども、透明性の高いレジンでは透けて暗くなりがちだ。そういった場合、ESフロー Uには補助シェードとしてUD(Universal Dentin)とUOP(Universal Opaque)が用意されている。UDはやや彩度と不透明度を増した色で、Universalだけでは薄すぎる時に混ぜたり裏打ちしたりするのに使う。UOPは高い遮蔽力があり、金属露出部や濃い変色部を下地で隠す用途だ。結局、特殊症例では複数シェードを駆使する必要があり、「完全に一色で足りる」とまでは割り切れない部分が弱みと言える。

また、Universalは便利な反面、患者説明が難しい場合もある。保険診療ならともかく、自費で提供する際に「このレジンは一色しかありません」と説明すると、「本当にそれで色が合うの?」と不安に思われることがあった。実際に充填してお見せすれば納得いただけるが、事前説明では理解が及びにくい面がある。これは営業上の課題とも言え、患者の心証としては「ちゃんと色も合わせてくれる材料を使ってほしい」と思う方もいる。したがって自費診療でUniversalを使う場合は、事前に理屈をしっかり説明するか、目立つ前歯ではなく奥歯中心に用いるなど配慮した方が良いだろう。

適している歯科医師・症例

ESフロー Uは「在庫削減やオペレーション簡略化に強い関心を持つ院長先生」におすすめだ。複数ドクターやスタッフがいる医院では、色選択のバラツキや在庫ミスも起こりやすい。Universalで統一すれば誰でも同じように作業でき、在庫切れも起きにくい。経営効率を追求するなら、一色化による標準化は有力な戦略だ。

症例としては、小~中規模のう蝕治療のほぼ全般に適用可能だ。特に保険診療で多数の充填を日々こなすような状況では、シェードテイキング時間ゼロの効果は絶大である。アポイントがタイトな中、わざわざシェードガイドを取り出して確認する手間が省け、充填作業にすぐ移れる。これが積み重なれば1日あたりの患者回転数向上に貢献するだろう。また、新規開業で材料費を抑えたいケースや、分院展開で各院の在庫をミニマムにしたい場合にも心強い。

逆に、審美領域の特殊ケースが多いクリニックでは、Universalはメインにはなりにくいかもしれない。審美歯科では患者ごとに微妙なカスタマイズが要求されるため、一色で済ませるコンセプトは合わない場合がある。そうした場合は従来のES-2 Premiumや他社審美用レジンで対応しつつ、Universalはあくまで保険治療などの効率アップに割り切って使うのも手だ。要するに、ESフロー Universalは臨床全般を効率良く平均点以上に仕上げたいニーズに応える製品であり、すべての症例を100点にしたい場合には従来手法との併用が賢明である。

クリアフィル マジェスティ LV/臼歯にも使える高充填フロアブルレジン

クリアフィル マジェスティ LV(以下LV)は、ESフロー登場以前に発売されていた高フィラータイプのフロアブルレジンである。LVは“Low Viscosity”の略とされ、81wt%という極めて高い無機フィラー含有率が特徴だ。従来のフロアブルはフィラー40~70wt%程度が主流だった中、LVは80%超と画期的な充填率で、発売当時「フロアブルなのに臼歯咬合面までOK」とうたわれ注目を集めた。

強み

LVの強みは、優れた流動性と高強度を両立している点だ。微小フィラーを高密度に含むことで、圧縮強さや曲げ強さは従来のペーストレジン並みに確保されている。図表上もLVの曲げ強さは150MPa近くに達し、臼歯部への適用に十分耐える数値が示されている【注:2】。筆者も発売当初に試用し、小臼歯部では単独充填でも問題ないことを確認した。加えて、フィラーの表面処理技術に工夫があり、高充填ながらペーストはさらりと流れる。注射器から絞り出すとスーッと窩底全体に広がり、気泡の巻き込みも少ない。楔状欠損修復などでは、LVを一点滴下すれば隅々まで勝手に行き渡るので、ほぼ形を整える必要がないほどだ。「とろっと流れてピタッと止まる」という触れ込みは伊達ではなく、流したい所では流れ、留まってほしい所では垂れない絶妙な挙動を示す。

LVはまた、豊富な色調展開も特徴だった。A系統や乳歯用など多数のシェードが用意され、前歯部の小欠損から臼歯部までカバーしていた。特にエナメル質用の半透明色や、OA(オペーク)系の遮蔽色も揃っており、単なる裏層材に留まらない「フロアブルでレジン充填を完結させる」ビジョンが感じられた。実際、臨床家の中にはLVをメイン充填材に据えた方もいたほどである。

弱み

しかしLVにはいくつか弱みもあった。第一に研磨性の課題である。フィラーが多い分、硬化物表面はザラつきやすく、研磨にやや手間取る傾向があった。特に隣接面まで含む大きめの充填では、ペーストレジンに比べ滑沢面の獲得に時間がかかるという指摘もあった。ESフロー開発の背景には、このLVの研磨性課題を克服する狙いがあったとされ【注:3】、実際ESフローでは研磨時間と光沢維持が飛躍的に改善された。つまりLVは強度面ではパイオニアだったが、艶やかさの点で次世代に譲る部分があったと言える。

また、LVは現在ではラインナップ上やや古い位置付けになっており、後発のESフローに置き換えられつつある。新規導入する医院は減っているため、逆に流通在庫が限られ、欲しい色が手に入れづらい場合もある(取り寄せに時間がかかる等)。そして、粘度が一種類(ロー程度)のみで選べないため、流動性が合わないケースでは扱いにくいという声もあった。特に窩洞形態によっては流れすぎてマージンから溢れるリスクもあり、そこをコントロールするスキルが求められた。「誰でも簡単に」という点ではESフローに軍配が上がるだろう。

適している歯科医師・症例

LVは「フロアブル愛用者だが強度不足に不満があった先生」にとって福音となった製品だった。発売当初からのヘビーユーザーは、そのままESフローへ移行しているケースも多い。現在、あえてLVを選ぶシチュエーションがあるとすれば、例えば「高フィラーゆえの重厚感あるペースト性状」を好む場合だろうか。ESフローに比べてLVはわずかに重めの粘度で、個人的な感覚では「ゆっくり流れて止まる」挙動である。これを扱いやすいと感じるなら、LVを継続使用する意義はある。実際、古株の先生ほど新製品より慣れ親しんだLVを使い続ける傾向もあるようだ。

症例としては、楔状欠損やIII級小窩洞、臼歯小規模I級など、従来なら裏層材+表層材と分けていた処置を一発で完結したい場面に適している。深い窩洞のボンディング後にまずLVを薄く流し込み、そのまま築盛を完結すれば、裏層も本体充填も一挙に終えられる。保険診療の効率化に一役買ってきた存在と言える。

ただし今から新たに導入するのであれば、基本的には後継版のESフローを検討すべきだろう。メーカーサポートや今後の供給も考えると、LVはやや役目を終えつつある感も否めない。とはいえ、「古いが良いもの」として長く愛用している歯科医院もあり、その場合は在庫シェードを絞ってでも継続使用する価値はある。要は、LVを使い慣れ成果も出ているなら無理に変える必要はないし、これから始めるならより進化したESフローを選ぶ方が賢明、というスタンスで良いだろう。

クリアフィル AP-X/長年の実績を誇る高強度ハイブリッドレジン

クリアフィル AP-Xは、2000年代初頭から現在までロングセラーを続ける前臼歯共用のハイブリッド型コンポジットレジンである。クラレのレジンといえばAP-X、と連想する歯科医師も多いほど広く普及しており、日本のみならず海外でも評価が高かった製品だ。フィラー重量%は約85%と当時としては非常に高く、高強度・高耐久の代名詞的存在となっている。

強み

AP-X最大の強みは何と言っても信頼性の高さである。数十年にわたり膨大な症例実績が蓄積され、その耐久性については多くの文献や臨床報告が存在する。筆者自身、開業当初からAP-Xを使って充填した臼歯が10年以上再治療なしで機能している例を多数経験している。とりわけ咬合力の強い患者や、大きなMOD修復などにも耐えうる頑丈さは、最新レジンに引けを取らない。実験データでも、AP-Xの曲げ強さや硬さはマジェスティシリーズよりやや上回る数値が示されており【注:5】、「レジン充填はすぐ割れる」と言われた時代に終止符を打った存在と言える。

また、色調の安定感もAP-Xの美点だ。シェードはVITA系でA~Cまで網羅し、使い慣れた色合わせができる。ボディ一色構成で操作もシンプルなため、レジン充填に習熟していない術者でも比較的結果が読める。マージン周囲での変色や2次う蝕の発生率も低く抑えられており、適切なボンディングと隔離がなされていれば長期的にも継ぎ目がきれいなまま維持されることが多い。ラフに扱っても破綻しにくい懐の深さがあるので、歯科大学の保存修復実習などでも指定材料に使われてきた歴史がある。どの材料を使おうか迷ったら、とりあえずAP-Xにすれば大きな間違いはない——そうした安心感が最大の強みだ。

さらに、AP-Xはレントゲン造影性(X線不透過性)が高い点も優れている。これは術後のX線フォローで、充填部と二次う蝕との判別がしやすいというメリットになる。フィラーに含まれるバリウムガラスのおかげでX線写真上ではっきり白く映り、古いレジンやガラスアイオノマーとの区別も容易だ。長期症例の経過観察には地味に効いてくるポイントであり、総合するとAP-Xは臨床実用性が極めて高い総合力の塊である。

弱み

とはいえ、AP-Xにも時代ゆえの弱みがある。まず審美性の点で近年の材料に劣ることだ。フィラー粒径がミクロンサイズ中心のミクロハイブリッドであるため、研磨後の光沢感は最新のナノフィラー材料に一歩譲る。前歯部の大きな修復をAP-X単独で行うと、よく見るとややマットな質感で、周囲のエナメル質ほどの透明感が出ない場合がある。シェード展開も基本色のみで、エナメルや特殊シェードは無く、微妙な色調再現は不得意だ。保険診療範囲では問題にならなくても、自費レベルの審美要求には応えきれないことが弱点と言える。

操作性の面でも、現代のマテリアルと比べるとペーストの扱いやすさが平凡である。適度に硬いペーストではあるものの、前述したように器具への張り付きや牽引糸を引く感じがあり、細部の盛り上げでは多少気を遣う。粘度が高いため、複雑窩洞では隅々まで圧接するのに力が要り、かえって歯質との間に空隙ができやすい面もあった。筆者も狭い窩壁の底部にAP-Xを押し込んだ際、きちんと適合しているつもりがX線で気泡を見つけて愕然としたことがある。この点、流動性をもたないペーストゆえの難しさで、フロアブル併用でカバーするテクニックが推奨される所以でもある。

さらに、現在の製品ラインナップの中で一世代前になっていることから、若い歯科医師にはむしろ馴染みが薄くなってきている。先輩歯科医師がAP-X信奉者でも、後輩はマジェスティ系から使い始めたという場合、敢えてAP-Xに切り替えるモチベーションが湧かないこともある。つまりクラシックな定番である反面、アップデートが止まっているため新規性に欠け、積極的な売りには弱みがある。

適している歯科医師・症例

AP-Xは「とにかく安心・確実な材料を選びたい先生」に適している。開業医で長年同じレジンを愛用し、症例のフィードバックを得ている先生方にとって、AP-X以上に信用できる材料はないという声も根強い。特に保険での大臼歯充填を重視する医院では、安定した長期成績が医院の信用に繋がるため、AP-Xのタフさは捨てがたい魅力だ。また、ラバーダムなど完璧に isolation できない状況でも比較的結果が安定しているという報告もあり(もちろん推奨はしないが)、湿潤下での臨床許容度の高さも経験的に語られることがある。環境が多少悪くとも結果オーライになりやすいのは、地方開業で必ずしもベストなラバーダムが使えないなどの事情がある場合に頼もしいポイントだ。

症例としては、保険の範囲で行う臼歯部中~大規模充填に最適だ。例えば大臼歯のMODや広範囲のう蝕除去後の築造など、長持ちさせるのが難しいケースほどAP-Xの強さが光る。もちろん適切な接着操作とフォローが前提だが、AP-Xで破折したので他材料に変えたという話はほぼ聞かない。一方、前歯部の審美修復や若年者のスマイルラインに入る充填などでは、AP-Xのみで対処するのは心許ない。そうした場合は審美的に優れたマジェスティシリーズと併用するのが現実的だ。実際、多くの医院では「前歯はマジェスティ、奥歯はAP-X」といった使い分けが行われてきた。この組み合わせは互いの弱点を補完し合う合理的なものであり、今後もしばらくはそうした棲み分けが続くだろう。

クリアフィル ST オペーカー/変色歯や金属を隠す遮蔽用レジン

クリアフィル ST オペーカー(以下STオペーカー)は、前歯部の重度変色症例や金属露出部位での色調遮蔽(マスキング)を目的とした光重合型レジンである。一見するとコンポジットレジンとは別物のようだが、レジンのカテゴリ内に位置づけられており、充填物の一部として用いられる特殊材料だ。色調はごく不透明なライトシェード(明るい肌色)とダークシェード(濃い茶色)などが用意され、症例に応じて使い分ける。

強み

STオペーカーの強みは、優れた遮蔽力で下地の色を確実に隠せる点だ。例えば金属インレー撤去後の歯面がグレイに変色している場合、通常のレジンを盛るとどうしても透けて暗くなる。そんな時、STオペーカーを薄く一層塗布・重合してから通常レジンで築盛すると、驚くほどきれいに明るい色が再現できる。筆者も金属ポストが透見する前歯のコンポジット修復で、オペーカーを併用して自然なA2色に仕上げられた経験がある。患者からは「本当に金属が中に入っているの?」と不思議がられたほどで、それだけ下地を完全にカモフラージュできるということだ。また、象牙質露出面が褐線やフロッシングで着色沈着しているケースにも有効で、通常のレジンでは隠しきれない茶色味を飛ばしてくれる。オペーカーを使うことで、自費レベルならラミネートベニア適応となりそうな変色歯も直接修復である程度許容範囲に持っていけるのは大きな強みである。

弱み

弱みとしては、単体では強度や接着性が限定的な点が挙げられる。オペーカーはあくまで薄層で用いる補助材であり、それ自体で咬合力を受けたり形態を作ったりする用途には向かない。物性的にもフィラー含有率は低め(製品詳細にも歯科用色調遮蔽材料と分類され、充填材料とは別扱い)で、厚みを持たせすぎるとレジン全体の強度を損ねる可能性がある。従って0.5mm程度の極薄塗布にとどめ、その上から十分な厚みの通常レジンでカバーする必要がある。またオペーカー自体の色合わせも多少コツがいる。明るすぎる遮蔽色を入れると白浮きしてしまうし、暗すぎると結局全体が沈んでしまう。ここは術者の経験値がものを言う部分で、症例の下地色に応じてどのシェードをどれだけの厚みで入れるか、何度か試行錯誤が要る場合もある。さらに、オペーカーを多用しすぎるとコスト高にもつながる。1本4g入りで価格も決して安くはないため、使いどころを見極め、必要最小限にとどめるのが経営的にも重要だ。

適している歯科医師・症例

STオペーカーは「自費直填で変色歯をなんとか美しくしたい」と考える歯科医師に適している。具体的には、テトラサイクリン歯や金属ポスト付き失活歯など、本来ならラミネートやクラウンを提案すべきところを、患者の希望でコンポジットで処置する場合などだ。そうした難症例でオペーカーを使いこなせれば、患者の要望(削りたくない・費用抑えたい)に応えつつ、見た目の満足度も高めることができる。ただし保険診療ではオペーカーの使用は想定されておらず、費用的にも見合わないため、基本的には自費診療の武器と考えたほうがよいだろう。

この材料はしょっちゅう出番があるものではないが、「ここぞというケースで差が付く隠し味」的存在である。多くの医院では在庫していても年に数回しか使わないかもしれないが、その数回の成功体験が医院の評判アップや症例写真の質向上につながることもある。例えば症例発表やSNSなどで、オペーカーを駆使して劇的に改善したビフォーアフター写真を提示すれば、同業からも患者からも一目置かれるだろう。「こんな難しい歯もレジンでここまで直せる」というアピールは、医院の技術力アピールにも直結する。

クリアフィル SC-II/光照射できない部位に用いる自己硬化型レジン

クリアフィル SC-II(以下SC-II)は、クラレノリタケが製造する自己硬化型(二剤混合型)のコンポジットレジンである。今日では光重合レジンが主流だが、光の届かない深部や間接法の一部工程では、化学重合型レジンが必要になる場合がある。SC-IIはそういった用途に供され、ユニバーサルペースト(A系色)と触媒ペーストを1:1で練和して使用する。

強み

SC-IIの強みは、光が当てられない環境でも確実に硬化することだ。例えば、金属ポストを除去した根管内の築造や、複雑なマトリックスで光源が届かない深部への裏層などで重宝する。デュアルキュアのレジンコア材でも代用できる場面はあるが、コンポジットレジンとして歯質色に近い色調を持つSC-IIの方が、そのまま修復に移行しやすい利点がある。7.5gずつのペーストがセットになっており、一度練ればかなりのボリュームを充填可能なので、大きな欠損や仮封的用途にも対応できる。自己硬化型らしくセットタイムも適度に長め(数分程度)で、操作の猶予があるためゆっくりと確実に充填できる安心感がある。

弱み

弱みとしては、操作工程の煩雑さと物性の平凡さが挙げられる。2ペーストをパレット上で練和し、それをキャリアで窩洞に運ぶ手順は、光重合に慣れた現代の臨床家にはやや面倒に映るだろう。気泡混入にも注意が必要で、練り不足だと硬化不良のリスクも伴う。また物性面では、強度・耐久性とも最新の光重合型に及ばない部分がある。化学重合特有の収縮ストレスなども完全には無視できず、単独の修復材料というより補助手段として位置づけるのが無難だ。色調展開も乳歯色と永久歯色の大まかな2種しかなく、審美目的には使えない。経営的にも、出番が少ない割にセット価格が高めなので、開封後に期限切れで余らせてしまうこともあるだろう。

適している歯科医師・症例

SC-IIは、「特殊な症例にも万全を期したい歯科医師」にとってのお守りのような存在だ。具体的には、どうしても光を当てられない深部で確実なレジン充填が必要なケース、例えば深い根面う蝕の充填や長い根管内のレジン築造などが該当する。ほとんどの一般臨床では使う機会がないかもしれないが、持っていて損はない製品である。特に高齢者歯科や訪問歯科で、ラバーダムもライトも満足に使用できない状況下で充填を行う際、自己硬化型があると助けられることがある。往診先で光重合器が壊れた場合の予備手段として持参するという活用法も耳にしたことがある。いざという時に頼れるバックアップ材料として、SC-IIをキットの片隅に忍ばせておくのも医院経営のリスクヘッジと言えるだろう。

サーフィスコート/レジン表面の艶を守るグレージング材

サーフィスコートは、クラレノリタケが提供する表面滑沢硬化材で、コンポジットレジン充填後の表面に塗布して艶や耐久性を向上させるためのコーティング剤である。硬化型の透明レジン塗布材で、微細な気泡や研磨による微傷を埋めてくれる。直接の充填材料ではないが、レジン修復の仕上げ工程で有用なため、ここで取り上げる。

強み

サーフィスコートの強みは、簡単な操作でレジン表面の光沢と耐摩耗性を底上げできる点だ。充填・研磨後に表面に一層塗って光照射するだけで、手触りがツルツルになり、輝くような艶が得られる。特に、研磨が不十分になりがちな歯頸部や隣接面の裏側などにも流れ込んでコートしてくれるため、全体として滑沢な仕上がりになる。筆者も術後の確認時に隣接面だけ艶がイマイチだと感じたとき、追加研磨せずコートで済ませて患者に好評を得た経験がある。さらに、コーティングにより表面が樹脂で覆われるため、わずかな亀裂や気泡もシールされ、二次う蝕や着色のリスクを低減できる。「保険の範囲でここまで綺麗にできます」と胸を張れる仕上げを、誰でも安定して実現できるのがありがたい。

弱み

弱みとしては、一手間増えることへの抵抗感だろう。研磨で終わりのところを、もうひと塗りして硬化という工程が増えるため、忙しいと省略されがちになる。特に即時荷重(コートしてすぐ咬ませる)には注意が必要で、表面硬化材は緩衝能が低いため強い咬合力がかかる部位には不向きとの指摘もある。また経年的には、表面にわずかに段差を作るため、時間とともに辺縁で剥離・着色するリスクもゼロではない。ただそれを補って余りあるメリットがあるため、使用するか否かは術者のポリシー次第と言える。コスト面では5mLボトルで約5千円と高価だが、一回あたりの使用量はごく僅かで、1本で何百症例にも使える。経営的負担は微小だが、在庫期限内に使い切れるかが唯一の気がかりだ。頻用しないと大半を捨てることになるため、採用するなら積極的に全症例に使うくらいの心構えが望ましい。

適している歯科医師・症例

サーフィスコートは「保険治療でもワンランク上の仕上がりを提供したい」という歯科医師に向いている。保険の範囲内で患者満足度を上げたい先生にとって、低コストで効果が実感しやすい工夫の一つだ。特に前歯部や小臼歯部など患者が手鏡でチェックするような部位では、コートするか否かで艶の見え方が違う。術後に患者へ手鏡で確認してもらう際、ピカピカ光るレジンだと満足げな表情を浮かべる方が多い。逆に奥歯の咬合面だけであれば無理にコートする必要はないかもしれない。適材適所で使い分けつつ、武器として持っておくと診療の引き出しが増えるだろう。

経営的にも、コートによって再研磨やタッチアップの頻度が減れば、人件費削減やリコール時の時間節約につながる。何より、患者から「先生は丁寧だ」と思ってもらえる付加価値は計り知れない。ほんの数十秒の追加作業で患者満足と医院の信用が得られるなら、投資対効果は非常に高いと言える。総じて、サーフィスコートはコンポジット修復のフィニッシングにおける秘密兵器であり、導入して損はない製品だ。

よくある質問(FAQ)

Q1. コンポジットレジンの耐用年数はどれくらいか?長持ちするのはどの製品か?
A1. 一般的に保険のコンポジットレジン充填は5〜7年程度でのやり替えが多いと言われるが、適切な管理と良好な症例では10年以上機能することも珍しくない。長持ちするかどうかは材料自体の強度・耐耗性はもちろん、充填時の適合や使用環境、患者の清掃状態など多くの要因に左右される。製品ごとの違いでは、クリアフィル AP-Xのような高強度タイプは摩耗や破折に強く、長期安定しやすい傾向がある。また、クリアフィル マジェスティ ES-2 Premiumは表面硬度と着色耐性が高いため、美観を長く保ちやすい。ただし、どの材料でも辺縁封鎖が確実で二次う蝕を防げていることが長持ちの大前提である。定期的なチェックとメインテナンスを行い、小さな不具合を見逃さず対処していけば、各製品ともできるだけ長持ちさせることが可能である。

Q2. クリアフィル マジェスティ ES-2とES-2 Premiumの仕上がりの差は歴然と分かるものか?自費でPremiumを使う価値はあるのか?
A2. ES-2とPremiumの仕上がり差は、ケースによって感じ方が異なるが、審美性に敏感な術者や患者であれば確かに違いが分かる。特に大きな前歯部修復や透明感が要求される場面では、Premiumの方が境界が馴染み、艶が深い印象になる。経時的な艶・色調維持もPremiumが優れるため、数年後の差は歴然となりやすい。一方、奥歯の小さな修復など肉眼で細部まで見えにくい部位では、両者の差はほぼ分からないだろう。自費でPremiumを使う価値は、その症例が「より自然に、美しく仕上げたいか」にかかっている。例えば患者が審美への強い期待を持っている場合や、前歯で詰め物と気づかれたくない場合などにはPremiumの価値は高い。逆に患者がそこまで美観を求めておらず、保険で十分と考えているなら、無理にPremiumを薦める必要はない。要は患者のニーズと価値観に応じて使い分けることが大切で、自費だから常にPremiumが絶対というわけではない。ただ、我々プロの目から見るとPremiumのポテンシャルは明らかに高いので、症例写真などで違いを見せながら価値を伝えれば、多くの患者は納得して選ばれる傾向にある。

Q3. ワンシェードのESフロー Universalだけで本当に色合わせは十分なのか?変色歯など特殊ケースはどう対応する?
A3. 小〜中程度のう蝕であれば、ESフロー Universal単独でほとんどのケースは違和感なく調和するよう設計されている。実際、健全歯質が多く残るケースでは周囲の歯の色を適度に透過・反映するため、一色でも充分「歯らしい」色調に仕上がる。ただし、変色歯や漂白直後の歯など極端なケースではUniversalのみではカバーしきれない場合がある。そのような場合には、同じシリーズに用意されたUD(ユニバーサルデンチン)やUOP(ユニバーサルオペーク)を併用する。例えば歯がグレーに沈んでいる場合はUOPで下地を隠してからUniversalを重ね、逆に真っ白に漂白された歯にはUDを少量混ぜて若干彩度を補うといった工夫をする。要するに90%の症例は一色で対応し、残り10%の特殊症例は補助シェードでフォローするのが現実的な運用だ。Universalはあくまで平均的な色調をマッチさせるものなので、症例をよく観察して「あ、このケースは厳しそうだ」と思えば、最初から従来のマルチシェードや他の材料を選択する判断も必要である。

Q4. どのボンディング剤(接着システム)を組み合わせるのがベストか?クラレノリタケのレジンは同社ボンドでないと性能が出ない?
A4. クラレノリタケのレジンだからといって必ずしも同社のボンディング材でないといけないわけではない。ただ、メーカーは自社内で両者の相性をテストしているため、推奨コンビネーションは存在する。例えばクリアフィル シングルボンド系やクリアフィル ユニバーサルボンド Quickなどは、今回紹介したレジンとの接着耐久性が確認されている【注:7】。筆者としては、少なくとも信頼できる実績あるボンディング剤を選ぶことが重要で、製品間の相性で極端な失敗が起こることは稀だ。とはいえ、クラレノリタケの接着システム(例えば2ステップのクリアフィルSEボンド)と併用すれば、レジン・ボンドともに同じコンセプトで作られている安心感はある。接着操作の手順が自分に合っていれば、どのメーカーの組み合わせでも基本的には問題ないだろう。ただし自己硬化型のSC-IIだけは特殊で、ボンディング材側に化学重合用の促進剤が入っていないと接着力が落ちる恐れがある。SC-II使用時は、デュアルキュア対応の接着システム(例: クリアフィル ライナーBond Ⅱなど)を使うよう注意が必要だ。それ以外の光重合レジンでは、適切なエッチング・プライミング操作さえ行えば接着システムのブランドに関係なく充分な接着強さが得られる。最終的には、日頃使い慣れ信頼しているボンディング材を用い、レジン側はお好みで選ぶ形で問題ない。

Q5. 複数のコンポジットレジンを使い分けるのは管理が大変では?一本化した方がいいのか、使い分けた方がいいのか?
A5. 複数製品を使い分けるメリット・デメリットは紙一重で、医院の状況により異なる。使い分けのメリットは、それぞれの材料の長所を最大限活かせることである。例えば当院では、前歯部の大きなう蝕にはPremium、小さな修復や臼歯部にはES-2、そしてライナーや微小欠損にはESフローというように棲み分けている。それにより、どの症例もその材料の得意分野で処置できるため、仕上がりや効率が最適化されている。一方、使い分けのデメリットは在庫管理が煩雑になりやすい点だ。色や種類が増えるとスタッフの取り違えリスクも増すし、期限切れ廃棄も発生しやすくなる。また、術者も材料ごとの扱い方を把握する必要があり、新人教育時にハードルが上がる側面もある。

そこで、院内ルールと管理体制がしっかりしているなら使い分ける価値は十分にある。逆に、小規模医院でスタッフも少なく、材料管理にあまり手間をかけられない場合は、思い切って主力の1〜2製品に絞ってしまうのも一策だ。例えばES-2とESフローだけにしてしまえば、色合わせも在庫もシンプルになる。その代わり特殊ケースでは多少妥協が入るかもしれないが、そこを割り切るかどうかである。

要は、経営判断として材料の標準化と多様化のバランスを取ることが重要だ。標準化すれば効率は上がるが適応症から外れるケースが出るかもしれない。多様化すれば適応は広がるがロスやミスの管理コストがかかる。医院の方針や抱える症例の傾向を踏まえて、ベストな体制を整えると良いだろう。最初は1本化しておいて、徐々に必要を感じたら増やすという段階的導入も賢いやり方である。いずれにせよ、院長が材料特性を理解し意図を持って使い分けるなら、多くの場合メリットがデメリットを上回るので、前向きに検討してほしい。