
BSAサクライの口腔外バキューム「へパクリーン」の評判や価格を解説
う蝕を削合する度に、自分のフェイスシールドや患者の周囲に微細な飛沫が飛び散っている――多くの歯科医師がこうした瞬間にハッとさせられた経験があるだろう。特にCOVID-19以降、エアロゾル感染への不安から診療毎に換気時間を設けたり、防護具を強化したりと診療効率との板挟みで悩む日々が続いた。口腔外バキューム(口腔外サクション)は、こうした飛沫や粉塵を患者の口腔外で強力に吸引することで、診療空間の清潔と安全を両立するソリューションである。
本稿では、B.S.Aサクライ社の「へパクリーン」に焦点を当て、その臨床的な有用性と医院経営への影響を深く検証する。診療現場で得られた知見と数字をもとに、この製品が先生方の医院にもたらす変化を具体的に描き出す。
製品の概要
「へパクリーン」は、歯科用の移動式口腔外バキューム装置である。正式な販売名は「ヘパクリーン」で、一般医療機器(クラスI)に区分されており、医療機器認証番号は301AKBZX00031000である。主な用途は歯科診療時に発生する飛沫や粉塵の口腔外吸引で、口腔内バキューム(唾液や水の吸引)だけでは取り切れない微小なエアロゾルを診療チェア近傍で捕集することを目的としている。装置本体はキャスター付きの小型ユニットで、可動式アームの先端に吸引フードを備える。電源にAC100Vコンセントを使用し、特別な工事なしで導入可能な汎用性の高い製品である。
主要スペック
へパクリーンの最大吸引圧は15kPaに達し、歯科診療で発生する粉塵や飛沫を素早く引き寄せる十分なパワーを有する。吸引力は10段階で調節可能で、処置内容に応じてパワーと静音性のバランスを取ることができる。実際、最低出力時の動作音は55dB程度と図書館並みの静かさであり、患者との会話やスタッフ間のコミュニケーションを妨げにくい設計である。一方、最大出力時には吸引力優先となるが、それでも旧来型の口腔外バキューム(動作音が70dBを超えるものもあった)に比べ騒音は抑えられている。
特筆すべきは、三段階フィルター構造による徹底した捕集性能である。へパクリーン内部には①静電プレフィルター、②高性能HEPAフィルター、③集塵フィルターの3種が直列に配置されている。この多層フィルターにより、直径0.3μm(マイクロメートル)の微粒子を99.97%除去できる。0.3μmは空気清浄の分野で「もっとも捕捉しにくい粒径」とされる値であり、このサイズの粒子をほぼ完全に捕える性能は、歯科診療で舞う唾液中の細菌や切削粉を確実に封じ込めることを意味する。実際、口腔内バキュームとの併用により飛沫粒子の捕集率が従来比で40~60%向上したとの報告もあり、院内感染リスク低減に大きく寄与するスペックである。
本体設計も診療現場での使い勝手を重視している。操作パネルは凹凸のないフラットなタッチセンサー式で、アルコール清拭による消毒や粉塵の拭き取りが容易に行える。ユニット本体の寸法は幅29cm×奥行29cm、高さ68cm(アーム・突起部除く)と非常にコンパクトである。重量は約28kgだが、底部に直径65mmの大型キャスター(ストッパー機構付き)が備わり、ハンドルを掴んでワゴン感覚で移動できる。使用しない際は診療台の片隅などにすっきり収納でき、診療空間を圧迫しないのも利点である。吸引アームは伸展時で全長147cmに達し、患者の顔の近くまで充分にリーチする。先端の吸引フードは標準で透明小型のクリアフードが2個、そして広口径のクリアワイドフードが1個付属する。ワイドフードは患者の顔面全体を覆うサイズで、飛沫の拡散範囲が大きい超音波スケーリングなどでも周囲への飛散を効果的に防止する。また各フードには消音スクリーン(メッシュ状のフィルター)が装着可能で、吸引時の風切り音を和らげる工夫もされている。総じて、へパクリーンのスペックは「強力な吸引力」「卓越した集塵性能」「静音・省スペース設計」という3点で臨床ニーズに応える内容であるといえる。
互換性や運用方法
へパクリーンは独立した移動式ユニットであり、特定の歯科ユニットやデジタル機器との接続を必要としない。電源コードをコンセントに挿し込めば即座に使用できるため、新規開業のみならず既存の診療室への後付け導入にも適している。可動式アームの設置・取り外しはワンタッチで行え、購入時に同梱のアームを本体に差し込むだけで初期組立が完了する。使用時には、このアームを患者の口元へ適切にセットし、吸引フードを患部から約10~15cmの距離に保持するのが効果的である。フードは透明なので、術者の視野を大きく妨げず患部の観察が可能であるが、必要に応じて術中はやや側方に寄せ、削合時だけ近づけるなど運用上の工夫もできる。吸引力はフットペダルではなく本体パネルで調整する仕様であるため、処置前に適切なレベルに設定しておくとよい。
院内での配置と共有については、ユニット1台ごとに常設が理想的だが、へパクリーンは移動が容易なため、診療スケジュールに余裕があれば複数の診療台で1台を使い回すことも不可能ではない。ただし、飛沫を発生する処置(歯石除去や支台形成など)が並行して複数台で行われるような場合には、台数分の口腔外バキュームを備えておく必要がある点には留意したい。感染対策としては各ユニットへの一括設置が望ましいことから、厚生労働省の定める施設基準(歯科外来診療環境体制等)でも口腔外バキュームの複数設置が求められている。医院の規模に応じて、可動式であっても必要な台数を確保しておくことが推奨される。
日常の運用においては、へパクリーン本体およびアーム、吸引フード表面の清拭消毒が欠かせない。特に患者ごとに交換するディスポーザブルな部分は無いため、フード部は洗浄・アルコール消毒を徹底して交叉感染を防ぐ。また本体内部のフィルター管理も極めて重要である。吸引した飛沫物は全てフィルターに捕集されるため、フィルターの清掃・交換を怠ると吸引力の低下や院内環境への排気逆流につながりかねない。静電プレフィルターおよび集塵フィルターは、使用後に付着した埃を小型掃除機やブラシで除去し、常に目詰まりしていない状態に保つ。高性能HEPAフィルターについては、メーカーは20時間の稼働ごと(あるいは3か月ごと)の交換を推奨している。実際に義歯の調整など粉塵量の多い用途に用いた際には、数時間でフィルター交換ランプが点滅するケースもある。交換用のフィルター類は「ヘパクリーン安心フィルターキット」として静電・HEPA・集塵の各フィルター×6枚セットが市販されており、在庫が無くなる前に早めに補充しておくことが望ましい。フィルター交換自体は本体カバーを開いて古いフィルターを入れ替え、リセットボタンを押すだけの簡便な作業で、院内スタッフで対応可能である。
経営インパクト
感染対策機器への投資は、目に見える直接的な売上増加を伴わないため、経営判断が難しい領域である。しかし、へパクリーンの導入により中長期的な費用対効果が十分見込める点を、具体的な数字で検証してみたい。
まず初期投資額である。本体のメーカー提示価格は約30万円前後(税別)と、同種の国産口腔外バキューム装置の中では比較的手頃な水準にある。例えば他社のハイエンド機種では80万~100万円に達するものもあるため、へパクリーンは3台分導入できる価格である。このコスト優位性は、小規模医院や保険診療主体のクリニックにとって大きなメリットとなる。仮に30万円で1台を購入し、耐用年数を5年と見込んだ場合、年間減価償却費は約6万円となる。さらに年間の消耗品コストとしてフィルター交換費を見積もる。前述のフィルターキット(約5万円/6セット)を用いて、標準的な使用頻度なら年間2〜4セット程度の消費が考えられる。年間フィルター費用は約1.7万~3.3万円だ。電気代も無視できないが、1300Wの消費電力で1日2時間稼働するケースを想定すると、月間約26kWh、電気料金にして約7〜800円程度に収まる。以上を合計すると、へパクリーン1台あたりの年間運用コストはおおよそ8~10万円前後と試算できる。
次に、この支出が医院経営にどう貢献するかを考える。最大のポイントは、院内感染防止対策の充実による診療報酬加算である。厚生労働省の定める「歯科外来診療環境体制加算」(いわゆる外来環加算)や「歯科外来感染防止対策加算」では、口腔外バキュームの各ユニット設置が評価要件の一つとなっている。これらの届出を行い算定が認められれば、初診時などに数百円規模の加算点数を得られるため、患者数にもよるが年間数十万円単位の収入増につながる可能性がある。例えば月に50人の新患がある医院で初診時に外来環加算(約200点)を算定すれば、年間12万円の増収となり、5年で約60万円に達する計算である。へパクリーンの導入費用はこの増収でほぼ回収できることになる。
また、診療効率の改善も見逃せない。口腔外バキュームによって削片や飛沫の大部分をリアルタイムに吸引できれば、診療後のユニット清掃や空気換気にかかる時間を短縮できる。たとえば従来はエアロゾル沈降のために処置間隔を15分空けていたケースで、へパクリーン導入後は10分に短縮できたとすれば、1日あたり1~2枠のアポイント増加余地が生まれる計算になる。増患に直結する効果ではないが、チェアタイム短縮による潜在的な収益機会の拡大という側面があることも経営上評価すべきである。
さらに、有事のリスク回避という観点も経営には重要だ。もし院内感染が発生すれば、休診措置や信用低下による損失は計り知れない。へパクリーンのような設備投資は、患者・スタッフの安全を守ると同時に、そうした最悪の事態を未然に防ぐ保険として機能すると考えれば、その費用は決して高くはない。事実、コロナ禍でいち早く口腔外バキュームを導入した医院は、患者から「安心して通える」との評価を得て新患増につながったケースも報告されている。クリーンな診療環境を積極的にアピールできれば、患者満足度の向上や他院との差別化につながり、長期的な増患・自費率寄与にも寄与しうる。総合的に見て、へパクリーン導入は「見えにくい部分で医院を支える投資」であり、堅実なROI(投資対効果)を期待できると言えるだろう。
使いこなしのポイント
新たにへパクリーンを導入した直後は、その物理的存在感に戸惑うスタッフもいるかもしれない。診療チェア脇に追加の機器が増えることで、動線やアシストワークに支障が出ないか心配になるのはもっともだ。しかし、適切な設置位置の工夫とチームトレーニングによって、へパクリーンはすぐに診療フローへ溶け込むだろう。
まず、ユニットごとの定位置を決めることが重要である。患者の頭位に対して斜め後方(ユニットライトの反対側)に本体を配置すると、術者・アシスタントのどちらからもアームを取り回しやすい。アームの角度調整によりフードの位置は自由度高く変えられるが、術者の視界と吸引効率の両立がポイントとなる。理想的には、フードは患部から10cm程度の距離で真正面から吸引するのが最も効率が良いが、その位置では術野を覆ってしまう恐れがある。そこで、実際の臨床ではフードを側方や斜め方向から接近させるケースも多い。例えば右上の支台歯形成中であれば、フードを患者の左頬側から当て、削りカスや水霧が患者の右後方に逃げないよう吸引する、といった具合である。症例写真や動画をスタッフ全員で確認し、どの位置取りが最善かを事前にシミュレーションしておくと良いだろう。メーカー提供の操作説明動画なども活用し、効果的な使い方を全員が習得することが肝要である。
音や風に対する患者への配慮も欠かせない。初めて大きな吸引フードを顔の横に近づけられれば、患者は驚くかもしれない。そのため、処置前に「細かな粉や水しぶきが飛び散らないよう、この機械で吸い取りますね」と一言説明し、患者の同意と安心感を得るようにする。へパクリーンは低騒音とはいえ、耳元で稼働すれば多少の風切り音や風圧を患者は感じる。その点も「少し音がしますが痛みはありませんのでご安心ください」等と声かけしておけば、多くの患者はむしろ積極的な感染対策に納得を示す。特にインプラント埋入オペや外科処置時など、患者も不安を抱えやすい場面では、「クリーンな環境で行うためにこうした機器を使っています」と伝えることで、技術面のみならず安全面でもプロフェッショナルな印象を与えることができる。
導入初期には、機器そのものの日常点検も習慣化しておきたい。例えば毎朝の診療前にフィルターの目詰まりをチェックし、清掃済みか確認する、アームの関節部が緩んでいないか(使っているうちにアームが自重で下がることがあるため)確かめる、といったルーティンである。1年保証の範囲内であっても、消耗品以外の故障リスクはゼロではない。吸引力に異常を感じたら早めにメーカーまたは販売代理店に相談し、必要なら点検・修理や代替機の貸与を仰ぐことも考える。設備を長く使いこなすには、積極的なメンテナンス対応とメーカーとの連携が不可欠である。
適応と適さないケース
へパクリーンは基本的に、エアロゾルや飛沫の発生を伴うあらゆる歯科処置で有効に活用できる。具体的には、う蝕の切削・歯冠修復の形成時、スケーラーやエアフローによるクリーニング時、抜歯やインプラント埋入時の切削片・骨粉の吸引など、多岐にわたる場面で威力を発揮する。とりわけ、ハンドピースや超音波スケーラー使用時には大量の水霧と微粉塵が飛散するため、口腔内バキュームとの同時使用で術野周辺の清潔度は格段に向上する。また、外科処置では血液を含んだスプレーの飛散も抑制でき、術者・介助者の感染防護に寄与する。歯科治療のみならず、義歯の調整研磨や仮歯のレジン研削など義歯補綴物の調整作業をユニットサイドで行う際にも、へパクリーンを併用すれば石膏粉・レジン粉の診療室内拡散を防ぐことができる。
一方で、本機が不得意とするケースも理解しておく必要がある。最大の注意点は、大量の粉塵や液体の直接吸引には適さないという点である。例えば石膏モデルのカット作業は、非常に微細で大量の粉塵が発生しフィルターを瞬時に詰まらせてしまうため、メーカーも「石膏の切削粉は絶対に吸引させないでください」と注意喚起している。同様に、削合時の大量の水や唾液は基本的に口腔内バキュームで吸引すべきであり、へパクリーンはあくまで飛沫状になったものを空中で捕集する補助的役割である。誤って大きな液滴を吸い込むとフィルターが湿潤・劣化し性能低下を招くため、用途に応じた使い分けが大切だ。吸引ホースを直接口腔内に突っ込んで唾液を吸う、といった本来意図しない使い方もしないようにする(そもそも先端フード形状が口腔内挿入に適していない)。また、診療室全体の換気設備を完全に代替するものではない点も留意すべきである。捕集しきれなかったエアロゾルは多少なりとも残存するため、へパクリーン導入後も適切な室内換気や空気清浄機の併用は続ける必要がある。
総じて、へパクリーンは「飛沫飛散のリスクがある場面には原則適応」と考えてよいが、「大量の粉塵・液体の吸引装置としては非適応」と整理できる。なお、既にラバーダム防湿などを積極的に用いてエアロゾル抑制に努めている場合であっても、口腔外バキュームはそれを補完しさらなる安全域を確保する役割を果たす。唯一導入の合理性が低いケースがあるとすれば、そもそも切削を伴う処置を滅多に行わない特殊な診療形態(例えば矯正専門でブラケット調整が主、など)の場合である。しかし、そのような場合でもクリーニングや研磨工程は発生し得るため、汎用性の観点からは設置しておく価値は十分あると言える。
導入判断の指針(読者タイプ別)
歯科医院の診療方針や重視する価値観によって、へパクリーン導入のメリット・感じ方は異なる。本節では、「効率最優先の保険中心」「高付加価値自費強化」「外科・インプラント中心」という3つのタイプの歯科医師像を想定し、それぞれにとって本製品がどのような意味を持つかを考察する。
保険診療が中心で効率を最優先する先生
日々多くの患者をさばき、回転率重視で医院経営を成り立たせている先生にとって、へパクリーンは「不可避なコスト」を上回る価値を提供するツールである。確かに、直接的に収入を生む機械ではないため導入判断に慎重になるかもしれない。しかし前述の通り、感染防備設備の整備による診療報酬加算や、清掃・換気時間の短縮による1日あたりの診療数増加など、経済効果が数字で見込める点は大きい。特に保険診療中心の医院では、外来環加算等の取得は患者1人あたりの収益改善に直結するため、へパクリーン導入が「収益維持のための必要投資」とも位置づけられるだろう。また、患者層として高齢者が多い保険診療中心医院では、コロナ禍以降に感染対策への関心が非常に高まっている。待合室に口腔外バキュームが設置され稼働している様子は、それだけで患者に「この医院は感染対策をしっかりしている」という安心感を与える。結果としてクチコミ評価が向上し、既存患者の定着や紹介増にもつながれば、長期的な収益増加が期待できるだろう。低価格帯ながら十分な性能を持つへパクリーンは、効率経営を志向する医院にとってコストパフォーマンスの高い選択肢である。
患者満足度を重視する高付加価値自費型の先生
自費診療やホスピタリティに力を入れる先生にとって、へパクリーンは「医院のブランディングを高める設備」となり得る。ラグジュアリーな院内環境を提供する審美歯科や予防歯科中心のクリニックでは、機器選定にもデザイン性や快適性が求められる。へパクリーン本体はホワイトを基調としたシンプルな外観で、診療室の雰囲気を損なわない。動作音も控えめで、リラクゼーション音楽が流れる空間でも大きなノイズにはならないだろう。何より、患者に対して「最先端の安全設備を導入しています」と胸を張ってアピールできる点が大きい。近年は歯科医院のウェブサイトやSNSで感染対策設備を紹介するケースも増えており、高性能な口腔外バキュームの存在は医院の付加価値として訴求できる。実際、ある予防歯科クリニックでは「空気中の微生物まで除去する機械を導入しています」と説明することで、潔癖志向の患者から高評価を得ている。自費診療は患者の信頼関係が要であり、治療技術のみならず「安全・安心を買っている」という満足感を提供することが重要だ。へパクリーンの導入は、その総合的な患者満足度の向上に寄与し、結果として医院の評価アップや自費率向上につながるはずである。ただし、こうした医院では更に上位機種(より静音で自動清掃機能付き等)の導入検討もあるかもしれない。へパクリーンは価格的に導入ハードルが低い反面、フィルター清掃など運用面の手間が多少発生するため、十分に活用するにはスタッフの意識付けが必要だ。その点をクリアできれば、コストに見合った付加価値を十分発揮してくれるだろう。
口腔外科・インプラント中心の先生
外科処置やインプラント治療を多く手掛ける先生にとって、院内感染予防と無菌的環境の確保は日常的な命題である。へパクリーンは、そうした外科分野においても力強い後押しとなる装置である。例えばインプラントオペでは、切開・骨削除・ドリリングの各段階で骨片や血液を含むエアロゾルが発生する。通常は外科ユニット毎に口腔外バキュームを備え、オペ中ずっと稼働させておくことが望ましい。へパクリーンの吸引力とフィルター性能であれば、オペ室内の浮遊粒子量を大幅に低減し、術後感染リスクの抑制に貢献できる。特に全身疾患を抱える患者の外科処置では、術中の感染リスクを最小化することが患者の予後にも直結するだけに、万全の体制を敷きたいところだ。加えて、外科処置ではしばしば特有の臭気(焼骨臭など)が問題となるが、強力な吸引と高性能フィルターにより臭気拡散も和らげられる利点がある。
一方で、外科・インプラント中心の医院は既に高度な換気設備や空気清浄システムを導入している場合も多い。そのような環境下では、「既存のクリーン環境に口腔外バキュームを追加する必要性は?」という疑問も生じるだろう。確かに、天井埋込型のHEPA空調や、大容量のセントラル吸引を備えた施設では効果が実感しづらいケースも考えられる。しかし、術野直近で吸引する口腔外バキュームは最後の取りこぼし防止ネットのような役割を果たし、どれだけ周辺設備が整っていても現場レベルでの補完効果は侮れない。特に昨今は、歯科用顕微鏡(マイクロスコープ)を用いた精密外科や無切開手術などが広がりつつあるが、そうした繊細な術式ほど術野のクリアランス確保が肝心である。へパクリーンは空中に漂う微小な血液エアロゾルすらも迅速に除去するため、顕微鏡視野をクリアに保つ一助にもなる。さらに、インプラント分野では手術後の患者フォローも重視される。患者に「当院では最新の口腔外バキュームで手術中の感染リスクを抑えています」と説明すれば、術後の安心感にもつながるだろう。外科・インプラントに注力する先生にとって、へパクリーン導入は「安全対策に一切妥協しない」という姿勢を具現化するものであり、患者・スタッフ双方へのメッセージともなるはずだ。
よくある質問(FAQ)
Q. フィルターはどれくらいの頻度で交換が必要か?
静電プレフィルターと集塵フィルターは汚れ次第で随時清掃し、破損や劣化があれば交換する。高性能HEPAフィルターは目詰まりによる吸引力低下を防ぐため、メーカー推奨では20時間の稼働ごと(最大でも3か月に1回)の交換が目安である。実際には1日数時間の使用であれば3か月毎の交換が一般的である。交換用フィルターは6セット入り約5万円のキットが用意されており、1セットあたりのコストは約8千円だ。交換サインのランプが点灯したり吸引力低下を感じたりした場合は、推奨時期を待たず早めに新品に交換すべきである。
Q. 稼働音や風による患者への影響は大丈夫か?
低速運転時の動作音は55dB程度と非常に静かで、診療中の会話の妨げにならない。高速運転では多少音が大きくなるが、それでも歯を削るタービン音と同程度かそれ以下であり、患者が恐怖を感じるような騒音ではない。また、吸引時に発生する風も顔に直接当てさえしなければ問題ないレベルである。初めて使用する際は事前に「音は出るが驚かないでください」と一言断っておけば、患者の理解が得られ安心できる。むしろ機械が一生懸命に飛沫を吸い取っている様子を見て、多くの患者は安堵感を覚えるものだ。
Q. 1台のへパクリーンを複数のユニットで使い回せるか?
技術的には不可能ではないが、効率面・感染対策面から非推奨である。特に同時間帯に複数のチェアでエアロゾル発生処置を行う場合、1台ではカバーしきれない。基本的には診療ユニット各台に1台を設置し、常時稼働できる体制が望ましい。ただし、小規模で同時に処置を行うチェア数が限られる場合には、キャスター付きの利点を活かし「予防処置用のユニットに常設し、必要時に他ユニットへ移動する」という運用も可能である。その場合でも、移動や清拭に手間取れば患者の待ち時間が発生するため、運用フローを十分検討すべきである。また、将来的に患者数や処置数が増えた際には、適宜台数を追加していく柔軟な計画も必要だ。
Q. 導入すれば院内感染の心配は無くなるのか?
へパクリーン導入によって飛沫粒子の大部分を捕集できても、院内感染リスクがゼロになるわけではない。あくまで感染対策の一翼を担う機器であり、口腔内バキュームやラバーダム、防護具の着用、室内換気など従来の対策と組み合わせて総合的にリスク低減を図ることが重要である。ただし、口腔外バキューム無しでは空中を漂っていた微粒子を大量に除去できるため、診療室内の浮遊菌・ウイルス量が著しく減少するのは事実だ。特にCOVID-19以降、エアロゾル感染への不安が高まる中で、患者やスタッフの心配を和らげる効果は絶大である。つまり、「絶対安全」ではなく「より安全な環境」を提供する装置と捉え、他の感染対策も引き続き徹底することが肝要である。
Q. メンテナンスや故障が心配だがサポート体制は?
へパクリーンには1年間のメーカー保証が付帯しており、初期不良や通常使用での故障には無償対応が受けられる。B.S.Aサクライ社は歯科器材専門商社として全国に販売ネットワークを持ち、導入先の歯科医院には担当ディーラーによる定期訪問や電話でのサポートを提供している。フィルター等の消耗品もディーラー経由ですぐに取り寄せ可能だ。導入から数年が経過して保証が切れた後でも、モーターやファンの交換修理など個別対応が可能な設計となっている。実際、数年間使用しても故障報告は少なく、耐久性は良好との評価である。日頃から清掃や点検を怠らなければ突然停止するリスクは極めて低いため、過度に心配する必要はない。万一トラブルが発生した場合でも、代替機の貸出など柔軟な支援を行ってくれる販売店もあるため、購入時にそうしたサポート内容を確認しておけばより安心である。