
歯科の口腔外バキュームは「移動式」が便利!メーカーごとの価格や評判を解説
飛沫対策に悩む日々から解放されるために
日々の診療で、ハンドピースによる切削やスケーリング時に飛び散る唾液や切削粉塵に悩まされた経験はないだろうか。治療後にはユニット周りに細かな粉が付着し、毎回清拭と換気に気を遣う。スタッフや患者から「空中に舞うエアロゾルが不安」と声を聞くこともある。特に感染症が話題となった近年、診療室の空気中の飛沫をどうコントロールするかは大きな課題であった。
この悩みを解決する一助として注目されているのが移動式の口腔外バキュームである。床置き型でコンセントさえあればどこでも使用でき、強力な吸引で空中飛沫を診療チェアごとに除去できる。
本記事では、主要な移動式口腔外バキューム製品を比較する。安全な診療環境を守りつつ医院の経営効率も高めるための「臨床的ヒント」と「経営的戦略」を紹介するので、飛沫対策に頭を悩ませている先生方はぜひ最後まで読み進めてほしい。
比較サマリー|主要な移動式口腔外バキューム早見表
臨床で求められる性能と経営判断に欠かせない要素をまとめた。吸引力や静音性、フィルター性能から価格帯まで一覧で比較し、自院に適した一台を見極める足がかりにしてほしい。
製品名(メーカー) | 参考価格(税込) | 吸引性能※ | 騒音値※ | フィルター | 本体重量 | 特徴的な機能や特徴 |
---|---|---|---|---|---|---|
フリーアーム・アルテオS(東京技研) | 約935,000円(税別850,000円) | 最大風量約3.0 m/min(5 kPa) | 約65 dB | 3層フィルター(HEPA等) | 約44 kg | 自動クリーニングモード搭載・排気ルーバー機能 |
フラミンゴ・ナノ(アクロス) | 約801,900円(税別729,000円) | 最大風量約2.5 m/min | 約62 dB | 2層フィルター+UV殺菌灯 | 約42 kg | 静音設計・UVライトで除菌効果 |
カルモ(東京歯科産業) | 約767,800円(税別698,000円) | -(外来環基準適合) | - | HEPA+ダストパック | - | 日本製の安心感・LEDライト(オプション) |
へパクリーン(ビー・エス・エー・サクライ) | 約327,800円(税別298,000円) | 最大吸引負圧15 kPa(強力) | 最小55 dB~ | 3層フィルター(静電+HEPA他) | 約28 kg | 強力吸引と静音性の両立・軽量設計 |
クリーンバック(ビー・エス・エー・サクライ) | 約275,000円~(税別250,000円~) | -(密閉型ボックス吸引) | - | フィルター内蔵(種類非公表) | 約- | 手を入れる密閉BOX内で自動吸引・LED照明 |
Free-100 mini(フォレスト・ワン) | 約272,800円(税別248,000円) | -(12段階パワー調整) | 公称値非公表(高周波音低減) | 複数フィルター(HEPA他) | 約27 kg | コンパクト設計・フィルター交換お知らせ機能 |
※補足:吸引性能はメーカー公表値や承認情報に基づく(数値記載のない製品は基準適合品)。騒音値は最大運転時の参考値(環境条件により変動)。価格は標準価格を元にした目安で、実売は割引や時期により変動する。
それぞれの製品がどんな強みを持ち、どんな歯科医院にフィットするのか、次章以降で詳細に見ていこう。
比較のポイント|吸引力・静音性・経済性で見る選定基準
強力な吸引力がもたらす臨床効果と経営効率
口腔外バキューム最大の目的は、治療中に発生する飛沫や粉塵をできる限り即座に吸引除去することである。吸引力の指標には風量(m³/分)や負圧(kPa)がある。例えば東京技研のフリーアーム・アルテオSは風量3.0 m³/分・負圧5 kPaを発揮し、削片や水霧を強力に吸引する。ビー・エス・エー・サクライのへパクリーンは公称15 kPaという極めて高い負圧を実現しており、義歯調整時のレジン粉塵のような重めの微粒子もしっかり捕集可能である。吸引力の差は臨床結果に直結する。吸引力が高ければ術者やアシスタントの吸引ミスを補い、術野の視界確保にも貢献する。結果として治療精度向上や術中ストレス軽減につながる。
経営面では、飛沫拡散の低減により診療後の清掃・換気に要する時間を短縮できる点が重要だ。空気中のエアロゾルを即時に除去できれば、患者ごとのチェア清拭や空気清浄にかかるダウンタイムを圧縮でき、チェアタイム効率が改善する。また、日本の保険制度における「歯科外来診療環境体制加算(外来環)」や「かかりつけ歯科医機能強化型診療所(か強診)」の施設基準では口腔外バキュームの設置が求められている。十分な吸引性能を持つ機器を導入すれば、これらの基準を満たして診療報酬加算が得られるため、中長期的な収益向上にも寄与する。
静音設計はスタッフと患者のストレスを左右する
強力な吸引力と表裏一体の課題が運転音の大きさである。口腔外バキュームはモーター音や吸引音により診療室内の騒音源となり得る。長時間これに晒されるスタッフの疲労や、患者の不安感を考慮すると、静音性も製品選定の重要な軸となる。各メーカーは騒音低減に工夫を凝らしており、例えばへパクリーンは最小55 dBという図書館並みの静かさを謳っている(最大パワー時はもう少し音量が上がる)。フラミンゴ・ナノは動作音約62 dBで、他のハンドピースやバキューム音と調和し診療の妨げになりにくいレベルだ。フォレスト・ワンのFree-100 miniはサイレント機能で高周波の「キーン」という騒音を軽減しており、音の質にも配慮している。
静音性は経営にも影響する。静かな機器ほど患者満足度が高まりやすく、口コミやリピート来院につながる可能性があるからだ。例えば補綴の調整中も会話ができる程度の静音バキュームであれば、患者に「最新の設備で安心できた」と好印象を与えやすい。一方、騒音の大きな機器を導入してしまうと、結局怖がって使用頻度が下がり「宝の持ち腐れ」になるケースもある。投資対効果(ROI)を最大化するには、日常診療でストレスなく使い続けられる静音性が欠かせない。
フィルター性能とメンテナンス性が感染対策コストを左右
口腔外バキュームは吸引した空気を浄化して排気するフィルターシステムを内蔵する。HEPAフィルター(0.3μm粒子を99.97%除去)を搭載したモデルが多く、中にはULPAフィルター(0.1~0.2μm粒子を99.999%捕集)を採用する上位機種も存在する。フィルター性能は院内感染リスクの低減に直結するが、併せてメンテナンスの容易さとランニングコストも考慮したい。例えばへパクリーンは静電プレフィルター+HEPA+集塵フィルターの3段構成で微粉まで除去する一方、交換用フィルターキット(各6枚セット約5万円)が用意されており、定期交換により常に性能を維持できる。カルモは工具不要でダストパック交換可能な設計で、スタッフが手軽に清掃・交換しやすい点が特徴である。フィルター目詰まりに気付かず吸引力が低下しては本末転倒なので、Free-100 miniのようなフィルター交換お知らせランプ搭載機は管理上安心だ。
コスト面では、フィルター交換サイクルと価格がクリニックの支出に影響する。一般的にプレフィルターは数百時間、メインのHEPAは半年〜1年程度で交換が推奨される。高性能フィルターほど高価だが、交換頻度が少なければトータルコストは抑えられる。例えば東京技研のフリーアーム・アルテオSは3層フィルターで院内排気もクリーンにするが、清掃用の自動クリーニングモードも搭載しフィルター寿命延長に寄与している。メンテナンス性と費用のバランスが良い製品を選べば、「導入したものの維持費が負担」という状況を避けられる。
【設置性と機動力】スペースを制するものが効率を制す
医院ごとのレイアウトや診療スタイルによって、口腔外バキュームに求められる設置性や機動力も変わってくる。移動式とはいえ重量は20~40 kg台が多く、小柄なスタッフでも楽に移動できる軽量設計かどうかはチェックしたいポイントだ。へパクリーンは約28 kgと比較的軽く、ハンドル付きで大型キャスターを備えているため院内の移動がしやすい。複数ユニットを1台でカバーする運用も無理がないだろう。逆にフリーアーム・アルテオSやフラミンゴ・ナノは40 kg超と重量級である。その分どっしり安定感があり長いアームで広範囲をカバーできるが、頻繁な移動よりユニット横に常設する使い方に向く。
スペースの制約も見逃せない。待合やユニット間隔が狭い医院では、フットプリント(床占有面積)の小さいモデルが望ましい。カルモは幅35 cm四方程度とコンパクトな筐体で、診療チェア脇に置いても邪魔になりにくい。Free-100 miniも高さを抑えた設計で圧迫感が少なく、未使用時はユニット下にある程度収めておける。各製品のアーム長にも注意し、ユニットの配置に照らして必要十分なリーチがあるか確認すべきだ。狭い個室診療室などでは、クリーンバックのように患者ごとに透明な覆いの中で吸引するタイプも選択肢となる。このタイプは設置スペースを要するが飛散防止効果が高く、周囲環境への配慮が一段と求められる外科処置や感染症患者対応に威力を発揮する。
以上を踏まえて、次に製品ごとの特徴と適合するクリニック像を具体的に見ていこう。
製品別レビュー|自院にフィットする一台を見極める
【フリーアーム・アルテオS 】高機能を備えた国産ハイエンド機
東京技研の「フリーアーム・アルテオS」は、同社フリーアームシリーズのスタンドアロン型最上位機である。価格も約85万円(税抜)と高額だが、それに見合う先進機能を搭載する。例えば手間いらずのクリーニングモードは、内部に付着した粉塵を自動で除去するセルフメンテナンス機能で、フィルターや配管内の清潔を保ちやすい。また排気口にルーバー(風向調節板)を備え、クリーン化した空気の吹き出し方向を足元へ逸らすなど細かな配慮が行き届く。吸引能力は風量3.0 m³/分・吸引圧5 kPaと十分で、通常のう蝕処置から外科的処置まで広く対応可能だ。アーム長約1.5 mと可動範囲も大きく、患者の体格や体位に左右されずフードを適切な位置に保持できる。
強みは耐久性と信頼性だ。純国産の堅牢な設計でクリニック常設機としての酷使にも耐え、同シリーズを長年使い続ける歯科医院も多い。実際、開業医仲間からは「10年以上経ってもトラブルが少なく安定稼働している」という声を聞く。一方、弱みとしては本体の大きさ・重さと価格だ。約44 kgある筐体は移動に体力を要するため、複数の診療台で使い回すより各ユニットに固定配置したほうが活きる。コストも高額ゆえ、保険診療が中心で資金に余裕がないクリニックには導入ハードルが高いかもしれない。しかし「患者に安心最優先の投資をしている」とアピールしたい自費診療中心のクリニックや、最新設備を揃えて差別化を図りたい都市部の医院には、このハイエンド機の持つブランディング効果は見逃せない。院内感染対策をリードする存在として、医院の価値を高めてくれる一台である。
【フラミンゴ・ナノ】静かで空間に優しい高性能モデル
アクロス社の「フラミンゴ・ナノ」は、静音設計と空間清潔機能を両立したプレミアム機だ。その名の通りフラミンゴのように細身のスタンドに長いアームを備え、単相100V電源さえあれば即使用できる移動式である。特筆すべきは運転音の静かさで、最大パワー時でも約62 dBと会話が可能なレベルに抑えられている。複数台が同時稼働しても診療室全体が騒然とすることなく、患者とのコミュニケーションやBGMも妨げにくい。この静音性は、騒音ストレスによるスタッフ疲労軽減にも寄与するだろう。
吸引性能は風量2.5 m³/分と十分で、口腔外バキュームとしての要件をしっかり満たす。さらにUV殺菌灯を内蔵している点が特徴で、捕集した細菌・ウイルスをフィルター付近で不活化し、排気の衛生度を高めている。3層フィルター構造(布フィルター+エアフィルター+HEPA)に加えたUV照射はまさに至れり尽くせりで、院内感染対策を徹底したい医院には心強い仕様である。フラミンゴ・ナノ自体も「歯科外来診療環境体制加算(外来環)」や「か強診」の施設基準に適合する機器として認められており、導入するだけで保険請求上のメリットを享受できる可能性が高い。
難点を挙げるとすれば、価格が約73万円(税抜)と高額な点と、本体重量が約42 kgとやや重い点だ。機器としての満足度は高いものの、導入コストの回収計画は経営者としてシビアに考える必要がある。しかし、例えばインプラントや外科処置が多く富裕層患者が来院するクリニックでは、「最高水準の衛生設備があります」と胸を張れる本機の存在はマーケティング上の強みとなる。実際、筆者の知る都心部開業医でもフラミンゴ・ナノを導入し、院内ツアーで患者にアピールしているケースがある。高品質・高価格ゆえに活用しきる運用力が求められるが、患者の安心と満足度を買う投資と割り切れる医院にはぜひ検討してほしい。
【カルモ】日本製の安心感と扱いやすさが光る中堅モデル
東京歯科産業の「カルモ」は、「購入後も安心」とうたわれる日本製の移動式口腔外バキュームである。価格は約69.8万円(税抜)と上位機に比べれば抑えめながら、必要十分な性能を備えている。例えば吸引効率を高める高出力モーターとHEPAフィルター内蔵で、微細な粉塵も99.97%除去する。外部への排気も清浄化されるため、院内のどこに設置しても空気を汚さない点は安心材料だ。さらに外来環対応機種として位置付けられており、保険の環境加算取得にも貢献する。
カルモが秀でているのはユーザビリティの高さである。本体は幅35 cm程度とコンパクトで、邪魔になりにくいよう配慮されている。アーム操作部には握りやすい大型ハンドルがあり、細かな位置調整も滑らかだ。オプションで先端フード部分にLEDライトを装着可能で、暗部も照らしながら吸引できるため義歯調整など細かな作業の視認性が良い。消耗品交換も簡便で、例えばダストパック(集塵袋)の交換は工具不要で誰でも短時間に行える。このためスタッフに管理を任せやすく、院長不在時でも安定運用できる。
反面、突出した尖った機能は少ないため「最高性能を求める」というタイプのユーザーには物足りなく映るかもしれない。また、本体重量は公式未公表だが体感的には30~35 kg程度あり、頻繁な階差移動には向かない印象だ。しかし、過剰な機能よりも使いやすさと国産メーカーの手厚いサポートを重視する歯科医師には、カルモは有力な選択肢となる。具体的には保険診療中心で過度なスペックは不要だが、院内感染対策はきちんとしたいという医院や、機械が苦手なスタッフでも扱える道具を求める先生にフィットするだろう。堅実なパフォーマンスと手頃な価格バランスで、導入後の満足度も高い製品である。
【へパクリーン 】強力吸引と静音性を両立したコスパモデル
ビー・エス・エー・サクライの「へパクリーン」は、高い吸引力と低騒音をバランス良く兼ね備えた移動式バキュームだ。メーカー公称の最大吸引圧は15 kPaに達し、これは上位機種に負けない強力さである。実際に削合片の大きな欠片や石膏粉などもグングン吸い込む様子は頼もしく、口腔内バキュームだけでは取り切れない飛沫物を外部でしっかり補完してくれる。パワフルな一方で、運転音は55 dB(最低モード時)~60 dB台と抑えられており、診療中に会話が成立する静かさだ。これは本体内部に配置した消音スポンジや独自の静音設計によるもので、メーカーも「強力吸引&静音設計」をセールスポイントに挙げている。
特徴的なのはコンパクトかつ軽量な筐体であること。使用しないときは本体アームを折りたたんでコンパクトに自立収納できる設計で、診療チェア脇の隙間に収めておくことが容易だ。約28 kgの重量と大型キャスター+取っ手により、女性スタッフでも楽にコロコロと移動可能である。1台をフロア内で共有する使い方にも適しており、訪問診療先へ持参する事例もあるほどだ(ただし医療機器なので院外持ち出し時は届け出等注意)。フィルター類は静電プレフィルター+高性能HEPA+集塵フィルターの3層で0.3μm以上を99.97%除去し、感染対策性能も十分と言える。現行販売価格も約30万円前後とコストパフォーマンスに優れるため、初めての口腔外バキューム導入にはハードルの低い一台だ。
留意すべき弱点は、耐久性や細部の作りがハイエンド機に劣る可能性である。メーカー自体は歯科用機器商社で、本機は韓国メーカー製を扱っている背景もあり、実際に「数年使ったら吸引力が落ちた」「プラスチック部品の劣化が早かった」との報告も散見される。ただ、1年保証が付帯し交換フィルター等の供給も安定しているため、適切なメンテナンスを行えば大きな問題は避けられるだろう。低予算で効果的な飛沫対策を講じたい保険主体の歯科医院や、まずは1台試験導入してみたいというケースに、へパクリーンはマッチしやすい。強みと弱みを踏まえつつ、価格以上の働きを引き出せるよう運用することで、医院の頼れる相棒となるだろう。
【クリーンバック 】密閉式で飛沫を完封するユニークアプローチ
同じくビー・エス・エー・サクライからもう一つ異色の製品が「クリーンバック」である。一見すると透明なアクリル製の大きな箱のようで、実はその中で手を使って処置を行いながら吸引する密閉型バキュームだ。クリーンバックAT(約29万円税抜)では箱内に手を入れると自動でLEDライトが点灯し、同時に吸引が開始される仕組みになっている。つまり患者の口元をすっぽり覆う“クリーンBOX”の内部で治療し、飛散物を完全に閉じ込めて吸引除去するというコンセプトだ。広々とした全面クリアのボックスは視界良好で、術者から患部が見えにくくなる心配は少ない。密閉環境下での吸引ゆえ飛沫飛散防止効果は極めて高く、まさに飛沫対策の究極形と言える。
このアプローチの最大の利点は、エアロゾルや飛沫が診療室内にほとんど拡散しないことである。エンド治療中の唾液飛沫や、抜歯時の血液混じりの噴霧もボックス内に封じ込められ、術後の室内清掃や空間除菌の手間が大きく軽減される。特に空調の負荷を減らせるため、換気時間短縮につながりチェア回転率の維持に役立つ。また患者側から見ても、自分の周りに壁がある安心感から「飛沫を浴びる恐怖がない」と好評なケースもある。ただし明確な弱みも存在する。箱越しに器具操作を行うため、細かな感覚が伝わりにくく術式によっては難易度が上がる点だ。例えば細部のシェードチェックや微妙なタッチが要求される処置では邪魔に感じる可能性がある。またボックス自体の設置スペースも必要で、ユニット周りがタイトな医院には物理的に置く余裕がないかもしれない。
クリーンバックは標準的な口腔外バキュームとは一線を画す用途を想定した製品である。導入するならば、具体的に飛沫完全遮断が求められる場面(感染症患者対応や外科処置)に焦点を絞るのが良いだろう。日常の全ての処置に使用するのは非現実的だが、例えば「発熱患者の応急処置専用に使う」あるいは「義歯調整や仮床調整の研磨粉飛散対策に使う」など、医院独自の使い所を決めて運用すれば効果を発揮する。他院にはない飛沫対策設備として差別化にもつながるため、アイデア次第で経営的メリットも引き出せるユニークな存在と言える。
【Free-100 mini 】手頃な価格と静音機能で初導入に最適
フォレスト・ワンの「Free-100 mini」は、リーズナブルな価格帯で基本性能を押さえたエントリーモデルだ。元々「Free-100」というモデルがあり、それを一回り小型化(高さ14 cm低減)したのがminiである。価格は約24.8万円(税抜)と主要機種の中では最も手頃で、開業まもない先生や試験的導入にも向いている。性能面では、吸引圧や風量の公称値こそ明示されていないが、「従来品と性能は変わらず」とされており、通常の切削・スケーリング程度なら問題なく飛沫を吸収できる印象だ。実際に試用した際も、チェアサイドでのクラウン調整粉や水しぶきが概ねキャッチされており、小型とはいえ侮れない吸引力を感じた。
Free-100 mini最大の特長は使い勝手の良さと静音性である。本体上部に直感的に操作できるダイヤルやスイッチが配置され、12段階のパワーモード調整が可能だ。処置内容に応じてこまめに強さを変えられるため、必要以上に音を立てず効率的に吸引できる。またサイレントモード(高周波ノイズ低減機能)を搭載し、「ブーン」という低音は残しつつ耳障りな高音成分をカットしてくれる。これにより患者にもスタッフにも優しい音質になっており、長時間使用でも疲れにくい。筆者のクリニックでも一時期この機種を使用していたが、周囲から「音がソフトで良い」との評価があった。フィルターはプレフィルター+HEPAフィルター構成で、交換時期になるとランプで知らせるメンテナンスアラート機能が付いている点も親切だ。
一方、限界も心得ておく必要がある。小型ゆえに重度の粉塵発生(例えば入れ歯の大幅な調整削合)では吸引漏れも起こり得る。また本体は軽量化のため樹脂パネルが多く、耐久性では金属ボディの高級機に及ばない。実売価格もディーラー経由ではさらに下がることがある反面、中古市場では人気が高く出物がすぐ売れてしまうため、導入の際は正規代理店で新品購入が確実だ。Free-100 miniは「まず1台置いてみたい」という医院や、低コストで外来環基準を満たしたい場合にうってつけである。必要に応じて将来上位機種への買い替えや増設も視野に入れつつ、本機で得られる効果(飛沫低減や患者安心度向上)を試してみる価値は十分にあるだろう。
よくある質問(FAQ)
Q. 口腔外バキュームを導入すると保険点数で有利になるのか?
A. 直接的に算定できる「バキューム使用加算」のような点数はありませんが、間接的なメリットがあります。具体的には、歯科外来診療環境体制加算(通称「外来環」)やかかりつけ歯科医機能強化型診療所(「か強診」)の施設基準要件に口腔外バキュームの設置が含まれています。これらに該当すれば患者ごとに一定の加算点数を算定できるため、結果として収益向上につながります。したがって、保険請求上も導入メリットがあると言えます。
Q. フィルターはどのくらいの頻度で交換し、費用はいくらかかる?
A. 製品と使用状況によりますが、目安としてプレフィルターは数百時間ごと(1~3か月に1回程度)、メインのHEPAフィルターは6か月~1年に1回程度の交換が推奨されます。費用は機種によって異なり、例えばへパクリーンのフィルターセット(各種フィルター計6枚入り)は約5万円です。高性能フィルターほど価格は上がりますが寿命も長めです。交換時期は吸引力低下や警告ランプで判断し、ケチらず適切交換することが安全な運用につながります。事前にディーラーに維持費の見積もりを確認しておくと良いでしょう。
Q. 騒音が患者にうるさく感じられないか心配です。実際のところどうですか?
A. 最新機種はかなり静音化が進んでおり、ハンドピースや唾液管の作動音に埋もれてしまう程度という声が多いです。もちろん全く無音ではありませんが、特に静音設計の製品(フラミンゴ・ナノやへパクリーン等)は患者さんとの会話が継続できるレベルです。むしろ機械音より「飛沫をすぐ吸ってくれて安心した」というポジティブな反応の方が増える傾向にあります。ただしパワー最強時はそれなりの風切り音がしますので、説明時に「少し音が出ますが安全のためです」とひと声かける配慮はすると良いでしょう。
Q. クリニックに診療台が3台ありますが、口腔外バキュームは何台用意すべきでしょうか?
A. 理想を言えば各ユニットごとに1台設置が望ましいですが、初期コストやスペースの制約もあるためまず1台を使い回すケースも多いです。へパクリーンのように軽量で移動しやすい機種なら1台で複数台をカバー可能です。ただ同時にエアロゾルが発生する処置が重なると追いつかないため、診療スケジュールを工夫し吸引が必要な処置時間をずらす運用が必要です。患者さんに安全をアピールする意味でも、余裕があれば将来的にユニット台数分の設置を検討すると良いでしょう。なおユニットに直付けする天井吊り下げ型などもありますが、機動性や導入ハードルを考えると移動式から始めるのが現実的です。
Q. 口腔外バキュームさえあれば感染対策は十分でしょうか?
A. いいえ、あくまで数ある感染対策の一つとお考えください。口腔外バキュームは飛沫・粉塵を大幅に減らしますが、全てを完全に除去できるわけではありません。微小なエアロゾルは残存しますし、ユニット周りの清拭や換気も引き続き重要です。また、口腔外バキュームに頼りすぎて基本的なグローブ・マスク・アイガードやラバーダム等を怠れば本末転倒です。逆に言えば、他の対策と組み合わせることで相乗効果を発揮します。口腔外バキュームは「最後の砦」として位置付け、総合的な衛生管理の一環として活用することが肝要です。