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モリタの歯科用ポータブルレントゲン機器「ポートエックスⅣ」の評判や価格は?

モリタの歯科用ポータブルレントゲン機器「ポートエックスⅣ」の評判や価格は?

最終更新日

日々の臨床で、患者をわざわざX線室に移動させる手間に悩まされた経験はないだろうか。一度診療ユニットに座った患者を立たせ、別室でレントゲン撮影を行うたびに、患者の負担と診療時間のロスを実感する。特に車椅子の高齢患者や、緊急処置中で動かせないケースでは、そのまま椅子でX線を撮影できたらどれだけ効率的だろうと感じるものだ。こうした現場の切実なニーズに応えるのがポータブル歯科用X線装置である。

ポータブルレントゲンは、診療チェアサイドや訪問先で手軽にX線撮影を可能にする装置である。昨今、その性能は飛躍的に向上しており、画質や安全性が固定式装置に迫るレベルに達している。

本稿では、国内歯科大手のモリタが提供する「ポートエックスIV」に焦点を当て、その特徴と導入メリットを臨床面と経営面の両側面から分析する。読者が自身の診療スタイルに照らし、この製品の価値を判断する一助となれば幸いである。

モリタ「ポートエックスIV」の製品概要

「ポートエックスIV」は株式会社モリタが2023年に発売したデジタル式の歯科用ポータブルX線装置である。正式な分類上は管理医療機器(クラスII)に属し、院内・訪問のどちらでも使用可能な汎用デンタルX線撮影装置として承認を受けている。基本構成には、本体と小サイズのCCDセンサー、ハンドスイッチ、充電用ACアダプターなどが含まれる。

本製品最大の特徴は、X線発生器とデジタルセンサーが一体化した点にある。従来の据え置き型や前モデル(ポートエックスIII)では、撮影後に現像やパソコン取り込みの手間があったが、ポートエックスIVでは撮影後数秒で本体内蔵のモニターに画像が表示される。歯科用デジタルX線センサーが本体と直結されており、フィルムレスでその場で結果を確認できるため、患者を長く待たせずに診断や治療方針の説明に移行できる。

また、重量はバッテリー込みで約1.8kgと非常に軽量コンパクトであり、成人が片手で保持して撮影できる設計である。内蔵のリチウムイオンバッテリーはフル充電で約400回分の撮影に耐える容量があり、訪問診療先でも十分な回数のX線撮影を行える。これらの特長により、ポートエックスIVは「持ち運べるレントゲン室」として、院内・院外を問わず機動力の高いX線診断を可能にしている。

ポートエックスIVの主要スペックと臨床での意味

ポートエックスIVの主要スペックを確認すると、現代の歯科診療に求められる性能がバランス良く盛り込まれていることが分かる。X線管球の出力は管電圧70kV・管電流2mA(いずれも固定)で、一般的な歯科用エックス線装置と同等のエネルギーを持つ。これにより、厚みのある顎骨や大臼歯部でも十分な透過性が得られ、画像のコントラストが明瞭で診断精度を損なわない。焦点寸法も0.4mmと精細で、微小な病変の描出にも適している。実際、旧来のポータブル装置によくあった「画像がぼやけて細部が読みにくい」という課題は、本機ではほとんど感じられないだろう。

撮影範囲(照射野)は直径60mmで、口腔内の1~2歯程度を一度に撮影するデンタル撮影として標準的な大きさである。撮影時間は0.05~1.6秒の範囲で設定可能で、撮影部位に応じ自動的に適切な時間が選択されるプリセット機能を搭載する。例えば前歯、小臼歯、大臼歯、乳歯といったボタンを押すだけで、部位に応じた露光時間にセットされるため、スタッフが毎回細かく設定を調整する必要がない。経験の浅いスタッフでも扱いやすく、ミスショットによる撮り直しを減らす工夫と言える。

内蔵センサーはCCD方式で、高感度かつ高解像度の画像取得が可能だ。付属の標準センサー(サイズ小、約24×37mm)は小児から前歯部撮影に適するサイズで、成人臼歯領域では必要に応じて一回り大きいサイズ(オプションのサイズ大センサー、約30×43mm)に交換して用いることができる。センサーの解像度は20ラインペア/mm程度と、一般的なデジタルX線センサーと同等レベルであり、根尖病変や微細な辺縁漏洩の検出にも支障はない。臨床的には、従来フィルムで得ていた情報を遜色なくデジタル画像で提供できるスペックと言える。

さらに注目すべきは、バッテリー性能と冷却効率の高さである。約400回の連続撮影が可能な大容量バッテリーは、1患者あたり数枚撮影する程度なら数日から1週間程度充電無しで運用できる計算になる。頻繁な充電の手間が省けるだけでなく、院外のイベント検診や長時間の訪問診療でも電池切れを心配せずに済む安心感がある。また連続照射後の待機時間も短縮されており、複数枚を立て続けに撮影する局所撮影や根管治療中の確認撮影でもテンポ良く進められる。これらのスペックは、単なる数値以上に臨床ワークフローを円滑にする要素として寄与している。

データ互換性と運用方法

ポートエックスIVはオールインワンのデジタルX線システムとして設計されているが、取得した画像データの取り扱いも柔軟である。撮影画像は本体メモリーおよび付属のマイクロSDカードに保存され、院内のパソコンへはWi-FiまたはUSB接続で簡単に転送できる。標準ではモリタの画像管理ソフトウェア(i-Dixelなど)との連携を想定しているが、出力される画像フォーマットは一般的なDICOMもしくは汎用画像形式に対応しており、他社の電子カルテや画像ソフトにも取り込みが可能だ。つまり、現在医院で使用中のデジタルX線システムに比較的スムーズに統合できる。

リアルタイム性という点では、タブレットやスマートフォンによる画像閲覧が大きな利点となる。ポートエックスIVは無線LAN機能を内蔵しており、専用アプリ(PortView for mobile)をインストールしたiPadやiPhoneと直接接続して画像プレビューが可能である。診療チェアサイドでiPadに撮影画像を表示し、患者と一緒に確認しながら説明を行うことも容易だ。昨今はカウンセリング時に大型モニターへ口腔内写真やレントゲンを映し出す医院も多いが、本製品導入により撮影から説明までをひとつのデバイスで完結でき、説明効率が向上する。

運用面では、ポータブル機器特有の取り扱いポイントがある。本体は防水ではないため、唾液や消毒液がかからないようビニールカバーを使用することが推奨される。また付属のセンサーも精密機器であるため、患者ごとにディスポーザブルのセンサーカバーを装着し、防水と感染対策を徹底する必要がある。センサーケーブルの断線防止や咬合圧による破損を避けるため、センサー位置決めホルダーを用い、患者には「強く咬まないよう」指示して撮影することが望ましい。これらは従来のデジタルセンサー運用と共通の注意点である。

さらに、ポートエックスIVには三脚固定用のネジ穴が本体底部に用意されている。オプションの専用三脚に装着すれば、本体をスタンドに据えて撮影することも可能だ。これにより、術者が本体を手で保持せずに離れた場所からハンドスイッチで照射する運用もできる。院内で繰り返し使用する際、あるいは被ばく線量を極力下げたい場合には、三脚+ハンドスイッチ運用で術者がX線から距離を取ることも選択肢となる。手持ち撮影と固定撮影を状況に応じて使い分けられる柔軟性は、院内の被ばく管理やスタッフ教育の面でもメリットが大きい。

なお、2025年には姉妹機として「ポートエックスIV e」も発売されている。こちらはデジタルセンサーを内蔵しないモデルで、代わりに従来から利用している他社製センサーや従来のデンタルフィルムでも撮影できる仕様となっている。すでに高性能なセンサーを医院が所有している場合や、フィルム運用から徐々に移行したい場合にはIV eという選択肢もある(IVからIV eへの後付け変更は不可)。自院のデジタル環境との互換性を考慮し、IV(センサー付き一体型)とIV e(エックス線発生器単体)を使い分けできる点は、経営判断上もうれしい配慮と言える。

導入コストと医院経営へのインパクト

最新のデジタル機器であるポートエックスIVは、その性能に見合った投資が必要となる。メーカー公表の標準価格は約100万円(税別)であり、前モデルIII(約48万円)に比べて倍以上の価格設定である。この差額にはCCDセンサーと即時画像表示システムが組み込まれたことが大きく影響している。一般的に高品質な歯科用デジタルセンサー単体でも数十万円から100万円近い価格帯であることを踏まえれば、ポートエックスIVの価格は本体とセンサー込みの統合システムとして妥当な範囲とも言える。

実際の経営判断では、初期費用だけでなくランニングコストと投資回収の道筋を考える必要がある。まず材料費的な観点では、デジタル化により従来のX線フィルム・薬品代が削減されるメリットがある。例えば従来フィルム1枚あたり数百円のコストがかかっていたものが、デジタルではほぼゼロ(センサーカバー等の微少な費用のみ)となる。1症例あたり2枚のレントゲン撮影を行う場合、フィルムなら500円程度の原価であったものが、デジタルでは数十円に圧縮される計算だ。仮に月間100枚の撮影を行っていれば、年間で数十万円規模のコスト削減につながる可能性がある。

次に、時間コストの削減効果も見逃せない。撮影→現像のプロセスが不要になり、その場ですぐ画像が得られることで、1枚あたり数分の短縮が見込める。特に訪問診療では、患者宅で撮影後にわざわざクリニックに戻って現像・診断するといった二度手間がなくなるため、1日に訪問できる患者数を増やすこともできるだろう。院内でも、診療チェアからレントゲン室への患者移動や現像待ちの時間が省かれることで、チェアタイムの効率化につながる。仮に1日トータルで15分の時間短縮が叶えば、その分を追加の診療に充てて収益を上げることも可能である。

導入費を回収するシナリオとしては、例えば「保険診療でのX線写真算定増」や「訪問歯科の新規参入」が考えられる。前者については、デジタル化で撮影サイクルが迅速になるため、必要なレントゲンをタイムリーに撮影しやすくなる。結果として見逃しの減少や診断精度向上により、適切な処置を提供できる上に、必要十分なX線写真の算定漏れも減らせるかもしれない。後者の訪問診療では、これまで機材の制約でX線診断を諦めていた在宅患者にもサービス提供が可能となり、新たな収益源の確保につながる可能性がある。特に高齢者施設との契約診療では、ポータブルレントゲンの有無が受注に直結するケースもあるため、投資に見合うリターンを見込める場面は多い。

ただし、経営面で留意すべきは機器メンテナンスと耐用年数である。デジタルセンサーは精密電子機器ゆえ、故障や劣化時の交換費用が発生しうる。通常使用で数年は性能を維持するが、万一患者が誤って咬んで破損させてしまった場合などは、高額な部品交換となるリスクがある。またバッテリーも充放電を繰り返すことで数年後には容量低下が避けられない。これらを踏まえ、減価償却期間(通常5年程度か)内に十分な便益を引き出す運用計画を立てることが重要だ。具体的には、「月に何枚以上撮影するなら導入メリットが出るか」「何年で費用回収できるか」をシミュレーションし、ROIを定量的に評価するとよいだろう。

ポートエックスIVを使いこなすためのポイント

高度な機器であっても、それを十全に活用するには現場での工夫が欠かせない。ポートエックスIV導入後、まず注意すべきは院内スタッフへの十分なトレーニングである。基本的な操作自体はシンプルで、撮影部位ボタンを選んでシャッターを切るだけだが、新人スタッフなどには実際に模型で練習させ、センサーのポジショニングや防護カバー装着を習熟させておく必要がある。特に初めてデジタルX線を扱う場合は、画像が即座に出る利点の裏で「撮影失敗がすぐ露呈する」側面もある。焦点が合っていない、コーンが傾いて歯冠部が映っていない等の失敗例を研修で共有し、撮影精度を高めるコツをチーム全体で意識すると良い。

撮影時の物理的なコツとしては、本体の保持安定性が挙げられる。手持ち撮影の場合、1.8kgとはいえ長時間構えると腕に負担がかかるため、付属の吊り下げベルトやハンドグリップを活用し、肘を体側に固定してブレを抑えるとよい。また撮影ボタンは本体側にもあるが、基本はハンドスイッチ(リモコン)を使い、余計な振動を与えないようにする。被写体となる患者には動かずじっとしてもらうよう声掛けを徹底し、場合によってはスタッフが軽く頭部を支えて安定させるとさらに鮮明な画像が得られる。露光時間が0.1~0.2秒程度と短くブレにくいとはいえ、ちょっとした配慮が画質向上に直結するのは固定機でもポータブルでも共通である。

院内でフルに活用するためには、機器の定期点検とカリブレーションも習慣づけたい。ポートエックスIVにはキャリブレーション用のジグ(校正用具)が付属しており、センサーの感度チェックや出力確認が自院で行える。導入直後や数ヶ月ごとに試験撮影を行い、画像の濃度ムラやセンサー不良がないか確認することが望ましい。特に移動の衝撃でセンサーや内部部品がずれる可能性もゼロではないため、キャリングケースに収める際や往診車での運搬時には緩衝材を用いて振動を抑えるなど、精密機器として丁寧に扱う心掛けが長期的な安定運用につながる。

患者説明での活用も、この機器を「使いこなす」醍醐味のひとつだ。撮影したレントゲン画像がその場で見られるという体験は、患者にとって新鮮であり診療に対する納得感を高める。例えば、う蝕の進行具合や根尖病変の有無をすぐ画面で示しながら説明すれば、患者は自身の口の中の状況をリアルタイムに理解できる。これは治療の必要性を理解・同意してもらう上で極めて有効だ。ポートエックスIV導入時には、患者に対しても「当院ではその場でレントゲン画像をお見せできます」とアナウンスし、診療の透明性と先進性をアピールするのも良いだろう。もっとも、医療広告ガイドラインに抵触しない範囲で機器導入を紹介する必要がある点は念頭に置いておく。

適応症例と使用を避けるべきケース

ポートエックスIVは口腔内の単純X線撮影(デンタル撮影)全般に広く対応できるが、その特性から得意とする症例と不得意な症例が存在する。

得意な場面としてまず挙げられるのは、やはり患者の移動が困難な場合である。高齢者や障がいを持つ患者、あるいは全身麻酔下の処置中など、椅子から離れられない状況でも本機を持ち込めば撮影が完結する。訪問診療における居宅や施設での撮影、災害医療やイベント会場での歯科検診など、従来X線設備を諦めていた場面でも威力を発揮する。また、院内にX線室が無い、もしくはチェアサイドで即時画像が欲しいといった場合にも、本機は優れた解決策となる。例えば根管治療中にファイル長の確認撮影をする際、従来は患者を起こして隣室で撮影→再度ユニットへという手順であったのが、ポートエックスIVならユニット上で患者を動かさずそのまま撮影できる。術野を離れる時間が減り、処置の連続性が保たれるため、術者にとっても大きなストレス軽減だ。

一方、使用を控えた方がよいケースも認識しておきたい。第一に、パノラマエックス線撮影やCT撮影が必要な広範囲の症例には、本機では対応できない。あくまで1~数歯単位の局所撮影用であり、顎全体の包括的な評価が必要な場合は従来通りパノラマ装置やCBCTに頼る必要がある。また、一度に多くの患者のX線写真を撮影するような集団検診の場面では、ポータブル1台では効率が追いつかない可能性がある。短時間に多数を捌く場合は、複数台の装置や複数スタッフでの対応を計画すべきだろう。

画質面では単回撮影には問題ないが、重ね撮り(デンタル連続撮影のシェーマ)が必要な高度な補綴や矯正の症例では、画像センササイズの制約から一部が死角になる場合がある。例えばフルマウスの咬翼法(バイトウィング)を一度に撮りたいといった要望には応えられないため、その場合は複数回に分けるか、固定式の複数センサー体制で行うしかない。また稀なケースだが、ポータブル装置ゆえの撮影ポジションの自由度が裏目に出ることもある。術者が装置を動かせる範囲が広い分、患者や補助者とのコミュニケーション不足でタイミングが合わず撮影ミスが生じる場合がある。固定機なら撮影準備からシャッターまでパターンが決まっているものが、手持ちでは「せーの」で押す息合わせが必要になる。特に小児や嚥下障害のある患者では、動きを読んでタイミング良く撮影するスキルが求められる。これらは経験により克服できる部分であるが、万能ではないことを理解した上で、適材適所で使う姿勢が大切だ。

どのような歯科医院に向いているか

ポートエックスIVの価値は医院の診療方針や患者層によって異なる。以下に、いくつかのタイプの歯科医院別に導入を検討すべきポイントを述べる。

保険診療が中心で効率を重視する場合

保険診療中心のクリニックでは、とにかく診療の回転効率が求められる。1日に多くの患者を診る中で、レントゲン撮影に伴う待ち時間や患者移動のロスは極力削減したいところだ。ポートエックスIVを導入することで、チェアから離れることなく即座に必要なX線写真を撮影し、そのまま処置を続行できるため、一連の流れがスピーディになる。例えば複数ユニットで並行診療を行っている院長とアシスタントのチームにとって、ユニット間でポータブルを持ち回りすれば各ユニットごとにX線装置を設置するよりコストを抑えつつ撮影ニーズに応えられる。実費負担の少ない保険診療では、大きな収益増を直接もたらす機器投資は慎重になるが、時間短縮による患者回転率向上や、スタッフの省力化による人件費圧縮など、間接的な経営改善効果が期待できる。本機は必要最小限の機能が備わったシンプルな作りで、院内教育コストも低めに抑えられる点も効率重視型の医院にマッチする。

高付加価値の自費診療を展開する場合

インプラントや審美治療など自費診療をメインとする医院では、患者満足度の向上と差別化が常に課題となる。そのようなクリニックにとって、ポートエックスIVの持つ先進性は導入価値が高い。患者から見れば、撮影後すぐにその場で画像を見せてもらえる体験は「この医院は設備が充実していて安心だ」という印象につながる。治療の合間に口腔内写真やX線画像を見せながら丁寧に説明することで、治療費に見合った納得感を持ってもらいやすくなるのも利点だ。さらに、自費治療では術中に微調整を要するケースが多い。例えばインプラント埋入手術中にポータブルで方向を確認したり、セラミックの適合を確認する仮着時に即座にX線チェックしたりと、精度管理ツールとして本機を活用することができる。もちろん高額機器の導入は診療費に転嫁せざるを得ない面もあるが、それ以上に「常に最新最良の治療環境を提供している」というブランドイメージを打ち出せる点で、長期的には患者増や紹介増につながる可能性がある。

訪問診療や外科処置が多い場合

在宅や施設への訪問歯科診療を積極的に行っている医院にとって、ポートエックスIVは必携のツールと言っても過言ではない。在宅患者の口腔内状況は複雑で、口腔内写真だけでは判断がつかない場面も多々ある。これまで往診先でのX線診断を諦め、推測や症状から判断していた処置も、携帯用レントゲンがあれば確実な診断のもとに進められる。

口腔外科処置(インプラントや抜歯手術等)で特診室やオペ室を備える医院では、手術中に患者を動かすことなくレントゲンを撮影できる恩恵は大きい。全身管理下の患者を術中に移動させるのはリスクを伴うが、ポートエックスIVなら無影灯の下でそのまま撮影が可能で、執刀医の求めるタイミングで必要な画像を取得できる。これは手術の安全性向上にも寄与し、術者のストレスも軽減する。訪問診療や外科処置の多い医院では、ポートエックスIVはもはや高額な贅沢品ではなく、標準装備として検討すべき基盤設備といえるだろう。

ポートエックスIV導入で得られることと次のステップ

総じて、ポートエックスIVの導入によって得られるのは、診療フローの変革である。患者の移動や待ち時間が減り、その場で高品質なX線画像が得られることで、診断から治療までのプロセスがシームレスになる。これは単に便利になる以上に、見逃しの防止や患者満足度の向上、スタッフの負担軽減といった多面的な効果をもたらす。経営的にも、デジタル化によるコスト削減や新規診療分野への対応力向上といったメリットが期待でき、医院の競争力を高める一助となるだろう。

もっとも、導入にあたっては慎重な検討も必要だ。特に初めてデジタルX線機器を扱う場合、院内ネットワーク環境の整備やスタッフ研修などの準備が欠かせない。また、購入前に実機デモや他院での導入事例を見学することで、具体的な運用イメージを掴んでおくことを強くおすすめする。モリタや歯科ディーラー各社はポートエックスIVのデモ機貸出やショールーム展示を行っているので、興味があれば問い合わせてみると良い。実際に自院のユニットで試用させてもらえば、撮影ポジションの感覚や画像の質感、機器の取り回しなどが実感でき、導入後のギャップを減らすことができるだろう。

最後に、読者への「次の一手」として、いくつか確認すべきポイントを提案したい。まず、現在の自院のX線撮影ニーズを書き出し、その中でポートエックスIVが解決できる課題(患者移動の手間や訪問診療拡大など)を整理してみることである。その上で、導入コストに見合う効果が見込めるか試算してみよう。もしプラスの見通しが立つなら、具体的な機種選定と資金計画に入る段階だ。ポートエックスIV以外にも他メーカーの選択肢が存在するので、複数製品のスペック・価格を比較検討しつつ、自院に最適な解を探ってほしい。本稿で紹介した臨床的・経営的視点が、その判断の一助となれば幸いである。

よくある質問

Q. ポータブル型でも画質は従来の壁掛け式と比べて遜色ないのか?

はい、ポートエックスIVの画質は従来型の固定式デンタルX線装置と比べても遜色ない。管電圧70kV・焦点0.4mmというスペックにより、骨や歯質の細部まで鮮明に描出できる。実際に使用すると、フィルムで撮影していた頃と同等以上の解像度を感じることが多い。ただし、画質は撮影条件(ポジショニングや患者の動き)にも左右されるため、適切な撮影手技を守ることが重要である。

Q. 手持ち撮影で操作する際、放射線の安全性は確保されているのか?

ポートエックスIVは内部に放射線の漏洩を防ぐシールドを備えており、適切に使用すれば術者が受ける被ばく量は微量に抑えられている。国内の基準に従った設計・認証を得ており、手持ちで使用すること自体は許容されている。ただ、安全管理上は可能な限り患者から距離を取ったり、防護エプロン・ネックカラーを着用することが望ましい。特に日常的に繰り返し撮影を行う場合は、三脚とハンドスイッチを活用して術者の被ばく低減策を講じることを推奨する。

Q. ポートエックスIVと廉価版のポートエックスIV eの違いは何か?

最大の違いはデジタルセンサーが付属するか否かである。ポートエックスIVはCCDセンサー込みの一体型で、撮影後すぐ本体モニターに画像が表示されるのに対し、ポートエックスIV eはセンサーを搭載しないため、画像を得るには別途お手持ちのデジタルセンサーやIPプレート、あるいはフィルムを用いる必要がある。その分IV eの方が価格は抑えられており、既に院内にデジタル撮影環境が整っている場合や、まず発生器だけ更新したい場合に適する。ただし後からIV eにセンサーを追加してIV相当にアップグレードすることはできないため、将来的に一体型運用が必要なら最初からポートエックスIVを選ぶ方がよい。

Q. 機器のメンテナンスやセンサー故障時の対応はどうなるのか?

ポートエックスIV本体はモリタのサービス網で保守サポートが受けられる。購入時に保守契約を結んでおけば、定期点検や万一の故障時の修理対応が迅速に行われる。デジタルセンサーについても保証期間内であれば無償修理・交換の対象となるが、期間を過ぎた破損や劣化に対しては高額な部品交換費用が発生することがある。日常の取り扱いでセンサーを落下・咬合破損させないよう注意するとともに、万一交換となった場合の費用(数十万円規模の可能性)も想定しておく必要がある。バッテリーに関しては数年での劣化が避けられないため、3~4年後を目途に交換部品の手配が可能か確認しておくと安心だ。

Q. ポータブルX線装置導入にあたり、法的な設置手続きや注意点はあるか?

ポータブルとはいえ医療用X線装置であることに変わりはないため、導入時には所管の保健所等への設置届出が必要となる。また院内で使用する場合は、周囲の線量が基準内に収まるよう壁材や撮影時の措置(スタッフ退避など)を工夫する必要がある。ポートエックスIVは後方散乱シールド付きで漏洩線量が低く抑えられているが、例えば隣接ユニットに患者がいる状態で撮影する際は防護エプロンを着用させるなど、安全配慮は従来以上に意識したい。基本的には「ポータブルであってもX線機器としての法令遵守事項は同じ」であり、装置ごとの線量測定や定期検査も怠らず実施することが求められる。