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ヨシダの歯科用コンパクトポータブルユニット「カルフェ」の評判や価格は?

ヨシダの歯科用コンパクトポータブルユニット「カルフェ」の評判や価格は?

最終更新日

訪問歯科診療で患者宅や施設に赴く際、機材の重量や設置に苦労した経験を持つ歯科医師は多いのではないだろうか。往診バッグに詰めた機器を階段で運び、狭い居室で器具の置き場に困り、暗い室内で術野の確認に苦戦する――診療室では当たり前の設備環境が、訪問先では簡単に再現できず悩みの種となる。こうした現場の声に応える形で開発されたのが、ヨシダの可搬式歯科ユニット「カルフェ」である。

本稿では、この「カルフェ」について臨床面と経営面の双方から詳細に分析し、先生方が自身の診療スタイルに本製品が適するか判断する一助となる情報を提供する。

製品概要

カルフェ(CARFE)は、株式会社ヨシダが提供する歯科用コンパクトポータブルユニットである。通院困難な患者に対する訪問歯科診療で使用することを想定した可搬型の診療ユニットで、正式な販売名は「コンパクトポータブルユニット カルフェ」とされる。ユニット本体にあたるインスツルメント部「カルフェU」と、唾液や排液を吸引するバキューム部「カルフェV」の2つのモジュールで構成され、それぞれ質量約5kgと非常に軽量かつ小型である。機器分類上は歯科用の管理医療機器(クラスII)であり、特定保守管理医療機器に指定されている(認証番号226AKBZX00021000)。開発には日本歯科医師会・歯科医学会・歯科商工協会も関与しており、高齢社会における訪問診療ニーズに応えるべく設計された背景がある。想定される適応範囲は、在宅高齢者や障害者に対する一般的な歯科治療全般(う蝕処置、歯周処置、義歯の調整修理、簡単な抜歯など)である。ただし高度な外科処置や精密な治療は対象外であり、その点は後述する。

主要スペック

カルフェの特徴的なスペックは「軽さ」と「小ささ」、そして訪問先で必要な機能を一通り備えている点にある。インスツルメント部(カルフェU)およびバキューム部(カルフェV)はそれぞれ幅200mm×奥行230mm×高さ150mmというコンパクトサイズに収まり、女性でも片手で持てる5kgの軽量設計である。付属の肩掛けベルトを使えば両手が塞がる心配もなく、またモジュール同士を重ねて運搬できる専用カートも用意され、往診先への移動負担を最小限に抑える工夫がなされている。

カルフェUには、診療用の主要器械が標準搭載されている。具体的には、電動マイクロモーター(マイクロモーター3L)と超音波スケーラー(プチピエゾ)がユニット内部にビルトインされ、それぞれ専用のハンドピースホルダーに収められている。マイクロモーターにはLEDライト機能が付加されており、実際に切削操作をしなくともライトのみを点灯させることが可能である。例えば訪問先の照明が不十分な場合でも、このハンドピースのライトで口腔内を明るく照らし、う蝕の確認や処置に役立てることができる。超音波スケーラーは標準ではライト非搭載タイプだが、オプションで光機能付きのスケーラーハンドピースを導入することもできる。歯石の多い要介護患者においても、訪問先で超音波スケーリングが行えることは口腔衛生管理上大きな利点である。

注水機能にも独自の工夫が見られる。カルフェU本体には給水タンクを内蔵せず、市販の500mLペットボトルを装着して水を供給する方式を採用している。これにより、毎回清潔なミネラルウォーターを使用した注水が可能となり、水タンクの洗浄や残留水の衛生管理に悩まされることがない。ボトルの交換も容易であり、患者ごとに新しいボトルに差し替えれば感染対策の点でも安心である。

加えて、カルフェのハンドピースホルダーには裏面にマグネットが内蔵されている。この磁石式ホルダーにより、ユニット本体からホースごと取り外して、訪問先のベッドの金属フレームやスチール製のワゴンなど、磁性のある面に自在に取り付けることができる。狭小なスペースでも器具の定置場所を柔軟に確保できるため、術者・アシスタントの位置関係や患者の姿勢に応じて最適なレイアウトを組むことが可能である。

なお、カルフェは電源として家庭用コンセント(AC100V)からの給電で駆動するが、オプションでバッテリー電源にも対応している。別売のバッテリーユニットを用いれば、訪問先で電源が確保できない場合でもコードレスで本体を駆動でき、例えば一戸建てで屋外コンセントが見当たらないケースや、配線が困難な居室でも柔軟に診療環境を構築できる。

このようにコンパクトながらも、カルフェUには切削用のエンジン(マイクロモーター)、水・空気供給用の3ウェイシリンジ、スケーラーが揃い、カルフェVには吸引装置が搭載されており、基本的な歯科ユニットの機能を一通り携えている。ただし高速回転のエアタービン用の空気圧は標準では備えていないため、本格的な切削量の多い処置を行う場合には後述の追加装備が必要になる点に留意が必要である。

互換性と運用方法

カルフェは単体で診療に必要な機能を完結する設計であり、特別な外部機器との接続なしに動作する。ただし、より高度な切削処置への対応としてメーカーからは別売のコンプレッサーユニット「カルフェC」が提供されている。カルフェCをカルフェUに接続すると、エア圧によるスプレー注水が可能となり、例えば5倍速コントラアングル(増速型ハンドピース)を用いた高速切削時にも十分な水冷が行えるようになる。標準搭載のマイクロモーター3L自体はE型コントラアングル接続に対応しており、医院で使用中の汎用コントラ(低速用から増速用まで)を装着可能である。しかし、エアタービン専用のカップリング接続ポートは備わっていないため、エアタービンハンドピースを直接利用することは想定されていない。高速回転が必要な処置は、電動の増速コントラとカルフェCの組み合わせで代替する思想である。

消耗品や他機材との適合性に関して言えば、カルフェの給水ボトルは汎用のペットボトルで代用可能であり、水質も市販の飲用水で問題ない。また3ウェイシリンジの先端チップも一般的なディスポーザブルのシリンジチップに対応しているため、医院と同じ衛生的な使い捨てチップを使用できる。超音波スケーラーのチップ(先端)はプチピエゾ専用のものを用いる必要があるが、標準付属のチップ以外にも各種形状のチップがメーカーから供給されている。電動ハンドピース用のバー(切削器具)やプロフィーカップなども通常のコントラ用製品をそのまま使用できるため、往診専用に特別な材料器具を揃える必要は少ない。

運用面では、初期導入時に院内でスタッフとともに十分なトレーニングを行っておくことが重要である。カルフェUとVのセットアップは難解なものではないが、現場でスムーズに設置・撤収できるよう、あらかじめ実習して手順を共有しておくと安心である。例えば、運搬後にベッドサイドへ機材を配置する際の導線や、ホルダーを装着する適切な場所(ベッド柵やサイドテーブル等)、電源コードの取り回しなど、細かな点までシミュレーションしておくと現場で慌てずに済む。吸引ボトルの設置と稼働チェック、ペットボトルの装着漏れ確認、フットペダル(操作スイッチ)の位置決めなども、訪問先到着後にスムーズに行えるよう院内でリハーサルしておくと良いだろう。

感染対策・衛生管理の観点でも、運用ルールを定めておく必要がある。幸いカルフェは水系に使い捨てボトルを用いることで衛生リスクを低減しているが、使用後の吸引ボトル内の廃液処理や、チューブ内の洗浄は欠かせない。訪問診療から帰院後には、吸引チューブに水あるいは洗浄剤を吸引させて内部を洗い流し、フィルター部に詰まりや臭気が残らないよう清掃することが望ましい。フィルター類は定期的な交換が推奨されており、メーカー指定の周期に従って新品に取り替えることで吸引性能を維持できる。また、マイクロモーターやコントラアングルは通常の院内使用時と同様に使用後の洗浄・注油・滅菌を行い、次回の訪問に備える。各モジュールは防水ではないため、清拭消毒の際はアルコールワイプなどで外装を丁寧に拭き取り、過度な湿気が内部に入らないよう注意する必要がある。

運用上もう一つ工夫すべきは機材一式の持ち出し準備である。カルフェ本体だけでなく、訪問診療には術式に応じた器具・材料を別途持参する必要があるため、必要品のチェックリストを作成してパッキングの漏れを防ぐことが肝要である。例えばレジン充填を行うならレジンキット一式やポータブル光重合器、印象採得なら印象材やトレー、抜歯処置なら麻酔薬や抜歯鉗子一式、といった具合に、カルフェ以外の必要物も含めた「往診バッグ」をあらかじめ整備しておくと良い。軽量なカルフェとはいえ、往診には車両での移動や機材の持ち運びが伴うため、少人数で無理なく運用できるよう荷物の最適化を図ることもポイントである。

経営インパクト

カルフェ導入に必要な初期投資は決して小さくないが、そのコストをどう捉えるかが経営判断上のポイントになる。メーカー公表の標準価格は、カルフェU(ユニット本体)が約700,000円、カルフェV(バキューム)が約280,000円(いずれも税別)であり、フルセット揃えると総額で1,000,000円程度に達する(オプションのカルフェCや光付きスケーラーを追加すればさらに費用増となる)。この金額だけを見ると高額に感じられるかもしれない。しかし、訪問診療で得られる収益や診療の拡張性を考慮すると、投資対効果(ROI)は十分に見込めるケースが多い。

まず収益面について、現在の診療報酬体系では訪問歯科診療の点数は外来診療に比べて高めに設定されている。同じ処置内容であっても、訪問診療では往診料や管理料の加算が付くため、概ね外来の3倍前後の収入になるとの試算もある。極端な例では、義歯不適合による修理のような処置では訪問の方が4倍近くも高くなるケースも報告されている。つまり、訪問1人を診る時間が外来4人を診る時間と同じくらいなら十分採算が合うことになり、1人の歯科医師が1時間平均で4人も診療していない場合には往診に振り向けても収益は大きく損なわれないはずである。特に日中の予約に空き時間が生じがちな医院であれば、その時間を訪問診療に充てることで新たな収益機会を創出できる。

次に費用回収の試算をしてみる。仮に機器導入費用1,000,000円を7年(84か月)かけて償却すると考えると、月あたり約12,000円の負担に相当する。金利やメンテナンス費を考慮しても、おおむね月10,000円前後のコストで運用可能と捉えられる。この額は、訪問患者を月に数名診療すれば十分回収できる水準である。実際、メーカーやディーラー各社では歯科医院向けに数年単位のリースプランやローンを用意しており、月々の支払い負担を診療報酬収入内に抑えて計画的に導入することが可能である。また自治体によっては在宅歯科医療推進のための設備補助金制度があり、要件を満たせばポータブルユニット購入費の一部が助成される場合もある。こうした外部支援も活用すれば、実質的な医院負担をさらに軽減できる。

カルフェ導入による経営インパクトは直接の収益だけではない。訪問診療体制を整えることは、医院の患者サービスの幅を広げ、地域医療への貢献度を高める意義がある。高齢化が進む中、通院困難になった既存患者を往診でフォローできれば、患者離れを防ぎつつ継続的な信頼関係を維持できる。さらに、訪問診療を行っている歯科医院として地域で認知されれば、ケアマネージャーや介護施設から新たな患者紹介を受けるきっかけにもなり得る。結果として自院の患者層を拡大し、将来的な自費治療や紹介患者の増加といった波及効果も期待できる。患者満足度の向上や地域からの信頼獲得といった無形の価値も、長期的には医院経営にプラスに働く要因である。

また、カルフェは「攻め」のツールであると同時に「守り」の備えにもなる。院内ユニットが突然故障した際、カルフェが1台あることで急場の診療継続が可能となり、休診による機会損失を最小限に抑えられる。実際に往診用途以外でも、診療チェアの修理期間中にカルフェを臨時ユニットとして活用し、診療を継続できた例も報告されている。高額な設備投資ではあるが、上手に運用すれば新たな収入源を得つつリスクマネジメントにも寄与する、多角的な経営メリットをもたらす製品と言える。

使いこなしのポイント

カルフェを導入したからといって、すぐに訪問診療がスムーズにこなせるわけではない。現場で本製品の性能を十分に発揮するには、いくつか押さえておくべきコツと準備がある。

【導入初期の慣熟訓練】

前述の通り、購入後まず院内でスタッフと共に組み立て・操作の練習を重ねることが重要である。実際の往診を想定し、機材の設置撤収の手順を何度もシミュレートしておくと安心だ。例えば、カルフェUとVの電源コードやチューブ類が患者や介助者の動線に干渉しないよう配慮する、磁石付きホルダーを取り付ける適切な場所をあらかじめ見極めておく、といった細部まで確認しておく。また往診用の車両への積載・固定方法についても、走行中に機材が動かないよう安定した配置を工夫しておく必要がある。

【術式上の工夫】

カルフェを用いた訪問診療では、診療室とは勝手が違う状況が多々ある。例えば吸引はアシスタントに任せるとしても、ベッド上で仰臥位になれない患者では半座位での処置となり、唾液や水滴が喉元に貯留しやすい。こうした場合、こまめに術を中断して吸引時間を取る、患者の顔を横向きにしてもらい流出を助けるなど、臨機応変な対処が求められる。カルフェVの吸引性能は良好だが、据え置きユニットほどの強力な吸引は期待できないため、スケーリング時など水量の多い処置では無理に一度に進めすぎず、適宜休止して吸引するリズムがポイントとなる。また、マイクロモーターのLEDライトは診療中常時点灯させておくと便利である。訪問先では口腔内照明が不十分なことが多いため、ペダル操作の有無にかかわらずライトを点けたままにできるカルフェの特性を活かし、術野照明代わりに用いると視認性が格段に向上する。ヘッドライトやスタンド式ランプを併用する場合でも、ハンドピースライトが補助光となり死角を減らしてくれる。

【院内体制と役割分担】

訪問診療では、歯科医師と歯科衛生士(または助手)のチームで動くことが多い。カルフェの操作自体は一人でも可能であるが、実際にはセッティングや片付け、患者への対応に人手を要する場面が多々ある。誰が機材を運ぶか、誰がセッティングするか、患者への声かけや口腔ケアはどちらが担当するか、といった役割分担を事前に決めておくとスムーズである。特に新人スタッフには、訪問診療の特殊性(患者宅でのマナー、介護スタッフとの連携など)も含めて教育しておく必要がある。カルフェ自体の操作は難しくないが、訪問診療全体の流れを理解して動けるようになるまで、院内でロールプレイングを行うなどして経験を積ませると良い。最初は機材の準備に時間がかかっても、回数を重ねることで5分程度で設置完了できるようになる。そうなれば往診先で患者を待たせるストレスも減り、余裕をもって診療に臨める。

【患者・家族への説明】

往診先に機材を持ち込む際、患者やその家族にとっては見慣れない機械が居室に運ばれてくることになる。カルフェは見た目にもコンパクトで圧迫感が少ないが、それでも「どんな治療をするのだろう」と不安に思われる場合がある。最初に機材をセッティングする際、「診療室にある歯科ユニットを小さく持ち運べるようにしたものです。これがあればご自宅でも医院とほぼ同じ処置ができます」といった一言を添えるだけでも、患者・家族の安心感は大きく高まる。実際に「こんな機械まで持ってきてくれるなんて」と感心されるケースもあり、往診サービスの質を視覚的にアピールする効果も期待できる。カルフェの導入によって患者説明にも説得力が増し、「自宅でもこんな本格的な治療が受けられる」という安心感が信頼関係構築につながるだろう。

適応症例と適さないケース

カルフェを用いた訪問診療が威力を発揮するのは、やはり通院困難な高齢者や要介護者に対する一般歯科治療である。具体的な適応症例としては、在宅で行うう蝕の充填処置(小さなコンポジットレジン修復など)、簡単な歯冠修復の調整、咬合調整、動揺歯の抜去、歯石除去やルートプレーニング、義歯の調整・修理、軟質リラインや床内面適合による応急修理、といったものが挙げられる。これらの処置はカルフェに備わる機能で概ね対応可能であり、術者の工夫次第で診療室と遜色ないクオリティを目指すこともできる。例えば、長期間清掃が行き届いていない口腔内の厚い歯石をスケーラーで除去し、吸引で誤嚥を防止しながらクリーニングする、といった口腔ケア分野でカルフェは大いに役立つ。また、誤嚥性肺炎のハイリスク患者に対して、十分な吸引体制のもとで口腔衛生管理を行えることは、医科との連携においても安心材料となる。

一方、カルフェでは対応が難しい、適さないケースも明確に存在する。代表的なのは高度な外科処置や専門的治療を要する症例である。インプラント埋入手術や難易度の高い埋伏歯の抜歯など、滅菌環境や十分な吸引・照明が不可欠な処置は、在宅の簡易な環境ではリスクが高いため適応外となる。また、全身管理を伴う静脈内鎮静下での手術や、大量の出血を伴う処置も、自宅ではとても行えない。カルフェ自体に問題がなくとも、患者宅には酸素やモニター設備がないためである。

精密さを要求される補綴治療も慎重な判断が必要である。例えば全顎的な補綴治療や複数歯のクラウンブリッジ形成では、高速切削器具と精密印象が必要になるが、訪問先では患者の体位や協力度にも限界があり、印象材の練和・硬化時間中の姿勢維持も難しい。カルフェに5倍速コントラと吸引を組み合わせればある程度の形成は可能だが、長時間口を開けていられない患者では現実的ではない。したがって、広範な補綴や矯正処置のように複数回の精密な型取り・調整を要する治療は、基本的に往診では適さないと言える。

加えて、訪問診療では患者の全身状態や介護環境も考慮しなければならない。たとえカルフェを駆使して技術的に処置が可能であっても、患者の理解力や協力度が低かったり、処置後の口腔衛生維持が見込めなかったりする場合、高度な治療を行っても長期予後が期待できないことがある。そのため、往診では「必要最低限で十分な処置」に留める判断も重要になる。例えば深いう蝕でも無理に根管治療までは行わず抜歯を選択する、崩壊歯に対しては応急的な充填に留め後日来院できる状況になってから本格治療を検討する、といった具合である。

以上のように、カルフェが真価を発揮するのはあくまで基本的な歯科治療や口腔ケアの領域であり、特殊な治療や大量の器材を要する処置は従来通り院内で行うか、場合によっては往診車(歯科診療車)や病院の口腔外科に委ねるのが現実的である。カルフェ導入にあたっては、その適応限界を正しく認識し、過度な期待をかけすぎないこともまた重要である。

導入判断の指針(医院タイプ別)

保険診療メインで効率重視の歯科医院の場合

日々の患者数が多く、保険診療中心でチェアの稼働率が高い医院では、院長お一りが往診に出るハードルは高いかもしれない。カルフェを導入して訪問診療に取り組むことで得られる収益よりも、外来の機会損失の方が大きいと判断されれば、本格導入は見送られるだろう。しかしながら、そのような医院でもカルフェが無用の長物になるとは限らない。例えば、昼休みや夕方以降の時間帯を活用して近隣の施設1か所だけ往診するといった小規模な開始であれば、外来のペースを崩さずに訪問診療を併用できる。また、院内ユニットの故障時のバックアップとしてカルフェを備えておけば、万一の場合に診療を止めずに済む安心感が得られる。効率重視の医院では投資判断もシビアになるが、初期コストを抑えるために少人数でシェア購入したり、中古品を検討したりする選択肢もある。実際、歯科医師会や地域のスタディグループでポータブルユニットを共同利用している例も報告されている。まずは低リスクで小さく始め、需要拡大に応じて本格導入を検討する段階的な戦略が有効であろう。

高付加価値の自費診療を志向する歯科医院の場合

審美歯科やインプラントなど、自費中心で高度な設備を駆使した治療に注力している医院にとって、往診用のポータブルユニットは優先度の低い投資と考えられる。これらの医院では、患者も遠方からわざわざ来院するケースが多く、通院困難になった患者を往診でフォローするという発想自体が馴染まないかもしれない。また、自費診療で提供している高品質な治療の多くは、訪問先では再現困難である。したがって、カルフェを導入しても主力の診療分野には直接寄与しない可能性が高い。

しかし、視点を変えれば、富裕層やVIP患者向けに「ご自宅で治療を受けられるサービス」を提供する付加価値戦略も考えられる。実際に、全て自費扱いでホームホワイトニングならぬ「ホームデンタルケア」サービスを行っているケースもあり、そうした差別化を図る上ではカルフェのような機材が力を発揮する。また、医院ブランディングとして地域の介護施設や養護学校にボランティア訪問する際、簡易な治療や口腔ケアを行える体制を示すことで社会貢献度をアピールできる。直接的な収益には繋がらなくとも、そうした活動を通じて得られる信用が巡り巡って医院の評判向上や紹介患者の増加に繋がる可能性もあるだろう。結論として、自費中心医院にカルフェ導入が必須とまでは言えないが、新しいサービス展開やCSR活動を検討している場合には、一考の価値がある。

外科・インプラント中心の歯科医院の場合

口腔外科処置やインプラント治療を専門的に行っている医院では、訪問診療との親和性は低い。全身管理が必要なインプラント手術や骨造成、難抜歯などはそもそも往診では実施不能であり、カルフェがあっても本来の業務領域に活用する場面はほぼないだろう。このようなケースではカルフェ導入の優先順位は極めて低く、経営資源は他の先端機器(CT、マイクロスコープ等)に振り向ける方が合理的であると言える。

ただし、外科系の歯科医師であっても地域のニーズ次第では往診を検討する余地がある。例えば、かつて手術を担当した患者がその後要介護状態になり、メインテナンスや抜歯のために往診を依頼されるケースなどである。義歯の調整や不良歯の抜去程度であればカルフェで十分対応できるため、過去の患者のフォローアップという観点では役立つ場面が出てくるかもしれない。また、口腔外科出身の歯科医師が在宅療養中の末期患者や難病患者の終末期口腔ケアに関わるケースもあり、そうした社会的要請に応える器材としてカルフェを位置づけることもできる。総じて言えば、外科・インプラント中心医院にとってカルフェは必須ではないが、サブ的な役割や非常時のバックアップ装置として持っておけばいざという時に重宝する可能性がある。

在宅歯科医療に注力したい(または訪問専門)歯科医院の場合

訪問診療の拡大を戦略的に考えている、あるいは既に訪問歯科を専門・主力としている医院にとって、カルフェは文字通り「なくてはならない」ツールである。訪問診療専用の機材を持たずに往診を行うことは不可能ではないが、処置内容は大きく制限され、せいぜい口腔ケアや薬剤塗布程度しかできない。カルフェを導入すれば、削る・詰める・洗浄する・吸引するといった一連の治療行為が自宅で完結可能となり、訪問診療の幅は飛躍的に広がる。高齢者施設との提携や、在宅患者の多い地域での往診ニーズ取り込みを目指すなら、ポータブルユニットの配備は避けて通れない。

また、訪問診療専門で開業する場合にも、カルフェは信頼できる相棒となる。多くの往診専門歯科では複数のポータブルユニットを使い回し、同時に数チームが訪問に出る体制を敷いている。カルフェは軽量ゆえ機材運搬の負担が小さく、スタッフの体力的な消耗を減らせる利点がある。仮に一日十数名規模の訪問を行うとしても、複数ユニットを交互に稼働・充電させながらローテーションすれば途切れなく診療可能であり、訪問診療ビジネスを軌道に乗せる武器となるだろう。

さらに、訪問に注力する医院では自治体や介護事業者との連携も重要になるが、高機能なポータブルユニットを有していること自体が信用に繋がる側面もある。「あの医院はちゃんと往診用の設備があるから安心だ」と評判になれば、地域のケアマネージャーから積極的に患者を紹介してもらえるかもしれない。総じて、訪問診療を柱とする医院にとってカルフェ導入は極めて有意義であり、導入コストも短期間で回収できる可能性が高い。むしろ、需要に追いつくために2台目・3台目の追加購入を検討する場面が訪れるかもしれない。

よくある質問(FAQ)

Q1. カルフェはどのくらい長く使える耐久性がありますか?

カルフェ自体の耐用年数は使用頻度やメンテナンス状況によって変動するが、堅牢な設計により適切に手入れすれば長期間の使用に耐える。2014年頃の発売以来、5年以上継続して稼働している事例も多く、訪問診療の現場で信頼性を示している。メーカー保証は通常1年間であるものの、その後も部品交換やオーバーホールによって性能維持が可能であり、修理対応体制も整っている。主要構成要素である電動モーターや吸引ポンプは医療機器基準の耐久試験をクリアしており、よほど過酷な使い方をしない限り突然の故障は稀である。ただし可搬式ゆえ持ち運び時の衝撃や振動は避けがたく、筐体への強い衝撃は内部パーツの寿命を縮める恐れがあるため、衝撃吸収材を敷くなど輸送時の配慮は必要である。総じて、定期的な点検整備(年1回程度)と日常の清掃・保守を怠らなければ、7年から10年程度は十分に実用可能な耐久性を持つと言える。

Q2. 手持ちのハンドピースや他の機器と互換性はありますか?

カルフェに付属する電動マイクロモーターの接続規格はE型(ISO規格)であり、基本的に一般的なコントラアングルやストレートハンドピースと互換性がある。つまり、院内で使用している低速用や高速用(増速)コントラアングルをカルフェのマイクロモーターに取り付けて使用できる。ただし、増速コントラでの水冷機能を十分活用するには前述のコンプレッサー部(カルフェC)が必要となる点に注意が必要である。一方、エアタービン用のカップリング接続は標準では備えていないため、手持ちのエアタービンハンドピースを直接カルフェに繋ぐことはできない。高速回転が必要な処置は、電動ハンドピース(増速コントラ)で代替する設計思想となっている。

超音波スケーラー(プチピエゾ)は専用ユニットが内蔵されているため、他社製のスケーラーハンドピースやチップとの互換性は基本的にない。チップはプチピエゾ用のものを使用する必要があるが、標準付属のチップ以外にも各種形状(歯石除去用や根面清掃用など)のオプションチップが用意されている。また、カルフェVの吸引ホース径や先端は一般的な吸唾管チップ(カニューレ)に対応したサイズであり、使い捨ての吸唾管をそのまま装着できる。3ウェイシリンジのノズルも標準的なディスポーザブルのシリンジチップが利用可能だ。なお、ポータブルエックス線装置やポータブルモニター等の他機器とは、カルフェが直接連動するわけではないが、同時に使用する際の干渉も特に報告されていない。それぞれ独立した機器として併用できるので、例えばヨシダ製のポータブルX線「X-shot」シリーズなどを組み合わせれば、在宅での診断から処置まで一連の流れを構築できる。

Q3. バキューム(吸引)の性能は十分でしょうか?

カルフェVに搭載されたポータブルバキュームの吸引性能は、小型でありながら口腔内の唾液や洗浄水をほぼ問題なく除去できるレベルに達している。数値上のスペックとして吸引流量がおよそ毎分数リットル程度(機種にもよるが7~10 L/分前後)とされ、訪問診療で想定される唾液量や注水量には概ね対応可能である。ただし、医院のユニットに備わるセントラルバキュームと比べればパワーは劣るため、大量の出血を伴う処置や、絶え間なく水を噴出し続けるような切削操作では、吸引が追いつかず術野が見えにくくなる可能性がある。この点は術者とアシスタントの連携でカバーすべき部分であり、例えばスケーリング時には適宜手を止めて十分に吸引してから再開する、注水量を調節しながら切削する、といった工夫で対応できる。吸引力を維持するには、吸引ボトル内の容量がいっぱいになる前に排液を捨てること、フィルターにゴミや血液が詰まった場合は早めに清掃し、必要に応じて交換することが重要である。カルフェV本体には自動停止機能(満杯時にモーターを保護する機構など)が備わっているので安全面では配慮されているが、性能を十分に発揮させるためにはユーザー側のこまめなメンテナンスが欠かせない。

なお、動作音はある程度発生するものの、一般的なポータブルバキュームとしては比較的静穏な部類である。夜間の訪問など静かな環境でも、隣室に響くほどの大きな音ではない。しかし、完全に無音ではないため、患者や家族には「少しモーター音がします」とひと声かけておく心遣いがあっても良いだろう。

Q4. メンテナンスや保守はどのように行えばよいですか?

カルフェは特定保守管理医療機器に指定されており、安全に長く使うためには定期点検と適切なメンテナンスが推奨される。具体的には、年1回程度を目安にメーカーまたは認定業者による点検整備を受けることで、内部の電気配線やモーターの動作、吸引系のシール状態などをチェックしてもらえる。日常の使用後には、以下のような項目を習慣化すると良い。

まず、吸引系についてはカルフェVの廃液ボトルを往診から戻った後に必ず中身を捨て、流水と中性洗剤で洗浄する。吸引チューブ内には水または専用の洗浄液を吸引させて内部を洗い流し、乾燥させてから保管する。フィルター(固形物捕集フィルターや防湿フィルター)が汚染・目詰まりしていたら速やかに清掃し、必要に応じて交換する。フィルター交換頻度は使用状況によるが、目安として数十回の使用ごと、あるいは3か月に1度程度が推奨される。

次に、給水系ではカルフェUの給水ラインにペットボトルを使用するため、使用後はホース内に水が残らないようエアフラッシュ(送気)して乾燥させるか、可能であればホースを外して垂直にし、水滴を抜いておく。この操作によりバイオフィルムの発生リスクを下げられる。ペットボトル装着部のパッキンも定期的に清掃し、ヌメリがあればアルコールで拭き取ることが望ましい。

ハンドピース類についても通常の院内器具と同様に、使用後すぐ清拭・注油し、オートクレーブ滅菌可能なパーツ(バーやスケーラーのチップなど)は滅菌しておく。マイクロモーター本体は精密機器なので滅菌不可であるが、表面をアルコール綿で拭き清潔に保つ。

本体外装や収納に関しては、カルフェUおよびVの外装は防水ではないため、血液や唾液が付着した場合は固く絞ったアルコールガーゼ等で速やかに拭き取る。収納や移動の際は直射日光や高温多湿を避け、防塵カバー等をかけて保管すると良い。付属の肩掛けベルトやキャリングカートも定期的に点検し、ベルトのほつれや車輪の不具合がないか確認する。

以上のような日常メンテナンスを怠らなければ、カルフェの性能を長期間安定して維持することができる。万一、不具合(異常音や吸引力低下、漏水等)に気づいた場合には早めにメーカーサービスに連絡し、指示を仰ぐことが肝要である。故障箇所をだましだまし使い続けるのは事故につながる恐れがあるため避けたい。メーカーの保守契約に加入しておけば、定期点検や緊急修理の際も優先的な対応が受けられるので安心である。

Q5. 導入に際して留意すべきリスクや注意点はありますか?

カルフェ導入を検討する上で、いくつか念頭に置くべきポイントがある。まず経営面のリスクとして、初期投資に見合うだけの訪問診療需要があるかどうかを見極める必要がある。せっかく購入しても往診の機会がほとんどなければ、機材は遊休資産となり投資回収ができない。自院の患者層や地域の高齢化状況を踏まえ、どの程度の往診件数が見込めるか事前に試算しておくことが望ましい。場合によっては、導入前にお試しで歯科医師会の共用ポータブルを借りて訪問診療を体験し、市場性を探るのも一手である。

次に運用面の注意点として、院長自身が訪問に出る場合は院内の診療体制に穴が空く点を考慮しなければならない。スタッフだけで留守番できるか、あるいは往診専任スタッフを確保するか、診療スケジュールの調整が必要になる。予約制を敷いている医院では、週に特定の半日を往診枠に充てるなど、あらかじめ診療計画に組み込む工夫が求められる。導入初期はまだ往診件数が少なく効率が悪く感じるかもしれないが、患者紹介が増えて訪問ルートが軌道に乗るまで一定期間の辛抱が必要な点も理解しておきたい。

さらに、往診で扱う診療内容はどうしても限定的になるため、患者や家族への説明・同意を丁寧に行うことも重要な注意点である。カルフェでできる処置・できない処置を事前に説明し、必要に応じて「より高度な治療は院内来院時に行う」旨の約束を取り付けておくと、後々のトラブルを防げる。往診先では診療空間が患者のプライベート空間でもあることから、院内以上にマナーや配慮が求められる点も念頭に置いておくべきだ。機材の設置場所ひとつ取っても、家具や床を傷つけないよう養生シートを持参する、使用後に掃除をする、といった細やかな気遣いが医院の評価につながる。

最後に、カルフェ自体のリスクとしては、精密機器ゆえの稀な故障発生や、バッテリー駆動時の残量切れなどが挙げられる。バッテリー使用時は事前に十分充電しておく、長時間の処置では可能な限りコンセントから電源供給する、といった運用でリスクヘッジが可能だ。また、念のため訪問バッグに簡易な手動式吸引器や懐中電灯などを忍ばせておけば、万一カルフェが動作しなくなった場合でも最低限の応急処置は継続できる。総合的に見れば、カルフェ導入によるメリットは大きいものの、その恩恵を最大限得るには準備と計画、そして訪問診療に対する医院全体の理解と協力が欠かせないという点に留意してほしい。