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モリタの歯科用ポータブルユニット「ポータキューブ+(Portacube+)」の評判や価格は?

モリタの歯科用ポータブルユニット「ポータキューブ+(Portacube+)」の評判や価格は?

最終更新日

患者宅での訪問診療後、器材の片付けに手間取り気まずい思いをした経験はないだろうか。治療自体は滞りなく終わったのに、撤収作業に手間取って家族の視線が気になる瞬間は歯科医師なら誰しも覚えがあるはずである。
また、往診用の機材では吸引力が弱く、超音波スケーラー使用時に十分に水を吸いきれず患者がむせ込む場面にヒヤリとしたこともあるかもしれない。訪問診療では診療室と同等の環境を持ち出せないもどかしさが常につきまとう。
そんな現場の悩みに応えるべく開発されたのが、モリタの訪問診療用ポータブルユニット「ポータキューブ+ (Portacube+)」である。

そこで本稿では、このポータブルユニットの臨床上の実力と導入による経営インパクトを客観的に分析し、読者が自院にとっての価値を見極める一助となる情報を提供する。

製品の概要

ポータキューブ+は株式会社モリタ製作所が販売する歯科用ポータブルユニットである。正式な販売名は「ポータキューブ+」、型式HLU-P、一般的名称「可搬式歯科用ユニット」に分類される管理医療機器(クラスII・認証番号301ACBZX00008000)であり、訪問診療先で歯科治療を行うためのコンパクトなオールインワン装置である。従来、往診用ユニットと言えば必要機能ごとに別機種を用意する例もあった。例えばモリタの旧製品「ポータキューブ」では、タービン用コンプレッサーを内蔵したType Tとバキューム(吸引)モーターを内蔵したType Hの2タイプが存在し、それぞれ用途によって使い分けていた経緯がある。ポータキューブ+ではそれらの機能をひとつにまとめ、マイクロモーター式のハンドピースと超音波スケーラー、3ウェイシリンジ(エアー/水)、そしてバキューム(吸引)を単独の筐体に搭載している。電源は家庭用コンセント(AC100V)から供給し、持ち運び用のショルダーベルトを装備している。診療先に機材一式を持参し、患者の自宅や施設でう蝕処置からスケーリング、吸引を伴う処置まで“診療室と変わらない”治療環境を再現することを目指した製品である。なお、本機は特定保守管理医療機器に指定されており、法定耐用年数は7年とされる。購入後も定期的な点検・メンテナンスを怠らないことが、安全かつ長期に渡り運用する前提となる。

ポータキューブ+は大きく分けて2種類のバリエーションが存在する。標準吸引タイプ(単に「ポータキューブ+」と呼称)と、より吸引力を高めた高吸引タイプ「ポータキューブ+ SV」である。両者の外観や基本機能は共通だが、内蔵するバキュームモーターの性能が異なる。すなわちSVタイプではチェアユニットのハイパワーバキュームと同等レベルの吸引性能を発揮できる点が特徴である(詳細は後述する)。価格も両者で異なり、標準タイプの方が低価格に設定されている。導入に際しては診療内容や求める吸引力に応じて適切なタイプを選択する必要がある。

主要スペック

まず物理的なスペックから確認する。筐体サイズは幅46cm×奥行29cm×高さ32cmほどであり、小型のスーツケース程度の直方体に収まる。本体質量は約9.8kg(ハンドピース類を除く)で、成人が片手で持てなくはない重さであるが、長時間の移動では肩掛けベルトで担ぐかキャリーカートの利用が現実的である。実際、従来モデルのポータブルユニットに比べコンパクトさが追求されており、車の座席やトランクにも収まりやすい形状だ。重量はかつて往診用の標準機とされたオサダ社「デイジー」(本体約10kg + 別体バキューム5kg)より軽量で、ナカニシ社の軽量モデル「ビバエース」(約9kg)と同程度の範囲に収まっている。つまり携行性と多機能化のバランスが取れた重量と言えよう。

電源はAC100V(50/60Hz)で消費電流は最大5A程度である。これは訪問先の一般家庭用コンセントで無理なく使用できる範囲だが、アース付3ピンプラグを採用しているため古い住宅では差込口に適合しない場合がある。延長コードや3P-2P変換アダプタを携行し、確実に接地を取った上で安全に使用することが望ましい。内蔵のコンプレッサーは小型ながら、ハンドピースの駆動に必要なエアを供給する。また吸引(バキューム)用には小型高性能モーターを搭載しており、これがポータキューブ+の最大の売りとなっている。標準タイプでも従来のポータブルユニットと同等以上の吸引流量を持つが、特筆すべきは高吸引タイプ(SV)である。その最大吸引量は毎分約140リットルに達し、これはモリタの据え置きチェア(スペースラインなど)に搭載される口腔外バキュームとほぼ同等の数値である。従来、訪問診療用の携行ユニットでは重量・電力等の制約から吸引力が十分でないものも多かった。高吸引タイプのポータキューブ+はそうした常識を覆し、診療室と変わらぬ吸引性能を謳っている。ただし吸引性能向上に伴い、動作音は据え置きより大きくなる傾向がある。最大出力時の作動音は約73dBと公表されており、日常生活で使う掃除機と同程度の音量である。静粛性は訪問先の環境によっては注意すべきポイントであり、使用時には患者や家族に少し機械音が出ることを前もって伝えておく配慮が望ましい。

内蔵コンプレッサーの供給圧により、ハンドピース用のマイクロモーターが駆動する仕組みになっている。標準装備のモーターはモリタの「トルックス TR-S3-LD」で、LED内蔵の無影光付きタイプである。回転数は低速域から高速約40,000rpm程度までカバーし、高トルク仕様なので、専用の増速コントラアングル(別売オプション)を装着すれば従来型のエアタービンに匹敵する高速切削も可能となる。言い換えれば、往診先でう蝕除去や補綴物の形成修正といった回転切削処置にも本格的に対応できるポータブルユニットである。さらに超音波スケーラー(ソルフィー)を標準搭載し、こちらもLEDライト付きで視野を明るく照らせる。パワー設定は本体パネルから無段階に調整可能で、従来から据え置きユニットのスケーラーに慣れた衛生士でも違和感なく扱える仕様になっている。スケーラー先端チップはモリタの他ユニットと共通規格であり、既存のF型/T型チップがそのまま利用可能だ。3ウェイシリンジ(エアー/水)も当然装備しており、エアーブローや口腔内の洗浄・乾燥操作も往診先で問題なく行える。

ユニット上部の操作パネルにはデジタル表示付きのタッチパネルが配置されている。上段でマイクロモーターの回転数、下段でスケーラーの出力が示され、ダイヤル操作でそれぞれを調節する設計である。これはモリタの最新チェアユニット(例えばシグノシリーズ)の操作系とほぼ共通しており、普段モリタ製の椅子を使用している歯科医師なら一切の戸惑いなく扱えるレイアウトとなっている。言い換えれば、診療室で使い慣れた感覚そのままで往診に臨めるということだ。各種ハンドピース類はユニット前面のホルダーに収まっており、使用時にピックアップ(手に取る)だけで自動的に該当器材が検知される機構も備える。例えば3ウェイシリンジやバキュームを使いたい場合、他のポータブル機器ではスイッチ切替が必要なこともあるが、ポータキューブ+ではホルダーから外した瞬間に自動で検知し切替が完了する。複数の器材を連携して使う処置でも手元の操作が減り、診療の流れが途切れにくい工夫と言える。

互換性や運用方法

ポータキューブ+は「All in One」のキャッチフレーズ通り、本体だけで診療に必要な主機能が完結するよう設計されている。他に大掛かりな装置や外部接続は不要で、準備としては電源コードをコンセントに差し込み、ハンドピース類を所定位置にセットするだけである。到着してから実際に診療を始めるまでの段取りは極めてシンプルで、慣れれば1分足らずで組立完了となる。特徴的なのは、ポータキューブ+は縦置きのまま蓋を開閉できる点である。往診バッグから取り出して床に「縦置き」した状態でロックを解除すれば、その場でフロントパネルが手前に開き、内部のハンドピースやタンク類にアクセスできる。従来機によっては、一度床に寝かせて蓋を開け、また起こすという手順が必要なものもあったが、本製品では無駄なスペースを取らず開閉が可能である。開いた状態のユニットは、そのままドクターの足元に置いて使用する高さに最適化されている。具体的には、歯科医師が椅子に腰掛け、ベッド上もしくは車椅子の患者さんに処置する際に、ユニットから伸びるハンドピース類が無理なく手が届く高さ・角度に配置される設計である。モリタのユニット設計思想である「Horizontal Working Position」を踏襲し、腕を大きく伸ばすことなく器具をピックアップできるポジションが実現されている。

各種接続規格に関しても、ポータキューブ+は据え置きユニットとの親和性を重視している。ハンドピース用マイクロモーターのコントラアングル装着部は国際標準のEタイプ規格であり、付属オプションのトルクテックシリーズはもちろん、手持ちの他社製Eタイプアタッチメントも使用可能である(ただしライト付き機種の場合はメーカー間で互換性を確認する必要がある)。超音波スケーラーのチップねじもモリタ標準で、既存の在庫チップをそのまま流用できる点は経済的だ。3ウェイシリンジの先端ノズルもモリタのチェアユニット用と共通仕様であり、予備ノズルの確保が容易である。バキューム用チューブ径も一般的サイズで、吸引ノズル(いわゆる唾液 ejector や外科用吸引ノズル)も汎用品が利用可能だ。実際に本製品を導入したユーザーからは「普段モリタのユニットで使っているスケーラーチップやハンドピースをそのまま往診用にも転用でき、専用に追加購入する物が少なくて助かる」という声が上がっている。互換性の高さは、既存資産の有効活用と院内の機器管理の簡素化にも寄与する。

日々の運用面に目を向けると、まず給排水タンクの存在が重要である。ポータキューブ+には清水(注水)用タンクと排水(唾液等)用タンクが内蔵されており、それぞれ約400ml程度の容量を持つ。タンクは本体にマグネットで着脱できる設計で、簡単に取り外して給水や廃液の廃棄・洗浄が行える。訪問診療前に清水タンクへ水道水を補充し、診療後は排水タンク内の廃液を必ず捨てて洗浄・乾燥させることが基本である。メーカーも取扱説明書で「帰院後には付属のドレインチューブを用いて機器内の水抜きを行うこと」を推奨している。内部配管に水が残ったままだと細菌増殖や不衛生な臭気の原因となるため、これは日々のルーチンに組み込むべきだろう。実際の臨床現場では、多忙さから数回水抜きを怠ってしまっても即トラブルは起きにくいとの報告もあるが、長期的には機器寿命に影響しかねないため注意したい。また、使用後のホース類は一旦全て伸ばしてから8の字状に軽くひねって重ね、本体側面のフックに掛けるという独特の収納方法が推奨されている。初めは戸惑うかもしれないが、慣れると素早くホースをまとめられ、次の現場ですぐ展開しやすい。この「8の字巻き」も含め、導入時にスタッフと共に組立・片付けの手順を十分シミュレーションしておくと良い。

感染対策の面でも、据え置きユニット同様の配慮が必要である。患者ごとにハンドピース類の滅菌は言うまでもなく、ポータキューブ+本体の外装はフラットな面が多くアルコール清拭などで清掃しやすい。使い捨て可能な部品(スリーブや吸引チップ等)を適切に活用し、院内と同等レベルの衛生環境を保つことが信頼感につながる。また移動時には本体ロックが確実に掛かっていること、タンク内の水を空にしていることを再確認したい。うっかり満水の排水タンクを入れたまま移動すると、車中で漏洩するリスクがある。基本的なことではあるが、往診から帰ってきたら忘れず水回りの処理を完了させ、次回に備える習慣づけがポイントとなる。

経営インパクト

ポータキューブ+の導入コストは決して安くはないが、その機能と耐用年数を考えれば投資対効果の計算は十分に可能である。まず本体価格について、メーカー希望価格は標準吸引タイプが約98万円(税込)、高吸引タイプ(SV)が約110万円(税込)とされている(いずれも2025年時点・オプション除く)。市場実勢としては歯科ディーラー経由で多少の値引きやキャンペーンが期待できるかもしれないが、概ね100万円前後の初期投資と見込んでおく必要がある。これに加え、もしコントラアングルや専用アクセサリーを別途購入するなら数十万円規模での追加費用も考慮すべきだ。既存の器具を流用できる場合はその限りではない。

さて、この投資が医院経営にどう寄与するかを考える。訪問診療をこれから本格化させようという医院であれば、ポータキューブ+は新たな収益源を開拓するキーアイテムとなり得る。例えば、週に1回訪問診療日を設けて5人の患者を診療すると仮定しよう(うち数名は同一施設訪問でまとめて診るケースも含む)。保険点数上は訪問基本料・処置料・管理料などを合わせ、患者1人あたり数百点~1000点台後半(在宅か施設か、人数や時間により変動)が見込まれる。仮に平均して1人あたり800点(約8,000円)の収入になるとすれば、5人で4,000点=約4万円の収入となる計算である。月4回で16万円、年間では約192万円となり、機器代を1年足らずで償却できる可能性も出てくる。実際には移動時間や人件費(歯科医師・衛生士の訪問同行)も考慮せねばならず、単純計算通り利益が残るわけではない。しかし、往診を積極展開すれば安定した定期収入を生む部門として医院全体の経営を下支えできる点は注目に値する。高齢化社会において訪問歯科のニーズは増加傾向であり、将来的な患者獲得にもつながる投資と捉えることができる。

一方、既に訪問診療を行っているが使い勝手の悪い機材に不満を抱えているケースでは、生産性向上によるコスト削減効果が期待できる。例えば吸引力不足のユニットでは、本来1回の訪問で完結する処置が難しく再訪問が必要になったり、スケーリングを諦めて手作業に切り替えることで処置時間が延びたりしがちである。ポータキューブ+ SVの強力な吸引と充実した機能は、そうした無駄なタイムロスを減らしチェアタイム(訪問先での処置時間)短縮につながる。実際、あるユーザーは「患者宅で機材の片付けに手間取る時間が大幅に短縮され、次の訪問や帰院を急ぐ際のストレスが減った」と語っている。1件あたり5~10分でも時間短縮できれば、1日数件の積み重ねで余裕が生まれ、追加の訪問枠を設けたり残業を減らしたりといった効率改善が実現するだろう。また、処置品質の向上も見逃せない。吸引が十分でないまま無理に切削や洗浄を行えば、誤嚥や窒息のリスクが高まる。ポータキューブ+の安定した吸引環境は患者の安全を守り、ひいてはトラブル回避による間接的なコスト削減(賠償リスクや緊急搬送対応コストの低減)にも寄与する。患者満足度が高まれば口コミや紹介で新たな患者獲得につながることも考えられ、単に目先の診療点数だけでは計れないリターンが期待できる。

さらに、機器の法定耐用年数は7年と規定されているが、適切に使えばそれ以上の期間使用するユーザーもいる。長期にわたり機能が陳腐化しにくいのも診療ユニット機器の特徴であり、一度導入すれば少なくとも数年スパンで安定した訪問診療体制を維持できる安心感がある。仮に7年間で見ても、購入価格を期間で割れば年間あたり14〜16万円程度のコストであり、月次に直せば約1.2〜1.4万円である。訪問診療を毎月数件こなすだけで十分元が取れる計算となり、投資額に見合う効果は得やすい機器と言える。ただし導入しながら使いこなせず宝の持ち腐れになるリスクもあるため、次章以降で触れるように「どう使いこなすか」の視点が重要となる。

使いこなしのポイント

ポータキューブ+を最大限に活用するには、単なる機器スペックの理解に留まらず現場でのちょっとした工夫が鍵となる。まず導入初期には、院内スタッフ全員で組立・撤収の流れをシミュレーションしておきたい。特に訪問診療の未経験スタッフにとっては、患者宅で戸惑わないよう事前練習が必要である。具体的には、往診カバンからの出し入れ、コード類の扱い、タンクへの給水・排水処理、そしてホースの8の字巻き収納まで、一連の手順を何度か繰り返して身につける。往診当日は往々にして時間との戦いになるため、機材に気を取られず本来の診療に集中できる状態を準備段階で作っておくことが望ましい。

また、電源周りの備えも重要なポイントだ。前述の通り本体の電源コードは長さが限られ、アース付き3極プラグであるため、訪問先の環境によっては延長コードが必須となる。事前に訪問先のコンセント位置や貸与可能な電源タップについて情報を得られると安心だ。もし訪問先に適切なコンセントが見当たらない場合、介護施設であればスタッフに依頼して準備してもらう、在宅であれば家族に協力を仰ぐなどのコミュニケーションも欠かせない。加えて電源投入時の安全確認として、一度主電源スイッチがOFFになっていることを確認してからコンセントに接続し、通電後にスイッチONする習慣をつけよう。こうすることで、搬送中にスイッチが入ったままだった場合の急な駆動やヒューズ飛びを防げる。

実際の処置中は、診療室と同様にフットスイッチを踏んでハンドピース類を操作する。ポータキューブ+のフットスイッチは本体に直結した有線式で、コード長がやや短めとの指摘もある。そのため、ユニット本体と術者・患者の立ち位置関係を事前にシミュレートし、邪魔にならない位置にフットペダルを配置する工夫がいる。場合によっては延長コードで本体設置場所の自由度を上げ、足元スペースに余裕を持たせることが望ましい。フットペダル自体は一つで、マイクロモーターもスケーラーも同じペダルでオンオフ・速度制御ができる。どの器材がアクティブかはピックアップ検知で自動切替わりするため、ペダルは一つ踏むだけと覚えておけば難しくない。慣れないうちは「現在どちらのモードになっているか」をパネル表示で確認しつつ操作すると安全だ。

患者や介護者への声かけも円滑な運用の一部である。例えば「これから機械を使うので少し音が出ますが驚かないでくださいね」といった旨を事前に伝えておけば、突然のモーター音で患者を驚かせずに済むだろう。特に高吸引タイプの場合、吸引力が強く唇や舌にノズルが貼り付くことも起こり得るため「痛かったら教えてください」と一声かけ慎重に扱えば患者の協力も得やすい。また、吸引力が強いメリットとして、口腔ケア中に生じる唾液や水分を迅速に吸引できるため誤嚥防止につながるという安心材料にもなる。そうした利点も含めて説明すれば、患者や家族からの機器への信頼も高まる。

往診専用機材は他にも色々と持参することが多い。ポータキューブ+本体に気を取られて、基本的な器材(ミラーや探針、バキュームチップ、滅菌パック、印象材など)を忘れては本末転倒である。持ち物リストを作成し、往診カバンとポータキューブ+に必要物品がすべて入っているか毎回確認する癖をつけよう。特にバッテリー式のポータブル照明(ヘッドライト)や口腔内鏡など、ユニットに付属しないが訪問診療に必須のアイテムもチェックリストに入れておきたい。ポータキューブ+自体はハンドピース先端にLEDライトが付くとはいえ、術野全体を照らすライトスタンドは無いので、術者のヘッドランプは引き続き重要だ。同様に、う蝕検知液や仮封材、緊急時の止血剤など、訪問診療特有の準備物も忘れず備えておくことで本製品の性能をフルに活かした診療ができる。

適応と適さないケース

ポータキューブ+は訪問歯科診療全般に幅広く対応できるよう設計されている。基本的に「患者が何らかの理由で歯科医院へ通院できない場合」に歯科医師が往診する際の主力機材となる。適応となるケースとしては、在宅療養中の要介護高齢者、障害により通院困難な患者、入院中でベッドサイドでの歯科処置が必要な患者、あるいは介護施設や特養ホームに入所中の多数の高齢者への定期訪問などが挙げられる。こうした場面で求められる処置内容は多岐にわたる。口腔ケア(清掃)やスケーリング、う蝕の充填修復、補綴物の調整・装着、抜歯や開放処置、義歯の調整・修理・印象採得など、一般歯科診療の一通りが往診先でも発生し得る。ポータキューブ+はそのほとんどに対応できる仕様であり、特に吸引が必要な処置(切削や洗浄を伴うもの)に強みを発揮する。例えば中程度のう蝕除去からCR充填であれば、電動ハンドピース+スケーラー+エアー/水+バキュームという診療室と同様の流れが患者宅で完結する。吸引力の弱い機材だと水分を多用する処置は敬遠しがちだったが、ポータキューブ+なら比較的安心して行える。また、誤嚥リスクの高い要介護患者の口腔ケアでも、充分な吸引力があることで気管への唾液流入を防ぎやすく、口腔ケア自体の質も向上する。

一方、適さないケースや限界も正しく認識しておく必要がある。まず、患者が通院可能な場合は無理に往診で高度な処置を行うべきではない。訪問診療は環境的に制約が多く、ポータキューブ+が優秀でもレントゲン設備や技工設備などは持ち運べないため、精密な根管治療や大掛かりな補綴は困難である。例えばインプラント埋入や骨切りを伴う外科処置、全身管理が必要な静脈内鎮静下での手術等は、当然ながら往診の範囲を超えている。また、たとえ抜歯程度の小手術であっても無影灯(ライト)やアシスタントの数に限界がある往診先では、視野確保や滅菌環境の点でクリニック内手術に劣ることは否めない。そのため、ポータキューブ+はあくまで訪問診療で必要十分な処置を提供するためのものであり、通院可能な患者には無理せず院内での治療を案内する判断も必要になる。

また、機器の特徴から見た向き不向きもある。ポータキューブ+は9.8kgと携行可能な重量だが、これでも階段の多い住宅や遠方への持ち運びには負担となり得る。術者自身が高齢であったり腰痛持ちであったりする場合、毎回の持ち運びが苦痛になる可能性がある。そのような場合には無理をせず、院内スタッフや同行者に運搬を手伝ってもらうか、あるいはもう少し軽量な機材(例えば吸引無しの簡易ユニットや器材だけ持参)で代替できる往診内容に留めるのも一つの戦略である。特に口腔ケアが中心で、切削処置をほとんど行わないケースでは、無理に大型機材を投入せずともポータブル吸引器+ハンドスケーラー程度で済むこともある。ポータキューブ+をフル活用するのは、やはり「診療室並みの治療」を往診先で求められるシチュエーションと言える。それ以外の簡易なケア中心の訪問診療では、宝の持ち腐れになる可能性もあるため、自院の訪問診療のニーズと内容を見極めて導入判断することが重要である。

さらに、電源に依存する機器である点も考慮すべきである。災害時の無電源下や、停電しやすい地域での診療、あるいは電源容量の不足する古い住宅等ではポータキューブ+は本来の能力を発揮できない。非常用電源(発電機や大容量バッテリー)が無い環境での使用は現実的でないため、そういったケースでの訪問診療は簡易な器材に切り替えるか、電気の確保を事前に調整する必要がある。

導入判断の指針(読者タイプ別)

同じ歯科医師と言っても、医院の診療方針や経営戦略によりポータキューブ+導入の是非は異なる。ここではいくつかのタイプ別に、本製品の向き・不向きを考察する。

1. 保険診療中心で効率重視の医院の場合

日々多くの患者をさばき、保険点数ベースで収益を上げているクリニックにとって、訪問診療は時間単価が低い割に拘束時間が長く、効率面で敬遠されがちである。しかし地域包括ケアの流れや患者ニーズに応えるため、ある程度の往診を余儀なくされるケースもあるだろう。そのような医院では、短時間で確実に処置を終えられる機材であることがポータキューブ+導入の絶対条件となる。幸い本製品は組立・撤収が迅速でチェアタイムの短縮にも寄与するため、効率重視の現場にマッチしやすい。例えば要介護患者の口腔ケアを月1回訪問で請け負うといった場合でも、スケーリングと簡単な処置を20分程度で終え、すぐ次の患者宅へ移動という流れを支えてくれる。弱点としては、やはり初期投資額が100万円規模と高く、訪問件数が少ないと投資回収に時間がかかる点である。保険中心型の医院では、往診が全体売上の数%にも満たないなら無理に高額機材を導入すべきでないかもしれない。しかし、高齢化が進むエリアで将来的に訪問ニーズが増えることが見込まれるなら、先行投資としてポータキューブ+を導入し体制を整えておくことは長期的なプラスになる。とりわけ歯科衛生士が複数人在籍し、院内の定期メンテナンス枠に空きがある場合など、衛生士主導で訪問ケアサービスを展開する戦略も考えられる。本製品を活用すれば衛生士によるスケーリングも格段に効率化し、医院全体のサービスの幅が広がるだろう。

2. 自費治療中心で高付加価値診療を志向する医院の場合

インプラントや審美、矯正など自費率の高い医院では、訪問診療は主業務ではないことが多い。このタイプの歯科医師にとってポータキューブ+の導入意義は、既存患者へのトータルケア提供とブランディングにあると言える。例えば高額な自費治療を受けてきた患者が高齢となり通院困難になった際、「最後まで自院で診る」というスタンスを示すことは患者との信頼関係を深める。実際に往診を引き受ける場合、ポータキューブ+があれば院内と遜色ないクオリティで補綴物の調整や口腔ケアを提供でき、患者も安心して任せられるだろう。経営的には訪問診療そのものの収益は小さくとも、医院の付加価値サービスとしてプラスに働く。たとえば「当院は訪問診療にも対応し、患者様の生涯に寄り添います」という謳い文句は富裕層患者へのアピールともなる。しかし注意点として、自費専門クリニックでは往診の機会がそもそも少ないため、機材が閑置されがちである。使用頻度が極端に低い場合はレンタルや地域歯科医師会の共有機材を利用するといった手段も検討すべきだろう。最近では自治体や医師会単位でポータブルユニットの貸し出し制度を設けている例もあるため、自院で購入するほどではないと判断すれば共同利用も選択肢となる。それでもなお、自院ブランドとして最高の訪問診療環境を用意したいという場合には、ポータキューブ+の高機能ぶりは心強い味方となる。

3. 外科処置やインプラント中心の医院の場合

外科系の歯科医院では、基本的に院内設備(オペ室やCTなど)が充実しているため、訪問診療は想定外ということも多い。しかし高齢者の抜歯や外科処置が発生した場合、依頼があれば往診に出向くケースも皆無ではない。その際、やはり十分な吸引力と器具一式が揃ったポータキューブ+ SVは大いに役立つ。特に出血を伴う抜歯や外科処置では、弱い吸引しか無い環境ではリスクが高い。SVタイプなら血液や洗浄液をしっかり吸引しつつ処置できるため、術者・患者双方に安心感がある。ただし、外科中心のクリニックでは、院長が訪問に出ること自体が本業の手術スケジュールに影響するため、経営判断としては悩ましいところだ。緊急的に訪問抜歯を行うニーズが地域でそれなりにあるなら、設備として備えておく価値はある。逆に、インプラント専門で若年~中年患者が多く訪問機会がほぼ無いなら、本製品は不要だろう。外科系ドクターがポータキューブ+を導入するシナリオとして現実的なのは、地域包括ケアに積極参加しているケースである。地域の介護施設から口腔外科的処置の往診依頼が時折舞い込むような場合、信頼に応えるためにも高性能ポータブルユニットをスタンバイしておくと良い。そうでなければ、地域の訪問歯科専門医と提携し、自院での機材投資は控えるという選択も健全な経営判断となるだろう。

よくある質問(FAQ)

Q. ポータキューブ+と従来のポータブルユニットとの違いは何か?

A. 最大の違いは吸引力と操作性である。ポータキューブ+ SVはチェアユニット並みの強力なバキュームを搭載し、従来の往診ユニットでは難しかった水冷下でのう蝕除去や十分な湿潤下での口腔ケアが可能になった。また、操作系がモリタ製ユニットと共通しており、ホルダーから器具を取るだけで自動検知されるなど煩雑な切替操作が不要である。総じて診療室と同等の感覚で使える点が、旧来機種との大きな違いである。

Q. 標準タイプと高吸引タイプ(SV)はどちらを選ぶべきか?

A. 診療内容によって選択が分かれる。もし訪問診療で主にスケーリングや義歯調整程度しか行わない場合は標準タイプでも支障は少ない。一方、う蝕治療や抜歯処置、積極的な口腔ケアなど水や削片を大量に吸引する処置が多い場合、SVタイプの方が安心である。価格差は約12万円程度(SVの方が高価)であるが、吸引力の余裕は誤嚥防止や処置時間短縮という形でリターンが期待できる。往診で提供する医療の質を極力落としたくないと考えるならSVを選ぶ価値があるだろう。

Q. 現在クリニックで使っているハンドピースやチップは流用できるか?

A. 多くの場合で可能である。ポータキューブ+はモリタ製ユニットのパーツをベースに設計されており、たとえばコントラアングル等のハンドピース類はEタイプの接続で互換性が高い。既にモリタの増速コントラやストレート、エアスケーラー用チップなどをお持ちなら、そのまま本機でも使用できる。別メーカー品でもEタイプ規格なら装着自体は可能だ。ただし、LEDライトの有無や微妙な寸法差で適合が完全でないケースも考えられるため、購入前にディーラー等に互換性を確認してもらうと安心だ。基本的には「据え置きユニットと同じものが使える」と考えて差し支えない。

Q. 作動音は大きくないか?患者が驚かないか心配である。

A. 作動音は最大で73dB程度とされる。これは家庭用掃除機を中〜強モードで運転したときと同じくらいの音量である。決して無音ではないが、訪問先の環境音(テレビや生活音)に紛れる程度であり、多くの患者はすぐ慣れる音と言える。ただ、高齢者や認知症の患者には突然のモーター音で不安を与える可能性もゼロではない。使用前に機械音が出ることを事前に伝えておけば、多くの患者は落ち着いて受け入れてくれるだろう。また、標準タイプの場合は吸引モーターがSVより小さい分、動作音もやや穏やかである。いずれにせよ患者の反応を見ながら、必要に応じて一時停止して声かけするなど柔軟に対処すれば大きな問題にはならない。

Q. バッテリー駆動は可能か?電源が取れない場所で使うには?

A. ポータキューブ+本体にバッテリーは内蔵されておらず、使用にはAC100V電源が必須である。したがって、電源が確保できない場所(屋外や停電時)での単独使用はできない。どうしても無電源下で使う必要がある場合は、別途ポータブル発電機や大容量バッテリー+インバーター等で100V電源を供給する方法が考えられる。しかしコンプレッサーやバキュームを駆動するため消費電力が大きく、現実的には容易でない。従って電源が無い環境下での歯科治療は、本機を使うのではなく応急処置のみ行い、電源が得られる場所(もしくは後日来院)で改めて治療することが望ましい。なお、一部の自治体では災害時用にポータブルユニットと発電機をセットで備蓄している例もあるので、地域の歯科医師会等と連携しておくと非常時に役立つだろう。