
キング工業の訪問歯科ポータブルユニット「かれん」の価格や評判はどう?
訪問診療の現場で、「もう少し設備があれば…」と感じた経験はないだろうか。往診先でう蝕の処置や歯石除去を行おうとしても、ポータブルの器材が不十分だと吸引が追いつかず、患者の口腔内に水がたまって慌ててしまうことがある。あるいは重い機材を抱えて住宅の階段を上るたびに、訪問診療のハードルの高さを痛感した先生も多いはずである。
本稿では、そのような悩みを抱える歯科医師に向けて、キング工業(日本アイ・エス・ケイ)の訪問歯科用ポータブルユニット「かれん」を取り上げる。臨床の質を損なわず往診の負担を軽減するこの製品の特徴を、豊富な臨床経験と経営視点の双方から深掘りし、価格から評判まで徹底的に解説する。読者が自身の診療スタイルに照らし合わせて「かれん」を導入すべきか判断する一助となれば幸いである。
訪問歯科ユニット「かれん」の概要
キング工業(現・日本アイ・エス・ケイ)が開発した「かれん」は、在宅や施設での歯科診療に必要な機能を一つのケースに収めた可搬型ユニットである。初代モデルは2008年に登場し、以降改良が重ねられてきた。最新モデルは「かれんEZ」(イージー)であり、「かれんEX」「かれんES」などの前世代機種から軽量化や吸引性能の強化が図られている。「かれんEZ」は管理医療機器(クラスII)に分類されており、歯科用エアコンプレッサー、吸引(バキューム)、超音波スケーラーなど診療に必要な機能をオールインワンで搭載する。本体ケースを開ければすぐにユニットとして使用でき、在宅の簡易診療でも院内のユニットに近い環境を実現することを目指した製品である。
適応となる診療は、基本的なう蝕処置(う蝕除去や充填)、スケーリングやルートプレーニング、簡単な補綴処置(仮義歯の調整など)から、口腔ケアまで多岐にわたる。なお、口腔外科的な大掛かりな手術や高度な補綴作業は、さすがに往診先で行うのは現実的ではないが、「かれん」があれば在宅でも可能な治療の幅が飛躍的に広がる。在宅診療専門のクリニックはもちろん、外来診療主体の医院が自院患者の訪問診療に対応する際にも、一台備えておくことで臨床の質を確保できる。
価格帯とモデル構成
気になる価格だが、「かれんEZ」のメーカー希望価格は標準仕様で約105万円(税別)である。オプションのバッテリーと充電器を含む「バッテリー仕様」は約116万円となっている。前モデルの「かれんEX」は標準約97万円で、最新機種へのアップデートに伴い性能向上と共に価格もやや上昇している格好だ。ただし実際の購入価格は販売店による割引やキャンペーンによって変動する可能性がある。また、中古市場で前世代機が出回ることもあり、予算に応じて選択肢となり得る。医療機器としての承認番号は「かれんEZ」が302AIBZX00030000であり、国内承認を取得済みだ。いずれのモデルもクラスIIの管理医療機器であり、使用にあたって特別な資格は不要だが、安全のため取扱説明書に沿った十分な習熟が求められる。
主要スペックと臨床での意味
「かれん」シリーズの大きな特徴は、ポータブルユニットとしての圧倒的な軽量コンパクトさと、必要十分な診療能力を両立している点である。最新モデル「かれんEZ」の主要スペックを見ながら、その臨床的な意味を解説する。
重量・寸法
本体重量はわずか8.3kg(バッテリー搭載時でも8.6kg)である。幅43cm×奥行29cm×高さ32cmほどのコンパクトな直方体ケースに全てが収まる。これは訪問歯科ユニットとして業界でも最軽量級であり、他社製品と比べても頭一つ抜けて軽い。例えば競合するオサダ社「デイジー」では14kg台、ナカニシ社「VIVA ace」でも8.6kgであり、「かれんEZ」の軽さは際立つ。この差は階段の上り下りや車への積み降ろしといった場面で如実に効果を発揮する。特に女性スタッフでも苦労なく持ち運べる重量であり、訪問診療チームの負担軽減につながる。
オールインワン設計
ユニット内部にはエアコンプレッサーとバキューム(吸引モーター)が内蔵され、高速・低速ハンドピース用の圧力配管、給排水タンク、さらに超音波スケーラーの発振器まで全て組み込まれている。標準でスケーラー機能を備えているため、歯石除去や口腔ケアの洗浄も追加機材なしで可能である。これらが1つのケースに収まっているため、往診先で機器を組み立てたり複数の荷物を運搬したりする手間がない。扉を開ければすぐ治療を開始できる設計は、セッティング時間の大幅な短縮を意味する。実際に「かれん」は開封から約1分で使用準備が整う簡便さで、これは往診でのチェアタイム短縮や段取りの効率化につながる。
吸引性能
ポータブルユニットで特に重要な吸引力について、「かれんEZ」では前機種比で約75%向上している。従来から強力と評価されてきた「かれん」だが、新モデルでは痰や注水の吸引効率が一層改善され、訪問先でも院内と遜色ないバキュームが得られる。実際の臨床でも、複数のユーザーから「口腔内の水や汚物の吸引力に不満はなく、問題なく処置できている」という声が聞かれる。ただし吸引能力が高い分、内蔵の排水タンク容量は300mLと小さめで、こまめな排水が必要となる。しかし後述するように、この点は脱着の容易さでカバーされている。
ハンドピース出力
「かれん」では高速切削用のエアタービンや電動モーター(いわゆる5倍速コントラなどの使用を想定)にも対応しており、切削のパワーも十分に確保されている。実際に院内と同様の切削処置(う蝕除去や義歯調整)を訪問先で行っても、パワー不足で困る場面はほとんどない。ユーザーによれば、競合機との比較でもハンドピースの回転力・切削感に大きな差は感じられないとのことである。圧力調整やモーター回転数制御はユニットのパネルから行えるため、被削物や術式に応じたパワー調節も可能である。ただし光照射用のファイバー供給など高度な機能は備わっていないため、必要に応じてライト付きハンドピースやヘッドライトを併用すると良い。
操作パネルと設計
本体上部には操作パネルが配置され、スイッチ類が分かりやすくレイアウトされている。最新モデルでは前面カバーを開いた際にインスツルメントホルダー(ハンドピース等を掛けるホルダー)が以前より高い位置になるよう改善され、操作しやすくなった。とはいえホルダー位置は腰よりやや低めであり、長身の術者が立位で使用する場合には若干低く感じるかもしれない。一方で全体のデザインは凹凸が少なくシンプルで、拭き掃除しやすい衛生的な造りになっている。ユニット表面は汚れが付きにくい材質・色調が選ばれ、清掃性と耐久性を兼ね備えている。
互換性と運用方法
「かれん」は単体で歯科ユニットとして完結しているが、他の機器や医院システムとの互換性・接続性についても確認しておきたい。
ハンドピースや器具の互換性では、「かれん」は一般的な歯科用ハンドピースが使用可能なよう規格が統一されている。高速用には2/4穴のタービン用カプラー、低速用にはE型接続のモーター用配管が備わっており、手持ちのタービンやコントラ、ストレートをそのまま接続できる(※製品には標準でハンドピース本体は付属しない場合が多い)。超音波スケーラーも本体内蔵だが、スケーラーチップについては付属品または別売品として用意されているだろう。使用できるチップの種類はメーカー指定のものに限られるため、購入時に確認したい。
電源およびバッテリー運用については、標準ではAC電源(家庭用コンセント100V)につないで使用する。電源ケーブルは約2.5mと長めで、延長コードを使わずとも多くの訪問先で届く長さである。コードは1本だけで済み、煩雑さがないのもありがたいポイントである。さらにオプションのバッテリーを搭載すれば、コードレスでの駆動も可能となる。フル充電(約3時間充電)で連続1時間程度の使用ができ、屋内でコンセントを借りにくい場面や、患者を移動させながらの処置(施設内で複数の部屋を回る場合など)で威力を発揮する。ただしバッテリー駆動時はやや出力が落ちるとの情報もあり、長時間の切削など高負荷処置にはAC電源併用が安心である。
セットアップと片付けは、「かれん」の強みの一つである。訪問先に到着したら、本体ケースを床や台の上に置き、前面のフタを開いてロックする。そして内部に収納されている器具ホルダーをフタ部分に取り付ければ準備完了だ。約1分でセット完了する手軽さで、面倒な組み立ては発生しない。撤収時もホース類をケース内に収め、フタを閉じるだけで終わるため、移動の度に片付ける往診でもストレスが少ない。なお、他社製品(例えば前述のオサダ「デイジー」)ではユニット部とバキューム部が分割されておりコードやカバーも2系統となるが、「かれん」は一体型ゆえにコードも1本、カバーも閉めるだけとシンプルなワークフローを実現している。
清掃・メンテナンス面でも、互換性と設計の妙が光る。「かれんEZ」の排水タンクは300mLと小型だが、構造が極めてシンプルで、タンクはワンタッチで引き抜いて外せる。ホース類もタンクに固定されておらず、取り外し時にホースを都度外す必要がない。このため、往診先で素早く汚水を捨てたい場合にもタンクを引き抜いてそのまま洗面所へ持ち運べる。満水センサーはアナログ方式(浮きなど機械的な仕組み)で、タンクが満杯になると小さな音とともに自動で吸引が止まる。ただし作動音が小さいため満水に気づきにくい欠点がある。そのため、慣れないうちは患者の口腔内の水量に注意し、早め早めにタンクをチェックする必要がある。一方で、アナログセンサーは構造が単純で壊れにくく、電気系統が少ない分メンテナンスしやすいというメリットもある。実際、汚水タンクや本体内部に複雑なセンサーが少ないおかげで、清掃すべき箇所が最小限に抑えられている。
本体表面や内部の掃除もしやすい。ケース形状は角ばった箱型で、上面が平坦なため埃が溜まりにくく、拭き掃除も隅々まで行いやすい。凹凸の多い機械では拭き残しが生じがちだが、「かれん」は無駄を省いたデザインにより日常清拭の負担を軽減している。特に排水タンクは訪問歯科では汚れやすい箇所だが、シンプル構造のおかげで短時間で洗浄・消毒を済ませることが可能だ。ホース接続部やセンサー電極など、他機のような細かなパーツが少ないため、隅々まで綺麗に保ちやすい。臨床現場では衛生管理が重要であり、素早く確実に清掃できる設計はスタッフの負担軽減と感染リスク低減につながる。
導入による経営インパクト
高額な医療機器を導入する際には、その費用対効果や経営的リターンも慎重に検討しなければならない。「かれん」のような訪問診療ユニットは、価格が100万円前後と決して安くはない。しかし、適切に活用すれば診療の幅を広げ収益向上に寄与し得る投資でもある。このセクションでは、「かれん」導入による経営インパクトを試算し、ROI(投資利益率)の観点から考察する。
まず直接的な収益面で言えば、訪問診療の診療報酬は外来診療よりも高めに設定されている。保険点数の例を挙げると、在宅患者訪問診療料や口腔ケア指導管理料などが加算されるため、一人の患者から得られる月間の点数は外来の数倍になることも珍しくない。例えば一般的な外来患者の月間保険点数が平均1200点(約12,000円相当)だとすれば、訪問診療患者では4000~5000点(40,000~50,000円)に達するケースもある。仮に一人あたり月に4万円の収入が見込めるとすれば、月に3人の訪問患者を新規に確保するだけで月商12万円となり、単純計算で機材費100万円は1年弱で回収できる計算になる。
もちろん実際の収益は患者の状態や提供する処置内容に左右されるが、「かれん」の導入によって新たな訪問診療の患者層を取り込めれば、それがそのまま医院の増収につながる。また既存の通院患者が要介護状態になった際にも、ユニットがあれば他院への紹介ではなく自院で引き続き診療継続できるため、患者離れ防止という効果も期待できる。
費用面では、主なランニングコストは電気代と消耗品費程度である。圧縮空気のフィルターや吸引装置のフィルター交換、Oリングなどの定期交換部品は存在するが、いずれも高額ではない。仮に年数万円以内のメンテナンス費用が発生するとしても、それ以上に訪問診療から得られる収入で十分カバー可能な範囲だ。耐用年数に関して公式なデータはないものの、多くのユーザーは5~10年以上にわたり使用を継続している。減価償却を5年と想定すれば、年間20万円の減価償却費となるが、前述のように患者数換算で月数名の訪問診療で回収可能な水準である。
さらに間接的な経営効果も見逃せない。「かれん」の軽量コンパクトさは、スタッフの負担軽減と訪問先での作業効率向上をもたらす。これはすなわち人件費(時間当たりコスト)の削減につながる。例えば従来、重い機材を運ぶために2人がかりだった訪問診療が、軽量な「かれん」によって1人でも可能になれば、人件費や人員配置の効率化となる。あるいはセッティング・片付けに毎回10分かかっていたのが1~2分で済むようになれば、1日に訪問できる患者数をもう一軒増やすこともできるかもしれない。チェアタイム短縮はすなわち生産性の向上であり、結果として医院全体の収益力アップに寄与する。
加えて、訪問診療を積極的に行っていること自体が医院のブランディングや地域医療への貢献評価につながる可能性がある。直接的な売上だけでなく、地域包括ケアシステムの中での歯科医院の存在感を高め、行政からの紹介や介護施設との提携などビジネスチャンスの広がりも期待できるだろう。これらを総合すれば、「かれん」の導入費用は決して高い買い物ではなく、中長期的に見れば十分に元が取れる投資であると専門家の視点からは考えられる。
「かれん」を使いこなすポイント
高性能な機器も、適切に運用し使いこなしてこそ真の価値が発揮される。「かれん」を導入した際に、現場でその能力を最大限引き出すためのポイントをいくつか紹介する。
まず導入初期のトレーニングが肝心である。院内スタッフ全員が「かれん」のセッティング手順、使用方法、片付け方法を熟知しておく必要がある。特に訪問診療は診療室とは勝手が違い、狭い居室やベッドサイドで機器を扱うため、スムーズに準備・撤収できるかが治療のスピードと安全性を左右する。導入当初は実際の往診に赴く前に、院内で模擬セッティングを行い、タイムトライアル形式でフタ開閉から器具配置、電源投入まで一連の流れを練習すると良い。1~2回練習するだけで、多くのスタッフは難なく扱えるようになるはずである。
使用中の注意点として、「かれん」にはホルダーセンサーがないため、ハンドピースやスケーラーをホルダーに掛けた状態か否かを自動検知しない。そのため、器具を手に持ったままの状態で誤ってフットペダルに足が触れると、その場でタービンやスケーラーが動作し、水やエアが飛び散ってしまう危険がある。特に患者本人や介助者が足元のペダルにうっかり触れてしまうケースもあるため、現場ではペダルの位置に注意し、必要に応じて器具の先端にラバーキャップ(指サック等)を被せて飛散を最小限に抑える工夫をするとよい。この点を除けば操作はシンプルで、普段のユニットと同様の感覚でペダルを踏み込めばよい。
排水タンクの扱いについても、頻繁に汚水を捨てる必要があるためコツがいる。満水センサーの音を聞き逃さないよう留意することと、患者数が多い日には適宜早めにタンクを空にする習慣をつけることが望ましい。例えば3人処置したら一度捨てる、といった目安を決めておけば、突然満水停止して慌てる場面を避けられる。脱着自体は簡単なので、休憩時間や移動前の隙間時間にこまめに実施すると安心である。また、汚水タンクは使用後に毎回きちんと洗浄・消毒し、乾燥させておくことで嫌な臭いや細菌増殖を防げる。収納時にタンク内が湿ったまま長時間放置しないよう、帰院後には必ず洗浄するルーティンを決めておくとよいだろう。
訪問先での設置場所も工夫次第で使い勝手が向上する。基本的には床に直置きして使用する設計だが、術者が立位で行う場合やベッドサイドで高さが欲しい場合には、小さめの踏み台や台車の上に載せて高さ調整すると楽になる。フタを開けた状態では上部のハンドルが使えないため、位置を動かす際は両側の取っ手を持って慎重に移動する必要がある。患者やベッドとの距離を微調整したい時にも、無理に引きずらず、一度電源を切って持ち上げて移動する方が安全である。軽量とはいえ精密機器なので、衝撃を与えないよう丁寧に扱うことが長持ちの秘訣となる。
最後に、トラブル対策として、導入後は消耗品や脆弱部品の予備を確保しておくと安心である。例えば「かれん」の場合、前面フタを支えるロック部品(プラスチック製の小さなパーツ)が破損しやすいことがユーザーから指摘されている。この部品はメーカーも弱点と認識しているようで、取り扱い注意の案内がある。念のため交換用のパーツを取り寄せてストックしておけば、万一折れてしまってもすぐに交換でき、診療の中断を防げる。また、バキュームの吸引ホースも頻繁な屈曲で亀裂が入る可能性がある。初期不良や保証期間内であれば無償交換も期待できるが、そうでない場合でも速やかに新品と交換できるよう、ホース径に合った代替品を準備しておくと良い。訪問診療は代替機器がすぐ用意できない状況も多いだけに、リスク管理として予備を持つことが望ましい。
適応する症例・場面と適さないケース
「かれん」の性能をもってすれば、多くの在宅歯科診療のニーズに応えられる。しかし万能ではないので、得意な領域と不得意なケースを知っておく必要がある。
適応が得意なケースとしては、まず高齢者や要介護者の口腔ケア全般が挙げられる。スケーラー内蔵で吸引もしっかり効くため、プラークや歯石除去、口腔清掃が効率よく行える。また、う蝕の充填や失活歯の修復にも威力を発揮する。例えば、自力通院困難な方の小さなう蝕を在宅でレジン充填してあげたり、折れた義歯の応急修理をその場で行ったりといったことが、従来より容易になる。訪問診療では「応急処置しかできない」と思われがちだが、「かれん」があれば外来に近い水準の治療を提供しやすくなる。特に、慢性疾患で定期訪問している患者に新たな虫歯が見つかった場合、次の通院まで放置することなく早期介入できる意義は大きい。
在宅終末期のケアにも適している。終末期の患者は口腔内が不潔になりがちだが、口腔ケアで誤嚥性肺炎を予防することが重要である。「かれん」の吸引は誤嚥リスクの軽減に役立ち、また吸引しながらの湿潤下で丁寧にブラッシングや清拭ができるため、苦痛や窒息の不安を和らげながらケアを提供できる。ポータブルバキュームが弱いと誤嚥の危険が増すが、その点で「かれん」の吸引力は安心感がある。
一方、適さないケースとしては、重度の外科処置や高度な補綴作業が挙げられる。例えばインプラント埋入や難抜歯、顎骨の骨造成といった外科手術は、訪問先の環境では衛生管理や患者モニタリングの面からも現実的ではない。そういった処置は無理せず医科歯科連携で病院等に委ねるか、患者の体調が許せば一時的に来院いただく方が良いだろう。また、長時間に及ぶ緻密な補綴作業(複雑な印象採得や咬合調整を要する場合など)も、患者の体勢確保や明視野の確保が難しい訪問先では効率が落ちる。「かれん」で対応すべきか迷う処置が出てきた際は、「ポータブル環境で患者に安全・快適に行えるか」「院内でやるのと比べ予後に影響はないか」を基準に判断するとよい。
また、訪問診療の頻度が非常に低い医院では、高額なユニットを宝の持ち腐れにしてしまう可能性がある。例えば年に数回程度しか往診しないのであれば、簡易的な器材(携帯用のバキュームや応急キット程度)で済ませ、必要な時だけ地域の訪問診療専門医に依頼するという選択肢も現実的だ。こうした場合、「かれん」を無理に導入するよりも、まずは訪問診療のニーズがどれほどあるか見極めてから検討しても遅くはない。
導入を検討すべき歯科医師タイプ別の指針
歯科医院ごとに診療方針や経営スタイルは異なる。「かれん」の導入判断も、一律に語れるものではなく、医院のタイプや重視する価値によって結論が変わってくる。ここではいくつか代表的なタイプの歯科医師像を想定し、それぞれにとって「かれん」が向いているかどうかを考察する。
保険診療中心で効率重視の先生
毎日多くの患者を診察し、保険診療の枠内で医院の収益を最大化したいと考えるタイプである。このような先生にとって、「かれん」は訪問診療の効率アップと収益源拡大のツールとなり得る。往診においてもチェアタイム短縮が図れ、一日に回れる患者数が増やせる。また外来では埋められない空き時間(お昼休みや夕方)の有効活用として、施設や居宅を回る訪問枠を設けることで生産性を上げられる。保険点数の高い訪問診療は医院全体の点数底上げに貢献し、効率経営に資する。よって効率最優先の先生にとって「かれん」は投資対効果が高く、導入を強く検討すべき製品と言える。
患者満足・包括ケア重視の先生
患者との信頼関係や生涯サポートを重視し、自費診療も保険診療も質を追求するタイプである。このような先生は、通院困難になった既存患者にも途切れないケアを提供する手段として「かれん」を位置付けられる。たとえ訪問診療が大きな収益にならなくとも、患者や家族から「最後まで診てもらえた」という満足と感謝を得ることはプライスレスである。また包括的な医療介護に関与することで、医院の社会的評価も高まるだろう。このタイプの先生にとって「かれん」は患者サービス向上のためのツールであり、その価値は金額に換え難い。経営効果の即効性よりも患者本位の医療実践を志向するならば、導入する意義は十分にある。
外科・専門治療が中心の先生
インプラントや矯正、難症例の外科など専門性の高い自費治療に注力しているタイプである。このような先生の医院では、訪問診療の需要自体がそれほど多くないかもしれない。さらに、専門治療は基本的に院内設備が整った環境でのみ提供可能なものが多い。そうした場合、「かれん」を購入しても稼働率が低く、コストに見合わない可能性がある。ただし、外科処置後のメンテナンス(例えばインプラント周囲炎のケア)や、矯正装置装着者のケアが在宅で必要になるケースでは、ポータブルユニットが役立つ場面もある。総じて専門治療中心の先生にとって「かれん」は優先度が低めと言えるが、地域の在宅ニーズに応えたいという思いがあるならば、共同利用やレンタル等で導入ハードルを下げて検討するのも一つの方法である。
訪問診療専門あるいは拡大志向の先生
現在すでに訪問診療に注力している、またはこれから本格的に往診サービスを拡大したいというタイプである。このケースでは、「かれん」はまさに必須の相棒となる。既に古いポータブルユニットを使っている場合でも、軽量で高性能な「かれんEZ」への更新は検討価値が高い。複数台体制で訪問チームを編成するなら、耐久性や保守のしやすさも重要であり、その点シンプル構造の「かれん」はメンテしやすく現場の声にも応えやすい。訪問診療専業のクリニックでは1日に十数名を回ることもあるが、「かれん」の軽さはスタッフの疲労を軽減し長時間の連続業務にも向いている。従ってこのタイプの先生には最もフィットする選択肢であり、導入しない理由が見当たらないほどと言える。
以上、自院の方向性に応じて「かれん」の必要性は変わってくるが、訪問診療を今後少しでも展開する意向があるならば、導入を前向きに検討して損はないだろう。使わない日は院内で予備ユニットや口腔ケア指導用として活用することもできるため、一台備えておく安心感は大きい。
よくある質問(FAQ)
Q「かれん」のバッテリー駆動時間はどれくらいか。性能に差は出るか。
A: フル充電した専用バッテリーで約1時間の連続使用が可能である。ただしバッテリー使用時は若干圧力やパワーが低下する傾向があると言われている。そのため、長時間の切削処置や吸引が必要な場合は、可能であればAC電源に接続して使用するのが望ましい。バッテリーは着脱可能なので、予備バッテリー(オプション)を用意しておけば、交換して継続使用することもできる。
Q 現在手元にあるタービンやエンジンがそのまま使えるか。専用のハンドピースが必要ないか。
A: 「かれん」は一般的な歯科用ハンドピースが使えるよう標準化されている。タービンは多くの場合2穴もしくは4穴のカプラー接続に対応し、また低速ハンドピース用にEタイプモーターの接続口が用意されている。したがって普段診療で使っているハンドピースをそのまま接続して使用できる。ただし、光ファイバー付きタービンの場合、ユニット側に光源はないためライト機能は作動しない。また、超音波スケーラーのハンドピース(振動子)については製品付属の専用品を用いる必要がある点に留意されたい。
Q 故障や不具合時のサポート体制はどうか。耐久性に不安はないか。
A: 日本アイ・エス・ケイ(旧キング工業)は国内の歯科機器メーカーであり、当然ながら保守や修理の体制は整っている。購入先の歯科ディーラー経由で修理依頼すれば、代替機の貸出や迅速なパーツ交換に対応してもらえる。耐久性については、可搬機器ゆえに乱暴な取り扱いをすれば破損リスクはあるが、通常の使用であれば長年問題なく稼働しているケースが多い。ただし前述したように、フタのロック部品や吸引ホースなど一部パーツは消耗しやすいため、日常的に点検し劣化が見られたら早めに交換することが望ましい。また、防湿・防塵のため、使用後はしっかり清掃・乾燥させてから保管することで寿命を延ばせる。
Q 実際に導入する場合、どのように情報収集・検討を進めればよいか。
A: まずはメーカー公式資料やウェブサイトでスペック情報や概要を確認するのが出発点となる。その上で、できれば歯科ディーラーに依頼して実機のデモを見せてもらうと良い。多くの場合、数日~1週間程度の貸出や、院内見学会での体験が可能である。実際に持ち運んでみて重量を確かめ、診療室内で模擬的に使ってみることで、サイズ感や操作感を把握できる。また、既に「かれん」を導入している同業の先生の話を聞くのも有益である。口コミや症例報告を調べたり、地域のスタディグループで意見を求めたりして、生の評価を集めると良いだろう。最後に、導入が決まったらスタッフ向けの取扱講習を受けたり、メーカーに問い合わせてメンテナンス方法についても確認しておくことで、安心して運用をスタートできる。