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訪問歯科は儲かる?訪問で働く歯科医師の年収相場はどれくらいなのか?

訪問歯科は儲かる?訪問で働く歯科医師の年収相場はどれくらいなのか?

最終更新日

訪問診療に踏み切れない現場の悩み

ある開業歯科医は、患者から「通院が難しい家族の治療をお願いできないか」と頼まれた経験がある。自院で対応しようと往診に出たものの、想像以上に準備と移動に時間を取られ、予約していた外来患者を待たせてしまった。訪問歯科診療は本当に儲かるのか? 労力に見合う収益が出るのか、自費治療に注力すべきか悩み、その歯科医は踏み切れずにいた。競争が激化する歯科医療業界で持続的に収益を上げるには、インプラントなど高額自費だけが道ではないかもしれない。実は超高齢社会のニーズに応える訪問歯科診療こそ、安定した収益源になり得る可能性がある。

本記事では、訪問歯科の臨床面・経営面のメリットと限界、収益構造や年収相場を解説し、明日から意思決定に活かせる実務的な視点を提供する。

要点の早見表:訪問歯科診療の収益と運用

視点要点まとめ
臨床上のメリット通院困難な高齢・要介護患者にも歯科医療を届けられる。定期的な訪問により口腔衛生を維持し、誤嚥性肺炎の予防など全身の健康管理に寄与する。治療だけでなく食事や嚥下機能へのサポートを含め、患者の生活の質(QOL)向上に貢献できる。
臨床上の制約往診先では使用機材や環境が限られるため、外科処置や高度な機器を要する治療は難しい。緊急時の対応も院内に比べ制限される。嚥下障害や全身状態の悪い患者が多く、誤嚥や体調急変への備えが必要である。感染対策や器材の滅菌管理にも一層の注意が求められる。
経営面のメリット定期的な訪問により患者を継続確保でき、ストック型の安定収入につながる。訪問診療部門の利益率は30~50%とされ、一般的な外来診療(利益率20%前後)より高い傾向が報告される。院内のチェア数や診療スペースに制約されずに収益を拡大できる点も魅力である。
経営面の課題移動時間や人件費を含めた効率的な運用が不可欠。1件ごとの訪問に時間がかかりすぎると採算割れになりやすく、訪問エリアは医院から半径16km以内(保険適用上の目安)に限定するのが望ましい。人員不足だと1人当たりの訪問回数を減らさざるを得ず、収益機会のロスにつながる。
収益性のポイント訪問診療1回あたりの収入は保険点数で算定され、患者1人のみ訪問なら1100点(1点=10円)前後と外来と遜色ない。複数の患者を同日同施設で診れば1人あたりの点数は減るが一度に多数を診る効率化で補える。訪問診療専門の施設基準を届出すれば在宅療養管理料などの加算も算定可能。運用次第で年間2,000万円以上の売上を上げる医院もあり、軌道に乗れば大きな収益源となり得る。
年収相場(歯科医師)訪問診療に従事する歯科医師の年収は概ね700万~1,200万円程度とされる。常勤求人では月給60~100万円前後(賞与別)と提示される例が多く、一般的な歯科医師の平均年収(600~700万円前後)を上回る水準である。歩合制よりも固定給が主流で、訪問先の地域差による不公平を避けつつ高めの給与条件で募集する傾向がある。
必要な初期投資訪問用のポータブルユニット(可搬型の歯科用診療セット)やポータブルエックス線装置、往診車両の準備が必要。機材一式に数十万~数百万円程度と、院内に新たなユニットを増設するよりは低コストで開始できる。既存の器具類を活用し、消耗品や滅菌器材をポータブルに揃えることで初期投資を抑えられる。
人的リソース体制一般的に訪問チームは歯科医師1名+歯科衛生士2~3名が望ましいとされる。歯科衛生士が20分以上かけて口腔ケアや保健指導を行うため、1日に診療できる件数には上限がある。複数名の衛生士が交代で対応すれば1日あたりの訪問件数を増やせるが、人手不足だと訪問件数確保が難しくなる。運転や機材準備、レセプト入力等の事務も含めチームで動く必要がある。
運用の鍵訪問先を集中的に確保し、移動あたりの診療件数を最大化することが収益化の鍵である。介護施設で10人以上まとめて診る場合など効率は良いが、2024年の報酬改定で同一施設多数診療時の単価がやや下がったため、在宅単独の患者も含めバランスよく訪問先を開拓する必要がある。地域のケアマネージャーや病院と連携し紹介を得ることで稼働率を高める。訪問診療の専門体制を整え、関連する加算要件(在宅療養支援歯科診療所の届出など)を満たすことで収益性をさらに向上させられる。
導入判断のポイント地域の高齢人口や要介護者数、自院の患者からの潜在ニーズを調査し、採算ラインとなる訪問件数を試算することから始める。例えば医院から20分圏内に介護施設が複数あるか、自院の80歳以上の患者カルテを洗い出して在宅希望がどの程度見込めるかを把握する。初期は院長自身が週1回午後のみ訪問するなど小規模にテストし、需要に応じて専任チームの配置や設備増強を検討する。無理に拡大して外来が手薄になれば本末転倒であるため、段階的に体制整備することが重要である。

臨床面と経営面から訪問歯科を理解する

訪問歯科診療は、臨床的な意義と経営的なメリットが表裏一体になっている。臨床面では「通院できない患者にも口腔ケアを提供する」という社会的使命があり、その達成が患者満足や地域医療への貢献につながる。経営面では、それを支える報酬体系や事業モデルが整備されつつあり、うまく運用すれば外来診療に次ぐ収益の柱となり得る。以下、臨床と経営の軸で訪問歯科を捉え、なぜ収益性が確保できるのか、どんな課題があるのかを解説する。

まず臨床的な視点では、訪問先での治療は通常の歯科診療に比べ制約が多い。ポータブル機材で対応可能な範囲の処置(虫歯処置、義歯調整、口腔ケアなど)が主であり、外科的処置や高度な画像診断は困難だ。それでも患者にとっては「自宅や施設で診療を受けられる」利便性と安心感は大きい。定期的な訪問によって口腔内の衛生状態を維持できれば、誤嚥性肺炎や栄養状態悪化のリスクを下げ、結果的に患者の寿命やQOLを支える効果が期待される。このように訪問歯科には医療としての社会的価値が明確に存在する。

一方、経営的な視点では、訪問歯科を軌道に乗せることで得られる収益の特徴は「定期性」と「高利益率」である。往診が必要な患者は慢性的にケアを要するケースが多く、月1~4回の定期メンテナンスや義歯調整など継続的な診療機会が生まれる。外来のように新患獲得に奔走しなくても、既存患者の定期訪問でストック型の売上が積み上がっていく点が魅力である。また設備投資や施設維持費が外来ほどかからず、在宅診療料や管理料といった保険収入が安定して得られるため、利益率が比較的高くなる傾向がある。ただしその反面、人件費や移動コストの管理、患者数の確保といった運営上の課題も存在する。次章以降で詳しく述べる各トピックは、こうした臨床価値と経営効率を両立させるためのポイントである。

訪問歯科の対象患者と提供できる医療

訪問歯科診療の対象となるのは、「自力で歯科医院に通院できない人」である。典型的には高齢者や要介護者で、寝たきりや車椅子生活を送っている患者、認知症で外出が難しい患者、重度障害や難病で移動困難な患者などが該当する。年齢制限はなく若年でも事故や病気で外出不能なら対象になり得るが、実際には高齢者が大半を占める。訪問歯科はこのような患者に対し、自宅や介護施設で歯科医療を提供するものだ。

提供可能な診療内容は、基本的に外来で行う一般歯科治療と大きくは変わらない。虫歯の充填や簡単な抜歯、歯周病の処置、義歯(入れ歯)の作製・調整・修理、口腔清掃(プロフェッショナルケア)など広く対応できる。近年はポータブルのタービンや超音波スケーラー、ポータブルX線撮影機器も整備され、往診先でも一定水準の治療が可能である。ただし、訪問先での処置には限界もある。例えば外科的抜歯やインプラント手術のような大掛かりな手技は設備・衛生環境の制約から困難であり、全身状態によってはリスクが高い。重度の虫歯でも訪問先では抜歯や簡易的な処置にとどめ、難症例は入院設備のある病院歯科や口腔外科に紹介することも選択肢となる。

また訪問歯科診療では、単なる治療行為に留まらず包括的な口腔ケアや生活支援を行う点が特徴的である。具体的には、歯科衛生士による定期的な口腔清掃や歯磨き指導、嚥下体操の指導、食事内容についてのアドバイスなど、患者の生活に踏み込んだ指導を提供する。これにより口腔機能の維持向上や誤嚥性肺炎の予防に貢献する。まさに「口から食べる喜びを守る」医療として、訪問歯科は在宅療養を支える重要な役割を担っている。

対象患者の選定について留意すべき点は、患者本人や家族の希望だけでなく保険制度上の要件があることである。歯科訪問診療料の算定上、患者が「真に通院困難であること」が必要とされ、原則として現在通院可能な人は対象にならない。例えば要介護認定を受けている、自宅療養中で医科の往診を受けている、といったケースでは訪問歯科の適応となる。一方で、まだ通院可能な軽度の患者を安易に往診で診ることは認められておらず、保険請求上も制限がある。このため訪問診療を行う歯科医師の適切な判断が求められ、場合によっては主治医やケアマネージャーと相談の上で対象か否かを決めることになる。

訪問歯科診療の標準的な流れと品質確保

訪問歯科のワークフローは、外来診療とは異なる準備と手順を踏む。一般的な流れとしては、まず訪問日時の調整と事前連絡を行い、当日は必要機材をすべて車両に積み込んで患者宅や施設へ移動する。訪問先に到着したら患者や介護者に挨拶し、診療スペース(ベッドサイドやポータブルチェア)の確保と機材の設置を行う。ポータブルユニットを展開し、吸引機や照明、必要に応じポータブルX線装置をセットする。感染予防のためディスポ手袋やエプロンを着用し、清潔操作の環境を確保してから口腔内の診査・治療に入る。診療後は使用器材の回収・廃棄物の持ち帰り、口腔内状況や処置内容の記録を行い、介護者への口腔ケア指導や今後の訪問計画について説明して退出する。クリニックに戻ってからカルテ入力やレセプト請求処理、器材の消毒・滅菌を実施し、一連の訪問診療サイクルが完了する。

このように準備と片付け、移動に時間を要するため、1件あたりの訪問診療には外来より長い総所要時間を見込む必要がある。複数の訪問を効率よくこなすには、地理的な動線とスケジュールの最適化がカギとなる。例えば午前中に介護施設で数名まとめて診療し、午後に在宅患者を2~3名訪問するといったように、移動距離と訪問先数のバランスを考慮して予定を組む。訪問件数を増やそうと欲張りすぎても移動で疲弊し時間に追われるだけなので、無理のない範囲で1日の訪問件数目標を設定することが大切である。

品質確保の要点としては、まず院内と同等の感染制御と器材管理を徹底することが挙げられる。滅菌パックに入れた器具を患者ごとに準備し、使い捨て可能なものは極力ディスポーザブル製品を使う。往診先で出た汚染物は持ち帰り廃棄・洗浄するルールを作り、診療毎に機材の清拭消毒を行う。口腔内バキュームが弱くエアロゾルが拡散しやすいため、吸引装置の先端を患者に近づける工夫や、防護具の着用などで院内感染と同様の配慮をする。また、診療記録の精度も重要だ。訪問診療では患者の全身状態や介護環境も含めて観察事項が多く、処置だけでなく食事状況や口腔ケアの実施状況などを書き残す必要がある。施設職員との情報共有も兼ね、毎回の訪問で口腔内所見や指導内容を記録・報告する体制を整えることで、診療の質と継続性を担保する。

さらに、訪問診療にはチーム医療としての連携が不可欠である。歯科医師と歯科衛生士が同行している場合、診療中は互いに役割分担し効率を上げる。例えば歯科医師が診察・処置を行っている間に、他の部屋で歯科衛生士が別の患者の口腔清掃を進める、といった並行作業も可能である(ただし同一建物内で複数患者を診る際の算定ルールに注意)。また介護スタッフや訪問看護師とも協働し、摂食嚥下の問題や全身状態の変化について情報を交換することで、より安全で適切なケアが提供できる。訪問歯科チーム内では定期的にカンファレンスを開き、訪問スケジュールやケア方針を確認・改善していくことが望ましい。こうした運用上の工夫により、院外であっても院内同様の安全かつ質の高い歯科医療サービスを提供することができる。

訪問診療における安全管理と患者説明

在宅や施設での診療は診療環境が制御しにくく、院内以上にリスクマネジメントへの配慮が求められる。まず医療安全上の留意点として、訪問先で患者の容体が急変した場合の対応を考えておかなければならない。高齢患者では血圧の変動や誤嚥、低血糖発作など不測の事態が起こり得る。訪問前に既往歴や内服薬、主治医情報を把握し、必要に応じて血圧計やパルスオキシメータを携行してバイタルサインを確認する。万一の緊急時には速やかに救急搬送を手配できるよう、訪問エリア内の救急受け入れ病院の連絡先や経路を把握しておく。また単独訪問ではリスクが高いため、歯科医師と歯科衛生士の2名以上で訪問し、緊急時に互いに対応・連絡できる体制を取ることが望ましい。

器材・薬剤の安全管理も重要だ。訪問診療では使える器材が限られるため、酸素ボンベや救急蘇生セット、アナフィラキシーショックに備えたエピネフリン自己注射薬(エピペン)などを携行している歯科医師もいる。特に局所麻酔薬使用時や、嚥下反射の低下した患者の処置時には細心の注意が必要である。吸引装置を準備し誤嚥に対処できるようにし、気道確保の知識も身につけておく。また、ポータブルX線撮影を行う際は被曝リスクの説明と防護が欠かせない。具体的には鉛当量エプロンの使用、介護者や他の入居者への退避依頼、照射条件の最適化など、院内以上に周囲への配慮を行う。放射線機器は医療用具として管理し、訪問先での撮影は必要最低限に留めつつ診断精度とのバランスを図る。

患者・家族への説明責任についても、訪問歯科では独特のポイントがある。まず費用に関しては「訪問歯科診療でも原則として保険が適用され、通院と同程度の自己負担で受けられる」ことを丁寧に伝える必要がある。多くの患者家族は「往診は高額では?」と不安を抱くため、保険点数の仕組みをかみ砕いて説明し、交通費などの追加負担が基本的に発生しないことを強調すると良い(※歯科訪問診療料には出張費が含まれており、患者への別請求はない)。例えば1割負担の高齢者であれば、訪問基本料のおよそ110円~400円程度(訪問人数による)+処置料の負担で済むケースが多いことを具体的に示すと安心される。

また訪問診療開始前には同意取得も行う。治療方針や想定されるリスク、応急対応策について患者本人と家族に説明し、口頭または文書で同意を得る。特に寝たきりの患者で意思疎通が難しい場合は、家族や代理人にも十分理解してもらうことが重要だ。義歯作製や抜歯など比較的大きな処置を行う際も、外来以上に事前説明と同意を慎重に行う。加えて、口腔ケア目的での定期訪問では「治療」よりも「予防・維持」が中心になるため、その意義を伝えて協力を求める必要がある。「口腔ケアを継続することで肺炎予防につながり、結果的に医療費や介護負担の軽減になる」というエビデンスも共有し、患者本人のモチベーションを高める工夫も有効だ。

最後に個人情報の取り扱いにも留意しなければならない。訪問診療ではカルテや処方情報を院外に持ち出す場合があるため、情報漏洩対策を講じる。具体的には患者資料は施錠可能なケースに入れ、移動中は第三者の目に触れないようにする、電子カルテを利用する場合はVPNや暗号化通信で安全に接続する、といった措置が望ましい。患者宅での会話もプライバシーに配慮し、特に施設では他の入居者に聞かれないよう注意する。以上のように、安全管理と説明責任を全うすることが、訪問歯科診療の信頼性を支え、ひいては医院の評価向上にもつながるのである。

訪問歯科診療の収益構造と費用

訪問歯科が「儲かる」と言われるゆえんは、その収益構造が適切にデザインされているからである。収入の柱となるのは公的医療保険および介護保険からの診療報酬であり、具体的には歯科訪問診療料・訪問歯科衛生指導料・居宅療養管理指導料などが主要な項目となる。これらはいずれも点数表に基づき算定されるが、特徴的なのは患者数や訪問先の形態によって点数が変動する点である。

例えば、1日のうちに同じ建物で1人の患者だけを診療した場合、歯科訪問診療料として1100点前後が算定できる(20分以上の診療を行った場合)。一方、同じ日に同一建物で複数人を診療すると、2~3人の場合は1人あたり約410点、4~9人なら1人あたり約310点、というように人数に応じて1人あたりの単価が下がる仕組みになっている。ただし患者数が増えれば総計としての収入は増えるため、可能な限り一度の訪問で複数の患者を診るほうが効率的だ。例えば介護施設で1日8名の入居者を診療すれば、おおまかに計算して訪問基本料だけで8人×310点=2,480点(24,800円相当)を1日のベース収入として得られることになる。これに各種処置の点数や加算(後述)を加えたものが実際の収益となる。

介護保険からの収入も訪問歯科の重要な柱である。要介護認定者に対しては、月2回まで歯科医師による居宅療養管理指導(いわゆる在宅患者歯科医療管理料)を算定でき、これが1人あたり月数百点(数千円相当)になる。また歯科衛生士による口腔衛生管理(訪問歯科衛生指導料)も月4回まで算定可能で、こちらも人数に応じて単価が変わるが、定期的な収入源となる。褥瘡予防でのポジショニングや栄養指導など他職種との連携による加算も含め、訪問診療は複合的な報酬の積み重ねで成り立つ。自費診療が少ない代わりに、小さな保険点数を積み上げて安定収入を図るモデルといえる。

加算や特別な報酬にも触れておこう。訪問診療を行う診療所が所定の体制を整え都道府県に届出をすると、「在宅療養支援歯科診療所」の施設基準を満たすことができる。これにより初回訪問時の在宅歯科医療初期加算や、緊急時の電話相談体制がある場合の体制加算、地域医療連携加算など、複数の加算点数を算定可能となる。さらに2024年の診療報酬改定では、新たに「口腔機能管理体制強化加算」など高齢者の口腔管理に関する評価も創設され、在宅高齢者への継続管理が重視される流れだ。これらを適用すれば訪問1件あたりの売上単価を底上げできるため、届出可能な加算は漏れなく取得することが経営上重要となる。

収入面だけでなく、コスト構造にも目を向ける必要がある。訪問歯科特有のコストとしては、まず人件費が挙げられる。歯科医師・歯科衛生士・運転兼助手と複数名でチームを編成するため、人件費総額は外来診療より増える傾向がある。しかし一方で、訪問診療は診療チェアやユニットの追加設置を必要としないため、大規模な設備投資やテナント費用は増えない。在宅診療用の機材費も先述のとおり数百万円程度あれば主要なものは揃う。往診車についても、自家用車を転用できる場合は新規購入費は不要である。燃料代や駐車場代など移動コストもあるが、1日の訪問件数を確保して1件あたりに按分すれば許容範囲に収まることが多い。

また、訪問診療では材料費が比較的低く抑えられる面もある。重度処置が少ないため高額なインプラント体やセラミックを扱うことはまれで、主な材料はレジンや義歯関連材料、口腔ケア用品などになる。患者層的に自費治療がほぼ出ないため材料収支はシンプルで、材料費率(材料費/収入)は一般歯科より低いケースが多い。ただし義歯を多数作製する場合は技工所への外注費がかさむ点には留意が必要である。

総じて、訪問歯科の収益性は「人件費増 vs. 診療収入の安定増」のバランスにかかっている。効率よく稼働すれば人件費を差し引いても利益率は高く、コスト構造の面でも有利に働く。ただし患者数確保に手間取ったり移動非効率が生じたりすると、人件費倒れになってしまうリスクもある。実際、1件の訪問に片道1時間かけていたようなケースでは、外来診療より収入が下がったとの報告もある。そのため「訪問エリアはクリニックから車で20~30分圏内に限定」「1日の訪問件数〇件以上で初めて専任スタッフを配置」といった採算ラインの基準を予め定めておくことが重要となる。

訪問歯科医師の年収相場と給与体系

訪問歯科診療に従事する歯科医師の年収はどの程度になるのか。これは勤務形態(自院の院長として収益を得る場合と、訪問歯科専門の勤務医として給与を得る場合)によっても異なるが、おおよその相場を紹介する。

まず、訪問歯科専門の勤務歯科医師の場合、求人情報などから推測される月給は60万円~100万円前後が一つの目安である。年間にすると720万~1,200万円程度となり、一般的な勤務歯科医師の平均年収より高めの水準だ。厚生労働省の統計によれば、歯科医師全体の平均年収は概ね600~700万円台(男性医師で650万円前後、女性医師で500万円台)と報告されている。これに比べると訪問歯科の求人条件は高収入帯に属しており、人手不足も背景に給与水準を上げてでも人材を確保したい雇用主側の意図が伺える。実際、「週5日勤務・訪問診療のみ担当・月給80万円以上保証」といった厚待遇の募集例も散見され、訪問分野でキャリアを積む歯科医師にとっては魅力的な市場となっている。

訪問歯科医師の給与体系については、一般外来の勤務医にみられるような歩合給制(出来高制)はあまり採用されていない傾向がある。理由の一つは、訪問診療では担当エリアや患者層によって1日の診療可能人数が大きく異なり、公平な評価が難しいためだ。また保険点数の仕組み上、処置を増やすことより訪問件数を増やすほうが収益に直結するため、出来高より固定給のほうがモチベーション管理に適しているという側面もある。そのため、多くの訪問歯科クリニックでは基本給+訪問手当やインセンティブ少々という安定志向の給与体系を敷いている。勤務医にとっては毎月安定した収入を得つつ、訪問件数増加に応じた手当で報われる仕組みで働きやすい。一方で経営者にとっては、高めの固定給を設定しても十分利益を出せるだけの収益モデルを組めるかが課題となる。

では、開業医自身が訪問診療を行う場合の収入はどうだろうか。この場合、訪問部門の利益はそのまま院長の取り分(事業収益)となるため一概に比較はできないが、仮に訪問診療だけで年間2,000万円の保険収入を上げ、経費を差し引いて40%の利益率を確保できたとすれば、800万円の利益=院長収入を生み出す計算になる。これは外来で同等の利益を得ようとすると自費診療を相当数こなす必要がある水準であり、訪問診療の収益ポテンシャルの高さを示している。ただし開業医の場合、訪問に手を広げすぎて院内の収益が落ちては本末転倒なので、訪問と外来の収入バランスを見ながら全体として院長収入を最大化する戦略が求められる。

また、副業やスポットで訪問診療に従事するケースもある。非常勤で週1~2日だけ訪問専門クリニックに勤める働き方や、外来診療の傍ら近隣の訪問専門機関と契約して往診を請け負う、といった形態である。この場合の日給相場は2.5万~5万円ほどとされ、仮に週1日勤務でも月10日×3万円=30万円程度の副収入が得られる計算になる。開業医が空き時間に訪問診療を手伝って収入を補完するケースもあり、人手不足の訪問分野では歓迎される働き方だ。ただしスポット勤務だと患者継続管理が難しくなる側面もあるため、本業との両立には留意が必要である。

総じて、訪問歯科に取り組む歯科医師の年収は高めの水準に位置しており、特にフルコミットすれば1,000万円超えも十分射程に入る。一方で高収入に見合う体力・気力やマネジメント力も求められる点には注意したい。訪問診療は決して楽な仕事ではなく、現場は肉体労働や地道なケアの連続である。その現実を踏まえつつ、やりがいと収入の双方を得られるフィールドとして訪問歯科を選ぶ価値は十分にあるだろう。

外注・共同利用・自院導入の選択肢比較

訪問歯科診療への対応について、医院としてはいくつかの選択肢が考えられる。自院で訪問診療部門を導入する以外にも、専門機関へ外注(委託)する方法や、地域の他院と共同で取り組む方法があり、それぞれメリット・デメリットが存在する。

まず外注(訪問専門機関への紹介)という選択肢。これは自院では訪問を行わず、通院できなくなった患者が出た場合には地域の訪問歯科専門クリニックや大学病院の在宅歯科部門に紹介する形である。利点は自院スタッフの負担を増やさずに患者ニーズに応えられる点だ。往診用の設備投資も不要であり、本業の外来診療に専念できる。ただし、患者をごっそり紹介してしまうことで収益機会を逃すことになるのは明らかである。また紹介先での診療内容や費用について自院がコントロールできず、患者から問い合わせが来ても対応しにくい。何より、一度紹介した患者はそのまま紹介先にカルテが移り、自院の収入にはもう貢献しなくなる可能性が高い。このため単発的な対応には使えても、長期的な経営戦略としては外注は消極策と言える。

次に共同利用(連携)の方法。例えば地域の数軒の歯科医院で訪問診療チームを共同で組織し、持ち回りで在宅患者を診るような形態である。あるいは歯科医師会や医師会が主体となって訪問診療ネットワークを作り、参加各院から人材を出し合ってエリアの訪問需要に応えるケースもある。このメリットは、一院あたりの負担を軽減しつつ訪問診療を提供できる点にある。週に1回ずつ担当日を決めて訪問チームを回せば、各院は週1日の労力で済む。機材も共同で購入・シェアすればコスト削減になる。しかしデメリットとして、収益の配分や責任の所在が不明瞭になりやすいことが挙げられる。患者をどの医院の収入とするか、トラブル発生時に誰が責任を負うか、といった問題は事前の綿密な取り決めが必要だ。またチームの意思統一や情報共有にも手間がかかり、属人的な対応になりがちな訪問診療では難しい面もある。それでも地域包括ケアの観点から、今後は歯科医師会主導でこうした共同訪問体制が整備される可能性もある。

そして自院で訪問診療を導入する場合だ。これは本記事で中心に論じてきたように、収益面でも社会的評価の面でも最もリターンが大きい選択肢である。自院の患者を最後まで診られることで患者満足度が上がり、口コミや紹介にもつながる。前述の通り収益性も高く、軌道に乗せれば医院全体の売上・利益を底上げできる。ただ当然ながらリスクとコストは自院で負担する必要がある。専任スタッフを雇用するなら人件費が固定費としてのしかかるし、患者確保が思うようにいかなければ赤字にもなり得る。訪問診療に割く時間の分、院長の外来売上が減る可能性もある。それゆえ「まず小さく始めて手応えを測る」「採算が取れる見通しが立つまで非常勤対応で凌ぐ」などのステップを踏むと安全策となる。

総合的にみれば、訪問診療は自院で取り組む価値が高いものの、地域によっては需要が限られることもあるため、ゼロから大きく投資するのは慎重に判断すべきである。一案として、最初は既存患者のフォロー程度に留め、外注先とも連携しながらノウハウを蓄積し、軌道に乗りそうな手応えを得たら本格参入するという段階的戦略が有効だ。また、同じ地域で訪問を積極展開している他院があるなら、その院長に共同出資で訪問専門の分院を作る提案をしてみるのも面白いかもしれない。いずれの方法にせよ、患者に継続的な口腔ケアを提供するという大義を共有しつつ、自院の経営として最良の形を模索することが大切である。

よくある失敗パターンとその回避策

訪問歯科診療の導入に失敗したケースには、いくつか共通のパターンが見受けられる。ここではよくある失敗例を紹介し、その回避策を考えてみたい。

【失敗例1】「需要過小なのに人員と設備を抱えすぎた」

ある歯科医院では、院長が訪問診療に将来性を感じフルセットの機材と専任の常勤衛生士2名を雇用してスタートした。しかし開業エリアは都市部で徒歩圏に高齢者は少なく、訪問患者は思うように増えなかった。結果として高い人件費を売上でカバーできず、数年で訪問部門を縮小することになった。
回避策: 需要の過大見積もりは禁物である。地域の人口動態(高齢者数、要介護認定者数、介護施設数)や競合状況を事前によく調査し、小規模に始めて段階的に拡大するのがセオリーだ。初めから常勤を複数人雇うのではなく、非常勤や時短勤務でスタッフを確保し、患者数の増加に応じてシフトを拡充する。設備投資も最初は必要最低限に留め、高額機器はレンタルや中古活用も検討すると良い。

【失敗例2】「訪問件数を欲張りすぎてサービス低下」

別の医院では、訪問で儲けようとするあまり1日8~10件もの過密スケジュールを組んだ。ところが移動に追われて各宅での滞在時間が短くなり、十分なケアや説明ができなくなった。患者からは「慌ただしく診察され不安だ」と不満が出て、結果として患者離れが起きてしまった。
回避策: 質を犠牲にした量の拡大は本末転倒である。訪問診療では患者や家族とのコミュニケーション、きめ細かなケアが信頼関係に直結するため、時間に追われる体制は避けるべきだ。1件あたり少なくとも30~40分の枠を確保し、余裕を持ったスケジュールを組む。訪問件数の目標は重要だが、クレーム発生は事業継続の妨げになるため「サービスの質あっての量」である点を常に意識することが大切だ。

【失敗例3】「スタッフの負担増大と離職」

訪問診療を始めたものの、院長は外来で手一杯で訪問は全て担当歯科医と衛生士に任せきり。往診車の運転からカルテ入力、ケアマネとの連絡調整まで現場スタッフが抱え込んだ結果、疲弊して離職してしまった。その後人材補充ができず訪問を続けられなくなった。
回避策: 人的リソースに余裕がない中で訪問を始めると、確実に現場スタッフへしわ寄せがいく。院長自身も可能な範囲で訪問業務に関与し、スタッフの負担を把握することが重要だ。また、事務作業や連絡調整は院内の受付スタッフが分担するなど、チームで業務をシェアする工夫をする。運転についても、場合によっては専用ドライバーをアルバイト雇用して衛生士の負担を減らすなどの手立てがある。スタッフがやりがいと達成感を持って働ける環境を整えないと、せっかく育てた人材を失いかねない。

【失敗例4】「施設との関係悪化で契約打ち切り」

熱心な院長が大型の介護老人保健施設と契約し、毎週訪問して多くの入居者を診療していた。しかしあるとき施設との調整ミスから訪問日程が二重予約になり、クレームを受けた。さらに口腔ケアの範囲を巡って施設看護師との連携がうまくいかず、契約更新時に他の歯科に切り替えられてしまった。
回避策: 介護施設との関係構築は訪問歯科成功の鍵であり、信頼を損ねると一度に多数の患者を失うリスクがある。施設との連絡はこまめに行い、訪問日時や診療内容のすり合わせを緊密にする。スタッフ間の役割(例えば施設職員が行う日々の口腔ケアと歯科衛生士が行う専門ケアの分担)を明確にし、相手の業務を尊重しながら支援する姿勢を示すことが大事だ。定期的に施設側からフィードバックをもらい、不満や要望には迅速に対応することで信頼関係を維持できる。

以上のような失敗は、裏を返せば適切な計画とコミュニケーションで防げるものばかりである。「小さく始めて徐々に拡大」「無理な欲張りはしない」「人と組織を大切に」「関係者と密に連携」——この基本を押さえて進めれば、訪問歯科診療で大きな失敗を犯すリスクは格段に下がるだろう。

導入判断のロードマップ

それでは、実際に訪問歯科診療の導入を検討する際、どのようなステップで判断・準備を進めればよいのか。ここでは開業医が訪問診療を新規に立ち上げるケースを念頭に、意思決定のためのロードマップを示す。

【Step1】地域ニーズと自院患者ニーズの把握

まずは外部と内部、双方の需要を調査する。地域の高齢化率や要介護認定者数、近隣の介護施設・高齢者住宅の分布などを調べ、潜在的な訪問診療ニーズを推計する。自治体の介護保険課や地域包括支援センターに問い合わせれば、高齢者人口や在宅療養者数の統計データが得られる場合もある。同時に、自院の患者データも活用する。過去のカルテから高齢患者(例えば80歳以上)を抽出し、近頃来院が途絶えている人はいないか確認する。数年間通院していない高齢患者は、通院困難になっている可能性が高い。そうした患者に電話や手紙で訪問診療対応可能な旨を案内すれば、一定数はニーズの掘り起こしができるだろう。この内外の需要調査によって、「月○件くらいの訪問依頼が見込めそうだ」という感触を得るのが第一歩である。

【Step2】採算ラインの試算

次に、どの程度の訪問件数や患者数を確保できれば黒字化できるか試算する。想定する訪問エリアや患者層に基づき、1訪問あたりの平均点数(収入)を見積もる。例えば在宅単独が多ければ1件あたり2~3万円、施設中心なら1件あたり5~6万円など、ざっくりモデルを作る。次に、それをもとに月間の収入予測を立てる。仮に月20件の訪問で月収50万円、40件で100万円…といった具合だ。一方、支出面では追加で必要な人件費(非常勤報酬や手当)、機材償却費、交通費などを洗い出し、月○件の訪問で損益分岐というラインを導く。例えば非常勤の衛生士に週2日訪問を任せるなら月8万円、機材減価償却5万円、交通費その他で2万円として計15万円の固定費が増える、といった計算である。すると月20件(収入50万)なら十分黒字、10件(収入25万)でも採算トントン、といった目安が見えてくる。この損益シミュレーションを行うことで、安全に事業継続できる件数目標が明確になる。

【Step3】 診療体制・スケジュールの設計

需要と採算の見込みが立ったら、具体的に「誰が」「いつ」訪問診療を行うか計画する。院長自らが週に特定の曜日・時間帯を訪問に充てるのか、あるいは非常勤の歯科医師や歯科衛生士を雇用するのか。現有スタッフで対応するなら、外来の予約枠を調整して訪問時間を捻出する必要がある。例えば毎週水曜の午後は外来休診にして訪問枠とする、土曜の昼休み時間を利用して近隣の施設1件だけ往診する、などスケジュールを具体化する。また、訪問先の種別(在宅 vs 施設)によっては対応の仕方も変わる。施設訪問なら平日昼間にまとめて回るのが効率的だが、在宅患者は家族在宅の都合で夕方や土曜を希望することもある。そうした要望も踏まえつつ、おおまかな訪問曜日・時間帯を決めていく。さらに、訪問チームの人員構成も検討する。最初は歯科医師1名+歯科衛生士1名のペアで始め、患者増に応じて衛生士を追加するなど、段階的な増員計画を用意しておく。

【Step4】関係各所へのコンタクト

訪問診療は自院だけでは完結せず、地域の医療・介護関係者との連携が極めて重要だ。そこで本格始動前に、関係先にあらかじめ挨拶と連絡をしておくことが望ましい。具体的には、地域包括支援センターの担当者や在宅療養支援診療所(在宅医)の医師、近隣の訪問看護ステーション長、介護施設の施設長やケアマネージャーなどに「訪問歯科を始める予定である」ことを伝え、協力をお願いする。地域によっては歯科医師会が在宅療養の連絡会を設置している場合もあるので、そうした場に参加するのも良いだろう。事前にネットワークを築いておくことで、開始後にスムーズに患者紹介を受けたり、医科との情報共有がしやすくなったりするメリットが大きい。また自院の患者や近隣住民に向けても、訪問診療の案内チラシを配布したり院内掲示を行ったりして周知を図る。ホームページや地域情報誌にお知らせを載せるのも有効だ。「往診可能エリア」「対応可能な内容」「問い合わせ先」などを明記しておき、問い合わせに備える。

【Step5】機材・物品の準備と体制構築

実施直前の準備段階では、必要な機材や物品を揃える。ポータブルユニット、滅菌済み器具のセット、携帯用バキューム、応急処置用薬剤、訪問診療用のカルテ様式(またはタブレット端末)など、リストアップして不足を満たす。メーカーやディーラーに相談すれば訪問歯科用の器材セット提案を受けられるので、見積もりを取り比較検討するとよい。あわせて、院内のオペレーション整備も行う。訪問用の器材・薬剤をどこに保管し、誰が準備・片付けを担当するか、滅菌物の管理フローはどうするか、といった細部を決めておく。緊急連絡網の整備、往診車の駐車場契約、カルテの持ち出し方法の確認など、実務的な取り決めをスタッフと共有する。また、保険請求のルールも複雑なため、レセプト担当者が訪問診療の算定要件を理解しているか確認する。算定漏れやミスがないよう、初回は点数表を参照しながら慎重に請求事務を行う。場合によってはレセコン業者に相談し、訪問診療の入力方法をレクチャーしてもらうと安心である。

【Step6】トライアル運用と改善

準備が整ったら、いよいよ訪問診療を開始する。とはいえ最初からフルスロットルで患者を抱え込むのではなく、試行期間を設けて少数の患者から始めるのが良い。例えば最初の1~2か月は既存患者2~3名のみを訪問し、スタッフの動きや算定、記録の取り方などを実際にやってみる。このトライアル運用で問題点や効率化の余地が見つかれば、逐次改善する。移動ルートの見直しや器材チェックリストの整備、院内との連絡方法の再考など、小さな修正を積み重ねてオペレーションを洗練させる。患者や家族からのフィードバックも積極的に集め、「もっとこうしてほしい」という要望には可能な範囲で応える。一定の自信がついた段階で、新規患者の受け入れを本格化させていく。ケアマネージャー経由の紹介患者を受け入れたり、宣伝を本格化したりして患者層を広げ、計画した件数目標の達成を目指す。

【Step7】定期的な評価と戦略調整

開始後も定期的に訪問部門の状況を評価し、戦略の見直しを図ることが重要だ。毎月の訪問件数・患者数、収入額、経費、人件費率、利益率などのKPIをモニタリングし、目標値と乖離がないか確認する。もし訪問件数が伸び悩んでいれば紹介ルートを再点検し、新規開拓が必要かもしれない。逆に順調に増えているなら早めに人員追加や車両増備を検討し、過負荷がかからないようにする。また、訪問診療によって外来の新患が減っていないか、自費率が下がっていないかなど他部門への影響もチェックし、医院全体のバランスを取る。必要に応じてスタッフミーティングで問題を共有し、改善策を練る。例えば「訪問診療中は急患対応を近隣医院と連携する」「外来と訪問の収支を分けて管理する」といった措置も状況によっては検討する。そして軌道に乗ってきたら、中長期的には訪問部門をさらに発展させる計画を立てる。将来的な患者数目標や、訪問収入を全体の○割にする、といったビジョンを示し、チーム一丸で取り組めるようにすると良い。

以上が導入判断から実行までの大まかなロードマップである。重要なのは、無理なく始めて柔軟に軌道修正しつつ成長させるという姿勢だ。地域ニーズに合致し患者と医院の双方にメリットがある形で展開できれば、訪問歯科診療はきっと期待以上の成果をもたらすだろう。

出典・参考資料

◆船井総合研究所「利益率2倍!?ストック型訪問歯科事業の立ち上げ戦略について」(2022年) – 訪問歯科は外来より利益率が高く30~50%になるケースが示唆されている。
◆デンタルウェブ「訪問歯科は儲かる?半径16キロから集患できる!きついと言われる在宅診療のデメリットとは」(歯科コラム) – 訪問歯科の市場圏が半径16kmに及ぶこと、運用次第で収益化可能なこと、衛生士確保など利点・課題が解説されている。
◆日本訪問歯科協会ウェブサイト「訪問診療の患者数と報酬」「訪問歯科を始めるために」 – 歯科訪問診療料の算定体系や、訪問エリアは片道20分圏内が望ましいことなど実践的指針が示されている。
◆デンタルネット「訪問歯科成功の鍵-医療従事者の求人について」(2025年) – 都市部における訪問歯科の給与相場(歯科医師日給3万3千円~など)や、歩合制より固定給が適している理由が述べられている。
◆厚生労働省「賃金構造基本統計調査」等 – 歯科医師全体の平均年収(おおむね600~700万円台)に関する統計データ。
◆各種求人情報(Jobメドレー、グッピー求人など、2025年時点) – 訪問歯科医師の求人例から月給60~100万円程度といった給与水準を参照。
◆厚生労働省通知「歯科診療報酬点数表(令和6年改定)」 – 2024年改定内容(歯科訪問診療料の区分細分化、口腔機能管理加算の新設等)について。