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訪問歯科はきつい?訪問歯科で働くデメリットについて

訪問歯科はきつい?訪問歯科で働くデメリットについて

最終更新日

平日の昼下がり、一人の歯科医師が往診用の機材一式を抱えて患者の自宅へ向かう姿があった。院内では外来患者の待ち時間が延び気味で、スタッフからは早めの帰院を促す視線を感じる。それでも要介護の高齢患者のため、重いポータブルユニットやレントゲンを車に積み込み、狭い玄関先で機材を組み立てて診療を開始する。しかしベッド上の患者は思うようにお口を開けてくれず、歯石除去や義歯調整に普段の倍の時間がかかった。診療を終えて院に戻るころには、歯科医師は汗だくで疲労困憊となり、午後の外来にも影響が出てしまった。――このように、訪問歯科診療(往診)は「きつい」と感じる場面が少なくない。その背景には何があるのか。

本記事では、訪問歯科で働く際のデメリットを臨床面・経営面の双方で解説する。患者ケアの質と医院経営への影響を整理し、訪問診療を取り入れるか迷う読者の意思決定を支援する。なお記載の制度・数値は2025年9月時点で最新の情報である。

要点の早見表

論点ポイント概要
対象患者と診療範囲訪問歯科診療の対象は自力で通院できない高齢者や障害者に限られる。提供できる処置も基本的なう蝕・歯周病治療、義歯作製・調整、口腔ケアなどにとどまり、大掛かりな外科処置や精密治療には対応が難しい。全身状態によっては無理な治療は避け、必要に応じて病院歯科や専門医と連携する。
診療環境と安全管理訪問先では歯科用ユニット(診療用チェア)やユーティリティが十分でなく、携行できる機材も限られる。可搬型のユニットや携帯用エックス線装置を使用するが、パワーや吸引能力は院内設備に劣る。照明や給水が不十分な環境で粉塵や飛沫に配慮しながら処置を行う必要があり、感染予防策の徹底が欠かせない。緊急時に備えて酸素や救急蘇生セットを準備し、担当医とスタッフは異変時の連絡・搬送フローを共有しておく。
身体的・精神的負担機材の運搬と姿勢の負荷が大きい。ポータブルユニット(約8〜10kg)や携帯用レントゲン(約2kg強)など重い荷物を持って階段を上り下りすることも多く、狭所で無理な体勢を強いられる処置も頻繁で身体的疲労が蓄積する。また認知症患者への対応や介護者との調整など精神的ストレスも大きい。実際、訪問診療に従事する歯科医療者からは「心身ともにきつい」という声がしばしば聞かれる。
人員体制とスケジュール少人数体制による訪問が主となりがちで、一人の歯科医師+歯科衛生士1名程度で数名の患者を診るケースが多い。院長自ら昼休みや休診日に訪問する医院も多く、人手と時間の確保が課題である。移動を含むため時間管理が難しく、1日の診療件数は外来より少なくなる。予期せぬ渋滞や患者の体調変化でスケジュール遅延も頻発し、次の訪問先や午後の外来に影響を及ぼすリスクがある。施設側の都合(食事や入浴時間等)に合わせる必要もあり、臨機応変な対応力が求められる。
収益性と患者負担訪問診療は公的保険適用だが、診療報酬体系が特殊である。1人の患者を単独で訪問診療した場合は20分以上の診療で1,100点と高めだが、同一施設で複数人を診る場合は患者一人当たりの算定点数が大幅に下がり(例:2~3人なら410点/人)効率化しないと収益が伸びにくい。一方で患者側の負担額は外来より高くなりやすい。訪問基本料や指導料が加算されるため自己負担額が増えるほか、医院が請求できる交通費は全額患者負担となるため経済的ハードルがある。

理解を深めるための軸

訪問歯科診療の「きつさ」を理解するには、臨床的な視点と経営・運用上の視点という二つの軸から考えると分かりやすい。臨床現場で直面する課題と、医院経営に及ぼす影響は異なる様相を呈することが多いためである。それぞれの軸で何が起きているのかを整理し、両者の関係を紐解いていく。

臨床面から見た訪問歯科診療の負担

臨床現場の視点では、訪問診療は診療の質と安全を確保する難しさに起因する負担が大きい。まず設備・環境の制約により、院内と同レベルの診療行為が行えない歯痒さがある。例えば、携帯用機器では切削や吸引の能力が限定的で、インプラント埋入や難抜歯など高度な外科処置は事実上不可能である。また患者の全身状態や協力度にもばらつきがあり、診療計画通りに進まないこともしばしばだ。認知症の方は突然立ち上がったり、筋委縮のある方は長時間同じ体位を保てず、予測不能な対応を迫られる。こうした状況下で最善を尽くそうとしても、常に理想的な治療が提供できるわけではないジレンマが生じ、歯科医師・スタッフには大きな精神的プレッシャーとなる。また、不測の医療事故リスクも高い。嚥下機能が低下した患者では誤嚥や窒息の危険が付きまとい、訪問先で急変が起これば迅速な救急対応が求められる。院内のように他の医療者の応援も得られない中で一瞬の判断を迫られるため、緊張感と責任の重さから心身の負担が蓄積しやすい。さらに、器材の持ち運びや前屈姿勢での処置が続くことで筋骨格系への負荷も大きく、腰痛や頚肩部の疲労を訴えるスタッフも少なくない。以上のように、臨床面では「患者にベストを尽くしたい」というプロ意識があるほど、思い通りにならない現実とのギャップにストレスを感じやすいと言える。

経営・運用面から見た訪問歯科診療の課題

経営・運用の視点では、人員配置や収支バランスに関するハードルが訪問診療の「きつさ」として現れる。第一に、人手不足と時間調整の問題がある。訪問診療には歯科医師と歯科衛生士に加え、場合によっては歯科助手やコーディネーターも必要だが、現行の診療報酬では全てのスタッフを十分に賄うのは難しく、多くの医院が最小限の人数で運用している。院長自身が外来診療の合間に往診に出るケースも多く、スタッフや時間のやりくりに苦慮する声が多いのが実情だ。結果として、外来の空き時間や休診日を活用して訪問していると、どうしてもスケジュールが過密になり院内業務との両立が疲弊を招きやすい。第二に、収益構造の複雑さと収支見通しの立てにくさがある。訪問診療は点数設定が特殊で、患者複数対応では1人あたりの収入が下がるため、効率的に患者数を確保しないと利益率が伸びにくい。一方で訪問先までの移動時間は診療報酬に換算されないため、都市部で渋滞に巻き込まれたり、遠方の患者を個別訪問したりすると実質的な時給換算で収益が低下する。こうした理由から、多くの院長は「採算が取れるのか見通せない」点に不安を抱えている。第三に、導入準備に関する情報不足も挙げられる。どんな機材を購入すべきか、どのような届出や書類が必要か、訪問診療のノウハウを得る機会が少なく、「何を準備すれば良いかわからない」と戸惑う声もある。総じて、経営面では時間・人材というリソース配分の難しさと費用対効果の読みづらさが訪問診療を敬遠させる要因となっている。実際、2023年時点で訪問歯科診療を実施している歯科診療所は全体のわずか21.8%留まる。こうした厳しい運用面のハードルが、「訪問歯科はきつい」と言われる根底にある。

代表的な対象患者と対応できる処置の範囲

訪問歯科診療の主な対象は、自力での通院が困難な患者である。具体的には、脳梗塞後遺症などで身体が不自由な方、寝たきりや重度認知症で外出できない方、障害により一人での移動が難しい方などが該当する。年齢制限はないが、現実には高齢者が大半を占める。訪問診療を行うには「患者が自身の意思で歯科医院に来院できないこと」が条件であり、原則として通院可能な人は訪問の適応にならない。ただし介護タクシーを利用しての通院も困難な場合や、病院からの緊急往診依頼など特殊なケースでは例外もある。いずれにせよ、訪問可否の判断は歯科医師が医学的・歯学的見地から適切に行う必要がある。

診療内容の範囲は、基本的な歯科治療および口腔ケア全般である。具体的には、う蝕(虫歯)の充填処置や簡単な抜歯、歯周病の処置(スケーリングやルートプレーニング)、義歯(入れ歯)の新製・修理・調整、摂食嚥下機能の評価とリハビリ、そして口腔清掃や誤嚥性肺炎予防のための指導などである。訪問先でもポータブルエンジンや超音波スケーラーを用いてある程度の治療行為は可能であり、実際「外来とほぼ同じような一般歯科治療ができる」と謳われることもある。しかし、実態としては高度な機器や精密な診断を要する処置には対応できない限界がある。例えば、口腔内スキャナーを使った精密な補綴物製作、CT撮影が必要なインプラント計画、滅菌環境下で行う外科手術などは訪問先では基本的に行えない。また全身管理が必要となる静脈内鎮静や全身麻酔下での処置も不可能である。これらが必要な場合は病院歯科口腔外科や設備の整った歯科医院への紹介が必要になる。さらに、訪問診療では一度に実施できる処置量にも制約がある。長時間に及ぶ大掛かりな治療は患者の体力的負担が大きく、安全上難しい。したがって、例えば重度う蝕が多数ある患者でも一度に全て処置せず、何回かに分けて対応するか、疼痛の強い部分から優先的に対処し残りは様子を見る、といった段階的・分割的な対応を取らざるを得ないことも多い。総じて、訪問歯科で可能な診療行為は「限られた環境でも最低限提供すべきケア」を中心とした範囲と認識しておく必要がある。患者や家族にもその限界を事前に説明し、必要に応じて適切な医療機関と連携して補完する体制が望ましい。

標準的なワークフローと品質確保のポイント

訪問歯科診療の一般的なワークフローは、外来診療とは異なる段取りと注意点がある。まず訪問日程の調整段階で、患者や施設との事前打ち合わせが重要だ。患者の全身状態、当日の生活スケジュール(起床・食事・入浴等)、使用中の義歯や困りごとなどを事前に把握し、訪問時にスムーズに診療に入れるよう準備する。加えて、介護者や家族への説明と合意形成も訪問前から始まっている。特に施設入居者の場合、施設のケアスタッフとの情報共有(バイタルサインや直近期の食事量など)は欠かせない。

当日の流れとしては、医院で必要器材と滅菌物、書類等を積み込み出発する。訪問先に到着したら、まず患者本人と家族に挨拶し、本日の処置内容を確認・同意を得る。次に機材を設置する。ポータブルユニットを作動させ、バキューム(吸引器)のホースやハンドピースを接続し、携帯用レントゲンや照明器具も準備する。感染予防の観点からディスポーザブルのエプロンやグローブ、口腔ケア用ウェットシートなども広げておく。可能であれば処置を行う部屋の照明を明るくし、患者の体位を治療に適した姿勢(ベッド上で仰臥位になる等)に整える。これらのセッティングとプレピアレーションには外来以上に気を遣う。なぜなら一般家庭では診療に適した環境が整っていないため、一から作り上げる必要があるからだ。高齢者宅では室温や空調の調整も重要で、夏場や冬場は患者の体調に配慮した環境設定が求められる。こうした準備の時間は診療報酬上カウントされないため効率化したいところだが、感染制御や安全確保のため疎かにできないポイントである。

処置中は院内以上に慎重な声かけと観察を行う。患者は高齢や要介護ゆえに、体調急変のリスクが高い。顔色の変化や訴えに注意し、適宜休憩を挟む。口腔ケアの場合、複数の利用者をまとめて処置することも多いが、その際は誰に何を行ったかを記録しておく(施設一括で数十名に口腔ケアをする場合など、処置者自身も混乱しがちなため)。また、訪問診療では歯科衛生士が主体的に口腔ケアや指導を行う場面が多い。衛生士は単に清掃するだけでなく、ケアの合間に患者や家族とコミュニケーションを図り、日常の口腔ケア方法を助言するなど教育的役割も果たす。そのため歯科医師と衛生士が上手く連携し、それぞれの専門性を発揮することが品質確保のポイントとなる。

処置終了後は機材の撤収と清掃・消毒を速やかに行う。使用したバキュームラインの排液は所定の容器に回収し持ち帰る(施設で流せないことも多いため)。鋭利な廃棄物(使用済み注射針やバー類)は持参した廃棄ボックスに回収し、安全に管理する。機材を片付けた後、患者・家族に本日の処置内容と口腔内所見、留意点を説明する。義歯の清掃法や次回までの過ごし方など家庭での指導も欠かさない。この説明は医療法上も義務であり、患者の安心に繋がる重要なプロセスである。最後に必要書類へサイン(例えば訪問診療に関する同意書や、施設の場合は処置記録への押印)をもらい、次回訪問日を確認して退出する。帰院後はカルテ記載とレセプト整理、ケアマネジャー宛報告書の作成など事務作業が待っている。訪問診療では居宅療養管理指導の一環として毎回ケアマネジャーへのフィードバックが求められ、押印書類や報告書類が外来診療以上に多くなる傾向がある。書類不備は算定漏れや減算リスクに直結するため、疲れていても丁寧に対応する必要がある。以上が一連の流れだ。ポイントは、準備・片付け・記録の各段階で外来以上に周到な対応が求められる点である。これらをチームで手分けし、標準化された手順で行うことで負担軽減と品質維持を図ることができる。例えば訪問用器材チェックリストを作成して積み忘れを防止したり、滅菌セットを患者数分あらかじめトレーごとに組んでおくことで現場での手間を省く工夫が推奨される。また、定期的にスタッフ間で訪問診療の手順やトラブル事例を振り返り、業務フローを改善していくことも品質向上に欠かせない。

安全管理と説明の実務

訪問診療では安全管理に一層の注意が必要であり、かつ患者・家族への事前説明と同意取得が極めて重要である。まず医療事故リスクへの備えについて述べる。訪問先では救急設備が限られるため、万一の事態に即応できる体制を整えておかねばならない。具体的には、携行品に緊急キット(血圧計、パルスオキシメーター、酸素ボンベ、アンビュー、救急蘇生薬剤など)を含めておく。高齢患者では血圧や血糖値の急変もあり得るため、訪問開始時にバイタルを測定し、明らかな異常があれば処置を見送る判断も必要だ。また、誤嚥や窒息に備えて吸引装置と開口機材を手元に置き、常に気道確保を意識した診療を行う。嚥下反射が弱い患者の処置中は、可能な限りファウラー位(上半身やや起こした体位)を取るなど姿勢にも配慮する。さらに、訪問診療では単独行動を避けチームで臨むこと自体が安全策となる。歯科医師1名だけでの往診は緊急対応に手が回らない恐れがあるため、必ず他スタッフ(歯科衛生士や歯科助手)が同行し、役割分担を決めておく。例えば緊急時の救急車要請やバイタル測定は誰が担当するか、日常からシミュレーションしておくと良い。また、医院側と往診チーム間で緊急連絡網を整備し、必要に応じ院内の別スタッフや主治医と連絡が取れるようにしておく。こうした周到な準備と訓練が、「何かあっても迅速に対処できる」自信となり、精神的な余裕にも繋がる。

次に患者・家族への説明と同意取得の実務について。訪問診療では外来以上に事前の合意形成が重要である。なぜなら、患者本人だけでなく家族や介護者が意思決定プロセスに関与するケースが多く、事前説明が不十分だと治療方針を巡って認識のズレが生じやすいからだ。例えば、家族は「新しい入れ歯を作ってあげたい」と望んでいても、認知症の患者本人はその入れ歯を口に入れられないかもしれない。このような場合、家族の希望と患者の実際の受容能力との間にギャップがあり、進め方を誤るとトラブルになる可能性がある。そこで、訪問診療開始前の段階から丁寧な情報共有と説明を行うことが大切だ。具体的には、「現在のお口の状態」「想定される治療選択肢」「各選択肢のメリット・デメリット」「治療しない場合の予後予測」をわかりやすく家族に説明し、患者本人の意思も可能な範囲で確認する。その上で、患者・家族と歯科医療者が一緒になって最適な方針を検討する姿勢を示す。訪問診療では患者本人が自分の意思を表明できないケース(意思疎通困難な重度認知症など)も多いため、倫理的配慮と代理意思決定の考え方も求められる。家族の意向だけでなく、これまで患者が受けてきたケアの経緯や生活背景、価値観を踏まえ、「患者さんにとって何がベストか」を一緒に考えるスタンスが重要だ。こうしたプロセスを経て合意した治療方針であれば、たとえ結果が思わしくなくとも家族との信頼関係は維持されやすい。一方、説明不足のまま進めてしまうと、後になって「こんなはずではなかった」とクレームになりかねない。特に義歯や外科処置の成否は患者の協力度や体調に左右され、期待通りにならない場合もある。そうしたリスクや限界も事前に率直に説明し、理解を得ておくことが医療者の説明責任として求められる。訪問歯科診療は、患者・家族・介護者・歯科医療者がチームとなって進めるケアである。互いの信頼関係を築くためにも、双方向のコミュニケーションを丁寧に重ねることが安全で円滑な診療の土台となる。

費用構造と収益モデルの考え方

訪問歯科診療を導入するにあたり、初期投資と収益構造を正しく理解し、採算ラインを見極めることが重要である。まず初期費用の内訳からみていく。大きな項目はやはり機材購入費である。訪問診療用のポータブルユニット(可搬式歯科用ユニット)は、安価な簡易モデルなら数万円程度から入手できるが、実用に耐える性能を持つ国産高機能モデルでは本体価格が約100万円に達する製品もある。例えば国産ユニット「かれんEX」は標準仕様で約97万円(税別)という定価が公表されている。一方、携帯用エックス線撮影装置は国内メーカー品で40~50万円台が相場であり、こちらも安価な海外製品では10万円台のものも存在するが、信頼性や保守を考慮すると歯科用として認可された製品を選ぶのが無難である。その他、口腔内カメラや照明器具、ポータブルモニター(バイタル測定)などを揃えれば数十万円規模の費用が追加でかかる。さらに車両も必要だ。往診用に車を新規に用意するなら軽自動車でも数十万円、中古車活用でも整備費等がかかる。既存の自家用車等を用いる場合も、機材積載スペースや駐車場確保に留意が要る。初期費用合計は選定機材や車両の新旧によって大きく幅が出るが、おおよそ最低でも数十万円~数百万円単位の投資は見込んでおく必要がある。これら初期投資については減価償却を踏まえ、何年で回収するかの計画を立てることが肝要だ。例えば総額300万円の投資を5年で償却すると考えれば、年間60万円(1ヶ月5万円)のコスト相当となる。訪問診療の収益からこの分を捻出できるだけの件数・点数を確保する必要があるということである。

次に収益面(診療報酬)を見てみよう。訪問歯科診療で算定できる主な報酬は大きく分けて(1)歯科訪問診療料、(2)訪問歯科衛生指導料、(3)各種在宅医療加算に分類できる。まず歯科訪問診療料は、患者1人あたりの基本診療料に相当し、同一日に何人訪問するかと1人当たりの診療時間によって点数が決まる。2024年度改定後の点数では、患者1名のみ20分以上の診療で1,100点(歯科訪問診療1)、同一建物で2~3名なら1人410点(訪問診療2)、4~9名なら1人310点(同3)といった具合に逓減していく。20分未満の診療しかできなかった場合はそれぞれ約7割の点数に目減りする(例:2~3名訪問で20分未満なら287点/人)。つまりまとめて多くの患者を診ると一人当たりの収入は下がるよう設計されており、逆に少人数訪問では移動非効率だが点数は高く設定されている。このバランスをどう捉えるかが経営上のポイントとなる。例えば一施設で10名以上(訪問診療4以上)を診ると1人160点まで低下し、仮に10名診ても合計1,600点(1点=10円換算で16,000円)にしかならない。一方、個別訪問で1名ずつ診れば1名あたり1,100点得られるので、仮に半日で3名個別訪問できれば3,300点(33,000円)になる計算だ。しかし現実には個別訪問は移動ロスが大きく3件も回るのは難しいケースも多い。少人数高点数か、多人数低点数か、地域事情や患者分布に応じて効率的なスタイルを模索する必要がある。

次に訪問歯科衛生指導料だが、これは歯科衛生士等が口腔ケア指導や管理を行った際に算定できるもので、月4回まで算定可能だ(要介護者対象。緩和ケア目的では月8回)。単一建物で1人のみなら362点、2~9人なら326点/人、10人以上なら295点/人と、こちらも人数によって逓減する。訪問の際には基本的にこの衛生指導料もセットで算定することになり、歯科医師+衛生士のチームで訪問するメリットはここにある。なお診療補助加算として、歯科医師に同行して衛生士が補助業務を行った場合に1日80点加算(2024年度改定後)する仕組みもある。これは衛生士帯同を促す目的で新設された経緯があり、逆に言えば衛生士なし単独訪問は本来望ましくないというメッセージとも捉えられる。

さらに各種加算が収益を左右する。在宅患者を定期的に診る場合には月1回の在宅療養管理指導(歯科医師で115点、衛生士は指示下なら記載上は訪問歯科衛生指導と同様の扱い)も算定できるが、これには毎回ケアマネジャーへの文書提供が必須など手間が伴う。他にも、夜間や緊急の場合の加算、訪問診療の体制を強化している診療所に与えられる地域連携加算や在宅歯科医療推進加算、情報通信機器(口腔内写真など)活用加算など、計算項目は多岐にわたる。これらを駆使すれば1訪問あたりの点数を増やすことも可能だが、算定要件を満たすための届出や体制整備が必要である。例えば在宅療養支援歯科診療所(いわゆる「歯援診」)の届出を行い所定の施設基準を満たせば、訪問診療料からの減算(-10点)が免除され、在宅患者歯科治療計画の策定・交付で100点、ターミナルケア加算で500点などの算定が可能になる。これらは介護医療に積極的に取り組む歯科診療所へのインセンティブであり、導入するなら是非とも届出を検討したい。一方で、こうした加算を算定するには計画書や24時間対応体制、医科との連携契約などクリアすべき項目も多く、院内体制の強化が求められる。

以上のように、訪問歯科診療の収益は「患者数×診療単価 + 各種加算 – かかる手間とコスト」の総合計で決まる。単純な外来診療の延長ではなく、一種の在宅ケア事業として収支計画を立てる視点が必要だ。地域の高齢者人口や競合状況を踏まえ、月に何人訪問すれば黒字になるか、どの程度までならコスト増(人員増強や機材追加)に耐えられるか、といったシミュレーションを事前に行うことが大切である。例えば、1日5人訪問を週3日行うモデルで月60人程度診療し、概算で歯科訪問診療料・衛生指導料等込み1人あたり500点(患者構成により変動)とすれば月3万点=30万円の収入になる。人件費・交通費・減価償却を差し引いても利益を確保するには、これをもっと増やす必要があるかもしれない。逆に、自院では月10人程度しか潜在需要がなさそうであれば、設備投資や人件費をかけてまで取り組むべきか慎重な判断が要る。収益モデルを描く際には、「新規収入」と「代替された収入」を分けて考えることも重要だ。訪問診療を始めることで、外来に通っていた患者が訪問に切り替われば外来収入が減る一方で訪問収入が増えるだけなのでプラスマイナスゼロになる。一方、新たに地域から訪問患者を紹介受けできれば純増の売上になる。自院で訪問を提供しない場合、既存患者が他院の訪問診療に転院してしまうケースもあると報告されており、その意味では患者流出防止策としての訪問診療提供という側面もある。こうした多面的な視点で費用対効果を捉え、自院にとって最適な収益バランスを探ることが経営上のポイントとなる。

外注・共同利用・導入しない選択肢の比較

訪問歯科診療へのニーズは確かに高まっているが、必ずしも全ての歯科医院が自前で取り組む必要はない。導入しない選択肢や、他の資源を活用する方法も検討に値する。ここではいくつかの代替策を比較検討する。

まず一つ目は、訪問診療専門の機関に紹介する方法である。地域には訪問歯科診療専門のクリニックや、訪問診療部門を強化した歯科医院が存在する場合がある。自院で設備やスタッフを抱えずとも、それら専門機関と連携し紹介することで患者の在宅歯科ニーズに応えることができる。この利点は、医院側の負担がほぼゼロである点だ。紹介先がしっかり対応してくれれば自院の患者も安心して任せられるし、自院は本来の外来診療に集中できる。ただしデメリットとして、患者との関係性が途切れるリスクがある。訪問を機にその患者が完全に紹介先へ転院してしまい、外来復帰しなくなる可能性もある。また紹介先の診療内容や方針が自院と異なる場合、患者や家族から戸惑いの声が寄せられることもあるだろう。従って、この選択を取るなら事前に信頼できる訪問診療医を見極め、緊密に情報共有することが肝要だ。

二つ目は、他院や医療法人と共同で訪問チームを運営する方法だ。近隣の歯科医院同士で協定を結び、交代で訪問診療にあたるとか、一つの医療法人内で訪問専任のチームを組織し複数の分院にまたがってサービス提供する形が考えられる。この場合、一軒あたりの負担は軽減される。例えば5院でチームをシェアすれば、機材費や人件費の負担を按分できるし、訪問件数が増えれば収益もまとまり採算に乗りやすくなる。衛生士やコーディネーターを専属採用しやすくなり、結果として質の高い訪問診療サービスが提供できる可能性も高まる。反面、組織間の調整や収益配分といったマネジメント上の課題が発生する。どの患者を誰が訪問するか、収入をどう配分するかなど取り決めが複雑になりやすい。また責任の所在も曖昧になりがちで、トラブル時の対応が難しい面もある。うまく機能すれば理想的な協働モデルだが、実現には参加者同士の信頼関係と明確な契約が不可欠と言える。

三つ目の選択肢は、部分的な外注だ。例えば訪問用の滅菌セット準備や、ケアマネジャー向け資料作成など、煩雑な事務部分をアウトソーシングする。また最近では訪問診療のスケジューリングや情報連絡を代行してくれるサービス、訪問診療専門の非常勤歯科医師・衛生士派遣サービスなども登場している。それらを利用すれば、自院スタッフの負担を軽減しつつ訪問を提供できる。しかし当然ながら外注コストが発生するため、採算に見合う範囲かを検討する必要がある。また、医療の根幹部分(診療そのもの)は委託できないため、外注できるのは補助的業務に限られる。結局、最後は自院内で診療責任を負うという点は変わらないため、外注はあくまで負担軽減策の一つと捉えるのが良いだろう。

最後に、訪問診療を一切行わないという選択肢についても触れておく。訪問ニーズが少ない地域や、医院の体制上どうしても困難であれば、無理に取り組まない判断も尊重されるべきだ。その場合は代わりに地域の在宅療養支援歯科診療所の情報提供に努めたり、患者家族に介護保険サービスの利用法(例えば通院困難者が施設入所する選択肢など)を助言したりといった間接的な支援で貢献することもできる。すべての歯科医院が訪問診療を背負い込む必要はなく、自院の強みやリソース配分を考え、得意分野に注力することは決して悪いことではない。ただ、日本の超高齢社会を見据えると在宅歯科ニーズは今後も確実に増えるため、たとえ自院で実施しない場合でも基本的な制度知識や地域資源については把握しておくことが望ましい。患者や家族から相談を受けた際に適切な情報提供やリファerralができるよう、地域包括支援センターや訪問看護ステーション、在宅療養支援歯科診療所のネットワークに通じておくと良いだろう。

よくある失敗と回避策

訪問歯科診療の導入・運用において、陥りがちな失敗パターンも存在する。それらをあらかじめ知っておき、対策を講じておくことは現場の混乱を防ぐ上で有用である。ここではいくつかの典型例と回避策を紹介する。

(失敗例1)十分な準備・研修なしに始めてしまう

「高齢者が増えているから」と勢いで訪問診療を始めたものの、スタッフが在宅診療の特殊性を理解しておらず現場で戸惑うケースがある。例えば、誤嚥リスクの高い患者に対して外来同様の仰臥位で処置をしてヒヤリとした、口腔ケア用の器材・資材を持参し忘れて対応が不十分になった等である。

【回避策】

導入前にスタッフ研修とシミュレーションを行うことが重要だ。院内で訪問診療の流れをロールプレイしたり、可能であれば訪問診療経験の豊富な歯科医師・衛生士を招聘して講習会を開く。特に全身管理や介護保険制度に関する知識を共有し、具体的な訪問時の手順書・持ち物リストを作成しておくと安心だ。また、初期にはケースを限定し、慣れた自院患者1~2名から慎重に始めることで、段階的に経験値を積むと良い。

(失敗例2)スタッフ体制が不十分

衛生士や助手の人数が足りず、歯科医師が一人で機材運びから診療・書類作成まで抱え込んで疲弊してしまう事例も多い。「とりあえず院長だけで訪問した」がために、治療中にバキューム操作が追いつかず誤嚥を起こしかけたり、患者との会話記録や義歯管理に手が回らず後日トラブルになったりする。

【回避策】

必ず複数人で訪問する体制を確保する。最低でも歯科衛生士1名は同行させ、できれば運転兼コーディネート役のスタッフも用意する。もし人員が割けない場合は、非常勤やスポットで訪問専門スタッフを確保することも検討する。また、院内スタッフには訪問中の外来対応を依頼することになるため、院内の業務フロー調整も必要だ。予約の入れ方や緊急対応プロトコルを整え、訪問時間帯でも院内が回る仕組みを作っておかないと、残されたスタッフに不満や無理が生じる。

(失敗例3)スケジュール管理のミス

訪問先の予約を詰めすぎて時間オーバーが連鎖し、患者や施設から苦情を受けるケースである。特に介護施設では「約束の時間に歯科が来てくれない」とスタッフ業務に支障が出ることもある。逆に早く着きすぎて待たせてしまい、「○時に来ると言ったのに患者がまだ食事中だった」ということもある。

【回避策】

ゆとりを持った時間設定と事前連絡の徹底である。訪問間隔には移動と予備の時間を十分見込み、1日の訪問件数に上限を設ける。特に初期の頃は慣れておらず予想外に時間がかかるため、余裕ある計画が望ましい。また施設訪問時は、施設側の都合(フロア移動や他サービス利用時間)を事前に聞き取り、それに合わせてスケジュールを組むこと。訪問当日朝には確認の電話を入れ、患者の体調や予定に変更がないかチェックする習慣も有効だ。複数患者を診る施設では、到着時刻が多少前後する可能性を伝え理解を得ておく。コーディネーターや相談員がいれば、こうした調整役を任せるとスムーズである。

(失敗例4)制度算定の誤り

訪問診療のレセプト請求は外来と異なるルールが多く、算定漏れ・誤請求が起きやすい。例えば、訪問初回に患者や家族へ文書提供(診療計画書等)を行わず在宅患者診療歯科医療管理料を算定して減点された、訪問歯科衛生指導を時間要件満たさず算定して返戻になった等のミスが見られる。

【回避策】

最新の診療報酬点数表と留意事項通知を熟読し、訪問診療特有の算定要件を把握すること。日本訪問歯科協会などが公開している算定マニュアルやQ&A集を参照し、院内でチェックリストを作成すると良い。またレセコン(レセプトコンピュータ)によっては訪問診療モードやアラート機能があるので活用する。請求事務は煩雑だが、ここをおろそかにすると本来得られるはずの報酬を逃したり、最悪ペナルティを受けたりする。導入当初は専門家(診療報酬請求に詳しいスタッフや社保事務代行者)の助言を仰ぐのも一手だ。

(失敗例5)患者・家族との認識違い

訪問診療を始めたものの、家族の期待値が高すぎて対応しきれず不信感を招くパターンだ。例えば、「在宅で最後まで全部の歯の治療をしてくれると思っていたのに、結局抜歯しかできないと言われた」と失望されたり、「介護施設にいる母のところにもっと頻繁に来てくれると思ったのに月2回しか来てもらえない」と不満を言われたりするケースである。

【回避策】

最初の段階でサービス内容の限界と頻度をきちんと説明しておくことに尽きる。訪問診療ではできない処置(高度な手術等)や、保険制度上どうしてもできないこと(毎日訪問しての口腔ケアなど)は、依頼を受ける時点で明確に伝える。また、治療優先順位や訪問間隔は医学的判断に基づくことを理解してもらう。例えば「安全上、○○の処置は病院設備がないと難しいためご自宅ではできません」「訪問回数は医学管理上必要な範囲で月○回と決まっています」と専門家の見解として丁寧に説明する。加えて、患者の状態によって治療計画が変更になる可能性(体調悪化時は処置中止など)も説明し、不確実性も含めて共有する姿勢が大切だ。万一クレームに発展した場合も、初回説明時の同意書や記録がエビデンスになるため、説明した内容は文書に残し署名をもらっておくとトラブル対応に役立つ。

以上、代表的な失敗例と対策を挙げた。総じて言えるのは、事前準備とコミュニケーションが不十分な場合に失敗が起きやすいということである。訪問歯科診療は普段の診療以上に多職種・多関係者との連携の場であり、綿密な計画と情報共有が成功のカギとなる。失敗から学び、常に改善を図りながら運用していく姿勢が求められる。

導入判断のロードマップ

実際に訪問歯科診療を導入すべきか否か、悩んでいる院長も多いだろう。その判断プロセスを段階的に整理したロードマップを示す。これは設備投資の要否を検討する場合にも、自院の提供サービスを見直す場合にも参考となる。

1. 自院の患者ニーズと地域需要の把握

まずは現状分析から始める。自院の患者層を見渡し、要介護高齢者の割合や通院困難になりそうな患者がどの程度いるかを確認する。例えば患者台帳を年代順にソートし、75歳以上の患者数を数えてみる。その中で最近来院できていない方や、介護認定を受けている方は何名いるか。これにより潜在的な訪問診療対象がおおよそ見えてくる。また地域全体のニーズも重要だ。地域包括支援センターや在宅療養支援診療所等から情報を得て、訪問歯科の依頼が増えているか、近隣で対応できず困っているケースがあるかを探る。高齢化率や要介護認定者数のデータも自治体単位で公開されているので参照すると良い。需要が全く見込めない地域もあれば、既に専門機関が対応していて飽和状態の地域もあるだろう。まずは「自院でやらなければ困る患者がどれだけいるか」を定性的・定量的に把握することが出発点だ。

2. 提供体制とリソースの検討

次に、自院で訪問診療を提供する場合に必要な体制を洗い出す。歯科医師は誰が担当するのか(院長自らか、勤務医か)、歯科衛生士は同行できるのか(曜日や時間帯の調整)、車の運転は誰がするか、機材の保管場所やメンテナンス方法はどうするか、など具体的にシミュレーションする。現有スタッフで賄えない場合、新規雇用や業務委託が必要になるだろう。例えば非常勤衛生士を週1回雇う、人手が足りなければ休診日を設定して院長自身が訪問に充てる等、どのように人的・時間的資源を捻出するかを検討する。併せて、担当スタッフに必要なスキルも確認する。嚥下リハや摂食指導の知識が不足していれば研修が要るし、運転に不安があればペーパードライバー講習を受けさせることも考えられる。スタッフの適性や意欲も重要な要素だ。高齢者ケアに熱意のある衛生士がいれば心強いし、逆に皆が乗り気でないなら無理な導入は避けるべきかもしれない。ここでは「本当に実行可能な体制が構築できるか」を見極めることになる。

3. 採算性と費用回収プランの策定

次に、前段で把握した潜在患者数や提供頻度をもとに粗い収支シミュレーションを行う。例えば「月に延べ20名訪問診療を行う」「1人当たり平均算定点数800点(訪問診療・口腔ケア込み)」と仮定すれば月16,000点=16万円の収入になる。対するコストは、スタッフ人件費(訪問に出ている間の給与)、交通費(ガソリン代や高速料金、駐車料金)、機材の減価償却(月あたり数万円換算)などを積み上げる。仮にコスト計15万円だとすればわずかに黒字、といった具合に損益分岐を計算してみる。この際、設備投資をローン等で賄う場合は月々の返済額も考慮する。また保険制度の変化(診療報酬改定)によって収入が上下するリスクもあるので、ある程度の利益余力を見ておきたい。さらに、訪問診療導入によって減少する外来収入や、逆に増えるかもしれない新患獲得なども併せて考慮する必要がある。経営面から最も避けたいのは「頑張って訪問を始めたのに利益が出ず、院長やスタッフの疲弊だけが残る」事態である。そうならないために、最悪でも損をしないラインを見極め、そのラインを超える需要や効率が確保できそうかを冷静に判断する。このシミュレーション結果によっては、規模や頻度の調整、あるいは導入自体の再考も必要だろう。

4. 届出・機材準備と関係構築

導入を決めたら、実施までの準備に入る。まず行政への届出や手続きを確認する。訪問診療そのものは届出なしでも開始できるが、前述の歯援診の届出や在宅療養支援診の施設基準届け出を行えば算定上有利になるため、可能な範囲で申請しておきたい。それには院内マニュアル整備や医科との連携契約など条件があるので、地域の歯科医師会等の支援を仰ぎながら準備すると良い。また介護保険に関わる事業所番号の取得や、レセプト請求方法(医科との合算など)の確認も必要だ。並行して機材の選定・購入を行う。各メーカーの訪問診療セットを比較検討し、信頼できるディーラーから購入する。メーカーから講習を受けられる場合は積極的に活用し、スタッフ全員が機器の操作方法を習熟しておく。さらに、地域関係者との連携構築もスタート前に行っておきたい。ケアマネジャー連絡先リストを整備し、訪問歯科を始める旨を地域包括支援センターに情報提供しておく。必要に応じ近隣の医科在宅療養支援診療所や訪問看護とも名刺交換し、患者紹介や緊急時対応の連絡体制について相談しておくと安心だ。こうした根回しは診療開始後に円滑な連携プレーを行う上で非常に効果的である。

5. 試行期間の設定と評価

実際に訪問診療を開始したら、最初の3~6ヶ月程度を試行期間と位置づけると良い。この間にトラブルや課題が出てくるはずなので、都度院内で共有し改善策を講じる。例えば予定より毎回時間がかかるならスケジュールを緩めに変更する、機材の不具合があればメーカーに相談し別製品を検討する、といった具合だ。患者や家族からのフィードバックも集め、「もっとこうして欲しい」といった要望には可能な限り応えるよう努める。試行期間終了時に、あらためて収支やスタッフ負荷の評価を行う。想定通り利益が出ているか、スタッフに無理が生じていないか、患者満足度は高いか等をチェックし、本格導入へ舵を切るか規模を縮小するか判断する。場合によっては訪問エリアを拡大して件数を増やす、逆に特定の患者のみの限定サービスに切り替えるなど戦略調整も必要だろう。ロードマップの最後は、運用の定着と継続的な改善である。導入後も定期的にチームミーティングを開き、制度改定情報の共有や課題整理を行っていくことで、質を維持しながら持続可能な訪問歯科診療を提供できるだろう。

出典

  1. デンタルウェブコラム「訪問歯科は儲かる?半径16キロから集患できる!きついと言われる在宅診療のデメリットとは」(2025年)
  2. Apotool & Boxコラム「訪問歯科(往診)はきつい?その理由ときつくならないための体制づくり」(2025年2月26日)
  3. kasuminoライフ「訪問歯科はキツい?実際に歯科衛生士が3ヶ月働いてみた感想」(2024年7月14日)
  4. Dentisブログ「訪問歯科の診療報酬における主な算定点数とは?算定する際のポイントや加算できる報酬もご紹介!」(2024年12月11日)
  5. 城北歯科 医療コラム「高齢化社会の訪問歯科診療の現状と課題、そして未来」(名古屋市北区 医療法人城北、2023年)
  6. デンタルサポート株式会社 コラム「訪問歯科診療の現状と実施の必要性」(2023年5月24日)
  7. 厚生労働省「歯科医療提供体制の現状について」(令和2年 医療施設調査データ 等)
  8. フォルディネット 製品情報「訪問診療用機器 かれんEX」(日本アイ・エス・ケイ株式会社)
  9. 第二ラボ 2ndLabo「ポータブルレントゲンの価格一覧表」(近畿レントゲン・モリタ 製品価格, 2022年)