
歯科用のNi-Ti(ニッケルチタン)ファイル「ボンデント」とは?特徴や価格を解説
複雑に湾曲した根管の治療で、手用ステンレスファイルのみではレッジ形成や根管形態の変形を招きやすいと感じたことはないだろうか。特に狭窄した根管では進まずに手間取り、治療時間が長引いてしまうことも多い。患者の口腔開口量が小さい場合や、奥歯の根管治療では器具操作が困難で、術者のストレスも増す。こうした状況で近年注目されているのが、NiTi(ニッケルチタン)製のエンジン用ファイルである。NiTiファイルは高い柔軟性により湾曲根管にも追従し、効率的かつ短時間で根管拡大形成が行えるためチェアタイム短縮が期待できる。しかし、従来のNiTiファイルはコストが高く、保険診療での使用には経営的な悩みも伴った。そのため、コストパフォーマンスに優れ保険診療でも導入しやすいとされる新製品「ボンデント NiTi ファイル」が登場した。本稿では、このボンデント NiTi ファイルの特徴を臨床と経営の両面から詳しく解説し、自院への導入価値を検討するための材料を提供する。
ボンデント NiTi ファイルの製品概要
ボンデント NiTi ファイルは、歯内療法で用いるエンジン用根管拡大器具であり、全回転式(連続回転式)のNiTiファイルシステムである。販売元は日本の歯科商社である茂久田商会で、2024年6月20日に国内発売された管理医療機器(クラスII)である。医療機器認証番号は「306AIBZX00001000」であり、保険診療で使用可能な一般的歯科用器具として位置付けられている。適応となる処置はう蝕に起因する歯の根管治療全般で、湾曲や狭窄のある根管の拡大形成から、根管最終拡大まで幅広く利用できる。製品名の「NiTiファイル」が示す通り、材質はニッケルチタン合金製で高い弾性を持つのが特徴だ。基本的には歯科用エンドモーターに装着して使用するエンジンリーマー/ファイルの一種であり、手用器具と異なり電動で回転させて根管内の歯質を切削・拡大する。なお本製品には手用のステンレス製ファイルも同ブランドで用意されているが、ここではエンジン用NiTiファイルについて取り上げる。
特徴と主要スペック
ボンデント NiTi ファイル最大の特徴は、「フラットカットデザイン」と呼ばれる刃部形状にある。一部の刃面が平らにカットされた独自設計により、切削時の根管壁への食い込み(スクリュー効果)や切削片の目づまりを軽減することが可能である。これにより、従来のNiTiファイルで懸念されていた過度の自己ねじ込み現象を抑え、スムーズな操作性を実現している。実際、メーカー資料でも「スパッと一面フラット平面カット」で引き込み過ぎを抑制すると謳われている。切削効率を維持しながら不要な抵抗を減らすことで、レッジ形成や根管形態の偏位を防ぎ、元の形状を大きく変えない安全な拡大が期待できる。
もう一つの重要な特徴は、NiTi素材への熱処理加工である。ボンデント NiTi ファイルには特殊熱処理技術が施されており、「強度を残しながらより柔らかくしなる」とされる。これは近年他社のいわゆるCMワイヤ(Controlled Memory)やブルーNiTiファイルにも見られる技術で、素材の柔軟性を高めることでより急な湾曲にも追従しやすく、折れにくい性能を実現している。臨床的には、根管の急カーブでファイルが根管壁に強く当たってしまう状況でも、柔軟なファイルは偏心せずについて行くため、根管壁のステップ形成(レッジ)や根管側方穿孔のリスクを抑えることができる。
ボンデントシステムには多彩なファイルラインナップが用意されている点もスペック上の特徴である。通常の根管拡大用の基本ファイル(いわゆるクラウンダウン法に沿って使用する一連のファイル)は、先端径#15から#30程度まで複数あり、テーパーも0.04や0.06が組み合わされている。例えば代表的な構成では、先端径#15/テーパー0.04、#20/0.05、#25/0.04、#25/0.06、#30/0.04といったファイルが順次用いられる。加えて、歯冠部の開拡用として先端径が大きくテーパーが非常に太いファイル(例:#17/0.12など)が用意され、根管上部の素早い拡大に貢献する。これらは根管上部の直線化を図り、以降のファイルが根尖まで到達しやすい「ガイドパス」を作る役割も担う。
また、他社にはあまり見られない独自の専用ファイルとして、「サイドカット グライドパス」ファイルと「レッジリカバー」ファイルが挙げられる。前者は先端径#10~#16程度の極細NiTiファイルで、根管の初期踏査やグライドパス形成用に設計されている。柔軟なNiTi製で小径ながら、サイドカットの形状により根管内での偏りを防ぎ、元の根管形に沿った滑走路を作りやすい。一般的にグライドパス形成にはステンレス製#10の手用Kファイルを用いることが多いが、本製品のサイドカットグライドパスを用いれば、その後のエンジンファイル移行がよりスムーズになることが期待できる。
後者の「レッジリカバー」ファイルは、根管内に段差(レッジ)が生じてしまった際にそれを乗り越え、再び元の根管湾曲に沿ってファイルを進めるための特殊ファイルである。先端径は#10~#20と細いがテーパーが0.06~0.09と極めて大きく、硬さと柔軟さを両立した設計になっている。この形状によりレッジ部分での安定性を確保しつつ、先端がレッジの先へ進みやすくなっている。臨床では、レッジの手前までこのファイルで拡大して直線的なスペースを確保し、細径の手用Kファイルなどを用いてレッジを超えて根尖まで到達するという使い方が考えられる。レッジ形成は根管治療の失敗要因の一つであり、本ファイルの存在は万一のトラブル対応策として心強い。
さらに、根尖部の最終拡大やデブリ取り残し防止のために、テーパー0.02の根尖部清掃用ファイル(根尖クリーナー)もラインナップされている。これは先端径#30から#60まで幅広く揃えられており、湾曲部位の拡大は抑えつつ根尖孔近辺のみを必要十分に拡大できる。難治症例で根尖径が大きい場合や、根尖病変のある歯で念入りに根尖部まで拡大したい場合に有用である。以上のように、ボンデント NiTi ファイルは一本のシステムで基本から応用までカバーできる総合的なエンド用ファイルセットと言える。
使用方法と互換性
ボンデント NiTi ファイルは、一般的なエンド用モーター付きコントラアングルハンドピースに装着して使用する。ファイルのシャンクは他社のNiTiロータリーファイルと同じくエンジンリーマー規格のラッチ型(RAタイプ)で、例えば日本の多くの歯科医院で使われているDENTSPLY社やNSK社製の根管治療用モーターに問題なく適合する。回転速度やトルク値はファイル径・テーパーに応じて設定する必要があるが、基本的な推奨値は毎分数百回転程度(おおむね150~350rpm)でトルクは2N・cm前後が目安とされる。実際の使用時には各サイズの添付文書に記載の推奨条件に従うべきであるが、これは他社NiTiファイルと大きな差はないため、既にNiTiエンジンファイルを使用している術者であれば操作感に戸惑うことは少ないだろう。
操作手順はクラウンダウン法を基本として推奨されている。まず手用または専用グライドパス用のファイルで#10程度まで根管通過路を確保し、必要に応じてオープナー(太径短尺ファイル)で根管口を開拡する。その後、根管上部から順に太いファイルで切削し、徐々に先端径の細いファイルへと段階的に根尖方向へ進んでいく流れである。各ファイルごとに根管内に挿入できる深さが少しずつ延長され、最終的に所定の根尖拡大径(例えば#30など)に到達するまで繰り返す。途中、狭窄や湾曲で抵抗を感じた際には無理に進めず、一つ前のサイズに戻るか、レッジリカバーファイルを活用して直進性を確保する。使用中は根管内で5~7mm程度のストロークで細かくファイルを振動させるペッキング動作を行い、切削と排屑を繰り返す。刃に付着した削屑は適宜抜去して洗浄し、根管内も次亜塩素酸等で洗浄しながら進めることで、目づまりによるトルク急上昇や折損リスクを下げることができる。
機器互換性については、専用のモーターを必要としない点が経営上も助かる。すでに根管治療用エンジンを備えていれば新たな機器投資なしに導入可能であり、回転モードで使用するファイルなので特殊なレシプロ(往復運動)モーション対応の機種でなくても問題ない。ただし、安全機構としてモーターのオートリバース機能(トルク値閾値に達すると自動反転・停止する機能)を使うことが推奨される。これは過負荷時のファイル折損を予防するためで、現在多くのエンドモーターに標準搭載されている。使用するモーターが古い場合にはそうした安全機能がないこともあるため、その際は術者が常に負荷に注意して操作し、無理な力をかけないことが大切である。
滅菌・再使用に関しては、ボンデント NiTi ファイルも他社製と同様オートクレーブ滅菌が可能である。材質はニッケルチタン合金で耐蝕性も高いため、適切な洗浄と滅菌処理を行えば繰り返し使用はできる。しかしながら、NiTiファイル全般に言えることだが、使用回数を重ねるごとに金属疲労による破折リスクは高まる。メーカーから公式に「◯回まで使用可能」といった明示はないが、多くの臨床家は1本のファイルを数回の症例で使ったら新品と交換しているのが実情だろう。特に狭窄の強い根管や大臼歯の急カーブ根管に使用したファイルは、それだけでかなり応力が蓄積している可能性がある。一度でも根管内で変形(スプリングバックの消失やねじれ)が生じたファイルは直ちに廃棄し、新しいものを使うことで重大な破折事故を未然に防ぐことができる。またスタッフ向けには、使用済みファイルの洗浄時に他の器具と区別し、刃部に付いた根管充填材や歯質片を丁寧に除去するよう教育しておくと良い。切れ味が低下した状態で再利用すると、かえって折損リスクが増えるだけでなく処置時間も延びて本末転倒であるため、常に良好なコンディションのファイルを使う運用体制を整えることが望ましい。
医院経営面から見た導入効果と費用対効果
ボンデント NiTi ファイルが注目される理由の一つに、その優れたコストパフォーマンスがある。実売価格は公表ベースで1パック(6本入)あたり約5,100円とされ、1本あたりに換算すると850円前後となる。これは他社の一般的なNiTiエンジンファイルよりも低価格帯に位置し、従来「保険の根管治療にNiTiを使うと材料代が高すぎる」と言われていた問題を緩和するものだ。例えば、あるメーカーのNiTiファイルが1本あたり1,500円程度の場合、1症例で3本使用すれば4,500円のコストがかかる計算になる。一方、本製品であれば同じ条件でも2,550円程度に収まり、約2,000円のコスト削減となる。この差は保険診療の点数内で術者の負担となる部分であり、ケース数が積もれば年間数十万円規模の経費圧縮につながる。特に保険中心で診療しているクリニックにとって、根管治療1本あたりの収益率が改善する効果は無視できない。
チェアタイム短縮による収益への貢献も見逃せないポイントである。NiTiエンジンファイルの使用により処置時間が短縮すれば、1回のアポイントで複数の根管治療処置をこなしたり、あるいはこれまで2~3回に分けていた根管形成を1回で完了させることも可能になる。保険点数上は回数を重ねた方が多少加算が付くこともあるが、患者の通院負担軽減や院内の回転率向上によるトータルな診療効率の向上はそれ以上に大きな価値を持つ。例えば、根管治療に要する延べ時間を1症例あたり30分短縮できれば、その空いた時間で他の自費処置や追加の保険患者を受け入れることができる。結果として医院全体の売上向上や、新規患者の受け入れ余力増加による増患効果が期待できるだろう。材料費を多少かけても人的生産性で取り返すという発想は、自費診療だけでなく保険診療でも十分に成り立つ経営戦略である。
リスク軽減による隠れたコスト削減もROI(投資対効果)の観点で考慮すべき点だ。NiTiファイル折損は重大なアクシデントであり、折れたファイル片の除去には専門医への紹介や外科的処置が必要になる場合もある。そうなれば患者の信頼低下や無償対応の時間コストなど、目に見えない損失が発生する。ボンデント NiTi ファイルは前述の通りフラットカット設計や高い柔軟性で折損リスク軽減が図られている上、仮に破折が起きても直線スペースを確保しやすい工夫がある。実際に破折事故ゼロを保証するものではないが、少なくとも道具起因のトラブル発生確率を下げることは医院のリスクマネジメントとして有益である。
さらに、自費診療への波及効果として、質の高い根管治療を提供することで患者満足度を向上させられる点も考えたい。保険内であっても先進的な器具を用いて丁寧な処置を行えば、「この医院は根管治療が上手だ」という評判につながる可能性がある。口コミで根管治療難民の患者が紹介で来院するといった増患効果や、他の高度治療(インプラントや矯正等)への信頼醸成にもつながり、長期的には経営利益を押し上げる要因となるだろう。
総じて、ボンデント NiTi ファイルの導入は初期投資こそ比較的軽微で(せいぜい数万円分のファイル在庫と必要ならエンドモーターの購入程度)、その見返りとして得られる診療効率化・リスク低減・患者満足度向上の効果は大きいと評価できる。ただし、真のROIを最大化するには、導入した機材を使いこなし、その利点を十分に引き出すことが前提となる点には留意が必要である。
臨床で使いこなすためのポイントと注意事項
新しいNiTiファイルシステムを導入した際、最初の関門となるのが術者およびスタッフの習熟である。ボンデント NiTi ファイル自体の操作は他社製品と大きく変わらないが、ファイルラインナップが豊富なだけに、どの症例でどの組み合わせを使うか戦略を立てる必要がある。導入初期には、まずシンプルな湾曲の少ない根管で試して感触を掴むのがおすすめだ。付属カタログやメーカーの提案するプロトコルでは標準的な使用順序が示されているため、それに沿って練習用模型や抜去歯で一連のステップをシミュレーションしてみると良い。とくにレッジリカバーなど特殊ファイルの出番や使いどころについては、事前に頭で理解しておくことで、いざ臨床で「ここで使ってみよう」という判断がスムーズになる。
使用上の注意点としてまず挙げたいのは、各ファイルの適正な使用範囲を守ることである。例えば、テーパーの大きいファイル(#25/08や#30/09など)は主に根管上部~中部の拡大に用い、無理に強湾曲の根尖付近まで入れない。また先端径の大きいファイルは、細い根管への適用を避ける。これは当たり前のようだが、治療中はつい「もう少しで根尖まで届きそうだ」と欲張ってしまいがちだ。各ファイルの役割を明確に意識し、必要以上の深入りをしないことが結果的に破折予防にもつながる。
操作時はNiTiファイル特有の「削らせすぎない」タッチを心がけたい。前述のように自己ねじ込みは抑えられているものの、エンジンの力で削る以上、手用ファイルより短時間で多くの歯質を切削できてしまう。ペッキングモーションで少し削ったら一度引き抜いて洗浄し、また挿入するという反復と洗浄のリズムを大切にする。時間にして1~2秒ごとに小刻みに進め、5秒以上連続で切削し続けないイメージだ。長く削り続けるとモーターの過負荷アラームが鳴る前にファイルが塑性変形を起こすこともあり得るため、こまめに様子を見ながら進めることが肝要である。
院内体制としては、術者以外のスタッフにもNiTiファイルの利点や注意点を周知しておくとよい。例えばアシスタントや衛生士にも、手渡しや交換のタイミングで「次は赤いラインの#25/08をください」などと伝える場面がある。色別・サイズ別の識別をチーム全員が把握していれば、オペレーションがスムーズになる。また、使い終わったファイルの本数管理も徹底しよう。万一トレー上でファイルを紛失すると、廃棄時のトラブルや最悪院内で誰かがケガをする危険もある。基本的なことだが「使った本数=回収本数」を必ず確認し、破折や落失がないかチェックする運用を習慣づけたい。
患者への説明という点では、NiTiファイル自体をことさら強調する必要はないものの、根管治療にかかる時間短縮や精密性向上といったメリットは伝えて差し支えない。例えば「細く曲がった神経の管を機械のやすりで丁寧に掃除するので、できるだけ歯を残せるように治療します」「機械を使うことで治療時間も短くできます」など、患者が安心し前向きに治療を受けられる声掛けをするとよい。ただし「これを使えば必ず治ります」など効果を断言することはできないため、あくまで治療の質向上のための工夫として紹介する程度に留めるのが無難である。特に保険診療内の場合は、特殊な機械を使うことを過度にアピールすると費用に誤解を生む恐れもあるため注意したい。
適応症と適さないケース
ボンデント NiTi ファイルは、基本的にはあらゆる根管治療症例に幅広く適応できる汎用性を備えている。単根管の前歯から複数根管の大臼歯まで、適切なサイズ選択と手順により対応可能だ。特に、その柔軟性と多段階のファイル構成によって、中等度までの湾曲根管や石灰化の少ない通常の根管治療では高い効果を発揮する。保険診療の範囲で頻繁に遭遇するような平均的難易度のケースであれば、スムーズな根管形成が行えるだろう。
一方で、適さないケースとして考えられるのは極端に条件の悪い根管や特殊な状況である。例えば、著しい石灰化が進んで根管径がほとんど消失している症例では、NiTiファイルを挿入すること自体が困難である。このような場合はまず手用の細径ステンレスファイルでの踏査と、EDTA等による軟化を地道に行う必要があり、NiTiファイルは出番がないかもしれない。また、湾曲が急カーブを通り越してS字状に複雑な根管では、いくら柔軟とはいえNiTiファイルが中間で引っ掛かり、根尖まで到達できない可能性がある。そうした根管では無理にNiTiで攻めず、手用ファイルで少しずつ拡大する方が安全な場合もある。
根管内に既に器具破折片が存在するケースも注意が必要だ。ボンデントのレッジリカバーやフラットカットデザインは破折片の除去補助を想定しているが、実際に根管内に金属片がある状態で回転ファイルを使うことはさらなるスタックや破折を招きかねない。まずは超音波チップ等で破折片の緩みを作り、可能であれば一旦除去してからNiTiで再形成する方が安全だ。メーカーからは関連製品として超音波用のFRAG Remover(フラグリムーバー)という破折片除去ツールも提案されているが、これも取り出し自体を保証するものではないため、状況次第では専門医への相談も視野に入れる。
また、開放根尖や未完成歯根など、根尖孔が大きすぎて通常のファイルでは対応しきれない症例では、本製品の最大径#60をもってしても十分でない可能性がある。そうしたケースではMTAによる封鎖や特殊なプラガーの使用が検討事項となり、NiTiファイルの役割は限定的となるだろう。
最後に留意すべきは、患者要因として金属アレルギーがある場合だ。NiTi合金にはニッケルが含有されており、極度のニッケルアレルギー患者には本製品のみならず一般的なNiTiファイルの使用自体を避ける配慮が必要になる(根管内使用のため全身への影響は少ないと考えられるが、絶対ではない)。
以上のように、ボンデント NiTi ファイルは標準的な根管治療には幅広く適応可能だが、症例によっては従来法や他の器具を併用・代替する判断が求められる。術者は各症例の難易度を見極め、ケースバイケースで最適な手段を選択することが重要である。
どんな医院・術者に向いているか
新しい器材の導入を判断する際、医院の診療方針や術者の価値観によって適否は変わってくる。ここではいくつかのタイプ別にボンデント NiTi ファイル導入の向き不向きを考察してみよう。
1. 保険診療中心で効率重視のクリニック
日々多くの患者をさばき、保険診療が売上の大半を占める医院にとって、本製品は非常にマッチすると言える。理由は明快で、処置のスピードアップによる回転率向上と、低コストによる収支圧迫の回避が両立できるためである。従来、保険の根管治療ではコスト増を嫌って手用ファイルに頼っていた先生も、ボンデントの価格帯であれば経費的なハードルが下がるだろう。むしろ短時間で確実な根管形成ができれば再感染や再治療のリスクも減り、長期的に見て保険診療の質と経営効率を同時に高めることになる。ただし、術者がNiTiファイル操作に不慣れな場合、最初は手間取る可能性もあるため、習熟までのトレーニングは必要だ。それでも、将来的な人件費節減や患者満足度向上まで考えれば、このタイプの医院には是非とも検討をおすすめしたい。
2. 自費診療中心でクオリティ重視のクリニック
マイクロスコープやCTなども駆使し、徹底した精密治療を売りにしている医院では、既に高性能なNiTiファイルを導入済みの場合が多いだろう。そのような医院にとってボンデント NiTi ファイルは絶対必要ではないかもしれないが、補助的なツールとして導入する価値がある。特にレッジリカバーや各種サイズ展開は、難症例での引き出しを増やしてくれる可能性がある。例えば、既存の主要システムではカバーしきれない極小根管用にグライドパス専用ファイルだけボンデントを使うとか、破折ファイル除去の際にフラットカットのオープナーでスペースを稼ぐ、といった柔軟な活用も考えられる。コスト面は自費治療費に十分転嫁できるため問題にはならない。このタイプの医院では導入によって症例対応力がさらに向上し、より難易度の高い症例も受け入れやすくなるというメリットが考えられる。ただし既存システムとの併用に際して、スタッフへのサイズ体系の説明や在庫管理だけは煩雑にならないよう工夫が必要だ。
3. 外科・インプラントが中心で根管治療は最低限のクリニック
外科処置や補綴に注力しており、根管治療は専門医や近隣に紹介するケースが多い医院では、NiTiファイルへの投資優先度は高くないかもしれない。しかし、そうした医院でも緊急時の疼痛緩和や抜歯回避のために一次根管治療を行う場面はゼロではない。ボンデント NiTi ファイルは低コストゆえ、「念のため」の導入でも大きな負担にはならないだろう。万一、根管治療専門医が近くにいない地域であれば、自院で完結せざるを得ない場面もある。その際にNiTiファイルがあると短時間で処置を終えられ、他のメイン業務への影響を最小限にできる。一方で、症例数が少ないままでは術者の習熟が進まない恐れもあるため、導入したものの使いこなせないリスクもある。このタイプの場合、購入だけして宝の持ち腐れにならないよう、院長自身が一定数の根管治療を行って技術を維持する意思があるかが導入判断のポイントとなる。
4. 開業準備中・若手歯科医師
これから開業を控えている先生や、勤務先で新たな治療ツールを提案したい若手歯科医師にとっても、ボンデント NiTi ファイルは有力な選択肢だ。最新の治療クオリティを標榜したいが設備投資は抑えたいという場合、本製品の低コストで最新技術を導入できるバリューは見逃せない。開業直後は症例数も多くないため、手用ファイルで時間をかけてもいいと思うかもしれない。しかし患者の目は厳しく、今や根管治療にエンジンを使うのは特別な医院だけではなくなっている。むしろNiTiファイルを使わず何回も通院させるようでは、「昔ながらの遅い治療だ」という印象を与えかねない。若手であれば習得も早いはずなので、最初から効率的な治療フローを構築する意味でも導入するメリットは大きいだろう。注意点があるとすれば、あれもこれも最新機材を入れすぎて資金を圧迫しないことだが、ボンデントであれば初期在庫を揃えても数万円程度で済むためコスト面の心配は比較的少ない。
以上のように、ボンデント NiTi ファイルは幅広い診療スタイルの医院に適合しうるが、特に「保険中心で効率化志向」および「若手で最新技術を積極導入」のケースではその価値が際立つように思われる。一方、導入後に使いこなさなかったり既存の上位システムと重複する恐れがある場合には、無理に切り替えず必要な部分だけ採用するといった柔軟な発想でも良いだろう。
よくある質問(FAQ)
Q. 保険診療でもボンデント NiTi ファイルを使って問題ないのでしょうか?
A. 問題ありません。本製品は「管理医療機器」として正式に承認・認証を受けた歯科用器材であり、保険診療の範囲内で使用可能です。保険請求上も特別な算定項目はなく、使用したからといって違法ではありません。ただし、材料費は包括点数に含まれるためクリニックの負担にはなります。しかしボンデント NiTi ファイルは1本あたり数百円台と比較的安価であるため、保険収入を圧迫しにくい水準と言えるでしょう。
Q. 耐久性はどの程度ありますか?何回くらい使えますか?
A. 明確な回数は製造元から提示されていませんが、NiTiファイル全般の経験則として5回程度の使用で新品と交換するのが無難です。試用中にわずかでもファイルが変形した場合は、その時点で交換すべきです。ボンデント NiTi ファイルは熱処理によって耐久性が向上しており折損しにくい設計ですが、使い回し過ぎればいずれ金属疲労は蓄積します。基本的には患者ごとに新品を用意し、ケースによって使った本数が少なければ滅菌して次回に回すくらいの運用が安全でしょう。常に刃先の状態を観察し、少しでも引っかかりや切れ味低下を感じたら早めに新品に替えることが、長い目で見てコストパフォーマンスを高める秘訣です。
Q. 使用するには特別なモーターや機器が必要ですか?
A. いいえ、特別な機器は不要です。一般的な根管治療用エンドモーターとRAラッチ型コントラで使用できます。連続回転用のファイルなので、レシプロ専用機でなくても大丈夫です。推奨回転数やトルク値も他社のNiTiファイルと同様で、例えば300rpm前後、2N・cm程度が目安となります(細いファイルでは低トルク設定が安全です)。唯一注意するとすれば、古いモーターでオートリバース機能が無い場合です。その場合は過負荷を術者が感じ取ったら素早くモーターを止めるなど、手動で折損予防を行う必要があります。
Q. 他社のNiTiファイル(プロテーパーやジルコニア製ファイル等)と比べて優れていますか?
A. ボンデント NiTi ファイルは特にコスト面と特殊ファイルの充実に強みがあります。一方、切削性能や耐久性といった基本性能は他の一流メーカー品と同等レベルを目指しているものの、臨床長期データの蓄積は発売から日が浅い分少ないです。そのため「どちらが優れている」と断言することはできません。ただ、実際に使った歯科医師からは「従来のNiTiに遜色なく使える」「折れにくさは体感できる」といった声もあるようです(メーカー提供情報や展示会でのコメント)。結局のところ、自院の症例傾向や術者の好みによって使いやすいシステムは異なります。現在使用中のファイルに大きな不満がなければ無理に乗り換える必要はありませんが、コスト負担や特定の症例対応で課題を感じているなら、一度ボンデントを試して比較検討してみる価値はあるでしょう。
Q. ファイルが根管内で折れた場合の対処法はありますか?
A. ボンデント NiTi ファイル自体には、折れたファイル片を除去する機能はありません。ただし本製品の設計上、折れ込みを減らす工夫や、仮に破折した際にも周囲に直線的なスペースを作りやすい特徴があります。折れたファイル片の除去には、通常は超音波チップやマイクロスコープ下でのテクニックが必要です。茂久田商会からは別売でFRAG Removerという破折片除去用ツールも提供されていますが、成功率は症例によります。予防的には、オートリバース機能付きモーターの使用や無理な圧をかけない操作で折損を極力回避することが第一です。万一折れてしまった場合は無理に自力で取ろうとせず、可及的速やかに専門医に相談することも検討してください。幸い、本製品を正しく使えば破折リスクは低く抑えられるため、過度に心配せず適切な手技で運用することが大切です。