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歯科用のNi-Ti(ニッケルチタン)ファイル「デントクラフトREファイル」を徹底解説

歯科用のNi-Ti(ニッケルチタン)ファイル「デントクラフトREファイル」を徹底解説

最終更新日

奥歯の深い根管を治療中、手用ステンレスファイルが引っかかって進まず冷や汗をかいた経験はないだろうか。無理に押し進めれば根管を削りすぎてしまう(いわゆる「トランスポーテーション」)か、最悪ファイルの破折という事態にもつながりかねない。保険診療の範囲では使い捨て前提の高価なNiTiロータリーファイル導入に二の足を踏んでいた先生も多いであろう。しかし近年、特殊熱処理を施した高柔軟性NiTiファイルが低コストで登場し、根管治療の効率と安全性を飛躍的に向上させる可能性が出てきた。それが株式会社ヨシダの「デントクラフト REファイル」である。本稿では、このNiTiファイルシステムを臨床と経営の両面から徹底解説し、先生方が抱える「治療時間を短縮したい」「破折リスクを低減したい」「投資に見合う価値があるか判断したい」といった表裏の悩みに答えていく。

ヨシダのNiTiロータリーファイル「REファイル」

デントクラフト REファイルは、株式会社ヨシダが製造販売する歯科用ニッケルチタン製ロータリーファイルである。根管形成用の電動式ファイルとして医療機器認証を受けており(認証番号301ALBZX00015000、管理医療機器)、2020年に発売された比較的新しい製品である。従来は保険算定が困難だったNiTiファイルだが、本製品は1本あたり970円(税別)という低コストを実現し、発売当初より「NiTiファイルの保険診療導入」をアピールしている。実際、2023年の歯科診療報酬改定で根管形成加算の施設基準緩和が行われ、保険診療下でもNiTiファイルを活用しやすい環境が整いつつある。

製品名の「RE」はメーカーから正式な略称の説明はないが、「Root Canal Enhancement」など根管治療を刷新するコンセプトを示唆しているとも考えられる。デントクラフト REファイルは単一の製品ではなく、根管治療のステップに応じた4種類のファイル群から構成される点が特徴である。すなわち、グライドパス形成用の「GP」、複数ファイルで根管全長を拡大する「CT」、段階的拡大用の「VT」、そして1本だけで根管形成を完了し得る「ONE」である。GPはGlide Pathの頭文字で、根尖まで滑らかな通路を確保する段階に用いるファイルである。CTとVTはともに根管拡大用のファイルセットで、後述するように設計思想が異なる2バリエーションとなっている。ONEは文字通り1本で根管形成を完結させることを狙ったファイルで、レシプロ(反復回転)モーション専用に設計されている。デントクラフトというブランド名は、ヨシダ社の歯科用器具・材料ラインの一つであり、本REファイル以外にもダイレクトボンディング用の充填器具「TSURUGI(ツルギ)」や、ガッタパーチャ除去器具の「GPX」、金メッキ処理を施した経済的スクリューポスト「デントクラフト ゴールドスクリューポスト」など、多彩な製品を展開している。REファイルは、その中で根管治療(エンド)のフルラインナップを標榜する要となる製品である。

主要スペックと臨床的意義

デントクラフト REファイル最大の特徴は、その卓越した柔軟性である。特殊な熱処理によってNiTi合金の特性を調整し、常温でマルテンサイト相に近い柔軟性を発揮するよう設計されている。その結果、ファイルのスプリングバック(弾性戻り現象)が生じない。一度曲げても従来のNiTiのようにピンと真っ直ぐに戻らず、曲がったままの形状を保つため、カーブの強い根管にも沿わせやすい。臨床的には、根管内でファイルが元の直線形状に戻ろうと押し返す力が減ることで、根管の形態に忠実に追従しやすく、意図しない根管偏位(トランスポーテーション)や段差形成(レッジ)を起こしにくい傾向がある。また術者がファイル先端にあらかじめカーブ(プレカーブ)を付与することも可能であり、入口から強い湾曲がある根管でもガイド付きで挿入し、スムーズに根尖まで到達させることができる。メーカーも「ファイル破折のリスクを軽減」と謳っている通り、この柔軟性はファイルへの過大な応力を和らげ、折れにくさにも寄与する。実際、NiTiロータリーファイルは手用ステンレスファイルと比べ根管形成時間の短縮と形成後の根管形態の改善が報告される一方、使用者の未熟さによっては機械的破折が増えるリスクも指摘されている。REファイルの高い柔軟性は、そのようなリスクを構造面で極力抑えようとするアプローチと言える。

次に豊富なラインナップにも注目すべきである。REファイルはあらゆる根管形態・サイズに対応できるよう、多数の長さ・テーパー・サイズバリエーションを備えている。例えばCTシリーズでは、ファイル長が19mm・21mm・25mm・31mmの4種、テーパーは0.04と0.06(19mmのみ0.08もあり)の2種、先端サイズは#15から#60まで幅広く網羅されている。組み合わせとして、たとえば「25mm長・0.04テーパー・#25」というように、多彩な規格のファイルを取り揃えている。VTシリーズでは「C1」「A1」など独自のサイズ名が付されており、先端から根元に向かってテーパーが変化するバリアブルテーパー設計となっている。これはファイル全長にわたり接触する根管壁の範囲を限定することで、切削時の摩擦抵抗とファイルへの負荷を減らす狙いがある。具体的には、根管上部を素早く拡大する太めのCファイル(CX/C1/C2)と、根管下部を精密に仕上げる細めのAファイル(A1~A5)の組み合わせで、上から下まで徐々に拡大していくプロトコルである。VTはProtaperなど従来のマルチテーパーシステムに近い発想で、少ない本数で効率よく形成できる反面、各ファイルの役割が専用化されるため指定のシーケンスに沿った運用が求められる。一方のCTシリーズは全ファイルが一定テーパー(Constant Taper)で、手用ファイルに近い感覚で任意の順序・本数でステップアップしやすい。必要なサイズだけ選んで使う柔軟な運用が可能であり、ファイル毎の先端径とテーパーが明示されていることで、形成後の根管形態を予測しやすい利点もある。例えばCTの0.04テーパー系で形成すれば、そのまま0.04テーパー対応のガッタパーチャポイントで単一根管充填を行う、といった計画が立てやすい。実際、ヨシダはREファイル各サイズに対応する専用ペーパーポイントやガッタパーチャポイントもラインナップしており、根管洗浄・充填まで一貫した運用をサポートしている。

操作性の面では、REファイルはシャンク(柄部)長が11mmのショートシャンク仕様になっている。一般的なエンジンリーマーより柄が短いことで、開口量が小さい患者や遠心側臼歯の深部でもハンドピースヘッドが頬粘膜に干渉しにくく、奥歯の治療でも操作スペースを確保しやすい。また、カラーコード等でサイズ識別できるため、複数ファイルを連続使用する際も混同を防げる(ただし後述のようにパッケージデザインについては改善の余地があるとの指摘もある)。切削効率について公表データはないが、刃部の形状は各種サイズともステンレスのKファイル等と同様にスパイラル状のフルートが施されており、NiTi特有の弾性と相まって効率良く象牙質を削除できるよう最適化されていると考えられる。実際NiTi製のロータリーファイル全般が手用ステンレスファイルよりも高い切削性能と再現性を示すことが知られており、REファイルも臨床で同等のパフォーマンスを期待できる。ただし、熱処理による柔軟性向上の裏返しで剛性が低く感じられるため切削感がマイルドだという声もある。実際に本家デンツプライ社の有名ファイル(WaveOne等)から乗り換えたユーザーからは「刃先の硬さが異なるせいか切削効率が悪く、グライドパス形成から#25/.07一本での形成に移る際に苦労した」との指摘もある。これは極めて柔軟なマルテンサイト系NiTiファイル全般に当てはまる現象であり、安全性とのトレードオフとして認識すべき点である。必要に応じて手用ファイルや別径のファイルで段階的に切削し、無理な力をかけず進むことがスムーズな形成のコツとなる。

互換性・運用方法

機器の互換性については、デントクラフト REファイルは国際規格のRAラッチ型シャンクを採用しており、基本的に市販のあらゆるエンド用ハンドピース・モーターで使用可能である。メーカー推奨はヨシダ社のエンド用モーター「e-connect Pro」だが、実際には他社製モーターとの相性も良好で、ユーザーからはモリタ社のTriAuto ZX2プラスなどと組み合わせて問題なく使用できたとの報告もある。重要なのはモーター側がNiTiファイル用の低速回転・トルク制御機能を備えていることである。具体的な推奨設定値は、たとえばCT/VTシリーズの連続回転モードでは300rpm前後・最大2N·cm程度、グライドパス用GPファイルではやや高速の500rpm程度・3N·cmなどとされる(使用マニュアルに準拠)。ONEファイルを使用する際は、エンジンのレシプロケーション機能(正逆反復運動)を有効にし、推奨の角度・速度プロファイルに設定する必要がある。これはWaveOneなどと同様、一定角度の時計方向回転とわずかな逆回転を交互に繰り返すことで、1本のファイルで根尖まで切削を進める手法である。対応するモーターを持たない場合、ONEファイル本来の性能を発揮できないため注意が必要だ。ただしCT/VT/GPについては通常の連続回転モードで問題なく、特殊な機材は不要である。

他機器・ソフトとの連携という点では、デジタルデータの扱いなどは関係ないため互換性問題は少ない。強いて言えば電気的導電性があるNiTi素材のため、根管長測定器(エーペックスロケーター)との併用は良好である。例えばモーター内蔵の根管長測定機能(モリタのOTRモード等)や別置きの測定器でも、金属製ファイルゆえ正確な信号が得やすい。軟らかいプラスチック製ファイル(グライドパス用器具に稀にある)のように信号ロスする心配はない。もちろん根管長測定時には低速回転で慎重に操作する必要があるが、本ファイルをそのまま測定電極として利用可能なのは運用上の利点である。

院内体制への組み込みについては、まず滅菌・感染対策の側面がある。REファイルはディスポーザブル(単回使用)製品ではなく、適切な清掃・滅菌処理を行えば複数回使用することも可能である。ただし、NiTiファイルは使用毎に微細な金属疲労が蓄積し破折リスクが増すため、メーカーでは1本あたりの低価格を活かして「基本は患者ごとに新しいファイルを使用する」ことを推奨している。現場判断では「4〜5回程度までなら再使用する」という声もあるが、臨床的な根拠はなく自己責任となる。コストとリスクのバランスを踏まえ、使い回す場合でも早期に交換することが肝要である。再使用時には十分な洗浄(超音波洗浄器を用いて切屑や有機物を除去)を行い、オートクレーブ滅菌(121℃20分間または134℃5分間等)で完全に滅菌する。ファイルホルダーなどに挟んで滅菌する際は、他の器具と接触して物理的に曲がったり欠けたりしないよう注意が必要である。また滅菌後には肉眼またはルーペでファイル先端の損傷やネジレ変形がないか確認し、少しでも異常があれば廃棄する。熱処理NiTiは変形しにくいが、目に見えない内部亀裂が蓄積している可能性もあるため、疑わしい場合の潔い交換が結果的に安上がりとなるだろう。

院内教育の面では、新たにNiTiエンジンリーマーを導入する際、歯科医師本人はもちろんスタッフも基本的な取り扱い法を共有しておく必要がある。具体的には、各ファイルの用途(GP/CT/VT/ONEの違い)や識別方法、使用後の処理(廃棄か洗浄再滅菌か)について、院内マニュアルを整備するとよい。特にCTとVTで同じ#25でも形状が違うなど、慣れないうちは紛らわしい点もあるため、パッケージにマーカーを付けたり、引き出し内を種類別に整理したりと工夫したい。実際ユーザーからも「ケースの見分けが付きづらく嵩張る」との声があるため、購入直後にクリニック流の収納法にリパッケージするのも一案である。メーカーもデモや講習会を通じて使い方の指導を行っているので、可能であればスタッフと共に参加し正しい運用知識を身につけたい。

経営へのインパクト

低価格を売りにするREファイルだが、実際どの程度コスト削減や収益性向上に寄与するのかを具体的に考えてみよう。まず材料費の観点では、例えばCTファイルを用いて大臼歯3根管を形成するケースを想定する。根管あたり#15、#20、#25の3本を使用し、それぞれ新品で用いたと仮定すると、1症例で約9本のファイルを消費する計算になる。標準価格ベースで1本970円なので材料費は約8,730円(税別)となる。これは決して小さくない額だが、実際の開業医が歯科ディーラーと取り引きする際には更に割引が効くことが多い。また、多くの臨床家は1本のファイルで複数根管を連続で処置している(根管内で使用している限り同一患者内での交差感染リスクは無いため)ため、実質的な本数はもっと少ない。例えば3根管を同一ファイルセットで対応すれば症例あたり3本(約2,910円)に圧縮できる。加えて手用ステンレスファイル等の消耗も大幅に減る。NiTiロータリーで#25まで形成すれば、細いステンレスKファイルは初期の#10程度までで済むので、根尖保持のために何本もステンレスを曲げて使い潰す必要が無くなる。つまり間接的な器材コスト削減効果も見逃せない。

一方、人件費や機会損失の削減効果は材料費以上に大きなメリットとなり得る。NiTiファイルの使用で根管形成にかかる時間は手用に比べて明らかに短縮できる。一般に、煩雑な湾曲根管をステンレス手用だけで#25程度まで拡大するには20〜30分を要することもあるが、ロータリーファイル併用なら10分程度で完了する場合も多い。仮に1症例あたり10分のチェアタイム短縮が実現すれば、例えば1日6症例の根管治療があるクリニックでは毎日1時間の診療枠が捻出できる計算になる。この時間に別の有料処置(補綴や自費処置など)を追加できれば、その売上はそのままNiTi導入の利益と言える。仮に1時間で技術料1万円の処置を1つこなせれば、日1万円の増収=月20万円以上の増収となり、ファイル代の支出を大きく上回るリターンが得られる。また患者一人あたりの通院回数を減らし治療完了までの期間短縮にもつながるため、患者満足度の向上や口コミ増加といったプラス効果も期待できる。特に若年層の患者は「根管治療が長引かないか」を気にする傾向があり、早期に終わればその後の補綴や予防メンテナンスにも積極的に移行しやすくなる。

もちろん、導入に際して初期投資も考慮しなければならない。既にエンド用エンジンがある場合は消耗品購入だけで済むが、もし未導入ならモーター・コントローラーの購入(約数十万円)が必要となる。ヨシダのe-connect Proは相場より手頃と言われるが、それでも20~30万円程度は見込まれる。しかしエンドモーターは耐用年数が長く(5年以上は十分使用可能)、根管治療以外にもコア除去やファイバーポスト除去、インプラントのトルク管理など応用範囲が広い機器である。一度設備すれば医院全体の診療効率や診療幅を高める汎用ツールともなるため、REファイル導入を機にエンドモーターも揃える価値は高い。また医療費控除の減価償却で数年に分散計上できるため、キャッシュフロー面での大きな負担にはなりにくい。消耗品であるファイル代も、例えば年間100症例で300本使ったとしても約30万円程度(値引き前)であり、医院全体の材料費から見れば許容範囲に収まることが多いだろう。

投資対効果(ROI)の観点では、NiTiファイル導入により失敗症例の削減と再治療コストの低減も無視できない。手用器具のみで処置していた時代には、どうしても根管の清掃・成形が不十分で再根管治療や抜歯に至ったケースもあったはずだ。NiTiロータリーの活用で根管形成の質が向上すれば、長期予後の改善ひいては補綴物の長期安定にもつながり、患者離れを防いで長期にわたる信頼関係を築ける。直接的な売上増とは言いにくい部分ではあるが、定期メンテナンス等で患者が継続来院する限りは医院の安定収入に寄与する。また「最新機器を駆使した精密根管治療」を標榜し、自費診療メニュー(マイクロスコープ併用の自費エンドなど)としてアピールする戦略も考えられる。日本の広告規制下では表現に限界があるが、院内掲示や説明時に「NiTiエンジンリーマーによる効率的で質の高い根管治療を行っています」と伝えるだけでも患者の安心感は高まる。適切な範囲で技術力のアピール材料にもなる点で、REファイル導入はマーケティング的にもプラスに働くだろう。

使いこなしのポイント

新しいNiTiファイルシステムを使いこなすには、最初の症例選びと基本プロトコルの遵守が重要である。導入直後はまず比較的単純な根管(例えば真っ直ぐで太めの単根管など)から試し、ファイルの挙動や切削感覚に習熟することを勧めたい。いきなり難易度の高い湾曲根管で試すと、思わぬ事故につながる可能性がある。初めて回転系NiTiを使う先生は、そのスピードと切れ味に驚くかもしれない。同時に「削れている感触」が薄いため、つい押し込みすぎてしまう危険もある。軽い力で短いストローク(ピーニング動作)を繰り返し、3~5秒ごとにファイルを抜いて清掃・灌流するという基本操作を必ず守る。NiTiは一度に深く削ろうとせず、少し入れては抜き、また入れては抜きを繰り返す方が効率的で安全である。象牙質の削りかすがフルート(溝)に詰まると急激にトルク負荷が増え、ファイル破折の主因となるためだ。根管内は常に湿潤状態を保ち、NaOClなどで頻繁に洗い流すこともファイルの寿命を伸ばし切削効率を落とさないコツである。

グライドパスの確保はロータリーファイル使用の大前提である。REファイルのGPシリーズを投入する前に、必ずステンレス製の#8または#10のKファイルで根尖までの通路を手作業で確保しておく。これを怠ると、狭い根管内でロータリーファイルがいきなり負荷を受けてスタックし、破折リスクが高まる。GPファイル自体も細径とはいえNiTi製なので、無理に初通りに使えば破折しかねない。「まず#10、次にGP、そして本格拡大へ」という順序を習慣づけることが、安全運用の鉄則である。グライドパス取得後も、カーブが強い場合は手用とエンジンのハイブリッドで進めるのが望ましい。例えば根尖近く数ミリだけが急カーブなら、そこは最後まで#15手用で慎重に仕上げ、そこから上部をNiTiで広げるという柔軟な対応も必要だ。NiTiの過信は禁物である。

ファイルサイズ選択については、CTシリーズであれば術者の裁量でゴールサイズを決められる。一般的な小臼歯・大臼歯では#25か#30あたりを最終拡大径とすることが多い。感染根管でしっかり洗浄したい場合や、後の根管充填をシングルポイントで確実に行いたい場合には#35~40まで拡大することもあるだろう。ただし過剰拡大は歯根破折リスクを高めるため、歯質量や曲がり具合と相談で決める。VTシリーズを使う場合は、セットの中のA系ファイル(おそらくA5が最大径)で想定されたゴール径になるので、マニュアルに沿って順番に使用するだけである。決められたシーケンスを飛ばさないことが肝心で、たとえばA1を飛ばしてA2に進む、といったことは厳禁だ。ONEファイルを使う場合、メーカーは「場合によっては本数を追加してもよい」としている。実際、根管の太さや湾曲度によっては、いきなり太いONEファイル(例えば#25相当)では入らないこともある。その際は無理せず、CT/VTの細いファイルで予備的に拡大してからONEで仕上げる、というハイブリッド運用も選択肢に入れるべきである。「たった1本で済ませよう」と意地を張らない柔軟さが、結果的に破折事故を防ぎ最良のアウトカムにつながる。

導入初期にはトルク制御設定の検証も行っておきたい。推奨2N·cm程度となっていても、モーターのキャリブレーション具合で微妙に感度が違う。実際にファイルを空転させたり軟らかい樹脂ブロックで試してみて、自動逆転(オートリバース)が適切なタイミングで作動するかを確認することが望ましい。またファイルの使い捨て基準も院内で決めておくと良い。例えば「1根管でも引っかかりを感じたりイヤな音がしたファイルは廃棄」「臼歯の根管2本使ったファイルは次回小臼歯用に回して処分」など、リスクの高い再利用パターンを避けるルールを作る。ファイル破折はゼロにできなくとも、ヒヤリハットの積み重ねから対策を講じていく姿勢が安全管理上重要である。

最後に患者説明でのポイントについて。患者から見れば根管治療中に何本ファイルを使おうが違いは判別できない。しかし治療後に「最新の電動器具を用いて短時間で的確に根の治療を行いました」とひと言添えれば、患者の安心感・満足感は確実に高まるだろう。もちろん医療広告ガイドラインに抵触しない範囲で、だ。実際に口腔内カメラでNiTiファイルを見せながら説明している医院もあるようだ。「見える化」と「技術アピール」は患者の信頼を得る上で有効である。REファイル自体は細かな器具なので見せてもピンと来ないかもしれないが、「コンピュータ制御で精密に治療しています」と伝えれば十分だろう。せっかく導入した先端技術であるから、患者とのコミュニケーションにも活かしてほしい。

適応症と適さないケース

デントクラフト REファイルは一般的な齲蝕失活歯の根管治療すべてに基本的には適応すると考えてよい。前歯から大臼歯まで、根管の本数や形態を問わず、適合するサイズのファイルを選択すれば対応可能だからである。特にその柔軟性と多彩なサイズ展開により、湾曲の強い根管や細く長い根管など、手用ファイルでは処置に時間がかかったり破折リスクが高かったケースで威力を発揮する。たとえば上顎大臼歯のMB根(近心頬側根)のようなS字カーブを描く難根でも、適切にガイドを付けて進めればNiTiの追従性でスムーズに根尖まで到達しやすい。複数回法から単回法への転換を図りたいケースにも適している。従来3~4回に分けていた根管治療をNiTiと併用して短縮することで、感染リスクを減らし早期に根管封鎖まで完了させることができる。結果として予後の改善も期待でき、短時間で終わることで患者のQOL向上にもつながる。

一方、適さないケースもいくつか想定される。まず極端に石灰化した根管や先細りの根管では、NiTiファイル自体が物理的に挿入できないことがある。内径が#6や#8相当の微細な部分は、NiTiよりステンレス手用ファイルの方が有効だ。NiTiは非常に柔軟な反面、細径では腰が無さすぎて前進力が生まれず、結局手作業に頼る場面も出てくる。次に湾曲が急角度で入口から近い場合も注意だ。NiTiは曲がりに沿う性質とはいえ、ヘッドが届かないような深い部位で急激に曲がる根管では、エンジンリーマー自体が真っ直ぐ入らない。無理に押し込むと根管入口付近を削りすぎてしまい、ファイルの先端は曲がりに突っかえて結局根尖まで届かないということも起こりうる。このような場合、序盤は手用である程度まで形成して直線化を図ってからNiTiに切り替えるなど工夫が要る。開発途上の永久歯や根尖孔が非常に開大した歯もNiTi単独では不向きだ。ロータリーファイルは基本的に根尖部を狭い孔に仕上げる設計のため、根尖側が開放空間のようになっていると削りすぎてしまう危険がある。そのようなケースではMTA根充など特殊対応が必要で、そもそも器具選択の問題ではないが、NiTiの出番ではない。

再根管治療(リトリートメント)の場合も、一度充填剤を除去して根管内を清掃する必要があるため、いきなりREファイルを使うのは適さない。ガッタパーチャ除去には専用器具(前述のDentcraft GPX等)やペーパーなどを用い、その後の根管再形成段階でNiTiを投入するのが基本である。固着したポストや折れたファイルの除去も同様で、超音波チップなどの出番となるためNiTiファイルの直接的適応ではない。術者の技量的に難しいケースもあるだろう。NiTiロータリーは確かに有用だが、扱いに自信が持てない場合やラバーダム防湿が困難な症例では、敢えて使用を見送る判断も時には必要である。無理に使って破折させてしまえば本末転倒である。全身疾患等で長時間の診療が困難な患者には、NiTiで処置時間を短縮することがむしろ有効だが、そうした場合も急がず基本に忠実に操作する心構えが求められる。

導入判断の指針

歯科医院によって診療方針や患者層は様々である。本章では医院のタイプ別に、デントクラフト REファイル導入の向き不向き、および運用上のポイントを述べる。

保険診療中心で効率重視の医院の場合

保険診療の範囲内で最大限効率を追求したいタイプの医院では、REファイルはまさに導入するメリットが大きい製品である。まず何よりチェアタイム短縮による回転率向上の恩恵が直接的に受けられる。前述の通り、1症例あたり数十分の短縮が期待できるため、忙しいユニットを滞留させないことに直結する。特に虫歯治療や補綴に比べて時間がかかりがちな根管治療をスピーディに終えられれば、他の患者のアポイントも入れやすくなり全体のオペレーション効率が上がる。材料費が多少増えても、それ以上に診療回数の削減や他の有償処置への時間充当でカバーできる可能性が高い。実際、根管治療が長引くことで補綴物装着が遅れレセプト分割されるよりも、迅速に終えて他の治療に着手した方が患者満足も高まりトータルの収益性も上がる傾向にある。

ただし、保険診療中心の医院ではスタッフ数や教育の制約もあるかもしれない。NiTiファイルの運用には細かな注意点が多く、院長だけが理解していても歯科衛生士等が誤ったハンドリングをすれば破折事故につながる。よって院内トレーニングに時間を取れないようであれば、最小限の導入(例えばCTシリーズの基本セットだけ導入し、ONEやVTは使わないなど)から始めるのも手だ。CTシリーズのみなら在庫管理も単純で、スタッフが混乱しにくい。またコスト意識も重要で、低コストが売りとはいえ使い捨てすぎれば積もれば負担になる。例えば「細いサイズは1回使い捨て、太いサイズは2回まで使う」など、医院としてのルールを決めて無駄を減らすことが健全な運用につながる。総じて、保険メインの医院には「時間をお金に換える」ツールとしてREファイルは適しており、しっかりルール化して使えば費用対効果は非常に高いだろう。

高付加価値の自費治療を重視する医院の場合

審美歯科やインプラントなど自費診療中心で高品質を追求している医院では、根管治療においてもクオリティを最優先する傾向がある。このような医院でREファイルを導入する意義は、最新テクノロジーによる治療品質の向上と患者へのアピールポイントである。既にマイクロスコープ下で丁寧な根管処置を行っているような場合、NiTiファイルの使用はむしろ標準といえる。そうした先進医院にとってREファイルはコストパフォーマンスに優れた代替品という位置づけになるだろう。例えば既にWaveOneやProtaper Goldといった輸入NiTiを使っているなら、REファイルONEやVTでランニングコストを下げつつ同等の効果を狙える。1本あたり数百円の差でも、積み重ねれば経費削減になる。浮いた予算を他の機器メンテナンスや新規設備投資に回すこともでき、経営的な余裕が生まれる。

また高付加価値志向の医院では患者説明やマーケティングにおいて「先端技術」が重要なキーワードとなる。REファイル自体は国内メーカー製であり派手さはないかもしれないが、「NiTiロータリーファイルによる精密治療」は患者への訴求材料として十分活用できる。ホームページやパンフレットに根管治療への取り組みとして記載したり、実際に治療後のX線写真を見せながら「このように先端までしっかり処置できました」と説明する際にも、エンジンリーマーの効果を強調すると説得力が増すだろう。保険中心の医院と比べれば、コスト面で極度にシビアになる必要はないため、むしろ惜しまず新品ファイルを毎回投入して最高水準の清掃・成形を目指してほしい。使い回しをせず常にシャープな切れ味で治療できれば、結果的に形成不良や見落としが減り再治療リスクも減少する。患者満足度の高い治療結果は医院のブランド価値向上につながり、長期的な自費率アップをもたらすだろう。

外科・インプラント中心でエンドは紹介が多い医院の場合

親知らずの抜歯やインプラント手術など口腔外科処置を主体としている医院では、そもそも根管治療症例自体が少なかったり、難症例は専門医に紹介しているケースも多い。そのような医院にREファイルが必要かどうかの判断は難しいところだ。まず根管治療件数が少ない場合、エンドモーターの投資回収に時間がかかる。たとえば月に数件しか根管治療が無いのに高額なモーターや一連のファイルを揃えても、宝の持ち腐れになりかねない。極端な話、抜髄は開業医として避けられない処置だが、難しい根管は全て歯内療法専門医に送るという戦略も一つである。その場合、自院で無理にNiTiを運用せず確実な専門医紹介ネットワークを築く方が患者のためかもしれない。

一方で、「ある程度の根管治療は自院で完結させたい」と考える場合、NiTiファイル導入は少ない症例でも有効である。特に外科を好む先生は手先が器用な方が多く、エンドでもNiTiをすぐに使いこなせる可能性が高い。限られた症例数であっても、短時間で確実に根管充填まで終えられれば、外科処置にリソースを割きやすくなる。例えばインプラント前処置としての根管治療なども迅速に終えられれば、メインのオペに集中できる。また折れたファイルの除去など、外科的手技とエンドが絡む特殊ケースに遭遇した際にも、NiTiの知識があればより柔軟に対応できる。とはいえ投資額とのバランスはあるため、リースやレンタルの活用も視野に入れたいところだ。ヨシダ含め各社ともデモ機の貸出やリース契約に対応していることが多いので、購入に踏み切る前に一度問い合わせてみると良い。総じて、エンドを専門としない医院では優先度は下がるが、「ニッチだが一度導入すれば長く使えるツール」として検討する価値はある。

よくある質問(FAQ)

NiTiファイルは何回まで再使用できるか?

明確な回数基準はないが、基本的には使い捨てが推奨である。メーカーも低価格を活かし患者ごとに新品を使うことを推奨している。再使用すると金属疲労が蓄積し破折リスクが高まるため、どうしても使い回す場合でも2~3回程度の使用に留め、僅かな変形や違和感でも即廃棄するのが安全策である。滅菌時の劣化や肉眼では見えないクラックもあり得るため、「疑わしきは使わず」が鉄則である。

他社製のエンドモーターでも使用できるか?

可能である。デントクラフト REファイルはRAラッチ型で国際規格に準拠しており、一般的なロータリー用ハンドピースとモーターであればメーカー問わず装着・使用ができる。実際、ユーザーはヨシダ製以外のモーター(例えばモリタ社TriAuto ZX2 plusなど)でも問題なく使用している。ただし、ONEファイルのレシプロ運転にはその機能を備えたモーターが必要である点に注意したい。要は推奨回転数やトルク値を設定でき、必要ならレシプロ機能もあるモーターであれば、他社製でもREファイルの性能を十分発揮できる。

ファイルが根管内で破折した場合の対処法は?

まず破折を起こさないことが最重要であり、グライドパスの徹底や無理な力を掛けない操作で予防できる。しかし万一ファイル先端が根管内で折れて残存した場合、基本的には超音波チップによる振動除去やマイクロスコープ下での把持除去を試みることになる。REファイル自体に特別な除去器具は用意されていないが、幸い本製品は柔軟性ゆえに破折リスクが低減されている。適切な術式を守れば滅多に起こらないアクシデントではある。万一除去が困難な場合は、無理せず歯内療法専門医に紹介し対応を仰ぐことも視野に入れる。折れたファイルの放置は予後不良の原因となるため、早期に患者へ説明し適切な処置計画を立てることが肝要である。

「CT」「VT」「ONE」はどれを選べばよいか?

それぞれ特徴が異なるため、診療スタイルに合わせて選択するとよい。CTシリーズは先端径とテーパーが一定で、手用感覚で細かくサイズアップしていきたい先生に向いている。多彩なサイズが揃い自由度が高いのが利点だ。VTシリーズは各ファイルのテーパーが変化する設計で、決められたシーケンスで使用すれば少ない本数で効率よく形成できるよう工夫されている。Protaperなどが好きな先生はこちらを好むだろう。ONEシリーズは1本のみ(実際には太さ違いで複数種類あり)で根管形成を完了するコンセプトで、とにかく手早くシンプルに済ませたい場合に有用だ。ただしレシプロ専用である点と、複雑な根管では追加の処置が必要になる点には注意が必要である。まとめると、細かなコントロール重視ならCT、手順通りの効率重視ならVT、スピード重視ならONEと覚えると選択の目安になる。

導入によって根管治療の成功率は上がるのか?

NiTiファイル自体が成功率を保証するものではないが、適切な根管形成と十分な清掃は成功率向上に寄与すると考えられる。NiTiロータリーファイルの使用で根管偏位や未処置部位が減り、三次元的に均一な形成が得られれば、その後の洗浄・根管充填が隅々まで行き届きやすくなる。結果として細菌残存や再感染のリスクが減少し、長期予後の改善につながる可能性が高い。ただし、成功率は症例ごとの難易度や術者の技量、補綴処置や患者のメインテナンス状況など多くの因子に左右される。NiTiファイルは成功への一助とはなるが万能ではないことも念頭に置き、マイクロスコープの併用やラバーダム防湿、適切な薬剤洗浄など総合的な質の向上を図ることが大切である。