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GC(ジーシー)の「NEX」Ni-Ti(ニッケルチタン)ファイルを解説!使い方や価格は?

GC(ジーシー)の「NEX」Ni-Ti(ニッケルチタン)ファイルを解説!使い方や価格は?

最終更新日

日々の根管治療において、手用ステンレスファイルでの煩雑な根管形成に時間を取られたり、鋭角に湾曲した根管に器具操作で苦労した経験はないだろうか。治療時間が長引けばスケジュールが圧迫され、患者の負担も増す。こうした課題に対し、GC社の「NEX NiTiファイル」は、ニッケルチタン製のロータリーファイルによって効率化と精度向上を図るツールとして注目されている。本稿では本製品の特徴や使い方、価格を、臨床面と医院経営面の両観点から掘り下げて解説する。根管治療の質と経営効率の両立を模索する先生方にとって、本製品がその一助となれば幸いである。

製品概要

NEX NiTiファイルは、株式会社ジーシー(GC)が発売する電動式歯科用ファイル(エンド用NiTiロータリーファイル)である。エンド用コントラアングルに装着し、専用の低速モーターで回転させて根管拡大形成に用いる。歯科用医療機器としての区分は管理医療機器(クラスII)に該当し、承認番号は225AABZX00077000である。ファイル長は通常21mmまたは25mmで、一部の大テーパーサイズ(例:#25/.08)は19mmとなっている。ISO規格に準じたファイル径(#10~#60)とテーパー(0.02~0.08)のバリエーションを揃え、前歯から大臼歯まで幅広い根管径・形態に対応可能である。製品ラインナップとして、術式に応じた6本組のアソートセット(クラウンダウン法向けのAセット、フルレングステクニック向けのBセット)が用意されている。また、単一サイズ5本入りの単品パックや、10本入りのバリューパックも提供されており、運用に合わせた購入が可能である。価格(定価)は1函6本入りのアソートセットA・Bが各6,080円(税別)、単品5本入が9,630円、バリューパック10本入が9,790円と設定されている。なお、後述する改良版として、特殊熱処理を施した形状記憶合金製の「NEX NiTiファイル Ms」もラインナップされている。

主要スペックと特徴

NEX NiTiファイルの設計上の特徴は、切削効率と柔軟性のバランスを重視している点である。ファイルが硬過ぎれば湾曲根管で偏位やステップ形成を招きやすく、逆に柔軟過ぎれば切削に時間がかかる。NEXでは刃部材料に従来型のNiTi超弾性合金(オーステナイト相)を採用しつつ、断面形状やフルート設計を工夫することで効率的な切削と根管追従性の両立を図っている。実際に刃部の断面は鋭角な三角形となっており、高い切削効率で根管を短時間で拡大できるようになっている。さらに、フルート(螺旋刃)のピッチは切削粉が根尖方向へ押し出されにくい独自の構造を採用しており、根管内のデブリ排出を助ける。ファイル先端部は刃を持たない滑らかな形状(セーフティティップ)となっており、根尖部での不必要な削削や根管壁の段差形成を抑制するデザインである。これらの仕様により、根管内でのスムーズな進行と破折リスクの低減が期待できる。

ラインナップ面では、術者の好みや症例に合わせて最適なシーケンスを組めるよう、多彩なファイル群が揃っている。前述のAセット(クラウンダウン法用)とBセット(フルレングス法用)に加え、根管口側のフレア形成に適した太径ファイル(オリフィスオープナー)2種と、破折予防のためのグライドパス用細径NiTiファイル6種も用意されており、理想的な手技に沿ったシーケンスを選択できる。クラウンダウン法は歯冠側から徐々に根尖に向けて拡大する方法で、ファイル先端が根管壁に拘束されにくく破折リスクが低い反面、急カーブでは追従性がやや劣るとされる。一方のフルレングステクニックは各ファイルを毎回作業長(WL)まで挿入して拡大する方法で、湾曲追従性に優れ交換本数も少なくて済むが、その分ファイル先端が壁に強く当たって負荷がかかりやすく、器具破折リスクは相対的に高まる傾向がある。NEX NiTiファイルではこの両手技に対応するセットを揃え、術者が自由に手法を選択できる柔軟性を確保している。これはNiTiロータリーファイル初心者にとってもメリットであり、実際ある研究ではNEXを用いたフルレングステクニックは従来のステンレス製Kファイルによる手法(ステップバック法)から移行する際の導入法として有効であると報告されている。

臨床性能に関するエビデンスも見ておこう。最新の研究では、NEX NiTiファイル(Msを含む)を使用した根管形成は、ステンレス製Kファイル使用時に比べ処置時間が有意に短縮し、根管形成後の形態偏位も少なく良好に拡大形成できることが示されている。同研究では、NEX使用時の根管形成に要する時間はステンレス手用に比べ約半分以下に短縮し、操作中の押し込み圧および引き抜き圧も大幅に低減したと報告されている。これはNiTiファイルの超弾性によって根管内抵抗が小さく、滑らかに切削が進むためと考えられる。これらのエビデンスは、NEX NiTiファイルの臨床的有用性と効率性を裏付けるものと言えよう。

なお、NEXシリーズの上位モデルとして位置付けられる「NEX NiTiファイル Ms」について補足すると、こちらは独自の熱処理技術によってM相(マルテンサイト相)の形状記憶合金ワイヤーを採用し、オーステナイト相の通常品に比べ約37%柔軟性が向上している。その結果、根管追従性がさらに高まり、NiTiファイルでありながら手用器具のように術前に任意の曲げ(プリカーブ)を付与することも可能となっている。複雑な湾曲根管や偏曲の強い根管ではMs版が威力を発揮するが、その柔軟性ゆえに切削効率やねじり強度は若干低下する可能性もあり、使用時には過度な荷重を避けるなど一層の注意が求められる。

互換性と運用方法

NEX NiTiファイルは、RA型(ラッチタイプ)のエンド用コントラアングルに装着し、低速回転モーターで使用する。GCでは同シリーズのコードレスエンドモーター「NEX エンドモーター」を提供しており、0.3~3.0N·cmの広範なトルク範囲を0.1N·cm刻みで細かく設定でき、NiTiロータリーファイルの負荷を軽減する機構を備えている。さらに設定トルクの50%および75%に達した時点で警告音が鳴り、100%に達すると自動停止するオートリバース機能によってファイル破折を予防する設計である。このNEXエンドモーターはGC製品との組み合わせ最適化が図られているが、基本的には他社製を含む一般的なエンド用モーターでも回転数・トルクを適切に設定すればNEX NiTiファイルを使用できる。推奨される回転速度は300~600rpmであり、強い湾曲部や根尖部の形成では必要に応じて低速回転と低トルクで操作する。トルク値はファイル径によって異なるが、おおむね0.5~2.7N·cm程度の範囲に設定するのが望ましい。NiTi特有の弾性により手指へのフィードバックが少ないため、モーターのオートストップ/逆転機能を活用し、無理な力を掛けずに削進させることが安全な運用のポイントである。

使用手順の一般的な流れとしては、まず手用のステンレスKファイル(#10や#15)で根管の通過性を確認し、予備的な根管長測定とグライドパスの確保を行う。次に、NEX NiTiファイルによる根管拡大に入る。クラウンダウン法であればAセットのうち最大径・テーパーのファイルから歯冠側1/3を拡大し、順次ファイル径を細くしながら根尖方向へ進めていく。フルレングステクニックであればBセットの最細ファイルからいきなり作業長まで挿入し、次のサイズに交換して再び作業長まで…という手順を繰り返す。どちらの方法でも、ファイルを数秒ごとに引き抜いて根管内を洗浄・吸引し、切削片の除去と潤滑を適宜行うことが望ましい。特に次亜塩素酸ナトリウム液やEDTA製剤による十分な洗浄を併用することで、ファイルの切れ味維持と根管内の清浄化に寄与する。ファイル操作中に強い抵抗感や異音を感じた場合は、ただちに回転を止めファイルを抜去して状況を確認する。無理に押し込まず、ファイルの自切削作用に任せて軽い力で進めることがNiTiファイルの基本である。

感染対策および器材管理の面では、NiTiファイル使用後は他の回転器具同様に十分洗浄した上でオートクレーブ滅菌が可能である。NiTi合金は耐食性に優れるが、繰り返し使用によって金属疲労が蓄積し破折リスクが増大することは留意しなければならない。メーカーからはファイルの使用回数を管理するための使い捨てカウンター「セーフティメモディスク(SMD)」が提供されており、NEX NiTiファイルのシャンク部に装着して1症例使用ごとにディスク片を1枚ちぎり、8枚すべてなくなったら交換の目安とする仕組みである。実臨床でも1本のNiTiファイルを使い回すのは5~8回程度に留め、明らかな変形や刃部摩耗が認められた場合は早めに新品と交換するのが安全策と言える。ファイルスタンドなどを用いて滅菌後のファイルを整理し、何回使用したかをスタッフ間で共有する運用も有効だ。なお、NEX NiTiファイル専用のスタンド(14本収納可能)も市販されており、使用順にファイルを並べておけばスムーズな交換と取り違え防止に役立つ。ファイルのISOカラーコードは#15(白)から始まり#25(赤)、#35(緑)…と定められているため、スタッフ全員で色と番号の対応を把握しておくことも大切である。

価格と経営面への効果

NiTiロータリーファイルの導入に際し、費用対効果の面も検討しておきたい。まず消耗品コストとして、NEX NiTiファイルは1本あたり約1,000円(税別)と決して安価ではない。ステンレス製の手用Kファイルが1本数十円~数百円程度であることを考えると、桁違いの単価に尻込みする向きもあるだろう。しかし単なる単価比較だけで導入を見送るのは早計である。なぜなら、NiTiファイルの活用によって得られる大幅なチェアタイム短縮と処置効率の向上が、診療全体の生産性改善につながり、結果として収益性を高める可能性が高いからである。

例えば、1症例の根管形成に従来30分かかっていたものがNiTiロータリーの併用で15分程度に短縮できたとすれば、1日に処置できる症例数を増やすことが可能になる。その浮いた時間で他の患者の診療や自費治療に充てれば、ファイル代程度は容易に回収できる計算である。実際、前述の研究でもNiTi使用群は手用器具群に比べ総処置時間が有意に短縮しており、この時間効率の改善効果は経営上無視できないメリットとなろう。費用面をもう少し具体的に見れば、NEX NiTiファイルの6本アソートセット(約6,000円)購入時には1本あたり1,000円程度である。仮に根管1本の治療で平均4本のNiTiファイルを使用すると症例あたりのファイル原価は約4,000円となる。しかし実際には前述の通りファイルを滅菌して複数回使い回せるため、例えば各ファイルを5回使用すれば症例あたり実質800円、最大8回使用なら500円程度にまで抑えられる計算である。1症例あたり数百円~数千円の材料費増加をどう見るかは医院の方針によるが、同時に短縮できるチェアタイムの価値も考慮すべきである。根管治療の診療報酬(保険点数)は決して高くないものの、処置時間を圧縮できれば余裕が生まれ、その時間に他の有収入の処置を行える余地が生まれる。特に、根管治療後の補綴処置(コア築造やクラウン装着)を早期に進められることで治療全体の期間短縮につながり、患者満足度の向上やキャンセルリスクの低減にも寄与するだろう。

さらに、NiTiファイルの導入は医院のブランディングにも影響し得る。最新の機器を用いて先端的な治療を提供しているという印象は、患者から見た医院の付加価値となりうる。実際に「NiTiファイルやマイクロスコープを用いた精密根管治療」を自費メニューとして掲げ、高額な治療費を設定しているケースもある。そこまでいかなくとも、「当院では専用器具によりできるだけ短期間で精度の高い根管治療を行います」といった情報発信は、患者の安心感や医院の信頼性向上につながるだろう。ただし効果や成功を断言する表現は薬機法上避ける必要がある点は念頭に置かなければならない。

導入に伴う初期投資についても触れておく。NiTiロータリーファイルを本格的に活用するには、トルクコントロール機能付きのエンド用電動モーターが必要となる。既にモーターを保有している場合はファイル代のみで済むが、未導入であれば本体購入におよそ10万円前後(製品にもよるが数十万円以内)の費用が発生する。NEXエンドモーター本体は定価約97,000円(別売コントラアングル約45,000円)とされており、国産モーターの中では比較的手頃な価格帯である。モーターは耐用年数が長く減価償却資産として経費計上もできるため、長期的に見れば導入ハードルは過度に高くないだろう。むしろNiTiファイルとエンドモーターの組み合わせで根管治療の効率と精度が向上すれば、その投資対効果(ROI)は十分に見込めると考えられる。

使いこなしのポイント

NEX NiTiファイルを診療に取り入れる際、器具の特性に合わせた使いこなしのコツを押さえておきたい。まず、手用器具からロータリーファイルへ移行した直後は、操作時の指先に伝わる感触が大きく異なる点に注意する必要がある。NiTiロータリーはモーター駆動ゆえ手指のフィードバックが少なく、ステンレス手用で感じていた「根管壁に当たる感覚」が得られにくい。そのため、過度な押し込みは禁物であり、ファイル自体の切削力に任せて軽いストロークで動かすことが肝要である。ファイル先端が根管内で進まなくなったら一旦引き抜き、根管を洗浄した上で再度挿入するようにする。ギュウギュウと押し込む操作は、NiTiファイルの破折だけでなく根管偏位の原因にもなるため避けるべきである。

チェアサイドでのアシスタントワークも、NiTiファイル導入後に見直したいポイントである。ファイル交換の際にスムーズに次のサイズを手渡せるよう、あらかじめ使用順の配置を工夫しておくとよい。前述のNEX専用スタンドにあらかじめAセットやBセットの使用順に並べておけば、必要なファイルを即座に取り出せて効率的である。また、NiTiファイルは先端部ほど肉眼での識別が難しいため、ISOカラーコードによる区別を徹底することも大切だ。例えば#25は赤、#30は青、#35は緑といった色分けをスタッフ全員で共有し、回転中のファイルでも色でサイズが判別できるようにしておく。小さなことだが、交換ミスによる根管の削り過ぎや不足を防ぐ上で重要な取り組みである。

導入初期には、可能であれば樹脂製の根管模型や抜去歯などで事前練習を積むことを勧めたい。NiTiロータリーファイルの挙動や適切な力加減を身体で覚えることで、本番の臨床でも落ち着いて対応できる。メーカーやスタディグループが主催するハンズオンセミナーに参加し、実演を通じてコツを掴むのも有効だ。院内で複数のドクターやスタッフがいる場合は、誰もが同じ手順・ルールで運用できるよう、プロトコルを標準化しておくと良いだろう。

術中・術後の注意点として、NiTiファイルは使用前後に必ず先端の状態を確認する習慣を付けたい。使用後のファイル先端に歪み(ねじれの戻りやスプリングバックの乱れ)が生じていたり、肉眼やルーペ下で微小な破断線が認められたりする場合、そのファイルは次回以降使わず廃棄すべきである。小さな異変を見逃さないために、マイクロスコープや高倍率ルーペ下で定期的にファイルを点検することも有用である。また、患者への説明時には器具の詳細まで説明しすぎる必要はないが、「歯の神経の治療に専用の機械を使って精密に処置しています」といった一言を添えると、治療に対する安心感につながることもあるだろう。医療広告ガイドラインに抵触しない範囲で、患者が抱く「根管治療は長くて大変」というイメージを払拭できれば、導入の価値はさらに高まると言える。

適応症例と不得意なケース

NEX NiTiファイルを含むNiTiロータリーファイル全般が特に威力を発揮するのは、湾曲や分岐のある複雑な根管形態の症例である。下顎大臼歯の遠心根のような急カーブを描く根管でも、NiTiファイルの柔軟性によって元の形態を保ちつつ偏位の少ない形成が可能となる。また、複数根管を持つ歯でも各根管を効率よく拡大できるため、従来より少ないチェアタイムで根管充填まで完了できるケースもある。NiTiファイルは根管内にスムーズに入る限り高速回転で切削できるため、細径の湾曲根管でもステンレス手用では数回の来院を要した処置が短期間で完了しやすい。したがって、カーブの強い根管や根管数の多い大臼歯、短期間で根管治療を終えたい症例などで導入のメリットが大きい。

一方、NiTiロータリーファイルの不得意な状況としては、極度に石灰化して細く閉塞しかけた根管や入口の見つからない根管が挙げられる。こうしたケースではNiTiファイルが入る下準備として、まず手用Kファイル等で慎重に根管の通路を確保しなければならない。無理にNiTiを挿入すれば途中で破折するリスクが高いため、予備拡大やグライドパス形成が十分行えない症例ではNiTiの出番自体が限られる。また、根管内に固着物(断裂した古いファイルやガッターパーチャなど)が存在する症例も注意が必要である。NiTiファイルはあくまで根管拡大形成用の器具であり、異物の除去には向かない。固着物の除去には超音波チップや特殊な回収器具を用いてアプローチし、その後に改めてNiTiで根管形成を行うという段取りが現実的である。

さらに、形態がほぼ真っ直ぐで広い根管ではNiTiロータリーの恩恵は相対的に小さいかもしれない。例えば若年者の前歯のように太くストレートな根管であれば、従来の手用器具でも短時間で形成が完了するため、敢えて高価なNiTiファイルを使用しなくとも臨床上問題ない場合もある。ただし、NiTiファイルを用いることで根管内壁を均一に削り円錐形態を付与しやすい利点があるため、その後の根管充填でシーラーの厚みが均一化し緊密な封鎖が得られるといったメリットは考えられる。要するに、症例の難易度や処置目標によってNiTiの有用性は変わるため、「どんな症例にも万能」というものではない。一方で「ここぞ」というケースでは強力な武器となるため、見極めと使い分けが重要になる。

導入判断の指針

すべての歯科医院にNiTiロータリーファイル導入を無条件に勧められるかと言えば、経営方針や診療スタイルによって適性は異なる。以下に、代表的な医院タイプ別にNEX NiTiファイル導入の向き不向きを考察してみよう。

保険診療中心で効率最優先の医院では、NEX NiTiファイルの導入メリットは非常に大きい。チェアタイム短縮により1日あたりの対応患者数を増やせるため、生産性が向上し、薄利多売の保険診療における収益改善につながるからだ。特に根管治療は従来複数回の通院を要することも多かったが、NiTiファイルの活用で可能な限り同一日に処置を進められれば、来院回数の減少による患者満足にもつながる。材料費増加に対する感覚も、効率化で埋め合わせできる範囲であれば許容しやすいだろう。実際、破折リスク管理のためにある程度使い回す運用を徹底すればコスト圧迫は限定的であり、それよりも再治療の減少や予約枠の有効活用といった効果の方が上回る可能性が高い。待合室に患者が溢れるような繁忙な医院であれば、「導入しない手はない」と言える。

自費診療メインで高付加価値な歯科医療を提供する医院でも、NEX NiTiファイルの導入意義は大きい。このような医院ではマイクロスコープやCTを駆使した精密根管治療を掲げている場合が多く、NiTiロータリーファイルの使用はむしろ標準と言えるだろう。仮に未導入であれば、導入によって治療のクオリティをさらに底上げし、患者に「最先端の根管治療」を提供できる強みとなる。自費根管治療の場合は治療費に器材コストを上乗せすることも可能であり、費用面のハードルも低い。NEX NiTiファイルは国産で入手性やサポートにも優れるため、海外製のNiTiシステムに比べ運用コストや教育コストも抑えやすい点は経営上プラスである。また、良好な根管形成によって長期的な治療成功率が高まれば、補綴やインプラントの予後も安定し、医院全体の信頼性向上につながるはずだ。

口腔外科・インプラント中心の医院では、根管治療の症例数自体が少ないかもしれない。その場合、NiTiファイル導入の優先度は他の設備投資に比べ下がることも理解できる。難易度の高い根管治療は専門医へ紹介し、自院では抜歯~インプラント治療に集中するという選択肢も現実的ではある。ただし、近年は「可能な限り歯を残す治療」を希望する患者も増えており、インプラント前提であっても保存可能な歯は残してほしいという要望に応えられる体制を整えておくことが望ましい。NiTiロータリーファイルを備えておけば、緊急時の偶発的な根管処置や、インプラント埋入前の隣在歯の根管治療などにも迅速に対応できる。結果的に「歯を残す努力もしてくれる信頼できる医院」という評価を得られ、患者離れの防止や総合的な診療力アピールにつながる可能性がある。従って、症例数が少なくても全く使わないというのは極端であり、必要最低限の導入は検討して損はないだろう。

よくある質問(FAQ)

NEX NiTiファイルは何回まで使用できるか?

明確な使用回数の制限は添付文書上規定されていないが、臨床的には5~8回程度の使用で交換する医院が多いようである。GC社が提供するセーフティメモディスク(SMD)では8回を目安としており、それをひとつの基準にするとよい。切削効率の低下や金属疲労による破折リスクを考慮すれば、ファイル1本あたりの症例数はできるだけ少なく抑えるのが安全である。初めのうちは少ない回数で早めに新品と交換し、慣れて破折事故のリスクが下がってきた段階で徐々に使用回数を増やすのが現実的だろう。いずれにせよ、使用後は毎回ファイル先端の状態をチェックし、わずかでも変形や亀裂が認められた場合はただちに廃棄することが肝心である。

NEX NiTiファイル Msとは何が違うのか?

「NEX NiTiファイル Ms」は、通常品のNEX NiTiファイルに熱処理を施し柔軟性を高めたバージョンである。素材のNiTiワイヤーが形状記憶効果を持つM相(マルテンサイト相)になっているため、根管内でのしなやかさが向上し、NiTiファイルでありながら手用Kファイルのようにプリカーブ(あらかじめ曲げ癖を付けること)が可能になっている。その分、切削感はややマイルドになり価格も高めに設定されている。実際、定価はアソート6本入で10,500円(税別)と通常版より約70%高く、単品5本入も9,630円と高価である。強湾曲根管や石灰化の強い難症例ではMsの恩恵が大きいが、比較的ストレートな根管では通常版でも十分対応可能である。医院の症例傾向や予算に応じて、両者を使い分けるのが賢明だろう。

手持ちのエンドモーターでNEX NiTiファイルを使えるか?

基本的にはRA式コントラアングル装着・低速回転に対応したエンド用モーターであれば、メーカー問わず使用可能である。必要なのは回転数とトルクを前述の推奨範囲(約300~600rpm、0.5~2.7N·cm程度)に設定できることと、できれば負荷時に自動停止・逆転する安全機構(オートストップ/オートリバース)が備わっていることである。近年発売された多くのエンドモーター(X-SmartやTriAutoシリーズ等)はこれらの条件を満たしており、特別な専用機器を新たに揃えなくても導入は可能だ。もし手持ちのモーターが旧式でトルク調整やオートストップ機能が無い場合は、この機会に買い替えを検討してもよい。GCのNEXエンドモーターは上述の通り0.3~3.0N·cmの広範囲トルク設定や2段階アラート付きのオートリバース機能を備えており、NEX NiTiファイルとの親和性が高い(他社NiTiファイルにも対応)点が特長である。

根管内でファイルが破折した場合の対処法は?

万一NiTiファイルが根管内で折れてしまった場合、慌てず適切に対処する必要がある。まず、折れたファイル片の位置と残存長を把握する。マイクロスコープ下で見える根管上部で折れた場合は、超音波チップで破折片の周囲の歯質を少し削ってゆとりを作り、細い鋭匙やピンセットで摘出を試みる。それが困難な場合や根管深部(根尖付近)で折れた場合は、無理に除去しようとせず根管内に封じ込めたまま経過を見る選択肢も現実にはあり得る。ただしその判断には経験と慎重さが要求されるため、自信がない場合やリスクが高い場合は専門の歯内療法医にリファー(紹介)するのが賢明である。患者には状況を正直に説明し、今後の対応策(折れた器具の取り出し or そのまま封鎖して問題ないかの判断)について同意を得ることが不可欠となる。そもそも破折を起こさないことが最善であるため、日頃から使用回数管理やグライドパスの徹底、無理な力を掛けない操作を心がけ、リスクを限りなくゼロに近づける努力が重要である。