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デンツプライシロナの歯科用ファイル「WaveOne(ウェーブワン)」とは?用途や使い方を解説

デンツプライシロナの歯科用ファイル「WaveOne(ウェーブワン)」とは?用途や使い方を解説

最終更新日

根管治療において、ファイル交換の煩雑さや複数回の通院は日常的な悩みである。細く湾曲した根管にステンレス製ハンドファイルで挑み、思うように拡大できず時間を費やした経験を持つ歯科医師も多い。治療が長引けば診療スケジュールは逼迫し、患者の負担も増す。「もっと短時間で安全に根管形成ができれば…」という願いに応えるべく登場したのが、デンツプライシロナ社のWaveOne(ウェーブワン)である。本稿では、最新モデルWaveOne Gold(ウェーブワンゴールド)を中心に、この電動NiTiファイルシステムの用途と使い方を解説し、臨床現場のヒントと医院経営への示唆を提示する。

製品の概要

WaveOneは、デンツプライシロナ社が提供する電動式歯科用ファイルシステムである。正式にはWaveOne Goldファイルと称し、一般的名称「電動式歯科用ファイル」に分類される管理医療機器(クラスII)である。用途は歯内療法における根管拡大・形成であり、NiTi製のファイルを専用エンジンで駆動して根管を拡大する。初代WaveOneファイル(従来品)は2011年前後に登場し、現在のWaveOne Goldはその改良版である。独自の熱処理技術によりNiTi合金に高い柔軟性と耐疲労性を持たせ、複雑な根管形態にも追従しやすくしたことが特徴である。WaveOne Goldは通常1歯あたり1本のファイルで根管形成が完結する設計で、約80%の症例で追加ファイルを要さないとされている。システムにはファイル本体のほか、対応するガッタパーチャポイント(WaveOne Gold ガッタパーチャ)およびペーパーポイントが含まれ、カラーコードはファイル径と連動している。例えばPrimary用ファイル(#25)は赤で、同サイズのガッタパーチャも赤色標識であり、根尖部で適度なタッグバック(抵抗感)が得られる設計である。なお、製品名についてウェーブワンを「ウェブワン」と表記する例も見られるが、正式にはWaveOne(ウェーブワン)が正しい。

主要スペック

WaveOne Goldファイルはニッケルチタン(NiTi)製で、デンツプライシロナ独自のGOLDワイヤーと呼ばれる熱処理合金を採用している。この素材により、前世代のWaveOneファイルより柔軟性が向上し、湾曲根管への追従性が高まっている。同時に疲労破折抵抗性(耐久性)が50%向上し、ファイル破折リスクの低減につながっている。臨床的には、複数回使用による金属疲労や突然の折損を減らす効果が期待できる。ただし耐久性が向上したとはいえ、後述のように基本的に本製品はシングルユース(一回使用)が推奨される。

WaveOne Goldのサイズ展開は4種類である。スモール(Small #20/.07)、プライマリー(Primary #25/.07)、ミディアム(Medium #35/.06)、ラージ(Large #45/.05)の各径があり、長さは21mm、25mm、31mmから選択できる。各ファイルはISO標準に準じたカラーコード(黄・赤・緑・白)で識別され、先端テーパーは太さにより0.05~0.07と設定されている。テーパーは根尖部近くでは比較的太く、根管中間~冠側に向けて細くなるマルチテーパー設計で、必要以上の歯質切削を抑えつつ効率的な拡大を可能にする狙いがある。切削刃の断面形状も改良されており、従来のNiTiファイルに比べて根管内でのスクリュー効果(ねじ込み現象)を軽減する設計である。これにより、ファイルが急激に根尖方向へ引き込まれてしまう事態を抑制し、術者のコントロール性と安全性が高まっている。

駆動方式はレシプロケーティング(往復回転運動)である。WaveOne専用エンジンでは、ファイルは反時計方向に約150°回転して切削し、続いて時計方向に30°逆回転する動作を繰り返す。3往復半ほどで累積360°分の回転になるイメージであり、常に大きく切削方向に動きつつ定期的に逆回転することで、ファイル先端の食い込みすぎを防ぎつつ効果的な切削が行われる。このモーション制御により、連続回転よりもファイルへの過大なトルクを避け、根管形態に沿った拡大が可能となる。また推奨設定速度は約300rpm(往復運動時の等価回転速度)である。この高速な反復切削運動と効率的な刃形により、切削効率が向上し、結果として根管形成に要する時間短縮につながっている。実際、約80%の症例で1本のPrimaryファイルのみで根管形成が完了し、残る症例でもスモールやミディアムを補助的に追加する程度で済む報告がある。これは従来のステップバック法やマルチファイルシステム(例:Protaperなど)と比べ、使用器具本数と手技工程を大幅に減らせることを意味する。

ファイル先端の形状にも配慮がなされている。WaveOne Goldの先端部は従来品よりもマイルドなリーディングチップ設計となっており、根管内壁を削りすぎないガイド的な役割を果たす。これにより、経路から外れて根管を穿孔したりステップを形成してしまうリスクを低減している(※正式な添付文書上の禁忌事項ではないが、強い湾曲や石灰化のある根管では無理に切削せずハンドファイルによる予備形成が望ましい)。WaveOne Goldファイルは出荷時にガンマ線滅菌済で提供されるディスポーザブル器材である。再滅菌(オートクレーブ処理)は認められておらず、使用後は破棄する単回使用が前提となっている。この単回使用ポリシーも、実質的にファイル折損リスクの低減や感染対策に寄与するスペックといえる。

互換性や運用方法

WaveOne Goldファイルを使用するには、専用のレシプロケーティングモーターが必要である。メーカーはデンツプライシロナ社製の「X-Smart Plus」エンド用モーターを推奨しており、実際、本ファイルの使用にはX-Smart Plusが必要と明言されている。X-Smart PlusはWaveOne用の往復運動プログラムを内蔵しており、ファイル装着用のコントラアングル(基本的なRAラッチ型)を接続して使用する。なお最近の他社製エンドモーターにもWaveOneモード搭載機種が存在するため、既存設備で代替可能な場合もある。しかし設定角度や速度が一致しないと意図した性能が発揮できないため、公式にはX-Smart Plusを用いることが推奨される。新規導入の場合、モーター本体は標準価格約15〜16万円程度の投資となる。一方、既にエンド用モーターを備えている医院であれば、適合機種かどうかを確認のうえプログラム更新や専用アタッチメントの準備を行う。

ファイルとモーターの接続は、一般的なエンド用コントラアングルを介したRAラッチタイプであり、特別なハンドピースは不要である。WaveOne Goldファイルは根管長全長に渡って動的に駆動されるため、ラバーダム防湿下での使用が望ましい。術中は他のNiTiロータリーファイルと同様、グライドパスの確保が重要である。正式手順では、まず#10のステンレスハンドファイルで根管のネゴシエーション(探索)と穿通を行い、次に#15のハンドファイルまたはWaveOne Gold Glider(#15/.06の専用グライドパスファイル)で根尖までのガイド路を形成する。滑沢なグライドパスが通って初めて、WaveOne Goldファイルを根管内に挿入する準備が整う。もし初期根管が狭窄や石灰化で#10すら通らない場合、無理にWaveOneに頼るのではなく、EDTAペーストの併用や超音波チップでの拡大など従来法での予備形成が必要になる。

グライドパス形成後、WaveOne Goldファイルを所定の長さまでセットし、設定速度300rpm・WaveOneモードで駆動する。モーターのトルクは自動制御されるため手動設定は基本不要だが、操作上のタッチは軽い力で行うのが鉄則である。ファイル先端を根管内に進める際は、自ら削り進むのを感じながら小刻みなペッキング動作(1~3mm進めては引き抜き、削屑を排出)を繰り返す。押し込みすぎるとファイルが急激に食い込み、モーター負荷が上昇して自動停止やファイル変形を招く場合がある。適切に使えば、ファイルはスムーズに根管の湾曲に沿って進み、数回のペックで作業長まで到達する。もし根尖手前で明らかな抵抗を感じたら、それ以上は力をかけず、一度ファイルを抜去して根管内を洗浄・清掃する。根管洗浄と潤滑には15%EDTAペーストや次亜塩素酸ナトリウム液の併用が推奨されており、切削中も適宜フラッシュしてデブリの排出を促す。ファイル溝に付着した削屑はガーゼで拭き取り、根管内には注射器で洗浄液を注入して吸引除去することで、効率的かつ安全に作業を進められる。作業長到達後は、必要に応じて同一根管に再度同じファイルを入れ、軽くブラッシング動作を加えて壁面を平滑にすることもできる。その後、根管長測定器で最終的な作業長を確認し、ペーパーポイントで乾燥、マッチングしたWaveOne Goldガッタパーチャポイントによる単 cone充填または加熱ガッタ方式で根管充填を行う。WaveOne Gold専用ガッタパーチャは通常のガッタパーチャと比べ低い温度で軟化する特性があり、ウォーム垂直加圧法などにも適する。

院内運用の面では、WaveOneシステム導入にあたりスタッフ教育も考慮すべきである。補綴物の偶発的破折とは異なり、根管内で器具が破折すると即時の除去は困難であり、院内リカバリーや専門医紹介が必要になる。そのためアシスタント含め、NiTiレシプロックの特徴や注意点(無理な圧をかけない、進まないときは撤退する等)をチームで共有しておくことが望ましい。また、使用後のファイルはディスポーザブルとしてシャープス容器に廃棄し、再利用しないルールを徹底する。単回使用の運用はコスト増に感じられるかもしれないが、滅菌や劣化管理の手間を省き、つねに新品の切れ味で処置できる利点がある。院内感染対策の観点からも、使い捨て器材としての運用を周知することが重要である。

経営インパクト

WaveOne Gold導入による経営面への影響を、多角的に検討する。まず材料コストであるが、WaveOne Goldファイルは1パック3本入りで標準価格7,220円(税別)である。1本あたり約2,400円となり、これを原則1症例につき1本消費すると仮定すれば、根管治療1症例あたりのファイル材料費は約2,400円となる。従来のステンレスハンドファイルは1本数百円で複数回使えることを考えると、一見コスト増のように映る。しかし、NiTiロータリーファイルを用いた効率化によりチェアタイムを短縮できれば、人件費や診療時間当たりの機会費用を削減できる。仮にWaveOne Goldにより根管治療の診療時間が1回あたり15分短縮し、従来2回かかっていた処置が1回で完了できたとすると、患者1人あたり15~30分の時間創出となる。その時間に別の処置(補綴物調整や予防処置等)を行えば新たな収益を上げられる。また再診回数が減れば患者の通院負担が軽減し、キャンセルや中断リスクも下がるため、最終的な治療完了率向上にもつながる。

保険診療下では残念ながら「治療が早く終わっても加算点数は同じ」というジレンマがある。例えば、ある根管治療の総算定点数(複数回来院含む)が6,000円程度だとすると、2,400円のファイル代は決して小さくない。このため効率化で確保した時間を有効活用し、他の収益機会に充てる工夫が必要となる。例えば、短縮できた30分で別の患者の小さなう蝕治療(約3,000円相当)をこなせれば、材料費を相殺してなお利益が出る計算になる。加えて、再治療率の低下や患者満足度の向上といった効果も経営に好影響を及ぼす。NiTiファイルにより根管形成の質が安定すれば、治癒不全によるやり直しや転医を減らせる可能性がある。再治療は医院にとって収益にならないばかりか信用低下にもつながりかねないため、それを減らせる意義は大きい。また「先端的な機器を用いて短期間で治療してくれる医院」という評判は患者紹介や口コミ促進につながる。特に自由診療での根管治療を提供する場合、WaveOne Goldのコストは治療費に転嫁しやすく、投資対効果は極めて高い。例えば自費の根管治療費用を1症例10万円とすれば、ファイル・GP等の材料費(総額3千円程度)はわずか数%に過ぎない。むしろ高度な機器を使用することで患者への説得力が増し、高単価メニューとして成立させやすくなるだろう。

高額な設備投資が必要な機器(CTやマイクロスコープ等)とは異なり、WaveOneシステムの初期投資はモーター代程度で比較的少額である。仮にモーターに15万円、ファイル・ポイント類の初期在庫に5万円を投じたとしよう。総額20万円の投資に対し、もし1ヶ月に5症例の根管治療があり1症例あたり30分短縮できた場合、月あたり計150分(2.5時間)の時間創出となる。この時間で新たな診療を行えば、例えば保険治療でも月数万円の売上増加が見込め、半年〜1年程度で投資回収が視野に入る計算になる。実際の症例数や治療内容によって変動するが、WaveOne導入は中長期的に見て「診療効率向上による収益力アップ」という経営効果が期待できる。さらに人的コストの観点では、術者の疲労軽減も見逃せないポイントである。短時間で処置が終われば、他の業務に集中できるだけでなく、長引く治療による術者のストレスや肉体的負担も減る。スタッフの残業削減やモチベーション維持という点でも、効率化投資の価値はあると言える。

使いこなしのポイント

WaveOne Goldを真に診療に活かすには、いくつかのコツと留意点がある。まず導入初期の習熟である。従来のハンドファイル主体の治療から切り替える場合、レシプロックモーション特有の挙動に最初は戸惑うかもしれない。そのため、メーカーやディーラー主催のハンズオンセミナーや模型でのトレーニングを活用し、ファイルの挙動やモーター操作に慣れておくと良い。特にペックのリズムや、抵抗を感じた際の対処(無理に押さず一度撤退する判断)は、経験を積むほど上達する。初めは抜去したファイル先端の削屑の付き具合や、根管内に残るデブリの量を観察しながら、洗浄と切削のバランスを掴むとよい。

グライドパスの徹底も使いこなしの重要ポイントである。WaveOne Goldは単一ファイルで大きく根管拡大できる反面、事前に滑走路が確保されていない細い根管ではかえって危険を伴う。経験的に#10ファイルが全長に達しない根管にいきなりNiTiファイルを入れるのは破折リスクが高いため、たとえ時間がかかってもハンドファイルで#15程度までは拡げておくべきである。その上でWaveOne Gold Smallやグライダーファイルを使えば、スムーズにPrimaryファイルへ繋げられる。言い換えれば、「シングルファイルテクニック」とは何も考えず1本だけ使えばよいという意味ではない。適切な下準備とケース選別があってこそ、「結果的に1本で済む」症例が大半になるということである。この点を誤解すると、かえって操作ミスや事故に繋がるので注意したい。メーカーは80%の症例で1本対応と言っているが、裏を返せば残り20%は2本以上必要な場合もある。その見極めには術者の判断が求められる。

臨床テクニックとしては、根管へのアプローチ角度と確実なストレートラインアクセスを確保することもポイントだ。エンド用バーで可能な限り髄腔内を整え、ファイルが無理な曲がりを強いられないようにする。特に大臼歯遠心根などアクセスが深い部位では、この前処置でWaveOne Goldの破折リスクが大きく減少する。また根管内の滑沢化も有効だ。WaveOne Goldは柔軟だが強い湾曲を切削するとき、根管壁との抵抗で進まなくなることがある。その際は無理せず一度撤退し、ハンドファイルで干渉している壁を数回こすっておくと、再びWaveOne Goldを入れた際にスムーズに進行できる。経験的に、ステップ形成しかけた段差部や強湾曲内湾側の干渉部位を事前に処理しておくことが、WaveOneの切削を円滑にするコツである。

院内体制としては、NiTiファイルは使い捨てとはいえ在庫管理が必要だ。サイズ別に十分な本数を揃え、常に滅菌パックから取り出せる状態にしておく。導入当初は慣れない操作で折損するリスクもゼロではないため、予備も用意したい。ファイルの破折対策としては、前述のように無理な力をかけないことが最重要だが、加えて使用本数を増やす勇気も必要だ。例えばスモールで無理に拡げるより、一旦抜去してプライマリーに切り替えた方が安全に切削できるケースもある(その逆も然り)。シングルファイルに固執せず、状況に応じて2本目、3本目を投入する判断が結果的にファイル破折や根尖部へのデブリ押し出しを防ぎ、予後を良好にする。

患者説明の面では、WaveOneのような新しい器材を用いるメリットを適切に伝えると良い。例えば「最新のニッケルチタン製の電動器具で治療します。これにより処置がスムーズに進み、従来より少ない回数で根の治療が終えられる可能性があります」といった説明は、患者に安心感を与える。特に根管治療に不安を抱く患者には、「柔軟性の高い器具で、歯をできるだけ傷つけずに治療できます」と補足すれば、痛みや歯の負担が少ないイメージを持ってもらえるだろう。ただし注意すべきは、医療広告ガイドライン上、効果や安全性を断言する表現は避けることである。「絶対に◯◯できる」といった説明はせず、あくまで器材の特徴として伝えるに留める。患者との信頼関係構築には、最新機材の導入自体よりも術者の丁寧な対応が鍵となるが、最新の器材を積極的に学び取り入れている姿勢は間接的に医院の信頼性向上につながる。

適応と適さないケース

適応症例として、WaveOne Goldは一般的なう蝕に起因する歯髄炎・根尖病変の根管治療に広く用いることができる。単根歯から大臼歯まで対応可能で、特に中等度までの湾曲根管で威力を発揮する。従来なら手作業で時間を要した根管でも、効率よく拡大できるため、多根管歯の治療回数短縮に寄与する。湾曲が穏やかな前歯・小臼歯はもちろん、湾曲がある大臼歯でも適切なグライドパスとアクセスが確保されていればWaveOne Goldで短時間に形成可能である。根管内に金属ポストや難治性の石灰化が無い初回治療ケースであれば概ね適応と考えてよい。特に「できるだけ短期間で治療を終えたい」「ラバーダムを長時間口腔内に装着したくない」といった患者ニーズには、本システムの時短効果がマッチする。

一方、適さないケースや慎重な対応が求められる状況も存在する。まず、極度に湾曲した根管では無理な力がかかりやすく、NiTiファイルといえども根管形態に沿えず破折のリスクが高まる。急カーブやS字カーブを描く根管では、従来通りステンレス製ハンドファイルで少しずつ拡大し、ある程度形を整えてからNiTiを使用するか、場合によってはNiTiを使わない選択も視野に入れる。石灰化の強い根管も難易度が高い。入口付近でNiTiが入っていかないような石灰化症例では、化学的軟化や超音波チップでのルートマップ作製を行い、WaveOne Goldが入るスペースを下準備しなければならない。これら高度に難渋する根管は、一般開業医レベルではNiTiシステム云々よりもマイクロスコープや専門的手技の助けが必要な場合もあり、無理にWaveOneで処置を完結しようとしない方がよい。

再治療(リトリートメント)症例にも注意が必要だ。既存のガッタパーチャ充填材や折損ファイルが根管内にある場合、WaveOne Goldはそれらを除去する目的には作られていない。ガッタパーチャ除去用の専用ファイル(プロテーパー退避用ファイル等)やソルベントを使い、根管内を一度きれいにしてからWaveOne Goldで再形成するのが基本である。また開大した根尖孔を有する症例(根尖部の破壊が大きい根尖病変や未成熟歯など)では、テーパーの大きいWaveOne Goldを使うと過剰な削除や根尖部への押し出しを起こす可能性がある。そうしたケースでは、敢えて小さいサイズのハンドファイルで必要最小限の拡大に留め、根尖封鎖にはMTAなどのバイオマテリアルを用いるほうが望ましい場合もある。

また、患者要因では金属アレルギーにも留意したい。NiTiファイルはニッケルを含むため、重度のニッケルアレルギー患者には使用を避けるのが無難である(ステンレスファイルにもニッケル成分は含まれることが多いが、NiTiは高ニッケル含有率である)。過去に金属アレルギーの既往がある患者では、事前にパッチテスト結果等を確認し、必要なら代替手段を検討する。

最後に、WaveOneを十分に活かせないケースとして、術者がどうしてもレシプロックの操作感に馴染めない場合が挙げられる。長年の手指の感覚を重視する先生の中には、エンジンで根管を削ること自体に抵抗がある向きもある。しかし現在ではNiTiロータリーファイルの有用性はエビデンスと臨床経験の双方から支持されており、WaveOne Goldについても日本国内外で多くの歯科医師が日常的に使用している。苦手意識がある場合も、模型実習や他院での見学を通じて操作に慣れれば、その利点を享受できる可能性が高い。逆にどうしても導入しない場合は、手用ファイルで確実に根管形成する腕を磨き続けるしかなく、チェアタイム短縮や肉眼では限界のある複雑根管への対応という点で将来的なハンディキャップを負いかねないことも念頭に置く必要がある。

導入判断の指針

歯科医院の診療方針やターゲットとする患者層によって、WaveOne Gold導入の是非やメリットは異なる。ここではいくつかの歯科医師タイプを想定し、本製品が「刺さる」かどうか考察する。

保険診療中心で効率重視の開業医の場合

日々多数の患者をさばき、保険診療が売上の大半を占める医院では、診療の効率化=収益力と直結する。こうした医院にとって、WaveOne Goldがもたらすチェアタイム短縮効果は極めて魅力的である。根管治療に費やす時間を圧縮できれば、その分だけ他の患者対応や処置に時間を充てられる。例えば1歯の根管治療が従来2回だったものが1回で終われば、空いた時間枠で別の患者の治療を入れることもできる。長期的に見れば、「根管治療に時間がかからない歯科医院」は患者満足度も高まり紹介が増える可能性もあるだろう。

ただし保険診療中心の場合、材料コストへの意識もシビアだ。WaveOne Goldファイルのコストは前述の通り1本約2,400円で、保険点数に占める割合は小さくない。効率優先とはいえ、費用対効果が合わねば導入は難しいだろう。しかし実際には、効率化で得られる間接的な経済効果がこのコストを埋め合わせて余りある可能性が高い。例えば1症例につき1回の来院減が実現すれば、その1回で他の有症者を診療できる。仮にその診療で数千円の収益が生まれれば、ファイル代は実質相殺できる計算になる。また、根管治療がスムーズに終わる医院は患者からの信頼も得やすく、転院やキャンセルを減らせる点も経営的メリットだ。院長自身が多忙で時間が足りないと感じているなら、WaveOne導入による省力化はスタッフ残業の削減や自身の拘束時間圧縮にもつながり、働き方改革の観点からも有意義である。総じて、高生産性を志向する保険中心型クリニックにはWaveOne Goldは非常にマッチしやすいと言える。初期投資も比較的小さいため、短期間で投資回収が期待できるだろう。

自費診療を積極展開する高付加価値クリニックの場合

マイクロスコープやCTを駆使し、精密治療や審美補綴など高付加価値の自費診療に注力するクリニックでは、WaveOne Goldはむしろ「導入していない理由がない」ほど相性が良い。自費メニューである以上、最新の機材・技術を積極採用していること自体が医院のブランディングになる。患者への説明でも「当院ではWaveOne Goldという高度な機器を使って、従来より迅速かつ精密な根管治療を行います」と胸を張って言える。費用面も、前述のように自費診療費に数千円上乗せすれば十分回収可能なレベルである。

また、こうしたクリニックは根管治療後の補綴や再発リスクにも人一倍気を遣う傾向がある。WaveOne Goldの安定した形成能力と高い破折耐性は、治療の質を底上げし、長期予後の向上に貢献しうる。実際、自費診療で根管治療を受ける患者は「再発無く長持ちしてほしい」という期待が強く、術者側もできる限りそれに応えたい。その点で、WaveOne Goldによる確実な根管形成はシーラーの隙間なく充填する基礎を築き、結果的に良好な予後につながると考えられる(*もちろん、予後は形成だけでなく洗浄や封鎖など総合的管理の結果であることは強調しておく必要がある)。

さらに高付加価値クリニックでは、患者体験の質も重視される。短時間でストレス少なく処置が終われば、患者満足度は高い。長時間口を開けたまま苦痛に耐える経験は患者にとって大きな負担であり、それを軽減できるWaveOneのメリットは計り知れない。加えて、先進技術を導入していること自体が患者の安心感や医院の信頼性向上に寄与するだろう。以上より、自費中心で質を追求する医院にとってWaveOne Goldは是非とも導入したいツールである。もし唯一懸念があるとすれば、術者・スタッフの習熟時間だが、研修機会を活用すれば早期に戦力化できるはずだ。

インプラント・口腔外科中心の医院の場合

主にインプラント治療や外科処置を収益柱にしている医院では、根管治療はそれほど多くないかもしれない。このような外科中心型の医院にWaveOne Goldが有用かどうかは、院長の診療方針によるところが大きい。もし「難治歯は抜歯してインプラントに置換する」という方針が強ければ、根管治療そのものに重きを置かないため、高価なNiTiシステムは不要と考えるかもしれない。しかし現在の患者ニーズを見ると、「なるべく歯を残したい」という希望は依然根強い。インプラントが優れた治療オプションであっても、自身の歯を保存できるなら保存したいという患者は多い。そうした患者心理に応えるためにも、外科中心の医院であっても一定レベルの歯内療法オプションを提供できる体制は持っておく価値がある。WaveOne Goldは、外科処置を主とする術者でも比較的簡便に根管治療の質を上げ、短時間で完了させる助けとなる。例えばインプラント埋入前の隣在歯の感染根管治療など、付随的に発生する歯内療法においてWaveOneが威力を発揮すれば、他院への紹介や治療遅延を防げる。

一方で、年間の根管治療件数がごく僅かな医院では、モーター設備やファイル在庫の維持が無駄になる可能性もある。投資回収という点では不利かもしれない。しかしWaveOneモーター自体は小型軽量で場所を取らず、使わないときは保管しておける。初期コストも上述の通り大きくないので、「万が一の備え」として導入しておくのも一策である。むしろ問題は術者のスキル維持で、症例が少ないとせっかく導入しても使いこなせない恐れがある。この場合、メーカーのサポートや講習で経験値を補い、少ない症例でも確実に成果を出せるよう準備したい。総じて、インプラント中心でも包括的歯科医療を標榜する医院であればWaveOne Goldは導入メリットがある。逆に「根管治療は一切手掛けない」という方針が明確なら、無理に投資する必要はないだろう。ただその場合でも、緊急時(例えば手術前に偶発的な歯髄炎が起きた場合など)の対処として、NiTiファイルと簡易モーターを備えておくと安心感は高まる。

よくある質問(FAQ)

Q. WaveOne Goldファイルは繰り返し使用できますか?
A. 基本的に単回使用(ワンパッション)が推奨されている。製品は滅菌済で供給され、オートクレーブによる再滅菌は不可とされている。これは再使用による金属疲労で破折リスクが高まることや、感染対策の観点による。メーカーも「一症例一新品」の使用を想定しているため、使い捨て器材と割り切って運用するのが安全である。どうしても再使用する場合は自己責任となり、厳密な洗浄滅菌と慎重な破損チェックが必要だが、推奨はされない。新品を用いることで常に最高の切れ味と安全性で処置できるメリットを考慮すべきである。

Q. 使用には専用のエンドモーターが必要ですか?
A. はい、WaveOne Goldを使用するには対応したエンド用モーターが必要となる。メーカーは「X-Smart Plus」エンドモーターの使用を指定しており、WaveOne用の往復運動プログラムが組み込まれている。同等のレシプロケーティング機能を持つモーターであれば使用自体は可能だが、角度や挙動の微調整が合わないと性能を十分発揮できない恐れがある。最も安全なのは公式推奨のモーターを使うことである。既に他社製のモーターをお持ちの場合は、販売元にWaveOneモードの互換性について問い合わせてみると良い。また、新たに導入する場合、モーターの保証やアフターサービスも確認しておくと安心である。

Q. 湾曲の強い根管でも本当に折れずに使えますか?
A. WaveOne Goldは従来のNiTiファイルより柔軟性・耐久性が高められており、ある程度の湾曲なら安全に追従できる。特にGOLDワイヤー素材によって疲労破折抵抗性が50%向上しているため、連続回転ファイルに比べ折れにくい設計である。ただし「絶対に折れない」わけではなく、強い湾曲で無理に力を加えたり、グライドパス無しで押し込んだりすれば破折リスクは高まる。適切な前処置(#15までのグライドパス形成)と正しい操作(軽い圧でのペッキング、頻繁なデブリ除去)を行えば、多くの湾曲根管で問題なく使用できる。万一、根管内でファイルが進まなくなった場合は無理せず一度撤退し、手用ファイルでの追加形成や小さいサイズのWaveOne Goldファイルの使用に切り替える柔軟性も必要である。適切な症例選択と慎重なテクニックが伴えば、湾曲根管においても本製品は高い安全性を発揮する。

Q. どんな症例でもWaveOne Goldで治療すべきでしょうか?
A. すべての症例に万能というわけではない。WaveOne Goldは多くの初回根管治療で有効だが、症例によっては他のアプローチが適している場合もある。例えば、極端に狭い根管や石灰化の強い根管では、WaveOne Goldが入る空間を確保するまでハンドファイルで地道な拡大が必要になる。また、再根管治療で根管内に既存充填材がある場合は、まずそれを除去する専用器具(リトリートメント用ファイル等)を使った方が効率的だ。WaveOne Goldはあくまで根管形成を効率化する手段であり、ラバーダム防湿や十分な洗浄・薬剤処置といった根管治療の基本手順を省略できるわけではない。症例によっては従来法と組み合わせながら、本ファイルの得意な部分(迅速な拡大)を活かす形で治療計画を立てると良いだろう。要は、「この症例ではWaveOneを使うべきか否か」を判断すること自体が術者の裁量であり、それも含めて適切にケースバイケースの対応をするのが理想である。

Q. WaveOne Goldを導入すれば根管治療が1回で終わりますか?
A. WaveOne Goldの使用により技術的には単回療法(一回法)が実施しやすくなる。しかしながら、根管治療の回数は症例の感染状態や術者の方針によっても決まる。WaveOne Goldのおかげで物理的な根管形成は1回の来院内で完了しやすくなるため、痛みがなく感染もコントロールできている症例ではそのまま根管充填まで進み、1回で治療を終えることが可能になる。一方、急性根尖膿瘍のように感染が強いケースでは、WaveOneで迅速に形成できても薬剤の浸透やドレナージ確保のためにあえて複数回の処置を行うこともある。また術者ごとの治療哲学(必ず貼薬して次回来院時に充填する等)も関与する。したがってWaveOne Gold導入=無条件にワンビジット化というわけではない。ただ、従来は器械的制約で2回以上かけていた症例が、WaveOne Goldにより1回で完了できる選択肢が現実味を帯びる点は大きい。実際、ファイル交換や長時間の作業が不要になれば、患者の疲労も少ない状態でその日のうちに根管充填まで済ませやすくなる。最終的に治療回数をどうするかは術者の判断だが、本製品の導入で「一回で終われる症例は終わらせる」環境が整うと言える。根管治療回数の短縮は患者満足度向上にも直結するため、安全に一回法が行える症例では積極的にWaveOne Goldを活用するとよいだろう。