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Er:YAG(エルビウムヤグ)レーザーのメーカーごとの価格は?特徴や用途を徹底比較

Er:YAG(エルビウムヤグ)レーザーのメーカーごとの価格は?特徴や用途を徹底比較

最終更新日

歯を削るキーンという音に患者が顔をしかめ、治療中に冷や汗をかいた経験はないだろうか。痛みの少ない治療を理想に掲げながらも、従来のタービンでは振動や熱でどうしても不快感が伴ってしまう。特にう蝕処置で麻酔が効きづらい患者に出会った日には、術者も患者も疲弊してしまうものだ。また、歯周外科では出血や術後疼痛を抑えたいが、従来の方法では限界があると感じている先生も多いだろう。

こうした悩みを背景に登場したのが歯科用エルビウムヤグ(Er:YAG)レーザーである。硬組織を含む幅広い処置にレーザーを応用でき、歯質や歯周組織へのダメージを最小限に抑えられると期待されている。本記事では、日本国内で入手可能なEr:YAGレーザー各製品について、その臨床的な特徴と経営的視点から徹底比較する。高額投資となる機器選定で後悔しないために、ぜひ参考にしてほしい。

比較サマリー表(主要Er:YAGレーザー早見表)

主要メーカーから販売されているEr:YAGレーザーのスペックと価格の目安を以下の表にまとめた。臨床性能の指標となる波長・出力と、医院経営に直結する価格帯を比較していただきたい。

製品名 (メーカー)レーザー種類 (波長)最大出力性能希望価格(目安)
アーウィン アドベール EVO (モリタ)Er:YAG (2940nm)約3W (350mJ/10Hz相当)定価約628万円(税込約691万円)
LiteTouch ライトタッチ (NDC)Er:YAG (2940nm)8W (最大出力)オープン価格 (推定600~700万円台)
LightWalker ライトウォーカー (Fotona/JMEC)Er:YAG (2940nm) + Nd:YAG (1064nm)Er:YAG: 20W / Nd:YAG: 15Wオープン価格 (高価格帯・要問い合わせ)
Waterlase iPlus ウォーターレーズ (Biolase/デンタリード)Er,Cr:YSGG (2780nm) ※10W (最大出力)オープン価格 (高価格帯・要問い合わせ)
エルファイン400 (オサダ)Er:YAG (2940nm)公開情報なし (数W級と推定)オープン価格 (情報公開なし)

※Waterlase iPlusはEr:YAGと近い用途の類似波長レーザー(Er,Cr:YSGG)である。

各機種とも硬組織と軟組織の両方に使えるオールティッシュレーザーという点は共通するが、出力性能や操作方式に違いがあり、価格にも幅がある。次章から、これらの違いが臨床と経営にどう影響するかを軸ごとに解説する。

Er:YAGレーザーを比較するための主な軸

Er:YAGレーザー選定において重要な比較ポイントを、臨床面と経営面の両面から整理する。切削性能と熱影響, 軟組織処置能力、操作性とメンテナンス性、コスト・経営効率の各軸で、それぞれの製品の特徴と影響を見ていこう。

硬組織の切削性能と歯質への影響

Er:YAGレーザーの最大の特徴は、水への高い吸収性による優れた硬組織切削能力である。エナメル質や象牙質中の水分にレーザーが吸収されると瞬時に蒸発し、その衝撃で歯質を蒸散(アブレーション)させる。これにより回転切削器具とは異なる非接触の切削が可能となり、振動や摩擦熱がほとんど生じない。例えばモリタのアドベールでは1パルスあたり最大350mJ程度のエネルギーで窩洞形成ができ、エナメル質に微小なクラックが入りにくいことが確認されている。これは歯の長期予後にも有利な点である。

一方で、機種により切削効率(1秒あたりに削れる量)は異なる。低出力の装置では深いう蝕や硬いエナメル質の除去に時間がかかる場合がある。例えば旧世代のEr:YAGでは平均出力が3W程度であったため、広範なう蝕除去ではチェアタイム延長につながり得た。しかし、ライトタッチは最大8W、ライトウォーカーは最大20Wといった高出力を実現しており、従来より切削スピードが大幅に向上している。これら高出力機では窩洞形成加算(40点)の算定対象となる小さな齲蝕の除去であれば、従来のバーと遜色ない時間で処置可能である。

また熱影響の少なさも比較軸である。Er:YAGレーザーは作用が表層に限定され深部まで熱が伝わりにくい【注:波長特性】。そのため歯髄温度の上昇が少なく、術後の疼痛や歯髄へのダメージリスクが低いとされる。ただし切削効率を上げるため高出力を連続照射すると、わずかだが周囲温度が上昇する可能性もある。各製品とも冷却水の噴霧で熱を抑えているが、長時間の連続照射では間欠照射や十分な給水を行うなど配慮したい。総じて、高出力機ほどスピーディーだが熱量管理も重要という点を押さえておく。

軟組織の切開能力と止血効果

Er:YAGレーザーは軟組織の切開にも有用である。メスによる切開と異なり非接触で蒸散的に組織を切開できるため、出血量が少なく術野がクリアに保てる利点がある。特にライトタッチ導入医院の声では「メスと比較して縫合なしでも容易に止血可能」「術後の疼痛や腫脹が軽減し治癒が早い」といった報告がある。これはEr:YAGレーザーによる瞬時の蒸散が小血管の損傷を最小限に留めるためで、結果として出血が抑えられると考えられる。たとえば高齢者の小帯切除術や口腔前庭拡張術でも、Er:YAGで行えば出血コントロールが容易で術後の不快症状が軽減する傾向がある。

ただし、Er:YAGレーザー自体の止血作用(凝固能力)は限定的である点に注意したい。波長2940nmは水への吸収が高く浅い層でエネルギーが尽きるため、深部血管まで熱凝固させる効果は弱い。そのため太い血管からの出血や広範囲の歯肉切除では、Er:YAG単独では止血が不充分な場合がある。ライトウォーカーのようにNd:YAGレーザーを併用できる機種は、その1064nm光による凝固効果で確実な止血と殺菌が可能である。Nd:YAGは軟組織への深達性が高く止血に優れるため、二波長搭載機ではEr:YAGで切開→Nd:YAGで止血という使い分けが可能だ。純粋なEr:YAG機でも工夫として低出力の連続照射で表層を乾燥・熱変性させることで簡易的な止血はできるが、Nd:YAGやCO₂レーザーほどの凝固力はないことを理解しておく。

軟組織への安全性という観点では、Er:YAGは周囲組織への熱拡散が極めて少ない点がメリットである。例えば歯周ポケット内のレーザー照射では、Er:YAGは余分な熱ダメージを与えず歯周病原細菌の殺菌や根面のエンドトキシン除去を行える。実際、Er:YAGを用いた歯周ポケット掻爬では歯肉の付着改善や炎症の抑制が報告されている。一方Nd:YAGや半導体レーザーは強力な凝固作用ゆえに熱が深部に及ぶため、術後の組織変性リスクがわずかにある。低侵襲性という点でも、Er:YAGは歯科領域で非常に安全性の高い軟組織レーザーと言えるだろう。

操作性とメンテナンス性

高額な機器を導入しても、日常診療で使いこなせなければ宝の持ち腐れである。操作性の良さと維持管理の容易さも重要な比較軸だ。まず操作性に関して、従来のEr:YAGレーザー装置は本体から関節アームや光ファイバーでハンドピースにレーザーを導く方式が一般的であった。例えばモリタやFotonaの装置では、大型の本体とアームがユニット横に設置される。この方式ではビームの安定性は高いものの、アームの取り回しに慣れが必要であった。一方、NDCのライトタッチはレーザー発振器を直接ハンドピースに内蔵する世界初の設計であり、本体とハンドピースをつなぐファイバーやアームがない。ハンドピース自体が小型レーザー発振機となっているため、まるでタービンのような感覚で取り回せるのが特長だ。これによりユニット間の移動やポジショニングも容易で、複数の診療台で使い回す場合でも動線を妨げにくい。重量バランスも考慮されており、術者の手首への負担が少ないよう設計されている。

次にユーザーインターフェースと照射モード設定もポイントだ。各社ともタッチパネル式の操作画面を備え、処置内容に応じたプリセットを選べるようになっている。アドベールやライトウォーカーでは症例別のプリセットモードが充実しており、例えば「齲蝕除去」「歯周ポケット蒸散」「インプラント周囲炎」などメニューを選ぶだけで推奨設定(出力、パルス幅、チップ種別)が提示される。初心者でも設定ミスなく適切なエネルギー条件を再現できる点で安心だ。一方で上級者向けにマニュアルモードで微調整も可能で、メモリー機能によって自分好みの設定を登録しておける機種も多い。直感的に操作できるUIかどうかは、実機デモで確認しておくとよいだろう。

メンテナンス性では、消耗品と耐久性に注目する。Er:YAGレーザーではコンタクトチップと呼ばれる先端チップが消耗部品となる。多くの機種でサファイア製チップが採用されており、1本あたり数千円~1万円程度である。幸いサファイアは非常に硬度が高く摩耗しにくいため、一度購入すれば長期使用が可能で1症例あたりのチップコストはごく僅かである。ただしチップ先端が欠けたり傷つくとエネルギー効率が落ちるため、定期的な点検は必要だ。ライトタッチは全チップがサファイア製で耐久性が高くトータルのチップ交換コストが抑えられるとされる。

本体の維持については、フラッシュランプ(発振光源)の寿命と交換費用も考慮したい。Er:YAGの発振にはキセノンランプが使われ、数年ごとに交換が必要になる場合がある。交換コストは機種により異なるが数十万円規模と見ておくべきだ。ただしアドベールEVOではアイドリングを無くす省エネ設計でランプ寿命を延ばす工夫がなされている。ライトタッチやライトウォーカーでも、適切な冷却と電源管理で消耗部品の寿命を伸ばす設計となっている。導入後はメーカーの保守契約を結び、定期点検と消耗品交換のプランを立てておくと安心である。

コストと経営効率(ROI)

何と言っても導入コストは最大の悩みどころだろう。Er:YAGレーザーは装置価格が数百万円規模と高額で、歯科医院にとって大きな投資である。上の早見表に示したように、新品価格の目安は500万~800万円程度が中心で、高機能機種では1000万円前後に及ぶ。この初期投資をいかに回収し、医院の利益向上につなげるかが経営効率の視点となる。

まず直接的な収益面では、保険請求できる加算の存在がポイントになる。Er:YAGレーザーを用いたう蝕除去にはう蝕歯無痛的窩洞形成加算(40点)が認められており、1回の処置につき+400円の収入増となる(患者3割負担の場合は自己負担+120円)。一見小さい額だが、例えばライトタッチ導入医院のケースでは月120~130回この加算を算定し、それだけで月5万円前後の増収となっている。また、歯周外科領域でも歯周組織手術時のレーザー加算(手術時歯根面レーザー応用加算60点)が設定されており、フラップ手術やGTRの際にEr:YAGを照射すれば+600円を算定できる。こうした積み重ねで保険診療内でも一定のコスト回収が見込める。さらに自由診療に目を向ければ、レーザーを使った無痛治療や審美治療を付加価値サービスとしてアピールし、自費率向上や集患につなげることも可能だ。痛みに敏感な患者への安心料として自費加算するクリニックも存在する。

次に時間コストへの影響も考えたい。Er:YAGレーザーは麻酔なしで処置できるケースが増えるため、結果的に診療全体の効率アップにつながる可能性がある。例えば小さな齲蝕をレーザーで治療する際、従来なら表面麻酔→浸潤麻酔→待ち時間という流れが必要だったが、Er:YAGであれば麻酔を省略できることが多い。麻酔の準備と作用待ちにかかっていた10分程度が削減できれば、その分1日の患者回転数を増やすこともできる。また、レーザー治療は術後の疼痛や腫れが少ないため、患者の次回来院間隔を短縮して早期に補綴処置へ移行できるケースもある。これは医院の治療完了までのリードタイム短縮につながり、結果的に収益改善に寄与しうる。

一方で注意すべきは、レーザー特有の学習コストである。導入直後は術者・スタッフとも操作に不慣れなため、最初の数症例は通常よりチェアタイムが延びることもある。ここを乗り越えるにはメーカーや学会主催の講習会への参加や、症例経験を積む努力が必要だ。ある意味時間を投資して技術を習得することで初めて機器の真価が利益に変わるとも言える。高額機器ゆえに「忙しい日常診療でつい使わずじまい」という失敗例も耳にするだけに、導入するからには積極的に活用する戦略を立てておくことが重要である。

最後にROI(投資対効果)を総括すると、Er:YAGレーザーは正しく活用すれば高いリターンをもたらし得るが、それは単に加算点数だけで測れるものではない。患者満足度向上によるリピート増や医院の先進性アピールによる新患獲得といった波及効果は測り知れないものがある。とりわけ無痛治療や低侵襲治療へのニーズが高まる昨今、Er:YAGレーザーは医院ブランディングの切り札ともなり得る。ただし、院長自身がその価値を理解しスタッフと共有してこそ宝となる機器であることも忘れてはならない。

【製品別レビュー】主要Er:YAGレーザーの臨床価値と適合する歯科医師像

上記の比較軸を踏まえ、各メーカーの代表的なEr:YAGレーザー製品について強みと弱みを整理する。加えて、それぞれの製品がどんな診療スタイルの歯科医師に合っているかを考察する。自身の医院にフィットする一台を見極める参考にしてほしい。

【アーウィン アドベール EVO(モリタ)】国内シェアの高い安定性能レーザー

モリタのアーウィン アドベールシリーズは、日本で最も早くからEr:YAGレーザーを歯科臨床に投入したパイオニア的存在である。定価約628万円という高額機ではあるが、その安定した性能と手堅いサポート体制で国内シェアも高い。EVOは最新モデルで、高パルス・高出力化とユーザーフレンドリーなインターフェースが特徴だ。臨床的な強みは硬組織から軟組織までバランス良くこなせる点にある。最大出力は旧モデル比で向上しており、小~中規模の齲蝕除去ならスムーズに切削できる。複数のコンタクトチップを用途別に使い分けることで、歯周ポケット内の微細な蒸散からインプラント周囲炎の肉芽除去まで幅広く対応可能だ。

弱みとして挙げられるのは、関節アーム式ゆえの設置スペースと取り回しの問題だ。本体はユニット横に置くカート型で、アーム操作には若干の慣れが要る。またモリタ製ゆえ堅牢ではあるが、操作画面のUIはシンプルで保守的な印象もあり、最新機種に比べると派手さや革新性に欠けると感じる向きもある。とはいえ裏を返せば誰にでも扱いやすく故障が少ない安心感があるということだ。実際、導入医院からは「毎日酷使してもトラブルがなく信頼できる」という声が多い。

どんな歯科医師に向いているか

オールラウンドにレーザーを活用したい開業医全般にお勧めだ。特に保険診療主体で日々の診療効率を重視する先生には、アドベールの安定感は心強い武器になる。例えば「う蝕除去で麻酔減を図りながら、必要に応じ歯周ポケットにも応用したい」と考える先生には最適だろう。国内大手メーカーの製品なのでアフターサポートや講習会も充実しており、初めてレーザーに挑戦する場合にも安心感がある。ただし、高度な美容施術や特殊なレーザー治療(他波長とのコンビネーションなど)を求めるなら物足りない面もあるかもしれない。まずは保険診療の質と効率を底上げする基本装備として、この信頼性重視の一台を検討してみてはどうだろうか。

【LiteTouch ライトタッチ(NDC)】ファイバー不要のコンパクトEr:YAGレーザー

ライトタッチはイスラエル製の革新的Er:YAGレーザーで、国内ではNDC社が販売している。最大の特徴は、なんと言っても発振部一体型のハンドピースだ。本体から伸びる光ファイバーも関節アームも無いため、ユニット間を自由に持ち運べ、手持ちの感覚でレーザー照射が可能である。この独自設計によりレーザー光のロスが極めて少なく、最大出力8Wという高出力をコンパクトな筐体で実現している。臨床的なメリットは、高出力ゆえの高速な切削と、広範囲の蒸散能力である。例えば深い象牙質まで及ぶう蝕でも、照射条件を適切に設定すれば短時間で除去できる。また発振部が直にチップと連結していることでビームの位相ずれがなく、パワーの減衰が最小限に抑えられる。結果として、効率よく硬組織を削合・軟組織を切開でき、診療全体のスピードアップにつながる。

ライトタッチの弱みは、国内導入が比較的最近で実績データが蓄積中である点だ。モリタやFotonaのような長年のユーザーコミュニティが少なく、情報交換の場が限られるかもしれない。また、発振器内蔵ゆえにハンドピースが他機より重いという指摘もあるが、実際には設計上バランスが取れており熟練すれば負担は感じにくいとの報告もある。むしろコード類が無いことでアシスタントとの位置調整が楽になる利点も大きい。価格はオープンだが市場推定では600万~700万円台と高額である。しかし、あるユーザーは「当院(1日30名規模の小規模医院)でも6~7年で元が取れる」とコメントしており、実際にレーザー加算取得や自費手術件数増加でコスト回収を図っているようだ。要は使いこなしてこそ価値が出る機器と言える。

どんな歯科医師に向いているか

最新技術を積極的に取り入れたい開業医にマッチする。例えば、「ユニット複数台でレーザーを共有しフレキシブルに使いたい」「医院の強みとして最新レーザー無痛治療を前面に打ち出したい」といった先生には、ライトタッチの機動力と高性能は魅力的だ。逆に、装置を腰据えて1か所に設置し特定処置のみで使うスタイルならライトタッチの機動性は活かせないかもしれない。また、新しいもの好きで勉強熱心な先生にとって、まだ国内症例報告が少ないライトタッチは自ら成果を出して情報発信するやりがいもある製品だろう。自費診療を含め診療の幅を広げたいと考える先生にぜひ検討してほしいレーザーである。

【LightWalker ライトウォーカー(Fotona/JMEC)】2波長搭載のハイエンドレーザー

ライトウォーカーはスロベニアのFotona社が製造し、日本ではJMEC社が扱うフラッグシップ機だ。Er:YAG 20WとNd:YAG 15Wの2種類のレーザーを1台に搭載していることが最大の売りである。これにより、硬組織処置はEr:YAGで、軟組織の切開・止血や深部殺菌はNd:YAGでと、用途に合わせてベストな波長を瞬時に切り替えながら使用できる。臨床的な強みは何と言っても圧倒的な多用途性だ。Er:YAG単独機では苦手な歯肉切開時の止血もNd:YAGモードで完璧にこなし、またNd:YAGは歯周ポケット内や根管内の殺菌・バイオフィルム除去にも高い効果を発揮する。さらにFotona独自の超短パルスモード(SSP)や長パルスモード(VLP)などパルス幅を細かく選択でき、エネルギーの組織伝達の仕方を変えることでエナメル質から粘膜まで最適なパワーコントロールが可能となっている。例えばSSPモードでは短時間で表層だけをエネルギー飛入させて痛みの少ない齲蝕除去ができ、一方VLPモードではゆっくりエネルギーを与えて確実な切開と凝固を行う、といった使い分けができる。

弱みとしては、機器が大型かつ高価格である点が挙げられる。本体重量約59kgにもなるカート式装置で、設置や移動にはそれなりのスペースと人手が必要だ。また価格もオープンながら1000万円近い最高クラスで、経営的な負担は大きい。そのため導入ハードルが高く、国内の症例数も他機に比べれば少なめである。しかし、世界的にはFotonaレーザーは皮膚科や美容分野でも広く使われており、医学的エビデンスや臨床プロトコルが非常に豊富である。歯科領域でも学会発表や論文でFotonaの名を見かける機会が増えており、手厚い技術資料や講習プログラムが提供されている点は安心材料と言える。

どんな歯科医師に向いているか

先進的な総合歯科治療や専門性の高い治療を目指す先生に最適だ。例えば歯周病専門医でレーザーを活用した再生療法やペリオドンタルプラスティを追求したい場合、Nd:YAG併用のライトウォーカーは心強いパートナーとなる。またインプラント周囲炎のレーザー治療や、Fotonaが提唱するスムースレース(口腔内からのレーザーによるいびき治療)など、新しい自費メニューを導入したい審美・口腔外科志向の先生にも向くだろう。逆に、保険の範囲内でコツコツ使うには性能を持て余すかもしれない。費用対効果を得るには自費治療を展開していく覚悟が必要な機種である。導入を決断したなら、まずはメーカーに相談してデモ機で十分試用し、スタッフと活用イメージを共有しておくことを強くお勧めする。

【Waterlase iPlus ウォーターレーズ iPlus(Biolase)】 Er:YAGに近い波長のオールティッシュレーザー

ウォーターレーズ iPlusは米国Biolase社の歯科用レーザーで、正確には波長2780nmのEr,Cr:YSGGレーザーを搭載している。Er:YAGではないものの、水への吸収特性が近く硬組織レーザー治療が可能なため、実質的にEr:YAGレーザーと同様の用途で使われている。日本ではデンタリード社が販売し、過去に厚労省の先進医療でも用いられた実績がある。臨床性能としては、Er:YAGと比べて水への吸収がやや低いことで特徴付けられる。これは一見デメリットのようだが、適切な水噴霧との併用で効率的にエネルギーを伝達し高い切削力を発揮できる設計となっている。最大出力10Wと十分高く、実際の切削スピードや軟組織処置能力はEr:YAG機に匹敵する。Biolaseはチップのバリエーションが豊富で、齲蝕除去用から歯周ポケット用、外科用など多彩な専用チップを揃えており、術式に合わせて最適なビーム分布が得られる点も強みだ。

弱みは、Er:YAGに比べ国内ユーザーが限られるため情報共有が少ないことや、専用消耗品(チップ類)のコストがやや高めと言われる点だ。価格も他のハイエンド機と同様に800万前後~と推定され、導入コストハードルは高い。また2780nmレーザーは国内保険加算の適用上はEr:YAGと同等に扱われているが、微妙な違いとしてEr:YAGより若干軟組織への熱影響が大きいという報告もある。しかし、それでも従来のCO₂やNd:YAGに比べれば格段に低侵襲である。ウォーターレーズはむしろ米国での無痛治療マーケティングで有名であり、「ドリルを使わない虫歯治療」としてテレビで紹介された経緯もある。日本でもそれに倣い、患者向けにアピールしやすいブランドとして捉えることができる。

どんな歯科医師に向いているか

患者訴求力を重視し、無痛治療のイメージ戦略を打ち出したい先生に合っている。例えば競合医院との差別化に「当院ではドリルに代わる最新レーザーを使用」と打ち出したい場合、ウォーターレーズという製品名はインパクトがあるだろう。ただし、臨床的にはEr:YAGと大差ないため、「Er:YAG機種からあえて乗り換えるほどの決定的メリットはない」と感じるベテランもいる。したがって、既にEr:YAGを使いこなしている医院には不要かもしれない。一方でこれから初めて導入する医院であれば、どのメーカーでも操作性や習熟は一から学ぶ必要があるため、あえてウォーターレーズを選ぶ選択肢も十分あり得る。要は自院のマーケティング方針とサポート体制で判断するとよい。国内ではデンタリード社が研修会等を提供しているので、不安な点は事前に問い合わせて解消しておこう。

【エルファイン400(オサダ)】国産コンパクトEr:YAGレーザーの挑戦

オサダ エルファイン400は、国産のレーザー機器老舗である長田電機工業(オサダ)が2016年頃に発売したEr:YAGレーザーである。情報公開が限られているため市場での存在感は大きくないが、コンパクトな筐体と必要十分な出力で一部の開業医に支持されている。オサダは従来からCO₂レーザー「オペレーザー」シリーズや半導体レーザー「ライトサージ」シリーズを展開しており、そのノウハウを活かしてEr:YAGにも参入した形だ。エルファイン400の特長は、国産ならではのシンプルな操作性とリーズナブルな価格設定(他社より若干低価格との声もある)にある。硬組織レーザーとしての性能も、1~2歯のう蝕除去や歯周ポケット内の蒸散であれば問題なく機能するレベルとされる。

弱みとしては、販売数が限られるゆえにユーザーコミュニティや症例報告がほぼ皆無な点だ。導入しても情報交換する仲間が見つけにくく、ノウハウはメーカー担当者頼みになってしまう可能性がある。また、より大手のモリタ製品などに比べると信頼性やメンテナンス体制に不安を感じる歯科医師もいるようだ(実際の不具合情報は公表されていないが、こうした高額機器ではブランド力も心理的な選択要因となる)。なお、オサダは現在CO₂レーザーや半導体レーザーに注力しているようで、Er:YAGの今後の新機種開発があるかは不透明である。

どんな歯科医師に向いているか

国産志向で必要最小限の投資に抑えたい先生には検討の価値がある。例えば「レーザーは興味あるがまずは低予算で試してみたい」という場合、条件次第ではエルファインの中古導入なども一策かもしれない。また、既にオサダ製の他のレーザーを使っていて同じメーカーで揃えたいというケースにも適している。ただし先述のように情報量が少ないため、導入の際は実機を確認しメーカーから十分説明を受けることが不可欠だろう。レーザー治療経験が浅い先生にはハードルが高いため、まずはモリタやNDC製で経験を積み、いずれ国産機でローコスト運用に切り替えるといった長期的視野で検討すると良いかもしれない。

よくある質問(FAQ)

Q. Er:YAGレーザーを使うと本当に麻酔なしで痛みなく治療できますか?

A. 痛みが大幅に軽減できるケースが多いが、完全に無痛とは限らない。Er:YAGレーザーは振動や熱が少ないため、小さな齲蝕であれば表面麻酔のみ、あるいは無麻酔でも処置できることがある。しかし、深い齲蝕で象牙質近くまで進行している場合や、患者の痛覚閾値によってはレーザーでも刺激を感じることがある。そのため、無痛を期待しすぎず必要に応じて麻酔を併用するのが現実的である。ただ、従来法に比べれば麻酔量を減らせる利点は確かにあり、多くの患者で「いつ麻酔したの?」と驚かれるほど負担が軽減することは事実である。

Q. Er:YAGレーザー導入後のランニングコストはどの程度かかりますか?

A. 主なランニングコストはチップ等の消耗品代と定期点検・部品交換費である。コンタクトチップは1本数千円~1万円ほどで、通常は長期間使えるため1症例あたりの負担はごく小さい。例えば月100回照射してもチップは数ヶ月もつことが多く、月当たり数千円程度の計算になる。フラッシュランプ(光源)は数年に一度交換時期が来る可能性があり、その際は数十万円規模の費用となる。ただし、これはどの機種でも似たようなものであり、導入前にメーカーに想定寿命と交換費用を確認しておくと良いだろう。また、定期メンテナンス契約を結ぶと年数万円程度の保守料が発生するが、故障時の対応が迅速になるメリットがある。総じて、初期投資ほど極端な負担はなく、日々の診療で得られる加算や自費収入で十分まかなえる範囲と言える。

Q. レーザー治療の習得にはどれくらい時間がかかりますか?

A. 基本的な取り扱いは数日で慣れるが、臨床で使いこなすには数十症例の経験が目安である。導入直後は機械のセッティングや照射角度に戸惑うかもしれないが、メーカーの初期トレーニングを受ければ1週間もあれば基本操作はマスターできるだろう。ただ、本当の意味で「使いこなす」には症例を通じた学習が必要だ。例えば齲蝕の大きさや部位による痛みの出やすさの違い、歯周ポケット内で効果的にバイオフィルムを除去するコツなどは臨床経験から学ぶ部分が大きい。目安として20~30症例ほどレーザーを使用すれば、自身の中で照射パラメータの勘どころが掴めてくるはずだ。幸い各社から症例集やユーザー会情報が提供されているので、積極的に情報収集しながら経験値を高めることが習得への近道である。

Q. 半導体レーザーやCO₂レーザーではダメなのですか?Er:YAGとの違いは何でしょうか?

A. 処置の幅が決定的に違う。半導体レーザー(ダイオード)や炭酸ガスレーザー(CO₂)は軟組織の切開・止血には有用だが、歯や骨を削ることはできない。一方Er:YAGレーザーは硬組織を蒸散できるため、齲蝕除去や歯質の切削が可能である点が最大の違いだ。またEr:YAGは水分への吸収が高いため熱ダメージが少なく、低侵襲治療に適している。半導体レーザーやCO₂レーザーは熱による凝固が得意なので止血には優れるが、深部まで熱が及ぶリスクもあり慎重な出力設定が必要となる。結論として、軟組織メインでよいなら安価な他レーザーでも代用可能だが、硬組織を含めた包括的な無痛治療を目指すならEr:YAGレーザーが不可欠である。それぞれ得意分野が異なるため、もし予算に余裕があれば半導体レーザーなどと併用して使い分けるのがベストだろう。しかし開業医において1台で幅広くカバーしたいなら、Er:YAGレーザーは非常にコストパフォーマンスの高い選択と言える。

Q. 広告や患者説明で「無痛」「安全」とうたって問題ないでしょうか?

A. 表現には注意が必要である。日本の医療広告ガイドラインでは、「必ず痛くない」「絶対に安全」といった断定的・最上級の表現は禁止されている。Er:YAGレーザーは痛みが少なく安全性も高いものの、患者個々で感じ方は異なるため、広告で「無痛治療を保証」するような言い回しは避けるべきだ。代わりに「できるだけ痛みを抑えた治療を行います」「体に優しいレーザー治療を導入しています」といった穏当な表現で患者に説明すると良いだろう。また、医療機器の正式名称や承認された用途を守った紹介も重要だ。例えば「Er:YAGレーザーによる虫歯治療で麻酔の負担を軽減」など事実ベースで説明し、患者さんには実際の治療の流れや感じ方をカウンセリングで丁寧に伝えることが肝要である。レーザー治療への過剰な期待を煽らず、しかし有用性は正しく理解してもらうようなバランスの取れた情報提供を心がけたい。