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サンメディカルの歯科用セメント「ボンドフィル」シリーズの評判・使い方は?

サンメディカルの歯科用セメント「ボンドフィル」シリーズの評判・使い方は?

最終更新日

臨床現場で、くさび状欠損部や根面う蝕の充填が繰り返し脱離して悩んだ経験はないだろうか。保険診療ではコンポジットレジンで対応するものの、歯頸部の複雑な応力や十分でない防湿下では、せっかく充填した修復物が次回の来院時に外れていることも珍しくない。グラスアイオノマーで様子を見る方法もあるが、耐摩耗性や審美性に課題が残る。こうしたジレンマを抱える歯科医師にとって、「もう再製の手間と患者の信頼低下に悩まされない方法はないのか?」というのが切実な裏の悩みである。本稿では、その打開策として注目されるサンメディカルの「ボンドフィルSB」シリーズを臨床と経営の両面から検証する。本シリーズは、湿潤下での確実な接着としなやかな硬化特性を併せ持つ接着充填材であり、従来のコンポジットレジン充填では対応に苦慮した症例にも一石を投じる可能性がある。本記事を通じて、本製品の臨床的ヒントと経営的戦略を読み解き、自院の診療スタイルに適した投資対効果を考えてみたい。

製品の概要

「ボンドフィルSBⅡ」はサンメディカル社の歯科用接着充填材である。同社の接着性レジンセメント「スーパーボンド」の技術を応用して開発された製品群で、2011年に初代の「ボンドフィルSB」が発売され、その後2017年にデュアルキュア(光併用硬化)型の「ボンドフィルSBプラス」へと進化、そして2024年2月に「ボンドフィルSBⅡ(SB2)」が発売された。最新のSBⅡは、SBプラスからリニューアルされた現行モデルであり、歯科充填用アクリル系レジンという分類の管理医療機器(クラスII)に該当する。適応範囲は広く、口腔内の窩洞や欠損部の直接充填、人工歯冠の補修といった一般的な修復から、歯科修復物の再装着(接着セメントとして)や小窩裂溝のシーラントまで含まれる。要するに、う蝕処置から補綴修理、予防処置まで多目的に使える点が特徴である。ただし、セメント用途で用いる場合はある程度の膜厚が確保できる症例に限られ、極度に薄い接着層を要するケースには適さないことが添付文書で示されている。ボンドフィルSBシリーズは各種の被着体に高い接着性を示す一方、従来型コンポジットレジンが苦手とする湿潤下での硬化や、複雑な応力に対する追従性を備えている点が売りとなっている。こうした特性から、日本の臨床現場でも歯頸部レジン充填の脱離対策や高齢者の根面う蝕処置の切り札として徐々に評判を得てきた。さらに、新たなSBⅡでは後述する改良によって操作性も向上し、幅広い症例への適用が可能となっている。製品ラインナップとして、SBⅡは粉材(シェード)2種と液材・接着プライマー・重合促進剤などが一揃いになったセットで提供され、旧来のSBプラス用の粉材4色(ライト、ミディアム、サービカル、オペーシャス)はSBⅡでは「マルチ」と「オペーシャス」の2色に再編されている(後述)。この簡素化により煩雑なシェード選択の手間が減り、在庫管理も容易になっている。

主要スペック

ボンドフィルSBⅡの主要な仕様を、臨床アウトカムに直結する観点から整理する。まず接着性能について、本製品は4-META/MMA-TBBという接着技術を採用しており、専用のティースプライマーを併用することでエナメル質・象牙質の双方に良好な接着強さを発揮する。メーカーの自社試験では、エナメル質に約25MPa、象牙質に40MPa超の微小引張接着強さが報告されており、従来のボンディング材+コンポジットレジン充填と同等以上の強力な接着力と考えてよい。加えて辺縁封鎖性も高く、湿潤環境下で歯頸部に充填した試供体を長期間反復荷重した後の色素浸透試験でも、レジンと歯質の境界に染色剤の浸入は認められなかった。これはTBB(トリブチルボラン)による重合機構により、接着界面から重合が開始して界面そのものを樹脂で保護する働きが寄与していると考えられる。次に硬化機構と作業時間であるが、SBⅡは化学重合と光重合を併用したデュアルキュア型である。液材に光重合開始剤が配合されており、必要に応じてライト照射で重合を促進できる。通常、粉・液・触媒を混合すると常温で自己重合が開始し約5分で硬化する(口腔内温度ではもう少し早まる)。ライト照射を併用すれば約3分で実用硬化に至るため、充填から研磨まで同一診療内で完結しやすい。これは前モデルSBプラスの硬化待ち時間(光照射なし10分/照射あり7分)と比べて大幅な短縮であり、充填後に長く待たずとも即時に研磨や咬合調整が可能になったことは臨床上大きな改善点である。混合後の操作可能時間(ワーキングタイム)は約3分以内で、JIS規格上も40秒以上の可使時間を満たすよう設計されている。したがって、一度の調製で小規模な窩洞なら概ね一括充填できるが、複数歯や大きな欠損を連続して築盛する場合は2回に分けて調製するほうが安全である。

次に硬化物の物性であるが、SBⅡは適度に柔軟な硬化体特性を有する点が特徴的である。いわゆるハイブリッド型コンポジットレジンと比べて弾性がやや低く(しなやかさが高く)、複雑な応力が加わる部位でも衝撃を緩和して充填物の脱離や歯の破折を防ぐ働きが期待できる。実際、3点曲げ試験では従来のコンポジットよりも変形しやすい曲げモジュラスが示されている。一方で、過度に柔らかいと咬合で摩耗しやすくなる欠点に対しては、SBシリーズでは有機質フィラーの配合によって補強を図っている。メーカーは本製品を「対合歯に優しい適度な耐摩耗性」と表現しており、これは硬すぎず軟すぎずというバランス設計である。極端に咬耗しやすいグラスアイオノマーほど軟らかくはないが、セラミック充填物のように硬質でもないため、咬合相手のエナメル質を過剰に摩耗させにくいという利点につながる。この特性は特にブラキシズムによる楔状欠損や金属修復の対合歯にも適した材料選択といえる。また耐変色性についても、長期の水中放置試験でフロアブルレジンと同等の結果が示されており、経年的な着色や変色も抑えられている。口腔内で目立つ前歯部の歯頸部や補綴物の境界部に用いても、色調の安定性が期待できる。さらにSBⅡではX線造影性(レントゲン不透過性)が付加された点も見逃せない。新規開発のナノフィラーにより十分な造影性(アルミニウム板100%相当)が確保されており、充填部位をX線で容易に識別できる。前モデルではレジン自体がX線に写りにくく、充填後の診査で二次う蝕との判別が難しいという欠点があった。SBⅡでこの点が改善されたことにより、術後のフォローアップにおいても安心感が増したといえる。

最後に色調と審美性について触れる。ボンドフィルSBⅡでは粉材のシェードが2種類に整理されている。一つは「マルチ」シェードで、これは様々な歯冠色に調和しやすいユニバーサル色である。透明度と色調適合性に優れ、臼歯部から前歯部、さらには露出象牙質の黄色味が強い歯頸部欠損まで1色でほぼカバーできるよう設計されている。もう一つは「オペーシャス」シェードで、こちらは遮蔽力の高い不透明色である。金属の露出部分をマスキングする必要がある前装冠の補修や、変色歯の表面充填などに適している。旧版のライト・ミディアム・サービカルといった細かな色調は廃止されたが、実際にはマルチシェードが十分なカメレオン効果を示すため症例を選ばず使用できる。筆者自身も実際に臨床で使用する中で、充填物の境界が分からないほど周囲歯質に馴染むケースが多いと感じる。審美的ハイリスク症例(例えば広範囲の前歯部切端破折の修復など)では色調の微調整が難しいものの、小規模な修復であれば肉眼的な調和は十分可能である。また必要に応じて表面にコンポジットレジンを薄く重ねて色調を調節する応用も考えられる(保険診療的な扱いには留意)。総じてSBⅡのスペックは、「接着性・封鎖性が高く、わずかな湿気でも確実に硬化し、しなやかだが削れ過ぎず、見た目も長持ち」という理想に近づけるようバランス良く設計されていると評価できる。

互換性や運用方法

ボンドフィルSBⅡは専用のプライマーや触媒とセットで機能するシステムであり、基本的には他社のボンディング材や重合促進剤と混用しないことが前提となる。本製品に付属のティースプライマーは、4-METAを主成分とした歯面処理材で、エナメル質と象牙質の双方に適用できるセルフエッチングプライマーである(必要に応じて高粘度レッド/グリーンといった別売のエッチング材を併用可)。従来のコンポジット充填で行うようなリン酸エッチング+ボンディング操作は不要で、支台歯の清掃後ただちにティースプライマーを塗布して接着準備が完了する。プライマー塗布後は約20秒間湿潤状態を保持してからエアで軽く乾燥させる。その際、歯肉に付着しないようスポンジで塗布する配慮が必要である。特に歯頸部や根面に使用する場合、余剰のプライマー液が歯肉に触れると刺激となり得るため、あらかじめ排液用の綿巻きやロールで保護しておくとよい。また無削去のエナメル質面に充填するケース(シーラントやエナメル質初期う蝕への填塞など)では、ティースプライマーだけでも一定の効果はあるが、事前にエナメル質表面を粗造化しておくことで接着力が向上する。具体的にはリン酸系の表面処理材(高粘度レッド等)で30秒程度処理することで、エナメル質表面に微細な接着足場を形成できる。この工程は必須ではないが、長期的な付着安定性を求める場合には検討したい。

材料の調製にあたっては、付属のディスポーザブルカップに液材2~3滴:キャタリストV 1滴の割合で混合し、「活性化液」を作る。液材(MMAモノマーに4-META等を添加したもの)と触媒(TBB含有のキャタリストV)を混合すると、直ちに重合反応が始まるため、この活性化液は調製後3分以内に使い切る必要がある。あらかじめ操作に慣れるまでは、あまり多量に混ぜず必要最小限の滴数で調製するのが望ましい。混液は時間経過とともに粘度が上がってくるので、最初のうちは少量ずつ頻回に調製するほうが失敗が少ない。調製した活性化液はディスポーザブル筆先に充分染み込ませて使用する。筆先が乾いた状態では粉材をうまく拾えず、逆に過度に液を含ませると滴下してしまうので、筆先1〜2mmがしっとり濡れる程度が目安である。粉材(マルチまたはオペーシャス)はディスポカップやパウダーケースに小分けし、筆先をゆっくり押し当てて円を描くように動かすと、筆先にレジンのビーズ(玉)が形成される。このレジンビーズを筆積み法で患部に運び、欠損部を埋めていく。1回の筆積みで得られるレジン量は微量なので、必要に応じて再度筆に液を含ませて粉材を採取し、充填部位に複数回繰り返し築盛していく。操作に不慣れなうちはレジンが流れやすく感じるかもしれないが、SBⅡでは粉体の改良により従来より粘性が高く、複雑な窩洞や歯頸部でもレジンが垂れにくいよう調整されている。それでも心配な場合は、充填途中で一度ライトを数秒間照射して仮硬化させる方法も取れる。デュアルキュアである本製品は、途中で部分的に光硬化させても残存重合が進むため、厚みが大きい築盛では適宜光を当ててレジンが流出しないよう“仮固定”しながら積層することも可能である(ただし照射後は表面硬化するため追加のレジンが付着しにくくなる点に留意)。築盛が完了したら、必要に応じ20秒程度の最終光照射を行う。光を当てることで表層まで十分硬化が促進され、その後の研磨操作に移りやすくなる。なお光照射器はLEDなら1000mW/cm²以上の出力が推奨されており、一般的な高出力LED光照射器であれば問題なく硬化促進に寄与する。

研磨・仕上げは、光照射なしで硬化させた場合は約10分、照射ありなら約3〜5分の硬化待ち時間を確保した上で行う。SBⅡでは前述の通り硬化待ち時間が短縮されているため、症例によっては充填後すぐに研磨に入ることも可能である。ただしレジンの完全硬化は硬化開始後10分以上かかるため、咬合調整で強い力を加える研磨は5分程度経ってからのほうが安全である。ベストなのは研磨・調整まで同日に行い、最終研磨は翌日以降に回すことである。どうしても当日中に仕上げまで完了したい場合は、研磨圧を控えめにして粗研磨を行い、後日微調整するのが無難だ。研磨操作自体は通常のレジンと同様、ダイヤモンドポイントや超微粒子研磨剤で問題なく艶が出る。なお気泡の混入に注意が必要なのはコンポジット同様で、築盛時に気泡が入ると研磨で露出して気になることがある。筆積み操作では極めて細かいレジン粒子を少しずつ盛り足すため、大きな気泡は生じにくいが、筆先を窩壁に擦り付けすぎないことで余計な空気を巻き込まないようにしたい。

本製品の互換性という観点では、様々な被着面への接着が挙げられる。ティースプライマーは歯質用であるが、金属やセラミックスに対して本材料を使用する際には、それぞれ専用プライマーを追加で併用する必要がある。例えば金属の補綴物を再接着するならサンメディカル社のV-Primer(金属用接着材)、陶材の補修にはPZプライマー(セラミックス用接着材)といった具合である。実際の使用では、金属面はサンドブラストなどで粗面化し清掃後にV-Primerを塗布、セラミック面にはフッ化水素酸エッチング後にPZプライマーを塗布しておき、その上でボンドフィルSBⅡを築盛・接着させる流れになる。幸い、スーパーボンド系接着材料は金属やレジンとの相性が良いことが知られており、適切な前処理を施せば破折した前装冠の修理やレジン人工歯の欠けの修復にも応用できる。実際に、臨床では「従来なら補綴物ごと作り直しだったケースをボンドフィルSBで補修して様子を見たら、そのまま長期安定した」という報告もしばしば聞かれる。ただし、あくまで小規模な破折や脱離に留め、大面積の補綴補修には適さない。特にポーセレンライナーが大きく剥離したPFMクラウンなどは、接着修理しても応急処置に過ぎない場合が多い点は認識しておく。また動揺歯の固定(スプリント)目的で使用する場合、ワイヤーや強化線維との機械的結合が必要になる。基本的に他社の強化ファイバー(例えばRibbondやKevlar系)とも併用可能で、ティースプライマーで歯面処理後にボンドフィルSBⅡでファイバーを覆い固定することで暫間固定が行える。ファイバー未使用の場合でも、ステンレスワイヤーを屈曲し歯面に密着させてから本材を盛り付ければ接着固定は可能である。ただしワイヤーとの接着は機械的保持が頼りとなるため、積極的にはファイバー併用が望ましい。実際の操作では、動揺歯のポジショニング後に隣在歯も含めてティースプライマー処理を行い、細めのワイヤーやシルクを歯面に沿わせてレジンで固めていく。ボンドフィルSBⅡは光で即時硬化できるため、固定位置を確認しながら順次照射して一歯ずつ固め、最後に全体を化学重合で強固に硬化させるとよい。従来はコンポジットレジンでスプリント固定する方法も一般的だったが、歯頸部まで含めて包埋できるボンドフィルSBⅡのほうが適度に柔軟で破断しにくい印象である。さらに接着界面から自己重合する特性上、わずかな動揺や唾液湿潤があっても確実に硬化する安心感がある。これらの応用は熟練を要するものの、製品の互換性・運用範囲として知っておくと診療の幅が広がる。

感染対策・保守という観点では、本セットにはディスポーザブルの筆先やカップが同梱されており毎症例ごとに使い捨てることが推奨される。粉材容器なども患者ごとに清拭消毒するか、あらかじめ小分けカップに取り分けて使用するとより感染対策上望ましい。混合~筆積み操作ではグローブに付着した液やレジンが器具に付くこともあるため、使い終わった筆柄はしっかり清掃し、カップ台などもレジン残渣をエタノールで拭き取って管理する。粉材は吸湿すると固まりやすいので、使用後は蓋を速やかに閉め、液材・触媒も揮発しやすく酸化しやすいため冷暗所に保管する(温度上昇で重合が進むため、夏場の常温放置は厳禁である)。メーカー指定の保管温度や使用期限も遵守し、古い材料で性能低下を招かないよう気をつけたい。以上のように、特殊な機器や高度なデジタル連携が必要な材料ではないが、安定したパフォーマンスを得るには製品キットに沿った正確な手順が求められる。慣れるまではメーカーの操作マニュアルや講習動画を参照し、一連のプロトコルをスタッフと共有しておくとよいだろう。

経営インパクト

材料導入の判断にはコスト面での検討が欠かせない。ボンドフィルSBⅡは高額な設備機器とは異なり初期導入コストは比較的抑えられている。前モデルのSBプラスではセット標準価格が27,000円(税込)であったことから、SBⅡも同程度の価格帯と推測される。セット内容には粉材2種(各3g)と液材8mL、ティースプライマー3mL、触媒0.7mL、ならびに各種付属品が含まれる。一症例あたりに必要な材料の量はわずかであるが、本製品では特に触媒(キャタリストV)の容量が0.7mLと少なく、1症例で1滴(約0.05mL)消費すると仮定すれば約14症例分に相当する。実際には触媒を使い切る前に粉材・液材が先に足りなくなることもあるが、触媒単品の補充も販売されている(標準価格17,500円)。したがって、仮に1セットで15症例程度使うとすれば、1症例あたり約1,800円の材料費となる計算である。一方、通常のコンポジットレジン充填では1歯分あたりのレジンカプセル代がおよそ200〜500円程度、ボンディング材やエッチング材も併せれば合計数百円台が一般的である。それに比べるとSBⅡの直接材料費は数倍に上昇するのは否めない。保険診療下で充填処置を行う場合、診療報酬は使用材料によって変わらないため、このコスト増は歯科医院側の負担増となる。しかし、単純に目先の材料費だけでは本製品の経営インパクトを評価できない。鍵となるのは再治療率の低減とチェアタイム短縮効果である。

例えば、歯頸部の楔状欠損充填は保険診療で日常的に行われる処置だが、実際には脱離や辺縁不適合によるやり直しが生じやすい領域だ。もしもSBⅡの導入によって脱離の発生を大幅に減らせれば、中長期的には無償再製に割く時間と材料を削減できる可能性がある。1本のやり直し充填に要する時間を20分、コストをコンポジットレジンの実費500円程度と仮定すると、年間に5本の再充填が減ればそれだけでSBⅡセットの元は取れる計算になる。実際、ボンドフィルSBシリーズは湿潤下でも歯質に化学的に接着・硬化するため、ラバーダムが困難な高齢者の根面う蝕や頬側歯頸部の充填などで高い存続率を示す傾向がある。ある臨床報告では、通常のコンポジットでは半年〜1年で外れがちな症例が、ボンドフィルSBに置き換えた途端数年以上再治療不要で経過しているとされ、著者の経験上も同様の印象を持つ。こうした再治療の減少は、直接的な時間・材料コストの節約になるだけでなく、患者満足度の向上による間接的な経営効果も期待できる。患者にとって「一度治療した箇所がすぐ取れてしまう」ことほど不信感につながるものはない。SBⅡで脱離リスクを下げられれば、患者からの信頼獲得や口コミ評価向上につながり、結果として増患・定着を促すだろう。これらは数値化しにくいが、長期的な医院経営にとって無視できないメリットである。

次にチェアタイムの短縮について。SBⅡは先述のように硬化待ち時間が大幅に短くなった。従来、自己重合型レジンを用いる場合は硬化を待つ間に他の患者を診るなど段取りが必要だったが、SBⅡであれば光照射込み3分程度で概ね研磨可能な硬さに到達する。これは光重合型コンポジットレジンとほぼ同水準である。コンポジットレジン充填とSBⅡ充填の所要時間を比較すると、一見コンポジットのほうが迅速に感じるかもしれない。しかし、実は事前のラバーダム装着やボンディング工程に要する時間を考慮すると、SBⅡのワンステップ処理は非常に効率的である。例えば、出血しやすい歯頸部う蝕でもラバーダムなしでプライマーを塗布し即時重合できるため、防湿に手間取る時間を短縮できる。さらに、SBⅡでは一回法で充填からベース・ライナーの機能も兼ねるため、複数材料を重ねるステップも省略できる(実際、同製品はレジンセメントや裏層材の用途も包含している)。チェアタイムが短縮すれば1日の診療ユニット回転率が上がる可能性があり、特に保険診療主体の医院では回転率=収益に直結する。短縮できる時間は症例によって数分から十数分と幅があるが、仮に1症例あたり平均5分の短縮でも、1日10症例で50分、週5日で250分(約4時間)となる。これは月間にすれば大きな差であり、その時間で他の患者を診療したり自費カウンセリングに充てたりできれば機会損失の防止になる。もちろん、すべての充填でSBⅡを使う必要はなく、適材適所である。しかし「今までもたついていた処置をスムーズに終えられる」というのは、スタッフの労力軽減にもつながり、結果として医院全体のオペレーション効率改善と言えよう。

さらに自費診療メニューへの寄与も考察したい。ボンドフィルSBⅡそのものは保険適用の材料であり、使ったからといって直接患者から自費料金を徴収できるわけではない。ただ、これを活用することで新たな自費提案につながる場面がある。例えば、初期う蝕の非侵襲的充填(いわゆるカリエスインフィルトレーション)は、保険算定上は困難だが予防歯科の観点で患者に提案すれば自費診療として成立する可能性がある。ドイツ製の「アイコン(DMG社)」が有名なカリエスインフィルトレーションシステムだが、手技や原理は類似しており、ボンドフィルSBⅡでもエナメル質のホワイトスポットを削らずレジン充填して目立たなくする処置が応用可能である。実際にアイコンを導入していない医院でも、SBⅡと適切な前処理を応用することで低コストに近い効果を得られることがある。このように予防的処置の自費メニューを設ける際にもSBⅡは一役買うだろう。また、動揺歯の固定や小規模な補綴物修理といったグレーゾーンの処置も、自費扱いで対応することで収益化できる。患者にとっても「抜歯か自費での保存治療か」の選択肢を提示でき、最終的に残存歯を維持できれば患者満足にもつながる。SBⅡの数万円の導入コストでこうした自由診療の幅が広がるのであれば、投資対効果として決して小さくない。無論、医療広告ガイドライン上うたえる表現は限られるが、「歯をできるだけ残すための新しい接着治療を導入しています」といったニュアンスで患者への情報提供を行えば、医院の差別化にもつながるだろう。

ただし、経営的視点では在庫回転率にも留意が必要だ。本材料は触媒など使用期限もあるため、使いこなせずに期限切れで廃棄となれば投資回収はできない。患者層や症例数を見極め、月にどの程度使用しそうかを想定した上で導入するのが望ましい。例えば高齢者や楔状欠損の多い患者を多数抱える医院では導入意義が高いが、若年者中心でこうした症例が稀な場合、無理に在庫しても活用機会が乏しいかもしれない。経営インパクトを最大化するには、自身のクリニックで本製品を必要とする症例頻度を見積もることが重要である。

使いこなしのポイント

ボンドフィルSBⅡを真に活かすには、単なる製品知識だけでなく術式上のコツや院内体制にも目を向ける必要がある。以下に、導入初期から習熟段階にかけて留意すべきポイントを挙げる。

まず導入初期の注意点として、スタッフ間での役割分担を明確にしておくことが挙げられる。ボンドフィルSBⅡの操作は、術者一人でも完結可能だが、アシスタントのサポートがあると格段にスムーズになる。例えば、術者がう蝕除去や窩洞形成を行っている間に、アシスタントが必要器材を準備しプライマー液を出す、触媒と液を計量しておくなどの連携が望ましい。実際の混合作業も、慣れれば術者自身が素早く行えるが、導入初期は看護師や歯科衛生士が混合を担当し術者は充填操作に集中すると成功率が上がる。院内で導入前に実習する際は、スタッフ全員が混合と筆積みの工程を理解し、誰が何秒後に何をするかタイミングを合わせるトレーニングをしておくとよい。タイマーを用意し、「触媒滴下から○分以内に築盛終了」「○分後に照射」などプロトコルを共有すると失敗が減る。

術式上のコツとしては、術野の湿度コントロールと気泡対策がポイントになる。SBⅡは湿潤に強いとはいえ、唾液や出血でべっとり濡れた状態ではさすがに接着阻害となる。ラバーダムが困難なケースでも、十分な排唾と圧排で水分・浸出液を最小限に留める努力は欠かせない(これは従来のコンポジットでも同様だが、SBⅡでも基本は同じ)。特に根面部では歯肉縁下に及ぶことも多いため、必要に応じて糸切り歯肉圧排やロールワッテ併用で視野を確保する。ティースプライマーは水分を含む薬剤だが、完全な血液にはさすがに勝てない。止血が難しい場合は一旦エピネフリン含有麻酔で圧迫止血するか、アルミニウムクロリド液での止血を行ってから処置するとよい。適度な湿潤環境とは「歯面が乾燥白化しないが、水滴状の液体も付着していない状態」を指す。その範囲であれば、むしろ微湿潤が重合を助けるため神経質にエアで干しすぎないほうが良い結果となる。次に気泡対策だが、筆積み法ではレジンを一層一層練り込むわけではないので大きなボイドは生じにくい。しかし、築盛中に筆先を頻繁に抜き差しすると、その都度空気を巻き込む可能性がある。できるだけ連続的にレジンを筆先に乗せ継ぎ足すようなイメージで操作すると気泡混入が少ない。仮に窩洞内に小さな気泡が見えても、作業時間内であれば筆圧をかけて潰すか、表面に少量の活性化液を追加塗布すれば対応できる。また、充填後の余剰セメント除去も使いこなしに重要だ。ボンドフィルSBⅡは硬化が進むと除去困難なほど強固に歯質へ張り付くため、圧接・充填したら速やかに湿らせた綿球やアルコール綿ではみ出た部分を拭き取るのが鉄則である。特に支台装置の再装着などでは、エキスプローラで硬化後に削ぎ落とすのは容易でないため、毎回意識しておきたい。

院内体制においては、定期的なミーティングで使用感を共有することを勧める。最初の数症例は院長や経験あるDr自ら手技を行い、その後スタッフへ展開する流れが多いだろう。各症例でうまくいった点・改善点をフィードバックし、「このケースならSBを使おう」「このケースは従来通りコンポジットでいこう」といった意思決定をチームで共有しておくとスムーズだ。例えば、根面う蝕の高齢患者には衛生士が事前に説明をして同意を得ておく、シーラントはSBⅡを積極活用する方針にすると決める等、使う場面のすり合わせをすると迷いが減る。導入初期によくあるのは「結局どのケースで使えばいいのかわからない」という声だ。これに対し、上述のような具体的症例像(歯頸部楔状欠損や脱離リスク高い充填など)をチームでリストアップし、チェアサイドでその状況になったら迷わずSBⅡを取り出せるよう指針化しておくとよい。

患者説明でのポイントも触れておこう。保険診療内で材料を変えるだけの場合、患者への詳細な説明義務は必ずしも生じない(特に費用追加もないため)。しかし、術後のトラブルを減らすには、あえて患者にも材料の特徴を伝えておくほうが良い場合がある。たとえば「今回の充填は特にしみ止め効果の高い接着性レジンを使っています。強い噛み合わせにも適応する材料ですが、念のため今日一日は硬い物は避けてください」といった説明である。SBⅡ自体がしみ止め材料ではないが、結果として縁漏洩が少なく知覚過敏も起こりにくいことから、患者にはそう伝えたほうが理解が早い。このように専門用語をかみ砕いて利点を共有すれば、患者は自分の治療に最善が尽くされていると感じ、安心感を抱くだろう。また、自費で応用するケースでは必須だが、そうでなくとも「通常のプラスチック充填とは少し違う手法で治療しています」と言葉を添えることで、万一将来別の医院でX線写真を撮った際にも「ここに特殊な材料が入っていますね」と説明がつく。総じて、術者側だけでなく患者も含めてチームで材料を使いこなす視点が大切である。新しい材料導入時にはトラブルも起こりやすいが、医院全体で情報を共有し、患者とも適切にコミュニケーションを図れば、スムーズに診療フローへ組み込めるだろう。

適応と適さないケース

ボンドフィルSBⅡの適応症例と不得意なケースを整理する。適応が広い本製品とはいえ、万能ではないため、使い所を見極めることが肝要だ。

まず適応が推奨されるケースとしては、メーカー資料にもある通り歯頸部のくさび状欠損が筆頭に挙げられる。長年のブラキシズムや加齢による歯質摩耗で生じた楔状欠損は、コンポジットレジン充填しても唾液汚染や歯の微細な揺さぶりで脱落しやすい。しかし、本材の柔軟性と接着性により、こうした咬合圧の複雑なかかる歯頸部でも脱離・破折しにくい。実際、SB発売以来、多くの歯科医師が歯頸部症例での有用性を報告している。また根面う蝕も適応症だ。高齢者や要介護患者ではラバーダム防湿が難しく、従来はガラスアイオノマー充填とフッ素塗布くらいしかできない場面があった。SBシリーズは湿潤下硬化するため、多少の唾液下でも根面へのレジン充填が可能となり、しかもガラスアイオノマーより接着・耐久性が高い。実際に根面う蝕の抑制・封鎖に威力を発揮しており、フッ化銀(サホライド)塗布との併用例なども報告されている。次に二次う蝕の修復が挙げられる。たとえばクラウンの辺縁から二次う蝕が生じたが、直ちにクラウン再製は難しい場合に、一時的または半永久的にマージン部のみレジンでパッチ充填することがある。こうしたケースでSBの強力な辺縁封鎖は適しており、再発リスクを下げつつ暫時的に対処可能である(もちろん根本的には補綴やり直しが望ましいが、患者事情で延期する際の一手となる)。補綴物の破折修理も適応だ。前装冠のレジン前面が一部剥がれた際や、レジン人工歯の欠けなどに、本材を充填して形態回復することが可能である。特にレジン人工歯の場合、素材が同系統のPMMA樹脂であるため親和性が高い。ただしセラミックの大きな欠損修理には適さないので注意する。また動揺歯の固定(暫間的なスプリント)もSBⅡの有用な適応だ。適度な弾性があるためコンポジットより破断しにくく、除去する際も比較的容易に外せる(コンポジットは硬いため削るのに苦労する)。重度ではない歯周病で複数歯を連結固定して経過を見たい場合などに使える。さらに小児のシーラントや初期う蝕の填塞も適応である。コンポジットレジンによるシーラントは唾液汚染に弱く脱離しやすいが、SBⅡなら多少の唾液がかかっても固着するため管理の難しい小児臼歯にも適する。アイオノマー系シーラントに比べ審美性も高いため、保護者への説明もしやすいだろう。その他、想定外のシーンだが支台築造時のポストの再装着などにも応用できる。ポストが脱離して来院したケースで、コアごと除去する時間がないとき、一旦SBⅡでポストを接着固定して仮歯を装着し、そのまましばらく様子を見るといった使い方である。TBB接着なら唾液下でもポストを強固に付けられるため、急性期の応急処置として役立つ。以上のように、本製品は「通常のコンポジットレジンでは難しい症例」に多くの適応を持つことがわかる。こうした症例で困った経験がある歯科医師にとって、SBⅡはまさに切り札となり得る。

一方、適さないケース(不得意な症例)も明確に意識しておく必要がある。まず大きな咬合面修復や広範な窩洞は避けたほうがよい。ボンドフィルSBⅡは耐摩耗性を高めたとはいえコンポジットレジンほどの硬度はなく、噛み合わせの面積が大きい修復では長期的な咬耗や陥没が懸念される。特に大臼歯の隅角を失うような大きいクラスII窩洞では、素直にインレーや高強度コンポジットによる修復を検討すべきだろう。また審美領域の大規模修復も不得意と言える。前歯部の広範囲レジン修復(クラスIVなど)では、SBⅡの色調はマルチ1色では対応しきれない場合がある。切端の透過性やグラデーションを再現するのは困難なため、そうしたケースでは審美用コンポジットレジンやセラミック修復に譲るべきである。ただし、前歯部でも唇側の低位のクラスV(歯頸部)やエナメルチップ程度であれば問題なく適応可能だ。患者が高い審美要求を持つケースでは、あらかじめSBⅡでは色合わせに限界がある旨を説明し、場合によっては本材をベースにして表層に少量のコンポジットをラミネートするなど工夫するとよい。次に精度が要求される補綴物の装着には不向きである。前述のように、本材は接着用レジンセメントとしての用途もあるが、モリタのカタログでも「保持形態がとりにくい修復物の再装着」と限定されている。これは、たとえば合着用セメントでは維持が難しいようなインレーの再装着など、多少厚みのある接着層でも確実に付けたい場合に使うことを想定している。逆に言えば、適合の良いクラウンやブリッジの装着では、SBⅡは粘度が高く薄膜に適さないため適応しない。流し込み性が必要なケースでは、通常通り低粘度のレジンセメント(デュアルキュアレジン)を用いるべきである。さらに長期仮着にも適さない。外す前提の仮着なら、わざわざ強力に接着するSBⅡを使う必要はなく、仮着用セメントで十分だろう。また、患者にアレルギーが疑われる場合も使用を避ける。本材はMMA系モノマーを主体とするため、稀に存在するモノマー過敏症の患者には禁忌である。安全性試験上は問題ないとはいえ、既往問診でレジンアレルギーやアセトンアレルギーが疑われたら他材料を検討したい。加えて独特のモノマー臭がある点にも注意だ。少量とはいえMMAモノマーは揮発性が高く刺激臭を放つため、換気が悪い診療室だと患者が匂いを気にする可能性がある。実際には一瞬であり多くの患者は気づかないが、過敏な人には「薬剤特有の匂いがするかもしれませんが問題ないです」と一言伝えておくと良い。最後に費用面の制約も考慮すべきだろう。SBⅡの材料費は前述のように通常レジンより高価である。医院側の負担が大きいため、保険診療であってもどの症例にも無差別に使うのは非現実的だ。あくまでこの材料が効果を最大限発揮する症例に絞って投入し、それ以外は従来法で合理的に行うのが賢明である。総じて、得意分野と不得意分野を見極め、SBⅡは「ここぞ」という場面で投入することが成功の鍵となる。

導入判断の指針(読者タイプ別)

本節では、歯科医院の志向や診療スタイルごとに、ボンドフィルSBⅡの導入判断について考察する。読者自身のタイプに近いものを参考に、自院へのマッチ度を検討していただきたい。

1.効率最優先の保険中心型の医院の場合

日々多数の患者をさばき、保険診療の範囲内で収益を上げるモデルでは、コスト管理と時間効率が特に重視される。このタイプの先生は、新材料導入にも費用対効果を厳しく見極めるだろう。ボンドフィルSBⅡは材料費だけ見ると従来レジンより高価であるものの、前述のように再治療削減によるロス低減やチェアタイム短縮といった間接効果が期待できる。特に高齢化地域で根面う蝕や頸部欠損の患者が多い診療所では、毎月のように繰り返す充填や再セットに手を焼いていることが多い。その手戻りの多い非生産的な処置を減らせるなら、SBⅡ導入は十分メリットがあるはずだ。効率重視の先生ほど、材料の無駄使いを嫌う傾向があるが、SBⅡは1歯あたりわずかな量しか使わないため、症例を選べば1セットで長期間運用できる。実際に「うちでは頸部レジンはすべてSBに変えてから、やり直しがほぼゼロになった」という保険中心クリニックも存在する。ポイントは、明確な使用プロトコルを決めることである。効率優先の現場では迷いなく動けるオペレーションが求められるため、「こういう時はSBⅡ、それ以外は従来法」と院長がガイドラインを示しておくとスタッフも混乱しない。具体的には「クラスVで象牙質露出部位はSB、それ以外の小さなC1-C2はコンポジット」等である。うまく使い分けが軌道に乗れば、材料コスト増を補って余りある効率向上が得られるだろう。逆に患者層が若年中心でこうした難症例が少ない医院では、SBⅡを導入しても持て余す可能性がある。その場合は焦って導入せずともよいが、もし地域高齢化などでニーズが出てきた時には迅速に導入検討できるよう情報収集だけはしておくとよい。

2.高付加価値・自費強化型の医院の場合

先進的な技術や材料を積極的に取り入れ、自由診療による高度な歯科医療を提供するモデルの先生にとって、SBⅡは患者満足度向上のための一ツールとなり得る。このタイプの医院では、一つ一つの処置に対して質の高さや長期安定性が求められ、たとえ小さな充填でも手を抜かない姿勢が患者に評価されている。ボンドフィルSBⅡは、まさに「どうしても外したくない」場面で頼りになる材料であり、質にこだわる先生にとっては検討価値が高い。例えば、高額な補綴治療を完了した患者のメインテナンス中に発見された軽微な二次う蝕に対し、安易に「経過観察」とせずSBⅡでその場で封鎖してしまう、といった対応は患者から見ても安心感が大きい。「小さいところまで徹底して管理してもらえる」という医院イメージ醸成にもつながるだろう。また自費予防プログラムを展開している医院であれば、SBⅡは初期う蝕の予防充填という新メニューに応用できる。Iconシステムほどマーケティング要素は強くないが、説明次第では同等の効果を訴求できる。例えば「歯を削らずに初期むし歯をストップさせる処置」としてSBⅡ填塞を紹介し、自費コースの一環として提供することも可能だ。もちろん、審美修復分野では一線級のコンポジットレジンやセラミックに取って代わるものではない。審美専門の先生から見れば、SBⅡの色調は物足りず汎用性が低いと映るかもしれない。しかし、高付加価値路線の医院だからこそ「何でも最適な材料で治す」ことが重要であり、逆に言えば最適な場面以外では使わない決断も必要だ。エステティックな前歯修復には従来通り高品質レジンを用いつつ、SBⅡは症例限定の秘密兵器としてストックしておく—そのようなポジション付けが賢明だろう。このように、質と満足度を追求する医院では、SBⅡは利益直接増ではなくリスクヘッジと患者ロイヤルティ向上のためのツールとなる。材料コスト程度は問題にしない層だと思われるので、むしろ最新技術の導入実績を積むという意味でも採用メリットがある。カタログスペックだけでは測れない現場感覚として、SBⅡのようなニッチ材料を自在に操る歯科医院は患者にも同業者にも高度な印象を与える—それ自体がブランディングに資する面もあるのではないだろうか。

3.口腔外科・インプラント中心型の医院の場合

主に外科処置やインプラント治療を専門的に行うクリニックでは、保存修復系の材料導入には慎重なケースも多い。このタイプの先生にとって、ボンドフィルSBⅡは診療の主戦場ではないかもしれない。しかし、予期せぬトラブルや補綴管理の場面でSBⅡが役立つ可能性がある。例えばインプラント埋入後の仮歯固定で隣在歯を一時的に接着固定したり、術中に隣接歯をわずかに穿孔した際の封鎖に用いたりといったケースだ。特に穿孔リペアはSBⅡの得意分野である。穿孔リスクのある根管治療や開窓術を自院で行う場合、偶発的に小さな穿孔が起きてもSBⅡで即座に封鎖すれば細菌漏洩を防げる。MTAセメントなどの選択肢もあるが、即時硬化し接着も得られるSBⅡは緊急時に心強い。また外科処置では防湿が難しい状況が多々あるが、本製品は湿潤下重合が可能なため縫合前の微小な露髄部や骨縁露出部のシールにも応用できる。ただし、これらはかなり応用的な使い方であり、口腔外科専門で予後確認が難しいケースでは無理に行わないほうがいい。インプラント上部構造の装着にSBⅡを使えないかという考えも浮かぶが、前述の通り精密補綴には不向きなので現実的ではない。むしろインプラント手術後の仮歯固定に有用だ。即時荷重ケースで隣接歯と仮歯をレジン連結して固定安定させる際、コンポジットだと後日除去が困難だが、SBⅡなら柔軟性がある分一塊で除去しやすい。また金属製プロビジョナルにレジンを盛って隣在歯に仮付けするような離れ業もできる(V-Primer併用)。このように、外科メインの医院でも「術者の頭の引き出し」にSBⅡを入れておくことで、とっさのアドリブが利く場面があるだろう。経営的にはインプラントや外科は自費収入が大きい分、細かな材料費は問題にならないため、リスクマネジメントの一環として1セット備えておくのも悪くない。ただ、もし日常的に保存修復をほとんどしないのであれば材料が劣化するだけなので、その場合は近隣の保存メインの先生とシェア・共同購入しておく手もある(薬機法上販売名を揃えて管理が必要だが、医院間の融通は実情行われている)。口腔外科系の先生ほど想定外のトラブルへの準備を怠らないものだが、SBⅡはまさにそうした「奥の手」として鞄に忍ばせておくイメージで導入を検討するとよい。

4.開業準備・若手ドクターの場合

これからクリニックを開業する先生や、キャリアの浅い先生にとって、新規導入する材料の取捨選択は悩ましい問題だろう。ボンドフィルSBⅡのような特殊材料は必須アイテムではないものの、導入によって得られる価値は確かに存在する。若手のうちはコンポジットレジン充填の標準テクニックをまず磨くべきだが、もし開業地や勤務先の患者層に高齢者が多かったり根面処置が頻繁に出るようなら、早い段階でSBシリーズに慣れておくメリットは大きい。というのも、この材料の操作スキルは一朝一夕では身につかないためである。キャリア中盤以降に初めて使うと勝手が違い戸惑う先生も多いが、若手時代から筆積み技法に親しんでいれば、将来あらゆる症例で武器になる引き出しを得たことになる。開業準備中の機材リストにおいては優先度が低いかもしれないが、例えば開業後半年〜1年目に導入予定とスケジュールしておき、少し落ち着いたタイミングでトライするのも手だ。導入にあたっては、幸いサンメディカル社は歯科医院向けの出張実習や操作動画の提供も行っている。若手ドクターはメーカーリソースも積極的に活用し、独学で抱え込まないようにしたい。また経営的視点では、口コミ獲得という観点でSBⅡは有用かもしれない。開業当初は地域の認知度を高める必要があるが、「あの先生に歯頸部のしみるの治してもらったら全然取れない」といった評判はシニア層にじわじわ広まる。高度先進医療をアピールするのも良いが、日常治療の質が高いという評価は実は患者紹介に直結する。若いうちからSBⅡのような材料を駆使して難症例に対応できれば、地域での信頼構築に繋がるだろう。一方で、まだ症例経験が浅い段階では材料に助けられる面も多い。コンポジット充填で隔壁がうまく築けず苦戦するくらいなら、いっそSBⅡで少しラフに充填してしまったほうがうまくいくこともある。そうした若手の弱点を補完するツールとしても、本製品は存在意義があると言える。もっとも、開業当初は何かと出費が嵩むため、最優先ではないことも確かだ。もし師事する先輩や勤務先にSBユーザーがいるなら、導入前に症例を見学・体験させてもらうのが望ましい。そこで自分に必要性があると判断したら、タイミングを見て導入を決めればよいだろう。

よくある質問(FAQ)

Q. ボンドフィルSBⅡの耐久性は?長期予後のエビデンスはあるか?

A. ボンドフィルSBシリーズは2011年の発売以来、特に歯頸部や根面で良好な臨床結果を残しているとの報告がある。メーカー試験では繰り返し荷重後も辺縁部に色素浸入がなく、接着耐久性が示唆されている。実臨床の長期データとして公表論文は多くないが、筆者自身の経験では5年以上問題なく維持している症例も珍しくない。スーパーボンド系の接着剤は何十年もの実績があり、同等の重合機構を持つSBⅡも適切な使用で長期安定が期待できる。ただし、予後は症例の状況(ブラキシズムの有無、清掃状態など)や術者のテクニックに左右されるため、絶対に脱離しないと断言はできない。適材適所で用い、定期的なメインテナンスで経過を追うことが重要である。

Q. ボンドフィルSBⅡは保険請求できますか?

A. 可能である。 SBⅡは管理医療機器として厚労省に認証されており、コンポジットレジンと同様に齲蝕処置(充填)や窩洞形成等の点数で算定できる。SBプラス以降、光重合機能を備えたことで保険診療での使用が公式に認められている。したがって、「レジン充填」として保険請求する際に材料名を特記する必要はなく、通常のプラスチック材料と同様に扱える。ただし、たとえば二次う蝕のパッチ修復や仮着的な用途など、保険算定項目のグレーゾーンに当たるケースでは留意が必要である。辺縁封鎖目的で少量充填するだけの場合は、厳密にはう蝕がなくとも充填処置として請求するかどうか判断が分かれる。適切に診断名を付け、患者説明の上で実施することが望ましい。また動揺歯固定に用いる場合は、保険では「歯周疾患処置」等でスプリント固定の算定が可能なこともあるが、その際SBⅡという材料だからといって別加算はない。要はあくまで通常のレジン充填の一種として扱うということである。なお初期う蝕への予防的填塞などは保険項目が存在しないため、自費で提供することになる。

Q. 通常のコンポジットレジンとの違いは?どう使い分けるべき?

A. 一言で言えば、「接着力に優れ、湿潤に強いが、機械的強度ではやや劣るレジン」である。通常のコンポジットレジンはペースト状でライト照射により短時間で硬化し、高充填率フィラーにより硬度・耐摩耗性が高い。一方、ボンドフィルSBⅡは粉液混合のモノマー樹脂で、化学反応主体で硬化し、柔軟性と接着性を重視した処方になっている。操作面では、コンポジットはしっかり乾燥させた歯面にボンディングを塗布するのに対し、SBⅡは半湿潤の歯面にプライマーを塗り、粉液を筆で盛り付けるという全く異なるプロセスである。そのため、細部の形態付与や広範囲の色調再現はコンポジットが得意だが、辺縁へのなじみや狭小部への流れ込みはSBⅡが勝る部分もある。また、ボンディング材を併用しない(一体型の接着システム)点も大きな違いで、工程を簡略化できる代わりに他のボンディングとの互換はない。使い分けとしては、長所短所を踏まえ「乾燥下で精密な修復を要する部分はコンポジット、湿潤下や接着重視の部分はSBⅡ」と考えると分かりやすい。例えば隣接面カリエスの充填や咬合面の形態再現は従来通りコンポジットが第一選択である。一方、歯頸部や根面、補綴物のマージン修正などはSBⅡに軍配が上がる。実際には両者を組み合わせて使うことも可能で、ケースによってはベースにSBⅡを使用し表層はコンポジットで仕上げるという方法も取られる。総じて、SBⅡはコンポジットレジンを完全に置き換える存在ではなく、補完し合う関係にある材料と言える。適材適所で使い分けることが、両者の長所を最大限活かすコツである。

Q. 導入や使用上のリスク・デメリットはあるか?

A. いくつか注意すべき点が存在する。まず材料アレルギーのリスクである。モノマー系材料全般に言えることだが、極稀にメタクリル酸系モノマーや重合促進剤に対するアレルギー患者がおり、その場合は重篤な接触皮膚炎等を起こす可能性がある。既往に疑わしい患者には投与しないことが原則で、術者・スタッフも防護(グローブやマスク)を徹底する必要がある。次に取り扱い難易度が挙げられる。SBⅡは操作手順が独特で、コンポジットに慣れた術者でも最初は戸惑うことが多い。筆積みが上手くいかずレジンが垂れてしまったり、硬化時間を誤って早期に動かしてしまったりといった習熟曲線を考慮すべきだ。導入直後からフルに使いこなすのは難しいため、最初は症例を限定し徐々に習熟していく心構えがいる。3つ目はコスト面のデメリット。材料費は従来より嵩むため、保険診療では利益率が下がるのは避けられない。また使用頻度が少なすぎると未使用のまま消費期限が過ぎ無駄になるリスクもある。必要なケースを十分数こなせるか見極めて導入しないと、経営的にはマイナスになり得る。4つ目は適応症の限界で、これは前述したように大きな咬耗や高負荷部位では性能を発揮しきれない点である。材料に過信して本来補綴すべきケースに使ってしまうと、結局後でトラブルとなり患者不信を招く危険がある。最後に匂いや刺激の問題として、MMAモノマーの刺激臭がある程度あること、プライマーのアセトン揮発が粘膜刺激となり得ることを挙げておく。適切に換気し、歯肉への付着を避ければ通常問題ないが、敏感な患者では術後に一過性の違和感を訴えるかもしれない。以上の点を踏まえれば、特段深刻なリスクはなく、安全に使用できる材料である。要は用途と手順を誤らず正しく扱うことが重要で、そのためのトレーニングコストや多少の材料コストは許容範囲と言えるだろう。幸いメーカーサポートも充実しているので、導入時にはしっかりと説明を受け、不明点は問い合わせて解消することをお勧めする。