
3Mの歯科用セメント「リライエックス」シリーズの評判は?使い方や添付文書を解説
クラウンやインレーの装着時に、「余剰セメントの除去に手間取って患者をお待たせしてしまった」「セット後に患者から歯がしみると苦情があった」といった経験はないだろうか。接着操作の煩雑さや術後のトラブルは、日々多忙な臨床現場において大きなストレスである。特に保険診療で数多くの補綴処置をこなす歯科医師にとって、1症例あたり数分のロスや再装着の発生はそのまま医院の収益低下につながる。こうした悩みを背景に登場したのが、3M社の歯科用セメント「リライエックス」シリーズである。セルフアドヒーシブ(自己接着)セメントのパイオニアとして世界初の製品を2002年に発売して以来、術式簡略化と接着信頼性の両立を目指したラインナップを拡充してきた。同シリーズは臨床現場からどのような評判を得ているのか。本稿では各製品の特徴や添付文書に基づく使用方法を紐解き、さらには医院経営へのインパクトも含めて徹底解説する。煩雑なセメントワークから解放され、患者満足度と経営効率を同時に高めるヒントを探っていこう。
3M「リライエックス」シリーズとは何か
リライエックス(RelyX)は、3M社が製造する歯科用接着セメントのブランド名である。補綴物の合着(ルーティング)から審美修復の接着まで、幅広い用途に対応する各種セメントを含む。本シリーズの代表的製品には、レジン強化型グラスアイオノマーセメントの「リライエックス ルーティング プラス」、自己接着性レジンセメントの「リライエックス ユニセム2 オートミックス」、そして近年発売された真のユニバーサルレジンセメント「リライエックス ユニバーサル」が挙げられる。それぞれ適応範囲や操作手順が若干異なるが、基本的な目的は補綴装置(インレー、クラウン、ブリッジ、ポストなど)を歯質に強固かつ効率的に接着することである。
各製品はいずれも医療機器として認証・承認を受けている。例えば、「リライエックス ユニセム2 オートミックス」は管理医療機器クラスIIに分類され、認証番号223AKBZX00006000が付与されている。同様に「リライエックス ユニバーサル レジンセメント」は認証番号302AKBZX00044000で2020年代に承認された新製品であり、グラスアイオノマー系の「リライエックス ルーティング プラス」も認証番号304AKBZX00049000を取得している。薬機法上はいずれも歯科用材料として適切に分類されており、保険適用の有無や点数は製品によって異なる(後述)。
総じてリライエックスシリーズは、「前処理の簡略さ」「確実な接着強度」「余剰セメント除去の容易さ」に重点を置いて開発されている。以下で各製品の主要スペックと特徴を見ていき、その臨床的意義を考察する。
主要スペックと臨床での意義
リライエックス ルーティング プラス
リライエックス ルーティング プラス(RelyX Luting Plus)は、レジン強化型グラスアイオノマーセメント(RMGI)である。金属冠やPFM冠、ジルコニア冠など保持形態の良い補綴物の合着に適しており、保険診療でも使用可能なセメントとして知られる。硬化は主に自己重合だが、光照射5秒で余剰セメントを一塊で除去できるタックキュア機能を備えている。これは術者にとって大きな利点で、辺縁部に残留セメントを残さず短時間で除去できるため、処置の効率化と二次う蝕リスクの低減につながる。色調は不透明なアイボリー系で、審美性よりも操作性・汎用性を重視した設計である。
本製品はグラスアイオノマー系ゆえに歯面への化学的接着性とフッ素徐放性を持つ一方、レジン成分の添加により物理的強度と耐水性を高めている。メーカー資料によれば、日本の保険点数で「歯科用合着・接着材料Ⅰ(レジン系・標準型)」に該当し、クラウン等1装着につき17点が算定可能である。コストを抑えつつ適度な接着力を得られるため、長年にわたり保険診療の定番セメントとして使われてきた。ただし、支台歯の歯冠長が短い症例など保持形態が不十分な場合、本製品単独での維持力には限界がある。添付文書でもその点に言及があり、「保持形態付与が困難なケースではより高い接着力を持つセメントを検討し、必要に応じてリライエックス セラミックプライマー併用による処理を推奨」とされている。つまり、リライエックス ルーティング プラスは保険診療の範囲で金属系補綴物を安定して装着する目的に適う一方、近年増えつつあるCAD/CAMレジン冠や低保持力のケースには後述のレジンセメントを用いるほうが安心である。
リライエックス ユニセム2 オートミックス
リライエックス ユニセム2 オートミックス(RelyX Unicem 2 Automix)は、デュアルキュア型(光・自己重合両方)セルフアドヒーシブ・レジンセメントである。セルフアドヒーシブとは歯面にエッチングやプライマー処理を行わずにそのまま接着できることを意味し、2002年発売の初代リライエックス ユニセムが世界初の製品だった。ユニセム2はその改良版として2011年頃に登場し、「Newスタンダードのレジンセメント」を掲げている。主な特徴は以下の通りである。
術式の大幅な簡略化
前処理が不要で、「出して、練らずに、そのまま適用」という手軽さが実現された。ユニセム2では自動練和式のダブルシリンジを採用しており、ボタンを押すだけでペースト2剤が混合される。手動練和による練和ムラや気泡混入のリスクが低減し、練和器具の清掃も不要である。この手軽さに対し、実際に使用した臨床家からは「歯面処理だけでなく準備や片付けまでとても楽で、むしろ“これで大丈夫か”と心配になるほどだ」との声もある。もちろん接着強度もしっかり確保されており、その不安は杞憂に終わるケースがほとんどだ。
確実な接着と低刺激性
ユニセム2は化学的には酸性モノマーとフィラーを組み合わせた処方で、練和直後は酸性で歯質に浸透し、硬化後には中性・疎水性に変化するユニークな特性を持つ。これにより歯面が湿っていても高い接着力を発揮し、硬化後は水分を嫌う安定した接着層となる。メーカー調査では、術後の歯髄痛(しみる症状)の発生率は1,593症例中わずか0.25%と報告されている。リン酸を使ったエッチングを省略できることで歯髄刺激が軽減され、有髄歯でもポストオペ感が極めて少ないことを示すデータである。
汎用性の高さ
適応範囲は非常に広く、セラミック、コンポジット、金属のインレー・アンレー・クラウン・ブリッジ、さらにファイバーポストや接着ブリッジまでカバーする。ジルコニアや金属への接着ではサンドブラスト処理が推奨され、ガラスセラミックスにはフッ酸エッチングとシラン処理を併用することで、原則あらゆる補綴物を前処理剤なしで装着可能である。また付属の根管内用細長チップを使えば、ポストを根管内に直接接着する操作も容易になっている。複雑な部位への適用や深部への流し込みもオートミックスならではのスムーズさである。
余剰セメントの除去性
余剰セメントは、硬化開始からおよそ3分でゲル状になるタイミングか、もしくは2秒程度の光照射によるタックキュアで簡単に一塊にして除去できる。タイマーを見ながら硬化の瞬間を待つ必要がなく、短時間の光照射で確実に除去の適期を作り出せるのは臨床的にありがたい。取り残しがないよう最終確認した後、完全硬化を待って咬合調整に進めばよい。
以上のように、リライエックス ユニセム2は接着力・操作性・適応範囲のバランスに優れ、セルフアドヒーシブレジンセメントのスタンダードとして国内外で高い評価を得ている。色調はA2ユニバーサル(自然な歯色)のほかトランスルーセントや濃色シェードも用意され、通常のクラウンからある程度の審美修復まで対応可能だ。ただしエナメル質への接着強度は前処理を施すタイプのセメントよりやや劣るため、全部陶材のラミネートベニアなどエナメル質面で高い保持力が要求される症例には適さない場合がある。このようなケースでは、次に述べるプライマー併用型のレジンセメントを検討すべきである。
リライエックス ユニバーサル
リライエックス ユニバーサル レジンセメント(RelyX Universal Resin Cement)は、2020年頃に発売されたシリーズ最新世代のデュアルキュア型レジンセメントである。最大の特徴は、単独でセルフアドヒーシブセメントとしても、ボンディング材と併用するアドヒーシブセメントとしても使える「真のユニバーサル」セメントである点だ。この製品1本で前述のユニセム(手軽さ重視)とアルティメット(接着力重視)の両方のコンセプトをカバーし、臨床シーンに応じた使い分けが可能になった。
スペック面では、内容量3.4gの小型シリンジに新開発の「マイクロミキシングチップ」を装着して使用する。これにより従来比80%ものペースト残量削減が実現し、1本のシリンジで平均15本の補綴物を装着可能とのデータがある。ユニセム2では8.5gシリンジで約15〜20本程度と言われていたので、単位容量あたりの適用症例数が飛躍的に向上した計算になる。無駄な廃棄量が減るだけでなく、シリンジ先端でペーストが自己封止する設計により保存安定性も高めている。ペーストが空気に触れて劣化するのを防ぐことで、開封後も使い切るまで安定した接着性能を維持できるメリットがある。
接着性能についても、メーカーは「あらゆる被着体に対して高い接着力」を謳っている。特にユニバーサルでは新規重合開始剤の採用で余剰セメントの硬化コントロール性が向上しており、2〜3秒の光照射では過度に硬化せず、一度に塊で除去できる絶妙なタイミングを実現した。臨床家にとって余剰セメント除去がいかに重要かを踏まえた改良と言えるだろう。また硬化後の色調安定性にも優れ、変色しにくい処方のため長期的にも審美性を損なわない。実際、シェードはA1、A3オペーク、トランスルーセント、ブリーチ(漂白歯用)の4色展開となっており、前装部のオールセラミッククラウンやラミネートべニアなど審美症例にも対応できる。
そしてユニバーサル最大のポイントが、スコッチボンド™ ユニバーサル プラス アドヒーシブとの組み合わせである。3M独自の「VMSテクノロジー」により開発されたこのボンディング材は、歯質・金属・セラミックスといったあらゆる材料へのプライマー効果を一本で兼ね備えている。具体的にはMDPなどの金属接着性モノマーやシランカップリング成分が含有されており、別途メタルプライマーやセラミックプライマーを用意しなくても接着前処理を完結できるのが特徴だ。リライエックス ユニバーサル セメントは、このスコッチボンド ユニバーサル プラスを歯面に塗布して併用することで、従来型の接着性レジンセメント(例えばデュアルキュア型+ボンディングの「リライエックス アルティメット レジンセメント」等)と同等の接着強度を発揮する。一方、支台歯が十分に軟化象牙質で保持形態も良好なケースではボンディングを省略し、セメント単独で装着することでユニセム2同様の時短術式を選択できる。この“使い分けの柔軟性”こそ、ユニバーサルの名にふさわしい利点である。
ユニバーサルは発売から日が浅いものの、既に臨床現場での評価は上々である。「1本で何でも接着でき在庫管理が楽になった」「チップが小さく無駄がないので高価なレジンセメントでも経済的だ」といった声や、「余剰セメント除去性が非常に良くインプラント周囲の清掃リスクも減った」との報告もある。実際、インプラント上部構造の装着では残留セメントによる周囲炎が問題となるが、ユニバーサルのようにタック硬化を抑えて塊除去できる性状はリスク低減に有用だろう。総じて、リライエックス ユニバーサルは接着モードと操作性の双方で“オールインワン”を実現した最新鋭のレジンセメントであり、今後スタンダードになり得るポテンシャルを秘めている。
互換性と運用方法
リライエックス各製品を最大限に活用するには、添付文書に沿った正しい使用法と材料ごとの前処理手順を理解しておく必要がある。本節では代表的製品であるユニセム2およびユニバーサルを中心に、臨床での具体的な使い方と運用上のポイントを説明する。
まず共通事項として、支台歯側の処置は以下の手順で行う。
1.暫間補綴物・仮着セメントの除去
本装着に先立ち、プロービングやスケーラー等で仮封材や仮着用セメントを完全に除去する。これを怠ると接着阻害や適合不良の原因となる。
2.試適と歯面清掃
補綴物の試適を行い、適合や咬合を確認した後、支台歯を充分に清掃する。うがいとエアーで歯面を洗浄・乾燥させるが、有髄歯の場合は過度な乾燥は禁物である。象牙質が乾燥しすぎると知覚過敏を誘発しやすいため、軽くブロアーする程度に留め、水分を多少含んだ状態で接着操作に入ることが望ましい。
3.必要に応じた前処理剤の適用
リライエックス ユニバーサルをアドヒーシブモードで使う場合、ここでスコッチボンド™ ユニバーサル プラス アドヒーシブを歯面に塗布する。エナメル質には選択的エッチングを事前に行い(リン酸処理)、象牙質には自己エッチングモードで塗布後に軽くエアーブローして薄く均一化し、光照射する(製品説明書に従う)。セルフアドヒーシブモードの場合やユニセム2では、この工程は省略しそのままセメント適用に移る(※ガラスセラミックスのように接着力重視の場合は、セルフアドヒーシブ型でも接着促進剤を併用するのが望ましい)。
一方、補綴物側の前処理は材質により異なる。基本的には「金属・ジルコニア・アルミナはサンドブラスト、ガラスセラミックスはフッ酸エッチング+シラン、レジン材料はサンドブラスト」が推奨されている。例えば、ジルコニアクラウンであれば内部面を50µm程度のアルミナでブラストし、アルコール等で清掃乾燥する。ガラス系のオールセラミックインレーなら、ラボであらかじめHFエッチング処理された状態であれば追加処理不要だが、必要に応じてシランカップリング剤(3Mならリライエックス セラミックプライマー)を塗布しておく。コンポジットレジンの修復物も金属同様にサンドブラストで表面粗造化すると接着力が向上する。なお、グラスアイオノマー系のリライエックス ルーティング プラスを用いる場合でも、ジルコニアなどツルツルした面には同社のセラミックプライマー併用が推奨されることは前述の通りである。
準備が整ったら、セメントの練和・適用に移る。ユニセム2オートミックスやユニバーサルでは、専用シリンジに使い捨てミキシングチップを装着し、最初の一押し分のペーストは廃棄する(空撃ち)。こうすることでシリンジ内部でわずかに比率ズレした部分や、チップ装着時に入り込んだ気泡を除去し、常に均一混合のセメントのみを使用できる。その後、補綴物内面にセメントペーストを必要量直接盛り付ける。根管内にポストを装着する際は、細長いエンド用チップを根管内に挿入しながらペーストを注入すると良い。自家重合型のリライエックス ルーティング プラスの場合は、二筒シリンジから押し出したA剤B剤を素早く練和紙上で混和し、同様に補綴物へ塗布する(製品付属の練和スパチュラ等を使用)。
装着は一気に確実に行う。補綴物を所定の位置にゆっくりと押し当て、過剰な力をかけずに適合させる。特にレジンセメント系は初期流動性が高いため、強く押しすぎると全部被せ物の場合は咬合圧で浮いてきてしまうことがある。適切に当たったら指で軽圧を持続し、必要に応じて仮止め用の光照射(タックライト)を行う。ユニセム2やユニバーサルの場合、2秒間程度のごく短時間ライト照射でペーストがゲル状に変化し、その時点ではみ出たセメントを側方へヘラですくうように取り除く。複数ユニットのブリッジでは全ての辺縁部に迅速に同様の処置をし、完全硬化前に余剰分を一掃する。光重合器が届かない部分(支台歯遠心側など)は、室温で3分ほど待てば化学硬化で同じくゲル状態になる。ゲル化を見極めて一括除去する—これがセメント残留を防ぐ最大のコツである。
余剰物を除去し終えたら、完全硬化のために全周を充分に光照射する(もしくは指圧を維持しつつ数分待つ)。デュアルキュア型の場合、光の当たりにくい部位でも化学重合で硬化が進行するが、できるだけ照射光を当てたほうが短時間で高硬度に達する。最後に咬合をチェックし、高さがあれば調整して研磨する。接着直後のレジンセメントはやや弾性が残ることがあるため、可能なら数分〜十数分おいて硬化を安定させてから調整するほうがポストセメントの破折などを避けやすい。
使用後の後片付けとしては、ミキシングチップをシリンジから外して廃棄し、キャップをして密閉保存する。リライエックス ユニセム2ではアルミ製の密封パックにシリンジが入っており、開封後6ヶ月以内の使用が推奨されている。ユニバーサルの場合も同程度の寿命と考えられるため、在庫数を適切に管理し、古いものから順に使っていくことが肝要だ。直射日光の当たらない室温(必要なら冷所)に保管し、樹脂の劣化や重合が起こらないよう注意する。
感染対策の面では、ミキシングチップやエンドチップなどはディスポーザブルで交換できるため安心だ。シリンジ本体は患者に触れない部分なので表面をアルコール清拭すれば繰り返し使用可能である。万一ペーストが硬化して吐出しづらくなった場合は、無理に押さず新品に交換する。なお接着操作中にセメントが手指についた場合、重合前ならエタノール含浸ガーゼで拭き取れるが、硬化すると取れにくいため、グローブ着用・ラバーダム使用など基本的な防御策を講じたい。
以上が基本的な使い方である。添付文書に記載の手順を踏襲すれば、リライエックスシリーズは決して難しい材料ではない。むしろ「シンプルな術式」こそが売りの製品群であり、初めて扱う場合でも数症例こなせばすぐにコツを掴めるだろう。大切なのは各製品の適材適所を理解し、「この症例にはどのタイプのリライエックスが最適か」を判断することである。
医院経営に与える影響
新たな材料を導入する際、院長として気になるのは費用対効果(ROI:投資対効果)である。リライエックスシリーズは決して最安価なセメントではないが、その価値を考えるには材料コストだけでなく臨床効率や再治療リスクの低減といった側面も含めて評価する必要がある。
まず1症例あたりの材料費を概算しよう。保険向けのリライエックス ルーティング プラスの場合、5.5gシリンジ(標準パック)で約25歯分の使用が可能で、医院価格は1本あたり数千円程度である。単純計算では1歯あたり数十円~100円台前半のコストに収まる。実際には本製品は保険算定で17点(170円相当)が請求できるため、材料費は診療報酬でほぼ回収できることになる。歯科医の視点ではコスト負担が少なく、「保険診療内で完結する経済的なセメント」と言える。
一方、リライエックス ユニセム2やユニバーサルといったレジンセメントは、1本あたりの価格が1万円以上と高価である。例えばユニセム2の8.5gシリンジは希望小売12,600円(税抜)で、メーカーは約15~20歯に使用可能と案内している。仮に18歯とすれば1歯あたり約700円の材料費となる計算だ。自費診療で用いる場合、このコストは補綴物料金に十分転嫁できる額だが、問題は保険診療で使うケースである。前述のように保険算定は一律17点のため、差額分500円程度は医院の持ち出しになる。しかし、ここで短絡的に「保険だから高いレジンセメントは使わない」と判断するのは得策ではない。なぜなら、ユニセム2等の高接着レジンセメントを使うことで再装着や補綴物再製作のリスクを減らせるからである。
具体的に考えてみよう。もし保険の硬質レジンジャケット冠(CAD/CAM冠)をRMGIセメントで装着し、その後脱離して再装着や作り直しとなれば、患者の信頼低下と再診コスト(無償に近い対応)が発生する。逆に最初からユニセム2で確実に接着しておけば脱離を防げ、患者満足度も維持できる。1本あたり数百円の追加コストでクレームや再治療の発生率を下げられるとすれば、トータルではむしろ経営的なプラスと考えられるだろう。特に昨今のCAD/CAM冠は材料自体の吸水性や辺縁適合の関係で脱離が問題視されており、高接着性レジンセメントの使用が推奨される傾向にある。実際、厚労省の資料でもCAD/CAM冠装着時の接着方法について留意が促されているケースがあるほどだ。保険収入内で工夫するにしても、「材料費を節約して再治療を招く」より「適材を投入して一発で成功させる」方が長期的には収益性が高い場合が多い。
またチェアタイム短縮によるコスト削減効果も見逃せない。ユニセム2やユニバーサルのように術式を簡略化できるセメントは、装着にかかる時間を数分でも短縮できる。たとえば余剰セメント除去に5分かかっていたのが1分で済むようになれば、1症例あたり4分の時間短縮である。一日にクラウン装着を5件行えば20分の節約となり、これは1人の患者の診療枠に相当する。つまり効率化によって診療回転率を上げ、収益機会を増やすことが可能になる。歯科衛生士やアシスタントのアシスト負担も軽減され、人件費面でも僅かながらプラスに働く。
さらに長期安定性によるメリットも考慮したい。接着性能の高いセメントで装着した補綴物は、辺縁封鎖性が良好で二次カリエスの発生リスクが抑えられる傾向がある。また脱離が少ないことで補綴物の再製作頻度が減り、装着し直しに伴う無償調整や材料廃棄も減る。患者紹介による新患獲得は1人失うより1人得る方が遥かに難しいと言われるが、装着後トラブルを減らすことは患者ロイヤリティ向上にも寄与し、ひいてはリピート受診や紹介増加といった収益拡大効果にもつながろう。
もちろん、新材料導入時にはスタッフ教育コストや在庫管理コストも発生する。しかしリライエックス ユニバーサルのように「1本で何役もこなせる」製品なら、むしろ他社製品をいくつも揃えるより在庫が集約でき、期限切れ廃棄のロスも減らせる可能性がある。実際、ユニバーサルのマイクロミキサー採用は1ケースあたりの無駄を削減し、結果として経済性(エコノミー)を向上させている。
総合すると、リライエックスシリーズ導入によるROIは単純な材料費比較を超えた所に現れる。「適切な所に適切な投資をしてリスクと無駄を減らす」という戦略的視点で捉えれば、その価値は十分に投資に見合うと考えられる。特に自費補綴を多く扱う医院では、材料費は全体コストのごく一部であり、患者満足度向上やリメイク削減による利益のほうがはるかに大きいだろう。
使いこなしのポイント
リライエックスシリーズを効果的に使いこなすには、いくつか現場ならではの工夫や注意点がある。以下に、導入初期に戸惑いやすいポイントとその対策を挙げる。
適切な症例選択をする
まず各製品の特性を踏まえ、ケースごとに最適なセメントを選択する判断力が重要だ。保険の前装冠や金属冠で保持形態が十分な症例ならリライエックス ルーティング プラスで簡便に装着可能だが、支台歯が短い場合やCAD/CAM冠など接着力が要求されるケースでは迷わずユニセム2やユニバーサルを使う。逆にラミネートベニアのようにセメント色やエナメル接着力が極めて重要なケースでは、ユニバーサルを必ずボンディング併用で使う、あるいは光重合専用の審美セメント(他社含む)を検討する、といった柔軟さが必要になる。「万能だから」と安易に使うのではなく、状況に応じた使い分けが成功の鍵である。
手順をルーティン化する
新しいセメントでも、一連の操作手順をスタッフ全員で統一しておけばミスは減る。例えば「試適→清掃→(必要ならエッチング・ボンディング)→練和→適用→圧接→2秒光照射→余剰除去→最終硬化→咬合確認」の流れをマニュアル化し、アシスタントと息を合わせて進める。特にタックキュアから余剰除去までのタイミングは最重要ポイントなので、術者が「今ライト2秒当てます、はい除去」など声掛けしながら行うと良い。院内でリライエックスを複数本導入するなら、担当者間の情報共有(どの症例でどのように使ったか、感想や改善点)は積極的に行いたい。新人スタッフには模型実習で練習させ、実際の感触を掴ませるのも有用である。
気泡混入と闘う
手動練和のセメントでは混和ムラや気泡がトラブルの元だったが、オートミックスでもチップ先端から急に押し出すと渦巻き状に空気を巻き込むことがある。最初のペーストを必ず捨てること、押し出す際はゆっくり一定の圧でを徹底しよう。また、補綴物内面に適用する際はチップ先端をペーストに埋め込みながら充填すると空洞を作りにくい(根管内では特に有効)。万一、充填後に明らかな気泡を認めたら、一度ペーストを除去し新たに練和・適用し直す決断も必要だ。中途半端に穴があるまま硬化させては本末転倒なので、勇気をもってやり直す判断もプロフェッショナルには求められる。
ボンディング併用時の注意
ユニバーサルをスコッチボンドプラスと使う際、ボンディングを光硬化させるタイミングに注意する。メーカー手順では、間接補綴の接着ではボンディング材をエアーブローで溶剤を飛ばしたあと光照射せずにセメントを適用できるとなっている(ボンディングがケミカルキュア対応のため)。一方で文献によっては、象牙質に塗布した接着剤をあえて予備重合して接着層の厚みを確保し接着力を上げるテクニックも紹介される。いずれにせよ注意したいのは、ボンディングを過度に厚く塗りすぎないことと一部だけ硬化して段差になるのを避けることである。均一に塗布・乾燥されていれば、ユニバーサルセメントと化学的に連続した接着層を形成する設計なので、取扱説明書に沿った手順で安定した結果が得られるだろう。
色調確認には試適ペーストを
審美領域で複数シェードの中から選ぶ場合、トライインペースト(試適用ペースト)を活用しよう。ユニバーサルやアルティメットには水溶性の試適ペーストが付属しており、実際のセメント硬化後の色味をシミュレートできる(ユニバーサルではボンディング材を介した色調も多少加味されるので完全再現ではないが、目安にはなる)。患者に鏡で確認してもらい納得を得たうえで本接着に移れば、後から「セメントの色が気に入らない」といったクレームも防止できる。なお、試適後はペーストをしっかり洗い流し、アルコールで内面を清掃してから最終装着に臨むこと。
焦らず丁寧に、しかし迅速に
レジンセメントは操作にある程度の時間制限がある。一般にユニセム2では口腔内での作業時間が2分程度、ユニバーサルもそれに近い。焦ってミスをするくらいなら多少やり直し覚悟で冷静に対処すべきだが、基本は手早く無駄なく進めるのが成功率を高める。補綴物の適合調整や隣接面研磨などは接着前に全て済ませておき、接着操作に集中できる環境を整えること。特に接着ブリッジ(メリーランドブリッジ)等は同時に複数面を接着する難度が高い処置なので、術者は事前シミュレーションを十分行い、助手との連携プレーで一気呵成にセットしよう。
以上のポイントを押さえれば、リライエックスシリーズの性能を十分引き出しつつ安定した臨床結果を得られるはずだ。材料任せにせず、自らのテクニックと段取りで成功率をコントロールすること—それが経験豊富な歯科医師の腕の見せ所である。
適応症と適さないケース
リライエックスシリーズ各製品の「得意分野」と「不得意分野」を整理しておこう。適応症を外れた使い方をすれば十分な効果が得られず、逆に適材適所では極めて有効な武器となる。
まずリライエックス ルーティング プラスの適応は、繰り返しになるが保持形態のしっかりした補綴物の合着である。具体的には、金属製インレー・クラウン、保険CAD/CAM冠、鋳造ポスト、ラボサイドで作製したジルコニアクラウンなどが該当する。水分下でも硬化するグラスアイオノマーの性質上、唾液管理が難しい高齢者の症例や、小児の乳歯冠(ステンレスクラウン)の装着にも向いている。また、インプラント上部構造を仮着的に装着したい場合にも選択されることがある。実はリライエックス ルーティング プラス自体は永久接着用だが、グラスアイオノマー系はレジンセメントより除去が容易で、後で外したいケース(例えばインプラントの定期検査のためクラウンを外す等)に使われることがある。ただし除去の際は超音波スケーラーで振動を与えたり、クラウンカッターで切削するなど相応の手技が要るため、「仮着」とはいえ患者ごとに慎重な判断が必要だ。
ルーティング プラスが不得意なのは、審美修復や明らかな保持形態不足のケースである。前者については、色調の問題と接着強度の問題がある。例えば、ラミネートベニアやオールセラミッククラウンを装着する際に不透明なRMGIセメントを使うと、薄い補綴物ではセメントの色が透けて審美性を損ねる恐れが高い。またグラスアイオノマーではエナメル質に対する接着がレジンほど強固ではなく、辺縁のシーリング性能もレジン接着には劣るため、せっかくの審美修復の寿命を縮めかねない。後者、保持形態不足の場面では、前述の通りメーカーも使用を推奨していない。具体的には、単冠ではテーパが強すぎる支台歯、短小歯、支台構造がほぼレジンコアのみでエナメル質が残っていないケースなどだ。これらではルーティング プラスだと早期脱離のリスクがあり、初めから接着性レジンセメントを選ぶべきである。またジルコニアや金属でも、サンドブラスト処理が困難なツルツル表面(例:既製品のメタルプレートやレジン歯付きプレートの改装着など)は、プライマー無しではルーティング プラスの接着力は充分とは言えない。
次にリライエックス ユニセム2(および初代ユニセム)の適応と不得意を考える。ユニセムは汎用性が非常に高く、ほとんど全ての間接補綴に使えると言ってよい。得意とするのは、中程度以上の保持形態があり、かつ手技簡略化が望ましいケースだ。日常臨床で言えば、前後に長いブリッジ症例や多数歯補綴など、エッチング・ボンディングを個々に行うのが現実的でない場面で威力を発揮する。またファイバーポストの接着では、あらかじめ根管内をサンドブラストできればユニセム2単独で確実にポストを定着できる。一方で不得意とされるのは、エナメル質接着が勝負を決めるケースである。セルフアドヒーシブ型の弱点としてエナメル質への接着力不足が指摘されており、たとえばごく一部のエナメル質にのみ接着して維持するようなラミネートベニア、接着ブリッジの金属ウイング、またはエナメルダイルーティンしか残存していない支台歯などでは、ユニセム単独だと不安が残る。このためそうしたケースでは、たとえ製品的には「適応内」であっても積極的にボンディング材を併用するか、他の接着システム(エッチング+ボンディング+レジンセメント)に切り替えるべきである。また非常に薄い補綴物(厚さ0.3~0.5mm程度のラミネートなど)では、ユニセム2は化学重合成分を含むため完全硬化後にわずかに色調変化する可能性がある(アミン系重合開始剤による経時変色など)。メーカーもユニバーサルではその点改良したとしているが、薄いべニアは光重合型セメントのほうが審美的安心感は高い。
最後にリライエックス ユニバーサルの適応と限界だが、ユニバーサルは文字通り適応範囲が最も広い。セルフアドヒーシブとしてユニセム同様に幅広く使えるうえ、ボンディングを使えばユニセムでは難しかったエナメル質主体の接着や審美修復にもフル対応できる。基本的に「ユニバーサルでダメなら他でも難しい」というくらいオールラウンドであり、敢えて不得意を挙げるならごく特殊なケースだ。例えば、将来的な除去が前提の一時的長期仮着(インプラントプロビジョナルや抜歯即時の暫間ブリッジ等)には、ユニバーサルのような高強度セメントは強力すぎて不向きである。永久接着用セメントで一時接着を行うのはリスクが伴い、外したくても外れない事態になりかねない。そういう場合は最初から仮着用セメント(酸化亜鉛ユージノール系など)や低強度レジンセメント(いわゆるインプラント用仮着セメントなど)を使うべきだろう。また、大きな欠陥を抱えた補綴物の応急装着(例えば破折したブリッジを一時的に接着する等)では、材料自体の想定範囲外なのでユニバーサルでも対応は難しい。このようにユニバーサルの不得意は特殊ケースに限られ、通常の臨床で困ることはほとんどない。強いていえば高コストゆえに保険症例で多用しにくい点くらいだが、これは適応というより運用上の制約と言える。
以上をまとめると、リライエックス ルーティング プラスは保険のルーティンワーク用、ユニセム2は中等度までの症例全般に、ユニバーサルは難症例含めオールラウンドにと捉えることができる。それぞれの長所・短所を理解し、必要に応じて使い分けたり組み合わせることで、あらゆる接着ニーズに対応できるだろう。
導入判断の指針
リライエックスシリーズへの投資を判断する際、医院の診療形態や方針に照らして検討することが大切である。以下に、いくつかの歯科医院タイプ別に本シリーズ導入の向き・不向きを述べる。
1. 保険診療中心で効率最優先の医院
毎日多くの保険クラウンやインレーを装着しているような忙しい一般歯科では、リライエックス ルーティング プラスがまず検討に値する。操作が簡単でコストも安く、保険算定も可能なため日常使いに適する。特に金属冠やCAD/CAM冠がメインなら本製品でほぼ賄えるだろう。ただし、近年CAD/CAM冠の脱離が散見されるなど課題もあるため、難症例用にリライエックス ユニセム2も併用すると万全だ。実際、効率重視の医院ほど再装着リスクは排除したいはずで、「通常はGI系、短い歯にはレジン系」というハイブリッド運用が理にかなっている。コスト意識の強い院長先生であっても、1本数百円の追加投資でトラブル回避できるなら高い買い物ではないだろう。ゆえに、保険中心の医院ではルーティング プラス+ユニセム2の二本立てが向いているといえる。
2. 高付加価値の自費診療を追求する医院
オールセラミック補綴や審美修復をメインとするクリニックでは、リライエックス ユニバーサルの導入を強く薦めたい。自費症例では接着操作も診療時間にゆとりをもって行えるため、ボンディング併用で最大の性能を引き出せるユニバーサルはまさに真価を発揮する。色調バリエーションも豊富で変色も少なく、長期的な審美性確保に寄与する。また「1本で全て済む」のは在庫管理上も有難く、スタッフも混乱せずに済む。例えば他院で装着した補綴物の再装着依頼があった場合など、どんな材質が来てもまずユニバーサル+スコッチボンドで対応可能なのは心強い。費用面でも、自費治療費に含めてしまえば材料コストは問題にならないだろう。したがって自費率が高い医院ではリライエックス ユニバーサルが最適であり、必要に応じてユニセム2(あるいは他社の好みのレジンセメント)をサブで併用する形になるだろう。
3. インプラント・外科処置が中心の医院
インプラント専門医など補綴より外科に比重を置く医院では、セメント選びも少し特殊な事情がある。近年はインプラント上部構造をスクリュー固定するケースが多いものの、セメント合着とする場合も依然存在する。こうした場合、残留セメントによる周囲炎リスクを極力減らすことが肝要で、余剰セメント除去性の高いリライエックス ユニバーサルは理に適っている。一方で、インプラントは将来のリトリーバル(撤去再装着)を考慮し、あえて仮着用セメントで装着する流儀もある。強固に接着してしまうと外す際に補綴物やアバットメントを破壊する恐れがあるからだ。そのため、インプラント主体の医院ではリライエックスのような永久接着用セメントは慎重に使うべきである。例えば「前歯部ジルコニアのセメント固定インプラントで審美性と長期安定性を重視したい」ような症例ではユニバーサル+ボンディングで確実に装着し、「臼歯部インプラントでいずれ上部構造交換の可能性がある」場合は仮着セメントを選択する、といった判断が必要になろう。総じて、インプラント中心の医院ではリライエックスシリーズは出番が限られるものの、いざという時に確実な接着を提供してくれるバックアップ的存在と言える。
4. 歯内療法や保存治療が主体の医院
直接修復や土台築造をメインとする医院では、間接補綴自体の数が少ないためセメントの導入優先度は高くないかもしれない。しかし、根管治療後の補綴計画まで一貫して行う場合、ファイバーコアの接着などでレジンセメントが必要になる。保存科出身の先生方はスーパーボンドやパナビアなど古典的接着材を愛用する傾向もあるが、ユニセム2のような自己接着型は操作が簡便で術後疼痛も少ないため、忙しい根管治療後の処置時間短縮に有用だ。歯内療法専門であって補綴は他院に委ねる場合でも、簡易コアや仮歯の長期固定にルーティング プラスを持っておくと重宝するケースもある。よって直接処置中心の医院でも、最低限ルーティング プラスとユニセム2を常備しておけば様々な場面に対応できるだろう。
以上、医院のタイプ別に見てきたが、結局のところリライエックスシリーズはほぼ全ての歯科医院に何らかのメリットをもたらし得る製品群である。ただし強いてネックを挙げれば価格なので、製品ごとのコストと価値を天秤にかけて導入本数を決めると良い。「高いけど便利だから全てユニバーサルに置き換える」のか、「基本は安価なものを使い必要時だけ高価なものを投入する」のか—経営戦略に応じた選択が求められるだろう。
よくある質問(FAQ)
Q1. リライエックス ユニバーサルは、本当にプライマー処理なしでジルコニアや金属に接着できますか?
A. メーカーは「追加のメタルプライマー無しでも高い接着力を発揮する」と謳っている。実際、リライエックス ユニバーサル セメント自体にもリン酸エステル系モノマーが含まれており、ジルコニアや金属への化学的親和性を有する。加えて併用推奨のスコッチボンド™ ユニバーサル プラス アドヒーシブにはMDPやシランが含まれるため、これ一本でエナメル質・象牙質からジルコニア・アルミナ・貴金属・セラミックスまでカバーできる設計となっている。ただし、サンドブラストなどの機械的前処理は効果が高いので、可能な限り実施したほうが安全である。極端な耐久性を求める場合や不安がある場合には、併用できるメタルプライマー(3Mならリライエックス セラミックプライマー)を下地処理として追加してもよいだろう。
Q2. リライエックス ユニセム2やユニバーサルを使うと、術後の知覚過敏は本当に起きにくいのですか?
A. はい、術後疼痛のリスクは低いと報告されている。ユニセム2は硬化前は酸性だが硬化が進むと中性に近づくため、エッチングを併用する従来法に比べて歯髄への刺激が穏やかである。実際に1,500症例以上の臨床調査で術後のしみる症状は0.25%程度とごく僅かだった。ユニバーサルも基本処方は類似しており、ボンディングを併用しても自己重合成分が残留酸を中和する仕組みになっている。もちろん術後疼痛は歯髄の状態や支台歯形成の影響も大きく、一概にゼロとは言えない。しかし少なくともリライエックスシリーズは歯髄保護性能に配慮した材料設計であり、臨床的にも「これに変えてから患者さんの不快症状が減った」との声がある。
Q3. 既に他社の接着性レジンセメント(例:パナビアSAやG-CEM等)を使っています。リライエックスに乗り換えるメリットは?
A. 他社のセルフアドヒーシブセメントも近年は性能が上がっており、基本的な接着強度や操作性は遜色ない。しかしリライエックスシリーズは、長年の実績と細部の使いやすさで一日の長がある。例えばユニバーサルのマイクロミキシングチップは競合品にはない画期的な設計で、廃棄ロスの低減と操作性向上に寄与している。またスコッチボンド ユニバーサル プラスとの組み合わせによって真にプライマー類を不要としたシステム設計は3Mならではであり、ボンディング材まで含めたトータルソリューションが提供される点も強みだ。一方、パナビアシリーズ等は長期臨床データに定評があるなどメリットもあるため、一概にどちらが良いとは言えない。ただ「一度使うと手放せない」というリピーターの多さがリライエックスの評判を物語っており、もし現状の他社製品に不満(余剰除去のしづらさや操作時間の短さ等)があるならリライエックスを試す価値は十分あるだろう。
Q4. リライエックス アルティメット レジンセメントという製品を以前使っていましたが、ユニバーサルとは何が違うのですか?
A. リライエックス アルティメットは、ユニバーサルが発売される以前に3Mが提供していたプライマー併用型の高接着レジンセメントである。スコッチボンド ユニバーサル(旧版)とセットで用い、審美症例にも対応できる製品だった。ユニバーサル セメントはその後継にあたり、基本性能は同等かそれ以上で、さらにセルフアドヒーシブ単独でも使えるよう改良されたものと考えてよい。一番の違いはミキシングチップやシリンジ形状の刷新による取り扱いの簡便さで、アルティメットでは8.5g大容量シリンジ+大きな混合チップだったのが、ユニバーサルでは少量シリンジ+極小チップとなり経済性・操作性が向上した。色調ラインナップもほぼ共通しており、アルティメットを使い慣れていた方なら違和感なく移行できるはずだ。なおアルティメット用の補充品等は今後市場から姿を消していく可能性があるため、事実上ユニバーサルへの切替が推奨される。
Q5. リライエックスを使用する上で法的に注意すべきことはありますか?
A. リライエックスシリーズはいずれも国内で薬機法の承認・認証を取得した医療機器であり、通常の歯科診療で適法に使用できる。ただし医療機器なので製品添付文書の内容を遵守する義務がある。例えば適応外の用途に使わない、指定された保存方法を守る、使用期限を超えたものは使わない、といった点だ。また、患者への説明においては「絶対に外れない」「完全に安全」といった断定的・誇大的な表現は医療広告ガイドライン上できないので注意。保険診療で使用する際も、算定ルールに従って正しく請求する必要がある(レジンセメント加算などが認められているケースではその要件を満たすこと)。まとめると、基本的な注意事項を守って適正使用すれば法的な問題は特にないと言える。万一不明点があれば販売元に問い合わせ、最新の情報や通達を確認することが望ましい。