
3Mの歯科用セメント「リライエックスユニセム」の評判は?使い方や添付文書、特徴を解説
日々の診療でクラウンやインレーの合着に悩むことはないだろうか。セット直後に補綴物が脱離して冷や汗をかいた経験や、新しいクラウンを装着した患者から「咬むと痛む」と訴えられ困惑した記憶は、多くの歯科医師に心当たりがあるはずである。リライエックス ユニセム 2 オートミックス(3M社)は、そうした現場の悩みを背景に登場したセルフアドヒーシブ(自己接着性)のレジンセメントである。複雑な前処理なしに高い接着強度を発揮し、処置時間の短縮と再治療リスクの低減を目指した本製品は、多忙な保険診療から高度な自費補綴まで幅広く活用できる「新しい標準」を提示している。本稿では、その評判や特徴、具体的な使い方を臨床と経営の両面から検証し、自院に導入すべきか判断するための視点を提供する。
製品の概要
リライエックス™ ユニセム 2 オートミックスは、3M(スリーエム)社が提供するデュアルキュア型(光・化学重合併用)の歯科接着用レジンセメントである。一般的名称を「歯科接着用レジンセメント」といい、薬機法上は管理医療機器(クラスII)に区分される。初代のリライエックス ユニセム(2002年発売)はカプセルタイプであったが、本製品「ユニセム 2」では改良されたレジン材料とオートミックス(自動練和)シリンジ方式が採用されている。これにより練和の確実性と操作性が向上し、補綴物への直接充填も容易になった。セット内容は8.5g入りのデュアルシリンジ1本と、標準・ワイド径・根管用のミキシングチップ計20本で、シェード(色調)はA2 ユニバーサル, A3 オペーク, トランスルーセントの3種類がラインナップされている。適応は各種インレー・アンレー・クラウン・ブリッジからファイバーポストやスクリューの接着、さらにはメリーランドブリッジ等の接着性ブリッジやインプラントアバットメント上部構造の合着までと非常に広い。一方で、日本国内の添付文書上はラミネートべニア等のごく薄い修復物については言及がなく、こうしたケースでは従来型のマルチステップ接着システムの方が適している可能性がある。総じてリライエックス ユニセム 2は、「前処理レスで使える汎用接着セメント」と位置付けられ、日常臨床の幅広い場面で使用できるよう設計された製品である。
主要スペック
本製品のコアとなる特性として、セルフアドヒーシブ(自己接着)機能とデュアルキュア硬化が挙げられる。自己接着性とは、歯面に対してエッチングやプライマー塗布といった前処理を必要とせずそのまま接着できる性質である。リライエックス ユニセム 2では、ペースト中の酸性モノマーが象牙質のスメア層に浸透・反応し、補綴物と歯質を化学的に結合させる。この酸性モノマーは重合が進むにつれて中和され、硬化後には疎水性に転化する。未硬化時に親水性であることで湿潤下でも安定した接着力を発揮し、硬化後は吸水しにくくなるため長期安定性に寄与する仕組みである。実際、1,593症例の臨床統計で術後の歯髄痛発生率がわずか0.25%という話も耳にする、自己接着型ながら有髄歯にも安全に使用できる信頼性があるかもしれない。
デュアルキュア型の硬化系は、照射光が届きにくい部位でも確実に硬化させるために光重合と自己重合を併用するものだ。リライエックス ユニセム 2では、口腔内でミキシングチップを通してペーストが混合された時点から化学重合が開始し、作業時間は約2分間となっている。補綴物をセット後、約3分でゲル状に硬化して余剰セメントの除去が可能となり、6分以内に最終硬化へ至る。光が透過するオールセラミッククラウン等では、表面から数秒間のタックライト照射(約1~2秒)で即座にゲル化させることもできる。照射器の高出力化に伴い、例えば3M社のElipar Deep Cure LEDなら1秒程度のごく短時間でタック硬化が可能である。このように適度な作業時間と迅速な初期硬化が両立されており、余剰セメントの除去タイミングを掴みやすい点も実用的なメリットである。硬化後の物性について、公表データ上は圧縮強さや曲げ強さなどが従来品より向上しているとされるが、特筆すべきは流動性とフィルム厚である。ユニセム 2は初代より粘度が低減されており、補綴物装着時の圧接で余剰セメントが容易に流れ出るため適合性を妨げにくい。またセメント層の厚み(フィルム厚)はわずか数十ミクロン程度に収まるため、インレーやクラウンの適合精度を維持できる。これらのバランスの取れた物性が、日常の臨床で扱いやすい「引っかからない」操作感につながっている。
互換性や運用方法
リライエックス ユニセム 2 オートミックスは、その名の通り自動練和式のダブルシリンジで供給される。使用に際して特別なミキサーやディスペンサーは不要で、同梱のミキシングチップをシリンジ先端に装着し押し出すだけで二つのペーストが適切比率で混合される。初回使用時や長期間保管後は、チップ装着前に少量を試し出しして両ペーストが均等に出ることを確認し、その分は破棄する必要がある。一度使用したチップは硬化した栓の役割を果たすため、シリンジ保管時には新品のキャップには戻さず使用済みチップを付けたままにして光や空気を遮断する。開封後のシリンジは6ヶ月以内を目安に使い切る必要があり、開封日をラベルに記入するよう添付文書で指示されている。未開封品の保存は室温で可能であり、冷蔵不要で保管しやすい点はスタッフにも好評である。
補綴物および歯面の前処理については、セルフアドヒーシブの利便性を享受するためにもいくつか遵守すべきポイントがある。まず歯面は仮着セメントや仮封材を完全に除去し、水洗・軽くエア乾燥する。有髄歯の場合、過度な乾燥は禁物である。象牙質を露出させた歯では湿潤状態を適度に保つことで術後の知覚過敏誘発を防ぎ、セメントの親水性が活かせる。一方、消毒目的で過酸化水素水(オキシドール)や重炭酸ナトリウム(重曹)を用いることは避ける。また最終洗浄にポリッシングペースト(浮石)を使用した場合も、その後に知覚過敏抑制剤や収斂剤、EDTA含有液などを塗布しないよう注意が必要である。これらの薬剤残留はレジンセメントの重合反応や接着に悪影響を及ぼす可能性があるためだ。
補綴物側の処理は材質によって異なる。メーカー推奨プロトコルによれば、金属やメタルボンド陶材の場合はアルミナ粒子(30–50µm)のサンドブラスト処理後にアルコール清掃。グラスセラミックス(例:オールセラミッククラウンやインレー)にはラボでのフッ化水素酸エッチングとシランカップリング処理が望ましい。ジルコニアやアルミナセラミックス、およびハイブリッドレジンブロックなどはサンドブラストのみで接着可能で、別途プライマー塗布は必須ではない。実際、リライエックス ユニセム 2はジルコニアや金属表面に対しても良好な接着性を示すため、専用プライマー無しでも使用可能である(必要に応じて併用は可能)。ただしグラスセラミックス(e.max等)のようにシラン処理が強く推奨される材質もあるため、補綴物の種類に応じて前処置を確実に行うことが肝要である。このように歯面側は無処理で、補綴物側は素材に応じた処理のみというシンプルさがセルフアドヒーシブ型セメントの魅力であり、工程の簡略化によってテクニカルエラー(術式ミス)のリスク軽減にもつながっている。
運用面では、補綴物内面へのセメント填入からセット・余剰除去・硬化という一連の流れは従来のレジンセメントと概ね同様である。ミキシングチップは標準とワイドの2種類があり、大きなブリッジやベニア複数枚を同時装着する際など一度に多量に練和したい場合はワイドチップが有用である。また根管内にポストを装着する際にはロングノズルのエンド用チップに交換すれば、根管の最深部まで直接セメントを送り届けることができる。これはレンツローテンポなどの螺旋根管充填器で攪拌しながら填入する従来法に比べ、気泡混入を抑え確実な根管内充填を行う上で優れている。ただし添付文書では、この種の螺旋充填器の使用は禁止と明記されているため(硬化が進行し取り残しが生じる恐れがある)、必ず専用チップでの直接充填とする。操作時には無影灯の光が硬化を促進してしまう場合があるため、可能ならば施術中はライトを弱めるか遮光下で操作した方が安全である。以上のように、リライエックス ユニセム 2 オートミックスは特別な機器を必要とせず既存の院内ワークフローに無理なく導入できる汎用性を持つ。一方で、使用後のシリンジ管理(チップ装着のまま保管、開封日管理)や薬剤併用禁止事項など、基本的な注意点をスタッフ全員で共有しておくことが望ましい。
経営インパクト
新しい材料を導入する際、院長としては投資対効果(ROI)が気になるところである。リライエックス ユニセム 2の場合、その経営インパクトは1症例あたりのコストと臨床成績向上による間接的利益の両面から評価できる。まずコスト面では、本製品の希望小売価格は1シリンジ(8.5g)あたり約12,600円(税抜)である。シリンジ付属のミキシングチップは20本であることから、1本で概ね20症例分の使用が可能と想定される。単純計算では1症例あたり600〜700円前後の材料費となり、これは従来のグラスアイオノマー系セメントよりは高価だが、レジンセメント製品としては標準的な水準である。たとえば他社の自己接着レジンセメントや、接着システム併用型のレジンセメントでは、ボンディング材など消耗品コストを含めれば類似かそれ以上になるケースも多い。従って、本製品のコスト自体が過度な負担になることは少ないだろう。
むしろ経営的な利点として注目すべきは、チェアタイム短縮による診療効率の向上と再治療リスク低減によるロス削減である。自己接着型セメントはエッチング・プライミングの工程を省略できるため、アシスタントの補助作業や術者の手技時間が確実に短縮される。実際に本製品を評価した臨床家からも「操作が簡便でミキシングも確実、アシスタントの拘束時間が減った」との声が上がっている。具体的な時間短縮効果は症例によるが、仮に1症例あたり接着操作が2〜3分短縮されれば、月に20~30件の補綴装着を行う医院では1時間以上の余剰時間が生まれる計算になる。この時間を他の処置に充てて患者数を増やすこともできれば、スタッフの残業削減に繋げて働き方改善を図ることもできるだろう。
また、補綴物の脱離や術後疼痛トラブルの減少は目に見えない経営効果をもたらす。補綴物の再装着ややり直し調整は通常無償対応となり、人件費や材料費の持ち出しである上、患者の信頼低下にも繋がりかねない。リライエックス ユニセム 2は前述の通り接着強度と長期安定性に定評があり、特に保持形態の不十分な支台歯や有髄歯症例でその威力を発揮する。術後の知覚過敏発生率が0.25%と極めて低いデータは、患者からの緊急連絡やクレーム対応に追われるリスクを減らす意味でも重要である。さらに、金属修復からセラミックス修復への移行が進む中で、従来セメントでは対応困難なジルコニアや接着ブリッジにも汎用できる本製品を備えておくことは、自費補綴メニューの拡充や最新素材への対応力アピールにもつながる。結果として患者満足度向上と紹介増加、ひいては医院収益の底上げという形でROIに貢献し得る。総合的に見て、リライエックス ユニセム 2の導入は「目に見えるコスト増」以上の「見えにくい利益」を生み出す可能性が高く、経営戦略上十分に検討価値があると言える。
使いこなしのポイント
優れた製品であっても、その真価を発揮させるには適切な使用法の習得が不可欠である。リライエックス ユニセム 2を使いこなす上で押さえておきたいポイントを、臨床手技の流れに沿って解説する。
まず試適から本セメントによる合着までの間には、支台歯・補綴物ともに汚染を最小限にする配慮が必要だ。試適時には唾液や血液が付着しやすいため、仮着材や仮封材の除去後に支台歯を十分清掃するのはもちろん、補綴物内面も一度次亜塩素酸ナトリウム(5%程度)で洗浄し水洗・乾燥しておくと良い。これにより表面のタンパク汚れを除去し接着阻害要因を減らせる。金属やジルコニアの場合はエタノール清拭でも構わないが、グラスセラミックスではラボでのエッチング後に唾液が付いた場合など、再度シラン処理が必要になる点に注意する。
セメントの練和・充填では、上述のようにチップ装着後の空押し(試し出し)が重要である。特に初回使用時はペーストが隔壁内で分離している可能性があるため、等量が出てくるまでしっかり押し出し、その部分は廃棄する。このひと手間で練和ムラや硬化不良を防げる。充填時はミキシングチップ先端を補綴物内面の底に当て、一方向からゆっくり満たすように押し出す。インレーやクラウンの場合、片側から溢れさせるように充填すれば気泡混入を避けられる。同一ブリッジ内で複数支台がある場合も、一つのチップで連続して充填できるため練和ごとの硬化タイミング差を心配する必要がない。ポストセメント時はエンド用チップを根管の全長の約2/3まで挿入し、根尖側から手前に引き上げつつ注入するとよい。レンツロースピラルを併用しないルールは前述の通り厳守する。
補綴物のセット後は、すみやかに圧接・位置調整を行い静圧をかけた状態で初期硬化を待つ。余剰セメントの除去タイミングは極めて短く、光照射なら1~2秒、放置なら約3分が目安である。タイマーを用いなくとも、口腔内で余剰が糸を引く程度のゲル状になった時が取り除き時である。タイミングが早すぎるとセメントが伸びて除去しきれず、逆に遅れると硬化が進み除去が困難になる。ユニセム 2はごく短時間のタックライトで確実にゲル化させることができるため、筆者も実践しているが頬側と舌側から各1秒程度ライトを当てて即座に光を止め、全周の余剰をスケーラー等で除去する方法が有効である。特に隣接面部は硬化が進むとデンタルフロスも通りにくくなるため、フロスはタック後すぐに通しておく。ラバーダム非装着下では、圧接に使用した綿ロールや指でセメントを拭き取ってしまわないよう注意したい。綿球で圧接していた場合は、動かす前に一度ライトを当ててから静かに除去するとミスが少ない。
最終硬化は、光透過性のある材料なら追加光照射を各面20秒ずつ行う。メタルクラウンなど光の当たらない補綴物では、そのまま6分程度静止状態で待つと硬化が完了する。硬化完了後に咬合調整や研磨を行い、問題がなければ水洗・エアで清掃して処置終了となる。なお余剰除去後の段階でマージン部にごく薄いセメント膜が残存することがある。セルフアドヒーシブ系は硬化が進むとゴマ粒状に脆く残る場合もあるため、最終的にプローブ先端で擦り落とすか、必要に応じて超音波スケーラーでクリーニングすると良い。セメント色調にA3オペークを選択した場合は特に、不透明成分が歯頸部に残ると審美的に目立つことがあるため、丁寧に確認したい。
以上のポイントを踏まえれば、リライエックス ユニセム 2は決して扱いの難しい材料ではない。むしろ多くのステップを簡略化できる分習熟も早く、スタッフ教育の負担も軽い。実際、製品評価では複数のコンサルタントが「操作が簡単で一貫している」「余剰除去も容易」とコメントしており、導入直後から即戦力として機能することが示唆されている。
適応と適さないケース
適応症例は前述の通り広範囲に及ぶが、特にこのセメントの利点が発揮されるのは、支台歯の保持形態が不十分な補綴や即時重合レジンを含む修復である。たとえば形成が浅くテーパーが大きめのインレーや、歯冠長が短い支台歯のクラウンなど、機械的保持だけでは不安の残るケースでユニセム 2の接着性は大きな助けとなる。またファイバーコアやレジン系のCAD/CAMインレーの装着にも適している。従来これらにはレジンセメント+ボンディングシステムが必要であったが、ユニセム 2なら単品で接着から充填まで担える。根管内のポストセメントも、エンド用チップを用いることで確実に充填できるため、太細様々なルートに1種類で対応可能だ。ジルコニアクラウンやメタルボンドにもプライマーなしで使える点は、補綴の材質を選ばない汎用性として心強い。保険診療で増加しているCAD/CAM冠(ハイブリッドレジン製)にもそのまま使え、接着性が要求される接着ブリッジ(小児の外傷歯欠損補綴など)にも適応できるのは大きな強みである。
一方で適さないケースや注意を要する状況も存在する。まずラミネートべニアのような極めて薄い補綴物では、本製品のような自己硬化成分を含むセメントは硬化時の若干の色調変化や厚み管理の難しさから、審美専用に開発された光重合型レジンセメントに譲る場面が多い。ユニセム 2もシェードは3色のみで透明度の調整も限られるため、べニアや審美領域の症例では色調マッチングに細心の配慮が必要だろう。どうしても使用する場合、試適ペーストが無い点を踏まえ事前シミュレーションを十分行うことが望ましい。またエナメル質面が広範な接着では自己接着型の弱点が出る可能性がある。自己エッチング型のセメントはエナメル質への浸食が限定的なため、十分なエナメル質処理が要求されるケース、例えばエナメル質のみで維持するようなレジン前装冠の付与レストや、小窩裂溝を利用した接着ブリッジのアンカー部などでは、あらかじめエナメル質だけ37%リン酸で選択的エッチングしておくと安心である(メーカー推奨手順ではないが臨床的な工夫として)。一方、重度の歯質欠損で補綴維持が困難なケースでは、たとえ本製品を用いても適合不良やレジン層の過厚による応力で長期的に脱離する可能性がある。そのような場合、支台築造のやり直しやマグネットアタッチメント併用等、根本的な設計見直しが先決となる。最後に術野の汚染が避けられない症例では、本製品といえども万能ではない。血液や過度の水分は接着阻害となるため、ラバーダムや十分な防湿が困難な場合には、むしろ感圧型のグラスアイオノマー系セメント(接着には頼らず、化学結合+圧着重視)の方が安定することも覚えておきたい。総じて、リライエックス ユニセム 2は「典型的な補綴物装着ケース」で真価を発揮し、特殊な症例や審美要求の高い症例では適材適所で使い分けるのが賢明である。
導入判断の指針(読者タイプ別)
医院の診療スタイルや重視する価値観によって、新製品導入の判断基準は異なるだろう。以下に、いくつかの歯科医師タイプ別にリライエックス ユニセム 2 の向き不向きと導入メリットを考察する。
1. 保険診療メインで効率重視型の歯科医師
日々多数の患者を回し、う蝕処置からクラウンセットまで分刻みで対応している先生には、ユニセム 2 は業務効率化の切り札となり得る。接着操作の簡略化によるチェアタイム短縮効果は、忙しい保険診療でこそ恩恵が大きい。またCAD/CAM冠やジルコニアインレーなど新素材への対応力も上がり、補綴脱離によるやり直しリスクも低減するため、収益ロスの防止にもつながる。材料費はグラスアイオノマー系より高いものの、1症例数百円の差であれば再製率低下によって充分回収可能だろう。反面、保険診療では材料加算等の直接報酬があるわけではないため、コスト意識が極めて高い医院では必要最低限のケースに絞って使う、という判断もある。とはいえ現在保険適用が拡大しているCAD/CAM冠(小臼歯部)では強固な接着が長期予後を左右する。効率と確実性のバランスを求める現場において、ユニセム 2 は「時短しつつも失敗を減らす」折衷策として導入価値が高い。
2. 高付加価値の自費診療を展開する歯科医師
精密さや美しさを追求する自費補綴中心の先生にとって、新しい材料は臨床的メリットとエビデンスが重要だ。ユニセム 2 は臨床実績が豊富で、世界中の歯科医師から高い評価を得ている。前処理を最小化できることはヒューマンエラーを減らし、術式の再現性を高める効果がある。複数ドクターやスタッフが連携して診療している大規模クリニックでは、誰が使っても一定の結果が出せる安定性は大きな価値となるだろう。ただし審美領域では既述のように専用セメントに軍配が上がる場面もあるため、全てを置き換えるのではなく適材適所で使い分ける姿勢が望ましい。また「簡便さ」は時に「手抜き」と捉えられる懸念もある。しかしユニセム 2は科学的根拠に裏付けられた効率化ツールであり、患者説明においても「最新の接着技術で処置時間を短縮しつつ接着強度を確保しています」とプラスに伝えられる。高付加価値診療を掲げる医院において、最新のテクノロジーを積極採用する姿勢の一環として導入する意義は十分ある。
3. 外科・インプラント中心の歯科医師
口腔外科やインプラント治療に注力する先生方は、補綴物の長期安定と機能性を特に重視する。ユニセム 2 はインプラント上部構造の合着にも用いることができ、強固に固定したい場合に有用である(※将来的な撤去可能性を考慮し、仮着セメントを選択する場合も多いが、選択肢として覚えておきたい)。また難易度の高いフルマウスリハビリテーション等では、限られた支台で多数の補綴物を支えることもある。その際各支台ごとの接着信頼性は極めて重要で、セルフアドヒーシブであっても充分なボンディングを示すユニセム 2の性能は心強い味方となる。とりわけ多数歯欠損のケースでは支台歯が残存歯質わずかということも少なくなく、金属ポスト+レジンコアとファイバーコアが混在する場合もある。本製品なら金属ポストにもファイバーにも一括で対応でき、根管内からコア築造まで連続した接着操作が可能だ。術式の煩雑さを軽減しつつ確実性を担保できる点で、外科的・補綴的リスク管理を両立した材料と言えるだろう。一方、外科系の先生の中には「接着処理は煩雑で苦手」という声もある。しかしユニセム 2ならその心配は少ない。むしろ従来法よりシンプルで間違いが起きにくいため、接着操作に習熟していない若手ドクターでも扱いやすい。複雑な症例ほどシンプルな手法に立ち返る価値があり、ユニセム 2の導入は難症例対策としても有効だ。
以上、どのタイプの歯科医師にとっても、リライエックス ユニセム 2 オートミックスは「導入するだけの理由」が見出せる製品だと言える。ただしその恩恵を最大限享受するには製品特性の理解と適切な症例選択が不可欠であり、自院の診療ポリシーに照らして採用可否を判断して頂きたい。
よくある質問(FAQ)
Q1. リライエックス ユニセム 2の接着耐久性はどれくらい信頼できますか?
A. 本製品のベースとなった初代リライエックス ユニセムは2000年代から世界中で使用されており、長期臨床データも蓄積されています。改良版のユニセム 2も発売後10年以上が経過し、日本国内外で多数の症例実績があります。第三者機関の評価では、35名の歯科医師による1,170症例の使用テストで96%の高い満足評価が得られており、長期安定性や低い脱離率が評価されています。適切な前処理と手順を守れば、従来のレジンセメントと同等以上に長期間機能する信頼性があると言えます。
Q2. ジルコニアクラウンを装着する際にシランカップリング剤やプライマーは本当に不要ですか?
A. メーカーの推奨では、ジルコニアや金属、アルミナセラミックスには前処理としてサンドブラストのみで問題ないとされています。リライエックス ユニセム 2自体に含まれるリン酸エステル系モノマーが酸化ジルコニウムと化学結合し、十分な接着力を発揮します。実際、多くの臨床現場でプライマー無しでも良好な結果が報告されています。ただしサンドブラスト処理(アルミナ粒子による表面粗造化)は必ず行ってください。また不安な場合、ジルコニア用MDPプライマーを併用しても害はありませんが、基本的には本製品単独で接着可能です。
Q3. ユニセム 2をコア築造にも使えますか?ファイバーポストと一緒に使いたいのですが。
A. 本製品はポストの接着と同時にファイバーコアの築造まで行う用途にも対応しています。事実、メーカーも「コアのセットにも使える」と謳っており、根管内に直接セメントを充填してポストを植立し、そのまま歯冠部へも積層して築造を完了できます。ただし大きなコア(土台)を一度に形成する場合、粘性が低めのため形態付与はやや難しいことがあります。その場合はポストだけユニセム 2で接着し、歯冠部は別途レジンコア材料で築造する方法もあります。ファイバーポストとの相性は良好で、3M製のリライエックス ファイバーポストでは表面に微細孔があるため無処理で高い接着性が得られるとされています。
Q4. オートミックスでは材料が無駄になりませんか?クリックerタイプもあると聞きました。
A. 確かにオートミックスシリンジは毎回ミキシングチップ先端にペーストが少量残留し、その分が無駄になります。製品付属の標準チップでは廃棄ロスを抑えるよう短めに設計されていますが、従来のカプセル型と比べれば若干のロスは避けられません。そうした声に応える形で、日本国内でも「リライエックス ユニセム 2 クリックer」(手動練和式ディスペンサー)が販売されています。クリックerは2剤が一体化したシリンジから所定量ずつペーストを押し出し、自分で練和する仕組みで、オートミックスよりも材料歩留まりが良い利点があります。ただし手練和ゆえに混和ムラのリスクや操作の煩雑さもあり、一長一短です。少量の使用で材料ロスを極力減らしたい場合や、オートミックスチップの在庫管理を省きたい場合にはクリックerも検討すると良いでしょう。一般的には「少しのロスより確実性と時短を取る」考えからオートミックスを選ぶ医院が多いようです。
Q5. 保守やランニングコストはどうですか?特別なメンテナンスは必要ですか?
A. リライエックス ユニセム 2自体は消耗品であり、機器のような定期メンテナンスは不要です。強いて言えばシリンジ開封後6ヶ月で使い切ることと、直射日光や高温を避け室温保管する程度です。ランニングコスト面では1本あたり20症例程度使用できるため、月に数件の補綴なら数ヶ月はもつ計算です。先端チップは使い捨てですが、追加購入も可能です(標準サイズ30本入りで数千円程度)。保管中にペーストが漏れたり硬化したりしないよう、使用後はチップをつけたまま保管する点だけ留意してください。総じて特段の維持費はかからず、在庫管理もしやすい材料と言えます。万一本体にペーストが固まって出なくなった場合は廃棄するしかないため、開封後は計画的に使い切るようにしましょう。