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3Mの歯科用セメント「リライエックスユニバーサル」とは?特徴や添付文書、用途を解説

3Mの歯科用セメント「リライエックスユニバーサル」とは?特徴や添付文書、用途を解説

最終更新日

クラウンやブリッジの装着時に、余剰セメントの除去に手間取った経験はないだろうか。インレーをセットした直後に隣接面に残った硬化セメントを発見し、冷や汗をかいたことがある歯科医師も多い。また、補綴物の材料ごとにセメントやプライマーを使い分ける煩雑さから、スタッフが手順を間違えてしまうリスクもある。近年は保険適用のCAD/CAM冠やジルコニア修復が増え、金属やレジン、セラミックスと多様な材料に対応できる“ユニバーサル”な歯科用接着セメントへの期待が高まっている。本稿では、3M社の「リライエックス ユニバーサル レジンセメント」に焦点を当て、臨床テクニックと医院経営の両面からその価値を検証する。

リライエックス ユニバーサルとは何か

リライエックス ユニバーサル レジンセメントは、3M(スリーエム)社が2020年頃に発売したデュアルキュア型(光・化学重合併用型)の歯科用接着セメントである。正式な販売名は「リライエックス™ ユニバーサル レジン セメント」で、歯科補綴物の装着に用いる医療機器だ。日本では管理医療機器(クラスII)として承認されており、販売元はスリーエム ジャパン(現在は医療部門がソルベンタム社として展開)である。その特徴は製品名が示す通り“ユニバーサル”、すなわちあらゆる間接修復の接着に1本で対応できる点にある。単体でセルフアドヒーシブ(自己接着)セメントとして機能し、必要に応じて専用ボンディング材「スコッチボンド™ ユニバーサル プラス アドヒーシブ」と組み合わせることで従来のレジンセメントのような本格的接着モードにも移行できる。適応症は幅広く、金属冠・ブリッジ、オールセラミッククラウン、インレー・オンレー、ファイバーポスト、インプラント上部構造に至るまで最終装着用セメントとして使用可能である(※一部症例では後述のとおり前処理が推奨される)。リライエックス ユニバーサルは従来製品(例:リライエックス アルティメット)に比べ操作手順を簡素化しつつ、接着強度と操作性の両立を目指した次世代のレジンセメントである。

主要スペックと技術背景

化学的特性と組成

本製品は二重硬化型のレジンセメントで、光照射による硬化に加え、光の届かない部位でも化学重合で硬化が完了する。新開発の両親媒性重合開始剤(アンフィフィリック・イニシエーター)を採用している点が科学的トピックである。疎水性基と親水性基の両方を持つ特殊な重合開始剤により、セメント内を均一に重合させることが可能になった。この技術によって、セルフアドヒーシブモードであっても象牙質接着面から表層までムラなく硬化し、高い接着強度と長期安定性が実現したという話を耳にしたこともある。実際、象牙質に対する自己接着強さが向上したことで、単独使用(ボンディング材なし)でも多くのケースで十分な接着力を発揮できるようになっていることもある。さらに化学組成面では、フィラー含有率やレジンマトリックスの改良によりX線造影性が約250%(アルミニウム換算)と高められている。これはエナメル質よりも鮮明に写るレベルであり、装着後の残留セメントがレントゲンで確認しやすいという利点につながる。

物理的強度

リライエックス ユニバーサルの機械的強度も良好である。メーカー公表データによれば、曲げ強さはおよそ100MPa、圧縮強さは300MPa超と、他社の代表的レジンセメントと同等以上の値を示している。水中溶解度はごく低く長期耐久性に優れる。硬化後の皮膜厚は約21µmで、セメント層が厚くなりすぎないため辺縁適合にも悪影響を及ぼしにくい。この薄さはミクロの適合を重視する補綴治療において重要なポイントである。また、硬化挙動にも工夫があり、光重合モードでは2~3秒の短時間照射でタックキュア状態(ゴム硬化)となるよう開始剤の配合バランスが最適化されている。一方で最終硬化に至るまでは約6分間の化学重合時間を確保しており、金属修復のように光が当たらない状況でも確実に硬化が完遂する。短時間光照射で一時硬化しすぎず、長時間放置で硬化遅延もしない絶妙なタイミング設計により、余剰セメントを一塊で除去できる操作性と、最終強度の両立が図られている。

シリンジデザイン

本製品最大の物理的特徴として、3M独自のセルフシーリング機構付きオートミックスシリンジが挙げられる。容量3.4gと小型ながら、シリンジ先端に装着するマイクロミキシングチップによって従来比80%のペーストロス削減を実現している。従来品では混和チップ内に相当量の余剰ペーストが残り、1本のシリンジから得られる使用回数は限られていた。リライエックス ユニバーサルでは無駄が減り、3.4gで平均15ケース程度の装着が可能である(症例の大小により増減)。これは大容量の旧来シリンジと比肩し得る効率であり、材料を使い切る前に期限切れで廃棄するといったロスも減らせる。シリンジ本体は円筒形で握りやすく、プランジャー(押し棒)に残量表示の窓があるため在庫管理もしやすい。さらにセルフシーリング機構のおかげで、使用後はチップを外して即廃棄できる。開口部が自動的に封じられるため、次回使用時までシリンジ内のペーストが空気に触れず衛生的だ。この構造は煩わしいノズルの清掃を不要にし、院内感染対策にも一役買っている。

色調と審美性

リライエックス ユニバーサルは審美修復にも配慮し、計4色(トランスルーセント、A1ユニバーサル、A3不透明、ホワイト不透明)のシェード展開で様々な補綴物に対応する。例えば変色歯に対するラミネートべニアには遮蔽力の高いホワイトオペーク、天然歯同等の透過性が求められるインレーにはトランスルーセント、といった選択が可能である。硬化物は自然歯に近い蛍光性を示すため、紫外線下でも補綴物が浮いて見えることがない。シェード選択を支援するため、同名の試適用ペースト(リライエックス トライインペースト)も用意されている。これは水溶性で容易に洗い流せる仮ペーストで、本番同様の色調を再現できるため、特に審美領域の薄いべニア装着時には重宝する。

互換性と運用方法

既存材料との互換性

本セメントが「ユニバーサル」であるゆえんは、歯質およびあらゆる補綴物材料への適合にある。そのままセルフアドヒーシブ・モードで使用すれば、象牙質やエナメル質には自己酸処理型レジンセメントとして接着する。また、ジルコニアや金属、レジン系材料にも、サンドブラストなどの通常の表面処理後にセメント単体である程度の接着性を発揮する。ただし、より確実な接着を期す場合や保持形態が不十分な症例では、接着性モード(アドヒーシブ・モード)での使用が推奨される。接着性モードでは、別売のスコッチボンド ユニバーサル プラス アドヒーシブ(以下、スコッチボンド プラス)を併用する。スコッチボンド プラスは同社製の1液性ボンディング材であり、支台歯側・補綴物側の両方に塗布することでプライマー兼ボンドの役割を果たす。このVMSテクノロジー(ビトラボンドコポリマー+MDPモノマー+シランカップリング剤を含有)の接着システムにより、エナメル質や象牙質への強力な接着はもちろん、ジルコニア・アルミナ等の酸不活性なセラミックス、金属、さらにはガラスセラミックスやコンポジットレジンにもそれぞれ追加のプライマー無しで化学的に接着処理できる点が画期的である。従来であれば、ジルコニア用プライマー、メタルプライマー、セラミック用シランと複数のボトルを揃え、それぞれ使い分ける必要があった。スコッチボンド プラス一本を常備しておけば、院内の接着関連材料を大幅に集約できるメリットがある。実際、リライエックス ユニバーサル使用時の前処理材は「歯にも補綴物にもスコッチボンド プラスだけ」と明記されている。この簡潔さはオペレーションの効率向上につながるだろう。なお注意点として、先代の「スコッチボンド ユニバーサル(プラスでない従来品)」は本セメントとの併用が不可とされている。旧製品では化学重合型セメントとの併用時に重合阻害の恐れがあるためで、必ず新しい「プラス」バージョンを用いる必要がある。

具体的な使用手順

セルフアドヒーシブ・モードの場合、操作は極めてシンプルである。補綴物内面を清掃し(必要に応じてサンドブラストやエタノール洗浄)、支台歯も隔湿下で清掃乾燥する。シリンジ先端にマイクロミキシングチップを装着し、トリガーを引いてセメントを補綴物内面に直接注入する。チップは細径で押し出し量のコントロールもしやすく、インレーのような狭い窩洞や、スクリューリテインホールの封鎖にも余裕を持って対応できる。装着後、余剰セメントがはみ出したら即座に光を2秒ほど各辺縁に照射する。そうすると余剰分がゲル状になり、ヘラや探針で一括に剥離除去できる。その後、確実な重合のため補綴物辺縁部を各面10秒ずつ光照射し、完全硬化させる。金属など光を通さない場合は、装着からおおよそ6分間待つことで化学重合が完了する。いずれの場合も、インレーやクラウンの近心遠心の隣接面に残留するセメントは除去しにくいので、タックキュア後ただちにデンタルフロスや細いスケーラーを使い、軟らかいうちに掃除すると良い。セメントのチキソトロピー性(加圧時に流動性が増し、静置で固着する性質)のおかげで、圧接中は流動して辺縁に密着し、圧を解けば垂れずにその場に留まる。このため、奥深くへ流下したり薄く広がったりせずまとまった塊として残留するため、結果としてクリーニングが容易になる。

接着性モードで使用する場合も基本的な流れは同じだが、装着前の前処理が加わる。支台歯側はエナメル質が多ければリン酸エッチング(35~37%リン酸)を15秒ほど行い水洗・軽く乾燥する。象牙質面については自己アッシュでも良いが、保持形態が不十分な場合はエッチング併用が望ましい。次にスコッチボンド プラスを歯面全体に塗布し、軽くスプレーエアで延ばしてから光硬化を行う(本ボンディング材は単独でも光重合型なので、できる限り光照射して硬化させておく)。一方、補綴物側は種類に応じて処理する。金属・ジルコニア・アルミナなどは粒子径50µm程度のアルミナでサンドブラスト後にスコッチボンド プラスを塗布しエアブロー(光照射は不要)。ガラスセラミックスの場合は従来通りフッ化水素酸によるエッチングを推奨する。たとえばリチウムジシリケートガラスなら4~5%HFで約20秒処理後、水洗乾燥してからスコッチボンド プラスを塗布・エアブローする(ボンディング材中のシラン成分が化学結合を形成する)。コンポジットレジン修復物の場合も表面をラフ化しボンディング材塗布で対応可能だ。以上の前処理を終えたら、あとはセルフアドヒーシブ時と同様にセメントを適量注入し装着する。接着性モードではセメントとボンディング材の相乗効果で卓越した接着力が得られるが、手順が増えるため院内での周知徹底が必要だ。特にエッチングの有無やボンディング材の扱いについて、スタッフ間でプロトコルを統一しておくことが望ましい。

保管と管理

リライエックス ユニバーサル レジンセメントは未開封であれば長期間保存可能だが、直射日光を避けた室温保管が推奨される。高温下では自己重合が進む恐れがあるため注意したい。またチップ装着後は時間経過で先端部から硬化が始まるため、一度開封したチップは使い回さない。症例ごとに新品のミキシングチップを使用し、処置後は廃棄すること。付属のエンド用延長チップは根管内へのセメント注入に有効である。チップ先端を延長する形で接続し、ポスト深部までスムーズにペーストを届けられる。根管内接着面は湿潤下にある場合が多いが、本製品は親水性の開始剤とボンディング材の効果で比較的影響を受けにくい。ただし極端な出血や湿潤がある場合は術野を十分に乾燥・清拭し、必要であれば一時的にCa(OH)_2系セメントで封鎖してから後日装着する判断も重要である。感染対策上、根管内に挿入した延長チップも再利用せず都度破棄する。

経営へのインパクト

歯科医院経営の視点から、リライエックス ユニバーサル レジンセメント導入によるコストパフォーマンスを評価する。まず直接的な材料コストとして、本製品の価格は1本(3.4g入り)あたり14,000円(税抜)である。付属品として1本パックには専用ミキシングチップ20個とエンド用チップ5個が同梱される。単価だけ見ると安価とは言えないが、前述のとおり1シリンジで約15症例分使用できる計算であり、1症例あたり約1,000円弱のセメント費となる。例えば同社の従来品や他社のレジンセメントでも、1症例あたり数百円~1,000円程度はかかることが多く、極端に割高というわけではない。さらにダブルパック(同色2本セット)では25,200円とやや割安になり、使用量の多い医院ではスケールメリットが得られる。ボンディング材のスコッチボンド プラスは5mLボトルが12,600円ほどで、1ボトルで数十~100以上の補綴処置に使えるため、1症例あたりの追加コストは100~200円程度に収まる。総合すると接着性モードでフルに活用しても1症例あたり約1,200円前後で済む計算である。このコストを高いとみるか妥当とみるかは、得られる臨床上のメリットと天秤にかける必要がある。

再治療リスクと隠れコスト削減

臨床的メリットとして特筆すべきは補綴物脱離のリスク低減である。接着力の強いレジンセメントを用いることは、補綴物の長期安定につながり、結果として無償の再装着や補綴物再製作といった隠れコストを削減する効果がある。例えば保険診療で装着したCAD/CAM冠が半年で脱離し、再接着に追われるケースを考えてみよう。再装着自体は保険点数的には微々たる収入にしかならず、予約のスケジュール調整や患者対応の労力を考えるとほとんど医院の持ち出しである。初めから脱離リスクの低い接着材料を使っておけば、このような機会損失を防げるかもしれない。特に近年保険適用が拡大したハイブリッドレジン冠(CAD/CAM冠)は、従来型セメント(グラスアイオノマー系)で装着すると脱離が多いとの指摘があり、レジンセメントへの移行が進んでいる背景がある。リライエックス ユニバーサルはセルフアドヒーシブでも十分な保持力を示すため、保険CAD/CAM冠のトラブル低減にも貢献することに期待ができる。また、自費のオールセラミック症例であれば、なおさら強固な接着で二次的な脱離・破損リスクを減らすことが患者満足度と医院の信頼確保につながる。高額な自費補綴が短期間で外れる事態は医院の評判を下げかねず、未然防止の価値は計り知れない。

時間短縮と効率化

オペレーション面での効率化も経営インパクトとして見逃せない。本製品は操作工程の簡素化と余剰セメント除去の容易さによって、1症例あたり数分程度のチェアタイム短縮が期待できるかもしれない。例えば従来、メタルボンド冠装着であれば、金属プライマー→レジンセメント調和→装着→硬化待ち→清掃という流れで、硬化待ちや清掃に手間取れば患者の口腔内での開口時間が長引いていた。リライエックス ユニバーサルではプライマー塗布の手間が原則不要で、光照射2~3秒でゲル化させた余剰セメントを一括除去できるため、スケーラーでカリカリと細片を剝がす作業が大幅に短縮される。仮に平均で椅子あたり2分短縮できたとすれば、1日に同種処置が数件ある場合かなりの時間節約となる。浮いた時間で他の診療を行えれば生産性の向上につながるし、患者にとっても長時間口を開けている負担が減ることで満足度が上がるだろう。スタッフの肉体的・精神的負担軽減も含め、効率化がもたらす副次的な“利益”は数字に現れにくいが重要なファクターである。

在庫削減と資源活用

材料在庫の観点でも、本製品の導入メリットがある。ユニバーサルと銘打つだけに、他の多くの接着材料を一製品で代替できる可能性がある。例えば現在医院で、メタルインレー用にレジンモディファイドGIセメント、オールセラミック用にデュアルキュアレジンセメント、ジルコニア用に専用プライマー、ポスト用にまた別のレジンセメント…と複数の在庫を抱えているなら、リライエックス ユニバーサル+スコッチボンド プラスの組み合わせに統一することで在庫管理の手間とコストを圧かもしれない。複数のメーカー品を揃える場合、それぞれに使用期限があり使い切れず廃棄するロスも生じる。一本化すれば無駄な廃棄在庫を減らせ、購入ロットをまとめることでディーラーから値引き交渉もしやすくなるかもしれない。また、材料が統一されればスタッフ教育も容易になり、ヒューマンエラーの防止にも寄与する。ある調査では、補綴装着時のミスの一因に「スタッフがプライマーの種類を誤った」「指示と異なるセメントを渡した」といったコミュニケーションミスが挙げられている。シンプルな術式でスタッフ間の連携ミスを防げれば、間接的に医院全体の安全性・信頼性向上につながり、それは長期的に見て経営の安定に資するものである。

以上のように、リライエックス ユニバーサル レジンセメントは単なる材料費の数値だけでなく、再治療削減・時間短縮・在庫圧縮といった多方面からROI(投資対効果)を高めるポテンシャルを持つ製品と言える。ただし当然ながら、導入すれば即座に利益が増える魔法の杖ではない。既存の運用を見直し、材料特性を最大限に活かす運用フローを構築することで、初めて真の価値が引き出される点は念頭に置いておきたい。

使いこなしのポイント

新しいレジンセメントを導入する際、その性能を十分に発揮するための「使いこなし術」を習得することが大切である。リライエックス ユニバーサル レジンセメントを臨床で活用する上での具体的なポイントをいくつか挙げる。

1. 初期導入時の確認

まず製品を受け取ったら、同梱物と添付文書を確認する。特にミキシングチップや延長チップの数・種類、使用方法をスタッフ全員で共有しよう。チップの装着方法は90度の回転固定式であること、セルフシーリング機構のおかげで使用後にチップを即廃棄可能なことなど、従来品と異なるポイントを理解してもらう。初めて使用する際には、ダミーの模型や不要なクラウンを使い、実際にシリンジを押してみてペーストの出方や固さを体感しておくと良い。ペーストの粘性は高めだが加圧時にはスッと流れる独特の感触があるため、力加減を掴んでおくと本番で慌てずに済む。

2. タックキュアの見極め

余剰セメント除去の鍵はタックキュア(仮硬化)のタイミングである。光照射は各辺縁約2秒が目安だが、ライトの出力や距離によって硬化の進み具合が変わる。照射しすぎるとセメントが割れず硬く残ってしまい、逆に短すぎると軟らかすぎて拭い取る際に伸びてしまう。適切な照射時間を見極めるには、最初の数症例で実験的に確認すると良い。例えば余剰セメントが見える範囲で敢えて1秒、2秒、3秒と段階的に照射してみて、どの程度の硬さであれば一塊でペロンと取れるか感触を掴むのだ。一度コツを覚えれば、ほとんどの症例で余剰セメントが指先で摘まめるほどの塊状に剥がれ落ち、クリーニング時間が劇的に短縮される。特にラバーダムなしで装着するケースでは、軟らかいセメントが唾液中に散ってしまうと厄介なので、タックキュアで確実に固めてしまうテクニックが有効となる。

3. 隣接面の徹底清掃

たとえ塊で除去できても、完全に硬化した後で残存していると厄介なのが隣接面のセメントである。クリーニングのゴールデンタイムはタックキュア~最終硬化までの間であり、この間にデンタルフロスで隣接部を通し、軟らかい余剰物を除去しておく。フロスが通りにくい場合は、フロスに結び目を作ってから通すと効果的だ。接着性モードで使用した場合、ボンディング材が歯間に残っていることもあるので、同様に除去する。完全硬化後に残留物に気付いたら、超音波スケーラーや細い鋭匙で丁寧に除去する必要があるが、リライエックス ユニバーサルは硬化物が高いX線造影性を持つため、術後のレントゲンチェックで取り残しの有無を確認しやすい。患者の歯肉縁下に見えないセメント片を残すと、炎症やう蝕の原因となりうるため、最後の確認まで気を抜かないことが重要である。

4. 根管内での操作

ファイバーポストの装着や支台築造で根管内にセメントを流す際は、付属のエンド用延長チップを活用しよう。細く長いチップをシリンジ先端に連結することで、根管の深部まで直にセメントを注入できる。ポイントは一気に満たそうとせず、ゆっくり引き上げながら注入することだ。急いで押し込むと根管内に空洞ができたり圧力で吐出不良を起こす可能性がある。少しずつペーストを足しながら徐々にチップを引いていくことで、気泡の混入しない緻密な充填が可能となる。また、ポストを挿入した後に余剰がはみ出した際も、同様に短時間光照射でタックキュアさせてから除去すれば、軟化して汚らしくなるのを防げる。根管内では光照射が届かないため、ポスト装着後は指で軽く抑えた状態で規定の化学硬化時間(約6分)を確保する。間に仮封などで他の処置を行いながら時間を有効活用すると良いだろう。

5. 院内トレーニング

新材料導入時には院内でミニ勉強会を開き、術式の統一と疑問点の共有を図ることが望ましい。例えば、「どの症例ではボンディング材を省略してよいか」「エッチングはいつ行うか」「古いスコッチボンドとの違い」など、スタッフが戸惑いそうなポイントを事前に潰しておく。メーカーのテクニカルガイドや添付文書に目を通し、製品推奨のプロトコルを周知することが大切だ。もし可能であれば、担当ディーラーやメーカーの歯科担当者を招いてデモンストレーションを実施してもらうのも有効だろう。実際に目で見て体験することで理解が深まり、スタッフの不安も解消される。術者自身も含め、最初の数症例は慎重に取り組み、都度フィードバックを集めて改善を重ねることで、やがて医院全体で本製品を使いこなせるようになる。

適応と適さないケース

幅広い適応範囲を持つリライエックス ユニバーサル レジンセメントだが、すべてのケースに万能というわけではない。得意とする症例と、注意すべき症例を整理する。

適応が生きるケース

基本的にはほとんどの間接補綴の最終装着に利用できる。具体的には、金属冠・インレー、ハイブリッドレジン冠(CAD/CAM冠)、ジルコニアクラウン、オールセラミッククラウン(e.maxなど)、ラミネートべニア、メタルコアやファイバーポスト、インプラントアバットメント上の上部構造などだ。セルフアドヒーシブ単独でも、支台歯に十分なマージンと保持形態がある一般的なクラウン・ブリッジであれば強固に維持できる。また色調も豊富なので、審美症例である前歯部べニアやジルコニアレストレーションでも、変色しにくいセメントとして安心して使える。とくに薄いべニア症例ではシェードや蛍光性が仕上がりの審美に影響するが、本製品は天然歯に近い色調特性を持つため適している。根管内への応用(ポスト接着)でも、付属チップの存在やスコッチボンド プラス併用による密着性向上で力を発揮する。複雑なブリッジやインプラントケースでも、どんな材質の支台・修復物であっても同じ手順で接着できるため、複合材料から成るケース(例:ジルコニアアバットメントにセラミック冠装着、など)でも一貫したプロトコルで進められるのは大きな強みである。

接着モード必須のケース

一方、接着性モード(ボンディング材併用)でなければ本来の力を発揮できないケースもある。それはべニアや接着ブリッジ(いわゆるメリーランドブリッジ)、テーブルトップ型の咬合面べニアなど、補綴物自体に保持形態が乏しい症例である。これらは従来からエナメル質へのエッチング+高性能ボンディング材+レジンセメントで一体化させる手法が王道であり、本製品でも同様の対応が求められる。添付文書上も、この種の症例では歯面のエッチングとスコッチボンド プラスでの前処理を必ず行うよう注意書きがある。要するに、適材適所で接着モードを選択する柔軟さが必要だ。短い歯やテーパーが強い支台歯など保持形態が十分でないクラウン症例も、ボンディング材併用により保持力を上乗せすることが望ましい。また、インプラントのメリーランドブリッジ(片側支台のダブルウィングなど特殊なケース)では極めて脱離しやすいため、やはりフルセットの前処理が不可欠となる。

得意なケース・禁忌

本製品が積極的には推奨されないケースも考えてみよう。まず一時的仮着用途には不向きである。接着力が高く硬化後の除去が困難なため、将来的に撤去前提の仮歯やプロビジョナル補綴には専用の仮着セメントを用いるべきである。また将来的な再介入が予測されるケース(例えば不確実な予後の補綴や咬合調整の不安があるケース)でも、あえてここまで強力な接着をしない方がよい場合がある。例えばインプラント上部構造で将来的なスクリュー緩みチェックや撤去が必要と考えられる場合、初めから緩解性のある仮着用レジンセメントで対応することも戦略の一つだ。リライエックス ユニバーサルで永久装着してしまうと、後から外すには補綴物の破壊覚悟で切削除去せざるを得なくなる。また、重度の歯肉縁下へのセメント流出が避けられないケースも要注意である。たとえ本製品が除去しやすい特性を持つとはいえ、肉眼的に見えない深部に入り込めば除去は困難だ。そもそも深いマージンの症例自体、樹脂系セメントでの装着は辺縁漏洩リスクが高まるため、状況によってはグラスアイオノマー系セメントなど湿潤下でも硬化する材料の方が適することもある。そして最後に、重篤なメタクリレートアレルギーの患者には使用禁止である。他のレジン系材料と同様、ジメタクリレートレジンや機能性モノマーを含むため、既知のアレルギー既往がある場合は別の手段を検討したい。幸い該当患者は稀だが、事前問診で確認しておくと安心だ。

導入判断の指針

本製品の価値は理解できても、自院で本当に導入すべきか迷うこともあるだろう。医院の診療方針や主要症例の傾向によって、リライエックス ユニバーサル レジンセメントの有用性は変わってくる。いくつか歯科医院のタイプ別に、導入判断のポイントを考えてみる。

1. 保険診療中心で効率重視の医院

毎日多くの患者を回転させることが求められる保険中心型のクリニックでは、時間効率と安定した結果が何より重要だ。このタイプの医院では、複雑な手順を嫌い、シンプルでミスの少ない術式が望まれるだろう。リライエックス ユニバーサルはセルフアドヒーシブで使えば操作はほぼ従来の合着セメント並みに簡単でありながら、接着力はグラスアイオノマー系より高い。特に保険導入されたCAD/CAM冠の脱離トラブルに悩まされている医院にとって、本製品は問題解決の切り札となり得る。実際、CAD/CAM冠の接着にレジンセメントを用いることで再装着率が低下したとの報告もある。ただし一方で、保険診療では材料費を自由に上乗せできないため、1本あたりの価格の高さが心理的ハードルになるかもしれない。大量に使う診療所ではコスト増と感じる向きもあるだろう。しかし、それを補って余りある再治療の回避やスタッフオペレーションの効率化といったメリットが得られる点に注目したい。保険診療は点数が低くとも回転率と信頼性で勝負する世界だ。施術ミスやトラブル対応に追われることを減らし、浮いた時間で新たな患者を診療できるようになる効果は、長期的には医院の収益と評判に寄与するだろう。したがって、「早い・安い・上手い」診療を目指す医院においても、本製品は十分導入価値がある。

2. 高付加価値の自費診療を行う医院

セラミック審美や高度なインプラント補綴など、自費率の高い医院では、材料コストよりも治療結果の確実性と患者満足度が優先される。このタイプのドクターにとって、リライエックス ユニバーサルは理想的なツールとなる可能性が高い。あらゆるケースに1システムで対応できるため、難症例ごとに「この材料で大丈夫か?」と悩む必要がなくなる。ジルコニアクラウンからラミネートべニアまで一貫して信頼できる接着が得られるのは、自費補綴を扱う身にとって心強い。また審美性の点でも、患者に「数年後に変色して見栄えが悪くなる」ような心配をかけずに済む材料選択は重要だ。さらに、自費治療では「最高の材料を使っている」という付加価値を説明できることも患者の安心感につながる。もちろん薬機法上、患者向けに直接「世界一のセメントです」と宣伝するわけにはいかないが、相談の際に「当院では最新の接着システムを用いて長期耐久性に配慮しています」といった説明は可能であろう。費用対効果の面でも、例えば一本10万円以上するオールセラミック治療の成功確率を上げるために数百円~千円の材料投資を惜しむ理由はない。「質に妥協せずベストを尽くす」医院であれば、本製品導入は患者満足と医院のブランド価値向上に直結すると言える。

3. インプラント・口腔外科中心の医院

インプラント補綴が多いクリニックでは、セメント合着型の上部構造装着に神経を使う。近年、インプラント周囲炎のリスクからセメント残留が大きな問題とされている。リライエックス ユニバーサルは前述のように余剰セメントを一塊で除去しやすく、X線チェックでも検出しやすい。つまり、インプラント周囲にセメントを残さないという課題に対して有利な材料である。仮に残留しても発見しやすく、早期に対処できる可能性が高まる。さらに、ファイバーポストや大きな支台築造など口腔外科的処置と補綴が絡むケースでも、本製品の強力な接着性と延長チップは役立つだろう。ただ、インプラント専門医の中には「将来的なメンテナンスのため、上部構造は弱い仮着材で装着し敢えて外せるようにする」というポリシーもある。その場合は本製品のような強固な永久接着はかえって不都合となる。ゆえに、「インプラント上部は基本的にセメント固定で再介入しない」方針の医院にとっては導入の価値が高いが、頻繁に脱着する運用には適さないと言える。また、口腔外科領域で複雑な症例を扱う医院では、多様な材質の補綴物・アバットメントが登場するため、どんな組み合わせでも対応できるユニバーサルな本製品はプロトコールの標準化に寄与する。結果としてスタッフ間の情報共有が容易になり、チーム医療の質向上につながるメリットもある。

4. 新規開業・若手歯科医師の医院

開業したての頃は、材料選びに悩む場面が多い。あれこれ各社製品を試して在庫を増やすより、使い勝手の良いオールマイティー製品を導入しておく方が運用は安定するだろう。リライエックス ユニバーサルは、接着に関する幅広い症例を一通りカバーできるため、「まずこれを導入しておけば大きな不足はない」という安心感がある。特に若手の歯科医師は補綴のトラブル対応で苦労するケースも多いが、簡便なセルフアドヒーシブ運用でありながらベテランの先生方が行うようなボンディングテクニックに近い結果が得られるのは心強い。言わば技術を材料がアシストしてくれるイメージだ。ただし万能さゆえに、自分自身が接着の原理を学ぶ機会が減ってしまう恐れもある。便利な材料に頼りきりになるのではなく、なぜそうすることで接着力が上がるのか原理原則を理解して使うことで、若手歯科医師にとっても成長の糧となるだろう。

以上のように、医院の特色ごとに評価軸は異なるが、総じてリライエックス ユニバーサル レジンセメントは多くの臨床現場で有益なツールとなり得る。コストとメリットのバランスを見極めつつ、自院の戦略にマッチするかどうか検討してみてほしい。

よくある質問(FAQ)

Q1. リライエックス ユニバーサルは本当にボンディング材なしでも大丈夫なのでしょうか?接着力に不安はありません。

A1. 多くの症例でボンディング材なし(セルフアドヒーシブモード)でも充分な保持力を発揮するよう設計されている。新技術の重合開始剤により象牙質との自己接着強度が向上しており、実験データでも従来の自己接着セメントを上回る値が報告されている。ただし、すべての症例で絶対大丈夫と言い切ることはできない。特にエナメル質主体の接着や保持形態が少ないケースでは、従来通りエッチング+ボンディング材併用が推奨される。要は症例選択次第であり、「迷ったらボンディング材併用」と考えると安全だ。

Q2. 既に3Mの旧製品「スコッチボンド ユニバーサル」ボンディングを持っています。この古いボンディング材と併用できますか?

A2. メーカーは旧スコッチボンド ユニバーサルとの併用は推奨していない(不可)としている。理由は、旧製品には化学重合を十分促進できない成分があるためで、デュアルキュアの本セメントを確実に硬化させるには新しい「プラス」版が必要になるからだ。また新しいスコッチボンド プラスはシランやMDPを含みX線不透過性も付加されているため、リライエックス ユニバーサルの性能を最大限に引き出すには最適な組み合わせといえる。旧製品を流用したい気持ちは理解できるが、システム全体で進化した製品なので、アップグレードを検討してほしい。

Q3. 他社のボンディング材やプライマーとも使えますか?

A3. 基本的には閉鎖系(クローズドシステム)の製品と考えた方が良い。つまり、メーカーが保証するのは3M社のスコッチボンド プラスとの組み合わせのみであり、他社製ボンディング材との併用による接着や硬化については自己責任となる。他社製を使った場合、例えばボンディング材中の酸性モノマーが邪魔をしてセメントの化学重合が阻害され、完全に硬化しないリスクも考えられる。どうしても手持ちのボンディング材を使いたい場合、そのメーカーがデュアルキュア対応を謳っているか、専用の化学重合活性化剤が必要ないかを確認しよう。リライエックス ユニバーサル自体は優秀でも、組み合わせ次第で性能を発揮できなくなる恐れがある。最も安全なのは推奨通り専用システムで完結させることである。

Q4. 硬化後の色調や経年変化はどうでしょうか?変色して補綴物の審美に影響しませんか?

A4. 本製品は高い色安定性を備えており、経年的な変色が起こりにくいよう設計されている。メーカーによる加速試験(コーヒー浸漬やキセノンライト照射試験)でも、24時間後に他社製品が着色を示す中でリライエックス ユニバーサルはほとんど変化が見られなかったというデータがある。またシェードも計4色と豊富で、ほとんどの症例で補綴物の下からセメント色が悪目立ちする心配はない。さらに歯に近い蛍光特性を持つため、ブラックライトなど特殊光下でも補綴物が不自然に浮くことがない。ただし強い喫煙習慣やカレー・紅茶などによる極端な着色環境下では、微細な辺縁部に付着したレジンは変色しうるので定期メンテナンスでの研磨清掃が望ましい。総じて、本製品は長期審美性にも配慮されたレジンセメントであると言える。

Q5. 長期的な臨床実績がまだ少ない印象ですが、信頼して大丈夫でしょうか?

A5. リライエックス ユニバーサルは発売からまだ数年(2020年発売)しか経っていないため、10年超の長期データは存在しない。しかし、発売後の各種評価では極めて高い支持を得ている。例えば米国の歯科評価誌では99%の臨床評価スコアを獲得し、発売以来毎年トップ製品賞を受賞している。また2年間の追跡調査報告において、臨床的な問題(脱離や変色など)がほとんど発生していないとのデータも公表された。これらは短期とはいえ実臨床での高い信頼性を示すエビデンスと考えてよい。さらに、組み合わせるスコッチボンド プラスの方は従来から実績のあるスコッチボンド ユニバーサルをベースに改良されたものだ。そういう意味では全く未知の新素材というわけではなく、信頼性の下地がある。とはいえ長期予後は今後の研究を待つ必要があるため、現時点では最新知見をウォッチしつつ使用していくことが重要だ。幸い、3Mは従来から製品フォローとエビデンス構築に熱心なメーカーであり、学会発表や論文報告も精力的に行っている。ユーザーとしては、最新情報にアンテナを張りながら、適切な症例に適切に使うことで、安全に臨床応用できるだろう。