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GC(ジーシー)の歯科用セメント「Gルーティング」の添付文書や手順、使い方を解説

GC(ジーシー)の歯科用セメント「Gルーティング」の添付文書や手順、使い方を解説

最終更新日

臨床現場では補綴装置の合着(セメント接着)にまつわる悩みが尽きない。例えば、金属インレーが何度も脱離して患者が再来院する事態や、硬化した余剰セメントの除去に手間取り隣接面を傷つけてしまう失敗経験はないだろうか。特に近年はジルコニアやCAD/CAM冠など接着力が要求される素材が増え、従来のグラスアイオノマー系セメントでは不安を覚える場面もある。こうした悩みに応えるべく登場したのが、GC(ジーシー)社のセルフアドヒーシブ型歯科用接着用レジンセメント「G-ルーティング」である。本稿ではG-ルーティングの特徴と添付文書に基づく使い方を臨床と経営の両面から解説し、読者が自身の診療スタイルに合った賢明な導入判断を下せるようサポートする。

製品の概要

G-ルーティングは、株式会社ジーシーが2009年に発売したセルフアドヒーシブ型の歯科接着用レジンセメントである。正式名称は「ジーシー G-ルーティング」で、医療機器分類は管理医療機器(クラスII)、医療機器認証番号は221AKBZX00067000と公表されている。適応症例は幅広く、金属製のインレー・クラウン・ブリッジから、ハイブリッドレジン冠、オールセラミックインレー・クラウン、さらにファイバーコアや鋳造コアの接着まで網羅している。セルフアドヒーシブ(Self-Adhesive)とは、歯面や補綴物表面の前処理(プライマーやボンディング操作)を省略できるタイプであり、本製品もその名の通り処理材なしで歯質や各種補綴物に直接使用できることが最大の特長である。特にリン酸エステル系の接着性モノマーを配合した処方により、エナメル質・象牙質だけでなく金属やジルコニアにもプライマー無しで強固に接着できる点をメーカーは強調している。従来のグラスアイオノマー系セメントやレジン改良型セメントでは対応が難しかった高い接着力と操作性を、この1本で実現することを謳っている。

パッケージ内容はカートリッジ(12.6g入り)2本と練和紙1冊から成る(A2シェードの場合の製品コード: 1290540030)。このカートリッジは二筒型の手動押し出し式で、使用時には専用の「CDディスペンサーIII」という器具にセットしてペーストを押し出す仕組みである。ディスペンサーから等量のペーストを練和紙上に採取し、スパチュラで約10秒間練り混ぜて使用する手動練和タイプである。色調は保険診療から自費の審美修復まで対応できるようA2、AO3、トランスルーセントの3種がラインナップされている。A2は汎用的な歯冠色、AO3は金属修復物用に余剰セメントとの色差が大きく視認性を高めた不透明色、トランスルーセントはセラミックインレーなど透光性を重視するケース向けである。なお硬化様式は自己重合(化学重合)を主体としつつ光重合も併用可能なデュアルキュア型であり、口腔内で遮光された部分は化学重合で確実に硬化する一方、露出部分は空気中の酸素による抑制層が生じる。この点は後述する使用上の注意点とも関わる重要な製品特性である。

主要スペックと臨床性能

G-ルーティングの主要スペックは、セルフアドヒーシブ型レジンセメントとしての基本性能と、臨床応用に直結する理工学的性質の高さにある。まず被膜厚さ(セメントの膜厚)は約10µmと非常に薄く、これは金属クラウンなどを装着する際に適合を損なわない十分な薄さである。 操作時間(ワーキングタイム)は約3分(23℃)と長めである。これは単冠のみならずブリッジなど複数歯の同時装着においても十分な余裕を持って作業できることを意味する。参考までに従来のジーセム(カプセルタイプ)は約1分40秒、フジルーティングEXは約2分で硬化が始まるため、複数ユニットを急いで同時にセットする際には時間との戦いになりがちであった。G-ルーティングは初期硬化の立ち上がりが緩やかなため、ブリッジのような複雑症例でも落ち着いて操作できる利点がある。ただし口腔内温度では重合反応が促進されるため、特に夏場で診療室が高温になる環境では操作時間が短縮する点に留意が必要である(メーカー推奨は高温多湿を避けた冷暗所保管で、室温変化による硬化スピードの変動にも注意すること)。

硬化時間(セットタイム)は口腔内37℃環境で約4分と設定されている。余剰セメントを除去した後、患者には咬合圧を維持したまま4分間静止咬合してもらうことで、補綴物内部のセメントが最終硬化に達する。なお、この硬化時間4分は光照射を併用しない場合の化学硬化のみの目安である。実際の臨床では後述するように、余剰セメントの除去時に1〜2秒程度の短時間光照射(タックキュア)を行うことが推奨される。光を当てれば表層硬化が進むため清掃性は上がるが、長時間当てすぎると補綴物周囲まで完全に硬化して除去しづらくなるため注意が必要である。放置して自然硬化させる場合、目安として補綴物セット後およそ1分30秒で余剰セメントがゲル状になり、スッと一塊で除去できる硬さに到達する。このタイミングを逃すと硬化が進みすぎて除去に苦労するため、単冠ならセット後90秒程度、ブリッジなど複数なら最後のユニット装着から90秒程度を目安に除去操作に入ると良い。

接着強さはセルフアドヒーシブ型としては極めて良好な値が示されている。24時間後の引張接着強さは、エナメル質約9.9MPa・象牙質約9.2MPaであり、比較対象のジーセム(8.7MPa・7.4MPa)やフジルーティングEX(8.9MPa・6.7MPa)より高い。特に金銀パラジウム合金など金属への接着では30.1MPaと突出しており、ジーセム(10.0MPa)を大きく上回る。これはリン酸エステルモノマーの化学的な金属親和性や、手動混和タイプゆえに十分なペースト量を確保できる点が寄与していると推測される。また曲げ強さは130MPaと発表されており、レジン充填材料に匹敵する高強度である。ジーセムが45MPa、フジルーティングEXが40MPa程度であることを考えると、G-ルーティングの機械的強度の高さが際立つ。これに伴い圧縮強さも264MPaと、他材料(206MPa、120MPa)を大きく凌駕している。要するに本製品は、グラスアイオノマー系セメントの操作性を保ちつつ、レジン系材料ならではの高強度・高接着性を実現したハイブリッドな性能を備えている。臨床的には、辺縁漏洩の抑制や補綴物の長期安定性向上(脱離や二次う蝕のリスク低減)に直結するスペックであり、保険診療下でも安心してジルコニアやハイブリッド冠を適用できる下支えとなる可能性がある。

なお、X線不透過性(レントゲン造影性)についても十分に有している。補綴物装着後のX線写真で残留セメントが確認しやすく、特にインプラント上部構造のセメント合着時には、歯肉縁下に取り残したセメントの検出に役立つ。以上のように、G-ルーティングは物性・接着性能のバランスが取れた製品であり、ユーザーは臨床現場で「扱いやすく強固に接着できる」という両立しがたい要件を高い次元で享受できるだろう。

互換性と運用方法

G-ルーティングの互換性は、歯科診療における様々な素材・機器との適合性という意味で非常に汎用性が高い。まずデータ互換などデジタル要素は不要な製品であり、院内の既存機器としては前述のCDディスペンサーIII(ガンタイプのカートリッジ押し出し器具)さえ用意すれば特段の追加設備は必要ない。ディスペンサーIIIはGC社の他の二筒カートリッジ製品(例えばレジンコア材など)でも共通して使用されるタイプで、一度購入すれば耐久消耗品として長期に使用可能である。カートリッジからペーストを押し出した後は通常の練和紙上でスパチュラを用いて手混和するため、日常的にグラスアイオノマーセメント等を扱っている術者であれば違和感なく操作できる。自動練和のカプセル型ではない分、混和チップの廃棄ロスや専用ミキサーの故障リスクも無い。

歯面処理や接着前の操作についても、セルフエッチング能を有する本製品は基本的にエナメル質・象牙質への前処理を不要としている。支台歯形成後、う蝕予防や知覚過敏対策でフッ化物塗布などを行った場合はあらかじめ水洗・エア乾燥で清掃し、明らかな汚染がなければそのまま適合試験→セメント塗布・装着へと移行できる。注意すべきは、EDTAや過酸化水素水による象牙質の洗浄を行うとレジン重合が阻害される恐れがある点である。根管内のポスト接着などでEDTAでスマear層除去する習慣がある場合は、最終洗浄を次亜塩素酸ナトリウムなど他の洗浄液に切り替えるか、十分に水洗して残留させないようにする必要がある。また、仮封や試適の際にユージノール系の仮着材を使用した場合も、残存ユージノール成分がレジン硬化を妨げることが知られているため注意したい(これは本製品に限らず一般論である)。

補綴物側の前処理については、素材によって対応が分かれる。G-ルーティング自体はリン酸エステルモノマーの効果で非金属酸化物(ジルコニアやアルミナセラミック、金属酸化被膜)への化学的接着力を発揮する。しかしガラス系セラミックス(例:オールセラミッククラウンの裏層材であるリチウムシリケートや、陶材焼付冠の陶材部分)やレジン系素材(ハイブリッドレジンや3Dプリントレジンなど)の表面には化学的には結合しにくい。そこでメーカーは、セラミックやレジンの補綴物には別途「セラミックプライマーII」の併用を推奨している。これはシランカップリング剤を主成分とした処理材で、ガラスやレジン中のシリカフィラーと化学結合を形成し、レジンセメントとの密着性を高めるものである。具体的には、例えばe.maxクラウンやハイブリッドレジンインレーを装着する際、補綴物内面をフッ化水素酸エッチングした後にセラミックプライマーIIを塗布乾燥し、その後でG-ルーティングを塗布するといった手順となる。一方、ジルコニアクラウンや金属インレーの場合は、特別なプライマー無しでも高い接着力が得られるが、表面をアルミナサンドブラスト処理しておくことで機械的嵌合力が増し、より強固に接着できる。実際の社内試験でもサンドブラスト処理を行った条件で高い接着データが示されていることから、本製品の性能を最大限に発揮するためには補綴物側の適切な表面処理が望ましい。

感染対策や保守の観点では、レジンセメント共通の注意点となるが、直接患者に触れる器具が少ない分、特段難しい手順は無い。ディスペンサーIIIは使用後にカートリッジを外し、ノズル先端に付着したペーストをアルコール綿などで拭き取る程度でよい。またカートリッジ開封後は経時的に内容物が劣化する可能性があるため、使用後はしっかりキャップを閉め、前述のように直射日光や高温多湿を避けて保管する。室温が高い環境にカートリッジを放置するとペーストの粘度変化や操作時間短縮を招くため、夏場は保管場所に注意したい。未開封であれば製造後約2年間の保存期間(使用期限)が設定されているが、開封後はなるべく早めに使い切ることが推奨される。幸いG-ルーティングは汎用性が高いため、補綴装着からコア築造まで様々な用途で消費でき、在庫が余るリスクは低いだろう。

経営インパクトとコスト試算

G-ルーティングの導入による経営インパクトは、一見すると単価数万円の機器導入に比べ地味に思えるかもしれない。しかし開業医にとって、日々使用する消耗材料の選択が積み重なると診療効率や長期収益に大きな差を生む。まずコスト面から見ると、本製品の参考価格は約13,000円(2本入りセット)である。内容量は2本で合計25.2g(7.2mL×2)なので、グラム当たり単価に換算すると約520円/gとなる。前述の医療保険上の材料価格では1gあたり453円と設定されており、保険診療で使用しても十分コストに見合う範囲と言える。1回の症例(例えばクラウン1本装着)に要するセメント量はせいぜい0.1〜0.2g程度であり、金額にすれば50〜100円前後に過ぎない。この数字は、一方でグラスアイオノマー系セメントの代表格フジルーティングEXも同程度(約300円/g台)であることから、大きな負担差は無い。わずか数十円の追加コストで接着力と長期耐久性を大幅に向上できるのであれば、費用対効果は高いと判断できるかもしれない。

真の投資対効果(ROI)は、材料費そのものよりも臨床トラブルの減少やチェアタイム削減によって発揮される。例えば、合着セメントの不具合で生じる代表的なロスとして補綴物の脱離再装着が挙げられる。通常、保険診療で装着したクラウンが短期間で脱離した場合、歯科医院は無償で再装着を行うケースが多く、その間の人件費やユニット占有時間は医院側の負担となる。G-ルーティングは前述のように金属や象牙質への接着強さが飛躍的に高く、従来セメントで起きがちだった脱離を起こしにくい。仮に本製品の使用で脱離リスクが従来比で半減するとすれば、それだけで再診・再装着に伴う機会損失の削減につながる。また二次う蝕のリスク低減も見逃せないポイントである。グラスアイオノマー系はフッ素徐放性が長所だが、水溶解による辺縁封鎖性の低下が弱点でもあった。レジンセメントであるG-ルーティングは経時的な溶解が少なく、辺縁からの微小漏洩を抑えるため、結果的に補綴物周囲の二次う蝕発生を減らし長期的な再治療コストを下げる効果が期待できる。

チェアタイムの効率化も本製品の経営メリットだ。操作時間が長く取れることで複数歯同時装着をスピーディに行え、硬化待ちの時間も含めてトータルの装着プロセスを短縮できる可能性がある。また余剰セメントの除去がタイミングさえ合えば一括除去できるため、従来のように硬化後にスケーラーでカリカリ削り取る手間が省ける。特にブリッジの場合、ポンティック下や近遠心の清掃に手間取ると患者にもストレスとなるが、適切なゲルタイムで一気に除去すれば術者・患者双方の負担軽減となる。時間短縮はそのまま回転率の向上や患者満足度の向上につながり、結果として医院の収益増加や口コミ評価向上といった形で跳ね返ってくると予想される。

さらに、本製品を活用することで診療メニュー拡充による収益機会も広がる。例えば、保険適用のCAD/CAM冠(ハイブリッドレジン製の小臼歯クラウン)は接着力不足による脱離が懸念されてきたが、G-ルーティング使用下では程度の良い合着が期待できるため導入のハードルが下がる。あるいは自費診療でフルジルコニアクラウンを提供する際、セメント選択によるトラブルリスクを心配せずに提案でき、より高付加価値な治療を安心して提供できる。小さな消耗材ながら、その効果は医院経営の様々な側面に波及しうると言える。

使いこなしのポイント

G-ルーティングを最大限に活用するための使いこなしのポイントを、実際の臨床手順に沿って整理する。まず練和操作のコツとして、カートリッジ装着時には必ずディスペンサーにきちんと最後まで差し込むことが重要だ。奥まで装着しないとペーストの押し出し圧が偏り、A剤・B剤の吐出量にズレが生じかねない。また、押し出す際はディスペンサーのトリガーを引きながらカートリッジをわずかに後方へ引くようにすると、ペーストが均等に出やすい。これはメーカーからのアドバイスで、片側のペーストが先行して飛び出すのを防ぐテクニックである。練和紙上に出した2条のペーストは、すり切り板などで先端を揃えてから一気に練り合わせると良い。練和時間の目安は10秒間程度であり、ムラなく均質になるようヘラ圧をかけながら練る。十分に混ざれば淡い黄色だったペーストが一段階濃い色味に変化し、光沢も均一になる。

ペーストの塗布順序にも注意点がある。セルフアドヒーシブ型とはいえ、補綴物内面全体にセメントが行き渡るよう可能なら補綴物側にも薄く塗布したほうがよい。ただし「歯面と補綴物の両方に塗る」場合には必ず補綴物側から塗布することが推奨されている。支台歯側に先にペーストを置いてしまうと、口腔内温度で重合が始まり操作時間が短くなる恐れがあるからである。補綴物側にセメントを塗布したら速やかに支台歯へセットし、確実に圧接する。単冠では指で強圧し、ブリッジでは両端から均等に圧接する。余剰セメントがマージン部からはみ出し、全周から押し出されてくるのを確認できたら充分に圧接できている証拠だ。

余剰セメントの除去はG-ルーティング使用時の最大のポイントと言える。上述の通り、基本的にはセット後約1分30秒を目安にゲル状になった段階で除去を開始する。タイマーで計測するのも良いが、練和紙上に残ったペーストの硬化具合を見る手もある。ただし本製品の場合、練和紙上のペーストは空気中の酸素によって表面が硬化せずベタつく状態が続く。紙に接した裏面も酸素が透過して未重合層が残るため、練和紙上では完全に硬化しきらない。一見いつまでも軟らかいように見えて不安になるが、口腔内で空気に触れていない部分はしっかり硬化しているので心配はいらない。混和試料で硬化を確認したい場合はガラス板で挟んで酸素を遮断した状態で置くと良い。実際の余剰セメント除去時には、ヘラや探針で引っ掛けて一気に剥離させる。ゲル状であれば余剰セメントはちぎれず塊状に取れるため、周囲に飛散しにくい。ブリッジの場合も同様で、まずアーチ状に繋がった余剰部を片側から引っ張って剥離させ、その後細部を綿球や探針で掃除するとうまくいく。

光照射の併用については、適切に行えばさらなる時短が可能だ。メーカーはタックキュア法として「補綴物を確実に押さえた状態で1〜2秒程度だけ光を当て、すぐに余剰セメントを除去する」方法を推奨している。この短時間照射によりマージン付近のセメントだけが部分硬化し、ゲル状よりやや固形に近い一塊となるため、よりスムーズに除去できる。注意点は、照射中および除去時に補綴物がずれないよう指でしっかり保持すること。光照射による硬化収縮が起こる際、補綴物内面のセメントがまだ完全硬化していないと、引っ張る力でクラウンが浮くリスクがある。照射の強さも高出力のLEDなら1秒でも充分なので、長照射は厳禁である。ちなみに余剰セメントを光照射せず化学重合のみで除去する場合、先述のタイミング管理がよりシビアになる。口腔内では温度上昇と水分の影響で硬化が促進されるため、特に歯髄に近い支台歯などでは体温で思いのほか早く固まることがある。慣れないうちはゆとりを持って早め早めの除去を心掛けたほうが良いだろう。

コア(ポスト)の接着に本製品を用いる場合、いくつか追加のポイントがある。例えばファイバーポストを装着してレジンコア築造を行う際、ポストと根管内壁にセメントを塗布してセットするが、このとき支台歯形成まで行うなら通常より長めに硬化待ちを取る必要がある。具体的には、ポストをセットして余剰セメントを除去後、マージン部に光照射を施してから最低10分間は咬合圧をかけたまま保持することが推奨されている。これはコア形成のための形成削除や、テンポラリークラウンの製作など力の加わる操作をすぐ行う場合に、内部まで完全硬化させておくための配慮である。充分な待機時間を取らないと、削合時のミクロな振動でポストが緩むリスクがあるため注意したい。また根管内へのセメント塗布には、細めの根管用ブラシやファイルを用いて気泡無く隅部まで行き渡らせることがポイントだ。気泡があると硬化不良や接着力低下の原因になるため、根管内のセメントスペースは隙間なく満たすよう意識する。術後は必ず術後X線写真を撮影し、ポスト周囲や歯肉縁下に余剰セメントが残存していないか確認する。レジンセメント片が歯周組織やインプラント周囲組織に残ると炎症の原因になるため、ここでもX線不透過性を活かしてしっかりチェックすることが肝要である。

適応症と適さないケース

G-ルーティングの適応症は広範囲に及ぶが、万能ではない部分も理解しておく必要がある。メーカーが公表している適応は、繰り返しになるが「金属(インレー・クラウン・ブリッジ・コア)、レジン(インレー・クラウン・コア)、セラミック(インレー・クラウン・ブリッジ)」であり、さらにジルコニアやアルミナも含まれる。実際の臨床では、一般的なインレー・クラウン・ブリッジのほぼ全てに使用可能と考えて差し支えない。特に、従来は接着に気を遣ったジルコニアクラウンやCAD/CAMレジン冠にも前処理なしで対応できる点は大きな利点である。保険診療で増えつつあるCAD/CAM冠は、グラスアイオノマーセメントで装着すると経年的な脱離例が報告されていたが、G-ルーティングは化学的にレジン冠へ接着し得るため脱離リスク低減が期待される。一方、適応外または慎重適応と考えられるケースもある。

薄いセラミックべニアやラミネートべニアは、本製品の不得意とするところである。エナメル質へのボンディング力が専用エッチング+ボンディングには及ばない以上、歯面がエナメル質主体のベニア症例では、従来通りコンポジットレジンセメントとエナメルエッチング接着の組み合わせが望ましい。また審美的観点からも、シェード展開が3色のみのG-ルーティングでは繊細な色調調整は難しい。べニアでは変色歯対応の漂白色や各種透明度の異なるシェードが要求されるため、審美セメントの出番となるだろう。同様に歯冠長が極端に低い支台歯(残存歯質が少ないケース)も注意が必要だ。セルフアドヒーシブ型は手軽な反面、前処理を伴う多段階ボンディング法に比べるとどうしても接着強度で劣る面がある。文献上もエナメル質に対する自己エッチングセメントの接着強さは20MPa前後のエナメルボンディングには遠く及ばない。そのため、咬合力の大きな小臼歯部・大臼歯部で支台歯が低い場合(保持形態が不十分な場合)は、事前に2ステップのプライマー併用(象牙質プライマーを塗布してからセメント操作)を検討するか、あるいは他の接着システムの採用を検討すべきである。具体的には、クラウンの形態維持が難しいような重度の咬耗歯や、小児の大臼歯クラウン(歯肉縁下でテーパーが強い場合)などでは、脱離リスクとコストを天秤にかけて慎重に判断したい。

また一時的固定には不向きである。当たり前ではあるが本製品は強固な永久固定用セメントであり、将来的に補綴物の撤去を予定したケース(仮着や暫間固定目的)では使用すべきではない。インプラント上部構造において将来的なスクリュー締め直し等の可能性がある場合には、敢えて一時的な弱いセメントで装着する戦略もある。そのような場面ではG-ルーティングは強力すぎ、次回の除去が困難になるため適さないだろう。さらに、接着操作に習熟していない場合もリスクとなる。セルフアドヒーシブとはいえ基本はレジン材料であり、歯面の湿度管理や練和・圧接・余剰除去のタイミングなど、適切な操作ステップを踏まえないと十分な性能を発揮できない。グラスアイノマー感覚でラフに扱うと「思ったより付かない」「余剰が取れず苦労した」といった結果になりかねない。特に無歯科助手で診療するような場合、複数ユニットを扱うとタイミング管理が難しいため注意が必要である。このように、本製品は幅広い症例に使えるが万能ではなく、症例の選択眼と適切な操作が伴って初めて真価を発揮することを心得ておくべきである。

導入判断の指針

読者それぞれの診療方針やクリニックの特徴に照らし、G-ルーティング導入の適否を検討してみよう。

1. 保険診療メインで効率最優先型のクリニック

保険内診療が中心で、とにかくスピードとコスト管理を重視する医院にとって、G-ルーティングは高効率なユーティリティープレーヤーになり得る。材料単価は若干従来セメントより高いものの1症例あたりの負担増は数十円レベルであり、その範囲で脱離リスクや椅子取り時間が減るメリットは大きい。忙しい保険診療では、複数アポイントを抱えながら補綴物装着を手早く済ませる必要があるが、本製品の長い操作時間と容易な余剰除去はそのニーズにマッチする。また、保険導入が進むCAD/CAM冠や硬質レジン前装冠の接着にも活用でき、診療の標準化・簡素化に寄与するだろう。導入に際してはディスペンサー購入など多少の初期投資があるが、耐用消耗品として長期に使え経費計上できるため問題は小さい。一方、スタッフ数が少なくタイムマネジメントがシビアな診療では、かえって取り扱いに注意が必要だ。練和からセットまで一連の流れを途切れなく行うには慣れが要るため、導入直後はトレーニング期間を設けると良い。総じてこのタイプのクリニックには「使い慣れれば手放せない万能接着セメント」と重宝される可能性がある。

2. 自費診療中心で高付加価値志向のクリニック

オールセラミックやラミネートべニアなど高度な審美治療をウリにする医院の場合、材料選択も症例ごとに最適化するアプローチが求められる。このようなクリニックでは、G-ルーティングは頼れる脇役としての位置付けになる。つまり、ジルコニアや複雑なインレーの装着など比較的汎用的な場面では効率良く使い回し、一方で審美前歯部や極めて重要なケースでは従来通りエナメル質エッチング+レジンセメント等を駆使していく、といった使い分けである。G-ルーティング自体、審美領域で実用に足る透明度と接着力は有しているが、べニアや変色歯漂白後の薄い補綴では専用審美セメントに譲るべきだろう。しかしジルコニアレストや奥歯部の見えない部分では、あえて複雑なボンディングを行わずとも本製品で十分強固に接着できるメリットが勝る。経営的観点からは、多種多様なセメント類を在庫・管理する手間を減らし標準レジンセメントとして集約することでコスト管理が容易になる利点もある。高付加価値診療を提供する医院において、G-ルーティングは「守備範囲の広い汎用接着剤」としてチームの底上げを図る存在となる。

3. インプラント・口腔外科中心で技術志向のクリニック

インプラント上部構造の装着や重度修復が多い医院では、確実性と予知性が最優先される。G-ルーティングの卓越した物性(高強度・高接着)は、このような環境で安心感をもたらすツールとなる。特にインプラント症例で懸念されるのは上部構造装着後の残留セメントによる周囲炎だが、当製品はX線不透過性がありチェックが容易で、適切なタイミングで除去すれば歯肉縁下への残存も少ない。また、重度な咬合力がかかるフルアーチブリッジ等でも、高い機械的強度と金属接着力によって安心して維持できるだろう。一方で、インプラント周囲炎リスクを完全に排除したい外科志向の先生は、セメントレス構造(スクリュー固定)を選ぶことも多い。そのため本製品の出番自体が少ない可能性もある。このタイプのクリニックでは、G-ルーティングは「必要なときに信頼できる切り札」と言えるかもしれない。緊急に仮付けから永久付けに切り替える必要が生じた場合や、抜歯即時のテンポラリーを強固に固定したい場合など、確実に固着させたい場面で力を発揮する。ただし、将来的な撤去を見越すケース(インプラント暫間補綴など)では避け、仮着用セメントを使うなど適材適所の判断が必要である。総じて、技術志向の医院にとって本製品は「信頼性重視の接着オプション」となり、限られた局面で大きな価値を提供するだろう。

よくある質問(FAQ)

Q. G-ルーティングの保存方法は?

A. 直射日光を避け、室温25℃前後の冷暗所に保管する。高温環境では操作時間が短くなり、逆に低温では延びるため、夏季や冬季で極端な温度変化がある場合は空調管理された場所に置くのが望ましい。使用後はカートリッジのキャップをしっかり閉め、できれば防湿容器に入れて保管すると良い。

Q. 練和紙上のペーストがいつまでもベタついて硬化しないが大丈夫か?

A. 問題ない。レジン系セメントは空気中の酸素に触れている表層が重合せず未硬化のまま残るため、練和紙上のペーストは表面が常にベタつく。特に紙は酸素を通すので裏面にも未重合層ができる。しかし補綴物内部のセメントは空気に触れず嫌気的環境になるため、所定の口腔内保持時間経過後に確実に硬化している。安心して良いが、硬化確認したい場合はペーストをガラス板で挟んで遮光する方法もある。

Q. 接着操作時の注意点はあるか?

A. いくつか重要なポイントがある。まず、歯面と補綴物の両方にセメントを塗る場合は補綴物側から塗布すること。支台歯側に先行塗布すると体温で硬化が進み、装着までに時間が足りなくなる恐れがあるためだ。また、補綴物セット時は必ず押さえながら作業し、光照射も1〜2秒程度に留めること。長時間照射すると内部硬化前に収縮応力で補綴物がズレるリスクがある。さらに、根管内で使用する際はEDTAや過酸化水素水を使わない。代わりに次亜塩素酸ナトリウム等で洗浄し、十分に乾燥させてからセメントを適用することが肝心である。

Q. 保険診療で使用して問題ないか?(算定や材料費の点で)

A. 問題ない。G-ルーティングは保険収載されている「歯科用合着・接着材料I(レジン系)」に該当し、償還価格は1gあたり453円と設定されている。通常のクラウンブリッジの装着料に包括される材料であり、特別な算定項目は無い。材料費も前述の通り1本のクラウンで50〜100円程度の使用量なので、保険診療の範囲内で十分吸収可能である。

Q. 他社製品との比較で特筆すべき点は?

A. 大きく分けて接着性能の高さと操作時間の長さが挙げられる。例えば3M社のセルフアドヒーシブレジンセメントなどと比べても、G-ルーティングは象牙質・金属への接着力が優れている。またワーキングタイム3分は競合他社の多くが2分未満である中、かなり余裕がある部類である。その反面、硬化時間がやや長め(4分)なので、急いで研磨や調整に移りたい場合には適さないこともある。総じてG-ルーティングは接着力重視で多少ゆっくり硬化というバランスの製品であり、比較検討時には症例ニーズに応じてその特徴を活かせるかを判断すると良い。なお、いずれの製品も適切な手順を踏むことが性能発揮の前提となる点は共通である。