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松風の歯科用セメント「レジセム」の価格や使い方・用途、添付文書をまるっと解説

松風の歯科用セメント「レジセム」の価格や使い方・用途、添付文書をまるっと解説

最終更新日

読者の悩みと本稿のねらい

患者に装着したオールセラミックのインレーが、数か月後に脱離して再来院した経験はないだろうか。再装着のたびに「もっと確実な接着ができていれば」と悔やむこともある。あるいは、古いレジンセメントでは経年的に変色してマージンが目立ち、せっかくの審美修復の美しさが損なわれてしまったこともあるだろう。本稿では、そうした臨床現場の歯科医師が抱える悩みに対し、松風の接着性レジンセメント「レジセムEX」に焦点を当て、臨床的ヒントと医院経営の視点の両面から、その価値をまるごと解説する。日々の詰め物・被せ物の装着に安心感をもたらし、経営的にも無駄のない選択とは何か、一緒に考えてみたい。

レジセムEXとは何か(製品概要)

レジセムEXは、株式会社松風が提供する審美修復用接着性レジンセメントである。クラストIIに分類される管理医療機器(医療機器認証番号302AFBZX00112000)として承認されており、歯科用の最終補綴物(インレー、クラウン、ブリッジなど)を支台歯に恒久的に接着するために用いる材料である。形式としてはデュアルキュア(光・化学重合併用)タイプのペーストとプライマー(ボンディング材)のセットで、1本のボンディング材と1本のオートミックスシリンジであらゆる補綴装置に対応できるよう設計されている。適応範囲は幅広く、ハイブリッドレジンやセラミックのインレー・アンレー、クラウン、ベニア、ファイバーポスト、水酸化アルミニウムやジルコニアなどのオールセラミックスクラウン、さらには金属冠の合着にも使用可能である。ただし、仮着用途には向かない(仮着用には除去が容易な専用仮着材を用いるべきである)し、直接充填のレジン材料として使うものでもない。いわば「補綴装置専用の接着用レジン」がレジセムEXである。開業医にとっては、審美修復の精度と長期安定性を左右する要となる製品と言えるだろう。

なお、「レジセム」という製品名自体は松風から以前より提供されていたが、本稿で扱うレジセムEXはその改良版である。従来のレジセムで評価の高かった高い透明性と適度な遮蔽性といった長所はそのままに、耐着色性・耐変色性が向上したのがEXの特徴である。さらに詳細は後述するが、保管条件や使用手順の面でも従来品から改善が図られており、新たに導入する価値のあるアップデート製品である。

主要スペックと臨床的意義

レジセムEXのスペックを語る上で、いくつか押さえておくべきポイントがある。それは色調バリエーション、物性(接着方式と重合特性)、長期安定性、そしてX線不透過性だ。

3色のペーストバリエーション

レジセムEXペーストにはクリア、アイボリー、オペークの3色が用意されている(各色とも、色合わせ用のトライインペーストも同じ3色)。クリアは高い透明性を持つため、薄いベニアや透光性の高い補綴物でも下地の歯の色を活かした装着が可能である。セメント層の厚みに左右されず自然な美しさを演出できる点が臨床的に大きな利点で、例えば前歯部のセラミックラミネートべニア装着時に重宝する。アイボリーは象牙質色(いわゆるA2~A3相当)のマイルドな色調で、色調調整が必要なケースやごくわずかな遮蔽性が欲しい場合に向く。臼歯部のインレーやクラウンで土台色をわずかにカバーしたいとき、あるいはクリアでは透けすぎると感じる場合にアイボリーを選択することで、補綴物の色調と歯質背景との調和を図りやすい。オペークはその名の通り高い遮蔽性を持つ色調で、変色歯や金属の土台がある症例で下地の色を隠蔽したい場合に効果を発揮する。ただし遮蔽性が高い分、光重合の光が透過しにくいため、操作時には後述する余剰セメント除去のコツ(半硬化状態での除去など)を守る必要がある。

デュアルキュア型と強固な接着

レジセムEXは光と化学の両重合機構を備えたデュアルキュアタイプである。照射光が届きにくい部位でも確実に硬化が進行する自己重合特性を有している。実際、厚みのあるオールセラミッククラウン内部や金属インレーの下でも、所定時間でしっかりと硬化するよう設計されている。このため、補綴装置の材質を問わず安心して使用でき、光重合に頼らない深部での接着力低下を心配する必要がない。また、接着方式としてはボンディング材併用のエッチング・プライマー型であり、いわゆる自己接着性セメント(プライマー処理不要でそのまま接着できる簡便なレジンセメント)とは一線を画す。ボンディング材を別途用いる手間はあるものの、その分エナメル質・象牙質に対する高い接着強さを発揮できる。これは、辺縁封鎖性の向上による二次う蝕リスクの低減や、低い辺縁漏洩による術後の知覚過敏抑制といった臨床メリットにつながる。事実、近年の接着性レジンセメント一般についても、接着力が高いことで補綴物の脱離率が下がり、長期予後の安定に寄与することが知られている。レジセムEXも例にもれず、適切な前処理と併用すれば支台歯と補綴物の界面に強固な接着層を形成できる。

長期の色調安定性

審美領域でレジンセメントを用いる際、懸念されるのが経年的な変色や着色である。せっかく装着時に美しかった修復物も、セメント層が年月とともに黄ばんだり変色してしまっては台無しだ。レジセムEXでは、その点に対し独自の特許技術による重合開始剤の安定化が図られている。松風独自のフィラー(無機充填材)の働きで触媒系が安定化され、レジンセメント自体の保存安定性が向上した結果、室温(1〜25℃)で2年間保存しても劣化しにくい配合となった。これはつまり長期間使用しても変色しにくいことを意味し、実際にレジセムEXは長期の色調安定性が特徴である。臨床的には、レジンセメント層が露出しやすい薄いべニアのマージン部や、笑った際に見えるインレーの境界部において、経年での審美性維持が期待できるということになる。患者に「装着直後だけでなく、年月が経っても美しさが続く治療」を提供できる点は、本製品の大きな価値だ。

X線不透過性(造影性)

レジセムEXには適度なX線造影性が付与されている。つまり、硬化後のセメントがエックス線写真上で白く写るため、補綴物の下に残存したセメントの確認が容易である。臨床では、装着後に歯肉縁下など見えにくい部分にセメントの取り残しがないかX線でチェックすることが推奨される。造影性の低いセメントだと取り残しの検出が難しく、残存セメントが原因の歯肉炎を見逃す恐れがある。しかしレジセムEXであれば、術後のX線検査でそうしたミスを未然に防ぎやすい。これは品質管理の面で安心感を高め、患者満足度にもつながる細かながら重要なスペックである。

以上のように、レジセムEXのスペックは単なる数値以上の臨床的意味を持っている。色調選択肢と重合特性により幅広い症例に適応し、接着力と安定性により長期予後を支える。歯科医師にとって、そのスペックは日々の診療クオリティを底上げしてくれる存在だと言える。

使い方と運用上のポイント(互換性・手順)

新しい材料を導入する際に気になるのは、「自院の装着ワークフローに無理なく組み込めるか」という点だろう。レジセムEXの使用方法と運用上の注意点を整理するとともに、既存資材との互換性についても触れておく。

まず、レジセムEXは2ペーストをオートミックスするシリンジタイプのセメントである。使用時は、シリンジ先端に専用の使い捨てミキサーチップ(混和ノズル)を装着し、トリガーを押すことでAペースト・Bペーストが自動的に混ざった状態で先端から吐出される仕組みだ。手練和(手でペーストを練り混ぜる操作)は不要なので、計量ミスや混和ムラが発生しにくく、常に一定の調合比で使えるメリットがある。混和の度にパレットを汚す必要もなく、診療アシスタントにとっても扱いやすい方式である。ただし、オートミックスゆえにチップ内にどうしても廃棄ロスが生じる点は押さえておきたい。松風はチップ形状の改良で残存ペースト量を従来比30%削減したとしているが、それでも最初に押し出した分(約0.1mL程度)はチップ内に留まったまま硬化して無駄になる。1本のチップは基本的に1症例ごとに使い捨てとなるため、コスト管理上もチップ消費を念頭に置く必要がある(後述する経営インパクトのセクションで詳述する)。なお、ミキサーチップはシリンジ1本につき10本付属するが、追加購入も可能だ。

次にボンディング材(プライマー)の使い方である。レジセムEXではビューティボンドXtremeという光重合型ボンディング材を併用する。このボンディング材は各種材料に1本で接着可能なユニバーサルボンドであり、エナメル質・象牙質へのボンディングはもちろん、金属・ジルコニア・アルミナ・レジン・陶材といったあらゆる補綴物側にも使用できる。つまり、従来なら材質ごとに「金属プライマー」や「ポーセレン用シランカップリング剤」などを使い分けていたものが、この1種類で済むようになっている。実際、旧レジセムでは「レジセムプライマーA/B」を象牙質に、「AZプライマー」をジルコニアに、「メタルリンク」を金属に、「ポーセレンプライマー」を陶材に…と複数の前処理剤を併用する必要があった。レジセムEX導入にあたって「レジセムプライマー」というキーワードを検索する先生もいるかもしれないが、EXではその概念は無くなり、BeautyBond Xtremeという1本のボンディング材で完結することを念頭に置いてほしい。

具体的な手順としては、まず支台歯側では適切な前処理を行う。う蝕を除去し形成した支台歯を十分に清掃・乾燥した後、必要に応じてエナメル質をエッチャントで酸処理する(ボンディング材自体は自己エッチングタイプでもあるが、エナメル質への強固な接着のためには選択的エナメルエッチングを行うことが推奨される)。次に、支台歯全体(エナメル質・象牙質)にビューティボンドXtremeを塗布し、軽くエアブローして均一な薄層を形成する。ここで光硬化するか否かは注意が必要だ。製品の取扱説明によれば、ボンディング材は基本的に重合させず濡れた状態でセメント塗布に進む(未硬化樹脂同士の化学結合を期待する)手順となっているようだ。もしボンディングを先に完全硬化させてしまうと、硬化層が補綴物装着の際に厚みとなって適合に影響したり、セメントとの密着が阻害される恐れがある。そのため、支台歯側は塗布・エアブローまでで止め、光照射はせずにおくのが原則と思われる(製品マニュアルに従っていただきたい)。一方、補綴物側にも基本的には同じボンディング材を使用する。材質ごとの事前処理は以下のように整理できる。

金属・ジルコニア・アルミナの場合

補綴物内面をアルミナ粒子でのサンドブラスト処理(推奨圧0.2〜0.5MPa程度)を行う。その後、ボンディング材を内面全体に塗布し、エアブローして揮発させる(光照射はしない)。ボンディング材中のリン酸エステル系モノマー(MDPなど)の働きにより、金属酸化物との化学結合が期待できる。

ガラスセラミックス(リシリケート系)の場合

内面をフッ化水素酸系エッチング材でエッチング処理するのが望ましい。エッチング後は十分に水洗・乾燥し、同様にボンディング材を塗布・エアブローする。ビューティボンドXtremeはシランカップリング剤の役割も担うため、別途ポーセレンプライマーを使わなくても良い。ただしエッチングの有無で接着力が大きく異なるため、特に二ケイ酸リチウム系などの場合は省略しない方が安全である。

硬質レジン(CAD/CAMハイブリッドやグラスファイバーポストなど)の場合

基本的にはサンドブラスト(もしくはラバーカップとアルミナペースト等での粗面化)を行い、ボンディング材を塗布・エアブローする。レジン同士の接着となるため、化学的にも良好な接着性が得られる。

支台歯側

前述の通り、清掃後にボンディング材を塗布・エアブローする(必要ならエナメル質エッチング先行)。歯質の処理については、唾液汚染を防ぐため可能であればラバーダムを使用するか、少なくとも隔壁や乾綿子で確実な防湿下で行うことが重要である。試適の際に唾液等で汚染された場合は、リン酸系ジェルで支台歯面を清掃し直すなど汚染物の除去を徹底すること。ボンディング材塗布後は速やかに次のステップに移行したい。

以上のような前処理を経て、セメントの練和・塗布に入る。オートミックスノズルの先端から出たペーストはすぐに補綴物内面に塗布する。操作余裕時間は数分程度は確保されているが、室温や口腔内温度によっては硬化開始が早まるため、多ユニットを一度に装着する場合は注意が必要だ。初めての使用時には1本ずつ確実に装着・余剰除去するやり方から始め、慣れてきたら必要に応じて同時装着も検討すると良いだろう。補綴物をセットしたら軽い圧接を保ち、即座に仮止めのウェッジや仮り止め材でズレないよう固定する。その後、仮硬化操作と余剰セメントの除去に移る。 余剰セメントの除去は、半硬化状態で行うと極めて容易である。具体的には、装着後に光重合器を用いて各辺縁部を1〜2秒程度だけ照射し、一部硬化させる(もしくは光を当てずに約3分待つ方法もある)。するとセメントがゴム状に固まり、ヘラや探針で縁上の余剰分を一塊にスルッと剥離させることができる。特にオペーク色のペーストでは完全硬化前に余剰除去するのが推奨されており、光を当てず3〜4分放置して半硬化させてから除去する方法が紹介されている(不確実な場合は探針で硬さを確認しつつ行う)。クリアやアイボリーは透光性が高いため短時間の仮硬化でも効果が出やすいが、オペークは慎重に見極める必要があるということだろう。この操作タイミングさえ掴めば、従来のように硬化後にバーやスケーラーでガリガリ削り取る手間は大幅に減る。残った少量の薄い被膜は最終硬化後にスケーラーで弾くか、研磨用ポイントなどで軽く除去すれば良い。 最後に本硬化と仕上げである。各社のデュアルキュアセメントと同様、光が当てられる部分は十分に光重合を行う。その後、光の当たりにくい部位も含め5分程度の待機(自己重合の完了)を経て、完全硬化させる。特に遮蔽性の高いオペーク色を用いた場合は、光照射後5分間の静置が推奨されている。硬化完了後、必要に応じてマージン部の研磨や咬合調整を行う。研磨の際にはタービンの高速切削は避け、超微粒子ダイヤやシリコンポイントで軽くなでる程度に留める方が良い。ポーセレンラミネートべニアなどの場合は研磨しなくても良いほど綺麗に仕上がるはずだが、万一セメントラインがざらついているとプラークの付着を招きかねないため、最終確認は怠らないようにしたい。

以上が基本的な使用手順である。整理すると、「前処理(ブラスト・エッチング)→ボンディング材塗布→セメント適用→余剰除去→本硬化→仕上げ」という流れになる。院内運用の観点では、複数の材料を使い分けていた従来に比べ、レジセムEX導入後は在庫するプライマー類をBeautyBond Xtreme 1種に統一できるメリットがある。冷蔵庫からあれこれ取り出す手間もなく、チェアサイドで常温保管OKなボンディング材・セメントをすぐ使えるのは業務オペレーション上も時短につながる。また、前処理にサンドブラストが必要になる場面が多いため、小型サンドブラスターを持っていない医院では導入を検討した方が良い。ジルコニアや金属の被着面処理はやはりブラストが最も効率的で接着力も安定するからである(代替としてプライマー塗布のみでも一定の効果は得られるが、長期安定性の点で差が出る可能性がある)。院内ラボがある規模の医院なら技工士に事前処理を依頼しておき、歯科医師はボンディング材を塗るだけに簡略化することも可能だろう。このように、レジセムEXの運用は院内体制に応じ柔軟に組み込める。肝心なのは、製品特性に沿った正しい手順を全スタッフで共有し、トラブルを未然に防ぐことである。

導入コストと経営インパクト

高性能な材料ほど気になるのはコストである。レジセムEXを導入した場合の経営面への影響を、直接コストと投資対効果の観点から考察する。

まず製品価格について、メーカー公表の標準価格(税込)では、レジセムEXペースト(5.0mLシリンジ×1本+混和チップ10本付属)が9,240円、ボンディング材のビューティボンドXtreme(5.0mL)が17,600円である。また、専用の松風ミキサーチップ(ショート)は50個入で5,000円となっている。初回導入時にはペーストとボンドをセットにしたキット(シリンジ2本+ボンド1本など)も提供されており、その内容から考えておおよそ3万円台後半程度の費用感となる(販売ルートにより異なる)。一見高価にも映るが、これはあくまで数十症例分の材料をまとめて購入する形であり、1症例あたりに均せばそれほど過度な負担ではない。

実際、経営的には「1症例あたりいくらか」が重要だ。仮にレジセムEXの1シリンジで15症例の装着に使うと想定しよう(補綴物の大小で変動するが、混和チップ10本付属という点からおおよそ10〜20症例分と推量できる)。シリンジ1本8,400円を15で割れば、ペースト材料費は約560円/症例となる。これに混和チップ代(約100円/本)とボンディング材の按分費用を加算する必要がある。ボンディング材は5.0mLで16,000円だが、1症例あたり数滴(0.1mL程度)しか使わないため単純計算で約160円/症例となる(実際には多少のロスもあるが、大きく乖離しないだろう)。以上を合計すると、レジセムEX導入による材料コストは1症例あたりおよそ800円前後と見積もられる。これは、グラスアイオノマー系セメント等の低コスト資材に比べれば確かに高めだ。しかし、例えば自費診療で数万円以上の技工物料をいただくケースでは微々たる割合であり、保険診療であっても補綴物脱離による再装着(無償対応になりがち)リスクを減らせるメリットを考えれば、決して無視できない投資対効果がある。チェアタイム短縮効果も見逃せないポイントだ。レジセムEXは常温保管可能なため、冷蔵庫から出して温度を戻す時間が不要である。またオートミックスで手早く練和でき、仮硬化による余剰除去もスムーズなので、1症例あたり数分程度の時間短縮が期待できる。診療時間に余裕が生まれれば、その分別の患者を診たり難症例にじっくり向き合えたりと、診療効率の向上につながるだろう。仮に1症例で5分時短できるとすれば、1日に複数症例で合計30分以上の節約も現実的である。30分あれば追加の検診枠を1つ設けることすら可能であり、これは売上増にも寄与しうる効果だ。

さらに再治療率の低減という側面での経営インパクトも重要だ。接着性の高いレジンセメントを用いることで補綴物の脱離が減れば、医院にとっては無償修理や再製作のコスト(時間的コスト・材料コストの双方)が削減される可能性がある。患者からの信頼も損なわれずに済むため、長期的な口コミやリピート率にもプラスとなる。特に自費診療の高額な補綴物でトラブルが起こると医院側の負担は大きいため、初期に多少コストをかけてでも安定した材料を使うことは、結果的にリスクマネジメントとして合理的であると言える。また、審美性の維持によって患者満足度が向上すれば紹介やリピートにつながる可能性も高まる。例えば「何年経ってもあの歯は綺麗なままだ」という患者の実感は、「あの歯医者さんに任せて良かった」という評価に直結する。良い材料選択は、そうしたポジティブな評価を陰で支える要因にもなるのだ。

一方、導入に際しての初期投資リスクも検討しておこう。前述の通りレジセムEXのパッケージは比較的大容量で、少数症例しか扱わない医院では「使い切る前に有効期限が切れないか」という懸念があるかもしれない。しかし、レジセムEXは室温で未開封2年の保存期限が認められており、頻度が低くても焦って使い切る必要はない。万一余らせて廃棄となっても本数が少なければ数千円規模の損失で済む可能性がある。むしろ、高価な技工物が脱離・破損して作り直す事態に比べれば取るに足らない額だろう。また、ボンディング材のBeautyBond Xtremeは補綴装置装着だけでなくコンポジットレジン充填修復や修理、象牙質のシーラント塗布など用途が広い。言い換えれば、現在他社のボンドを使っている医院であれば、この機会にBeautyBond Xtremeに統一してしまうことで材料を一本化しコスト効率を上げることも可能である。実際、常温保存できるワンボトルボンドとして性能も良好なため、日常の充填用ボンディング剤として併用している先生もいる。そう考えると、レジセムEX導入の投資対効果(ROI)は単なる合着セメントとしての枠を超えて、医院全体の診療品質と効率に寄与し得るものである。

導入後に使いこなすためのポイント

優れた材料も、使いこなせなければ宝の持ち腐れである。ここではレジセムEXを導入した際に留意すべきポイントや、臨床応用上のコツをまとめる。

1. 手順の院内共有とトレーニング

新しい接着システムを導入したら、まず術式をスタッフ全員で統一しておく必要がある。歯科医師はもちろん、アシスタントも混和やボンディング手順を理解していなければスムーズなオペレーションは望めない。メーカー提供のステップカードや取扱説明書を活用し、具体的な手順書を院内マニュアル化しておくと良い。可能であれば練習用にタイポドント模型などでシミュレーションしてみるのも有効だ。混和から余剰除去まで、一連の流れを事前に体験しておけば、本番で慌てずに済む。

2. 試適と色調確認の工夫

レジセムEXには各色のトライインペーストが用意されている(※製品キットに含まれるか、別売の場合はディーラーに確認)。トライインペーストは水溶性で硬化しないペーストで、補綴物装着前に実際のセメント色をシミュレーションできる。とくに審美領域では本番のセメント選択が補綴物の見え方に影響するため、トライインペーストで患者と色調を確認し合意を得るプロセスを挟むと安心だ。使用後は水洗で綺麗に除去し、アルコール綿などで内面を拭えばセメントに影響はない。トライインペーストを用いることで、「装着してみたら色が合わなかった」という取り返しのつかない失敗を防ぐことができる。

3. 感染対策とラバーダム

接着操作では血液や唾液による汚染が致命的な影響を与える。可能な限りラバーダム防湿を行い、難しい場合も開口器や唾液エジェクターを駆使して術域を清潔・乾燥に保つことが重要だ。ボンディング材が歯肉や舌に付着しないよう細心の注意を払い(ディスポーザブルのマイクロブラシを使うと塗布しやすい)、万一付着したらすぐに拭き取る。患者への説明としても「今回のセメントは特殊な接着剤で唾液が入ると効果が落ちますので、お口を少し長めに開けていてくださいね」等と声掛けし協力を仰ぐと良いだろう。なお、ビューティボンドXtremeのボトルはワンタッチキャップ式で細ノズルがついており、直接1滴ずつディッシュに滴下できる。頻繁に開閉しても雑菌混入しにくい設計だが、使用後は速やかにキャップを閉め、ボトル先端を清潔に保つのは言うまでもない。

4. 余剰セメント除去のタイミング

前述したように、「半硬化で除去」が基本である。焦って早すぎる段階で触るとセメントが糸を引いてかえって汚くなるし、逆に放置しすぎると硬化して取れなくなる。歯科医師はタイマーを活用して所要時間を測り、自分なりのベストタイミングを体で覚えておくと良い。光照射を使う場合は本硬化させない程度に短く当て、各部1〜2秒ずつで一周照射するのが目安だ。仮硬化したセメントは指やピンセットで引っ張らず、探針で境目をなぞるようにするとプチュっと取れる。フロスを使って隣接面の除去も忘れずに行いたい(フロスは一旦噛み切って引き抜くと、クラウンが動くリスクなく除去できる)。万一硬化残留した部分があっても、レントゲンで後から確認して除去できるので、無理に力を入れず一旦終了し、術後チェックをルーチン化すると安全だ。

5. 患者への説明と術後指導

接着性レジンセメントは術後すぐ高い強度を発揮するとはいえ、完全硬化まで数分〜十数分は要する。患者には「本日装着した歯は、1時間程度は硬いものを噛まないようにしてください」と伝えておくと安心だ。特に奥歯クラウンの場合、直後に硬いせんべいなどを噛まれると辺縁部のセメントが圧力で壊れる可能性もゼロではない。また、「今回の歯はレジン系の接着剤で強力につけています。外れにくくするための処置ですが、万一何かあれば早めに来院してください」と補足しておくと、患者の安心感も高まるはずだ。説明時には専門用語を避けつつ、「より長持ちさせるために特別な接着剤を使っています」などと伝えれば、自費症例なら付加価値のアピールにもなるだろう。ただし薬機法の観点から効果の保証や絶対的表現は禁物である。「絶対外れません」ではなく「あくまで外れにくくするための最善策を取っています」といった柔らかい言い回しで信頼を得たい。

6. 在庫管理と期限管理

レジセムEXは常温保存可能とはいえ、高温多湿は避ける必要がある。直射日光の当たらない戸棚に保管し、真夏で室温が上がる診療室では冷暗所に移すなど温度管理には気を配りたい。使用期限は箱やシリンジに明記されているので、カルテや院内ソフトでロット番号とともに記録し、期限切れ前に使い切るよう計画的に症例を充てるのも一案だ。また、混和チップやディスポブラシなど付属品も切らさないよう在庫を確認しておく。特にチップが不足すると使えないので、ペースト残量とチップ数のバランスには注意が必要だ。必要ならディーラーから追加チップを早めに取り寄せること。さらに、ボンディング材の残量も見落とされがちだ。ワンボトルは便利だが残量が見えにくい場合もあるので、定期的に振って量を確認し、無くなる前に次を用意しておく。消耗品管理の徹底も、材料を使いこなす上での重要なポイントである。

以上の諸点を踏まえ、レジセムEXを「使い倒す」つもりで日々の診療に臨めば、やがて手放せない戦力になってくれるだろう。最初は注意深く取り扱い、慣れてきたらスピードアップや応用テクニックに挑戦する。そうして得られた経験値が、医院全体の接着治療レベルを底上げすることにつながる。

適応症と適さないケース

どんな材料にも得意不得意がある。レジセムEXが力を発揮するケースと、逆に使用を控える方が良いケースを整理しておこう。

レジセムEXが真価を発揮する適応症

審美修復全般

オールセラミックスクラウンやラミネートべニア、セラミックインレー/アンレーなど、審美性が要求される補綴には第一選択となる。高い透明性や長期の色調安定性により、補綴物の美点を損なうことなく装着できるためだ。特にラミネートべニアは接着力が命であり、レジセムEXの確実な接着はべニアの長期残存率向上に寄与する可能性がある。

低保持力の支台歯症例

支台歯形成が十分に取れない短小歯や、テーパーが大きく物理的な保持力が低いケースでは、接着力頼みの維持が必要になる。レジセムEXの強固な歯質接着力は、こうしたケースで補綴物脱離を防ぐ鍵となる可能性がある。保険診療でよくある小臼歯部CAD/CAM冠なども、接着力を期待してレジンセメントを使う方針であれば本製品は有力候補だ。逆にグラスアイオノマー系セメントでは脱離リスクが高い症例でも、レジンセメントなら安心感が得られる。

ファイバーポスト・レジンコアの接着

根管内に装着するファイバーポストのようなレジンポストの接着にも適している。デュアルキュア型なので根管深部でも硬化し、象牙質とポスト双方に強く接着する。金属ポストの場合も、サンドブラストとボンディング材処理で密着性を上げられるため、緩み防止に役立つ。なお、レジンコア築造時のコア材料として本製品自体を用いることは推奨されない(あくまで接着用途である)が、コア用レジンとの接続面にも応用できる要素技術が詰まっている。

接着ブリッジ(アドヒージョンブリッジ)

歯を削る量を極力抑えたい症例で採用する接着性ブリッジ(例:片側支台のロングスパンブリッジやファイバー強化ブリッジ)にも、強度確保のためレジンセメントは欠かせない。レジセムEXなら金属やジルコニアの翼にも確実に接着でき、接着ブリッジの成功率向上に貢献できる可能性がある。特に近年増えている繊維強化型の仮義歯的ブリッジでは、支台歯へのダメージ軽減と接着性との両立が求められ、本製品のような接着能力が治療コンセプトを支えている。

使用を控えた方が良い、または慎重に検討すべきケース

極度に出血や湿潤のコントロールが困難な症例

レジンセメント接着では、血液・唾液による汚染は命取りとなる。歯肉縁下深くにマージンがあるケースで出血が止まらないような場合、無理にレジセムEXで装着するよりも、一旦歯肉圧排や治癒を待ってから再度トライするか、あるいは接着に依存しないセメント(リン酸亜鉛セメントなど)で仮着的に対応する方が良いこともある。グラスアイオノマー系セメントは多少の湿潤下でも硬化するが、レジン系は疎水性で水分に弱いためである。どうしても湿潤環境で即時装着が必要な場合は、接着は期待せず「埋めるだけ」のセメントを選ぶ判断も経営的には重要だ(後日トラブルになるよりは、その場は仮対応と割り切る柔軟さも必要という意味で)。

将来的に補綴物の除去が予想される症例

インプラント上部構造のように、将来メンテナンスのために外す可能性が高い補綴は、わざと弱いセメントで装着することが多い。レジセムEXのような強力な接着性レジンで装着してしまうと、後で除去する際に破壊的手技(切削撤去)が必要になる恐れがある。例えば、インプラントのテンポラリークラウンやスクリュー固定式のアバットメントとクラウンを一体化する際など、意図的に外す前提のケースでは本製品は不向きと言える。用途に応じて、仮着用セメントや弱いリン酸亜鉛セメントを使い分ける判断が必要だ。

極端に適合不良な補綴物の装着

セメントは魔法の接着剤ではあるが、物理的限界を超えたギャップを埋めることはできない。もし補綴物の適合が悪く、セメントスペースが非常に厚くなるようなケースでは、接着よりも機械的保持に頼らざるを得ない。レジンセメントは厚みが増すと収縮や気泡の影響で力学的強度が低下するため、明らかな適合不良の場合は補綴物の再製作を検討すべきである。経営の視点でも、不適合なまま出して後々やり直すリスクより、先に作り直してしまう方が結果的に安くつく。レジセムEXを使えば何とかなるかも、と無理をせず、適材適所で判断したい。

禁忌・アレルギー

これは本製品に限らないが、レジン系材料に対するアレルギー(モノマー過敏症)の既往が患者にある場合は使用を避ける。成分中にはアクリレート系モノマーが含まれるため、稀に粘膜刺激や接触皮膚炎を起こす可能性がある。同様に、歯髄直接覆髄部位への使用も望ましくない(封鎖性が高いためむしろ痛みは出にくい可能性もあるが、刺激性モノマーが露髄面に触れること自体がリスクとなり得る)。こうした場合は、予め硬質レジンによる裏層や水酸化カルシウムライナーで隔壁を作った上で、本製品を使うようにする。なお、妊娠中の患者などへの影響は一般的な範囲で問題ないと考えられるが、過敏な方には術後によくうがいを促すなどフォローすると安心だ。

以上、適応・不適応を整理したが、要は「接着力を活かすべき場面では積極的に使い、そうでない場面では無理に使わない」というメリハリが大切になる。レジセムEXは万能だが、あえて不要な症例に使うことが経営的にも患者ためにもならない場合もある。適材適所の判断こそ、臨床家の腕の見せ所だろう。

どんな医院に向いているか?

レジセムEXの価値は医院ごとに異なる。ここでは、歯科医院の診療スタイルや経営方針によって、本製品の導入が「向いているケース」「もう少し様子を見ても良いケース」を検討してみよう。

保険診療中心で効率重視の医院の場合

日々多数の患者をさばき、保険診療の範囲内で効率よく収益を上げるスタイルの医院では、コストとオペレーション効率が意思決定の鍵となる。このような医院では、レジセムEXの導入は慎重な検討が必要かもしれない。なぜなら、保険診療で一般的な金属冠やインレーでは、従来からグラスアイオノマーセメントでも一定の臨床成績が得られてきたためだ。材料費が低廉で操作も単純な手技を、あえて高価なレジンセメントに置き換えることは、コストアップとスタッフ教育コスト増につながる。一方で、最近はCAD/CAM冠(ハイブリッドレジン冠)が保険導入され、これにはレジンセメント使用が推奨される傾向がある。また、高齢者の残根に近い支台歯など保持が難しいケースでは、接着力の差が予後を左右する。効率重視型の医院でも、特定の場面ではレジセムEXを使い分ける価値がある。例えば、小臼歯部CAD/CAM冠だけはレジセムEXで装着し脱離ゼロを目指す、二次カリエスが懸念されるハイリスク患者には接着性の高い材料でシールし再治療サイクルを伸ばす、等である。導入にあたっては、まず試験的に一部症例で使い、それにより再装着やクレーム対応に費やす時間が減るようなら本格導入、という段階的な見極めが良いだろう。幸い、レジセムEXは常温保存でスタンバイでき必要時にすぐ使えるため、冷蔵保管品のように「出しておいたけど結局使わず廃棄」という無駄も少ない。効率経営医院でも「いざという時の接着剤」として一本常備しておく価値は十分にある。

高付加価値の自費診療を重視する医院の場合

審美補綴や先進治療に力を入れ、1症例あたりの収益を高める戦略の医院では、レジセムEXは導入必須ともいえるアイテムだ。まず、審美性にこだわる患者層に対して、変色しにくいセメントで長期の美しさを保証できることは大きな訴求点である。例えばセラミックべニアやオールセラミッククラウンの症例写真を提示する際、「この歯は装着後5年経ってもマージンがこの通り綺麗です」と説明できれば、患者の安心感は格段に上がるだろう。さらに、自費診療では装着セメント代も治療費に十分転嫁できるため、コストを気にせず最良の材料を使える。技工士が精密に作った高額な補綴物を、最後の一手である合着で台無しにしないためにも、信頼できるレジンセメントを選ぶ意義は大きい。経営面でも、自費症例の高い満足度は医院の評判形成に直結し、リピーターや紹介増加による収益拡大が期待できる。もちろん、Panaviaや他社製の実績あるレジンセメントを既に使いこなしている場合は、無理に乗り換える必要はないかもしれない。しかしレジセムEXは国産メーカー松風の製品であり、国内技工物との親和性も高くサポート体制も整っている。冷蔵不要・プライマー1本化といった手技的メリットも捨てがたい。クオリティ最優先の医院にこそ、本製品はパートナーとして応えてくれるだろう。導入にあたっては、是非メーカーのデモ依頼やハンズオンセミナーを活用し、スタッフ全員で扱いをマスターしてから臨めば鬼に金棒である。

インプラント・口腔外科中心の医院の場合

インプラント補綴や口腔外科処置が中心で、クラウン・インレーといった一般補綴は最小限という医院では、レジセムEXの導入優先度は相対的に下がるかもしれない。なぜなら、インプラントの場合は前述のように強固すぎる接着はリスクとなる場面もあるからだ。例えば、インプラントの上部構造をセメント合着する場合、後日のスクリュー緩み対処などで外せなくなると困るため、通常は仮着用セメントなど弱めの材料が使われる。一方、外科処置系では接着セメントの出番自体が少ない。しかし、口腔外科中心でも部分的に補綴や修復を扱うのであれば導入メリットはある。例えば抜歯即時インプラントの暫間補綴にファイバー強化ブリッジを使う際や、難症例でブリッジ形態の補綴物を接着で維持するようなケースでは、本製品の接着力が治療成功を支える。また、昨今はインプラントと補綴を総合的に行う歯科医院も多く、そうした場合は審美補綴も少なくないはずだ。もし自院が「インプラント中心だがセラミック修復も提供する」という方針なら、やはり質の高いレジンセメントを備えておくべきだろう。逆に、補綴は全て専門の補綴科医に委託・紹介しているようなケースでは、自院で在庫を持たず必要時のみ取り寄せる判断もある。経営戦略として、どの領域にリソースを割くかによって、材料投資の優先順位は変わってくる。インプラント外科専門型医院の場合、優先度は中程度と言えそうだ。補綴にも力を入れて包括的歯科医療を目指すなら導入、外科特化で補綴は他院連携というなら無理に持たない——そのような割り切りも一つの判断基準となる。

以上、医院タイプ別に見てきたが、総じて言えるのは「レジセムEXは攻めの材料」であるということだ。治療の質や患者満足度で他院との差別化を図りたい医院にとっては強力な武器となるし、逆に現状維持で十分という医院には宝の持ち腐れになるかもしれない。自院の理念と照らし合わせ、導入判断の参考にしていただきたい。

よくある質問(FAQ)

Q1. レジセムEXはボンディング材なしでも使えますか?自己接着セメントとの違いは何ですか?

A1. レジセムEXは必ず付属のビューティボンドXtremeなどのボンディング材と併用する必要がある。自己接着性レジンセメント(例: 松風のビューティセムSAなど)はプライマー塗布を省略できるが、その分接着力が劣る傾向がある。レジセムEXは手間は一段階増えるものの、ボンディング材を使うことでより強力で安定した接着を実現している。したがって、「確実に外れないようにしたい症例向け」と位置付けると良いだろう。ボンディング材を塗布せずに使用すると、充分な接着力が得られず脱離のリスクが高まるため、これはルール違反となる。必ず所定の手順を守って使用していただきたい。

Q2. 本当に色が変わりにくいのでしょうか?長期予後のエビデンスはありますか?

A2. 松風の資料によれば、レジセムEXは経時的な変色・着色が起こりにくいことが確認されている。具体的な試験データとしては、従来品のレジセムと比較して長期の水中浸漬後の色度変化が小さいなどの結果が報告されている。もっとも、製品上市から年数が浅いため、口腔内での5年・10年といった実臨床データは蓄積中という段階だ。ただ、前身のレジセムは十数年にわたり使用され大きな問題は出ていなかったこと、また他社類似セメントでも長期に審美性良好な報告があることから、レジセムEXも適切な使用で少なくとも数年以上は装着時の色調を維持できると考えられる。実際、筆者自身もレジンセメントの変色で悩んだ経験があるが、本製品使用後は1年程度では全く変化を感じない。経年的な症例フォローを今後も注視したいが、現時点で懸念となるエビデンスはなく、むしろ色調安定性に優れると評価できる。

Q3. ビューティボンドXtremeは他の用途にも使えますか?今使っているボンドとの違いは?

A3. ビューティボンドXtremeはレジセムEX用のプライマーという位置付けだが、実際には光重合型のユニバーサルボンディング材であり、コンポジットレジン充填や各種修復物のレジン修理(口腔内修理)など幅広い用途に使用できる。例えば、直接充填用のボンディング剤として現在他社製品を使っている場合、BeautyBond Xtremeに切り替えることで院内のボンディング材を一本化できる可能性がある。その特徴として、松風独自の改良で常温保存できる点や、操作性を上げる細ノズルボトル採用(必要量をピンポイントで滴下しやすい)などが挙げられる。接着性能自体も、エナメル質・象牙質への高い接着強さと、金属・セラミックへの化学結合性(MDP系モノマー配合)を兼ね備えている。ただし、現在使用中のボンディング材が例えばシングルボンディングで長年実績のあるものなら、あえて変える必要はないかもしれない。BeautyBond Xtremeは「補綴装置にも使える接着材」として導入し、状況に応じて直接修復にも転用する、という形で活用すると良いだろう。

Q4. 補綴物内面処理はすべてボンディング材だけで本当に大丈夫ですか?シランカップリング剤や金属プライマーは要りませんか?

A4. メーカー推奨では、補綴物ごとの専用プライマーは不要となっている。ビューティボンドXtreme自体に、金属酸化物と反応するリン酸エステルや、シリカ系セラミックスと結合する成分が含まれているためである。ただし、あくまで「1本で対応可能」ということであって、前処理そのものは省略してよいわけではない点に注意が必要だ。たとえば、陶材系にはシラン処理の代わりとしてボンディング材を塗布するが、その前のフッ酸エッチングは推奨されている。同様に、ジルコニアもボンディング材だけ塗るよりサンドブラスト併用の方が接着力は向上する。従来との比較で言えば、「別売りのシラン剤や金属プライマーを買い足す必要はなくなったが、研磨・エッチングといった物理処理工程は今まで通り適切に行う」というイメージだ。もし他社の金属プライマーやシランカップリング剤を既にお持ちなら、それらを併用しても害はない(追加の処理を施すことで極端に悪影響が出ることは考えにくい)が、基本的にはBeautyBond Xtreme単独で十分な設計になっている。要は、「機械的処理+レジセムEXシステムによる化学的処理」の両輪で完結するよう作られているので、安心して一連の手順に従っていただきたい。

Q5. レジセムEXと従来のレジセムで操作手順がかなり違うと聞きました。移行する際の注意点はありますか?

A5. 旧レジセムから使い慣れている先生にとって、レジセムEXではプライマー周りの手順が大きく簡略化されているため、最初はむしろ戸惑うかもしれない。従来はA/Bプライマーを混合して歯面処理する必要があったが、EXではそれがBeautyBond Xtreme1本に置き換わった。また、旧製品は要冷蔵だったものが常温保管OKになった点も現場では有難い変更だ。移行時の注意としては、旧プライマー類との混在に注意することが挙げられる。古い在庫が残っている場合、スタッフが誤って旧レジセム用プライマーを使ってしまうと期待した接着強度が得られない恐れがある。瓶のラベルや保管場所を整理し、EX導入後は旧資材は速やかに処分・回収する方が安全だ。また、旧タイプではペーストを自分で練和する手動ミックス版も存在したが、EXは全てオートミックスシリンジ型である。ハンドミックスに慣れている場合は、最初の数回はシリンジの押し出し量やタイミングに注意し、無駄なく使える感覚を掴むと良い。総じて、EXへの移行は手順がシンプルになる分、大きな問題なくスムーズに行えるはずだ。唯一、旧製品のファンで冷蔵庫から取り出す儀式が好きだった先生には物足りないくらいである。