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BSAサクライの歯科用セメント「スーパーセム」の評判や使い方は?歯科医師向けに解説

BSAサクライの歯科用セメント「スーパーセム」の評判や使い方は?歯科医師向けに解説

最終更新日

クラウンの合着後、除去しきれなかったセメント片が歯肉炎を招いたり、数か月後にCAD/CAM冠が脱離して再装着に追われたりした経験はないだろうか。合着用セメント選びは臨床成績だけでなく診療効率やコストにも直結するため、開業医にとって頭の痛い問題である。保険診療でCAD/CAM冠が一般化した昨今、強固な接着力と操作の簡便さを両立する製品へのニーズが高まっている。そこで注目されているのが、BSAサクライの歯科用デュアルキュア自己接着性レジンセメント「スーパーセム」である。

本稿ではこのスーパーセムの特徴を臨床と経営の両面から客観的に分析し、読者が自身の診療スタイルに照らして導入価値を判断できるよう解説する。

製品の概要

スーパーセムは、株式会社ビー・エス・エー・サクライ(BSAサクライ)が販売する歯科用接着性レジンセメントである。正式には「デュアルキュア型自己接着性レジンセメント スーパーセム」と称し、その名の通り光重合と自己重合の両方で硬化する二重硬化型で、自己接着性を有するためエッチングやボンディング操作を省略できる。間接修復物の合着を主用途とし、エナメル質・象牙質からセラミックス、ハイブリッドレジン、ジルコニア、金属(ゴールド、チタン、コバルトクロム)に至るまであらゆる補綴材料に対応する接着力を備える。

特に近年保険適用が拡大したCAD/CAM冠や高強度セラミックス(ジルコニアなど)の装着用途で推奨されている。色調はA1(トランスルーセント:高い透明度)、A2(ユニバーサル:象牙質類似の標準色)、A3(オペーク:高遮蔽性の不透明色)の3種類で、審美症例にも対応可能である。製品形態は自動練和(オートミキシング)タイプの二筒シリンジで、内容量9gのシリンジ1本に使い捨てミキシングチップと口腔内用細ノズルチップが各10本付属する。なお本製品は医療機器クラス分類上は管理医療機器(クラスII)に該当し、認証番号は229AKBZX00082000である。日本の歯科医療市場には2018年前後に登場し、保険収載もされている(後述)ことから、現在まで数年間にわたり臨床で使用されてきた実績がある。

主要スペックと臨床的意義

スーパーセムのスペックを、臨床現場で意味のある指標に即して見てみよう。

接着性能

自己接着性レジンセメントである本製品は、リン酸エステル系モノマーなどの配合により象牙質やエナメル質への化学的接着性を発揮する。同時に各種補綴物表面にも高い付着力を示すよう設計されており、メーカーはサンドブラスト処理を施した試料で多様な材料との強力な接着を確認したと謳っている。ジルコニアや金属など従来グラスアイオノマー系では保持力不足になりがちな素材にも安定した接着力を示す点は、脱離リスク低減という臨床アウトカムに直結するメリットである。ただし、エナメル質接着力に関してはセルフエッチングタイプゆえに従来の多ステップ接着システム(エッチング+ボンディング)より低下しうるため、審美領域のベニアなど極限まで高い接着強度が要求される症例では後述のようにプライマー併用も検討すべきである。

物性(強度・耐久性)

硬化後のレジンセメントとしての機械的強度も高い水準にある。公表されている物性値では、曲げ強度約93MPa、圧縮強度約289MPaと良好で、長期の機械的耐久性が期待できる。これらの値は他社の主要な接着性レジンセメントと同等クラスであり、咬合圧に晒される臼歯部のクラウンやブリッジにも十分な耐力を備えていると考えられる。また被膜厚さは15µm程度と薄く、セメントラインが厚すぎて補綴物の適合を阻害するリスクが低い。薄膜であることは辺縁適合の確保や咬合調整の軽減に寄与し、ひいては二次う蝕や補綴物破損のリスク低減につながる。さらに溶解度は0.8µg/mm³と低値で、口腔内で長期間経過してもセメントが溶け出して脱離の原因になりにくいことを示唆する。グラスアイオノマー系セメントに比べ吸水・溶解が少ないレジン系の強みを備えており、辺縁封鎖性と耐久性の観点で有利である。

硬化モードと作業時間

デュアルキュア(Dual Cure)型であるため、光の当たりにくい部位でも化学重合のみで約4分で硬化が完了する。一方、十分な光エネルギーを照射できる環境では20秒程度の光照射で完全硬化させることも可能で、即時に強度発現させられる。操作時間(ワーキングタイム)は口腔内の温度環境下でおおむね1〜2分程度確保されており、単冠の装着であれば慌てずにポジショニングできるだけの余裕はある。余剰セメントは自己重合のみの場合、約2分後にはゲル状になりはじめ除去しやすくなる設計である。加えて本製品は高出力光照射によるタックキュア(仮硬化)に対応しており、例えば出力2500mW級のLED光重合器なら約1秒の照射で余剰セメントを一時硬化させて一塊で除去可能である。1秒という短時間でも十分に表層が硬化し、はみ出したレジンをゴム状に引き剥がせるため、スピーディかつ確実な残余セメント除去が行える。ただし照射時間が長すぎると余剰分まで完全硬化してしまい除去困難となるため注意が必要である(特に2500mWの高出力モードでは1秒を超えないよう推奨されている。標準的な1000〜1500mW程度の光重合器では約5秒の照射が目安)。適切なタックキュアを行えばチェアタイム短縮につながり、患者の次工程への移行も円滑になる。

X線造影性とフッ素徐放

臨床後方支援的なスペックとして、本製品はX線不透過性(高いX線造影性)を備える。レントゲン撮影時に硬化後のセメントが白く写るため、補綴物辺縁部に残存したセメント片の有無を確認しやすい。とりわけインプラント周囲など、見逃したセメント残渣が生物学的合併症を引き起こすリスクのある症例では、この造影性は患者安全に寄与するポイントである。またフッ素含有レジンでもあり、硬化後も長期にわたり微量のフッ素を徐放する。グラスアイオノマー系ほど多量ではないにせよ、辺縁部のう蝕抑制効果が期待できることから、二次カリエスのリスク低減にプラスに働く可能性がある。もっともフッ素徐放性はあくまで付加機能であり、フッ化物予防効果を過度に謳うことはできないが、少なくともグラスアイオノマーセメントと比較して劣る点ではない。

互換性・使用に際しての留意点

データ互換性などの概念は機器ではないため当てはまらないが、本製品を導入・運用する上で押さえておくべきポイントを整理する。

まず使用手順だが、スーパーセムはオートミキシング型なので、使用時にシリンジ先端に付属のミキシングチップを装着し、ダブルシリンジを押すと先端から自動で混和されたペーストが押出される。市販の他社製自動練和用ガン(1:1用ディスペンサー)にセットして押し出すことも可能である。少量の練和であればディスペンサーを使わず親指で直接プランジャーを押してもよいが、粘性があるためディスペンサーの使用が望ましい。チップ内で主剤・触媒が混ざり合うため手動練和は不要であり、練和不備による硬化不良のリスクが低減するのは自動練和型の強みである。一方で、チップ内にどうしてもデッドスペースのムダが生じる(未使用分が硬化して廃棄される)ため、手動練和型より材料ロスが多い点は留意したい。もっとも後述するように材料単価自体が低価格設定なので、多少のロスは許容範囲だろう。使用後はチップを付けたまま廃棄せずシリンジ先端に残しておくと、チップ内部で硬化した樹脂が栓となり内容物の保存安定性が保てる。再使用時に硬化したチップを新しいものと交換すれば再び使用可能である。

前処理・プライマーの併用可否については、スーパーセムは自己接着性を謳っているため基本的に追加のプライマーやボンディング材は不要である。歯面処理は、支台歯を十分乾燥・隔湿した上で(過度乾燥は避ける)そのまま本製品を適用できる。削合面にスミヤー層が残っていても本製品に含まれる酸性モノマーが象牙質に浸透・反応して接着層を形成する設計である。ただし、支台歯のエナメル質面が広い場合や接着面積が小さい場合など、接着力を最大化したい状況ではあらかじめエナメル質をエッチングしておき、その後に本製品を塗布するといった工夫も選択肢となる。

また補綴物側の前処理に関しても、メーカーは「症例に応じて現在お使いのボンディング材・プライマーをそのまま併用できる」としており、必要に応じた処理を推奨している。具体的には、金属やジルコニアならサンドブラスト処理(アルミナ粒子による表面粗造化)が推奨される。ガラスを含むセラミック(例:リチウムシリケート系)にはシランカップリング処理を施すとより安心である。スーパーセム単体でもそれなりの付着力は示すが、こうした追加処理で接着界面を強化することは再治療リスクの低減につながるため、臨床的にはぜひ行いたい。なお、本製品自体に接着性を高めるリン酸エステルモノマーが含有されている可能性が高く(成分の詳細は添付文書参照)、例えばジルコニアに対しても単体である程度の化学結合が期待できるが、筆者としては専用プライマー(MDP含有プライマー等)を併用することでより確実な長期安定性が得られると考える。

保管・管理については、直射日光を避け、冷暗所(高温多湿を避けた室温)で保管するのが望ましい。樹脂材料であるため高温下では劣化や変質が起こり得る。また光重合成分が含まれるため、保管時にシリンジ先端の遮光キャップは必ず装着し、蛍光灯等の光が直接当たらないようにする。未開封時の使用期限はおおむね製造後2年程度と考えられる(実際の期限は容器に表示)。開封後も適切に保管すれば表示期限までは使用可能だが、経時で粘度上昇や硬化不良のリスクもわずかに増すため、長期間放置したシリンジは新しいものに更新するのが無難である。

経営インパクト(コストとROI)

開業医にとって、新たな材料を導入する際には経営面での採算も見逃せない。スーパーセムはそのコストパフォーマンスをセールスポイントの一つとしている製品であり、実際価格設定は良心的だ。医院仕入れ価格は9gシリンジ1本あたり7,000円(税別)と公表されている。大手他社の同種製品と比べても割安であり、例えば3Mやクラレなどの接着性レジンセメントでは1本1万円以上するものも少なくない中で、1本7千円という価格は魅力的である。単価だけでなく容量も9gと比較的多めであるため、一症例あたりのコストはさらに低く抑えられる。仮にクラウン1本の装着に使うセメント量を0.3g程度(ミキシングチップ内のロス含む)とすると、1シリンジで約30本分の補綴物を装着できる計算になる。その場合、1症例あたり約233円(7000円÷30)という材料費となり、これは昨今の歯科材料の中でもかなり低い水準である。実際には症例によって使用量も変動するが、それでも数百円以内に収まるのは間違いない。しかも本製品は後述のように国の保険償還ルールにも適合した材料であり、保険診療で使用する場合はそのコストの大部分または全てが診療報酬で回収可能だ。

具体的には、2018年の診療報酬改定でCAD/CAM冠の接着に用いる自動練和レジンセメントが38点に引き上げられた。1点=10円換算で380円の算定となり、スーパーセムの1本あたりコストとほぼ同等かそれ以上の償還が得られる計算である。旧来は17点(170円程度)しか認められていなかったため、材料代を医院が自腹でかぶるケースも多かったが、現在は十分採算が合う設定と言える。この変更により「手動練和の安価なセメントを使ってコストを切り詰めるより、自動練和に切り替えても経済的に損しなくなった」と感じている開業医も多い。保険診療においてスーパーセムを使うことは、少なくとも材料費の面でクリニックの収支を圧迫しない。むしろ効率化による時間短縮が人件費削減や増患に寄与する分、トータルの利益率は向上する可能性がある。

自費診療においてはどうだろうか。自由診療の高価なオールセラミッククラウン等では、セメント代数百円は全体費用に占める割合が微々たるものである。しかし裏を返せば、わずかなコストで補綴物の長期安定性を確保できる保険のようなものとも言えよう。仮に接着不良でやり直しになれば、患者の信頼を損ない再製作コストも医院負担になる。スーパーセムのように適合の良い接着システムを使っておけば脱離や二次う蝕のリスクを減らせるため、将来的な無償再治療に伴う損失リスクを低減できる。これは一種のリスクヘッジ投資であり、ROI(投資対効果)の観点では決して小さくない。

また本製品は一度に多量の混和が不要で、使う分だけ適時に練和できるため材料廃棄ロスも少なく在庫管理がしやすい。さらに先述のように操作が簡便でチェアタイム短縮効果も期待できる。例えば従来エッチング+ボンディング+デュアルレジンセメントといった工程を踏んでいたケースであれば、スーパーセムならプライマー工程を省略できる分だけ1症例あたり数分の短縮になる。1日に複数の補綴装着がある場合、その積み重ねで1日数十分の時間創出となり、結果的に1週間で数人の新患を増やす余裕に充てることも可能だ。このように診療効率化が収益増加に転じる可能性も含め、スーパーセム導入の経営インパクトは決して小さくない。

最後に、歯科医療控除(保険適用)との関連も触れておく。本製品は厚生労働省の材料リストに収載されており、材料区分「歯科用合着・接着材料I(レジン系・自動練和型)」としてコードが付与されている。実際、保険請求上も「スーパーセム(9g)A1トランスルーセント」等各色で品名登録がある。これは材料として一定の評価を得ている証左であり、保険診療で安心して使用できることを意味する(保険適用症例であっても禁止材料ではないということ)。保険導入期には新製品トライアルセット(9g×2本で9,980円)が提供された経緯もあり、メーカー側も収益性の高さを前面にプロモーションしている様子がうかがえる。総じて、スーパーセムは「低コスト・低リスクで使い始められる投資効果の高い製品」と言えるだろう。

使いこなしのポイント

スーパーセムを効果的に活用するための臨床上のコツや、導入初期に留意すべき点をまとめる。

1. 事前準備と練和のコツ

使用直前にシリンジを室温に戻しておくと良い。冷蔵保存している場合は温度が低いと粘度が上がり押し出しに力が要るためだ。ミキシングチップを装着したら、最初の一押しで数ミリ程度のペーストを空押しし、チップ内で十分主剤・硬化剤が混合されていることを確認する。これは最初に押し出される部分は混ざりムラがある可能性があるためで、ワンプッシュ分捨てることで安定した混和比のセメントが得られる。その後、補綴物内面または支台歯にペーストを塗布するが、一度に大量に出そうとせずトリガーをゆっくり引いて細いビーズ状に連続圧出すると気泡の混入が少ない。チップは細長いノズル形状なので、インレーの小窩洞内やポスト孔内にも直接先端を届けやすい。根管内にポストを装着する場合は、ポストにセメントを塗布するよりチップ先端を根管内の奥まで入れて引き上げながら充填する方法が確実である(気泡を巻き込みにくく、ポストを差し込んだ際の圧力で均一に行き渡る)。なお、粘性は比較的低めでさらっとしたペーストであるため、補綴物装着前に余裕があれば自家重合で1分程度放置し、粘度がわずかに上がってからセットすると垂れを防ぎやすい。

2. 補綴物のセットと余剰セメント除去

ペースト塗布後は出来るだけ速やかに補綴物をセットし、適正な圧接を行う。作業時間は常温下で約2分あるが、口腔内では温度や湿度の影響で硬化が早まる可能性があるため、1分程度を目安に位置決めを完了したい。確実に位置が決まったら即座に動かないよう指圧またはバイトさせて保持し、すぐに余剰セメントの除去に移る。先述のように強光下では1秒照射でタック硬化するので、例えば口腔鏡で反射させながら辺縁部に一瞬ライトを当ててから探針等でセメントをそぎ取るとよい。タック時は照射しすぎないこと、特に高出力モードではあっという間に完全硬化する恐れがあるので注意する。十分注意できない場合や自信がない場合、照射せず化学重合のみで約2分待つ方法でも良い。ペーストがゴム硬化状態になった時点でフロスやエキスプローラーを使って丁寧に除去する。インプラント周囲のように深部まで入り込んだ余剰セメントはレントゲンでチェックし、必要ならデンタルフロスに結び目を作って歯肉縁下を掃引すると取り残しが減る。最終硬化は4分を要するため、除去後もしばらく圧接を続け、光照射も可能な部位は20秒以上しっかり照射して重合を完了させる。特に複数ユニット橋の場合は各支台ごとに確実に照射を行う。硬化が不十分だと接着不良だけでなく、残留モノマーによる術後疼痛の原因にもなりかねないので留意する。

3. 院内教育とオペフロー

スーパーセム自体の操作はシンプルだが、スタッフと役割分担を決めスムーズな流れを作ると効率的である。例えば歯科衛生士やアシスタントが補綴物の試適後に直ちにセメントを準備し、歯科医師が支台歯を最終清掃・乾燥している間にチップ装着・ペースト初押しまで済ませておく、といった連携が望ましい。セメント塗布は基本的に術者自身が行うべきだが、条件によってはスタッフが補綴物内面にセメントを入れて手渡すことも考えられる(その際は気泡混入に注意)。重要なのは硬化が始まる前に定位置まで補綴物を収めることなので、リハーサルを含めた段取りと声かけを練習しておくと良い。また、本製品の扱いに慣れるまではタイマーを用意しておき、練和開始から2分を計測してみるのも有用だ。時間経過の感覚を掴むことで、焦り過ぎず硬化に遅れもせず適切に対処できるようになる。

4. 患者説明のポイント

レジンセメントは硬化後非常に強固で外れにくい半面、補綴物撤去が困難になることがある。そのため患者には「基本的に半永久的に外れないよう接着します」と説明しつつ、「万一外そうとするときは削り取る必要がある」旨を伝えておくとよい。また装着直後はまだ完全強度に達していないため、1~2時間程度は硬い物を噛まないよう指示する。スーパーセムは光でも固まるので即時硬化だが、化学反応も進行中であるためだ。さらに「このセメントには少量ですがフッ素が含まれ、歯を長持ちさせる助けになります」と説明すれば患者の安心感も高まる。ただし効果を保証する言い方は避け、あくまで補助的なものであると付言する。

適応症と適さないケース

スーパーセムの適応症は広範で、基本的にはあらゆる間接補綴物の合着に利用できる。具体的には、メタルインレー・アンレー、レジンインレー、クラウン(メタルクラウン・陶材焼付鋳造冠・オールセラミッククラウン・CAD/CAM冠)、ブリッジ、ラミネートベニア、ファイバーポストの接着、さらにはアバットメント(インプラント上部構造)の装着にも使用可能である。自己接着性の利点から、グラスアイオノマーセメントの代替として支台築造コアの築成時に用いる例も考えられる(実際、ポストと一体でレジンセメントをコア築造に活用する歯科医師もいる)。このように汎用性は高いが、不得意なケースも理解しておくべきだ。

まず審美修復における適応限界がある。例えばラミネートベニアの装着では、極薄いポーセレンを透過するセメント色が審美結果に影響するため、専用の色調バリエーション豊富なベニア用レジンセメントが好まれる。スーパーセムは3色展開とはいえA系統のみで透明度も汎用レベルのため、繊細なシェードコントロールが求められる前歯審美には向かない。またベニア装着ではエナメル質面への強固な接着が成功の鍵となるが、セルフアドヒーシブ型の本製品はエナメル質に対するエッチング効果が限定的である。そのため筆者としては、ベニアやごく浅いインレー接着にはエッチング+ボンディング併用型のレジンセメント(例えばクラレ社のパナビアV5など)を選択する。逆に、生活歯に対するクラウンや深いインレーなど、象牙質主体の接着ではスーパーセムの簡便さが勝り、十分実用的である。

次に強度的観点で不向きなケース。長大なブリッジのように補綴物自体が大きな荷重を受ける場合、最終的な維持力確保には機械的嵌合だけでなく接着界面の強さも重要になる。スーパーセムでも通常の橋義歯程度なら問題なく支えられるが、支台歯の形態が極端に短小であったり、咬合力が非常に強い患者で補綴物脱離歴があるようなケースでは、より接着力の高いシステム(エッチング併用型や4-META系メタルセメント等)を検討してもよい。また仮着用途には本製品は不向きである。ごく短期間で外す前提のプロビジョナルクラウンや、インプラント上部構造で後日の撤去を視野に入れている場合は、レジンセメントの強固さがデメリットになる。そうした場合は敢えてグラスアイオノマー系や仮着用レジンセメントを使うほうが安全だ。例えばインプラントの一時的な補綴では、スーパーセムを使うと除去時に補綴物を破壊しないと外せないことも起こり得る。

他には重度の出血や湿潤をコントロールできないケースにも注意。レジンセメントは基本的に親水性を一定持つとはいえ、過剰な水分や出血がある環境では接着阻害が起こる。ラバーダムや確実な排唾管操作で乾燥視野を確保できない場合、無理にレジン系を使わず酸化亜鉛ユージノール系セメントなどに切り替える判断も必要である(特に生活歯で歯髄保護が優先されるケースなど)。なお本製品の禁忌としては、製品添付文書上は一般的なレジン材料と同様に「成分(メタクリレートレジン)に対するアレルギーがある患者」には使用不可である。また直接覆髄には用いないことや、誤飲・誤嚥防止に十分注意することなどが挙げられていると思われる(詳細は添付文書参照)。これらは常識的な事項だが、スタッフともども周知しておきたい。

総じて、スーパーセムは日常臨床のほとんどの場面で主力として使える汎用セメントであり、不得意なのは一部の審美ケースや特殊条件下での使用に限られる。

導入判断の指針(歯科医師タイプ別)

最後に、歯科医院の診療方針や重視する価値観ごとに、スーパーセム導入の是非や適性を検討してみよう。

保険診療メインで効率重視の先生の場合

日々多数の患者を回し、CAD/CAM冠などの保険補綴を数多く提供しているようなクリニックでは、スーパーセムはまさに本領を発揮する製品である。まずコスト面の安心感が大きい。前述の通り保険請求上、接着用レジンセメント代はほぼ償還されるため材料費負担を気にせず使える。また自動練和によりミキシングの手間が省け、スタッフ一人でも短時間で装着処置を完了できるため、チェア回転率の向上に直結する。実際、「ワンオペ(歯科医師1人で治療を完結)でこなすにはオートミックスの方が絶対に便利」という声もあり、効率化重視の現場ニーズに合致している。さらに、自己接着性で処置が簡便なためヒューマンエラーが減り、再装着の手戻りも減少するだろう。保険治療中心の先生にとってスーパーセムは収益性と作業効率を同時に高めるパートナーとなり得る。導入の優先度は高い。一方、唯一注意するとすれば、低コストゆえに過信は禁物という点だ。価格が安いからと粗雑に扱ったり、表面処理を省略しすぎると、結局補綴物脱離で時間とコストを浪費することになる。基本に忠実な手技とセットで使ってこそ意味がある点は念頭に置きたい。

高付加価値の自費診療を追求する先生の場合

自費中心で最先端の材料やテクニックを駆使している審美歯科・補綴専門の先生にとって、材料選択の基準は単に安いかどうかではないだろう。品質最優先の考え方からすると、たとえ数千円高くてもベストな性能のものを選びたいはずだ。その観点でスーパーセムを見ると、「高価な一流品に匹敵する性能を備えつつ価格は抑えめ」というポジションにある。接着強さや物性も他社製品と比べ遜色なく、むしろ汎用性の広さでは勝っている部分もある。

例えばオールセラミックスクラウン装着時、レジンセメントの候補はいくつもあるが、スーパーセムなら基本的にどの素材でもこれ1本で対処可能であり(まさにユニバーサルセメント)、材料ごとにセメントを使い分ける煩雑さがない。忙しい自費診療において在庫管理を簡素化できる点は見逃せない利点だ。また被膜厚が薄いので適合精度にこだわる症例でも安心感がある。余剰セメント除去もしやすいため、歯肉縁下マージンが多い高度なケースでも処置ストレスが少ない。以上より、質の高い診療を志向する先生にとってもスーパーセムは十分導入に値するクオリティを備えている。

ただし、あえて導入しない理由があるとすれば審美領域での色調管理かもしれない。先述のように本製品のシェードは限定的で、例えば漂白後のような明度の高い歯にはA1トランスルーセントでも僅かに色味が強い可能性がある。この点、シェード展開の豊富な審美専用セメントには敵わない。審美歯科の先生であれば、前歯部用に他社のスペシャルセメントを主に使い、臼歯部や難症例用にスーパーセムを併用する、といったツールの使い分けが現実的だろう。またエッチング併用型の方が安心できる症例では無理に自己接着型に頼らない判断も必要だ。要するに、自費診療派の先生にはスーパーセムは「万能でコスパの良いセメント」としてツールボックスに加える価値があるが、症例ごとに最適な手法を選択する眼は引き続き求められるということである。

外科・インプラント中心の先生の場合

口腔外科やインプラント治療を主軸とする先生の場合、補綴セメントに求める条件はまた少し異なる。インプラント上部構造の装着では、残留セメントによる周囲炎リスクに神経を使うし、将来的な補綴物の撤去(スクリューの再締結や修理のため)も視野に入れる必要がある。そうした観点でスーパーセムを評価すると、まずX線造影性が高い点はインプラント症例で有用である。レントゲンチェックにより見えない歯肉縁下のセメントも発見・除去しやすいのは安全管理上プラスだ。

またタック硬化で塊除去しやすいため、サブジンジバルでも一度に大部分を取り去ることができ、結果的に残留リスクが減る。即時荷重のプロビジョナルなどでは、レジンセメントの高初期強度によってしっかり固定できるという利点もあるだろう。一方で、撤去性が低いほど困る場面も確かにある。インプラント補綴でどうしても後日クラウンを外す可能性が高い場合、スーパーセムの強固さはデメリットとなり得る。無理に外そうとするとアバットメントごと破損する事故も起こりうるため、そうしたケースでは最初から仮着用セメントを選ぶべきだ。つまり、インプラント補綴においてスーパーセムを使うか否かは「一度付けたら基本外さない設計か」で判断すべきである。外科・インプラント中心の先生はその点の見極めに長けているだろうから、活用場面と回避場面を適切に選べば良い。なお外科処置メインで普段補綴の機会が少ない先生にとっても、スーパーセムは習熟しやすい簡便な操作系であることから、いざというとき確実な接着処置が行える安心材料となる。手技の煩雑さで戸惑う心配がない点は、大きなメリットと言える。

よくある質問(FAQ)

Q1. スーパーセムの接着強度は信頼できますか?他社のレジンセメントと比べて遜色ないでしょうか。
A1. はい、スーパーセムは主要他社製品と同等レベルの接着性能を示すと考えられています。公表データでは曲げ強さ約93MPaなど機械的強度は良好で、臨床的にもCAD/CAM冠やジルコニアへの高い接着が謳われています。自己接着性ゆえエナメル質への接着力は従来型より低い可能性がありますが、象牙質や各種補綴物材質への密着性は十分に信頼できる水準です。実際に自動練和レジンセメントの中では価格を含めた総合力が高いとの評価もあり、コストパフォーマンスを重視する歯科医師から良好な評判を得ています。

Q2. ジルコニアクラウンを装着する際、プライマーやサンドブラストは必要でしょうか?
A2. サンドブラスト処理は強く推奨します。スーパーセム単体でもジルコニアに接着可能ですが、表面をアルミナでブラストして粗面化すると機械的保持力が増し接着耐久性が向上します。プライマー(MDP含有の金属・ジルコニア用プライマー)は必須ではありませんが、併用すればさらに化学結合力が高まるため、長期安定性を期すなら併用が望ましいでしょう。一方、スーパーセムは金属やセラミックスにもそのまま使える簡便さが売りですので、どうしても時間がない場合には本製品単体でも接着は成立します。ただ長期的な臨床成功率を最大化するなら、ひと手間かけてプライマー処理する価値はあると考えます。

Q3. ベニアやラミネートに使用できますか?色調への影響はありますか。
A3. 厳密にはベニアへの使用は推奨されません。スーパーセムは厚みのある補綴物の合着を主目的としており、シェードもA系3色のみで細かな色調調整ができません。ごく薄いラミネートベニアではセメント色が審美性に響く可能性があります。また先述のようにエナメル質への接着力の点でも、ベニアならエッチング+光重合型セメントの方が安心です。どうしても使用する場合は最も色が影響しにくいA1トランスルーセントを選ぶべきですが、それでも透明度は審美専用品ほど高くないため注意が必要です。総じて、ベニアには適材適所で専用セメントを使い、スーパーセムはクラウンやインレー向きと考える方が無難です。

Q4. 余剰セメントが固まって歯肉縁下に残留しないか心配です。うまく除去するコツはありますか?
A4. タックキュア(短時間光照射)を活用することで大幅に除去しやすくなります。高出力光で1秒ほど照射すると余剰部がゲル状に固まりますので、すぐにピンセットや探針でつまみ出すように除去してください。照射しすぎると完全に硬化してしまうので注意が必要です。照射が難しい深部は、化学硬化で少し待ってからデンタルフロス等で掻き出します。スーパーセムはX線造影性が高いため、術後のX線写真で残留の有無を確認することも有効です。もし硬化したレジン片が残った場合、超音波スケーラーや細めのキュレットで慎重に除去します。適切にタックキュアと時間管理を行えば、大半の余剰セメントは一塊で除去可能ですので、落ち着いて対処してください。

Q5. 開封後どのくらい保存できますか?また保管方法は?
A5. 未開封で約2年間、開封後も適切に保管すれば表示された使用期限までは使用可能です(目安として製造後2年程度)。保管は直射日光を避け、冷暗所にてお願いします。冷蔵庫で保管する場合は使用前に室温に戻し、凝結した水滴がつかないよう注意します。チップ装着後は先端に樹脂が充満した状態で硬化させて栓にすることで、中身を空気から遮断できます。繰り返しになりますが、高温環境は劣化を招くため夏場の車内放置等は厳禁です。適切な温度管理の下で保管し、期限内に使い切るようにしましょう。万一期限切れや保存状態不良が疑われる場合は、性能劣化のリスクがありますので新品に交換することを推奨します。なおシリンジが9gと容量大きめですので、月に数本程度でも補綴を行う医院であれば無駄なく使い切れるでしょう。