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歯科の暫間固定でスーパーボンドを使用した場合の点数は?病名やレセプトなど算定を解説

歯科の暫間固定でスーパーボンドを使用した場合の点数は?病名やレセプトなど算定を解説

最終更新日

歯がぐらついて困った経験はないだろうか。交通事故で前歯をぶつけた患者や、重度の歯周病で歯が動揺する患者に遭遇すると、咬合を安定させるために歯を一時的に固定する処置が求められる。スーパーボンド(高強度の接着剤)を用いて複数の歯を連結し支えるこの暫間固定は、患者の歯を救う即応的な処置である。一方で、保険請求では点数の算定基準や病名の選択、レセプト記載に注意が必要だ。ある歯科医師は応急処置でスーパーボンド固定を行ったものの、算定方法がわからず悩んだという。本記事では、この暫間固定(スーパーボンド使用)について、臨床面と経営面の双方から解説する。処置後すぐに保険点数を正しく請求でき、患者の信頼を得つつ医院収益の最適化も図れるよう、翌日から役立つ知識を提示する。

要点の早見表

項目内容
保険点数(暫間固定)簡単なもの: 通常230点(乳幼児等345点)だが、スーパーボンド等のエナメルボンド法の場合200点(乳幼児等300点)となる。困難なもの: 通常530点(795点)だが、エナメルボンド法の場合500点(750点)となる。
算定の主な条件簡単なもの: 固定部位のうち手術を行った歯が4歯未満、固定する歯(固定源は除く)が4歯未満の場合に算定。歯周外科を伴わない場合や術前固定は原則こちらで算定。困難なもの: 手術を行った歯が4歯以上、固定する歯が4歯以上の場合に算定。外傷による脱臼歯の固定や再植後の固定などもこちらに算定。
使用材料と付随費用スーパーボンド使用=エナメルボンド法の場合、装着料や装着材料料は別途算定できない(点数に含まれる)。ワイヤー副子やレジン床など他の方法では、印象採得や装着料・装着材料料を別途算定可能。
適応となる主な病名歯周疾患: 慢性歯周炎など「P」病名で動揺歯を支える目的の場合(歯周基本治療実施の有無を問わず算定可)。外傷: 「歯の亜脱臼」「歯の脱臼」など外傷名で、歯の位置維持が必要な場合(この場合は高点数の算定が認められる)。骨折: 「歯槽骨骨折」では困難なもの算定可。
適応外・注意すべき病名歯の破折: 「歯の破折(FrT)」のみでは困難なものの算定不可(垂直破折などは固定より抜歯適応)。不適切な病名: 暫間固定に直接関係しない病名のみでは査定リスクあり。外傷も歯周病も無関係な病名での算定は認められない。
レセプト記載の要点摘要欄に固定した部位(歯番号)と方法を記載する。例: 「暫間固定 11〜13 エナメルボンドシステム 1回目」等。初回は「1回目」、2回目以降は前回実施年月日を記載。歯周外科予定がある場合「術前(または術後)歯周外科予定あり」と記載(術後は「術後1回目」等)。
臨床上の利点スーパーボンドは即座に硬化し強固に付着するため、即日で簡便に固定できる。患者の痛み軽減や歯の保存につながる。ワイヤー副子等に比べ装置が小さく違和感が少ない。
臨床上の課題エナメルボンド法は長期安定性が限定的(あくまで一時固定)。歯間清掃が困難になりプラーク蓄積リスクあり。強い外力には外れやすく、再固定が必要になる場合も。
経営・収益面の視点スーパーボンド法は低コスト・短時間で提供可能(ラボ費用不要、チェアタイム短縮)。算定点数は抑えめだが施術時間が短く投資対効果は高い。一方、外傷ケースで困難なものを算定できれば高点数(500点)となり収益性も上がる。保険ルールを遵守しつつ適切に算定することで、不支給リスクを回避し収入機会を確保できる。

理解を深めるための軸

暫間固定における臨床的な軸と経営的な軸を整理すると、この処置の本質が見えてくる。まず臨床面では、動揺歯を一時的に安定させることで治癒環境を確保し、痛みや咀嚼障害を緩和することが目的である。例えば外傷でぐらついた前歯を固定すれば、歯槽骨の治癒を促進し、抜歯せずに保存できる可能性が高まる。また重度歯周病で隣接歯が動揺する場合も、暫間固定により咬合安定を図りつつ歯周組織の回復を待つことができる。スーパーボンドを使えば簡便に強固な固定が可能であり、患者の苦痛軽減と機能維持に直結する。

一方、経営的な軸では保険算定の適切さと施術効率が重要となる。暫間固定は高額な自費収入にはつながらないものの、保険診療内で確実に点数を積み重ねる基本処置である。算定ルールを誤れば点数が減点されたり不支給となったりし、ひいては医院の信頼や収益にマイナスとなる。例えばスーパーボンドで固定したにもかかわらず装着料まで請求すると、算定過誤として減点される可能性が高い。適切な病名を付けずに提出すれば、審査で返戻され診療報酬の入金が遅延するリスクもある。これらは医院経営上のロスであり、正確な保険請求が経営リスクマネジメントの一環と言える。またスーパーボンド法は迅速な処置が可能でチェアタイムが短いため、時間当たり収益の効率化にも寄与する。患者待ち時間の短縮は満足度向上につながり、紹介増による長期的な経営効果も期待できる。臨床アウトカム(歯の延命・患者満足)と経営アウトカム(収益・信用)の両立を図るために、暫間固定の理解と運用は欠かせないのである。

代表的な適応と禁忌の整理

暫間固定の代表的な適応は大きく二つに分けられる。一つは外傷への対応である。転倒や事故で前歯が揺れている場合、適切なリポジション後に歯を固定することで歯根膜や骨の治癒を促し、脱臼歯の保存を図る。実際、歯が部分脱臼(亜脱臼)しているケースでは、「歯の亜脱臼」という病名で暫間固定(困難なもの)の算定が認められている。外傷性の動揺歯は通常複数歯に及ぶことが多く、保険上も高点数の「困難なもの」で算定可能なため、臨床的必要性と収益性の両面から適応となる。特に前歯部は審美面・機能面で患者の要望が高いため、暫間固定による保存は患者満足度を高める重要な処置となる。

もう一つは歯周疾患への対応である。重度の慢性歯周炎で歯の動揺度が大きい場合、スケーリングやルートプレーニング等の基本治療後に暫間固定を行うことがある。これは、支持組織の安静化を図り咬合外傷を避けることで、骨の再生や付着の回復を助けるためである。歯周外科手術を控えた症例では、術前に仮固定しておくことで手術野の安定を確保する場合もある(術前の暫間固定は1顎1回に限り算定可)。また術後においても、複数歯に渡るフラップ手術を行った場合は、患部の安定のために術後暫間固定を行うことが推奨され、その際は手術で扱った歯数に応じ「簡単/困難」を算定する。歯周病由来の場合の病名は通常「歯周炎(P)」で十分であり、保険者側もそれだけで暫間固定の必要性を認める運用となっている。したがって重度歯周病患者で噛みにくさを訴える場合、暫間固定は有効な一手となる。

一方、禁忌または慎重適応となる状況もある。典型は歯根の垂直破折である。歯冠部のみならず歯根自体が破折して動揺している場合、固定しても治癒せず延命は困難である。実際、保険者側も「歯の破折(FrT)」という病名で暫間固定(困難なもの)を算定することは認めておらず、こうしたケースでは抜歯と補綴治療の検討が標準的である。また重度の骨欠損で歯槽骨支持が著しく失われた歯も、固定の効果が限定的で予後不良なため注意が必要だ。さらに、高度う蝕で歯冠崩壊した歯を固定源に使うことも避ける。固定によって一時的に機能しても、土台となる歯が崩れては意味がないからである。

要約すれば、暫間固定は可逆的な問題(外傷や炎症による一過性の動揺)に適応し、不可逆的な問題(破折や極端な支持喪失)には無力である。適応と禁忌を見極め、保存可能な歯に対してのみこの処置を選択することが肝要である。

標準的なワークフローと品質確保の要点

スーパーボンドを用いた暫間固定のワークフローは比較的シンプルである。基本的には直接法で行われ、印象採得や技工を要しない。典型的な手順は以下の通りである(上顎前歯2本の固定例):

まず動揺している歯(例えば上顎右中切歯11番)と、その両隣の健全歯(10番と12番、固定源)を準備する。歯面のプラークを除去し、必要に応じてエナメル質表面を粗造化する(ラバーカップやダイヤモンドポイントで表面を荒らすか、エッチング材を短時間使用することもある)。隣在歯を固定源とする旨はカルテに明記し、実際の固定歯数には含めない点にも留意する。次に、スーパーボンド(モノマーとポリマーから成る速硬性接着レジン)を調合する。粉液を指示比で素早く混和し、動揺歯と隣在歯のエナメル面に塗布する。複数歯を連結するには、レジンを盛り上げブリッジ状のバーを形成するか、あらかじめ細いグラスファイバーやワイヤーを歯面に沿わせてレジンで覆い固定する。スーパーボンド自体が高強度だが、広範囲の固定では補強材を併用するとより安定する。レジンは数十秒で重合硬化するため、確実に位置付けた状態で静止させることが重要だ。はみ出したレジンは硬化後にバーの形態を整える程度に研磨し、舌側で違和感が少ない滑らかな連結部を作る。最後に咬合を確認し、高さが当たっていれば調整する。以上で直ちに患者は咬合を回復できる。

品質確保のポイントとしては術野の乾燥と隔離が挙げられる。接着系の処置である以上、唾液や血液で歯面が汚染されると接着強さが大幅に低下する。ラバーダムの装着が理想だが、前歯部なら綿栓と口唇牽引で代用することも多い。特に外傷症例では出血があるため、圧迫止血を十分に行ってから接着操作に入る必要がある。また固定期間の設定も品質に影響する。長期間にわたり暫間固定を装着したままだと、固定していた歯が隣在歯と不動化してしまい(アンキローシス様の状態やプラーク蓄積による二次齲蝕のリスク)、かえって予後不良となる恐れがある。したがって外傷の場合は通常2〜4週間程度を目安に固定除去し、その間に歯周組織の治癒を確認する。歯周病の場合も、半年以上の長期固定は避け、必要最小限の期間で外すことが望ましい。固定中も定期的に動揺度やX線所見をチェックし、改善が見られれば早めに除去へ踏み切る判断が求められる。

なお、スーパーボンドを用いるエナメルボンドシステムでは前述の通り印象採得・模型製作が不要である。これは診療のスピードアップとコスト削減に大きく寄与する。一方、ワイヤー副子やレジン床による暫間固定を行う場合は、事前の型取り・技工物の装着が必要となる。そうした間接法では、印象・咬合採得・装着に関わる一連の品質管理(適合試験、咬合調整など)が加わり、工程が増える。その分、技工物は精密な適合と頑丈さを持つが、初診当日に即時固定する機動力は低い。緊急を要する外傷対応では、やはり直接法のスーパーボンドが現場では重宝されるゆえんである。

安全管理と説明の実務

暫間固定を行う際には、処置そのものの安全管理と患者への十分な説明が不可欠である。

まず術中・術後の安全管理だが、接着操作では可燃性のモノマーを扱うため火気厳禁であることを留意する。スーパーボンドのモノマー液は揮発性が高く刺激臭も強いため、患者が不快を訴えることがある。術者・スタッフはマスクやグローブを着用し、可能ならば口腔外バキュームで蒸気を吸引する。眼に入ると危険なのでゴーグルの着用も望ましい。またモノマーや硬化直後のレジンは軟組織に付着すると炎症を起こすことがある。唇や舌に付着しないよう細心の注意を払い、硬化不全のレジン片が歯肉縁下に残らないよう仕上げに洗浄・吸引を十分行う。処置後の歯に強い咬合力が加わると固定が破綻するため、食事指導も安全管理の一環である。硬い物や粘着性の高い食品は避けるよう患者に伝え、可能なら反対側の歯で咀嚼するよう助言する。

次に患者への説明と同意取得である。暫間固定はあくまで「一時的な処置」であり、永続的な治療ではないことを明確に伝える必要がある。例えば外傷の患者には、「この固定は骨がくっつくまでの仮固定で、数週間後に外します。その間、この歯では硬いものを噛まないでください」と説明する。歯周病患者には、「歯ぐきの治癒を助けるために歯をしばらく固定しますが、状態が安定したら外します」といった説明となる。加えて、起こり得る事態についても事前説明が望ましい。たとえば「固定が外れてしまう可能性」があること、外れた際は早めに来院して付け直す必要があることを伝える。特に保険上、短期間での再固定が認められないケース(6か月以内の再算定制限)もあるため、万一外れた場合は自費または再度算定のための条件確認が必要になる旨も説明しておくとよい。患者には難しい話になるが、「保険のルール上、半年以内に同じ処置を繰り返すことは原則できない決まりになっています」と平易に説明し、注意を促す。これにより患者自身も固定が外れないよう口腔内を丁寧に扱おうという意識が生まれる。

さらに口腔衛生指導も忘れてはならない。固定中は歯と歯がレジンで連結されているため、通常のフロスが通らず清掃が難しくなる。患者には細かい歯間ブラシやデンタルリンスの活用を指導し、プラークコントロール不良による二次う蝕や歯周病悪化を防ぐよう努める。特に高齢者では固定部位に食片がつまり易いので、毎食後のブクブクうがいやウォーターピック使用なども提案するとよい。以上のように、処置後の注意点を具体的に紙に書いて渡すのも有効である。

最後にカルテ記載についても触れておきたい。暫間固定を行った方法(使用材料)や固定期間の予定、患者への指導内容をカルテに記録しておくことで、後日のトラブル防止と説明責任を果たすことができる。例えば「11〜13をスーパーボンドにて固定、固定期間3週間予定、硬固物摂食回避指導済み」のように記載する。これは医療安全上も大切なプロセスであり、医院のリスクマネジメントの一部である。

費用と収益構造の考え方

スーパーボンドを用いた暫間固定は、一見すると手間の割に点数が低く収益貢献が小さい処置に思えるかもしれない。しかし、その費用構造と収益性を丁寧に見ていくと、診療所経営において決して無視できない存在であることがわかる。

まずコスト面から考えると、スーパーボンド自体の材料費は1症例あたりごく僅か(数百円程度)である。チャンネルごとに粉・液を少量使うだけで、一瓶購入すれば多数の症例に使い回せる。ワイヤーやグラスファイバーを補助的に使う場合でもコストは低い。つまり暫間固定にかかる直接材料費は非常に低廉である。一方、技工費が発生しない点も見逃せない。例えば線副子(ワイヤー副子)やレジン連続冠固定法では、ケースによっては技工所で副子を製作するための費用や、歯科技工士の作業コストがかかる。しかしスーパーボンド法は院内完結型の処置であり、外注コストはゼロだ。さらにチェアタイムも短く、熟練すれば15〜20分程度で完了する。この短時間で完了する処置に対して、成人患者で200点(=2,000円相当、患者3割負担なら自己負担600円)を算定できると考えれば、時間単価としては決して低くない。仮に20分で200点なら、1時間あたり600点相当の診療を提供している計算になる。これは基本的な充填処置などと同等か、それ以上の生産性とも言える。

次に収益への波及効果を考えると、暫間固定は間接的な利益をもたらす処置である。例えば、外傷患者の歯を暫間固定で救えれば、その患者は以後の定期メンテナンスや他の治療も当院で継続して受けてくれる可能性が高い。患者紹介につながるケースもあるだろう。逆に適切な固定処置をせず歯を失わせてしまえば、その患者は高度な補綴治療(インプラント等)を求め他院に流出してしまうかもしれない。つまり、患者維持・患者満足という長期的収益に寄与する面が大きいのだ。

また、保険算定の観点で言えば、暫間固定には高点数を算定できるケースが存在する。外傷による脱臼の場合や、大掛かりな歯周外科後の固定など、算定要件に該当すれば「困難なもの」500点を請求できる。500点(5,000円)は処置としてかなり大きな点数であり、患者負担は3割で1,500円となる。処置時間が多少延びても、この点数であればコストに見合うリターンが得られる。特に複数歯にわたる固定では必然的にチェアタイムも延びるが、その分点数も高くなる仕組みなので、規模に応じた報酬が担保されていると言える。

もっとも、暫間固定は保険診療の範疇なので、自費治療のような利益率は望めない。例えばスプリントやマウスピースの自費治療なら数万円の収入となるが、暫間固定は数千円程度である。しかし前述のように時間あたりの効率や将来の診療機会を考慮すれば、決して軽視できない収益源である。そして何より、適切な算定と請求によって確実に報酬を得ることが重要だ。算定ルールを誤り減点されることは、提供した医療に対する正当な対価を逃すことであり、経営上避けねばならない。例えばスーパーボンド使用にも関わらずワイヤー使用時と同じ点数(230点)で請求してしまえば、本来得られたはずの30点分をみすみす捨てることになる。また先述の通り、エナメルボンド法では装着料は包括されているため、これを請求すると30点の不正請求となり返戻・減点される(医院の信用にも傷がつく)危険がある。適切な点数を漏れなく、余計なく請求することが医院収益の基本であり、暫間固定のような小さな項目でも徹底するべきである。

総じて、暫間固定は高収益ではないが堅実な処置である。その場の利益だけでなく患者関係の維持・強化をもたらし、結果的に医院の経営基盤を支える役割を果たしていると言える。

外注・共同利用・導入の選択肢比較

暫間固定は基本的に院内で完結できる処置だが、症例によっては他院との連携や外部リソースの活用を検討する場面もある。

まず外注の観点では、複雑な固定装置を要する場合に技工所を利用する選択肢がある。例えば大臼歯部まで含む広範囲の動揺や、義歯的なアプローチが必要な場合には、レジン床副子(アクリル製のスプリント)を技工士に製作依頼することも考えられる。この場合、歯科医師は印象採得と咬合採得を行い、技工所で床副子を作製してもらい、後日装着する流れとなる。外注コストは発生するが、装置の精度と患者の装着感は向上する。一方、スーパーボンド法はその場で迅速に提供できるメリットがあり、外注による時間遅延がない。ただし固定力や長期安定性では、ワイヤー+レジンや床副子に比べ劣る場合もあるため、症例に応じて使い分ける必要がある。コスト対効果を考え、軽〜中等度の動揺なら即時性重視でスーパーボンド、重度なら精密装置も検討という棲み分けも有効だ。

共同利用については、例えば外傷患者で顎顔面に及ぶ大怪我の場合、口腔外科や専門医との連携が必要になる。単独の歯の脱臼固定は一般歯科で十分対応可能だが、歯槽骨骨折や顎骨骨折を伴うケースでは、整復固定も含め病院での処置が望ましい。このような場合、無理に自院で全て行おうとせず、適切なタイミングで専門医に紹介・共同対応する判断も大切である。共同利用により自院では一部処置(例えば応急固定のみ)を担当し、その後の本格治療は専門施設に委ねることで、患者の最善利益を守ることができる。紹介状には暫間固定の方法や固定期間を明記し、情報共有を確実に行う。

導入の選択肢という点では、医院として暫間固定に必要な資器材やトレーニングを揃えておくか否かの判断がある。スーパーボンドは扱いが多少独特(粉液混合のタイミングなどコツがいる)であり、日頃あまり使わない医院だと勘が鈍ることもある。新人スタッフには事前に模型などで硬化時間や粘稠度の変化を体験させ、術者のアシストが円滑にできるよう教育するのが望ましい。また各種固定方法(レジン連続冠法、線結紮法、エナメルボンド法)についてスタッフ間で知識共有しておくと、レセプト処理時のミス防止になる。例えば受付・事務スタッフは、カルテの記載から算定漏れや記載漏れをチェックする共同作業者である。実際に「暫間固定(エナメルボンド)なのに装着料が付いている」などのエラーを検知できれば、提出前に修正できる。院長一人だけでなくチームとして暫間固定に対応できる体制を導入しておくことが、長期的には医院の信用維持・効率向上につながる。

よくある失敗と回避策

暫間固定の現場では、いくつか陥りがちなミスや失敗パターンが知られている。ここではそれらを挙げ、その回避策を考える。

1. 算定ミスによる減点

前述の通り、スーパーボンド使用時に装着料や装着材料料を請求してしまうケースが散見される。これはレセコンの自動算定設定の誤りや、術者の知識不足で起こるミスである。回避策としては、レセコンの暫間固定項目を最新のルールに合わせて設定しておくこと、請求前に摘要欄記載を含め点検するダブルチェック体制を敷くことが有効だ。また、簡単・困難の区分誤り(例えば4歯以上固定したのに簡単で請求してしまう、あるいは条件満たさないのに困難で請求してしまう)も起こり得る。これもカルテ記載とレセコン入力の際に歯数や病名を確認するクセ付けで防げる。具体的には、「暫間固定入力時に固定歯数をコメント欄に書き、スタッフが算定区分と突き合わせる」といったルール化が考えられる。

2. 摘要欄の記載漏れ

暫間固定では保険請求時に摘要欄への詳細記載が求められる。たとえば固定方法(エナメルボンドシステム等)や固定した歯の部位、回数を記載しないと、審査側で不足と判断され減点・返戻の対象になる可能性がある。特に2020年代以降、オンラインレセプトでは摘要欄の記載チェックが厳格化されているとの指摘もある。記載漏れを防ぐには、カルテ段階で固定方法をコメント入力する運用が効果的だ。電子カルテの場合、処置名のすぐ横に「エナメルボンド」「線結紮法」等を入力し、それがそのまま摘要欄に反映されるよう設定できる。紙レセプトであれば、請求担当者がカルテ記載を見て手書き加算するフローを忘れず行うしかない。医院内で過去の返戻事例を共有し、「この記載が漏れるとどうなるか」をチームで学習しておくことも大切だ。

3. 固定の破綻(臨床失敗)

スーパーボンド固定が術後早期に外れてしまう失敗もある。原因としては、咬合圧の見落としや接着操作の不備、水分汚染などが考えられる。例えば固定後のレジンバーが上下の歯と当たっていると、一口で破折してしまう。回避策は十分な咬合確認と調整である。また術中には先述のようにラバーダムや乾綿子で湿気を排除し、必要ならプライマーを併用して接着強度を上げる。術後の注意として、患者に安静に咬合する期間を守ってもらうことも重要だ。特に外傷では固定直後は歯の周囲組織が脆弱なため、患者に「前歯ではしばらくちぎる動作をしないで」と口頭と書面で約束してもらうと良い。固定が外れた場合の再装着は保険上慎重を要するため、初回で確実に成功させるよう最善を尽くすべきである。

4. 患者説明不足によるトラブル

固定後に患者が勝手に他院で外してしまった、または外れたまま放置して悪化した、といった事例もある。これは患者への説明不足が招く失敗と言える。暫間固定は患者には「何をしたか」が分かりにくい処置なので、装置の役割と必要性を丁寧に伝える必要がある。回避策として、模型や写真を使って説明することが挙げられる。固定前後の口腔内写真を見せ、「このようにレジンでつないであります」「まだ治っていないのでこの支えが必要です」と視覚的に理解させる。加えて、「次回〇日に固定を外しますので必ず来てください」と約束する。患者が処置の一貫性を理解すれば、自己判断での外科的介入(無断で外す等)を防げる。説明はカルテにも記録し、万一患者トラブルになった際の裏付けとしておくこともリスク管理となる。

5. 不適切な症例選択

動揺があるからと機械的に暫間固定を行った結果、かえって状況を悪化させてしまうケースもある。例えば重篤な根尖病変で動揺している歯に固定をしたところ、排膿が逃げ場を失い腫脹が増悪した例が報告されている。これは本来ドレナージすべき歯を安易に固定したミスである。対策は、暫間固定前に原因除去を優先することである。感染や膿瘍があれば先に処置し、炎症コントロール下で固定を検討する。また術者は「この歯を固定することが本当に利益か?」と自問し、場合によっては抜歯転帰も選択肢に入れる冷静さを持つ。保険点数欲しさに不適切な固定をすることは本末転倒であり、患者にも医院にも損失となるだけだ。

以上のような失敗は、知識のアップデートと院内ルールの整備でかなり防ぐことができる。学会や保険医協会の情報にアンテナを張り、スタッフ間で症例検討する文化を醸成することで、ミスは格段に減少するだろう。

導入判断のロードマップ

最後に、暫間固定という処置を医院で導入・活用していく際の判断プロセスを示す。これは新しい設備導入ほど大げさな話ではないが、診療メニューの一つとして位置付け、どのように運用していくかを計画的に考える意図である。

【ステップ1】自院の症例ニーズ分析

まず自院で暫間固定が必要となるケースの頻度と種類を把握する。過去1年間で外傷患者は何人いたか、重度歯周病で動揺歯を抱える患者はどの程度いるかを振り返る。例えば、小児やスポーツ外傷が多い地域なら前歯の外傷固定が想定されるし、高齢者が多ければ歯周病由来の固定需要があり得る。もし該当症例がほとんどないなら、無理に導入に力を入れる必要はない。しかし一定数あるなら、暫間固定は患者ニーズに応える重要な処置となる。

【ステップ1】手技・材料の準備

暫間固定を行うと決めたら、必要な材料と技術を準備する。スーパーボンドは常備し、使用期限も管理する。ワイヤーやレジンバー用のファイバーもキット化しておく。術者は文献や講習で最新の固定手技を学び、スタッフとシミュレーションしておく。特に初めて暫間固定を扱う場合は、模型実習で手順を確認し、硬化時間のタイミングなどコツを掴んでおくことが望ましい。

【ステップ1】保険算定の体制整備

暫間固定を行った際に確実に算定できるよう、院内の事務フローを確認する。レセコンのマスターが最新点数に対応しているか(例えば「エナメルボンド法の場合200点」等が反映されているか)をチェックする。摘要欄記載の文言をテンプレート登録できるなら事前に設定し、入力漏れが起きにくいようにする。必要なら簡単な院内マニュアルを作成し、「暫間固定実施時のチェックリスト」(病名、摘要記載事項、算定区分など)を共有すると安心だ。

【ステップ1】症例毎の適用判断

患者ごとに暫間固定を実施すべきか判断するフローを作る。例えば外傷患者が来た時は、(a) 歯の動揺度や脱臼の有無を評価 → (b) X線撮影で骨折の有無を確認 → (c) 暫間固定の適否を判断、という流れになる。骨折があれば専門医紹介、脱臼のみなら自院で固定、などの判断基準をあらかじめ想定しておくと迅速だ。歯周病患者では、(a) 動揺度III度かつ保存希望強い歯は固定候補 → (b) ただし根分岐病変IV度や重度垂直欠損の場合は固定しても予後不良、といった線引きをチームで共有しておく。

【ステップ1】患者説明と同意取得

暫間固定を行うと決めたら、その意義と計画を患者に説明し同意を得るステップを踏む。これは医療面接の一部であるが、ロードマップ上重要な位置を占める。説明不足で患者が理解しないままでは、固定除去の来院を怠ったり自己判断でトラブルを招いたりするためだ。ロードマップに「同意取得済みで次回予約」までを組み込んでおく。

【ステップ1】フォローアップ計画

暫間固定を実施した後、いつ除去してどう経過観察するかまで見通した計画を立てる。外傷なら2週間後にチェックし問題なければ3〜4週間で除去、歯周なら炎症状態に応じて1〜3か月後に除去、といったガイドラインを決めておく。除去時に算定すべき点数(暫間固定除去30点など)の請求漏れがないよう、これもカルテにあらかじめ計画として記載しておくと良い。

以上のロードマップに沿って運用すれば、暫間固定という処置を院内でスムーズかつ有効に活用できるだろう。特に保険算定部分は事前準備がものを言うため、導入前の一手間を惜しまないことが成功の鍵である。

出典

  • 厚生労働省 「令和6年歯科診療報酬点数表」 暫間固定の項目
  • 兵庫県保険医協会 Q&A「歯科 - 暫間固定」スーパーボンド使用時の算定に関する質問と回答
  • 社会保険診療報酬支払基金 「審査情報提供事例(歯科)処置」 暫間固定に関する病名と算定の取扱い事例
  • 東京歯科保険医協会 「暫間固定について」 (レセプト摘要欄記載の留意点に関する解説資料)
  • カルテメーカー開発ブログ 「暫間固定の入力方法」 (2016年改定時の摘要記載ルール解説)
  • 大阪府歯科保険医協会 提供資料 「外傷歯への暫間固定」 (暫間固定方法別の算定点数と留意点について)
  • 厚生労働省 疑義解釈資料(歯科) (歯周外科と暫間固定の算定ルールや再算定条件の詳細)

(※上記は記事作成時点での公開情報に基づく。制度・点数は将来変更される可能性があるため、最新の通知を必ず確認すること。)